銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

16 / 200
あけましておめでとうございます。
今年も1年、銀鳳の副団長をよろしくお願いします。


幕間(スパロボ3話)

 ドライストレーガーがそろそろ東京に着く頃。突如、ドライストレーガーの艦橋にエマージェンシーコールが鳴り響く。

 その時、ちょうど今後の予定を詰めていたミツバ達はそのサイレンにも似た音に思わず姿勢を正しながら送られてきた内容を精査すると、どうやら警察が開発した超AIを備えたロボットを奪取しようとした犯罪者が都内で暴れているらしく、ドライストレーガーにはその事態に対応を行って欲しいというものだった。

 

「パイロット達は戦闘配備を呼びかけて! 市民の救助は陸戦隊に対応させます! アル君は……どうせその場でなんとかするだろうし、通信装置を持たせて好きに動くように伝えてください」

 

 ミツバのハキハキとした指示によってドライストレーガーの各所に備え付けられたスピーカーに命令は伝達され、艦内は一気に戦闘寄りの空気に染まっていく。ただ、アルへの指示はかなり大雑把な命令だったので、『うわぁ、すっごい雑に扱われてる』と本人が言葉を溢した。

 

「いや、お前。南原コネクションで色々やらかしてただろ」

 

 イチナナ式に乗り込みながらツッコむ甲児に対し、アルは視線を逸らしながら口笛を吹くことでなかったことにしようとする。だがその時、ヒュッケバイン30の拡声器からアズが『皆、外に出る時はアルがくっついていないか確認して』と発言をしてから何時でも甲板に出れるようにエレベータの待機所に機体を進ませるので、アルは『ここに居ますよー!』と怒りの声を上げた。

 

「さて、艦長からフリーパスもらってますし、準備して来ようかな」

 

 やがて、全機がエレベーターから艦の外へ出たところで、アルも出撃準備を開始する。サンパチを持ったアルが陸戦隊の装備が保管されている部屋に赴くと、既に準備を始めていた隊員の横で着替えを始めた。中には『え、なんでこいつここで着替えてんの?』という懐疑的な視線を一瞬だけ向ける者も居たが、後に『ああ、こいつ本当に男だったのか』と勝手に納得していた。

 

 アルはまず、肌着の上に戦闘時いつも身に着けていた鎖帷子を着込みだす。そんな博物館ぐらいでしかお目にかかれないような装備に特にミリタリー趣味の強い隊員の目がギラつくが、その視線も気にせずにアルは鎖帷子の上から陸戦隊が着る防刃ベストをアル向けに小さく調整したサイズの物を着込んだ。

 そして、肩や心臓を保護する厚手のプロテクターを装備し、最後に咽喉(いんこう)マイクを首につけたところで、アルは自身の姿を鏡を確認しながら顎に手をやった。

 

「んー、ロボ相手にこれだけは心もとないなぁ」

 

 現在の装備はサンパチとセッテルンド大陸でずっと使っていた大振りのナイフぐらいであった。これだけでロボットを相手にするのは心もとないと思ったアルは、『え、お前その装備でロボット相手にするつもりなの?』とざわめいている陸戦隊の隙間を縫って部屋に備え付けられている内線電話を手に取った。数度のコールの後、繋がったのかブツリという電子音と共にリアンの声がアルの耳に届く。

 

「はい、こちら艦橋。どうしました?」

 

「あ、ミツバ艦長呼んでもらえません?」

 

「アル君? ……うん、分かった」

 

 そういったリアンが艦橋のスピーカーに繋げたのか艦橋の電子音やら話し声がアルの耳に届き、すぐさまミツバの『アル君、どうしたの?』という質問が投げかけられた。

 

「この船に刀剣の類ってありません?」

 

「ごめんなさい。なにを言ってるの?」

 

 アルの質問に意味が分からないとばかりにミツバが答え、その返答に対してアルが『重火器扱えないので、犯人やロボットと白兵戦をする時に必要』と詳しい説明を行うが、歩兵が重火器もなしに機動兵器に立ち向かうというケースは『一般的』とはいえないがゆえにミツバからの賛同や納得をもらうことは出来なかった。

 

「そもそもなんでこの船にそんなものあると思ったの?」

 

「ミツバ艦長なら刀とか持ってると思ってました。こう……膝丸とか村正とか毒を注入できるやつ持ってません?」

 

「アル君、私のことなんだと思ってるの?」

 

 刀剣をコレクションしている女子なぞ稀有な存在だろうとミツバの冷ややかな声がアルの耳をくすぐるので、本当にドライストレーガーに刀剣の類はないのだろうと確信したアルは、最終的に強化プラスチックで出来た盾を背負い、数十本にも及ぶ発炎筒、特殊警棒をバックパックに詰め込んで陸戦隊の詰所から出ていく。

 そして、いざドライストレーガーの扉から出ようとしたところで背負った盾が数度ほど引っかかり、外に出れないといったところを艦内の監視カメラにばっちり撮られてミツバ達に笑われつつ、アルは外に出ていった。

 

***

 

 アルが外に出て行った時、既に陸戦隊は近隣の市民の避難を開始していた。それに合流する形で盾を構えながら飛んでくる瓦礫などから市民を守っていたアルだったが、敵の機動兵器──後にドライストレーガーのデータバンクによって『デスマグネ』と登録される機体の胸に取り付けられたメインコイルからのビームがドライストレーガーに殺到する。

 しかし、地球連邦軍の最新鋭艦であるドライストレーガーは、そのようなビームや磁力が帯びたことによって飛来する金属製の物品は物の数に入らないのか、悠々とその場を飛んでいる。

 ただ、その余波によって周囲の建物に多大な被害が生じ、安易に船を前に出せる状況ではなかった。

 

「ちょっと偵察に出てきます」

 

「分かった。危なくなったらすぐに退くんだぞ」

 

 この状況でドライストレーガー側に避難させるのは却って危険だと陸戦隊員が総出で避難経路を修正している時、アルは単独行動することを報告する。その報告に近くの隊員は即座に許可を出すと、アルは圧縮大気推進(エアロスラスト)を用いて勢いよく真上に飛び上がった。

 

「アルフォンスより全ユニットへ。敵機動兵器は目視で5機を確認。ドライストレーガー、そちらでは何機ぐらい確認できますか?」

 

 圧縮大気推進(エアロスラスト)を維持しながら目視で敵機を確認する。幸いにもデスマグネは図体がでかく、素早く数を数えたアルは近くのビルの屋上に着地すると咽喉マイクに手を添えて全体のチャンネルに目視での報告を行う。

 

「こちらは7機を確認しています」

 

「了解。ステルスの可能性もありえるので、周囲を見て回ります」

 

 今後の行動について報告し終わったアルは、ビルの屋上から別のビルの屋上に飛び移る行為を何度も繰り返す。高層ビルの外壁を蹴って進行方向を調整しながら圧縮大気推進(エアロスラスト)で飛び回り、デスマグネが集中している所を重点的に調べはじめる。

 やがて、戦闘区域のデスマグネの位置や数を調べつくしたアルは、ドライストレーガーから共有された敵機とその数に誤りがないことを伝えると、道の真ん中で座礁している輸送艦の近くに建っているビルの屋上へ降り立った。

 

「あれが超AIを備えたブレイブポリスか」

 

 屋上から先ほどから無線で話の出てきた機体をアルはワクワクといった様子で見ていた。超AIと言うのがどのようなものかアルには分からないが、まるで1人の巨人が金属製の外装を纏っているようにしか見えないほど滑らかな動作や柔軟な受け答えに、あれを作り出すために携わったエンジニア達の血と汗と涙の物語が透けて見えたアルは手で目元を覆った。

 

「あんな芸術品を何の苦労もなく奪うなぞ……ゆ"るさ"ん!」

 

 テロリストに慈悲なし。そう思って屋上から飛び出そうとしたアルだったが、輸送艦の外に出ていた少年が何かを掲げながら叫ぶとデッカードは瞬く間にトレーラーと合体。その少年の口から『ジェイデッカー』という新たな名前が叫ばれる。

 

「2つのものが力を合わせて1つになる。そして強大な敵を打ち破る! やっぱり男のロマンは最高ですね!」

 

「ジェイデッカー。カッコイイ!」

 

 今まで成功しなかった合体が1人の少年によって可能となった奇跡の瞬間に、アルは最高の賛辞を五体投地で表現する。アズもジェイデッカーの格好良さに年頃の反応を示しているので、後でヒュッケバイン30に合体機構を提案しようとしていたアルは、ふとあの少年がこのまま地上に立っていたら戦闘に巻き込まれるのではないかと危惧した。

 輸送艦も敵勢力の射線上にあるので、一旦保護した方が良いと判断したアルは素早く咽喉マイクで『ジェイデッカーの側に居る少年を保護します』と報告してからビルから飛び降りる。空中で演算した大気衝撃吸収(エア・サスペンション)を地上に設置したアルは、ストンという軽やかな音と共に片手・片足・膝・つま先で(ヒーローがよくやる)着地を行ってから輸送艦の前に居る少年に声をかけた。

 

「少年。ナイス合体」

 

「え? な、ナイス合体」

 

 突然の乱入に訳が分からないまま少年が返答し、その返答直後にアルはその少年を横抱きにしながらビルに設置されている窓やパイプ管を足場にしながら圧縮大気推進(エアロスラスト)を使うことで再び屋上へ舞い戻る。不安そうにあるの方を見てくる少年に『君があの場に居たら危ないから避難するんだよ』と一声かけていると、電子音の後にリアンの声が耳に入った。

 

「ドライストレーガーよりアルフォンスへ。警視庁の冴島総監に事情を説明したので、輸送機へ周波数を合わせてください。周波数は──」

 

「hoge……hoge……っと。こちら、ドライストレーガー所属のアルフォンス・エチェバルリアです」

 

「警視総監の冴島だ。早速ですまないが、輸送機の修理が終わったから先ほど君が連れて行った友永勇太君を連れて着いてきてほしい」

 

 『冴島』と名乗る男からの指示にアルは『了解』と返事をし、動き出した輸送機の進行方向から撤退ルートを決めていたところ、腕の中の勇太と呼ばれていた少年が『ジェイデッカーに声をかけたいから降ろして』とアルに頼んで来た。ただ、ここは屋上なので声は聞こえないのではないかと思いながらも勇太を降ろすと、少年らしく大きな声を用いることでジェイデッカーに応援の言葉が込められた命令を送った。

 

「じゃあ、行きますか。ボス」

 

「もう! 君までボスって言うのやめてよ!」

 

 ジェイデッカーからのボス発言に感化されたアルが勇太を再び横抱きにしながらビルの屋上を飛び去っていく。その常軌を逸した行動に勇太は思わずアルに『魔法使い?』と問い嗅げるが、アルは『練れば寝るほど味が変わって……美味い! じゃないですよ!』と茶化しながら無事に戦闘エリアの外まで退避した輸送機の真上に着地した。

 

「冴島総監、勇太君をお連れしました。私は再び部隊に帰ります」

 

「ありがとう。助かった」

 

「いいえ、輸送機の修繕速度から私が送るまでもなかったみたいですし」

 

 現にアルが勇太を保護しなくてもすぐに輸送機が動いたので、保護した意味がなかったような気がするアルに冴島は『それでもありがとう』とさらに礼を言ったので、アルはその礼を受け取りながら地上を疾走する。その人ならざる速度に、冴島はアルのことを地球連邦軍で開発された小型のアンドロイドと密かに疑っていた。

 

***

 

 圧縮大気推進(エアロスラスト)で地面から少し離れた所をかっ飛ぶアルは、コン・バトラーVが大型のミサイルを無人のデスマグネにぶつけて大爆発を起こしている場面を見ながらドライストレーガーに通信をかけた。

 

「こちらアルフォンス。ゲストは無事に送り届けました。戦線に復帰します」

 

「こちらドライストレーガー。了解しました。敵の残数は3、こちらの優勢ですがジェイデッカーが孤立しています」

 

 リアンからの応答を聞きながら3機のデスマグネがジェイデッカーに群がっている光景を見たアルは、バックパックの中から発煙筒を数本指の間に挟む。そして、圧縮大気推進(エアロスラスト)の出力を上げながら高速でジェイデッカーに近づくと、持っていた全ての発煙筒を点火してそれぞれのデスマグネの足元や胸元向かって投げ込んだ。発炎筒からは赤や白といった煙をもうもうと噴出し、数秒後には全てのデスマグネが煙に包まれる。

 

「ジェイデッカー! しゃがんでください!」

 

 アルの大声に咄嗟にジェイデッカーがしゃがむと、その上を無人のデスマグネが放った『ビーム』が通り過ぎる。その射線上にはドクトル・ガウスの乗るデスマグネがあり、視界不良ゆえにそのまま攻撃をしてしまった無人のデスマグネに対してドクトル・ガウスは悪態をつきながら躱そうと操縦桿を動かした。

 だが、ビームは彼の乗るロボットの右腕に命中してしまい、ビームによって磁力を帯びてしまった右腕に、先ほどまでの破壊行動によってそこらに散らばっていた大小の金属が殺到した。

 

「くそっ!」

 

 ドクトル・ガウスは機体の片腕を強制的にパージしながら巨大な腕を振り上げようとするが、すでに準備を行っていたジェイデッカーのジェイバスターがもう片方の腕を吹き飛ばす。その間に後方では2機の無人機がヒュッケバイン30などのドライストレーガー所属のロボット軍団に打ち倒される。

 

「ドクトル・ガウス! 器物破損、強盗、恐喝──」

 

 ジェイデッカーが口上を言いながら両腕が破壊されたデスマグネに近付いていくと、操縦席が開いて中からドクトル・ガウスが這い出てきた。そして、叫び声をあげながらその場を走り去ろうとする。

 

「事件の首謀者が脱出! 逃走を図ろうとしています!」

 

「うわ! ビルとビルの隙間に逃げ込みやがった! 俺達じゃ追えねぇぞ!」

 

 ドクトル・ガウスを捕まえようとする彼らだが、寸での所でビルとビルの隙間に逃げ込んでしまう。取り逃がしてしまったことで豹馬が声を荒げるが、東京というビルが乱立するこの作戦区域全体をロボットによって首謀者を逮捕するのは無理があると考えたミツバは、ひとまず警察と協力して作戦エリアの外に網を張ってもらうことをリアンに指示を下した。

 

「艦長、下水などに逃げ込まれた場合は手に負えませんよ」

 

「大丈夫です。ドライストレーガーには頼もしい座敷童が居ます」

 

 『座敷童』という言葉に反応した副長が『彼ですか』と少しだけ頼りなさそうな表情を浮かべつつ、別のオペレーターにドライストレーガーがスキャンした地図や予想逃走ルートといったデータをアルの端末へ送信させる。

 すると、いきなりデータの送信に驚いたアルがドライストレーガーに通信をかけながら、ドクトル・ガウスの姿を捕捉する。先回りしながら『故郷のおふくろさんが泣いてますよー』と凶悪犯に呼びかける警官ムーブをかますが、ドクトル・ガウスは無視してアルの横をすり抜けようとする。

 

「無視すんなやゴラァァ!」

 

 その瞬間。ドクトル・ガウスの腰部に圧縮大気推進(エアロスラスト)を全開にしたアルの悪質タックルが炸裂する。ついでに特殊警防を手にドクトル・ガウスの背中に突きつけたアルは、『じっとしていてください』と妙に冷たい言葉を投げかけながら最後の発炎筒を着火した。

 

「協力感謝します。……えっと、アルフォンスさんで良かったでしょうか?」

 

「はい、アルフォンス・エチェバルリア。ドライストレーガーのパイロットです」

 

***

 

 そんなこんなで無事にドクトル・ガウスがジェイデッカーに収監された後、アルは甲児やアズ、バトルチームを代表として豹馬といったパイロットの面々や陸戦隊と共にミツバを護衛という名目で警視庁まで来ていた。本来ならばアズ達と共に駐車場で待機しているはずだったのだが、これから協力を依頼する人物が先の戦闘でアルが救助した少年らしく、見知った顔が居た方が良いだろうというミツバの判断でアルも警視庁の中に入ることになった。

 

「スーツ買いたい」

 

「その背格好だとオーダーメイドぐらいしかないんじゃないかな。高いわよ?」

 

 エレベータで警視総監室がある階層まで上がる際、アルは自身の纏っている服装に不満を漏らす。

 現在、アルはパッチワークに乗る際に着込む革服や裾の長いズボンといった完全防備の姿で同行していた。だが、改めて東京に住んでいる人の服装やドライストレーガーの乗員の普段着を見ていると、半ズボンに肩を露出させている普段の服装や、戦闘時に着る革服といった服装に疑問が生じたのである。

 せめて仕事は当然として冠婚葬祭に出れる万能衣服、『スーツ』を購入したいと願うアルの背格好を見たミツバは容赦のない言葉を投げかける。

 

「それにしても、アル君堂々としてるわね。警視庁って初めてでしょ?」

 

「前の話になりますが、警察署にはお世話になりましたからね。ここと似たような建物でした」

 

 雑談の中に平然とぶち込まれる爆弾発言に、ミツバは目的の階層に達したエレベータが開かれると同時にエレベータから出ると『え、犯罪者?』と声に出しながら近くの壁に背中を預けた。

 まるで危険人物と出くわした時のような反応に、アルは笑いながら『違うんです刑事さん。出来心だったんです』と刑事ドラマのようなセリフを吐いた後、『まぁ、冤罪なんですけどね』と気にせず廊下を歩き出す。その後ろを歩きながら、先ほどのアルが発した言葉について興味を持ったミツバが質問すると、アルは『僕が全体的に悪いんですけどね』と言ってから事情を話し始めた。

 

「こう……、電車の中で緊急の連絡が来たんで通話したわけですよ。えーっと、なに話したんだったかな。あー、"親プロセス死んだ? 子は生きてるの? 生きてる? それおかしいね。子供もちゃんと殺して。ゾンビが一番厄介だから親も死んだこと確認して"だったっけ。そしたら通報されました」

 

 話を聞く限りだとアルが前に言っていた前世の話なのだろうが、それを加味してもアルがとんでもないことを口走っているという感想が出てきたミツバ。その『この子、ヤとかマの付く自営業?』と懐疑的な視線に気付いたアルは『まぁ、後でメイヴィーさんにこの話の解説してもらってください』と丸投げしながら廊下を歩いていく。

 

 ちなみに、この話を聞いたメイヴィーは『それと似たようなコント知ってる』と大笑いしながらミツバに解説したらしい。

 閑話休題

 

 そんなことを話しながら歩いていると、ミツバ達の耳に誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「総監! 副総監として、私は反対します!」

 

 副総監と自称する人物の怒号やその後に続く勇太が開発中のデッカードと接触したせいでエラーが出たという発言に、アルの表情は見る見る内に険しくなっていく。そんなアルの怒っている気配を感じ取ったミツバは、『連れてくるの失敗したな』と反省しながらも怖くてアルの顔が見れないのか、明後日の方向に視線を彷徨わせていた。

 

 そうしている間にも話を聞くからと連れてきた少年に向かって『子供は黙っていなさい』と矛盾するやり取りに完全にキレたアルが総監室に突撃しようとするが、さすがにそこは看過できないとミツバがアルの首根っこを持って静止させる。

 そこでようやく冴島総監達がドライストレーガーの話をしだしたので、ミツバはアルの方を向いて『良い子にしているように』と、まるで小さい子供に言うように喋るとアルを降ろして扉をノックする。

 

「失礼します」

 

「お姉さん、誰? ……あ、さっきの女の子」

 

「いえいえ、女の子はないでしょ……これでも男なんですよ?」

 

 入ってきた2人の人物の1人に見覚えが合った勇太は声をかけるが、アルは肩を落としながら自分の性別を明らかにする。だが、彼の言葉にミツバを除いた全員が自身の耳を疑うような仕草をするので、アルは『もう良いです』と不貞腐れた。

 そして、デッカードがドライストレーガーに乗艦するという警視庁と地球連邦軍との協力関係が結ばれる。話が終わると同時にミツバは、アルに勇太達と共に先に戻っているように伝えた。

 

「個人的にはそこの副総監という人にとてつもなく言いたいことがありますが、こじれるのでこの場は黙ってます! ……で、良いんですね艦長!」

 

「んっ! んっ! アル君!」

 

 突然の失礼過ぎる物言いに、ミツバはわざとらしい咳払いをしながら片手で威嚇するようなシャドーボクシングを始める。少し離れた位置に居るアルからも聞こえるその風切り音は、アルの頭に『鉄拳聖裁(制裁)』を浮かべるのに十分なインパクトを与えた。

 

「では、失礼しま~す」

 

「地球連邦軍の中佐ともあろう人が、子供なんか連れて……どのようなおつもりで?」

 

(あずま)君!」

 

 勇太やその姉である『友永あずき』を伴って部屋を出て行こうとするアルだったが、『東』と呼ばれる副総監の言葉がアルの足をその場に止めさせる。

 副総監としては、先ほど口答えをした少年と似たような年頃の子供が自分に意見したことに少しだけ腹が立ったのだ。それに対して僅かな文句が漏れ出してしまったのだが、それが聞こえたアルは『艦長、ちょっとすみません』と一言謝罪しながら東の方を振り返った。

 

「その分野について素人なのですが、心なんて複雑な物をバックアップできる媒体があるのですか?」

 

「なに?」

 

 一部の界隈──特に卒業間近の学生には恐怖を覚えるフレーズを唱えながら、アルは東に問いかけた。生憎設計者や開発者でもない東にとってその質問は門外漢らしく、黙っているとアルが続きを話し始める。

 

「たしかにあんなに流暢に話すAIなんて僕は見たこともありません。そして、その戦闘能力も合体能力もエンジニアの皆さんが、日夜心血を注いで出来た物だと十分に理解できます。それに、クライアントとしてイレギュラーを排除したいという気持ちは十分に察せます。ですが、その対応を行った後……仮に今の状態より性能が落ちた場合はどうするおつもりですか?」

 

 アルが言っているのは性能面と再現性の話だ。今回の超AIに影響を及ぼした『エラー』は、勇太とデッカードが出会ったことで生まれた。いわば、偶然の産物である。

 それによる性能はかなり高いということが今回の戦闘で分かったが、作成を依頼した警視庁としてはそれは『イレギュラーな事態』である。

 

 その事態を解決するため、当初の予定通りにデッカードの中にあるデータを全て消し、新たに情報をインプットしたとしても同じ性能が引き出せるのか。仮に引き出されなかった場合、今回のデッカードを再現する方法が存在するのか。アルは彼らの話にそう言った具体的な案がないことを指摘した。

 

「い、一時的にデータを移し変えさえすれば……」

 

「心なんて代物。データ化するには膨大すぎると思います。それに、データは劣化しませんが取り扱いや環境によって使えなくなる可能性もありますし、改ざんリスクも十分にありますよ? そんな一点張りではなく、対策プロジェクトを立てて有識者と協議を行わないと取り返しが付かない問題になるかと」

 

 デジタルデータは劣化しない。たしかにそれは真理なのだが、そこには『データの保存方法についての問題』が発生する。

 仮に物理媒体ならば直射日光、物理的な破壊によって記憶媒体がやられた場合は当然データが使用できない。クラウドといったネットワーク内での保存を選ぶのならば徹底した管理体制を敷かないと改ざんや流出の餌食となってしまう。

 なので、そういった有識者を集めて対応するまで早急な対応は見送るべきだと説明するアルの言葉に、東は『申し訳ない』とアルのことを1人の人間として真摯に謝罪した。

 

「いえ、僕の方こそ警視庁側の考えもあるのに、意見して申し訳ありませんでした。それでは、失礼します」

 

 先ほどの東の発言にアルは怒っていたのは事実だが、別に『論破』してマウントを取りたかったわけではなく、純粋に『提案』して別の道を提示したかっただけである。なので、アルの方も『出すぎた真似をした』と素直に謝罪しながら勇太達と共に部屋を後にした。

 

「おう、どうだった?」

 

 部屋を後にした3人は駐車場で待機していた甲児に、アルは手を挙げながら合流する。どうやら各個人についての今後の予定は既に端末によって連携済みらしく、陸戦隊はこのままミツバを待つために待機。甲児とアズとアルは、あずきを家に送り届けるためにパトカー形態へ変形したデッカードに乗って友永家へと向かった。

 

「友永あずきさんで良かったですよね? 失礼を承知でお伺いしますが、御両親は今どちらへ?」

 

 突然話しかけられたあずきは、少しだけ困った表情を浮かべながら『仕事で海外に』と小さく答える。今回の件でデッカード──ジェイデッカーを運用するためには勇太の協力が必要不可欠なので、出来ることならば勇太にもドライストレーガーに乗ってもらう必要がある。

 

 ただし、勇太はまだ小学生である。軍の都合とはいえ子供を親に無断で軍艦に乗せるのは拉致と変わらない。

 そういった理由で警視庁と話を詰めているミツバに変わって甲児が承諾を得るために同行している。アルは知らないが甲児はこの世界を代表するような有名人らしく、ミツバもその辺を加味して甲児に説得役を抜擢したのだろう。

 

「えっと、次の角を右です」

 

『了解』

 

 デッカードの声に反応して自動的にハンドルが切られ、全員は友永家の正面にたどり着いた。玄関には見るからに元気はつらつといった女の子が立っており、勇太やあずきの姿を見るや否や『あ、帰ってきた』と言いながら走り寄ってくる。

 そんな家族の様子を見ながら、甲児はこれからその家族をさらに離れ離れにさせるための説得を行わなければいけないことに、見るからに気力を最低限まで落としていた。

 

「さて、首を縦に振ってくれたら良いんだが」

 

 失礼が無いように服についた埃を軽く払った甲児が覚悟を決めてデッカードと共に友永家に接触する。そんな彼らの後姿をアズ達は静かに見守っていた。

 

「家族か……」

 

「なんだよ、アズ。俺達に着いてきたのは、勇太の家族を見たかったのか?」

 

 豹馬の言葉にアズはこくりと頷く。横で壁にもたれていたアルは、端末をポチポチと押してミツバとメッセージのやり取りをしながら静かに彼らの言葉に耳を傾けていた。

 アズが『家出』と言う言葉に物悲しそうな表情を浮かべ、豹馬が『ドライストレーガーの皆が家族』と元気づけ、『いつか有名になると良いな』と夢想していたところを戻ってきたデッカードに『別の意味で有名』であることを告げられて凹んでいる姿に、アルは『豹馬の黒歴史暴露なう』と短めの報告を最後にアルは端末を戻した。

 

「デッカード! 早速、豹馬さんとも仲良くなったんだね!」

 

 そうしていると家から出てきた勇太がデッカードに声をかける。そんな勇太をデッカードは肩に乗せながら新たなる出発点に思いを馳せる。

 しかし、そんな場面にアルは冷や水を浴びせた。

 

「勇太君。多分、お話はまだ済んでいないと思うからあずきさんの側に居なさい」

 

「え、でも……甲児さんが皆と難しい話をしてる……」

 

 どうやら難しい話で仲間外れになっていたので外に出ていたらしく、それを聞いたアルは『良いから』と強く念を押すように勇太を家に戻るように説得する。すると、『ちぇっ』と不貞腐れるように勇太が家の中に入って行ったので、アルは一安心とばかりに服の内ポケットからココアシガレットを取り出すと口に咥えた。

 

「なんだアル? やっぱり連れて行かない方が良いって考えか?」

 

「そうじゃないですよ。家族は大切にした方が良いんですよ。人なんて……気づいたら居なくなってますから」

 

 ポリポリとココアシガレットを咀嚼して呑み込んだアルはさらにもう1本口に咥える。アルの頭には数人の人影があった。

 前世でお世話になった上司や仲間。前世の家族。そして、ベヘモスのブレスによって命を落とした先輩。どれもアルが目を離した隙に手元から零れ落ちていった。

 まだ感謝も伝えていないのに。まだ話したりなかったのに。──何度後悔しても、もう遅い。

 

「失って、失って、失って……。大人になっていくたびに、色々とすり減るものなんですよ。だから、出来る内はそうした方が良いんです。子供はなんだって出来るんですから」

 

 そう言ったアルは、一度ココアシガレットを人差し指と中指の間に挟んで口から離してから、空高くに長い息を吐く。本来であればその一連の行動の滑稽さや、先ほどの言葉に対して『子供が何を言っているんだ』とバカにされるところだが、アズや豹馬は黙ってその行動を見ていた。

 

 ──というのも、彼らの目の前には銀髪の少女のような少年の姿はなく、甲児と比べると弱弱しい印象を持つ中肉中背の男が煙を燻らせる姿があった。その物悲しい瞳には僅かな水滴が付いており、どこか保護欲を訴えかけるその男はすぅっと周りの景色の溶け込むように消えると、アルが追加のココアシガレットを咥えようとしているのをデッカードが止めている光景が見え始めた。

 

「いけません。糖分の過剰摂取は糖尿病になりますよ」

 

「糖分は人を幸せにしてくれる魔法の粉なんです! ……あ、じゃあデッカードに幸せにしてほしいので、勇太君みたいに肩に乗せてください!」

 

「すみません。ここはボス専用です」

 

「ちくしょぉぉぉ!」

 

 きっぱりとした物言いで拒否を示すデッカードに、アルの心底残念そうな声を漏らした。ただ、ここは住宅街なのでアルも声を最小限に抑えながらも残念そうな声色を崩さないといった高等テクニックを用いてひたすら嘆く。

 そんな器用な落ち込み様に先ほどの幻覚のことはさっぱり忘れた2人は、ミツバに『アルがデッカードに振られました』と写真付きで報告した。

 

***

 

 その後、家族からの承諾を得た一行はドライストレーガーに戻ってくるのだが、ここで一つ問題が発生した。勇太がデッカードとの相部屋を希望してきたのだ。

 ドライストレーガーは2キロ弱といった膨大な全長を有しているが、ミツバをはじめとした乗組員の居室がある居住区はデッカードのサイズが入るような設計はされていない。

 そうなると勇太が格納庫で寝ることになるのだが、それを聞いたアルがこれ幸いとばかりにふんすふんすと鼻を鳴らしながら『格納庫の居住区画建設計画』なる資料を叩いてアピールする。

 

 しかしながらそのアピールはミツバには届かなかった。完全に無視されたアルは、静かに格納庫の壁に背中をくっつけながら体育座りで落ち込む。

 

「もしかして、勇太君。1人部屋だと寂しいの?」

 

「そ、そういうわけじゃ!」

 

 そうしている間にも話は進行していき、勝手に1人部屋だと寂しいという話になったので誰かが相部屋と言う話になっていく。その『誰か』を決める際、アズとミツバが名乗りを挙げた。

 

「私は甲児さんに面倒を見てくれって頼まれたから……」

 

「勇太君! 私の部屋でもいいのよ! お預かりしている以上、勇太君の面倒は艦長の私が面倒を見る責任があるので」

 

 やたらと『艦長』の所だけ語気が強い気がするが、とりあえずアルは小介を見ながら『小介君居るのに、小学4年生が男女の相部屋にするのはどうなのだろう』と考え、デッカードのシートで寝れば良いんじゃないかと勇太にアドバイスする。

 結局、1人部屋で寂しくなった時限定でデッカードのシートに泊まるという話になったが、この日を境にアズのご機嫌が少し斜めになった。

 

 ──ただ。

 

「アズー、ヒュッケバイン30に合体機構を」

 

「余計なことしたら怒るからね」

 

「頼むよー。お姉ちゃん」

 

「…………ちょっとだけだからね」

 

(チョロイぜ)

 

 特定のキーワードでころっと機嫌がよくなったりするので、特に問題なくドライストレーガーは次の目的地へ航行していく。




スパロボ幕間ですが、次はいつになるか分かりません。
予定としては3.5と4で終わりになります

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