銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

157 / 200
123話

 風衝弾(エアロダムド)を間近で放たれたので無事とはお世辞にも言えないが、五体満足でカササギ内に収容されたアルは現在、操縦席後方に存在する僅かな隙間に詰め込まれていた紋章術式(エンブレム・グラフ)の刻まれたホワイトミストーの山を整理していた。

 木材なので紋章術式(エンブレム・グラフ)が傷つかないように細心の注意を払いながらそれらを束ね、やがて子供1人分ぐらいがやっと入れるようなスペースを確保すると、アルはその中に何とか納まる。

 ちなみに降下甲冑(ディセンドラート)は流石に入らなかったので、イカルガの後頭部に固定するという力技で対処してた。イカルガが激しく首を振れば固定が外れる恐れがあるが、それよりもエル達の乗るマガツイカルガが大事なので半ば降下甲冑(ディセンドラート)はここに投棄することをアルはアディに伝えている。

 

「……で、何で生きてるんですか」

 

「いきなり酷い」

 

「ね? エル君、言ったでしょ? すっごい法撃あったって!」

 

 言葉がいくつか足りない質問を投げかけるエルに、泣き真似をするアル。そして、エルが合流する前に見た法撃でアルの存在を悟った自分の認識は間違っていなかったとアピールするアディ。

 ここにキッドとバトソンが居れば幼馴染ーズのいつもの光景だが、それはさておくとして──ここは文字通り魔王の腹の中であり、敵地である。そんな所でいつまでも留まって騒いでいたらどうなるか。

 

「……アル、後で認識合わせをしましょう。アディ、何か来ます」

 

「了解」

 

「分かった」

 

 空間に擦過音が反響する。その音から警戒心を顕にしたエルはアルとアディに声を掛ける。その言葉から敵の接近を予期したアディはイカルガの操縦桿を握り締め、アルは操縦の邪魔にならないように一旦カササギから外に出ると降下甲冑(ディセンドラート)に搭乗してマガツイカルガから降りていく。

 アルが地面に降りるや否やカササギのスナイドルが稼動状態となり、イカルガの手に持った銃装剣(ソーデッドカノン)の刀身が開くと漏れた魔力が閃光となって迸る。完全なる戦闘態勢だ。

 

 そうしているとマガツイカルガの目の前に数機の幻獣騎士(ミスティックナイト)が現れる。しかし、そのどれもがまるで幻獣騎士(ミスティックナイト)が蝕腕に取り込まれているかのように下半身が存在しない奇妙な出で立ちで、その全ての蝕腕は空間の奥まで続いている。

 

「んー、どっかの魔人○○を思い出しますね。とりあえず、中身生きてるんですかね?」

 

「多分生きてはいるんじゃないですかね。すくなくとも、騎士や貴族階級の皆さんはこうなることを予期してなかったと思いますが」

 

 アルは降下甲冑(ディセンドラート)に取り付けた銃杖(ガンライクロッド)を操作して新たに板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を装填する。幻獣騎士(ミスティックナイト)の上半身が生きていることから、騎士を引っ張り出せば詳しい話が聞けると思ったからだ。

 前方に居るマガツイカルガに『1機だけ切り離して放置してください』と叫ぶと、アルの意を汲んだのかカササギとイカルガの頭部が同時に縦に動く。

 

「エル君、1機以外は吹き飛ばすよ」

 

「えぇ、ひとまず当面の安全を確保しましょう」

 

 この場の安全を確保すると宣言したエルの言葉に嘘偽りは無く、マガツイカルガは迫り来る蝕腕に向けて戦闘を開始する。銃装剣(ソーデッドカノン)から放たれる轟炎の槍(ファルコネット)が命中した幻獣騎士(ミスティックナイト)は蝕腕ごとはじけ飛び、スナイドルの豪雨と見まがうほどの法弾が蝕腕や幻獣騎士(ミスティックナイト)に取り付けられた生物由来の部品を細切れにする。

 それでも多勢に無勢。何機かの接近を許してしまうが、イカルガの強みは馬鹿げた法撃の威力だけではない。素早く刀身を戻した銃装剣(ソーデッドカノン)の肉厚の刃が蝕腕を切り飛ばし、後方から迫ってくる幻獣騎士(ミスティックナイト)の攻撃を避けたイカルガの手が胸部装甲ごと操縦席を潰す。

 

 全ての幻獣騎士(ミスティックナイト)を捕縛できるような手加減が出来る状況ではないので、持てる全てをかけて限られた空間内を暴れ回るマガツイカルガ。蝕腕の悉くを討ち滅ぼしていくその余波に巻き込まれないよう、アルは慎重な足取りで先ほど蝕腕から切り離された幻獣騎士(ミスティックナイト)の側に近づいた。

 

「動いたらエアロスラスト。動いたらエアロスラスト。……動いてくれるなよぉ」

 

 突然動き出さないように念を送りつつ、アルはおっかなびっくりと幻獣騎士(ミスティックナイト)を登っていく。

 しかし、この機体は元来第1次森伐軍が使用していた機体。つまり、エル達が台頭してくるまでは普及していたサロドレアよりも少々古い現地改修機である。当然、外部から胸部装甲を抉じ開ける機構も従来機の物とは異なっているので、アルはそれを探し当てることは出来なかった。

 

 ではどうするか。──そう、脳筋的解決法(マスターキー)の登場である。

 

「ふんぬらばっ!」

 

 降下甲冑(ディセンドラート)の膂力を遺憾なく発揮し、前面装甲板をそこから力任せに引っぺがす。幻獣騎士(ミスティックナイト)は元々物資が不足している中で細々と改修していた経緯もあってか、強靭そうな胸部装甲はいとも簡単に機体から剥がれ落ちる。裏からは魔獣由来の素材が出てきてアルの興味がロボットの方向に向きそうだったが、なんとか踏みとどまると素材を掻き分けて操縦席を探す。

 銃杖(ガンライクロッド)の切っ先を操縦席を守るように配された筋肉のような塊に向けつつ、片手のみで繊維に沿って裂いていくアル。そんな彼の目の前にようやく操縦席が姿を現す。

 そこには操縦席に人の姿はなかった。ただ、『異様に膨らんでいる肉で出来た繭』がシートに固定されているのみであった。その中身はおそらくだが──。

 

「っ! くそ!」

 

 変なイメージが脳裏に過ぎったアルは肉繭に手をかけてシートから引き剥がそうとするが、しっかりと固定されているのか降下甲冑(ディセンドラート)の膂力で引っ張っても一向に取れない。やがて、肉繭から手を離したアルは救助不可能だと一旦結論付けてマガツイカルガの方を向いていると、視界の端でなにやら動くものを捕らえた。

 

「……っとぉ!?」

 

 何かと思いそちらに顔を向けた瞬間、操縦席から尖った蝕腕がアル目掛けて突っ込んできた。殺意全開の蝕腕による攻撃に対してアルは首を少し傾ける。

 ただ、少しだけタイミングが遅かったことによって降下甲冑(ディセンドラート)の兜が一部分だけ損壊するという被害を被ったが、生身を含めた他は無事に避けることができたアルは受身のことを一切考えない全力の圧縮大気推進(エアロスラスト)を演算する。

 ロケットと見紛うような速度で後退したことで着地と同時に足をもつれさせたアルは転倒するが、その勢いのまま四つん這いになり、今にも上体を起こそうと動き出した幻獣騎士(ミスティックナイト)の出方を伺う。

 多少無様な体勢だが、羞恥心に負けて立ち上がっている最中に攻撃されたら目も当てられない。四肢に力を込めていつでも回避が出来るように準備をするアルの目の前で、件の幻獣騎士(ミスティックナイト)は更なる動きを見せた。

 

「あの腕を再接続。そりゃ動き出しますよって……あっ!」

 

 うつぶせ状態の幻獣騎士(ミスティックナイト)の下半身からいつの間に接続したのか、細い蝕腕が生えている。それによって再起動を行っていたのだと理解していたアルだったが、途端に目の前で蠢いていた幻獣騎士(ミスティックナイト)はつけたばかりの蝕腕ごと炎で出来た巨大な槍に貫かれて炎上する光景に口をぽかんと開けていた。

 言葉にすれば敵同士なのだが、復活中を敵に狙われるという諸行無常さをしみじみと噛み締めたアルの側にマガツイカルガが着陸する。

 既に周囲は炎と破壊の色に染まっており、その光景も後押ししていかにもRPGのラスボス──魔王や大魔王といった類の風格を漂わせるマガツイカルガ。どちらが悪なのだろうという哲学的なことを考え出したアルの耳にエルの心配そうな声が聞こえてきた。

 

「アル、なんか動き出しそうだったので手を出しましたけど。誰か反撃でもしてきました?」

 

「居ないよ。ここには、人間なんか居ないよ!」

 

「え、なんですか いきなり」

 

 突然鳥で制圧された司令室に入った女性警察官のようなことを叫び出すアルだったが、言いたいフレーズを率先して言うのはオタク特有の症状である。『言いたかっただけです』という言い訳をしながらカササギに戻ったアルは、再び2人と情報の共有を行う。

 

***

 

「四角いキ○ーブっと。えーっと、つまり?」

 

「最小の被害で食い止めて、最良の処置をしたまでです」

 

「大空のサ○ライに謝れ」

 

 少なくともアルを知る人物の心に最大のダメージを負わせることが最良なのかと手刀と共にツッコみを入れたい気持ちがエルの心を満たすが、今はそんなことをしている暇は無いと自制する。

 大まかにアルが居なくなってからの戦況が共有されたが、その中にアルが聞いていた音。エル達の認識では『詩』の情報もあった。

 

「あれはマギウスサーキットへの直接攻撃ですよ。身体強化使っていれば対抗できます」

 

「やっぱり外部から不要な命令を送ってたんですね。僕も原因までは喉まで出掛かってたのにぃ……兄さんはすーぐ先に結論までたどり着いちゃうんだからー!」

 

「兄より優れた弟なんて居ないんですよ!」

 

 考察も虚しく呆気なく原因と対処が教えられたことでアルは悔し涙を流す。しかし、そろそろ移動しないと欲しくもないお代わりが着そうな気配を感じ取ったアディはエルに移動を提案した。

 

「では、アディの言うとおり移動しましょうか」

 

「はーい」

 

「ほんと、この馬鹿でかいのマジでフレメヴィーラに連れて行く気だったのなら神経疑いますけどね。夜逃げに一軒家丸々持っていくヤベーやつじゃないですか」

 

 移動を開始する際に改めて空間を見渡したアルがポツリと言う。

 ただの空間でさえもマガツイカルガが暴れまわるのに十分な広さなのだ。それが莫大な数存在するのだとしたら、少なく見積もってもフレメヴィーラの4分の1ぐらいはすっぽり収まってしまうだろう。

 そこからさらに穢れの獣(クレトヴァスティア)が大量に出てきたら、どう考えてもフレメヴィーラは大打撃を回避しようがない。

 

(よほどの理由があるのかなぁ。でも、亡命なら僕達で何とかできるのになぁ)

 

 カササギの操縦席の裏側に押し込められたアルは、操縦に介入できない暇な時間でそんなことを考えていた。ここまで大事にした以上は白黒はっきりつけねばならないのだが、逆を言えばここまで大事にしないと為せない野望があったということだ。

 それがなんなのかは小王(オベロン)本人が自供する他無いのだが、聞いて察するぐらいは出来るだろうと上下左右に揺れる隙間内で必死に吐き気と戦うアル。蝕腕による妨害が多くなりつつも、マガツイカルガはそれらを鎧袖一触に突破してひたすら奥へ向かう。

 

「そろそろでしょうか」

 

 細かったり太かったりする通路を抜け、繊維質の柱を数えるのが億劫になるほど切り裂いた先でマガツイカルガは再び巨大な空間に行き着いた。周辺には繊維質の柱が壁のようにみっちり敷き詰められており、その空間の中央には一際大きな柱が直立している。

 

「アディ、いつでも動かせるようにしておいてください。近づきます」

 

「分かった」

 

 炉からあふれ出る魔力を全身の綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)に行き渡らせる傍らでエルは直接制御(フルコントロール)でマガツイカルガをその柱に近づける。すると、その柱は中ほどで膨らんでおり、その膨らみは脈動している。生きているのだ。

 

「兄さん、あそこ見てください」

 

「明らかに人造ですね」

 

 先ほどから脈動を続けている膨らみの周囲で何かを見つけたアルがカササギの幻像投影機(ホロモニター)に指を指し示す。そこには明らかにこの場所には不釣合いの物質──金属製の部品の数々で構成された機械のような物が柱の至る所に取り付けられていた。

 その発見によってエルも魔王が自然に生まれたものではなく、人の手によって創られた存在だと十分に理解する。だが、今まで様々な開発を行ってきたエルやアルでさえも魔王と言う異形を作り出す技術の全貌を図り知ることは到底叶わなかった。

 

「ここまで来たんですから、なにか分かりませんかね」

 

「んー……あれ? あそこ輝いてません?」

 

 ただ、技術的にも断片的には物に出来ないかと解析を続けていたエルは柱の中心で膨らんでいる部分が水晶のようにきらめいていることに気付いた。アルも続けてそれを観察すると、どうやら内部に1人……いや、2人の人影が見えることから『誰か』がそこに居た。

 

「あの方々は──「まさか、ここまで来るとはね。賞賛に値するよ、エルネスティ君」」

 

 小王(オベロン)の声が聞こえたことにより、エルは思考に費やしていた意識を戦闘に向ける。アルも何かあれば、すぐに操縦席から飛び出してマガツイカルガを万全に動かせるように身構えるが、小王(オベロン)は先ほどまでの錯乱状態から脱したのか淡々とした口調でエルに語りかける。

 

 

 どうやらこの中枢に浮かんでいる人物は小王(オベロン)の父母らしい。曰く、この中枢のおかげで穢れの獣(クレトヴァスティア)が操れるらしく、小王(オベロン)は親の願いを叶えるためにこの力を用いたのだとか。

 しかし、まるで見てきたかのように話す小王(オベロン)の口調にエルとアルは違和感を覚える。

 

「まるで当事者のように言いますね。脳内トリップでもしてるんでしょうか?」

 

「ああ、アルは会ってないから分からないのも無理は無いですね。1種族だけ……あの方々と同じ種族であればオベロンが言っていることはおそらく本当のことかと。ですがあの方々は滅多に人前に……まさか、連れ出した?」

 

 次々と嵌るパズルのピースにエルは思い切って小王(オベロン)に聞いてみた。

 『貴方や父母は"アルヴ"なのか』──と。すると、突然小王(オベロン)は笑い出し、『さすが騎士団長だね。博識だ』と心にも無い賛辞を送る。

 

「いかにも、僕はアルヴの民さ。どうやら僕が居ない間に西のアルヴは君達の歴史に顔を出したらしいね」

 

「いえ、今も静かに過ごされています」

 

「そうかい……。当時のように無理やり連れて行かれないならば、ますます帰らねばならないね」

 

 どうやら先ほどからエルと話していたアルヴの話に小王(オベロン)は俄然帰りたくなったらしい。小王(オベロン)の乗る幻操獣騎(ミスティックビースト)の鳴き声に呼応し、魔王の内部が騒がしくなる。後はもう何を言っても戦いは避けられない空気に、アルはエルとアディに一言断ってからカササギの操縦席を出る。

 

「おや、その姿は……副団長殿だったかな? 驚いた、ミスティックナイトの操縦席がある部分を貫いたんだがね」

 

「残念でしたね。トリックですよっと」

 

 小王(オベロン)の面白くなさそうな声に元コマンドーのような相槌を打ちつつ、アルはイカルガの後頭部に固定された降下甲冑(ディセンドラート)に搭乗し直す。本当はあのまま奇策を使わずに戻っていたら命は無かったのだが、小王(オベロン)にそれを教えてあげるほどアルは愚かではない。

 降下甲冑(ディセンドラート)姿でマガツイカルガの足元に降り立ったアルは、そのままの足で中心部の柱に向かっていく。その足取りは自然極まりなく、小王(オベロン)でさえも彼の足取りを観察し続けるほどであった。

 

「あ、戦うならどうぞ。僕はこちらの方々と見てるんで。お隣失礼します」

 

「君は……あれかい? 媚を売っているのかい?」

 

 既に大いなる流れに還りそうな自分の父母に対して生きているかのように接するアルに、小王(オベロン)は不機嫌そうに尋ねる。しかし、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)でもあったようにこれがアルの根っこだ。

 『死ねばみな仏』。正月、節分、七五三、クリスマス、バレンタインデー、最近ではハロウィンも迎合した八百万の国出身であるアルにとってその言葉は今もなお根付いている。

 ゆえに、例えジャロウデクの王子であろうとも兵士であろうとも寂しくないように国許へ送り返すし、せめてもの慰めに手向けも行った。

 多少、姿形や大きさが変わったところでその考えは変わらない。さらに言えば、多少死に掛けたぐらいで矯正できるほどなまっちろくない筋金入りの頑固な汚れのような性分だ。

 

「媚なんか売ってませんよ。ただ、この方々は僕よりもはるかに目上の方なので敬っているだけです。貴方には色々あったのでこのまま話しますがね。しかし、正直に話してしまえば僕は暴力よりも話し合いが好きなので、あなたの言葉を信じるのならこの方々を帰す方向で議論したいですね」

 

「なんだい、話が分かるじゃないか。では 「このデカブツはノーセンキューですが」 ……そうかい」

 

 話が通じると思った小王(オベロン)が喜色の声を上げるが、全てを鵜呑みに出来ないと分かると酷く残念そうな声に変わる。こころなしか、幻操獣騎(ミスティックビースト)の首も下を向いているので本当に落ち込んでいるのだろうとエルとアディは察する。

 

「良いだろう、まずは前哨戦だ」

 

 幻操獣騎(ミスティックビースト)のうなり声が消えると同時に周囲が静かになったところで、小王(オベロン)とアルの話し合いが始まった。どちらも水晶体を持ち帰るという方向を向いているので話は簡単に纏まってこの戦いは終結する──かに見えた。

 

「だから、この水晶体単体だけで持ち帰れば良いじゃないですか。そうすれば皆帰れて平和ですよ」

 

「それは出来ない、この魔王は父さん母さん……ンンッ! 我が父母の残した唯一の希望なんだ! それを置いていって巨人なんかに使われた日には僕は狂うよ! 君たちこそ、この魔王や獣達を迎えてくれるだけで良いんだ! 簡単だろう?」

 

「こんな巨大な危険生物持って行けないって言ってるんですよ! それに、騎士を肉繭に閉じ込める危険人物とかどう説明するんですか! 一応あなたの部下でしょうが!」

 

「徒人だからね。それに、そこは君達の騎士団がなんとかするだろう?」

 

「あー出た出た! 面倒くさいことは人任せ! 責任取るの僕達なんですから止めてくださいよ。日照権って怖いんですよ」

 

 ぎゃいぎゃいと叫ぶ声が空間に反響する。もはや幻操獣騎(ミスティックビースト)の視線はマガツイカルガには向けておらず、中腰になってアルの方に向けていることから両者は真面目に討論はしているのだろうが、魔王や穢れの獣(クレトヴァスティア)に関する両者の主張が余りにも噛み合っていない。

 

「分からずや!」

 

「どっちが!」

 

 こうして、『父母と共に故郷に帰りたいが、魔王や獣達を置いていけない』という小王(オベロン)の主張と『全員帰してあげたいが、魔獣は置いていけ』というアルの主張は仲違いで決着する。

 

「まったく、これだから徒人は……」

 

「これだから譲歩しない人は……アルヴか」

 

『あ"っ?』

 

「あのー、僕とアディ忘れてません?」

 

 燃料が追加投入されそうだったので、いい加減話の流れを掻っ攫おうとエルが声を掛ける。しかし、小王(オベロン)は『また同じの言うの面倒なんだが?』と心底気だるそうに言うと幻操獣騎(ミスティックビースト)の視線をようやくマガツイカルガに向ける。

 

「オベロン、僕はそこの弟と違ってもはや語りませんよ」

 

「そうかい、では仕方が無いね」

 

 既にマガツイカルガは全ての装備を展開しており、その構えからいつでも戦闘状態に持っていけると確信した小王(オベロン)はちらりと彼の父母が入った水晶体──とついでにその側にいるアルを見ながら幻操獣騎(ミスティックビースト)に攻撃準備に入るよう指示を下す。

 

「副団長君、私の父母に対する敬意や話し合いに免じて言っておこう。"そこから動くな"、別に動いても良いがね」

 

「感謝します」

 

 小王(オベロン)の忠告にアルは素直に動きを止める。その忠告にはおそらく『邪魔をするな』という意図も入っているのだろう、アルや水晶体の近くを除く柱の影から無数の幻獣騎士(ミスティックナイト)が現れる。もちろん、全て蝕腕つきだ。

 

「まったく、言葉で語ろうとしたと思えば実力行使で来たり……。徒人は本当に身勝手だ」

 

「ブーメランかな?」

 

「そうですね、あなたも徒人に十分染まっているかと」

 

「ククッ……ハハハハッ! アルフォンス、これが終わったら今度こそ君を言葉でねじ伏せてあげよう! だが、まずは君だよエルネスティ!」

 

 2人からのツッコみがツボにはいったのか、幻操獣騎(ミスティックビースト)から心底愉快げな笑い声が漏れる。

 ただ、笑いながらも幻操獣騎(ミスティックビースト)はいつでもマガツイカルガに攻撃を加えれるように構えを取り続ける。いくら自身にとってツボに入った返しをされたところで小王(オベロン)にとって彼らは敵、それも極上に厄介この上ない。

 

 それが今も自らの父母の近くで幻操獣騎(ミスティックビースト)を見上げている副団長と同じ弁舌で解決するならば、今すぐ車座に座ってたまに拳が飛ぶ討論会を開きたいほどには小王(オベロン)は理性的ではあった。

 ただ、エルが申し出たのは力による実力行使。なんとも徒人らしい自分勝手な考えだが、手っ取り早くて存外悪くない方法だと考える自分に対して『ずいぶん染まったものだ』と自虐げに苦笑した。

 

「今更待ったは無しだ。後悔するなよ」

 

 敵は強大。慢心する余地はどこにも無い。しかし、ひたすらに故郷を想う気持ちと共に小王(オベロン)は全身全霊を持って幻操獣騎(ミスティックビースト)を通じて魔王に指示を送る。その指示を的確に受け取った魔王の中枢は一際強力な詩を大気を歪めんばかりに発することでマガツイカルガの足止めを行い、さらに周囲に展開した幻獣騎士(ミスティックナイト)で一斉に攻撃させる。

 エル達が進入してきた際は少ない数を散発的に投入した結果、マガツイカルガの高過ぎる殲滅力に返り討ちになったが今回は動きを封じた上での数の暴力である。勝てる見込みは十分存在していた。

 

 しかし、フレメヴィーラ史上最高の欠陥機とフレメヴィーラ史上最狂のナイトランナーはさらにその上を往く。『滅びの詩(ネクローリスソング)』と称されたその詩も意に介すことなく、雷を纏った執月之手(ラーフフィスト)を展開する。

 雷霆防幕(サンダリングカタラクト)。かの邪竜の力を持って向かってくる幻獣騎士(ミスティックナイト)を破壊するマガツイカルガは、手に持った銃装剣(ソーデッドカノン)の刀身を開いた。

 夥しい魔力の奔流が腕から掌、そして銃装剣(ソーデッドカノン)の刀身に備えられた紋章術式(エンブレム・グラフ)に伝っていくと、今まで数多の敵を滅してきた轟炎の槍を打ち出した。

 

「させるか! ミスティックナイトよ!」

 

 反撃に気付いた小王(オベロン)幻獣騎士(ミスティックナイト)轟炎の槍(ファルコネット)の進路上に配する。当然、命中した幻獣騎士(ミスティックナイト)轟炎の槍(ファルコネット)の圧倒的破壊力の前に残骸に帰すが、何体も貫くと徐々に法弾に内包していた魔力も目減りしていく。幻獣騎士(ミスティックナイト)の壁を抜けたは良いが、エルが狙った中枢の前に小王(オベロン)の駆る幻操獣騎(ミスティックビースト)が立ちはだかり、既に弱まった轟炎の槍(ファルコネット)を受け止めようと両手を交差させて防御体勢に入る。

 

 ──だが。

 

「な、なにぃ! やめ、やめろぉ! なんで……なんでだよぉ!」

 

 今にも泣き出しそうな小王(オベロン)の声と共に幻操獣騎(ミスティックビースト)は上昇する。そのため轟炎の槍(ファルコネット)は上昇した幻操獣騎(ミスティックビースト)の下を通ると魔王の中枢部に命中。中々の爆発音を周囲に響かせた。

 

「戻れ! 戻ってくれよぉ! ……父さん、母さん! 僕はまだっ! あいつとの話し合いもっ!」

 

 繊維質の柱が砕ける音を聞きながら小王(オベロン)幻操獣騎(ミスティックビースト)の操縦席で暴れまわる。だが、幻操獣騎(ミスティックビースト)は大事そうに正面を腕で守りながら上昇を続け、やがて空間の上部に開いている空洞に入っていき、やがて見えなくなった。

 

「なんだったんでしょうって……そうだ、アル!」

 

 突然の幕引きに呆然としていたエルだったが、中枢近くに居たアルが蹲っていることに気づく。未だに滅びの詩(ネクローリスソング)は続いており、アルはその対処に追われていた。

 

「このぉ! いい加減止まりなさい!」

 

「アル、連携したとおり身体強化を全力で演算しなさい! それで何とか……ぐぅっ」

 

 アディがイカルガに法撃指示を与える一方で、エルは執月之手(ラーフフィスト)でアルを優しく摘むと必死に滅びの詩(ネクローリスソング)に対する処置を呼びかけていた。だが、魔王は轟炎の槍(ファルコネット)の炎に焼かれながら滅びの詩(ネクローリスソング)の出力を上げ始める。

 もはや詩という生易しい物から打って変わり、ヘビメタのようなシャウトが3人の脳とマギウスサーキットを激しく揺さぶる。全力で魔法を演算してもじわじわと食い込んでくる滅びの詩(ネクローリスソング)にとうとうマガツイカルガの動きは鈍り始めた。

 

 そんな時だった。アルは、あろうことか執月之手(ラーフフィスト)から飛び降りると燃え盛る中枢の柱に向けて走り出したのだ。

 シルエットナイトに乗っていないので、エルやアディよりも滅びの詩(ネクローリスソング)からの干渉力が強いはずのアルは降下甲冑(ディセンドラート)の拳を振りかぶって中央の柱の根元を殴りつける。ただ、弾力のある繊維質の柱は多少殴っただけでは多少の傷を残すのみなのだが、アルは柱の根元を殴りながらもう片方の腕で柱の上の根元を指差し、『壊して!』と短く伝える。

 

「……あー、確かに助けないとですね」

 

 そんなアルの思惑がなんとなく伝わったエルは、辛そうなアディに滅びの詩(ネクローリスソング)の干渉を幾分かマシにするために執月之手(ラーフフィスト)の制御を任せると銃装剣(ソーデッドカノン)を構えさせる。アルにその場を離れるように叫びながら魔法術式(スクリプト)を送ると、轟炎の槍(ファルコネット)はアルが指示した柱の根元を上下共に貫いた。

 燃え盛る業火が繊維質の柱の根元を焼き壊し、中心にある水晶体ごと倒れる。

 

「ぬおぉぉ!」

 

 落ちて来る水晶体に向かって凄まじい勢いで走り寄ったアルは両手でガッチリと水晶体を受け止める。柱1本分なのでかなりの重さだが、土木工事にも耐える降下甲冑(ディセンドラート)の膂力は伊達では無い。

 受け止めた体勢のまま、アルは投げたボールを咥えた犬のようにマガツイカルガに向かって駆け出すと口を開いた。

 

「要救助者、確保!」

 

「全く、この子は。……誰かさん方も、伝える相手が違うんじゃないですか?」

 

 種族が異なろうとも、文化が違おうとも、どのような姿になっていようとも隣人と接するような対応を平然と行う弟に、滅びの詩(ネクローリスソング)ではない『2つの意志』を受け取っていたエルは相手が違うと苦笑する。

 その意志をエルに送ったのは小王(オベロン)の父親なのか、はたまた母親なのか。はたまた父母とは異なるアルヴの民なのかは定かではない。

 

 しかし、その意志達はたしかにこう伝えてきた。『ありがとう』と。




オベロンは会話できる敵だと思うので、エルが実力行使に対して対話することにしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。