銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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122話

 一時は謎の音による頭痛で押し込まれていた船団も巨人達が地上から放った法撃や、突如空中で炸裂した謎の法撃によって当面の危機を脱した。トゥエディアーネは機敏な動きを取り戻し、連携できるように飛空船(レビテートシップ)の近くで陣を張り、船側は機銃や法撃戦仕様機(ウィザードスタイル)による火力を最大限活かすために移動を開始する最中、エルはカササギの鐙を押し込みながら一気に戦場を横断する。

 魔王の巨体を高速で通り過ぎ、彼はやがてイカルガと合流を果たした。

 

「すごい、さっきまでのイカルガの数倍以上のパワーが……」

 

「エル君、こっちの炉って通常炉だからそれは当たり前なんだけど」

 

 イカルガの現搭乗者であるアディに一言二言話し、セッテルンド大陸でおそらく初であろう『2機の幻晶騎士(シルエットナイト)による合体』を披露すると、エルは総魔力量や比例して跳ね上がったパワーに驚愕したような声を出す。

 ただ、アディが乗っているイカルガの心臓部は一般的な幻晶騎士(シルエットナイト)に使用されている物を2つ使用している。そこにカササギに備えられた元イカルガの炉である皇之心臓(ベヘモスハート)女皇之冠(クイーンズコロネット)が合わさればどうなるか──答えは火を見るより明らかだ。

 しかしながら、せっかくの『お約束』の場面にめぐり合ったのに行わないという無作法を許容する法律はエルに備わっているロボット魂に存在しない。アディの反論も右から左に通したエルは、満足げな顔を浮かべながら直接制御(フルコントロール)によって今のイカルガに掛けられた魔法術式(スクリプト)的な封印を解除。その圧倒的な魔力量をその身に滾らせた鬼神を呼び覚ます。

 

「そういえばエル君、さっきすごい法撃が打ちあがってきたんだけど。アル君まだ地上にいるの?」

 

「っ! アルは……機体ごと魔獣に貫かれて……」

 

「嘘でしょ……。嘘だよね? 嘘って言ってよ、エル君」

 

 地上付近を飛んでいた集団に轟炎の槍(ファルコネット)をお見舞いしながら、エルはアディの疑問に対して言い難そうに答える。小王(オベロン)を説得しようと試みたが、騙し討ちのような攻撃によって操縦席を守る装甲ごと貫かれた。はっきりとは言いたくないが、トイボックス・ハーミットに乗っている限りはどう想定しても死亡が確定している。

 それでもアディは先ほど見た法撃を根拠に未だアルが生きていることを力説し出した。

 

「でも! さっきの法撃は巨人の人達じゃ無理だよ! イカルガごと全部を吹き飛ばす突風……衝撃波も!」

 

「パールでしょう。彼女もアディと僕の弟子です。きっかけがあればやれるはず。……お願いですから希望を見せないでください」

 

 新たに空を我が物顔で飛翔しながら穢れの獣(クレトヴァスティア)に死を振りまいていくが、エルの心は一向に晴れない。そんな彼の心境も鑑みずに穢れの獣(クレトヴァスティア)達は統率された動きで体液弾を飛ばし、人間や幻晶騎士(シルエットナイト)にとって死の領域となり得る酸の雲(アシッドクラウド)を再び広げていく。

 だが、徐々にイカルガに迫ってくる酸の雲(アシッドクラウド)を見たエルは──薄い笑みを浮かべていた。

 

 雲は風に乗って移動するもの。ならば周囲の雲を消し飛ばしてしまえば良い。エルの発言と共にイカルガは全身に嵐を纏い始める。その気流に接触した酸の雲(アシッドクラウド)はイカルガを腐食させることが叶わず、次々と霧散していく。

 嵐の衣(ストームコート)。調査船団にとって死の象徴であった穢れを祓い去るカササギの新たな力であった。

 

 こうして新たに災厄を司る神の名前を関した名前がイカルガにつけられる。

『マガツイカルガ』。その登場によって、戦場という名の舞台は再び荒れに荒れる。

 しかし、そんな光景を地上から見ていた未だ生死確認がされていない死体(推測)はというと──。

 

***

 

「いやぁ、まさか合体するなんて思わなかったなぁ。っと、ストップ」

 

 魔導兵装(シルエットアームズ)を持った巨人を引き連れながら森を行軍していたアルは、歩く足をいきなり止めて後方にハンドサインを送る。事前に決めてあったのか、アルの送ったハンドサインは彼の後ろを歩いていた小魔導師(パールヴァ・マーガ)から順番に後ろの巨人達に伝播していき、やがて全体が停止するとアルはナブを同じくハンドサインで呼ぶ。

 

「どうしたの?」

 

「あれをシルエットアームズで排除してください」

 

 アルが指を指したのは穢れの獣(クレトヴァスティア)。その個体はマガツイカルガが空で暴れているにも拘らずに1匹で地上に降りていた。

 おそらく負傷したかで空に戻れなくなったのだろう。しかし、負傷していてもその脅威は変わらない。この場をやり過ごすよりも魔導兵装(シルエットアームズ)で攻撃を加え、酸の雲(アシッドクラウド)を消し去らねばいらない被害を被ってしまう恐れがあるので、アルは巨人の中で魔導兵装(シルエットアームズ)の扱いに長けるナブに穢れの獣(クレトヴァスティア)の排除を頼んだ。

 

「僕があの雲を排除するので、魔獣はお任せします」

 

 銃杖(ガンライクロッド)に込められた板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を交換しながらの頼みに、ナブは小さく頷くと魔導兵装(シルエットアームズ)の切っ先を穢れの獣(クレトヴァスティア)へ向けた。

 空では絶賛マガツイカルガが銃装剣(ソーデッドカノン)を振るいながら、いつの間に習得したのかヴィーヴィルの雷霆防幕(サンダリングカタラクト)を纏って暴れている。多少地上が騒々しくても気付かれないだろうと踏んだアルはナブに射撃指示を出した。

 

「当たれ!」

 

 ナブの魔導兵装(シルエットアームズ)から橙色の法弾が射出される。法弾は寸分違わず穢れの獣(クレトヴァスティア)の頭部に着弾し、体液を撒き散らしながら絶命した。その瞬間、飛び散った体液が揮発して白い雲が立ち上るが、アルが銃杖(ガンライクロッド)の引き金を引くとナブの持つ魔導兵装(シルエットアームズ)から放たれた法撃と同程度の炎弾が穢れの獣(クレトヴァスティア)の死骸に着弾する。

 軽い爆発の後に炎は瞬く間に穢れの獣(クレトヴァスティア)全体に燃え広がり、立ち上っていた酸の雲(アシッドクラウド)を無力化に成功。しかし、アルは念のために口の周りを布か何かで覆うように伝えてから再度前進を指示する。

 

 そのまま落伍した穢れの獣(クレトヴァスティア)を何匹か屠りつつ、彼らは徐々に巨大な物体に近づいていく。案の定と言うべきだろうか、他の幻晶騎士(シルエットナイト)とは隔絶したマガツイカルガの戦闘能力をまざまざと見せ付けられた小王(オベロン)の混乱状態にも似た大声が魔王の拡声器のようなものから漏れている。この様子だと地上の様子に気付くのはかなり後のことになるだろう。

 

 ただ、マガツイカルガに手をこまねいていた小王(オベロン)に彼とは異なる『意志』が介入し出す。その意思によって魔王から発せられる音がさらに酷くなり、今まで機敏に動いていたマガツイカルガまでもが体勢を崩す。

 再び戦況の天秤は小王(オベロン)側が有利に傾き出した。

 

「うっ、また頭痛が。これ帰ったら本格的に入院検討したほうが良さそうですね」

 

「いや、多分これあの大きな奴から聞こえてくる音が原因ですよ。僕も痛いですもん」

 

 今まで体調不良によるものだと思っていたが、フロイドの言うことにアルはようやく魔王から発せられている謎の音が頭痛の原因だと分かる。音が原因と聞いたアルは、すぐさま手ごろな布を裂いて耳に突っ込むといった対処を行う。──が、頭痛が治まらないので今は我慢して進むしかなかった。

 

「うっ、うぐぅ……」

 

「アルと従者よ、大丈夫か?」

 

「たしかに頭が痛む。我らはさほどだが、戦士アルや空の勇者達には脅威なのであろう」

 

「そう……です……えんごを そらに」

 

 しかし、1歩進むごとに鉛で出来た万力が頭に取り付けられているかのような重さと鈍痛が襲いかかり、ついには2人共その場に蹲る。巨人達も自分達とは異なる種族が両方行動不能に陥ったことでどのように手を差し伸べるか困惑した様子だったが、小魔導師(パールヴァ・マーガ)の言葉とアルの見るからに覇気の無い指示に巨人達は空を一斉に見る。

 

「同胞達よ、瞳見開く時がまた訪れたぞ! 再び我らが空の幻獣や勇者達を護るのだ!」

 

 再び防戦一方となった船団やトゥエディアーネの姿を見たナブは、小魔導師(パールヴァ・マーガ)の声と共に魔導兵装(シルエットアームズ)を空に向けて掲げる。それに倣って巨人達も魔導兵装(シルエットアームズ)を構え出し、再び地上からの援護法撃は始まった。炎弾に進路を阻まれた穢れの獣(クレトヴァスティア)は一旦攻撃を諦めて魔王の方向に集結しだす。

 ただ、それでも穢れの獣(クレトヴァスティア)の物量や謎の頭痛によって戦況は劣勢であることに変わりは無い。船団は1人落ちたら全てが終わる綱の上で、ひたすら事態が好転するのを待っていた。

 

「うっぐぅ……。弟を導くのが兄ならば、兄を手助けするのが弟の使命! 僕に出来る……最善を……尽くす!」

 

 直掩機として、弟としての矜持がアルを突き動かし、今も空で懸命に戦うエルを助けるために頭を動かす。

 だが、魔王はメキメキと異音を発しながら変態を繰り返している。ああなると小魔導師(パールヴァ・マーガ)達の法撃でも魔王の肢によって阻まれるだろうし、奇跡的に命中してもあの堅牢な甲殻を貫くにはパワーが足りない。

 

「魔力だ……魔力がいる。それもシルエットナイトの……よう……な?」

 

 そのパワーを補填するためにも魔導兵装(シルエットアームズ)紋章術式(エンブレム・グラフ)を改造は不可欠だ。だが、アルは紋章術式(エンブレム・グラフ)を改造することは出来ても、改造によって増えるであろう消費魔力を賄うことが出来なければどんなに頑張っても魔法は成立しない。

 エーテルリアクタも近場に無いので、強力な法撃で援護を行おうとする案はお蔵入りしようかと思った。──が。

 

「な、なんだ戦士アル。私達の顔に何か付いてるか?」

 

「いえ、皆さんは魔力はまだ大丈夫なんですか?」

 

「うん、頭はたまに痛いけど別に苦しくないよ? このぐらいならもっと撃っても大丈夫かも」

 

 魔力が枯渇していないかと問いかけたが、巨人達から心強い声が次々と上がってくる。その返答に一気に希望を見出したアルは地に這い蹲りながら巨人達に魔導兵装(シルエットアームズ)を置くよう指示を出した。

 当然、いきなり武器を手放すことに首を傾げる面々だがとりあえず言うとおりにしようと魔導兵装(シルエットアームズ)を地面に置き、アルのやろうとしていることを食い入るように観察する。

 

「戦士アルよ。何をする気だ?」

 

「シルエットアームズを改造します。現地改修ですね」

 

「アル、戦士じゃなくてマーガだったのか?」

 

 新たにマギアを紡ぐという行為にナブは疑問を持つが、元々アルは機体よりも装備の作成を得手としている。イメージする現象に沿った魔法術式(スクリプト)を考える知識とその辺に落ちている石という紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻む道具、そして時間さえあれば改修などお茶の子さいさいである。

 

「むっ? なんか頭がすっきりしたような」

 

「どうやらあの音が止んだみたいですね。今のうちに花火の準備を進めましょう」

 

 先ほどまで響いてきた音や頭痛がぱったり止み、周囲は再び魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)による轟音や法撃が命中した爆発音に支配された。

 魔王とマガツイカルガによる熾烈な法撃戦が繰り広げられる中、アルはただひたすらに地面に紋章術式(エンブレム・グラフ)を書いては消し、書いては消しを繰り返して推敲を続ける。ホワイトミストーで作られた魔導兵装(シルエットアームズ)はそこらの石でも簡単に紋章術式(エンブレム・グラフ)を彫ることは出来るが、十分な予備が無いために少しのミスも許されない。

 

「駄目だ。ここは……こうしたほうが威力が出る。ここも……このスクリプトに繋げて魔力の節約。浮いた魔力でひたすらに強化を」

 

 早く──精度良く──失敗が無いように。おそらくクリエイターが全員心がけているようなことを念頭にアルが魔法術式(スクリプト)の修正を続ける。

 そんなアルを他所に、フロイドは自身が搭乗していた降下甲冑を分解している。装甲を手際良く外し、中から綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)銀線神経(シルバーナーヴ)を引きずり出したフロイドは銀線神経(シルバーナーヴ)を結んで1本の長い紐にしたものを小魔導師(パールヴァ・マーガ)達に握るよう頼む。

 ただ、人間用の降下甲冑をどんなに分解しようとも巨人数人が満足に掴める長さの銀線神経(シルバーナーヴ)を捻出できなかった。そのため、巨人達にはかなり無理してもらったのは言うまでも無い。

 

「おい、押すな」

 

「従者よ。あの木では駄目なのか?」

 

「あの木は多少魔力に抵抗があるので駄目ですね。こういった銀が一番魔力を通すんですよ」

 

 ホワイトミストーは確かに魔力を通す稀有な存在だ。だが、木材なのでどうしても魔力の伝導率は落ちてしまう。そうなればアルの作る法撃の威力が著しく落ちるかもしれないと、アルの補佐をしていた経験から危惧したフロイドは学校から学んだ知識で巨人達を納得させる。

 

「よし、あらかた完成! あーとーはー取り付け! ひとまず、ナブさんは先頭であれ持ってください」

 

「え、俺? ……なにこれ」

 

 改修が終わって若干テンション高めのアルは出来立てほやほやの魔導兵装(シルエットアームズ)を指差しながらナブを呼ぶ。

 しかし、それは魔導兵装(シルエットアームズ)と言うにはあまりにも大きすぎた。掘り込まれた魔法術式(スクリプト)ももはや解読不能な密度で刻まれ、地面に置かれた魔導兵装(シルエットアームズ)の基盤を全て取り出して乱暴に束ねたのだろうその全長、全幅は到底人間には扱えないほどデカく。──なんというか、内部処理だけクソ真面目に設計して外見は大雑把という性能第一の人間が組み立てたPCのような代物だった。

 

「んー、名付けるなら……加農砲? いや、チャージするんだから……"名前はまだ無い"で」

 

 名前に関してあーでもないこーでもないと頭を悩ませた末に保留名(いつもの)を名付けたアルは、ナブにその魔導兵装(シルエットアームズ)をしっかり保持するようにお願いし、後ろでぎゅうぎゅう詰めになっている巨人達の持っている銀線神経(シルバーナーヴ)の先端を魔導兵装(シルエットアームズ)の末端と接続する。

 

「略式の外部結合試験開始。……No1 OK。No2 OK。No3 OK。No4は……異常ケースだから想定内 OK」

 

 板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の魔力を使いつつ、アルは小さな火球を付けたり消したりと試験を行っていく。たまに異常が見つかるが、ちょっと考えた末に魔導兵装(シルエットアームズ)魔法術式(スクリプト)の一部を尖った石で突き刺すことで紋章術式(エンブレム・グラフ)を成り立たなくして対応するといった行き当たりばったりな訂正作業を行っていく。

 その作業中に後ろからなにやら声がかけられているのだが、作業に夢中な彼の耳に届くことはなかった。

 

「よし、全工程完了! さぁーて、いっちょぶっ放……。あるぇ、あのでかいやつの位置がずれてる」

 

「さっきからずっと言ってるけど、船の方に行ってるよ。エルの幻獣もそっちにいっちゃったし」

 

 数十分の格闘の末にようやく全ての確認作業が終わったアルが空を見やるが、そこには魔王の大量に犇く肢が見えるだけでマガツイカルガの姿がなかった。ナブの証言から船の方向に視線を逸らすとマガツイカルガが第2中隊の機体が乗っている船の盾になって踏ん張っている姿があり、それを見たアルは『時間かけすぎたぁ』と自らの行いを激しく後悔した。

 

「なんで敵前でちゃんとしたテストしちゃってんの! バッカじゃないの!」

 

「副団長、それは後にして追いかけましょう。巨人の皆さん、足を貸してください」

 

「心得た。俺の手に乗ってくれ」

 

 アルの一人反省会は長引く。これもフロイドが学んだアルの生態の1つだ。

 だが、今は一刻も早く追いつく必要があると踏んだフロイドはナブに先ほどの魔導兵装(シルエットアームズ)銀線神経(シルバーナーヴ)を持たせ、アルを小脇に抱えて近くの巨人の手に飛び乗る。

 

「大体、火砲の射程内で悠長に装備の点検とかマジでバッカじゃねぇの。もっとやり方とかあったはずなのに」

 

「また同じ話題がループしてる。 ッツェ!? 頭がっ!」

 

 小脇に抱えたアルが同じ話題をループさせて反省し出したので、『どう再起動させようかな』と思案していたフロイドであったが、突如彼の頭が再度痛み出す。周囲の巨人の足並みも衰える中、これ以上の前進が困難かと思われた。

 

 ──その時であった。アルの一人反省会が思わぬ方向に転がり込んだ。

 

「大体、なんでこんな頭痛が。肩凝り? 眼精疲労? ……いや、身体は至って健康。フロイド君、頭以外で身体は異常ないですか? 肩が凝ってたり、眼が疲れていたり……ああ、あとは暑かったりとか!」

 

「絶賛元気になった上司の感情の振れ幅に頭が痛いんですがね。それ以外はなんともないですが、なにか?」

 

「やっぱり、不自然だ」

 

 先ほどまでのネガティブを煮込んだような状態から一転、長考モードに入る副団長の姿に不調ではないが眩暈を覚えるフロイド。しかし、どうにも頭が痛くてアルの言っていることを一々気にすることが出来なくなった彼は魔王を睨みながらどうするべきか考え出す。

 このまま行けば全滅は必死だ。そうならないためにも魔導兵装(シルエットアームズ)で最大限の援護を引き出す方法を考えるが、移動の困難さからどの案もフロイドの琴線に響かなかった。

 

「魔法は演算しにくいけど頭の回転はしっかりしている。今の僕を1台のPCと考えると、CPUは問題なし。グラフィックボードは……関係ない。ならば、メモリ不足? でも演算しすぎた記憶が……遠隔操作? 上司のPCにアクセスして無駄処理を裏で流して動きを遅くした事件とかあったよな。……音で?」

 

 微動だにせず早口で呟くアルの気持ち悪さに思わず投げ捨てたくなる衝動がフロイドを襲うが、その結論が出る前に件の頭痛がピタリと止まった。フロイドが思わず空を仰ぐと、マガツイカルガが通常字のイカルガよりもなお速く、なお力強く魔王と競り合っていた。

 執月之手(ラーフフィスト)を基点とした雷霆防幕(サンダリングカタラクト)で身を守りつつ、銃装剣(ソーデッドカノン)による法撃や格闘によって魔王の肢は次々となぎ倒されていく。

 こうなってはマガツイカルガを止める唯一の手段である面での攻撃は使えない。それを良い事にマガツイカルガは肢への攻撃を強めながら魔王本体に距離を詰める。

 

「あっ、もう少しでたどり着きそうだったのに! ですが、これは好機です」

 

 もう少しで原因を究明できそうだったことに不満を覚えるが、一刻を争う事態だということを思い出したアルは全員に好機だと伝える。周囲も戦況が動いたことを感じ取ったのか、無言で頷くと静かに──だが、大胆に魔王に近づいていく。

 そうしてその後は対して音による妨害を受けぬままアル率いる魔導兵装(シルエットアームズ)隊は魔王とマガツイカルガが戦闘する空域の直下までたどり着いた。幸いなことに背の高い樹木が入り乱れる森林地帯なので巨人達は片膝立ちになりながら黙々と先ほどの陣形を整えていく。

 

「戦士アルよ、あの大きなものの中から幻獣が!」

 

 もう少しで法撃準備が完了となるところで小魔導師(パールヴァ・マーガ)が魔王を指差す。その方向には魔王の堅牢な甲殻が割れ、その中から幻獣騎士(ミスティックナイト)が姿を現してマガツイカルガに格闘戦を挑んでいる光景があった。

 ただ、その幻獣騎士(ミスティックナイト)は上半身のみで下半身は魔王の蝕腕に取り込まれるという気持ち悪い見た目になっており、それを見たアルは『それで良いのかナイトランナー』と幻獣騎士(ミスティックナイト)に乗っているであろうザカライアと同じ騎士達に届かない疑問を投げかけた。

 

「でも、なんか…………人形遊びみたいですね」

 

「ぶふっ!」

 

 フロイドもその見た目に指を突っ込んで動かす人形を思い浮かんだらしく、その言葉にアルも魔王が幻獣騎士(ミスティックナイト)に指を突っ込んで遊んでいるような幼稚なイメージが浮かんで噴き出す。

 しかし、もちろんのことだが彼らの勝手なイメージとは裏腹に現場であるマガツイカルガと魔王の戦いは熾烈を極めていた。

 魔王本体からの法撃に加えて蝕腕の先にある幻獣騎士(ミスティックナイト)も手に持った武器や魔導兵装(シルエットアームズ)で強敵を打ち払おうと攻撃を開始する。その物量に防御用に張ってあった雷霆防幕(サンダリングカタラクト)が破られたマガツイカルガは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を用いて大きく後退し、一瞬のこう着状態が生まれた。

 

「アル、エルが危ないよ!」

 

「いいえ、僕達が狙うのはイレギュラーの対応。それだけです」

 

 一進一退の攻防にナブが叫ぶ。たしかにこの状況では少しでも援護を加えるのが正道であろう。改修を加えて威力が向上したこの魔導兵装(シルエットアームズ)は、きっと蝕腕に命中すれば1本か2本は引きちぎることは可能なはずだ。

 ただ、この魔導兵装(シルエットアームズ)は複数の巨人達の魔力を充てにしているので連射能力は一切考慮に入れていない。そして、不意打ちをした後はカウンターに備えてその場を即離れるのが鉄則だ。

 それらの観点からアルはナブの言葉を否定し、指で魔王を狙うように指示する。

 

「でも……」

 

「マギステルも勇者だ、あの程度の困難は自力で打ち払うだろう。だが、勇者の眼であっても見抜けぬ物は我々が排除しなければならない」

 

 アルの指示に対して納得しがたい表情を浮かべるナブだったが、小魔導師(パールヴァ・マーガ)の話を聞いて不承不承ながらも魔導兵装(シルエットアームズ)の狙いをつける。そんな年齢の近い者同士のやり取りをしている最中、アルは2人から離れるとフロイドや従者を呼んで今後について細かい指示を出していた。

 

「フロイド君はこのまま巨人の皆さんをイズモの近くまで移動。その道中でオプションワークスとトイボックス・ハーミットを回収してください」

 

「副団長はどうするんですか?」

 

「僕は法撃と共にあの中に突っ込みます」

 

 今回の調査飛行で何度目かも分からない頓珍漢な考えにフロイドはもはや何も言わなくなった。だが、何も言わなくなっただけでなにも問題がないわけではない。形式的にだが、一応どういった意図があるのか聞くためにフロイドは疑問をアルに投げかける。

 

「何故にですか?」

 

「あの蝕腕の根元、洞みたいな空間があるでしょ? そこから中枢いってぶっ壊せないかな……と」

 

「どうやって行くんです?」

 

「従者の方に投げてもらって。あ、従者さん。あの幻獣に向かって投げてくださいね」

 

「わ、分かった」

 

 餅つきのような息の合った疑問と回答の数々。しかし、アルが回答するごとにフロイドの頭が痛みだした。当然これは敵である魔王からの攻撃ではなく、味方であるはずの銀鳳騎士団。そこに潜む魔王の片割れからの口撃であった。

 

 はっきり言って無茶苦茶過ぎる。そう思ったが、今のこの状況を騎士団長と騎士団長補佐だけで簡単に打破できるとはフロイドも思ってはいない。ならば、騎士団長と同程度の人間を加えればもしかしたら──という希望が沸いてくるというものだ。

 

「分かりました。ですが、命は最優先でお願いします」

 

「分かってますよ。人が1人で出来ることに限りがありますからね、無理なものは持ってる人に押し付けることにしますよ」

 

 話し方からフロイドが渋々ながらも納得してくれたと判断したアルはいつ投げられても良いように従者の肩に座ってスタンバイする。

 そうすると、どうやらマガツイカルガも勝負を決めるらしく魔王からの法撃を打ち払いながら一直線に吶喊し、一気に魔王の蝕腕を数本叩き斬ることに成功した。

 

「やっぱり兄さんも内部から破壊する方針ですか。法撃準備!」

 

「狙いは?」

 

「あの幻獣の周囲を狙っててください、細かい指示は後ほど!」

 

 奇しくも『巨大兵器破壊の心得』を履修しているエルと同じ結論に至ったらしいアルは、薄く笑いながらもナブに指示を下す。指示通りにナブはマガツイカルガの周辺に狙いを定め、巨人達は魔力を銀線神経(シルバーナーヴ)に送り込んでいく。

 

 そうしている間にもマガツイカルガは蝕腕の根元に法撃を集中させ、自身が通れるまで無理やり穴を広げる。

 ただ、小王(オベロン)もそんなエル達の思惑をただ見ているわけではなかった。拡声器でのやり取りが白熱しているのだろう。地上にまで声が聞こえてくる。

 

「そう易々と魔王に入れると思ったかい?」

 

「後ろっ! ですが、同じ手は食いませんよ!」

 

 小王(オベロン)の声と同時にマガツイカルガの背後に無数の体液弾が襲い掛かる。奇襲に驚いたエルとアディだが、既にマガツイカルガは雷霆防幕(サンダリングカタラクト)嵐の衣(ストームコート)を展開しているので穢れの獣(クレトヴァスティア)からの攻撃は全くと言っていいほど通じなかった。

 さらに角による突撃も警戒したエルが銃装剣(ソーデッドカノン)を構えて後ろを振り向く。しかし、穢れの獣(クレトヴァスティア)はマガツイカルガの横をすり抜けると先ほどこじ開けた洞へと続く穴を自らの身体で塞ぎ始めたのだ。

 

「残念だったねぇ。さぁ、振り出しに戻ってもらおうか」

 

「こんなもの、法撃で!」

 

「駄目です、アディ! 蝕腕が迫ってます!」

 

 穢れの獣(クレトヴァスティア)に向かって銃装剣(ソーデッドカノン)を構えるが、迫り来る蝕腕からの圧力でマガツイカルガは徐々に後退していく。

 わずか一手。それもオーバードスペル1つ分という幻晶騎士(シルエットナイト)にとっては造作もない一手が足りないことにエルは歯噛みする。

 

(アルが居れば)

 

 これ以上後退すると再び突入するのに捨て身の行動が必要になる。そうなると今度は成功するかは未知数だ。

 千載一遇のチャンスが潰えようとしていることから、エルはふと自身が最も信頼していた人間の名前が浮かんでしまうが現実を直視するために操縦桿を強く握りなおす。

 しかし、突如として下方から轟炎の槍(ファルコネット)にも似た巨大な炎の槍が魔王に突き刺さると、周囲に耳を劈くような音に合わせて巨大な爆炎と破壊を撒き散らした。

 

「なんっ……いえ、アディ! 全速で突っ込みます!」

 

 突然の、それも地上からの法撃に目を丸くするエル。しかし、パチパチと燃える穢れの獣(クレトヴァスティア)が発する絶叫に我に返ると魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の位置を調整して一気に加速する。

 流星のように炎の尾をたなびかせ、マガツイカルガは一直線に謎の法撃によって開けられた穴の中に入っていく。

 ただ、マガツイカルガの後に『アルフォンスロケットォォ』と叫ぶ幻晶騎士(シルエットナイト)と比べるとはるかに小さなナマモノが穴の中に入り込んだが、それはエルやアディどころか小王(オベロン)でも知覚することは叶わなかった。

 

***

 

 魔王の体内へと侵入を果たしたエルとアディ。体内ということで肉感的な通路のようなものを想像していた2人だったが、所々に姿を見せる『人が加工した跡』に首を傾げた。

 筋肉を思わせる繊維質な柱が縦横に張り巡らされているが、これはまだ序の口。それらの柱に目を凝らすと紋章術式(エンブレム・グラフ)だと思われる幾何学模様がびっしりと彫りこまれているのだ。

 そして、一面肉に閉ざされた空間だと思いきや、視界の端に金属で出来た部品が埋め込まれていることから、この魔王は生物的な物を長年掛けて機械化した存在だということが伺える。

 

「とりあえず進んで……ん?」

 

 マガツ・イカルガの首を巡らせながら情報収集に徹していたエルは、ふと目の前から硬質な音が聞こえてくることを知覚する。もう一度アディと共に索敵を行っても幻像投影機(ホロモニター)には敵と思われる存在はおらず、えも知れない不気味な感覚が頭を過ぎる。

 

「なにかが僕の操縦席の前を叩いています」

 

「え、敵!?」

 

「分かりません。ひとまず攻撃してみます」

 

 ここは敵地だが、仮に生きている人間や化生が居るのならば半殺し状態にすれば情報を引き出せるかもしれない。そう考えたエルはウィンチェスターを引き抜き、生け捕り用の魔法の準備に入る。

 選択した魔法は風衝弾(エアロダムド)。相手を吹き飛ばすことが出来るし、魔獣でも人間でもダメージも期待できる。

 

「開けます」

 

 自身の心臓の音が聞こえるぐらい緊張したエルは片手でウィンチェスターを構え、胸部装甲の開閉スイッチを押す。圧縮空気が漏れる音と共に胸部装甲が開かれると、幻像投影機(ホロモニター)で見た肉感的な光景がエルの目の前に飛び込んでくる。

 

「はぁい、兄さん。サブカルを伝えに 「やあぁぁ!」 オギャアッ!」

 

 そんな時、カササギの胸部装甲から誰かが排水溝に潜むピエロのような口上を垂れながら操縦席を覗き込む。すかさず、エルはその謎の存在にエアロダムドを放つと、操縦席から外へ繋がる隙間一杯に放たれた空気の砲弾に巻き込まれた謎の存在がカササギの胸部装甲から離れていくと、直線状にあるイカルガの後頭部にぶつかって停止する。

 

「アディ、何かがイカルガの後頭部に──ってあれ、降下甲冑?」

 

 ここでようやくエルは、先ほど操縦席を覗き込んできた存在が味方であることに気付いた。

 

「イテテ……。カササギの目線が分かりづらいから胸部装甲に直接行きましたが、失敗でしたね」

 

 目の前の降下甲冑がなにやらぶつくさ言いながら兜が跳ね上げる。その素顔にエルが『はぁ!?』という素っ頓狂な声を上げたかと思えば、続けて彼──アルの足付近をじろじろ見た後に未だ信じられないといった声色で問いかけてきた。

 

「アル? 生きてたんですか!?」

 

「え、嘘! アル君そこに居るの!?」

 

 突然の生存報告にアディも声を荒げながらイカルガの首を背後に勢い良く回す。すると、イカルガの頭に掴まっていたアルが遠心力によって地面に叩き落され、『ぐへぇ』という情けない声を上げて動かなくなる。

 

「…………今度こそ成仏してください」

 

「アル君、帰ったらちゃんとお葬式するからね。今、ちょっと手が離せないから化けて出てこないでね!」

 

「生きとるわぁ!」

 

 むくりと起き上がりながら怒るアルの姿にようやく2人は『生きてたんだ』という感想が頭の過ぎり、ようやくアルを回収するために動き出す。

 そんな彼らが居る場所。そこに向けて大勢の何かが地面や天井を這いずる音と共に向かっていた。




もう少し、11月17日で銀鳳の副団長も3周年となります。
皆様のお気に入りや評価、コメントの力によってこれまで長期休載やエターをせずにやってこれました。
これからも銀鳳の副団長とアルフォンス・エチェバルリアをよろしくお願いいたします。

また、3周年記念はあるかどうか分かりません。申し訳ない
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