銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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118話

 伝令からの報告を聞いたアルはトイボックス・ハーミットと強襲用追加装備(オプションワークス)は当然とし、他にトゥエディアーネと騎士を数人と伝令役だった騎士をアサマに積み込んでから村を離れていった。『後はエドガーさんに任せました』というセリフを残して旅立った副団長の行動に、エドガーは頭を掻きながらも騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が安全にイカルガの再建が出来るよう、残った人員を集めて哨戒ルートについて話し合いを持ちかける。

 

 さて、そんな感じで村を飛び出したアル。戦場の真っ只中のように慌しいアサマの船倉内で数きれの紙に言伝てを書くと伝令役で村を訪れた騎士に渡していた。

 

「じゃ、これが兄さんに伝えるやつ。あ、必ず返事してと伝えてください」

 

「了解です」

 

 言伝てを受け取った騎士は小さく頷き、積み込まれた自身のトゥエディアーネに乗り込む。機体を発進させるために一度その場に停止したアサマの船底の一部が開かれ、そこから先ほどのトゥエディアーネが出撃していく。

 偵察機(ウィングマン)に乗っていた彼は一般的なトゥエディアーネとか一線を画す速度で空を駆け、あっという間にアサマの警戒範囲から抜け出した。

 

「機関再始動。お迎えが来るまでゆっくり向かいます。その間にトイボックスの改造をお願いします」

 

「足だけの改造だから助かるけど、なんで足の奴取っちまうんだ?」

 

「空で戦うわけではないですからね、いざとなればフロイド君に運んでもらいますよ。あとは、武器ですかね」

 

 作業を行いながらも同意する騎操鍛冶師(ナイトスミス)の横でアルは会話状態のままフロイドに目配せ。その視線に込められた圧にフロイドは黙って首を縦に振る。

 そんなフロイドに騎操鍛冶師(ナイトスミス)は『あー、いつものね』と慣れた調子で作業に戻っていく。既にトイボックス・ハーミットの脚部に増設された大型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の大半は分解され、カルディトーレと同系統の中々格好の良い脚部が顕になっていた。

 

 今回、アルが移動中に頼んだことはトイボックス・ハーミットを地上仕様へ換装することだった。空は強襲用追加装備(オプションワークス)によってカササギと同レベルの戦闘ができるトイボックス・ハーミットだが、地上だとその巨体が邪魔をして満足に戦えない。某ゲームでいう『地形適応がD』の状態である。

 

 妥協案として空から猛禽類のように巨人に突っ込めばある程度は戦えるだろうが、その戦法は切羽詰った時の究極の手段だとアルはアサマに連れて来た騎操鍛冶師(ナイトスミス)に地上で満足に戦えるように改修と武器の製造を加えると話した。

 改修は具体的に、足の稼動域を極限まで狭めていた脚部の大型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)や方向転換用に増設した小型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)のいくつかを排除。バランスの調整として両肩部のアタッチメントや小型連装投槍器(アトラトルポッド)の排除。先ほど述べた排除物によって浮いた重量で胴体周りに装甲を追加。この3つが挙げられる。

 

 武器の方は森林部ゆえに取り回しやすい刃渡りかつ、巨人というどう転んでも生命力が強そうな相手に致死の一撃を叩き込みやすく、同時に低コストな代物。短剣の様な物が望ましいとアルは話す。

 

「改修は最低でも3日はかかりますので、その前に戦いが始まった場合は装甲が中途半端で出てもらいますよ。あと、武器については副団長が主導でお願いしますよ、考える時間すら惜しいんですから」

 

「大丈夫です。それに、時間に関してもちゃんと兄さんにも連絡していますから」

 

 問題は作業時間なのだが、これもちゃんと対策を取っている。

 先ほどの伝令に渡した内容の中に『頼みたいリスト』というものが同封されており、そこにはエルに対するお願いがいくつか書かれている。

 

 まず1つ目は軍団の足を緩めることだ。

 最長で10日、最悪3日でも良いと最長と最短の空きが著しいが、軍団の中心である小魔導師(パールヴァ・マーガ)や勇者と言われているエルがなんとか誤魔化せば10日間という暇は捻出できるだろう。

 そして、交渉事において最初に無理難題を言っておいて後からハードルを下げた要求を言うことで呑ませるという手段は息を吸うように行われる。『どうせ、兄さんもそれが分かっているだろう』ということでアルはそんな無茶な要求を出すことにしたのだ。

 

 次に何機かのトゥエディアーネをこちらの迎えに出させることである。

 飛空船(レビテートシップ)でもこの広大な森の中の戦闘に駆けつけるのはかなりの重労働なことが伺える。それを軽減するためにイズモや後々来るであろう拠点作成船団のエスコート役に何機か回してほしいという内容もアルは頼みたいリストに盛り込んだ。

 

 最後は軍団と敵との判別方法と巨人族(アストラガリ)の肉体的な強度についての情報共有だ。これらはエルではおそらく分からないので、小魔導師(パールヴァ・マーガ)に対して頼むようにリストには書かれている。

 様々な氏族が入り乱れているであろう軍団とそれを相手にするルーベル氏族。どちらも巨人族(アストラガリ)なので、部外者にとってどちらが敵なのかよく分からない状態なのだ。

 そんな戦場にアルは嬉々として『広範囲を攻撃する装備』をぶっぱ──そもそも投げ入れるなと注意されそうな予定を立てているので、この判別方法が連携されないとひっじょーにまずいことになる。

 そんな敵味方識別について、『最悪、全員の頭に黄色の布でも巻いて目印にしてください』とどこかの乱のようなことを例としてお茶を濁したが、他にも巨人族(アストラガリ)についてアルが心配していることがあった。

 

「これ、通じるかなぁ」

 

 アルが視線を向けたのは、もはや魔導飛槍(ミッシレジャベリン)の原型がないほど鉄片や板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の端材が取り付けられた2本の槍であった。

 決闘級魔獣を使った先の実験で至近距離では有効打になりえたこの魔改造品だが、巨人族(アストラガリ)に効くのかいまいち不安になってきたのだ。殺傷力を上げるために鋭く尖らせた板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の端材には外装硬化(ハードスキン)紋章術式(エンブレム・グラフ)をびっしり書いているので槍から分離しても硬度を保てるが、巨人族(アストラガリ)の外皮がそれ以上の硬さだと無駄な行動に終わってしまう。

 

 しかし、なるべく遠距離からの攻撃で数を減らして味方有利にしたいという思いもあってかアルは開発を諦めるという選択肢を取れなかった。ただ、しばらく視線を彷徨わせるが何も良い案が浮かばなかったアルは、一時保留という形で結論付けてからトイボックス・ハーミットの背中に視線を向ける。

 すると、突然思い出したかのように手を叩く。

 

「あ、そうだ。追加なんですが、こんなのって出来ます?」

 

 思い出したものを忘れないよう、すかさず近くの騎操鍛冶師(ナイトスミス)を呼び集めて何か話をする。アルが話した内容──ようするに追加案件なのだが、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が思っていた以上にちょろい内容なので即座に了承はするが、その内容の淡白さにどういった意図があるのか分からなかった。

 

「加工も必要ないポン付けの域ですけど、なんか意味あるんです?」

 

「ん? いやぁ、ザカライアさんの視線とかから思ったんですがね? 僕ってあっちから嫌われてそうだなーと思いまして。あと、これはゴブリンの上層部の皆さんも僕に対して思われているでしょうが、僕って基本的にゴブリンの上層部の皆さんのこと疑ってますし」

 

「は、はぁ」

 

「そもそも、逃げたいだけならば今の装備全部捨てて亡命を選択すれば良いのに一泡吹かせるとかね。そんな元気があるならさっさと逃げるのがサラリーマンの基本ですよ。……元気も遣り甲斐も搾取された後じゃ、逃げる考えなんて浮かんでこないんですがね。ヘヘヘッ」

 

 謎の黒い瘴気を撒き散らしながら虚空を見つめて笑うアルに、騎操鍛冶師(ナイトスミス)はこれ以上の詮索は危険と判断して作業に戻る。

 船を動かしつつ作業を行う中、夜明けと共に昨日アサマを発った伝令役が1日も経たずに1機の僚機を伴って戻ってきた。

 

「騎士団長からの伝令です。詳細はこの紙に書かれていますが、概ねは了解だと言ってました。私は続けて拠点の方に向かいますので、こいつの案内に従ってください」

 

「ずいぶん早いお帰りで。あ、あっちの案内はお願いします」

 

 なんとも早すぎる再会に面を食らいながらもアルは返答が書かれた紙を騎士から受け取ると、無事に返礼を渡した騎士はイズモのエスコートを行う騎士の方を指差し、さっさとトゥエディアーネに乗り込んだ。

 昨日のようにアサマから発進したトゥエディアーネは加速をはじめ、またしてもあっという間に彼方まで飛び去る様子を船倉から見ていたアルは残された騎士に返事を読むまで待機を命じてから伝令からもたらされたエルからの返事を読み始める。

 

「ふむふむ、向こうもシルエットアームズを作成ってホワイトミストーで作ってるのか。確かに加工はしやすいだろうけど、耐久面とか大丈夫……じゃないっぽいですね。だから壊れた時の予備を大量に作る関係で一週間か。向こう大変そう」

 

 エルから報告されたホワイトミストーという木材を使用した魔導兵装(シルエットアームズ)を量産するために一旦行軍を中止する内容に、アルはなんともいえない渋い顔をする。

 たしかに、通常は魔力が通りやすい銀を使用するのが魔導兵装(シルエットアームズ)の基本だが、こんな辺鄙な所にそんな鉱物が都合よく埋まっているわけがない。だから魔力の通りが良い木材であるホワイトミストーに頼るのはアルでも分かる。

 だが、カルバリンや雷系統なら引火。大気系ならはじけ飛ぶ可能性が大いにある木材で魔導兵装(シルエットアームズ)を作るとなると、いったいどれだけ作れば良いのかアルでも計算できなかった。

 

 軍団の足を緩めるよう頼んだのはアルだが、まさかこのような力技で足を緩めるとは思っていなかった。量産するアストラガリの皆が苦労して魔導兵装(シルエットアームズ)を1本1本手作業で加工する姿が脳裏に容易く想像できた彼は小さく『ごめんなさい』と謝罪の言葉を送る。

 

「えーっと、エスコートは2機よこした──で、最後にルーベル氏族とやらの判別法とアストラガリの特徴か。これは皆に共有しないとなぁ」

 

 戦場へのエスコート役については既に伝令の騎士から聞かせてもらったので読み飛ばしたアルは、最後のルーベル氏族の判別法の項目を読み進めていく。

 なんでも諸氏族連合軍(エクサーキトゥス・デ・バリィスゲノス)は様々な色の布を目印とした混成部隊らしく、エルでもどの色がどの氏族なのか小魔導師(パールヴァ・マーガ)の介助無しでは判別が不可能らしい。ただ、ルーベル氏族の色は『赤』だと小魔導師(パールヴァ・マーガ)が言っていたので、赤色の旗印が書かれている巨人族(アストラガリ)を狙うように返事に書かれていた。

 

「うわぁ……、ディーさん誤射しないようにしよ。どっかの彗星と稲妻みたいに微妙に違うってオチは流石にないですよね」

 

 ディートリヒ率いる第2中隊のパーソナルカラーと被った色にアルは『なんで赤で被るかなぁ』と頭に手を置いてぼやきだす。だが、『ちゃんと確認すれば幻晶騎士(シルエットナイト)と巨人だし、大丈夫大丈夫』と現場でのミスが発生しそうな言葉と共に続きを読み進める。

 

「へぇ、眼の個数で違うんだ」

 

 おそらく小魔導師(パールヴァ・マーガ)が話したものをエルやアディが翻訳したのだろうか、中々読みやすい巨人族(アストラガリ)についての説明をアルは読み進めては己の知識としていく。

 

 1つ眼の巨人は巨人族(アストラガリ)の中で一番能力が低い。ただ、肉体や魔法的素質といった戦闘に用いる能力が低いだけで、思考能力や発想力といった能力が低いわけでは断じてないらしい。

 なんでもエルがお世話になっている氏族の者は機転が利くらしく、勇者と呼ばれる3つ眼の巨人の従者の地位に就いているのだそうだ。

 

 他にも2つ眼や3つ眼と眼の数が増えていくことで強靭な肉体を持ち、4つ眼ともなると一部の巨人は魔法(マギア)と呼ばれる巨人族(アストラガリ)特有の魔法が使えるようになるらしい。そんな魔法(マギア)を修めるマーガという役職はかなり希少らしく、後衛からその魔法(マギア)を放って相手の出鼻を挫くのが戦い──問いの定石らしい。

 ただ、ルーベル氏族はかなり大きな氏族でマーガもそれ相応に居るだろうから相対する際は気をつけて欲しいという小魔導師(パールヴァ・マーガ)からと思われる忠告の言葉がアルの心をポワポワと暖かくする。

 

「……で、5つ眼。これが実際のボスですね」

 

 最後に五眼位と呼ばれる巨人。これは4つ眼以上に強力な魔法(マギア)も使えるし、その肉体も強靭らしい。ただ、文章の所に小さく『俺のカルディトーレで片腕と拳1つを引き換えにぶん殴ってやりました!』と追記が見つかり、どうやら第2中隊が何かやらかしたらしいと思い至ったアルは、彼らと再会した暁にはよくやったと褒めるべきか、機体を無駄に壊すなと叱るべきかどちらの反応を返そうかと考える。

 

「カルディトーレの拳も効くってことだし……装備にも新しく修正も加える必要なし! 向こうの状況は知らないけど、とにかく良し!」

 

 しばらく考えたが、次第に面倒くさくなってきた。なので、『漢ならば全てを受け入れるべし』とアルは聞かされた事実を受け入れ──もとい、意識の範囲外に追いやる。そんな事情を知らない騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は、『またなんか面倒くさいこと考えてるな』と手を止めずに長年の経験から察するが、誰一人としてアルに情報を正確に聞いてこようとしない。

 聞いたが最後、自分達の常識を打ち砕かれた後に面倒くさい作業を真っ先に割り振られるからである。

 

 そんな彼らそれぞれの無言を用いた自衛策を展開していると、アルは今後の予定を伝達することを理由に全員を呼び集める。船倉に居る全ての騎操鍛冶師(ナイトスミス)が全員手を止めてアルの下に集まると、アサマ全体に聞こえるように伝声管の蓋を全部開けてからアルは全体に聞こえるような声量で話し出した。

 

「皆さん、7日の猶予が出来たのでこの場で待機。トイボックスの改修に注力してください。僕は武装の類を作るので。あ、ちなみにここまで来るのに何日ぐらいかかりました? …………数時間? なら余裕持って到着したので、動き出すのは今日を数えて6日後の早朝から……で、どうでしょうか?」

 

 今後の予定を話し終わると、伝声管や船倉内で『異議なし』という声が出始める。特に反対意見もないので、アサマはこの瞬間から現在の空域で待機状態となった。

 そうなると、操船することもなく暇をしていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が出てくるので、アルは操船を行っていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達から最低限の人員を残してトイボックス・ハーミットの改修に回すように伝える。久方ぶりに物作りに精を出せると喜び勇んだ騎操鍛冶師(ナイトスミス)に混じってフロイドが船倉に入ると、船倉の隅っこからアルがフロイドに向かって手招きをしていた。

 

「フロイド君、とりあえずお耳を拝借」

 

「はぁ……。えっ、いや……まじですか? …………いやぁ、それ騎士団長に秘密ですよね? 当然。えぇ……後で何言われるか分かりませんよ?」

 

「でも、僕が邪魔になる可能性もありますからね。その場合の対処としてね。仮に僕がザカライアさんだったら絶対僕が交渉の邪魔になりますし、その主だったらその報告だけで邪魔者認定してきますよ」

 

 近づいてくるフロイドと2人になったアルは、周囲にばれないように小声で今後予想される展開とフロイドに託す指示を伝えだす。最初は指示の内容が内容だけにいまいちアルが予想している展開について信じきれなかったフロイドだが、イズモの船倉で繰り広げられたやり取りやザカライアの反応を思い出しながら、自身がザカライアの立場になってアルにあんなことを言われたらどうするかをシミュレートする。

 数分考えた後、どんなに考えても考えが変わらなかったのか『僕もそうしますね』とフロイドも小鬼族(ゴブリン)側から見たアルの危険性に同意する。

 

「なら、あんな啖呵切らなきゃいいじゃないですか。無駄に敵作ってどうするんですか」

 

「僕らが対等どころか、向こう側からしたら関係ない立ち位置になりたかったんですよ。仮にザカライアさんの申し出を一方的に受けたとしてみてください。一度僕達がゴブリンに協力……というか、指示された内容的に従ったことになるんですよ。そのまま彼らをフレメヴィーラまで連れて行って、玉座の間で"そっちの銀鳳騎士団ってのが我らの指揮下に一時的に入ったから俺達が上だ! 席をよこせ! "って宣言されても困るでしょ?」

 

「んな滅茶苦茶な」

 

 あまりにもおつむの弱そうな予想にフロイドが苦笑いを浮かべるが、小鬼族(ゴブリン)が国なのかはさて置くとして──国と国の政治は基本的に弱みを見つけてそこを突っついて好条件を引き出すマウントの取り合いである。なので、例え村の復興を行おうとも村を拠点代わりに使おうともあくまでも対等に接しなければならないのだ。

 

「ザカライアさんの話を鵜呑みにするなら、ゴブリンも西に帰るというのは命題であってると思うんですがね。ほんと、なんで着の身着のまま亡命という考えがないんでしょ」

 

「この環境だと、たしかにその選択肢が最適解な気はしますよね。まさか、ルーベル氏族の村の下まで穴を掘って地雷置いてたりとか……。いや、副団長でもないのにそんなことはしないですよねー、ハハハ」

 

「ハッハッハッハ、フロイド君も言うようになりましたね。全然面白くない冗談のお礼に今度キミん家でやってあげましょうかコノヤロウ」

 

「コワイチカイ コワイチカイ コワイチカイ」

 

 坑道戦略のようなことを自発的に編み出したフロイドに対し、眼が全然笑っていない笑顔で徐々にドスの聞いた声に変えながら妙な脅しをかけるアル。そんなドメスティックな一面はさて置くとして、小鬼族(ゴブリン)の上層部が描いた餅の全体が見えないことがチラついて集中できないアルだった。

 しかし、これから数日後。フロイドの妄想以上の出来事や小王(オベロン)の口から直々にもたらされる小鬼族(ゴブリン)──第1次森伐軍の真相とあまりにも自分本位な計画にアルがブチキレることになるとは、当時の2人は知る由もなかった。

 

***

 

 アサマが現空域に留まりつつ、トイボックス・ハーミットの改修に専念してから6回目の太陽が顔を出す。既にアサマはエスコート役として派遣されたトゥエディアーネの先導で動き出しており、エスコート役の見通しでは半日で到着するとのことだった。

 

 そんなアサマの船倉には脚部の大型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)や肩部のゴテゴテとした装備が外され、代わりに胴体周辺に生存性を高める追加装甲が張り巡らされている。両腕の前腕部も内蔵していた魔法剣(マジックサーベル)ごと取り外され、ライトニングフレイルが装着された前腕部の予備をかっぱらったアルが担当箇所の換装が終わって暇な者を拉致──もとい、召集して改造した特別製の物に差し替えられている。

 武器は取り回しも考えて正規品の剣を削って作られた肉厚の短剣が腰に2振り、肩部には柄のみの物が左右1つずつ取り付けられ、これにて改修は全て完了と相成った。

 

「さしずめ、陸戦仕様ですね」

 

「船に戻るたびに僕が迎えに行く必要ありそうですね」

 

 改修箇所を見て満足げに頷くアルの横でフロイドは運用面に対する愚痴を吐き出す。

 この陸戦仕様、脚部の大型や方向転換用の小型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を排除したので非常に走破性の高い脚部とバランスになっているのだが、カルディトーレと同じく鎖などがないと船へ帰還できないのである。

 当然、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の出力任せで行った船から船への八艘飛びモドキも出来るはずもなく、そうなってくると移動の補助を全てフロイドの乗る強襲型追加装備(オプションワークス)が担うことになる。

 

「改造は付け足すだけじゃないんですよ。逆にマイナスすることで使い勝手も良くなるんです。覚えておきましょう」

 

「おかしい、いつも付け足す考えをしている副団長がまともなこと言ってる」

 

「僕だって物資が乏しい状況ではそんなゴテゴテに盛りませんよ。……さて、そろそろ準備に入りますか」

 

 アルは準備に入ると言うが、足を向ける先はトイボックス・ハーミットとは逆向きだった。その先にあるのは騎士達が使用する降下甲冑(ディセンドラート)や携行武器が置いてある区画で、アルは降下甲冑(ディセンドラート)に搭乗すると共に奥から緑色の外套を引っ張り出して降下甲冑(ディセンドラート)に纏いだす。

 

「少しでも隠蔽率を上げねば」

 

 実際に戦うのはトイボックス側なのに、まるで森での戦闘に気を使うかのごとくテキパキと装備を整えていくアル。区画内の厳重に鍵が施されたコンテナを開くと板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を入れてから引き金を引くことで魔法を放てる件の銃杖(ガンライクロッド)が2丁と手の平サイズの俵型をした板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が10個ほど梱包されており、アルは銃杖(ガンライクロッド)を取り出すと降下甲冑(ディセンドラート)の腰に取り付けられた魔獣の革で出来たケースに1丁ずつ丁寧に格納していく。

 

「弾が足りますかね。最悪、氏族の方に魔力を補充させてもらいましょうか」

 

 巨人族(アストラガリ)が個人の魔力で魔法を発現させていることは既に小魔導師(パールヴァ・マーガ)との会話から分かっているので、いざという時のことを想定しながらも、アルはアサマの船体に張り巡らされた銀線神経(シルバーナーヴ)を拝借し、弾丸としての役割を持つ板状結晶筋肉(クリスタルプレート)に1つずつ魔力を充填させる。全ての弾丸に魔力を充填し終わり、それらを割れないように丁寧な手つきで降下甲冑(ディセンドラート)の余ったスペースに搭載したところで、アルは降下甲冑(ディセンドラート)を脱ぐと今度はトイボックス・ハーミットの前まで歩いていく。

 

「稼動域のチェックします?」

 

「お願いします」

 

 近接戦闘では腕や足の稼動域が物を言う。陸上仕様に変えたことで何か異常があったら目も当てられないので、アルはトイボックス・ハーミットの操縦席に潜り込んだ。

 周囲に動くように伝えると、アルは操縦桿や鐙を操作して機体を動かし始める。機敏な動きをすることで機体に負荷を与えないように緩慢とした動作で腕や頭部の稼動域をチェックし、指の関節も親指から順番に握りこんでから小指から順番に開いていく。

 しかし、足の稼動域をチェックしだした途端。鐙の踏み込む力に違和感を感じたアルが操縦席から大声を上げる。

 

「右足の膝側に異物あるかもです。左足よりもちょっと動かし辛いです!」

 

「右足了解、すぐに調べるからエーテルリアクタ切っておいてください」

 

 異常の報告を受けた騎操鍛冶師(ナイトスミス)はトイボックス・ハーミットの吸気音が聞こえなくなったことを確認してから右足に取り付く。膝装甲の裏側などを明かりで照らしてはごそごそと何かをして数分後、騎操鍛冶師(ナイトスミス)は『これか!』という声と共に手の平大のネジを引っ張り出した。

 

「大型マギウスジェットスラスタを固定してたネジだな。副団長、稼動域の洗い出しして後から異常部分直すことにします!」

 

「分かりましたー」

 

 どうやら固定用のネジの一部が脱落し、そのまま膝装甲の関節部で邪魔をしていたらしい。これが戦場での整備不良ではなくて本当に良かったと安堵しながらも、騎操鍛冶師(ナイトスミス)はアルに稼動域の洗い出しと出撃準備を全て終わらせるよう伝える。アルもそれに同意しながら残った部位の稼動域を調べるが、幸いなことに異常を検知したのは右足の膝ぐらいであった。

 

「右足の装甲をバラしてから再設置するので、明日ぎりぎりになると思います。なので、乗ったらすぐ出撃できるようにして欲しいです」

 

「お言葉に甘えまーす!」

 

 右足という一部位だけでも再整備には多大な時間がかかる。おそらく本日は徹夜作業になるとの見通しに、アルはお言葉に甘えてすぐに戦闘行動を行えるようにトイボックス・ハーミットの操縦席に戻っていく。

 

「えーっと、短剣はあるからアルディラットの小型盾もらって……と」

 

 視界が極度に狭く、法弾が木々に邪魔されて通り辛く、敵が接近してきてもすぐに気付くことは難しい。そんなボキューズ大森海はとにかくアルと相性が悪い戦場だ。

 なので、調査飛行前にアンブロシウスが授けてくれた戦場での教えに従い、アルは装甲以外の唯一の防具としてアルディラットカンバーにも装備してある小型盾の予備を拝借。今までの遠距離主体の戦い方から一般的な近接戦仕様機(ウォーリアスタイル)の戦い方へと装いを変えていく。

 

「おっと、こいつも実験を忘れてた」

 

 ふと肩部に取り付けた柄を握ったアルは周囲に離れているように命じる。全員が十分に離れたことを確認したアルは、魔力をトイボックス・ハーミットの手を介して柄に送り込む。

 すると、柄のみであったはずの物体から魔法剣(マジックサーベル)と同じ、炎で出来た剣が突如生えてきた。

 

「このまま数分。マジックサーベルだとかなりの消費が見込まれますが、果たして?」

 

 剣と言うには少々刃渡りが心もとない剣の柄を握りらせながら魔力を流し続ける。5分、10分とそのままに刃を展開させるが、魔法剣(マジックサーベル)と比べて魔力貯蓄量(マナ・プール)の減りはかなり穏やかな様子にアルは小さく『成功だ』と呟いた。

 

「マジックサーベルの縮小化、題してマジックダガーかな? これならばカルディトーレにも使えるんじゃないですかね」

 

 魔法剣(マジックサーベル)をより低コストかつ、低燃費にした魔法短剣(マジックダガー)の出来栄えにご満悦なアルは柄のみとなった魔法短剣(マジックダガー)を再びトイボックス・ハーミットの肩部に装着しなおす。

 威力は少々低くなったが、取り回しやすい戦術級魔法(オーバード・スペル)を振り回せることはアドバンテージだ。

 

「相手は人間と同じみたいな感じだし、こいつや短剣を脇腹ぶっ刺して盾にすればなんとかなるでしょ」

 

 未だ近接攻撃は不安の域を出ないが、『なんとかなる』という暗示を何度も使うことで精神安定を計ったアルは続けて騎操鍛冶師(ナイトスミス)に台車を要請する。

 理由は分からないが要望されたことにすぐに従った騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の手で台車が運ばれると、アルはその中に村で作っていた破片をばら撒く魔導飛槍(ミッシレジャベリン)を2本を立てかける。予め狩りで槍の威力を見せ付けられていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は『うわ、出た』と言わんばかりの顔を浮かべていると、艦橋に繋がる伝声管からイズモ視認の報告が舞い込んできた。

 

「下に巨人の集団を確認。すごい数だ」

 

「副団長、化けm……カササギがこちらに来ます」

 

「迎え入れを 僕も行きます」

 

 カササギ襲来の報告にアルはトイボックス・ハーミットから降りる。騎操鍛冶師(ナイトスミス)に作業を開始するよう伝えてから扉の傍で待機していると、開かれた扉のすぐ傍で待機していた機体を船内に運び入れるクレーンの誘導を無視して入ってきたカササギは誰の手も借りずに船倉内の床に巨大な手をついて着陸する。

 

「兄さん、誘導に従ってくれないと事故を起こしますよ。それに、合図送ってくれたら僕が地上に降りるのに」

 

「いやぁ、いち早く手紙に書いてた例の広範囲制圧用の装備について知りたかったので。あと、弟子から伝言も」

 

 ヒヤリハットな出来事だったが、エルはあまり悪びれもせずに先ほど台車に載せられた魔導飛槍(ミッシレジャベリン)を検分する。もはや魔導飛槍(ミッシレジャベリン)のジャベリン部分が微かに匂う程度の魔改造ぶりに『派手にやりますねぇ』と関心したエルは、しばらくアルの説明を素直に拝聴する。

 そして、全ての説明が終わった後にエルは『絶対言わなきゃいけないことがあります』と急に真面目な顔をしだした。

 

「これ、下に居る皆さんの範囲内で使わな「使うか!」」

 

 大量殺戮に快楽を見出す人間かと憤慨するアル。しかし、傍目から見たらその装備のえげつなさは先ほどアルが言ったそれと同等にぶっ飛んでいる。

 

「これは開戦した少し後にルーベル氏族に叩き込むんです。どうせ、マーガとかいう魔法使いが迎撃してくるはずですし、少しでも矢傷負わせて戦闘を有利に進めるんですよ」

 

「アルのそういう戦略的に突き詰めすぎて人道からちょっと足を踏み外しかけてるところ、僕にない狂気を感じるんですが」

 

「死ぬときはコクピット。自爆はロマンだからと自爆装置を取り付けようとするシルエットナイトキチに言われたくないですね」

 

「……止めましょう。お互い頭が痛くなるだけです。ですが、これは巨人達の問いですので援護射撃は程々に」

 

「分かってます。パールさんから問いの順番を聞いてますから、最初の投槍合戦の際に2発打ち込んで地上と合流します」

 

 五十歩百歩な言い合いは結局『子供どころか前世から知っていることを言い合っても時間の無駄だった』という痛み分けな結果に終わり、魔導飛槍(ミッシレジャベリン)の次はそれを打ち出す『弓』の紹介を最後にアル葉は話を止める。すると、今度はエルが小魔導師(パールヴァ・マーガ)から頼まれた伝言を話し出した。

 

「パールから伝えておいて欲しいといわれたのですが、トイボックスの頭部についてるあの眼球水晶。取り外した方が良いかもしれません」

 

「え、なんでですか?」

 

 遠距離装備のクレヤボヤンスを除く、頭部の眼球水晶達は幻晶騎士(シルエットナイト)の視野を広げる画期的な装備である。アレが有ると無いとでは不意打ちにあう危険性も変わってくると思ったアルが聞き返すと、エルは歯に物が詰まったかのような微妙な顔をし始めた。

 

「いえ、なんでも……アストラガリの中で眼の数を偽るのは"眼騙り(めがたり)"といってかなり馬鹿にされるそうなんです。僕らが居た業界でいう在籍していたプロジェクトなどの経歴や経験して身につけたスキルの詐称みたいなものですね」

 

「へぇー、でも今更直す時間もないのでこのままで行きますよ」

 

 アルの反応に、エルはさも分かりきった表情で『確かに伝えました』と言って来る。

 アル──鞍馬は前世からそうだった。馬鹿にされるといった弱みや、やっかみになりそうな行動に気をつけるより、『これをした方が予算も工期も短くすんで事故になりづらいし、休みも取りやすい』とあえて鉄火場に突っ込んでいく。

 そのために入社当時は扱いにくい人間と言うことで倉田と組むことになったのだが、それも『事故による手直しで生じるデスマーチ』が理由だと認識が深まれば彼は途端に扱いやすい人物となった。

 

 今回も、『どうせ自分が馬鹿にされるのと戦いの早期決着辺りを天秤にかけたのだろう』と予想したエルは未だに治らないアルの持つ悪癖の1つに辟易とした様子でカササギに乗り込もうとする。

 

「はいはい、精々馬鹿にされてください」

 

「勝手に馬鹿にして手を抜いてもらったらやりやすいですからね。あ、あと…………いや、なんでもないです」

 

 何かを言いたげにするアルに振り返るが、なんでもないと言いなおした彼にエルは不思議そうな顔をしながらカササギに乗り込むとそのままアサマを後にする。

 徐々に小さくなっていくカササギの後姿をじっと見ながら、アルは『この計画は言ったら絶対止められますからね』とひとりごちながら残った作業がないかの指差し確認をしていった。

 

***

 

 アルがイズモと合流した次の日。岩石が疎らに転がる『ドクトリナ・デ・シーバ』と呼ばれる場所では血みどろの戦いが行われていた。

 諸氏族連合軍(エクサーキトゥス・デ・バリィスゲノス)が満足に動けるほど広いこの場所の端と端から大量の投槍が入り乱れ、それぞれの陣営に所属する巨人は懸命に槍を投げては彼方より飛来した槍に貫かれて命を落とす様はどこか野性味を帯びた絵画の一幕のようである。

 

 そんな地上の様子を『うわぁ』と引き気味で見ていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)は伝声管の蓋を開ける。伝声管の先は甲板まで伸びており、戦闘が開始されたと伝える騎操鍛冶師(ナイトスミス)の報告にアルはただ『了解』と告げるとトイボックス・ハーミットの操縦席へと入り込む。

 

「まずは合図」

 

 トイボックス・ハーミットに右腕に装備した巨大な弓を前に出す。

 これにも魔導飛槍(ミッシレジャベリン)と同じく、外装硬化(ハードスキン)紋章術式(エンブレム・グラフ)がギッチリ書き込まれた鋼の弓幹に弦は綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)で構想されたその弓は、エルが作った幻晶甲冑(シルエットギア)用の弩砲であるスコルビウスの発射部分をモロパクリして作成された急増品である。

 試射はしていないが、弓が耐え切れずに壊れたら投げれば問題ないだろうという気位でアルはトイボックス・ハーミットに弓の弦を強く弾かせた。

 

 ベェン

 

 まるで楽器を弾いたような音色だが、人の身からすればかなりの騒音が周囲に響く。そして、耳からその音の残響が終わった頃。

 

 ベェン

 

 弦がまた鳴らされる。

 2度目ともなると聞き間違いではないとこちらに向かって指差す巨人の姿がクレヤボヤンスからの映像で把握できたアルは、『警告は十分』と踏んで船倉から上げられた台車の魔導飛槍(ミッシレジャベリン)を弓に番えると打ち出す準備に入った。

 

「ゲイ・ボルグ発射準備」

 

 ぎりぎりと綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)が引き絞られ、張力が最高潮に至った時。アルの『発射』という言葉と共に鋭い風切り音をその場に残して魔導飛槍(ミッシレジャベリン)は宙に打ち出される。

 

 弓の弦を鳴らす行為は日本では邪気を祓うという名目で行われる儀式である。だが、いくら兄から『雑食系オタク』と評されているアルでもそんなニッチな知識は未搭載だった。

 ただ、何の因果か小鬼族(ゴブリン)や他氏族にとって邪魔な存在であったルーベル氏族に向かって断罪の矢は高速で飛んでいく。

 

 そして、謎の音に警戒し出した彼らの目の前で──弾けた。




認識共有および、散弾での先制攻撃だべ回

トイボックス・ハーミット(陸戦仕様)
 脚部の大型マギウスジェットスラスタや空戦で使用する方向転換用の小型マギウスジェットスラスタを取り外し、胸部装甲付近に生存率を上げる装甲板を取り付けた近接攻撃に特化した機体。
 サブアームにも武器やシルエットアームズを積めるが、フロイドの強襲用オプションワークスとの合体をスムーズに行うために何も装備していない。

ゲイ・ボルグ
 アルが村で作った散弾をばら撒くミッシレジャベリン。今回は弓を用いたが、投槍でも対応は可能。(ちなみに弓のコードネームは無し)

マジックダガー
 燃費が劣悪だったマジックサーベルの威力やサイズを縮小化することで、森林地帯でも取り回しやすくて燃費も改善された武器へと改良されたもの。
 威力が低いといっても、カルバリンを刃状に変更したものなので威力は良い方にお察し。

前腕部
 ライトニングフレイルがくっついた前腕部の予備パーツを改良して作り出した謎の武器。左右に溝が掘られており、その奥にはなにやら金属質の物が鈍く光っている。
 このことについてアルは『くろがね しろ』と謎のフレーズを口ずさみながらはぐらかす姿が確認されている。
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