銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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評価ありがとうございます。お気に入りも2000をめでたく超えたので、また何か・・・なにか・・・考えてるだけです


119話

 青天の霹靂と言う言葉がある。青く晴れた空に突然発生した雷が由来で、思いがけない突発的なことに使われる表現だ。

 今回、ルーベル氏族を襲ったアサマ──厳密にはその甲板に乗ったトイボックス・ハーミットから放たれた魔導飛槍(ミッシレジャベリン)はルーベル氏族にとってはまさに晴天の霹靂と言う他なかった。というのも、巨人族(アストラガリ)同士の投槍の最中にまさか、巨人族(アストラガリ)以外の者から攻撃を受けるとは毛頭思ってもいなかったからである。

 

「盾を構えろー! マーガはマギアを!」

 

 だが、事前に弦楽器のようにかき鳴らされた音で飛空船(レビテートシップ)側に注意を向けていた5眼位の偽王(フィクタス・レックス)。ルーベル氏族の長であり、巨人族(アストラガリ)の王を自称する屈強な体躯の巨人が指示を出すと、戦士や魔導師(マーガ)は水が流れるような柔軟さで陣の中を駆け巡った。

 戦士達が音が鳴った方向に合わせて頑丈な木の幹に金属で補強した大型の盾を構え、盾や戦士の陰に隠れた魔導師(マーガ)が大気系の魔法(マギア)を用いて迎撃準備を整える。

 それは、未知の攻撃に対して唯一取ることができた完全な防御体勢で、巨人族(アストラガリ)の投槍なら数人ほど不運な犠牲が起こるぐらいで他は無傷にやり過ごすことが出来る巨人族(アストラガリ)にとって万全の備えであった。

 

 しかし、その数秒後。彼らの前で唐突に弾けた魔導飛槍(ミッシレジャベリン)から放たれた大小様々な大きさの破片は、魔導飛槍(ミッシレジャベリン)本体に仕込まれた爆炎魔法によって生じた衝撃波も手伝ってかルーベル士族の構えていた陣地全体に降り注いだ。爆心地から離れるごとに威力も減衰し、陣の外縁部は金属や板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の小さな破片が頭を小突く程度で済むのだが──。

 

「ぎゃっ!」

 

「ガッ」

 

「助"け……眼"が!」

 

 ある者はいくつもの金属の破片が身体に食い込んだことで悲痛な声を上げ、またある者は眼や心臓といった致命傷になりうる箇所に破片が突き刺さっては次々と絶命していく。ただ、これらの被害は盾を持たない戦士のみの惨状で、盾持ちやその後ろに隠れた魔導師(マーガ)達は些か状況が異なる。

 

「マギアを再度唱えよ!」

 

 魔導師(マーガ)達から放たれた魔法(マギア)は彼らの前で大気の壁と成す。高密度の大気によって大体の破片は明後日の方向へ吹き飛ぶが、破片群の中には外装硬化(ハードスキン)紋章術式(エンブレム・グラフ)がビッシリと刻み込まれた大質量の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の存在もあった。

 事前に魔力をたっぷりと補給された板状結晶筋肉(クリスタルプレート)は自らを硬くすると、自身の進行方向に居る巨人達に牙を向ける。頑強かつ大質量の破片は巨人が持つような大盾であっても到底防ぎきることは叶わず、盾ごと戦士が背後で守られている魔導師(マーガ)ごと貫かれたり、戦線に立てれないほどの負傷を負った者が地面に蹲ったりと陣の中は一瞬の内に地獄に変わった。

 

「くっ……。これでは問いの返しが出来ぬではないか。無作法者めが」

 

 5眼位の持つ並外れた硬度の皮膚が多少裂かれたぐらいで負傷らしい負傷はなかった偽王は周囲の惨状に小さく舌打ちをする。

 だが、幸運なことに陣内に居た大半は戦士や勇者(フォルティッシモス)の従者である者達が多かった。先ほどの投槍合戦に向かった彼らはそろそろ魔導師(マーガ)の精神力を回復させるためにここまで後退してくる。そうすれば、問いの慣わしとして投槍や魔法(マギア)を持って返答に出ることも可能だ。視線の先から聞こえてくる大量の足音と氏族の声に偽王は少々口の端を吊り上げながら空からの乱入者であるアサマを見つめる──が。

 

「ゲイ・ボルク。2射目、発射」

 

 無慈悲な2射目が陣地を再び蹂躙する。ちょうど帰ってきた魔導師(マーガ)や戦士は野性的な反応で攻撃に対応しようとするが、投槍を投げていた戦士は身軽さを重視した装備しか纏っておらず、魔導師(マーガ)も満足な休息を取っていない。

 凶槍が、そしてそこから放たれる無数の破片が先ほどと同じ様子で陣地内に飛散する。その結果はお察しである。

 

「集まれ! ……おのれぇ、問いを一方から投げかけるとは!」

 

 それでも生き残ったルーベル氏族を纏めつつ、偽王はアサマを睨んだ。

 巨人族(アストラガリ)のいう『問い』の方法は多種多様に渡るが、大抵は問いを投げかけて相手からも投げかけられるという形を取っている。

 なので、一方的な蹂躙というものは、ルーベル氏族が行った穢れの獣(クレトヴァスティア)をけしかけるといった行為や、戦闘という問いで相手が眼上の場合といったどちらもかなり希少なケースしか存在しない。

 ゆえに、アルの行ったような攻撃が届かない空から広範囲を一方的に攻撃するという手段は、いわば『一方的に問いを投げかけますが、君達の反論は一切応じません』というかなり……というか、巨人族(アストラガリ)の氏族でこんなことを言う巨人が居たら粛清されかねないレベルの非常識な行動だった。

 

 そんな非常識さにすっかりご立腹な偽王は前線を押し上げようと武器を担ぎ、供回りを募って出撃する。未だ青筋が浮かんでいることからその怒りようは推して知るべしだが、当の本人──アルはと言うと。

 

「結構倒せましたね」

 

「あ、クーニッツ中隊長の機体発見。下ろします」

 

 フロイドの強襲用追加装備(オプションワークス)で優雅な空の旅に興じていた。円を描くような軌道でルーベル氏族の陣地の真上を通りつつ戦果を確認した彼らは、連合軍が集まっている部分の外縁に特徴的な紅の装甲を纏った幻晶騎士(シルエットナイト)──グゥエラリンデがじっと突っ立っていることに気づく。魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の音を轟かせながらゆっくりと降りてくるトイボックス・ハーミットの存在にディートリヒが気付くと、グゥエラリンデの首がトイボックス・ハーミットのほうに向けられる。

 

「アルフォンスか。団長から聞いていたけど、もう船での用は終わったのかい?」

 

「えぇ、敵の背後は大打撃です。前線の状況は?」

 

「伝え聞く限りではこちらが優勢のはずだよ」

 

 攻撃した所感を伝えたアルがディートリヒに前線の戦況を問う。すると、彼は今まで聞いてきた戦場の音や声を総括して導き出した情報を伝えてきた。

 どうやら、投槍と魔法(マギア)による遠距離での問いはエルがお世話になっているカエルレウス氏族の魔導兵装(シルエットアームズ)部隊──エル曰く、銀鳳騎士団の第4中隊の活躍によって勝利。魔導師(マーガ)を後方に撤退させることに成功したらしい。

 

「ナブって子供……子供で良いのかね。その子が叫んでたからマーガってやつらを抑えて初戦はこちらが勝ったことは間違いない」

 

「ディーさん、それっていつごろですか?」

 

「うん? …………君が来る前だから上から変な音鳴らされる前だね。あれは君の仕業だろう?」

 

 もはや『多分』という言葉すら不要な問いかけには一切答えず、アルは時系列から相手の被害を導き出そうと長考の構えと取る。弦鳴りの前に前線に居た魔導師(マーガ)が後方に身を寄せ、その後にアルが件の槍を発射したとする。この2つの事象はもちろん一番上手くいった場合に寄るが、仮にその予想が当たっているとなると──。

 

「一番上手くいっていると、敵のマーガ集団は大打撃を負ってるかも」

 

「君の言葉はいつも唐突だけど、なぜか妙な説得力があるからね。とりあえず、なんでか聞かせてくれるかい?」

 

 謎の手ごたえを確信するアルはディートリヒに広範囲攻撃用に改造した魔導飛槍(ミッシレジャベリン)の概要を話す。無論、戦場なので簡潔に話したのだが、トイボックス・ハーミットの拡声器からアルの言葉が漏れるごとにディートリヒは口から『はぁ』だの、『えぇ』だのといった話をまともに聞くのが馬鹿らしいとアンニュイな反応を示していった。

 

「つまり、敵のマーガが撤退した時と同じタイミングで後方にその──拠点作成の合間に作った破片で敵集団に打撃を与える物を投射して大勢の巨人を戦闘不能にしたと?」

 

「有り体に言えばそうですね」

 

「エドガーはなにをしていたんだい……。まぁ、聞かなかったことにしよう」

 

 拠点作成についていった生真面目な同僚の不手際だと嫌味をいうディートリヒ。しかし、仮に逆の立場だとしたら自分は目の前の副団長を御することが出来るのだろうかと自問自答する。しかし、すぐさま無理だと判断した彼は『エドガーだって頑張ってこの結果なんだな』と手のひらを高速回転した労いの言葉を胸に秘めながら、アルが行ったかなり非常識な行動について聞かなかったことにすると改めて戦場を見渡す。

 

「どうやら話し込みすぎたらしいね。かなり危うい状況になってる」

 

 戦場は槍と魔法(マギア)による遠距離合戦から、すっかり巨木や岩石から作られた武器を主体とした近接戦闘による乱戦へと姿を変えていた。それぞれが雄叫びを上げながら近場の敵目掛けて武器を振るい、打ち倒された巨人の血で大地は見る見るうちに赤くなっている現場にディートリヒは僅かに眉を寄せる。

 

 巨木や岩石、倒した魔獣の素材をふんだんに使った昔ながらの武器で戦う連合とは違い、ルーベル氏族は『金属』を用いていた。神話などで語り継がれる伝説の武器は脆い素材でしか武器が作れなかった時代における金属製の武器ではないかという説がアルの前世にあったように、金属を伴う武器はそれだけで耐久性や攻撃力が跳ね上がる。

 さらにはこれらの金属は小鬼族(ゴブリン)達が脈々と受け継いできた幻晶騎士(シルエットナイト)の技術が使用されていることから、その性能は折り紙つきである。

 

 ただ、武器の性能が良くても使い手が悪ければ負けてしまうことは多々ある。──が、必ずしも武器の性能は戦いの優劣に一切関係しないかといわれれば、否である。

 金属製のオノが巨木で出来た棍棒ごと巨人に致命傷を合わせ、金属の肩当に当たった魔獣由来の武器の刃先が砕ける。そんな惨状が戦場の至る所で見え、連合の巨人族(アストラガリ)は1人、また1人と倒れていく。

 

「装備の差が違いすぎる」

 

「今こそ出番だね。副団長は……面倒だし、このままご同行願うよ」

 

「じゃあ僕は第2中隊の臨時隊員ということで」

 

「副団長が部下とか使い辛いことこの上ないから、それは御免だよ」

 

 それぞれが軽口を叩きながらも操縦席内では笑みを浮かべると機体を前に進ませる。それぞれ異なる色の布を身につけた巨人の隙間を縫い、一際大きく開かれた空間に彼らはたどり付いた。目の前にはグゥエラリンデの装甲とよく似た赤色の布を巻いた一団が、彼らを包囲するように武器を構える巨人の集団から唐突に現れたグゥエラリンデとトイボックス・ハーミットの姿を認めると臨戦態勢を取る。

 

「我ら以外に赤を使うなど……。それに、なんだあの眼は」

 

 片や全身ルーベル氏族と同じ赤が塗られた金属の鎧を纏う戦士、片や蒼の鎧の各所に鉛色の装甲を貼り付けた重戦士。しかも、重戦士の眼は自分達の王が持つ5つよりも多いときた。

 眼の数という決して無視できない情報に数瞬ほどルーベル氏族の進行が止まった──かに見えたが。

 

「ひるむな! 眼が多かろうが我らの方が数は上! アルゴスの元へ還してしまえば問題ない!」

 

 ルーベル氏族の王よりも眼が多い戦士が目の前に居るとなれば、ルーベル氏族の戦士が行うことはただ1つ。目の前の王となりうる存在と障害を駆逐するのみであった。

 それぞれの武器を構えながら戦士達は目の前の謎の存在目掛けて突進する。ただ、彼らの突進よりも速く動いた者達が居る。言わずと知れたディートリヒとアルだ。

 

「そっちは任せたよ」

 

「終わり次第、増援を」

 

 口数少なく彼らは早速二手に分かれる。

 アルの方はトイボックス・ハーミットの腰に装着された短剣を片手で1振り抜き出すと、最初に向かってきた3眼位の巨人に走り寄る。その行動に戦士は笑みを浮かべながら雄叫びと共に金属で補強された棍棒を上段から振り下ろすが、僅かな動きで戦士の一撃をかわしたトイボックス・ハーミットは蛇のように柔軟な動きで相手の背に回る。

 

「一人」

 

 短剣を装備していない腕で巨人の首を絞め、本格的に巨人が暴れる前にもう片腕に保持している短剣で巨人の脇腹付近を刺突する。

 1回──2回──3回。神経が集中している箇所を続けて刺すごとに巨人が苦悶の声を上げながら暴れるが、綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の膂力と首を締められていることによる呼吸困難によって満足に抵抗出来ずにいた。

 

炎よ、敵を討て(イグニアーデレ)!」

 

「おっと」

 

 その時、マーガの手から放たれた炎の塊がトイボックス・ハーミットに飛来する。だが、アルは操縦桿を動かすと、その場でトイボックス・ハーミットの向きを調整して飛んできた炎に先ほど捕らえた3眼位の巨人の身体をぶつける。

 ただでさえ出血が止まらない満身創痍な身体に魔法(マギア)を食らった巨人は、痛いのやら熱いのやら分からずにその場を転がりながら意味の分からない絶叫を上げる。

 すると、その絶叫に魔法(マギア)を打ち出した魔導師(マーガ)の集中力は完全に削がれたらしく、いつまで経っても次の魔法(マギア)を練り上げることが出来ずに困惑していた。そんな隙だらけの反応にアルは一際意地の悪そうな笑みを浮かべると、いまだ燃え続ける巨人を前に突き出しながら魔導師(マーガ)目掛けて突進する。

 

「なっ! 既に戦えぬ者を盾にするとは卑怯な真似を!」

 

「卑怯で結構。そちらもゴブリンの皆さんに作ってもらった装備で連合軍を鎧袖一触にしたんですからお合いこですよ」

 

 4つの目を大きく見開く魔導師(マーガ)の頭頂部に短剣を突き刺し、ついに動かなくなった3眼位という名の肉盾を放り投げたアルは淡々とした口調で次の巨人に切りかかる。武器を握る指、首筋、手首と戦闘不能に陥りやすい部位を集中的に狙い、時には目の前の相手から視線を外して別の巨人相手に切りかかるという虚を突く動きをしながらアルは戦士を翻弄していく。

 

 そんなトイボックス・ハーミットが飛んだり跳ねる姿を視界の端に捉えながら、ディートリヒは一刀の下に巨人を切り伏せていた。アルが危なくなればいつでもフォローに入ろうとしていた彼だが、イカルガとエルとはまた異なる強さに『近接苦手じゃなかったのかい』とひとりごつ。そんな彼が波のように押し寄せる敵を順調に戦士を屠っていると、彼の前に他の戦士比べるといささか装備が豪奢な1人の戦士が現れた。

 

「フハハ! 我らと同じ赤を纏っているだけあって、中々の強者ではないか! 良かろう、この銀槍の勇者である我が直々に相手をしてくれる!」

 

 笑いながら登場した巨人の4つの目が一斉にグゥエラリンデを捉え、背中に扇状に装備された()()()()()()()の内の1本を抜き取った巨人は『いざ!』という気合の声と共に構える。

 そんな一触即発の空気だったが、槍の色や形状に見覚えがありすぎるディートリヒは、グゥエラリンデの手を開きながら前に突き出して『待った』と宣言する。

 

「フハハハハ! この神々しい銀の槍に恐れを為したか! 無理もないが、これも問いである!」

 

「ああ、うん。確かに神々しいが…………それ、どこで見つけたんだい?」

 

「これは狩りに赴いた日に拾ったものだ。妙に硬くて取り回しやすい良い感じの槍でな。この神々しい輝きと棍棒よりも優れた武器を持って我はフォルティッシモスに──や、やらんぞ!?」

 

「いいや、いらない」

 

 話のテンポ的に剣だらけ(どこかのバカ)を思い出したディートリヒは、『相手するのこういう手合いばかりだね』と自身の境遇に若干悲嘆的になるが、勇者(フォルティッシモス)と名乗る戦士から漏れるピリついた濃密な戦いの空気にいつでも機体を動かせるよう操縦桿を握る手の力を脱力させる。

 

「いささか奇怪な姿だが、名乗れ」

 

「それがアストラガリの流儀かい? じゃあ……我こそは銀鳳騎士団が第2中隊長、ディートリヒ・クーニッツ」

 

「その物言い……、ゴブリンか?」

 

「その呼び方は止めてくれたまえ、私達は人間だ」

 

「ハッ、矮小な存在がよくも大きな眼を出来たものだ。良かろう、慈悲をこめてこの槍で忠罰を与えてくれる」

 

 相手が自分よりもかなり格下の存在であることに少々落胆した勇者(フォルティッシモス)は気合の声と共に槍をグゥエラリンデに突き出した。その穂先は巨人にとって致命傷とも呼べる左胸辺り──心臓の位置を的確に捉えるが、ディートリヒは鐙を規則的に踏むことでグゥエラリンデは流れるような体捌きでその一撃から脱する。

 

「なっ!」

 

「その槍は特別製でね、こうやって使うんだよ!」

 

 攻撃が空ぶったことでたたら踏む勇者(フォルティッシモス)の手を包む込みように銀の槍──魔導飛槍(ミッシレジャベリン)を掴んだディートリヒは大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)から幾度も行ってきた魔法術式(スクリプト)とグゥエラリンデの魔力を流し込む。すると、未だ紋章術式(エンブレム・グラフ)が壊れていなかったのか、魔力と魔法術式(スクリプト)を受け取った魔導飛槍(ミッシレジャベリン)が石突の辺りから凄まじい爆音と共に炎を吹き出す。

 

「ぬおぉ!? あ"、熱"っ!」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)とは違い、巨人族(アストラガリ)は生身だ。噴出す炎がじわじわと魔導飛槍(ミッシレジャベリン)全体を熱していき、やがてその熱に耐え切れなくなった勇者(フォルティッシモス)がグゥエラリンデの手を振り払いながら魔導飛槍(ミッシレジャベリン)から手を離す。軛を失った銀の槍は推進力と己の持つ重心の赴くままに暴れた軌道を取るが、やがて身近な大木に深々と突き刺さった。

 

「ふむ、他の巨人に刺さったら面白かったんだがね。……せっかくだからその背中の予備も景気よく飛ばしてみるとしよう。さぁ、次の槍を構えたまえ」

 

「ゴブリン風情が調子に乗るな!」

 

 あっさり1本の武器がお釈迦になったことに憤慨した勇者(フォルティッシモス)は銀の槍を1本背中から取り出し、両手でぶんぶん振り回してからグゥエラリンデに突っ込んでいく。

 正直、長物を振り回す意味はあまりないのだがその行動によって勢い付いたらしく、刺突、なぎ払いと様々な攻撃パターンをもって目の前の小鬼族(ゴブリン)が作り出した小賢しい物体を倒そうとするが、グゥエラリンデはなにを思ったのか両手に装備した2本の剣の内の1本を腰に佩きなおす。

 

 正眼に構えたグゥエラリンデの操縦席から勇者(フォルティッシモス)の攻撃を観察したディートリヒは、大降りの攻撃が幻像投影機(ホロモニター)に映った途端に操縦桿と鐙、そして単純な魔法術式(スクリプト)をグゥエラリンデに与える。魔力と共にそれらを受け取った機体は、あらん限りの膂力を持って下から掬い上げるように槍の穂先を強かに打つ。

 金属同士がぶつかるけたたましい音が周囲に響き、槍は勇者(フォルティッシモス)の手から離れて縦方向に回転しながら空高く舞う。武器の喪失にすぐさま勇者(フォルティッシモス)は背中の予備を取り出そうと腕を後ろに向けるが、彼の目の前にはかち上げた体勢──上段で構えるグゥエラリンデの姿が見えた。

 

「待っ──」

 

「君こそ、フレメヴィーラ王国の騎士をナメ過ぎだよ」

 

 流麗かつ力強い一閃が勇者(フォルティッシモス)の体を切り裂き、命乞いの言葉を言い終わる前に勇者(フォルティッシモス)の命が潰えることとなった。剣を一振りしながら付着した血液を払い落とし、勇者(フォルティッシモス)が倒れたことで僅かな混乱状態となっているルーベル氏族を見やると多目的投擲筒(ランチャー)を起動すると剣を掲げた。

 

「さて、副団長閣下の命を遂行するとしようかね」

 

 赤い信号法弾が空の一画を染め上げると共に連合軍の後方で待機していた1隻の飛空船(レビテートシップ)が動き出した。グゥエラリンデやトイボックス・ハーミット、突出してきたルーベル氏族に被さるように上空で停止した飛空船(レビテートシップ)にその場に居た巨人族(アストラガリ)はすべからく動揺するが、その致命的過ぎる隙をあえて見逃したディートリヒは声高に叫ぶ。

 

「さぁ、我らの専門分野だ。派手に行こうじゃないか」

 

 拡声器を通して増強された声に呼応し、飛空船(レビテートシップ)から次々と幻晶騎士(シルエットナイト)が降下してくる。降下用追加装甲(ヘイローコート)によって戦場をぐるぐる回りながらも目的地であるグゥエラリンデ周辺で武器を構えている『赤』を標的に法撃を撃ち放つその姿は空中から獲物を仕留める隼のようであった。

 

「ディータイチョ、なにど真ん中で美味しいところ掻っ攫ってるんですか!」

 

「うひょー、より取り見取りじゃん! タイチョ、敵はどれっすか?」

 

 降下地点の掃除が終わったカルディトーレは次々と地面に降り立つと、即座にグゥエラリンデを中心に1つの陣を形成する。守備を重んじる第1中隊とは違い、先頭が穿った穴を随伴機がこじ開けるという攻撃的な陣。それすなわち──銀鳳騎士団が完全に戦闘開始した合図である。

 

「そういえば副団長は? たしか、タイチョの近くに下りてきてたような」

 

「フロイドのオプションワークスが後退して来たときには居なかったぞ」

 

 いざ戦闘開始──とはいわず、先に降下していたアルの所在がつかめないことに疑問を持つ中隊が『そういえば……』と存在をころっと忘れていたディートリヒと共に周囲を捜索する。

 

「あ、あそこ!」

 

「え、マジか」

 

 驚きの声に見つけた隊員の方向を向いた彼らが見たもの。それは、トイボックス・ハーミットの腕部に付けた盾に巨人の持つ簡素な斧が突き刺さる瞬間だった。

 盾にめり込んだ斧を引き抜こうと引っ張る巨人に対し、トイボックス・ハーミットは身体強化の範囲を狭めたのかあっさりと盾を固定していた基部が引きちぎれる。突然、機体から簡単に離れた盾と後方に引っ張ろうとした自らの腕に釣られて転びそうになった巨人は足で踏ん張りながら体勢を整えるが、トイボックス・ハーミットの頭部から放たれた法弾がまともに何発も着弾したことよって力なく大地に沈む。

 

「副団長、近接での戦い得意じゃないとか言ってなかったか?」

 

「いや、たしかに苦手だったはずだぞ。俺と戦ったときもぼっこぼこにしたし」

 

「副団長相手になにしてるんだい!? って、アルフォンス! 後ろ!」

 

 自分が見ていないところでとんでもないことをやっていた隊員に事実を問い詰めようとしていたディートリヒの声が走る。トイボックス・ハーミットの後ろから1つ目の巨人が機体を羽交い絞めにしてきたのだ。

 暴れるトイボックス・ハーミットの前に好機と見た2つ目の巨人が棍棒を振り上げながら勢いよく突進していく様子に、ディートリヒはすぐさまグゥエラリンデの両手に剣を構えさせる。

 

「小隊はついてきたまえ! 副団長の援護に行くぞ!」

 

 指示に呼応した数機のカルディトーレと共に法撃で牽制しながら走るグゥエラリンデ。しかし、少し離れて戦っていたこともあってか巨人がトイボックス・ハーミットに攻撃を加える前に小隊がたどり着くには距離が遠い。かといって法撃で足止めしようにも、足場が悪い中を全力疾走している状態で法撃を正確に相手にぶつけるのはエース集団であるディートリヒや第2中隊員でも厳しかった。

 

 どうにかできないかと手段を模索する彼らの幻像投影機(ホロモニター)には、拘束されたトイボックス・ハーミットの胸部装甲が開かれる様子が映し出される。中からはアルと思われる降下甲冑を纏った人物が銀線神経(シルバーナーヴ)を持ちながら姿を現し、目の前の巨人を前になにを思ったのかじっと固まっている。

 

「アルフォンス! はやく脱出したまえ!」

 

 お世辞にも平らではない荒野に脚を取られながらもさらに走るスピードを上げるグゥエラリンデ。だが、既に巨人は棍棒を大きく振り下ろすのみで簡単にアルをひき肉にすることが出来るほど近づいている。

 誰もが『間に合わない』と思ったその時。降下甲冑の腰から件のガンライクロッドを取り出したアルは銃身の位置をぴたりと巨人の目に定めると引き金を引いた。銃身からは基礎術式であるファイアーボールとは比べ物に成らないほど巨大で高火力な火の玉が一瞬で顕現したかに思えば、そのまま巨人の左目に飛んでいく。

 

「があぁぁぁ!」

 

 左目に炎の球を食らった巨人は苦悶の叫びを上げながら棍棒を取り落とし、焼け爛れて白くなった目をかばうようにうずくまる。そんな悲惨な同胞の姿にトイボックス・ハーミットを取り押さえていた1つ目の巨人は微動だにできず固まっていた。

 しかし、先ほどの攻撃すら生ぬるいとアルは次なる攻勢に出る。降下甲冑で掴んでいた銀線神経(シルバーナーヴ)を伝って魔法術式(スクリプト)を流すと、トイボックス・ハーミットは自らの首をぐるんと180度回転させる。

 人間なら首がねじ切れて事切れるだろうが、幻晶騎士(シルエットナイト)はロボットだ。何の異常もなく回転し終わった頭部は目の前の異形に驚いた巨人のたった1つしかない大きな目に向かって頭部兵装を叩き込んだ。

 

「バ、バケ"モ"n」

 

 他と比べると威力は低いが戦術級魔法(オーバード・スペル)クラスの法弾の雨に何度も晒された巨人がついに脱力して地に伏せる。絶体絶命の瞬間からいざ蓋を開けてみれば襲ってきた奴らは全て返り討ちという結果に、救援に来たディートリヒ達の走る速度が徐々に鈍る。

 

「あ、救援ありがとうございます。2人以上なら危ない所でした」

 

「ああ、うん。そういう奴だったね、君は」

 

 あっけらかんと礼を言いながら機体に戻っていく彼の姿に少々どうでもよくなりつつあったディートリヒだったが、ふとどちらを攻撃すればよいのか伝えることを失念していたことを思い出した。

 あの自他共に脳筋を誉としている連中のことだ。手当たり次第襲い掛かるという蛮行は犯していないだろうし、ディートリヒは多目的投擲筒(ランチャー)で一応使えていたはずだ。連合軍側も自分達のところから出てきたから、怪しんで手を出されることはない……と思う。

 しかし、目の前でトイボックス・ハーミットの首を通常位置に戻している副団長曰く、『常に最悪を想定するように』という教えからせっかく結んだ連合軍の縁に傷がつくと想像したアルや付いてきた小隊を急かして分かれた小隊と合流する。

 

「あ、タイチョ。良いところに」

 

「こいつら、本格的に敵認定していいんですかね? "赤"だし、襲ってきたから捕縛したんすけど」

 

「き、きさま"ら''ぁ! 「はーい、おとなしくしてろよー」」

 

 赤い装飾や装備を身につけた何体もの巨人の躯が大地を赤く染め上げるその中心で、一体の巨人がカルディトーレに関節技を決められていた。

 既に事が起こった後に加えてなぜか1体捕縛していると言う現状に目を丸くするディートリヒだったが、1機のカルディトーレ──小隊の隊長が事情を報告しにグゥエラリンデに近づいてきた。

 

 なんでも、ディートリヒが別れた後にこちらの小隊もどっちが敵なのかという問題に直面したらしい。

 ディートリヒからの信号法弾は赤だったので、一応は赤と対峙しながら敵と味方の区別についてあーでもない、こーでもないと戦場にも拘らず何分か話し合っていた小隊。そんな敵──さらにいえば小鬼族(ゴブリン)の扱っている幻獣騎士(ミスティックナイト)とよく似た物体から小鬼族(ゴブリン)が乗っているのだろうと叫んだ巨人の声が燃料となり、ついにルーベル氏族の我慢の限界が来たらしい。彼らは猛然と小隊に襲い掛かったのだ。

 

 常日頃から副団長に『隊長は自分達がやっていることを周囲に宣言し、証言してくれる味方を作らないと駄目!』と口すっぱく言われていたことを思い出した小隊長は、『襲われたから防衛を行う』という宣言を一応しながら小隊に迎撃を命じる。

 

 かくして赤と紅がぶつかった。……かに見えた。

 しかし、いざ蓋を開けてみれば、背面武装(バックウェポン)から放たれる法撃はそれだけで巨人を倒しうる威力を持ち、手に持つ剣や槍は巨人が身に纏っていた鎧を易々と切り裂き、穿っていく。

 まるで先ほどまで連合軍の装備を相手にしていた自分達のようにあしらわれるルーベル氏族。だが、そんな小隊の前に勇者(フォルティッシモス)と名乗る戦士が現れた。

 

「それが、彼かい?」

 

「こいつを捕えたら攻撃してこなくなったので、多分そのふぉる……フォル? なんとかでしょ」

 

「フォルティッシモスだったかな? いまさらだが、我々はあれらのような赤の装備をしている敵を倒せば良い」

 

 未だに言い慣れない言葉で中途半端に締めくくった小隊長の報告に、ディートリヒは『ひとまず同士討ちしなくて良かった』と改めて敵と味方の識別について連携をすると、目の前でギャンギャン喚いている勇者(フォルティッシモス)の処遇について頭を悩ませる。ひとまず解放してから向こうのしきたりに従って決闘でもしようかと考えていた矢先、ディートリヒは鐙をけりながら拡声器にがなりたてる。

 

「散会!」

 

 一言のみという短い指示だったが第2中隊とトイボックス・ハーミットはすぐさまその場から退避。最後に巨人の関節を極めていたカルディトーレが中隊と合流するや否や、先ほどまで中隊が居た箇所に炎の塊が着弾する。周囲の地面ごと躯は燃え、一気に『何か』を焼いた独特の臭いが戦場の一画に広がる。

 

「法撃……、いやマギアというのだったかな? 大方、押し返されてご立腹といったところかな? 全員無事かい?」

 

「タイチョ、副団長が居ないんだけど」

 

「タイチョ、あいつら味方を巻き添えにしてましたよ」

 

「ふん、小鬼族のまがい物なんぞに遅れを取るフォルティッシモスなぞ我が氏族に必要なし。ゆえに処刑してなにが悪い」

 

 損害報告やら味方ごと魔法を放った感想やらと第2中隊がそれぞれ騒いでいるところに突如としてとある声が割り込まれる。その方向を見ると、明らかに他の巨人とは大きさも眼の数も異なる巨人が現れた。

 5眼位の偽王(フィクタス・レックス)。ルーベル氏族を束ね、同時に小鬼族(ゴブリン)を隷属させる元凶の出現に第2中隊は被害報告の詳細を纏めるのもそこそこに更なる攻撃に備えて身構えていた。

 

「クレトヴァスティアが現れぬばかりか、よもや我らの目に逆らうか。そのようなまがい物で百眼の眼に届く問いに参加するなぞ、痴れ者めが」

 

 小鬼族(ゴブリン)憎しと顔を歪める偽王が両手を上げる。すると、その陰に隠れていた装いの所々がドス黒く変色した4眼位の魔導師(マーガ)達が一斉に魔法を紡ぎ始めた。

 

「この問いが終わった暁には貴様らの氏族を一息に踏み潰してやるが……まずは貴様らからだ」

 

 偽王の両手から熱量の高い炎が顕現する。かのイカルガの銃装剣(ソーデッドカノン)と同等。否、それを凌ぎそうな圧倒的熱量を前にディートリヒは怖気づくことなく迎撃命令を発した。

 その声に背面武装(バックウェポン)を起動させることで応える第2中隊。その姿も不愉快だといわんばかりに顔を引きつらせた偽王は最高潮まで高まった魔法(マギア)を放とうとしたところで横合いから一筋の炎弾が着弾し、一陣の風が偽王の周りを駆け抜けた。

 

「ぬぅぅ! 何者だ!」

 

 冷や水どころか熱い炎を浴びせられた偽王は怒り狂うが、目の前の惨状に脳が氷点下まで一気に冷え込む。先ほどまで魔法(マギア)を紡いでいた魔導師(マーガ)の姿はなく、炎の煌々とした赤色ではなく鉄の臭いがした鈍い赤色が大地にばら撒かれている。連れて来た魔導師(マーガ)が全滅しているのだ。

 

「なにが……」

 

 考えるよりも早く偽王の体が動く。腕の硬度を上げて裏拳気味に振るうと、金属が砕ける甲高い音と共になにかの気配が遠ざかる。遠ざかった方向を見据えると、ルーベル氏族と第2中隊の間に2体の巨人が偽王を見据えていた。

 片方は偽王の良く知る()()()をつけた3眼位の巨人。もう片方は……9つの目を頭部に宿す自身寄りも王に近い巨人だった。

 

「我が名は! カエルレウス氏族が3眼位の勇者なり!」

 

「フレメヴィーラ王国、銀鳳騎士団所属。アルフォンス・エチェバルリア」

 

「返しぞこないに眼騙りがぁ! ゆるさんぞ!」

 

 本来ならば小鬼族(ゴブリン)由来の武器や穢れの獣(クレトヴァスティア)の力でとっくに問いは終わっていたはずである。しかし、穢れの獣(クレトヴァスティア)は来ず、小鬼族(ゴブリン)のまがい物が問いの場に現れたことで既に偽王が考える想定から大きく離れていた。

 そこに更なるイレギュラーが飛び込んできたことにより、ついに偽王は苛立ちを隠すことなく吼える。

 ボキューズ大森海を揺るがす、とてつもなく大きな問いの第2幕の火蓋が切って落とされた。




なぜなにナイツマ*人物紹介*
銀槍の勇者
 当作品のオリキャラで、銀色の槍(という名のミッシレジャベリン)を持つルーベル氏族の勇者。
 実は最近勇者になった勇者の中では新参者で、勇者となった経緯も原型を保っていた銀色に輝く槍をたまたま拾っただけである。
 『狩りはかなり上手なのにぱっとした戦歴がないやつがなんか拾ってきたし、問いも近いから勇者にして戦意向上しとこ』と大手な組織でよくある実力が伴っていない上司のような感じで勇者になってしまった彼だが、アストラガリの中では珍しい輝きを放つ銀の槍の硬度と拙いながらも長年培った戦闘能力のごり押しで戦の中を泳いでいた。
 だが、『これはイケるんじゃね?』と勢い付いて前線に飛び込んできたが、ディートリヒによって討たれる。
 つまり、銀鳳騎士団が悪い。
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