伝令からの報告を聞いたアルはトイボックス・ハーミットと強襲用
さて、そんな感じで村を飛び出したアル。戦場の真っ只中のように慌しいアサマの船倉内で数きれの紙に言伝てを書くと伝令役で村を訪れた騎士に渡していた。
「じゃ、これが兄さんに伝えるやつ。あ、必ず返事してと伝えてください」
「了解です」
言伝てを受け取った騎士は小さく頷き、積み込まれた自身のトゥエディアーネに乗り込む。機体を発進させるために一度その場に停止したアサマの船底の一部が開かれ、そこから先ほどのトゥエディアーネが出撃していく。
「機関再始動。お迎えが来るまでゆっくり向かいます。その間にトイボックスの改造をお願いします」
「足だけの改造だから助かるけど、なんで足の奴取っちまうんだ?」
「空で戦うわけではないですからね、いざとなればフロイド君に運んでもらいますよ。あとは、武器ですかね」
作業を行いながらも同意する
そんなフロイドに
今回、アルが移動中に頼んだことはトイボックス・ハーミットを地上仕様へ換装することだった。空は強襲用
妥協案として空から猛禽類のように巨人に突っ込めばある程度は戦えるだろうが、その戦法は切羽詰った時の究極の手段だとアルはアサマに連れて来た
改修は具体的に、足の稼動域を極限まで狭めていた脚部の大型
武器の方は森林部ゆえに取り回しやすい刃渡りかつ、巨人というどう転んでも生命力が強そうな相手に致死の一撃を叩き込みやすく、同時に低コストな代物。短剣の様な物が望ましいとアルは話す。
「改修は最低でも3日はかかりますので、その前に戦いが始まった場合は装甲が中途半端で出てもらいますよ。あと、武器については副団長が主導でお願いしますよ、考える時間すら惜しいんですから」
「大丈夫です。それに、時間に関してもちゃんと兄さんにも連絡していますから」
問題は作業時間なのだが、これもちゃんと対策を取っている。
先ほどの伝令に渡した内容の中に『頼みたいリスト』というものが同封されており、そこにはエルに対するお願いがいくつか書かれている。
まず1つ目は軍団の足を緩めることだ。
最長で10日、最悪3日でも良いと最長と最短の空きが著しいが、軍団の中心である
そして、交渉事において最初に無理難題を言っておいて後からハードルを下げた要求を言うことで呑ませるという手段は息を吸うように行われる。『どうせ、兄さんもそれが分かっているだろう』ということでアルはそんな無茶な要求を出すことにしたのだ。
次に何機かのトゥエディアーネをこちらの迎えに出させることである。
最後は軍団と敵との判別方法と
様々な氏族が入り乱れているであろう軍団とそれを相手にするルーベル氏族。どちらも
そんな戦場にアルは嬉々として『広範囲を攻撃する装備』をぶっぱ──そもそも投げ入れるなと注意されそうな予定を立てているので、この判別方法が連携されないとひっじょーにまずいことになる。
そんな敵味方識別について、『最悪、全員の頭に黄色の布でも巻いて目印にしてください』とどこかの乱のようなことを例としてお茶を濁したが、他にも
「これ、通じるかなぁ」
アルが視線を向けたのは、もはや
決闘級魔獣を使った先の実験で至近距離では有効打になりえたこの魔改造品だが、
しかし、なるべく遠距離からの攻撃で数を減らして味方有利にしたいという思いもあってかアルは開発を諦めるという選択肢を取れなかった。ただ、しばらく視線を彷徨わせるが何も良い案が浮かばなかったアルは、一時保留という形で結論付けてからトイボックス・ハーミットの背中に視線を向ける。
すると、突然思い出したかのように手を叩く。
「あ、そうだ。追加なんですが、こんなのって出来ます?」
思い出したものを忘れないよう、すかさず近くの
「加工も必要ないポン付けの域ですけど、なんか意味あるんです?」
「ん? いやぁ、ザカライアさんの視線とかから思ったんですがね? 僕ってあっちから嫌われてそうだなーと思いまして。あと、これはゴブリンの上層部の皆さんも僕に対して思われているでしょうが、僕って基本的にゴブリンの上層部の皆さんのこと疑ってますし」
「は、はぁ」
「そもそも、逃げたいだけならば今の装備全部捨てて亡命を選択すれば良いのに一泡吹かせるとかね。そんな元気があるならさっさと逃げるのがサラリーマンの基本ですよ。……元気も遣り甲斐も搾取された後じゃ、逃げる考えなんて浮かんでこないんですがね。ヘヘヘッ」
謎の黒い瘴気を撒き散らしながら虚空を見つめて笑うアルに、
船を動かしつつ作業を行う中、夜明けと共に昨日アサマを発った伝令役が1日も経たずに1機の僚機を伴って戻ってきた。
「騎士団長からの伝令です。詳細はこの紙に書かれていますが、概ねは了解だと言ってました。私は続けて拠点の方に向かいますので、こいつの案内に従ってください」
「ずいぶん早いお帰りで。あ、あっちの案内はお願いします」
なんとも早すぎる再会に面を食らいながらもアルは返答が書かれた紙を騎士から受け取ると、無事に返礼を渡した騎士はイズモのエスコートを行う騎士の方を指差し、さっさとトゥエディアーネに乗り込んだ。
昨日のようにアサマから発進したトゥエディアーネは加速をはじめ、またしてもあっという間に彼方まで飛び去る様子を船倉から見ていたアルは残された騎士に返事を読むまで待機を命じてから伝令からもたらされたエルからの返事を読み始める。
「ふむふむ、向こうもシルエットアームズを作成ってホワイトミストーで作ってるのか。確かに加工はしやすいだろうけど、耐久面とか大丈夫……じゃないっぽいですね。だから壊れた時の予備を大量に作る関係で一週間か。向こう大変そう」
エルから報告されたホワイトミストーという木材を使用した
たしかに、通常は魔力が通りやすい銀を使用するのが
だが、カルバリンや雷系統なら引火。大気系ならはじけ飛ぶ可能性が大いにある木材で
軍団の足を緩めるよう頼んだのはアルだが、まさかこのような力技で足を緩めるとは思っていなかった。量産するアストラガリの皆が苦労して
「えーっと、エスコートは2機よこした──で、最後にルーベル氏族とやらの判別法とアストラガリの特徴か。これは皆に共有しないとなぁ」
戦場へのエスコート役については既に伝令の騎士から聞かせてもらったので読み飛ばしたアルは、最後のルーベル氏族の判別法の項目を読み進めていく。
なんでも
「うわぁ……、ディーさん誤射しないようにしよ。どっかの彗星と稲妻みたいに微妙に違うってオチは流石にないですよね」
ディートリヒ率いる第2中隊のパーソナルカラーと被った色にアルは『なんで赤で被るかなぁ』と頭に手を置いてぼやきだす。だが、『ちゃんと確認すれば
「へぇ、眼の個数で違うんだ」
おそらく
1つ眼の巨人は
なんでもエルがお世話になっている氏族の者は機転が利くらしく、勇者と呼ばれる3つ眼の巨人の従者の地位に就いているのだそうだ。
他にも2つ眼や3つ眼と眼の数が増えていくことで強靭な肉体を持ち、4つ眼ともなると一部の巨人は
ただ、ルーベル氏族はかなり大きな氏族でマーガもそれ相応に居るだろうから相対する際は気をつけて欲しいという
「……で、5つ眼。これが実際のボスですね」
最後に五眼位と呼ばれる巨人。これは4つ眼以上に強力な
「カルディトーレの拳も効くってことだし……装備にも新しく修正も加える必要なし! 向こうの状況は知らないけど、とにかく良し!」
しばらく考えたが、次第に面倒くさくなってきた。なので、『漢ならば全てを受け入れるべし』とアルは聞かされた事実を受け入れ──もとい、意識の範囲外に追いやる。そんな事情を知らない
聞いたが最後、自分達の常識を打ち砕かれた後に面倒くさい作業を真っ先に割り振られるからである。
そんな彼らそれぞれの無言を用いた自衛策を展開していると、アルは今後の予定を伝達することを理由に全員を呼び集める。船倉に居る全ての
「皆さん、7日の猶予が出来たのでこの場で待機。トイボックスの改修に注力してください。僕は武装の類を作るので。あ、ちなみにここまで来るのに何日ぐらいかかりました? …………数時間? なら余裕持って到着したので、動き出すのは今日を数えて6日後の早朝から……で、どうでしょうか?」
今後の予定を話し終わると、伝声管や船倉内で『異議なし』という声が出始める。特に反対意見もないので、アサマはこの瞬間から現在の空域で待機状態となった。
そうなると、操船することもなく暇をしていた
「フロイド君、とりあえずお耳を拝借」
「はぁ……。えっ、いや……まじですか? …………いやぁ、それ騎士団長に秘密ですよね? 当然。えぇ……後で何言われるか分かりませんよ?」
「でも、僕が邪魔になる可能性もありますからね。その場合の対処としてね。仮に僕がザカライアさんだったら絶対僕が交渉の邪魔になりますし、その主だったらその報告だけで邪魔者認定してきますよ」
近づいてくるフロイドと2人になったアルは、周囲にばれないように小声で今後予想される展開とフロイドに託す指示を伝えだす。最初は指示の内容が内容だけにいまいちアルが予想している展開について信じきれなかったフロイドだが、イズモの船倉で繰り広げられたやり取りやザカライアの反応を思い出しながら、自身がザカライアの立場になってアルにあんなことを言われたらどうするかをシミュレートする。
数分考えた後、どんなに考えても考えが変わらなかったのか『僕もそうしますね』とフロイドも
「なら、あんな啖呵切らなきゃいいじゃないですか。無駄に敵作ってどうするんですか」
「僕らが対等どころか、向こう側からしたら関係ない立ち位置になりたかったんですよ。仮にザカライアさんの申し出を一方的に受けたとしてみてください。一度僕達がゴブリンに協力……というか、指示された内容的に従ったことになるんですよ。そのまま彼らをフレメヴィーラまで連れて行って、玉座の間で"そっちの銀鳳騎士団ってのが我らの指揮下に一時的に入ったから俺達が上だ! 席をよこせ! "って宣言されても困るでしょ?」
「んな滅茶苦茶な」
あまりにもおつむの弱そうな予想にフロイドが苦笑いを浮かべるが、
「ザカライアさんの話を鵜呑みにするなら、ゴブリンも西に帰るというのは命題であってると思うんですがね。ほんと、なんで着の身着のまま亡命という考えがないんでしょ」
「この環境だと、たしかにその選択肢が最適解な気はしますよね。まさか、ルーベル氏族の村の下まで穴を掘って地雷置いてたりとか……。いや、副団長でもないのにそんなことはしないですよねー、ハハハ」
「ハッハッハッハ、フロイド君も言うようになりましたね。全然面白くない冗談のお礼に今度キミん家でやってあげましょうかコノヤロウ」
「コワイチカイ コワイチカイ コワイチカイ」
坑道戦略のようなことを自発的に編み出したフロイドに対し、眼が全然笑っていない笑顔で徐々にドスの聞いた声に変えながら妙な脅しをかけるアル。そんなドメスティックな一面はさて置くとして、
しかし、これから数日後。フロイドの妄想以上の出来事や
***
アサマが現空域に留まりつつ、トイボックス・ハーミットの改修に専念してから6回目の太陽が顔を出す。既にアサマはエスコート役として派遣されたトゥエディアーネの先導で動き出しており、エスコート役の見通しでは半日で到着するとのことだった。
そんなアサマの船倉には脚部の大型
武器は取り回しも考えて正規品の剣を削って作られた肉厚の短剣が腰に2振り、肩部には柄のみの物が左右1つずつ取り付けられ、これにて改修は全て完了と相成った。
「さしずめ、陸戦仕様ですね」
「船に戻るたびに僕が迎えに行く必要ありそうですね」
改修箇所を見て満足げに頷くアルの横でフロイドは運用面に対する愚痴を吐き出す。
この陸戦仕様、脚部の大型や方向転換用の小型
当然、
「改造は付け足すだけじゃないんですよ。逆にマイナスすることで使い勝手も良くなるんです。覚えておきましょう」
「おかしい、いつも付け足す考えをしている副団長がまともなこと言ってる」
「僕だって物資が乏しい状況ではそんなゴテゴテに盛りませんよ。……さて、そろそろ準備に入りますか」
アルは準備に入ると言うが、足を向ける先はトイボックス・ハーミットとは逆向きだった。その先にあるのは騎士達が使用する
「少しでも隠蔽率を上げねば」
実際に戦うのはトイボックス側なのに、まるで森での戦闘に気を使うかのごとくテキパキと装備を整えていくアル。区画内の厳重に鍵が施されたコンテナを開くと
「弾が足りますかね。最悪、氏族の方に魔力を補充させてもらいましょうか」
「稼動域のチェックします?」
「お願いします」
近接戦闘では腕や足の稼動域が物を言う。陸上仕様に変えたことで何か異常があったら目も当てられないので、アルはトイボックス・ハーミットの操縦席に潜り込んだ。
周囲に動くように伝えると、アルは操縦桿や鐙を操作して機体を動かし始める。機敏な動きをすることで機体に負荷を与えないように緩慢とした動作で腕や頭部の稼動域をチェックし、指の関節も親指から順番に握りこんでから小指から順番に開いていく。
しかし、足の稼動域をチェックしだした途端。鐙の踏み込む力に違和感を感じたアルが操縦席から大声を上げる。
「右足の膝側に異物あるかもです。左足よりもちょっと動かし辛いです!」
「右足了解、すぐに調べるからエーテルリアクタ切っておいてください」
異常の報告を受けた
「大型マギウスジェットスラスタを固定してたネジだな。副団長、稼動域の洗い出しして後から異常部分直すことにします!」
「分かりましたー」
どうやら固定用のネジの一部が脱落し、そのまま膝装甲の関節部で邪魔をしていたらしい。これが戦場での整備不良ではなくて本当に良かったと安堵しながらも、
「右足の装甲をバラしてから再設置するので、明日ぎりぎりになると思います。なので、乗ったらすぐ出撃できるようにして欲しいです」
「お言葉に甘えまーす!」
右足という一部位だけでも再整備には多大な時間がかかる。おそらく本日は徹夜作業になるとの見通しに、アルはお言葉に甘えてすぐに戦闘行動を行えるようにトイボックス・ハーミットの操縦席に戻っていく。
「えーっと、短剣はあるからアルディラットの小型盾もらって……と」
視界が極度に狭く、法弾が木々に邪魔されて通り辛く、敵が接近してきてもすぐに気付くことは難しい。そんなボキューズ大森海はとにかくアルと相性が悪い戦場だ。
なので、調査飛行前にアンブロシウスが授けてくれた戦場での教えに従い、アルは装甲以外の唯一の防具としてアルディラットカンバーにも装備してある小型盾の予備を拝借。今までの遠距離主体の戦い方から一般的な
「おっと、こいつも実験を忘れてた」
ふと肩部に取り付けた柄を握ったアルは周囲に離れているように命じる。全員が十分に離れたことを確認したアルは、魔力をトイボックス・ハーミットの手を介して柄に送り込む。
すると、柄のみであったはずの物体から
「このまま数分。マジックサーベルだとかなりの消費が見込まれますが、果たして?」
剣と言うには少々刃渡りが心もとない剣の柄を握りらせながら魔力を流し続ける。5分、10分とそのままに刃を展開させるが、
「マジックサーベルの縮小化、題してマジックダガーかな? これならばカルディトーレにも使えるんじゃないですかね」
威力は少々低くなったが、取り回しやすい
「相手は人間と同じみたいな感じだし、こいつや短剣を脇腹ぶっ刺して盾にすればなんとかなるでしょ」
未だ近接攻撃は不安の域を出ないが、『なんとかなる』という暗示を何度も使うことで精神安定を計ったアルは続けて
理由は分からないが要望されたことにすぐに従った
「下に巨人の集団を確認。すごい数だ」
「副団長、化けm……カササギがこちらに来ます」
「迎え入れを 僕も行きます」
カササギ襲来の報告にアルはトイボックス・ハーミットから降りる。
「兄さん、誘導に従ってくれないと事故を起こしますよ。それに、合図送ってくれたら僕が地上に降りるのに」
「いやぁ、いち早く手紙に書いてた例の広範囲制圧用の装備について知りたかったので。あと、弟子から伝言も」
ヒヤリハットな出来事だったが、エルはあまり悪びれもせずに先ほど台車に載せられた
そして、全ての説明が終わった後にエルは『絶対言わなきゃいけないことがあります』と急に真面目な顔をしだした。
「これ、下に居る皆さんの範囲内で使わな「使うか!」」
大量殺戮に快楽を見出す人間かと憤慨するアル。しかし、傍目から見たらその装備のえげつなさは先ほどアルが言ったそれと同等にぶっ飛んでいる。
「これは開戦した少し後にルーベル氏族に叩き込むんです。どうせ、マーガとかいう魔法使いが迎撃してくるはずですし、少しでも矢傷負わせて戦闘を有利に進めるんですよ」
「アルのそういう戦略的に突き詰めすぎて人道からちょっと足を踏み外しかけてるところ、僕にない狂気を感じるんですが」
「死ぬときはコクピット。自爆はロマンだからと自爆装置を取り付けようとするシルエットナイトキチに言われたくないですね」
「……止めましょう。お互い頭が痛くなるだけです。ですが、これは巨人達の問いですので援護射撃は程々に」
「分かってます。パールさんから問いの順番を聞いてますから、最初の投槍合戦の際に2発打ち込んで地上と合流します」
五十歩百歩な言い合いは結局『子供どころか前世から知っていることを言い合っても時間の無駄だった』という痛み分けな結果に終わり、
「パールから伝えておいて欲しいといわれたのですが、トイボックスの頭部についてるあの眼球水晶。取り外した方が良いかもしれません」
「え、なんでですか?」
遠距離装備のクレヤボヤンスを除く、頭部の眼球水晶達は
「いえ、なんでも……アストラガリの中で眼の数を偽るのは"
「へぇー、でも今更直す時間もないのでこのままで行きますよ」
アルの反応に、エルはさも分かりきった表情で『確かに伝えました』と言って来る。
アル──鞍馬は前世からそうだった。馬鹿にされるといった弱みや、やっかみになりそうな行動に気をつけるより、『これをした方が予算も工期も短くすんで事故になりづらいし、休みも取りやすい』とあえて鉄火場に突っ込んでいく。
そのために入社当時は扱いにくい人間と言うことで倉田と組むことになったのだが、それも『事故による手直しで生じるデスマーチ』が理由だと認識が深まれば彼は途端に扱いやすい人物となった。
今回も、『どうせ自分が馬鹿にされるのと戦いの早期決着辺りを天秤にかけたのだろう』と予想したエルは未だに治らないアルの持つ悪癖の1つに辟易とした様子でカササギに乗り込もうとする。
「はいはい、精々馬鹿にされてください」
「勝手に馬鹿にして手を抜いてもらったらやりやすいですからね。あ、あと…………いや、なんでもないです」
何かを言いたげにするアルに振り返るが、なんでもないと言いなおした彼にエルは不思議そうな顔をしながらカササギに乗り込むとそのままアサマを後にする。
徐々に小さくなっていくカササギの後姿をじっと見ながら、アルは『この計画は言ったら絶対止められますからね』とひとりごちながら残った作業がないかの指差し確認をしていった。
***
アルがイズモと合流した次の日。岩石が疎らに転がる『ドクトリナ・デ・シーバ』と呼ばれる場所では血みどろの戦いが行われていた。
そんな地上の様子を『うわぁ』と引き気味で見ていた
「まずは合図」
トイボックス・ハーミットに右腕に装備した巨大な弓を前に出す。
これにも
試射はしていないが、弓が耐え切れずに壊れたら投げれば問題ないだろうという気位でアルはトイボックス・ハーミットに弓の弦を強く弾かせた。
ベェン
まるで楽器を弾いたような音色だが、人の身からすればかなりの騒音が周囲に響く。そして、耳からその音の残響が終わった頃。
ベェン
弦がまた鳴らされる。
2度目ともなると聞き間違いではないとこちらに向かって指差す巨人の姿がクレヤボヤンスからの映像で把握できたアルは、『警告は十分』と踏んで船倉から上げられた台車の
「ゲイ・ボルグ発射準備」
ぎりぎりと
弓の弦を鳴らす行為は日本では邪気を祓うという名目で行われる儀式である。だが、いくら兄から『雑食系オタク』と評されているアルでもそんなニッチな知識は未搭載だった。
ただ、何の因果か
そして、謎の音に警戒し出した彼らの目の前で──弾けた。
認識共有および、散弾での先制攻撃だべ回
トイボックス・ハーミット(陸戦仕様)
脚部の大型マギウスジェットスラスタや空戦で使用する方向転換用の小型マギウスジェットスラスタを取り外し、胸部装甲付近に生存率を上げる装甲板を取り付けた近接攻撃に特化した機体。
サブアームにも武器やシルエットアームズを積めるが、フロイドの強襲用オプションワークスとの合体をスムーズに行うために何も装備していない。
ゲイ・ボルグ
アルが村で作った散弾をばら撒くミッシレジャベリン。今回は弓を用いたが、投槍でも対応は可能。(ちなみに弓のコードネームは無し)
マジックダガー
燃費が劣悪だったマジックサーベルの威力やサイズを縮小化することで、森林地帯でも取り回しやすくて燃費も改善された武器へと改良されたもの。
威力が低いといっても、カルバリンを刃状に変更したものなので威力は良い方にお察し。
前腕部
ライトニングフレイルがくっついた前腕部の予備パーツを改良して作り出した謎の武器。左右に溝が掘られており、その奥にはなにやら金属質の物が鈍く光っている。
このことについてアルは『くろがね しろ』と謎のフレーズを口ずさみながらはぐらかす姿が確認されている。