木材なので
ちなみに
「……で、何で生きてるんですか」
「いきなり酷い」
「ね? エル君、言ったでしょ? すっごい法撃あったって!」
言葉がいくつか足りない質問を投げかけるエルに、泣き真似をするアル。そして、エルが合流する前に見た法撃でアルの存在を悟った自分の認識は間違っていなかったとアピールするアディ。
ここにキッドとバトソンが居れば幼馴染ーズのいつもの光景だが、それはさておくとして──ここは文字通り魔王の腹の中であり、敵地である。そんな所でいつまでも留まって騒いでいたらどうなるか。
「……アル、後で認識合わせをしましょう。アディ、何か来ます」
「了解」
「分かった」
空間に擦過音が反響する。その音から警戒心を顕にしたエルはアルとアディに声を掛ける。その言葉から敵の接近を予期したアディはイカルガの操縦桿を握り締め、アルは操縦の邪魔にならないように一旦カササギから外に出ると
アルが地面に降りるや否やカササギのスナイドルが稼動状態となり、イカルガの手に持った
そうしているとマガツイカルガの目の前に数機の
「んー、どっかの魔人○○を思い出しますね。とりあえず、中身生きてるんですかね?」
「多分生きてはいるんじゃないですかね。すくなくとも、騎士や貴族階級の皆さんはこうなることを予期してなかったと思いますが」
アルは
前方に居るマガツイカルガに『1機だけ切り離して放置してください』と叫ぶと、アルの意を汲んだのかカササギとイカルガの頭部が同時に縦に動く。
「エル君、1機以外は吹き飛ばすよ」
「えぇ、ひとまず当面の安全を確保しましょう」
この場の安全を確保すると宣言したエルの言葉に嘘偽りは無く、マガツイカルガは迫り来る蝕腕に向けて戦闘を開始する。
それでも多勢に無勢。何機かの接近を許してしまうが、イカルガの強みは馬鹿げた法撃の威力だけではない。素早く刀身を戻した
全ての
「動いたらエアロスラスト。動いたらエアロスラスト。……動いてくれるなよぉ」
突然動き出さないように念を送りつつ、アルはおっかなびっくりと
しかし、この機体は元来第1次森伐軍が使用していた機体。つまり、エル達が台頭してくるまでは普及していたサロドレアよりも少々古い現地改修機である。当然、外部から胸部装甲を抉じ開ける機構も従来機の物とは異なっているので、アルはそれを探し当てることは出来なかった。
ではどうするか。──そう、
「ふんぬらばっ!」
そこには操縦席に人の姿はなかった。ただ、『異様に膨らんでいる肉で出来た繭』がシートに固定されているのみであった。その中身はおそらくだが──。
「っ! くそ!」
変なイメージが脳裏に過ぎったアルは肉繭に手をかけてシートから引き剥がそうとするが、しっかりと固定されているのか
「……っとぉ!?」
何かと思いそちらに顔を向けた瞬間、操縦席から尖った蝕腕がアル目掛けて突っ込んできた。殺意全開の蝕腕による攻撃に対してアルは首を少し傾ける。
ただ、少しだけタイミングが遅かったことによって
ロケットと見紛うような速度で後退したことで着地と同時に足をもつれさせたアルは転倒するが、その勢いのまま四つん這いになり、今にも上体を起こそうと動き出した
多少無様な体勢だが、羞恥心に負けて立ち上がっている最中に攻撃されたら目も当てられない。四肢に力を込めていつでも回避が出来るように準備をするアルの目の前で、件の
「あの腕を再接続。そりゃ動き出しますよって……あっ!」
うつぶせ状態の
言葉にすれば敵同士なのだが、復活中を敵に狙われるという諸行無常さをしみじみと噛み締めたアルの側にマガツイカルガが着陸する。
既に周囲は炎と破壊の色に染まっており、その光景も後押ししていかにもRPGのラスボス──魔王や大魔王といった類の風格を漂わせるマガツイカルガ。どちらが悪なのだろうという哲学的なことを考え出したアルの耳にエルの心配そうな声が聞こえてきた。
「アル、なんか動き出しそうだったので手を出しましたけど。誰か反撃でもしてきました?」
「居ないよ。ここには、人間なんか居ないよ!」
「え、なんですか いきなり」
突然鳥で制圧された司令室に入った女性警察官のようなことを叫び出すアルだったが、言いたいフレーズを率先して言うのはオタク特有の症状である。『言いたかっただけです』という言い訳をしながらカササギに戻ったアルは、再び2人と情報の共有を行う。
***
「四角いキ○ーブっと。えーっと、つまり?」
「最小の被害で食い止めて、最良の処置をしたまでです」
「大空のサ○ライに謝れ」
少なくともアルを知る人物の心に最大のダメージを負わせることが最良なのかと手刀と共にツッコみを入れたい気持ちがエルの心を満たすが、今はそんなことをしている暇は無いと自制する。
大まかにアルが居なくなってからの戦況が共有されたが、その中にアルが聞いていた音。エル達の認識では『詩』の情報もあった。
「あれはマギウスサーキットへの直接攻撃ですよ。身体強化使っていれば対抗できます」
「やっぱり外部から不要な命令を送ってたんですね。僕も原因までは喉まで出掛かってたのにぃ……兄さんはすーぐ先に結論までたどり着いちゃうんだからー!」
「兄より優れた弟なんて居ないんですよ!」
考察も虚しく呆気なく原因と対処が教えられたことでアルは悔し涙を流す。しかし、そろそろ移動しないと欲しくもないお代わりが着そうな気配を感じ取ったアディはエルに移動を提案した。
「では、アディの言うとおり移動しましょうか」
「はーい」
「ほんと、この馬鹿でかいのマジでフレメヴィーラに連れて行く気だったのなら神経疑いますけどね。夜逃げに一軒家丸々持っていくヤベーやつじゃないですか」
移動を開始する際に改めて空間を見渡したアルがポツリと言う。
ただの空間でさえもマガツイカルガが暴れまわるのに十分な広さなのだ。それが莫大な数存在するのだとしたら、少なく見積もってもフレメヴィーラの4分の1ぐらいはすっぽり収まってしまうだろう。
そこからさらに
(よほどの理由があるのかなぁ。でも、亡命なら僕達で何とかできるのになぁ)
カササギの操縦席の裏側に押し込められたアルは、操縦に介入できない暇な時間でそんなことを考えていた。ここまで大事にした以上は白黒はっきりつけねばならないのだが、逆を言えばここまで大事にしないと為せない野望があったということだ。
それがなんなのかは
「そろそろでしょうか」
細かったり太かったりする通路を抜け、繊維質の柱を数えるのが億劫になるほど切り裂いた先でマガツイカルガは再び巨大な空間に行き着いた。周辺には繊維質の柱が壁のようにみっちり敷き詰められており、その空間の中央には一際大きな柱が直立している。
「アディ、いつでも動かせるようにしておいてください。近づきます」
「分かった」
炉からあふれ出る魔力を全身の
「兄さん、あそこ見てください」
「明らかに人造ですね」
先ほどから脈動を続けている膨らみの周囲で何かを見つけたアルがカササギの
その発見によってエルも魔王が自然に生まれたものではなく、人の手によって創られた存在だと十分に理解する。だが、今まで様々な開発を行ってきたエルやアルでさえも魔王と言う異形を作り出す技術の全貌を図り知ることは到底叶わなかった。
「ここまで来たんですから、なにか分かりませんかね」
「んー……あれ? あそこ輝いてません?」
ただ、技術的にも断片的には物に出来ないかと解析を続けていたエルは柱の中心で膨らんでいる部分が水晶のようにきらめいていることに気付いた。アルも続けてそれを観察すると、どうやら内部に1人……いや、2人の人影が見えることから『誰か』がそこに居た。
「あの方々は──「まさか、ここまで来るとはね。賞賛に値するよ、エルネスティ君」」
どうやらこの中枢に浮かんでいる人物は
しかし、まるで見てきたかのように話す
「まるで当事者のように言いますね。脳内トリップでもしてるんでしょうか?」
「ああ、アルは会ってないから分からないのも無理は無いですね。1種族だけ……あの方々と同じ種族であればオベロンが言っていることはおそらく本当のことかと。ですがあの方々は滅多に人前に……まさか、連れ出した?」
次々と嵌るパズルのピースにエルは思い切って
『貴方や父母は"アルヴ"なのか』──と。すると、突然
「いかにも、僕はアルヴの民さ。どうやら僕が居ない間に西のアルヴは君達の歴史に顔を出したらしいね」
「いえ、今も静かに過ごされています」
「そうかい……。当時のように無理やり連れて行かれないならば、ますます帰らねばならないね」
どうやら先ほどからエルと話していたアルヴの話に
「おや、その姿は……副団長殿だったかな? 驚いた、ミスティックナイトの操縦席がある部分を貫いたんだがね」
「残念でしたね。トリックですよっと」
「あ、戦うならどうぞ。僕はこちらの方々と見てるんで。お隣失礼します」
「君は……あれかい? 媚を売っているのかい?」
既に大いなる流れに還りそうな自分の父母に対して生きているかのように接するアルに、
『死ねばみな仏』。正月、節分、七五三、クリスマス、バレンタインデー、最近ではハロウィンも迎合した八百万の国出身であるアルにとってその言葉は今もなお根付いている。
ゆえに、例えジャロウデクの王子であろうとも兵士であろうとも寂しくないように国許へ送り返すし、せめてもの慰めに手向けも行った。
多少、姿形や大きさが変わったところでその考えは変わらない。さらに言えば、多少死に掛けたぐらいで矯正できるほどなまっちろくない筋金入りの頑固な汚れのような性分だ。
「媚なんか売ってませんよ。ただ、この方々は僕よりもはるかに目上の方なので敬っているだけです。貴方には色々あったのでこのまま話しますがね。しかし、正直に話してしまえば僕は暴力よりも話し合いが好きなので、あなたの言葉を信じるのならこの方々を帰す方向で議論したいですね」
「なんだい、話が分かるじゃないか。では 「このデカブツはノーセンキューですが」 ……そうかい」
話が通じると思った
「良いだろう、まずは前哨戦だ」
「だから、この水晶体単体だけで持ち帰れば良いじゃないですか。そうすれば皆帰れて平和ですよ」
「それは出来ない、この魔王は父さん母さん……ンンッ! 我が父母の残した唯一の希望なんだ! それを置いていって巨人なんかに使われた日には僕は狂うよ! 君たちこそ、この魔王や獣達を迎えてくれるだけで良いんだ! 簡単だろう?」
「こんな巨大な危険生物持って行けないって言ってるんですよ! それに、騎士を肉繭に閉じ込める危険人物とかどう説明するんですか! 一応あなたの部下でしょうが!」
「徒人だからね。それに、そこは君達の騎士団がなんとかするだろう?」
「あー出た出た! 面倒くさいことは人任せ! 責任取るの僕達なんですから止めてくださいよ。日照権って怖いんですよ」
ぎゃいぎゃいと叫ぶ声が空間に反響する。もはや
「分からずや!」
「どっちが!」
こうして、『父母と共に故郷に帰りたいが、魔王や獣達を置いていけない』という
「まったく、これだから徒人は……」
「これだから譲歩しない人は……アルヴか」
『あ"っ?』
「あのー、僕とアディ忘れてません?」
燃料が追加投入されそうだったので、いい加減話の流れを掻っ攫おうとエルが声を掛ける。しかし、
「オベロン、僕はそこの弟と違ってもはや語りませんよ」
「そうかい、では仕方が無いね」
既にマガツイカルガは全ての装備を展開しており、その構えからいつでも戦闘状態に持っていけると確信した
「副団長君、私の父母に対する敬意や話し合いに免じて言っておこう。"そこから動くな"、別に動いても良いがね」
「感謝します」
「まったく、言葉で語ろうとしたと思えば実力行使で来たり……。徒人は本当に身勝手だ」
「ブーメランかな?」
「そうですね、あなたも徒人に十分染まっているかと」
「ククッ……ハハハハッ! アルフォンス、これが終わったら今度こそ君を言葉でねじ伏せてあげよう! だが、まずは君だよエルネスティ!」
2人からのツッコみがツボにはいったのか、
ただ、笑いながらも
それが今も自らの父母の近くで
ただ、エルが申し出たのは力による実力行使。なんとも徒人らしい自分勝手な考えだが、手っ取り早くて存外悪くない方法だと考える自分に対して『ずいぶん染まったものだ』と自虐げに苦笑した。
「今更待ったは無しだ。後悔するなよ」
敵は強大。慢心する余地はどこにも無い。しかし、ひたすらに故郷を想う気持ちと共に
エル達が進入してきた際は少ない数を散発的に投入した結果、マガツイカルガの高過ぎる殲滅力に返り討ちになったが今回は動きを封じた上での数の暴力である。勝てる見込みは十分存在していた。
しかし、フレメヴィーラ史上最高の欠陥機とフレメヴィーラ史上最狂のナイトランナーはさらにその上を往く。『
夥しい魔力の奔流が腕から掌、そして
「させるか! ミスティックナイトよ!」
反撃に気付いた
──だが。
「な、なにぃ! やめ、やめろぉ! なんで……なんでだよぉ!」
今にも泣き出しそうな
「戻れ! 戻ってくれよぉ! ……父さん、母さん! 僕はまだっ! あいつとの話し合いもっ!」
繊維質の柱が砕ける音を聞きながら
「なんだったんでしょうって……そうだ、アル!」
突然の幕引きに呆然としていたエルだったが、中枢近くに居たアルが蹲っていることに気づく。未だに
「このぉ! いい加減止まりなさい!」
「アル、連携したとおり身体強化を全力で演算しなさい! それで何とか……ぐぅっ」
アディがイカルガに法撃指示を与える一方で、エルは
もはや詩という生易しい物から打って変わり、ヘビメタのようなシャウトが3人の脳とマギウスサーキットを激しく揺さぶる。全力で魔法を演算してもじわじわと食い込んでくる
そんな時だった。アルは、あろうことか
シルエットナイトに乗っていないので、エルやアディよりも
「……あー、確かに助けないとですね」
そんなアルの思惑がなんとなく伝わったエルは、辛そうなアディに
燃え盛る業火が繊維質の柱の根元を焼き壊し、中心にある水晶体ごと倒れる。
「ぬおぉぉ!」
落ちて来る水晶体に向かって凄まじい勢いで走り寄ったアルは両手でガッチリと水晶体を受け止める。柱1本分なのでかなりの重さだが、土木工事にも耐える
受け止めた体勢のまま、アルは投げたボールを咥えた犬のようにマガツイカルガに向かって駆け出すと口を開いた。
「要救助者、確保!」
「全く、この子は。……誰かさん方も、伝える相手が違うんじゃないですか?」
種族が異なろうとも、文化が違おうとも、どのような姿になっていようとも隣人と接するような対応を平然と行う弟に、
その意志をエルに送ったのは
しかし、その意志達はたしかにこう伝えてきた。『ありがとう』と。
オベロンは会話できる敵だと思うので、エルが実力行使に対して対話することにしました。