銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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117話

 今後の方針を決める重要な話し合いの初っ端から『じゃ、俺達騎士団長回収して帰るから』と言いたげな提案をぶちかましてきたアルに、ザカライアは瞬時に己の敵を目の前の小僧に設定した。アルをギッと睨むザカライアの様子はもちろんこの場に居る全員知っていたが、大してザカライアがここに居る理由も知らないのでエドガーやヘルヴィのようにエルを追ってここまで来た銀鳳騎士団は心の中ではアルの意見に賛成していた。

 

「まぁまぁ、まずはザカライアさんの主が持ち込んできた話を聞いてあげてください」

 

 話を振ることで沈静化を図ったエルに、ザカライヤは未だ怒りが完全に冷め切らない様子であったが使命感を帯びた表情をしたザカライアは一世一代のプレゼンテーションを行った。

 切々と語るのは自らの祖先──第1次森伐遠征軍がどのようにこの地で暮らすことが出来たのかを話す。巨人という人間では到底太刀打ちできない相手に隷属することでこの地で暮らしていけたと話す彼の口からは、必死に悔しさを押し殺すような音を漏らす。

 

(出だしはこんなものか。ここまで話せば話もしやすい)

 

 過去の話から現在の鬱屈とした毎日の様子に話す内容を変えたザカライアは、話を聞いている銀鳳騎士団員の反応を探る。誰も彼もその境遇に同情的な視線を送っていることに彼は心の中で満足げに頷くと、大げさに礼をしながらエルの方に手を差し出した。

 

「時は満ちました、この期を逃すと我々は決してこの呪縛から逃れることは適わないでしょう。だからこそ、是非ともお力添えをお願いしたい! ここにはそれを可能とする力が確かにあると私は思っています!」

 

 まるで劇団の人間が振舞っているように仰々しくトゥエディアーネに手をかざすザカライアに、話を聞いていた銀鳳騎士団員達からは『助けてやろう』や『いや、帰ろう』といった囁き声が聞こえてくる。

 たしかにザカライアが話した言葉の数々は、他人が困っていた場合は助けてあげるという騎士の職業病とも言うべき心情をくすぐってくる熱弁だった。しかし、今の大して余裕があるとは言えない状況に加えて彼らはザカライア達、小鬼族(ゴブリン)の実情を全く知らない。

 つまり、ザカライアの放った100%の熱量からいくらか下がった熱が篭った言葉は、彼らの心を突き動かすには些か火力不足と言わざるを得なかった。

 

「…………でっていう」

 

「は?」

 

 どこぞのムンチャクッパスのような言葉を漏らしたアルに全員の視線が集中する。だが、そんな視線に決して臆せずにアルは目の前のザカライアに向かって口を開いた。

 

「だからどうしたって話ですよ。隷属しているから? 酷い目にあったから? 昔の同胞だから? そのために僕らが前に出て血を流せってことですか? それは筋が通らないのでは?」

 

 否定から入る返事に面食らったザカライアに、アルは気の毒そうな表情をしながら『確かに同情はしますよ』と言ってから、現状がどんなにややこしくなっているのか全体に向けて周知する。

 

 現在、このボキューズ大森海の奥地では巨人同士の大規模な争いが巻き起ころうとしているのは、小魔導師(パールヴァ・マーガ)の話から全員が理解している。その戦いに小鬼族(ゴブリン)も雑兵の末端として動かざるを得ない状況に発展しているのはザカライアからの話から十分に推測できる。

 では、仮にザカライアの主である小王(オベロン)の要請を承認し、その中に調査船団が首を突っ込めばどうなるのか。答えは乱戦の最中に敵味方の判断を個人でつけながら戦い抜くというベリーハードな戦場へ身を置くことである。

 巨人族(アストラガリ)の文化や土地勘の把握が間々ならず、『あなたは敵ですか? 味方ですか?』と一々問わねばまともに戦えないという戦場。過去の同胞とはいえ、何百年も前に世俗から切り離された相手への同情心だけでそんな地獄の釜の底のような所へ突っ込んでいけるほど銀鳳騎士団は──フレメヴィーラ王国というものは安い存在なのであろうか。──否、決して否である。

 

「調査船団を預かる者の1人として、貴方の言葉だけで協力は取り付けることは出来ません」

 

「で、ですが! 騎士団長であるエチェバルリア様はっ……私共の所で身を休ませておいででした!」

 

 断りの姿勢を崩さないアルに土下座する勢いでザカライアは食らい付いて来る。『小王(オベロン)の元に一時滞在していた』という持っていた手札の中で極端に弱いカードをチラつかせながらも、彼は蜘蛛の糸にすがる罪人のように往生際の悪い交渉をアルに持ちかけてきた。

 ただ、そんな交渉も興味なさげに無視したアルはエルの方に振り返った。

 

「兄さん、ここってシルエットナイトあるんですか? というか、無いと巨人達と交渉するのも厳しいですよね」

 

「えぇ、居ますよ。魔獣由来の素材とかで保守されたミスティックナイトっていうやつですが」

 

 幻獣騎士(ミスティックナイト)という存在に目を怪しく光らせたアルは、『じゃあこうしましょうか』と急に上機嫌な声色に戻ると跪くように頼み込んでいたザカライアの肩を強く握る。急な対応の変化に目を白黒するザカライアの視界一杯にアルの漆黒で粘着質な黒目が映り込んでいた。

 

「なら、騎士団長や補佐が色々お世話になったお礼としてこちらから数機のシルエットナイトを送りましょう。それをミスティックナイトやらと交換でどうですか? こんな森の奥でシルエットナイトを満足に保守出来るような量の鉄材なんてあるわけないですからね! ふふふっ、一体どんな技術が使われて整備されているんでしょうか! 未知なる素材の予感gアベシッ」

 

 熱に浮かされたような表情を浮かべながら早口で述べるアルの姿に、ザカライアは始めて目の前の少年に対して恐怖を覚える。逃げられないように手でガッチリと押さえつけられた彼が決して呑むことが出来ない取引にガクガクと歯茎を鳴らしていると、ふとゴチンという何か硬いものがぶつけられた音と共に目の前の少年の顔がブレた。

 

「まぁた暴走しやがって。悪いな、こいつを隔離してくる」

 

「あ、はぁ。助かりました」

 

 拳を収めながらダーヴィドがひょいっとアルの首根っこを掴むとエルが吊り下げられた付近に放り投げる。またもや立場が上そうな人間に対するぞんざいな扱いに、ザカライアは自分の中の騎士という存在に自信が持てなくなってくるが、全ての方針が出尽くすまで自分の出番がないことを悟ったのか静観の体勢をとった。

 

「アルフォンスとザカライア?殿の言い分はああだけど、騎士団長はどうするんだい? 君は、そっちの2人の種族と交流して実情を目にしているだろうし、判断を聞きたいね」

 

「あ、ぼくは戦いに加わりますよ」

 

 さも当然のようにノータイムでディートリヒの疑問に答えたエル。しかし、ディートリヒは目を細めながら『やっぱりね』とだけ答えると周囲の第2中隊に向けて目線を送る。その視線に気付いた第2中隊員はディートリヒに向かってニヤリと笑いかけたので、ディートリヒはエルに付いて行く意志を表明しながら挙手したところ、先んじてエルからのストップがかかる。

 

「アストラガリの戦いに参加するのは、僕とアディだけです。皆まで参加する必要はありません」

 

 戦いに加わるというエルの言葉に反応したディートリヒや第2中隊を含めた実働部隊全員の間になんとも言えない微妙な空気が流れる。『騎士団長の言うことならえんやこら』を実行しそうになったディートリヒは目を丸くさせながら硬直しているので、その姿を若干不憫に思いながらエドガーは代弁するようにエルに向かって真意を問う。

 だが、エルから返って来たのは『皆には関係がない』という、今まで銀鳳騎士団で共に戦ってきた者達からしてみれば薄情すぎる言葉であった。

 

 巨人族(アストラガリ)と出会い、色々あったが氏族として迎え入れられたこと。件のルーベル氏族に関しては、元を正すと巨人族(アストラガリ)同士の争いであること。現に小魔導師(パールヴァ・マーガ)小鬼族(ゴブリン)という色眼鏡で見ずに客人として温和な雰囲気で接してくれたこと。そして、自分には戦う理由があるが、それは他の皆にはないこと。

 

 森に墜ちてからの放浪生活が想像できるぐらい鮮明な説明の後、エルは今一度『手出し無用』と伝える。アディも小魔導師(パールヴァ・マーガ)の前に立って胸を張りながらエルに付いていく意志を見せ、それを見たヘルヴィはすっかり絆されてしまったようで、いち早くアル寄りの考えを翻してエル側の意見に賛成票を入れていた。

 

「なら、戦力はどうする? そこのお嬢さんを見る限り、アストラガリというのはシルエットナイトのような巨人だろう? あの……カササギ? だけでどうにかなるのか?」

 

「カササギはイカルガの躯体を元にしています。少々奇妙な出で立ちですが、戦力面は十分なはずです」

 

「まったく、帰ってきたかと思えばアストラガリとの戦いに2人だけで赴くって……。わがままなのか、律儀なのか判断に苦しむよ」

 

 ため息混じりながらも今後の行動に向けて思案顔をするディートリヒ。その表情にエルに対して何かしらの補助を行うのだろうと推測した銀鳳騎士団員達は、それぞれ自身に出来ることを考え始める。

 ただ、この場に居るよそ者──ザカライアはそれらの反応に異を唱えた。曰く、『エルが一つ命を下せばこの場に居る騎士は全て従うのに、なぜしないのか』と、まるでエルだけではなく銀鳳騎士団や調査船団の力をまるっきり宛てにしていたような言葉にアルは再びザカライアに食って掛かろうとするが、『待ちなさい』というエルの言葉がそれを止めた。

 

「方針は示しましたよ。それが僕がこの騎士団で騎士団長として存在する理由です」

 

「そ、そんな……。あなた方はそれでいいのですか!」

 

「逆にお聞きしますが、騎士団長だけでは不満ですか? そもそも、あなた方の言う来訪者である我々の力を充てにするのでしたら本格的にあなた方の作戦などを見直す必要があると思いますよ?」

 

 ザカライアが周囲に助けを求めるが、動くなとは言われたが何も言ってはいけないという指示がされていないことを良い事にアルは口撃を始める。

 もう何回負けたか分からない模擬戦を経験したアルにとって、『あの人がこれだけ騒いでるって兄さんが弱いってことだよな?』といったような勘違いは一切起きなかった。逆にそんな人間が赴くのに、銀鳳騎士団含めた調査船団総出で赴かせるように唆すのはザカライア側の作戦がお粗末であると指摘する。

 

 だがその指摘に対し、ザカライアは当初の思惑であった騎士団長が是と言ったら他の団員は軒並みこちらの戦力なるという絵に描いた餅を食べることが出来ずにあわあわとうろたえていた。そんな何も反論が出来ない彼を他所に、銀鳳騎士団は次々と自分勝手な行動をし始める。

 

「手始めに船でも借り受けようかね」

 

「じゃあ俺達も行きまーす」

 

「あ、もし巨人との戦闘になるならどのぐらいの強さなのか確認お願いします」

 

「おーう、任されましたー。っていうか副団長も元より首突っ込む気マンマンなんじゃないですか」

 

「ディスカッションの基礎は反対意見があってこそですからね。アルの動きは満点解答ですよ」

 

 いつの間にか反対意見を出していたアルも『巨人族(アストラガリ)の争いに参加する』という意識に向き始め、その意識を念頭に置いて一気に動き出す面々。しかし、彼らの興味や動く先はお世辞にも『統率』という文字をかなぐり捨てたてんでばらばらな集団に成り下がっていた。

 本当にこの集団が騎士団なのかという、もはや何度目の自問なのか分からなくなってきたザカライアは急激な眩暈に苛まれつつも、未だ一定のリズムで左右に揺れているサンドバック状態のエルに再度全体を指揮するように縋り付く。

 

「もちろん、必要があれば指揮は行います。ですが、今はその時ではないです」

 

「そんな悠長な! 戦いの行方すら左右される力があって!」

 

「はぁ……僕達は聖職者じゃないんですよ。複数の騎士団から成る戦闘組織です」

 

 すがり付いて何度目かも分からない要請をするザカライアに、呆れた様にアルはため息を付く。

 たしかに銀鳳騎士団は調査船団の中で最高権力的な立ち位置ではあるが、巨人族(アストラガリ)と言う他種族の諍いに首を突っ込むという『外交関係』を勝手に行うほど偉くはない。なので、あくまでも『銀鳳騎士団の騎士団長が現場判断で行い、この場から生き残るために調査船団がその判断に乗った』という体を取らなければならないのだ。

 また、その体を取るにしても一方的な協力関係を持ちかけておいて作戦などを一切伝えず、こちらにだけ出血だけ強いるのはアルの認識的にも『協力関係』とは言わない。ただの『寄生』だ。

 

「まだあなた方も隠したい情報もあるのでしょうが、それを戦いながら悠長に待てるほど僕達も余裕があるわけじゃないんです。一旦腰を下ろす拠点もまだ……っと、そういえばアディー! どこか拠点になりそうな場所って目星ついてます?」

 

「ついてるよー! 地図地図ー…………多分、この辺り!」

 

 銀鳳騎士団員から地図を拝借したアディが地図に丸印を描いてアルに手渡す。その丸印の位置に心当たりがあるかと問うと、ザカライアは小さく『下村があります』と自身の感覚が未だに普通だという認識で答えてしまった。

 

「下村? まぁ、あなた達の管轄で良いんですね。ひとまず連絡員として派遣されたのなら、この位置の村を我らで使用したいので許可をもらって良いですか?」

 

「確認します。ですが、我々としましても作戦に協力していただかないとなんとも」

 

「何度も言ってますが、僕達は聖職者でも聖人じゃないんですよ。別に"制圧"するのも手段に入ることをお忘れなく。大丈夫です、騎士団長もお世話になっているので"あなた達はまだしも"村の人には無体は働かないので。ルーベル氏族…………でしたか? その方々と調査船団の二方面、どうにかなるんですかね? 素直に首を振っておくのが良いかと」

 

 妙に語気を強めながらも笑顔で威圧するアルに、ザカライアはとうとう折れると『連絡内容を纏めてから連絡いたします』とだけ言うとその場で佇んだ。そのやけに哀愁の漂う後姿を見ながらアルは横で縛られているエルの身体を解放すると、『あの人が出て行った場合は見張っておいてください』と小声で指示する。

 

「分かりました。言葉の端々に軽く協力を匂わせましたが、分かっていただけてないですね」

 

「それだけ余裕がないのでしょう。それに、銀鳳騎士団節が些か利き過ぎたと思います」

 

 向こうの方でディートリヒにチョップを入れるヘルヴィや、班を2つに分ける団員達を見ながらエルとアルは先ほどのザカライアが発した余裕がなさそうな言動の数々を思い返す。おそらく同じような人間しか相手をしなかったのだろうか、内情が薄っすらどころか丸見えの交渉にアルは『助け出した時のエレオノーラ様とイサドラ様の方が可愛いい分、交渉したくなる』と若干の下心を曝け出す。

 

「工房もちらっと見ましたが、共食い整備っぽいのでアストラガリと事を構えてもジリ貧でしょうしね」

 

「そうなると奥の手があるっぽいんですよねーっと、エドガーさん? どうしました?」

 

 小鬼族(ゴブリン)側の戦力比や奥の手の想像をしていた2人だが、班決めのために組んでいた円陣の中からエドガーが抜け出して2人に近づいてくる。そのまま彼は未だ思案の海でもがいているザカライアをチラリと見てから、周囲に聞こえないように2人の近くでひそひそと話し出す。

 

「仮にだが、我々……だけじゃないな。調査船団が戦いに加わったらどうなる? その戦いに俺達がいる価値はあるのか?」

 

 それは、銀鳳騎士団が有する騎士の中で一番騎士らしい騎士の率直な疑問だった。

 騎士とは人民の盾であり、矛だ。何を行うにしても相応しい大儀というものがある。例えそれが魔獣に襲われた小さな村の救援であっても、滅びかけた友好国の救援であっても、フレメヴィーラ王国の騎士からすればどちらも比べようもない大儀──エドガーの言う『騎士としての価値』なのだ。

 

「既に巨人と人間はこうして出会ってしまいましたからね。西や東にずっと進めば出会うと分かってしまった手前、今更無視はできません。そうなってしまうと後はどのような関係を築くかにかかってきます」

 

 エルはそう言うと小魔導師(パールヴァ・マーガ)の足元まで歩く。神妙な面持ちで班決めの様子を見つめていた小魔導師(パールヴァ・マーガ)は、師匠であるエルの気配を感じ取ったのかまるで助けを求めるように4つの目でエルの姿を捉える。

 大きいながらもそのなんとも庇護欲のくすぐる姿に何人かの『コアな団員』の心臓に矢が突き立てられるが、エルは気にすることなく小魔導師(パールヴァ・マーガ)に登るとぎゅっと握った拳にそっと手を置いた。

 

「このように手を取り合うことも出来ますが、中にはルーベル氏族という集団のように隷属させる者も居ます。そんな思想が蔓延しているとなると、おちおちここまで来れないでしょう」

 

「最低限、人間とアストラガリが対等になる必要性がありますね」

 

 エルの言葉にアルは続ける。もはやこの戦いは小鬼族(ゴブリン)──否、人間の尊厳もかかった大一番であった。エルが巨人族(アストラガリ)の勇者と戦って勝利したことで尊敬を集めたように、巨人族(アストラガリ)から一定以上の尊敬を集めなければこの地に住む人間やフレメヴィーラ王国の人間はいつまでも小鬼族(ゴブリン)扱いである。

 

 人間の尊厳を復活させる大儀にエドガーは小さく『分かった』と納得する横で、ディートリヒはふと手を挙げる。

 

「話は決まったことだし、私の方針は団長に付いて行くことにするよ。他に付いて来る者は機体の準備していたまえ」

 

「俺達は拠点を確保しておこう」

 

「あ、俺 他の船に伝令行って来ます。船長の方と紫燕騎士団長と藍鷹騎士団の代表者の方連れてきたら「我々はもう居ますよ」うわぁっ、いつの間に!?」

 

 矢面に立って道を切り開く者。安全な拠点作りに従事するもの。この森の奥で何が眠っているのか調査する者。成すことはそれぞれ違えど、当初エルが語った方針に従って調査船団は生き物のようにその動きを変えていく。

 

***

 

「アディちゃん、村っていうけど規模は? 防御とか避難用の設備はあるの?」

 

「んー、フレメヴィーラの村よりはない……かな。避難も森に逃げるとかだし」

 

「他に村を借りる上での約束事とかあります? 僕達と文化が異なりますし」

 

「ないかな。……あっ、私達のせいでかなり大きな被害を負っちゃったから断られるかも」

 

「なるほど。まずは復興支援が妥当だな。バトソン、ナイトスミスの班分けを頼めるか? もちろん──」

 

「親方や先輩のような熟練組はエルと一緒にでしょ? 任せてよ」

 

「クーニッツ中隊長は比較的船倉が空いている4番船。拠点作成は資材がある2番船でお願いします」

 

『承知しました』

 

「拠点化なら、当然罠とか防衛用シルエットアームズとか作りま『それはいらない』」

 

 具体案を出しては班と船を編成していく銀鳳騎士団と紫燕騎士団。中には鼻息を荒くしながら拠点化プランを練る小動物が居たのだが、全員に却下されるとその場でしゅんと聞きに徹してしまった。

 

「おい、銀色坊主はどこに行きやがった? カササギってのを直そうと思ったんだが、予想以上にトンチキなことやってやがるから何をどうやったのかご高説賜りてぇんだが?」

 

 そんな時、なにやら物々しい雰囲気のダーヴィドが話し合いの中に混ざってくる。その手にあるハンマーは何をするための物なのかはさて置くとして、ダーヴィドの言葉に釣られて全員がエルを探そうと周囲を捜索する。

 しかし、見つからない。当たり前だが、現在は方針に従ってそれぞれが具体的な案や案を実行するためのあれこれを相談する話し合いの真っ最中である。いくらやることなすこと常識に喧嘩を吹っかける問題児であってもそんな大事なことをすっぽかす人間ではないことは知っている全員は、何か起こったのかと若干不安になりだす。

 

「あ、兄さんならザカライアさんの監視してますよ。僕達がやるよりも知っている人ってことで頼みました」

 

「そういえば、あの御仁が居ないね」

 

 きょときょとと周囲を見渡したディートリヒがザカライアの姿がないことに納得する。彼は調査船団とは異なる組織の人間なので、好き勝手に行動されると些か困ってしまう。

 そういった経緯でエルを見張りに出したことを連絡したアルに、ダーヴィドは『ならしかたねぇ』と納得しながら話し合いの輪から離れていく。

 

 その後も話し合いは続き、げっそりした表情のザカライアを連れたエルが船倉内に再び姿を現したときには既に話し合った編成案に基づいて動き出していた。

 

「アルー、話し合いはどうなりました?」

 

「イズモを中心とした数隻で主力打撃船団。アサマを中心とした数隻で拠点作成船団に別れます。銀鳳騎士団側の編成は主力には兄さんと第2中隊、拠点作成にはアディと僕と第1中隊で決着しました。第3中隊は一旦別れてそれぞれに分配という形になります」

 

 幻晶甲冑(シルエットギア)で荷物を運んでいたアルは端的に決まったことの連携を行う。その際についてきたザカライアはどうするかと聞くが、彼は『一応返事を待たないといけない』と言うので、少々話し込んだ末にザカライアはそのままイズモに残ることになった。

 

 しかし、ザカライアがイズモに残るということは拠点作成の際に小鬼族(ゴブリン)に見つかるとそのまま何も反論出来ずに攻撃される可能性が出てくる。資源にも限りがあるので行き違いは御免だとアルが話すと、彼は懐からなにやら筒を取り出した。

 

「ルーベル氏族が来た際は撃退しても構いません。逆に攻め込まれて占領されたと言い訳がつきます。ですが、我らが王……ミスティックナイトの部隊が来たらこの筒をお渡しください」

 

「これは?」

 

「我が王に連絡を出した甲虫を入れていた筒です。筒には我々が読める暗号が書いてあるので、勢いのままに攻撃はされないかと」

 

 見慣れない筒を興味深く観察しながらもアルは礼を言いながら懐に収める。ただ、それでも攻撃された際は心苦しいが反撃をすると宣言すると、ザカライアは『また連絡してまいります』とエルを伴いながら再び船倉から姿を消す。

 そんな慌しい客人にアルはひたすら『偉い人と話つけてぇ』と要人救助してから即契約を結んだクシェペルカ時代を懐かしく思っていた。

 

***

 

 そんなこんなで藍鷹騎士団が諜報活動のために独自行動を開始してから数時間後。話し合いにて編成された主力船団と拠点作成船団はそれぞれ別の方向に向けて進みだす。なにやらイズモの方から謎技術を前にした親方の叫び声のような怒声が聞こえた気がしたアルや若手の騎操鍛冶師(ナイトスミス)はイズモの方に合掌しつつも、アサマの船倉内に集まった拠点作成船団の主要メンバーと共に装具の点検と作戦会議を行っていた。

 

「念のために土木パッケージも小隊分持ってきておいて良かったですね」

 

「そうだな。村の規模や損傷具合は分からんが、シルエットナイトが居て困ることはないだろう。中隊を歩哨と復興支援で分けるとしよう」

 

「では、残った奴は全員シルエットギアで構いませんね?」

 

「いえ、周辺警戒のために紫燕騎士団はトゥエディアーネに搭乗して下さい。陸上は銀鳳騎士団、空は紫燕騎士団という方針で行こうかと」

 

 銀鳳騎士団、紫燕騎士団入り乱れての作戦会議。議題はもちろん目的地である村に対する復興作業の予定である。

 空から飛空船(レビテートシップ)とトゥエディアーネに見張ってもらい、村周辺は幻晶騎士(シルエットナイト)1個小隊で警護。後は土木パッケージを装備した幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)に搭乗した騎士で復興作業を行えば、かなりスムーズな復興が約束されたものだ。いざとなれば土木パッケージを装着させた幻晶騎士(シルエットナイト)も戦闘に加えれば、障害になるような要素が付け入る余地はないだろう。

 

「復興の支援はどの程度行う? やりすぎては他の村と格差が生まれるだろう」

 

「そこは経験が豊富なエドガーさんが判断してください。ですが、格差は生まれても構わないのでしばらく使用する拠点を念頭に判断を下してほしいのが要望です」

 

 エドガーからの質問にアルは即興で返した。

 たしかに復興支援をやりすぎると他の村との格差が生まれて軋轢になる可能性は大いにあるが、そもそもここはフレメヴィーラ王国ではないので軋轢が生まれても小鬼族(ゴブリン)の王である小王(オベロン)の管轄内である。仮にこちらに責任を求められても銀鳳騎士団の知ったこっちゃない話だ。

 

(あと、こちらの復興能力を村の人に見せつけて、帰りたそうにしている村人を拉……保護するのも悪くないですね。あくまでも村の状況にも寄りますが)

 

 作業内容や班決めの内容を纏めつつ、アルは自らの考えを推敲する。

 ザカライアの『下村』という発言からフレメヴィーラ王国やクシェペルカ王国のように領地や市政といったものが敷かれていないことを推測したアルは、『村の状況によっては村人に一切の家財を失わせる代わりに、フレメヴィーラ王国に連れて行って1からやり直させる』という腹案をエルの方針に賛同しながらもひそかに練っていた。

 魔獣が襲来することに変わりはないが、少なくとも巨人族(アストラガリ)の隷属からは脱することが出来るし、フレメヴィーラ王国の方が幾分か暮らしやすいだろうという判断だが、この腹案はこの小鬼族(ゴブリン)の国の民を拉致することと変わりないためにあくまでも腹案としてアルはその計画を決してこの場では言わなかった。

 

 だが、固まりつつある計画を見て我慢できなくなったのか。アルは唐突に口を開いた。

 

「皆、やっぱり防衛設備としてハードクラストバンカーみたいな鋭い杭を大気魔法で打ち出す機構を内臓した門とか欲しくないですか? あと、地雷型シルエットアームズを敷設したり、門から法撃が放てるようなシルエットアームズとか」

 

「アル君、この周辺にベヘモスとかドレイクとか居ないよ?」

 

「アルフォンス、それは防衛じゃない。"過剰"な防衛と言うんだ。第一、地雷型ってあのミシリエでやったやつだろ? 間違って踏んだらどうするんだ」

 

「そこはほら、改善するんで」

 

「村周辺に仕掛けるのは流石にまずいですよ。ほんっとに副団長は拠点やシルエットナイト問わず、どっしりした重武装が好きだなぁ」

 

「はい、拠点は堅牢かつ重武装! 後は中に畑とか生産設備が整っているのが好みです! 贅沢言うなら地下に生産設備とか大きな倉庫とか欲しいですね!」

 

「十分贅沢だよ。第一、地下工事のノウハウないじゃん」

 

 自らの欲望を曝け出すアルだが、当然メンバーからの反応は良くない。逆にそこまで設備が整ったら間違いなく小鬼族(ゴブリン)側から何かしらの苦情が出てくるだろう。『あくまでも間借りさせてもらうという気持ちを最低限持つように』というアディ以外の団員達によるお説教に、アルは船倉の壁近くを陣取ると体育座りで落ち込みだす。

 

「んー、でもなぁ。あのオベロンって人の感じからして陛下みたいな統治とかしてなさそうだったし、だいぶ好き勝手しても問題ない気が「じゃあ!」アル君のはやりすぎだけど」

 

 アディからフォローを装った駄目だしを受け、とうとうアルは船倉の床に寝転がるとさめざめと泣き出す。そんな副団長にあるまじき醜態を他所に、『いつものこと』と片付けた団員達は窓から森を見たアディの『そろそろ着く』という声に出撃準備を始めた。




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