銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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129話

 時は少し遡る。数人の藍鷹騎士団員が殻獣(シェルケース)の襲来を銀鳳騎士団に伝えるべくオルヴェシウス砦を訪れたのは、エルの指示で数台の幻晶騎士(シルエットナイト)の整備台がイズモに搬入されていた矢先であった。

 帰ってきて間もないというのに何かを作っている彼らに当惑していた藍鷹騎士団員だったがなんとかエルに状況を説明し、そこで彼らは2組に分かれた。

 1組はリオタムスらに状況を報告するべくカンカネンへ戻り、もう1組はリオタムスから与えられた任務を連絡網で各地に届けるべく藍鷹騎士団員が詰めているであろう中継地点へと馬の頭を向けて走り出す。

 

 一方で再び殻獣(シェルケース)が現れると思っていなかった銀鳳騎士団はというと大慌てであった。隊を纏める隊長達も居なければ、機体を大量輸送できる飛翼母船(ウィングキャリアー)も絶賛改修途中である。かといってツェンドリンブルは巨人族(アストラガリ)の観光でかなり消耗しており、一度大規模に整備をする必要があると話していたばかりだ。

 どうすればいいんだとばかりにダーヴィドは渋い顔をしてエルと話していた。

 

「ウィングキャリアーは改修中、ツェンドリンブルも整備に時間がかかる。どうすんだ?」

 

「うーん、残タスクは……よし。ウィングキャリアーの残作業が外壁に細工をするのみなので、こうなったら移動しながら行いましょう」

 

「はぁ? 空を飛びながらレビテートシップの改修とかふざけてるのかい!?」

 

 1個中隊分の整備台を船倉内の回転体と固定具にしっかり接続していたデシレアは、エルとダーヴィドの会話に口を挟む。空を往く飛空船(レビテートシップ)の外壁を移動しながら改修するなぞ、危ない以前に色々問題がありすぎる。

 一考の余地もなく却下だろうとデシレアは叫ぶが、ここでダーヴィドはまさかの長考。最終的に『内壁に"当たり"を付けるぐらいで良いだろう』と危険性が皆無かつ次の作業がやりやすくなる作業を提案する。

 その提案にエルも賛成し、作業中の危険性が限りなく低くなる提案をしたダーヴィドの機転にデシレアは口笛を吹いて賞賛する。

 

「流石だね、これで下に落ちることはないよ」

 

「気を抜くんじゃねぇぞ。こいつ、"とりあえず作りましょう"って思考だからこれ以上変なことを思いつかないように見張ってねぇといけねぇ。あの戦争の頃なんて、間に合わないって理由で銀色小僧に空飛んでる状態のレビテートシップの外壁工事を押し付けてんだぞ」

 

「失敬な。公正なるあっちむいてほいの結果、アルがやることになっただけです!」

 

「えぇい、喧しいわ! 人が出来るギリギリの難題を見極めたうえで赤子のように駄々をこねおってからに! 一番性質が悪いんだよ!」

 

 不服そうな表情でダーヴィドに抗議するアルと似た騎士団長を前に、デシレアは国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)で行われた彼の暴走は騎士団長に比べたらかわいらしいものだったことを理解する。それと同時に副団長も、たまに『振り回される側』に回っていることに親近感が沸いたとか──沸かなかったとか。

 

***

 

 そして、時はエル達がカンカネンでアルを回収。補給の片隅でニキチッチ達に新たな改修を施してカンカネンを経った頃に戻る。

 ヤントゥネンからツェンドリンブルという移動に秀でた幻晶騎士(シルエットナイト)で1日ほどの距離に存在する荒野。そこでは大隊規模のカルディトーレの集団が屹立していた。

 それぞれの肩装甲には異なったエンブレムが彩られていることから、多数の騎士団から集められたその集団は後方の簡易指揮所を中心に小隊に左右に長く広げた隊形に展開していく。

 彼らの眼前にある森林地帯の奥からは乱立する木々よりも大きな魔獣が顔を覗かせながら向かってきており、その上空には1隻の飛空船(レビテートシップ)がその魔獣目掛けて投石や法撃戦仕様機(ウィザードスタイル)による法撃を絶え間なく浴びせかけられている。

 

 そんな戦いと呼んで良いのか分からない場に新たな輸送型飛空船(カーゴシップ)が3隻と荷馬車(キャリッジ)付きのツェンドリンブルが何機も入り込んでくる。船体の下部には公爵位であるディクスゴード家の紋章が、ツェンドリンブルと荷馬車(キャリッジ)にはセラーティ侯爵とケルヴィネン伯爵の紋章が描かれており、それぞれは後方の簡易指揮所の近くまで近づいてくると動きを停止。騎士団長と思われる数人が指揮所の中へと入っていく。

 

「すまない、遅参した! 道中、徒歩で歩いていた騎士団を見つけてな!」

 

「いえ、むしろ揃って参陣されてありがたいです」

 

 複数の騎士団長の中から代表として一番位が高い貴族の騎士団長であるモルテンがアーニィスと話す。

 輸送型飛空船(カーゴシップ)という機動力の高いものに乗っておきながらも到着したのがツェンドリンブルと同タイミングだったのだが、徒歩で向かっていた戦力を引き連れてきたという嬉しい遅参理由にアーニィスは頭を低くしながら荷馬車(キャリッジ)輸送型飛空船(カーゴシップ)から下ろされる幻晶騎士(シルエットナイト)の姿に首を傾ける。

 

「あのー、それぞれ随分特徴的な機体に乗っていらっしゃいますが?」

 

「そうか? 私のはアルフォンス副団長からもらった装備だが、他のは領地柄というものかもしれぬな!」

 

「あ、私もアルフォンス副団長からもらった設計図や構想を基に改造したものを……」

 

「自分もです」

 

「私もですな。昇降装置以外にも色々いただいたらしく、鍛冶師が嬉々として作っておりました」

 

 ディスクゴード侯爵の朱兎騎士団、セラーティ侯爵の緋犀騎士団、ケルヴィネン伯爵の緑貂(りょくてん)騎士団、リテイラー伯爵の紫馬(しば)騎士団。セラーティ家とケルヴィネン家の婚姻関係以外は、一見するとなんの関係性もなさそうな集団だが、とある1人の存在が彼らに親近感を芽生えさせる。

 

 『あなた方もですか』という言葉がハモり、そのハモった声にそれぞれが吹きだす。その彼──騎士団のアルフォンス・エチェバルリアという潤滑油もあってか、彼らはすっかり意気投合。本来は朱兎騎士団で行う手はずであった簡易的な補給/補修拠点の敷設を4騎士団合同で行うこととなった。

 

(すっごい珍しい現場を見てる気がする)

 

 様々な思惑がある貴族間。当然そこに雇われている騎士団も例外では無い。

 今回はアルヴァンズが王族代表の存在として纏め上げているのでなんとか体裁は整っているが、本来はセラーティとケルヴィネン間のような婚姻関係を結んだ貴族の騎士団や領地が隣り合った貴族がたまに共同戦線を張ったりするのがほとんどで、それ以外は領地も戦力も異なった他の騎士団が集団で何かをするのはレアケースである。

 

 それが1つの騎士団──否、1人の人間の存在でこうも作用するとは思わなかった。改めて銀鳳騎士団の有用性を垣間見たアーニィスは、一旦緋犀騎士団で『手を用いた作業が出来ない』機体だけを防衛役として前に出すよう指示をしながら拠点の敷設を終えた後の配置について頭を悩ませ始めた。

 

「ほほう、そのハンマー。アルフォンス閣下製だとお聞きしましたが、なにやら仕込んでいますな?」

 

「うむ、柄のボタンを押すとマギウスジェットスラスタによる加速で威力を上げるのだ。他にもうちの騎士団は多かれ少なかれ彼らの影響を受けて多少なりとも改造を施してある」

 

「こちらも似たようなものですな。ツェンドリンブルも有用性を間近で見て急遽騎士を増やして対応したものです。他にはボキューズも近いので、修理や補給を簡潔にする良い案はないかといったところで"武器腕"なる技術がアルフォンス閣下から送られてきたらしく。主には申し訳ないが、積極的に使わせてもらっています」

 

「うちも似たようなものだ。主は渋い顔をしておられたが、使えるものを有効的に使うのが騎士というものだ」

 

 指揮所から少し離れた場所に投下されていく建築物資が詰められたコンテナを一箇所に集める傍らで、モルテンと緋犀騎士団長がそれぞれアルが(特に連絡もなく)渡してきた装備についての感想会を展開している。

 モルテンの最も得意としているハンマーに魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を組み込んだ武器は彼の戦闘力を著しく上げる一助となり、さらにデュフォール経由で聞こえてくる技術を取り込んだ朱兎騎士団員の幻晶騎士(シルエットナイト)は各騎士に合わせた様々なチューンが施されている。

 

 そして、『ある』意味ではディクスゴード公爵と深い繋がりを持つセラーティ領。こちらも本人から(勝手に)もたらされた技術によって独自の幻晶騎士(シルエットナイト)技術が培われていた。

 ボキューズの近くという悪立地。魔獣との連戦も日常茶飯事ゆえにこの地を守護する一部の鉄の巨人は武装を握ることを放棄し、腕そのものを武器へと変えた。

 俗にいう『武器腕』と呼ばれるこの腕は、腕自体が1本の魔導兵装(シルエットアームズ)となっている。そのため、魔法術式(スクリプト)を刻む箇所が増加したことで火力が増し、腕や手の制御に必要な機構を全て蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)に換装することで防御力と継戦能力が向上した装備である。

 また、攻撃を受けた際の故障や武装自体が喪失した際には、肩ごと武器腕を入れ替えるだけといった通常の腕に比べると格段に早い修理作業で戦闘が再開できるため、『戦う』という一点だけに置いては非常に心強い。

 残念なことに建築や手を使った作業は出来なくなったが、それは騎士団長のような手を持つ幻晶騎士(シルエットナイト)に乗った騎士に任せれば良いという考えとこれまた国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)からの技術交流を怠らなかったセラーティ家はボキューズから這い出る魔獣にも決して後れを取らない力を手に入れた。

 

 そんな感想会の最中でも彼らは話すことに集中せず、ずっと手を動かし続けている。周りを見ても同じように自身の装備がどのような物か、自分はどういった役割でそのためにどういった戦い方をするのかなどを作業をしながらも紹介をしている朱兎騎士団と緋犀騎士団所属の幻晶騎士(シルエットナイト)の姿がちらほら見えことから1人1人の錬度というものは決して低くなさそうだ。

 

(見るからにあの副団長は早々に禁を破っているな)

 

 周囲の有様を見てかなり前に話したとされる『他の騎士団に謝礼代わりに新技術を渡すな』という禁を早々に破っていることをモルテンは察するが、これ以上は元主の血管が損傷しないように。なにより、魔獣相手に役に立ちそうなのでこのことは自身の心の内に隠すことに決めた。

 

「そちらも……アルフォンス閣下とはお知り合いなんですね」

 

 そして、錬度や装備の目新しさにかけては彼らよりかは小規模ながらも、伯爵位としてはかなりの戦力を保有する緑貂騎士団や紫馬騎士団も例外ではなかった。朱兎騎士団の輸送型飛空船(カーゴシップ)から下ろされた資材や既にある程度組まれた建築物を所定の位置に運び込む両騎士団の騎士団長も、それぞれの機体の背中が特徴的なことをネタに作業中の雑談を始める。

 

「以前、私どものところから銀鳳騎士団に引き抜かれたものがおりましてな。その縁で閣下には便宜を図ってもらえてます。あの方は私のような戦場での槍働きしか出来ぬ者に再び力を取り戻させる神ではないかと思いましたよ」

 

「いやー、単純にやりたかったことをやったら偶然助けられる人が居たからじゃないですかね。…………それにしても、随分と大掛かりなオプションワークスですね」

 

「えぇ、引き抜かれた者と閣下から送られた"ナンブ"なるものを見た鍛冶師達が喜びのあまり数日で実用化しましてね」

 

 紫馬騎士団長は自身の幻晶騎士(シルエットナイト)に配された2本のサブアームでやっと保持できるほど巨大な魔導兵装(シルエットアームズ)と、輸送型飛空船(カーゴシップ)から下りてくる幻晶騎士(シルエットナイト)の胴体ほどある巨大な蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)に少々ヤケ気味に肩をすくませる。

 最初にアルがフロイド経由でリテイラー家にもたらしたのは、ナンブの情報であった。元々多連装兵装(マルチプルアームズ)という数本の魔導兵装(シルエットアームズ)を束ねるという挑戦的な試作を行っていたことから、もたらされた情報に騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は嬉々として齧りつく。

 実際にナンブを作りながら運用する中で彼らはナンブの利点や弱点といった物を協議を重ね、『配線が弱いのなら巨大な魔導兵装(シルエットアームズ)を作って耐久性を上げよう!』的なとんでも発想に至った。そこから魔力の問題に繋がるのだが、これは単純に巨大な蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)を機体に装備させるという暴力的な考えと実物が主に学園を卒業したての騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の手でいつの間にか出来上がっていた。

 

「学生上がりの時分からやる気があるのは良いんですがね、バランスとか行軍速度も考えてもらえるとね」

 

「あれを徒歩で行軍はきついですね」

 

 どうやらあれでもサイズダウンしていたらしい。なまじ卒業後に来てくれた人材だからキツく言い過ぎて辞められても困るのか、紫馬騎士団長は日ごろの苦労を濃縮したようなため息をつく。

 しかし、バランスも多少改善されたこの魔導兵装(シルエットアームズ)。行軍速度さえ気をつければ存外悪くない装備である。

 巨大な蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)に貯蓄された魔力を送り続けることで法弾を絶え間なく投射し続け、射撃中に機体の腰を少し捻るだけで簡単に制圧射撃を放つことができる。数が多くてすばしっこい魔獣には単純にばら撒くことで、強い敵には火線を集中させることで十二分に対応可能で、今回の敵である殻獣(シェルケース)にとって天敵的な装備でもあった。

 魔力が続けばという枕詞が付くが。

 

「そちらも……たしかトゥエディアーネの装備ではありませんでしたか?」

 

「次期当主様と奥方様が閣下と仲が良くて……なんやかんやありましてね。ショートスピアを絶え間なく飛ばすようになりました」

 

 そう言う緑貂騎士団の騎士団長機や緑貂騎士団所属のカルディトーレのサブアームは一般的なカルディトーレと比べてかなり長く、五指を備える握り手にはトゥエディアーネの装備である小型連装投槍器(アトラトルポッド)が左右で2門保持していた。

 ただ、その小型連装投槍器(アトラトルポッド)もトゥエディアーネよりは大型化しており、装弾数も格段に増えていた。側面には握り手が増設されており、腕部で保持することも可能となった小型連装投槍器(アトラトルポッド)は、今も荷馬車(キャリッジ)から運び出されては緑貂騎士団の手で使いやすいように並べられている。

 

「操作には慣れが必要ですが、近づかないのが一番の安全策なのでね。そのおかげでうちもかなり魔獣被害が減りました」

 

「どの領地も工夫してるんですね。なにぶん規模が小さい騎士団なので、こうやって別の騎士団の方々と交流というものがないので」

 

「どこかの誰かのおかげですかね」

 

 今もどこかで『そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?』と言ったような提案を囁いているのだろう笑いつつ、しっかりと仕事も果たす騎士団員達。建築がしやすいようしっかりと土地を均した上に簡易的な幻晶騎士(シルエットナイト)の整備場を建築し、その横に綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)銀線神経(シルバーナーヴ)といった補修資材を満載させたコンテナが所狭しと並べられる。

 ひとまずの拠点が完成したことで防衛戦の安定性が増した──と、思いきや。輸送型飛空船(カーゴシップ)からさらに何かがゴンドラに乗せられて降りてきた。

 

「鍛冶師と騎乗していない騎士はそれらの運用をせよ」

 

「それは……なんでしょうか?」

 

「臼……でしょうか?」

 

 下ろされた物体に隣で見ていた緋犀騎士団長が疑問の声を上げる。

 農村によくある臼を連想させる短くて肉厚な砲身。ただ、火薬技術があまり発展していないセッテルンド大陸では見慣れないものだったため、輸送型飛空船(カーゴシップ)の移動指示を出そうと近づいてきたアーニィスも怪訝な表情を浮かべていた。

 

「いや、俺も詳しくは分らんのだがな。なんでも瓦礫やらを中に込めてから魔力を流すと、大気系の魔法によって込めた物が押し出される……んだったか?」

 

 どうやら持ってきた本人も詳しい仕組みはわかってないらしい。ただ、試射した感じだと広範囲に攻撃を加えることが出来、今回のことに使えそうだからとモルテンは恥ずかし気に言う。

 結局、モルテンの『使えそう』と発言した砲は延べ30門が指揮所近くに並べられ、それぞれに連れてきた騎操鍛冶師(ナイトスミス)や騎士が配置につく。

 

 すると、建築物資や砲を吐き出した輸送型飛空船(カーゴシップ)は右翼、中央、左翼と移動し、それぞれの後方にマナボックスを次々と投下していく。

 これは事前に決められていたことで、カルダトアと比べると法撃のしやすさも相まって燃費が少々上がったカルディトーレの魔力の補給場所だ。

 ようやく防衛戦も磐石になりだしたところで遅参してきた4騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)もそれぞれ所属している隊に分かれだす。

 

「朱兎騎士団は中央に布陣。紫馬騎士団は我々の後ろで法撃による支援を頼む」

 

「緋犀騎士団は左翼あたりに布陣。緑貂騎士団と合わせれば十分な火力になるだろう」

 

 アーニィスから具体的な布陣位置が各々の騎士団長に共有され、それぞれの騎士団は幻晶騎士(シルエットナイト)の移動を始める。未だ魔獣とは接敵していないものの、複数の騎士団から成る連合軍という物量にアーニィスは満足していた。

 万が一にもこの防衛線が抜かれかけても、後方には荷馬車(キャリッジ)を接続したツェンドリンブルの集団が待機している。非戦闘員の撤退はアーニィス自身が指示するタイミングを見失わなければ何ら支障はないだろう。

 

 しかし、魔獣というものはいくら知恵や策を練っても人間よりもはるかに優れた膂力と獣特有の規格外な行動によって策をたやすく食い破る恐ろしい存在だ。現に──。

 

「なんだ!? レビテートシップが!」

 

 突如、大気を引き裂く音を引き連れたナニカが、森の上空で殻獣(シェルケース)らに攻撃を加えていた飛空船(レビテートシップ)に突き刺さる。横っ腹をナニカに突き立てられた飛空船(レビテートシップ)は煙と気化したエーテルを吐き出しながら大きくバランスを崩しつつも非常にゆっくりとした足取りで森林地帯から離れていく。

 しかし、そんな悠長な進路転換を見過ごすほど魔獣は人類に優しくない。

 突然の被弾に緑貂騎士団は慌てて森の中に魔導短槍(ショートスピア)による投槍を開始するが、無慈悲な二撃目が周囲の樹木を木っ端に変えながら放たれる。──が、そのナニカは撤退する飛空船(レビテートシップ)の左舷に接続されている帆に着弾。左舷すべての帆を破壊し、そのままはるか彼方へと消えていく。

 ここ数年の幸運を全て使い果たしたかのような九死に一生を得た飛空船(レビテートシップ)は、そのまま千鳥足のような軌道を描きつつも戦場から離れていった。

 

「信号法弾を上げろ! 戦闘準備!」

 

 アーニィスの声に近くのカルディトーレの多目的投擲筒(ランチャー)から赤い法弾が空に放たれる。その合図を見た全幻晶騎士(シルエットナイト)は一斉に自らが装備している魔導兵装(シルエットアームズ)に魔力を叩き込み、森の中へ法撃を始めた。指揮所後方の臼砲からも集めた瓦礫や球状に加工した石が放たれ、森の中へと落としていく。

 無論、未だ敵の姿は見えていない。しかし、森の中から殻獣(シェルケース)の断末魔が聞こえてくるので順調に数を減らしているのだろうと騎操士(ナイトランナー)達は魔力貯蓄量(マナ・プール)を横目に法撃を続ける。

 だが、このまま素直に滅ぼされる殻獣(シェルケース)ではなかった。

 

「ガッ」

 

「棘が飛んできた! 散開しろ!」

 

 木々の合間から撃刺殻獣(デッドリーシェルケース)の放った棘が飛んでくる。1発2発程度ならカルダトアよりも数倍硬いカルディトーレがやられることはないが、その密度は先ほどから森に放っている法撃と同程度で飛んできていた。

 未だ敵と殴り合ってもいないのにここで無駄な損害を出せないと判断したそれぞれの騎士団は盾を持った近接戦仕様機(ウォーリアスタイル)を前に出し、法撃戦仕様機(ウィザードスタイル)を守るように陣形を整える。

 しかし、再び森の奥から例のナニカが空高く打ち出された。打ち上げられたナニカは、次第に重力に従って左翼に集まった部隊の下へと落ちていく。

 

「落ちてくるぞ! 走れ、走れ!」

 

「撃ち落そうとするな! 走れ!」

 

 その存在に気付いた騎操士(ナイトランナー)達は鐙を蹴り飛ばしながら周囲に知らせるよう声を張り上げる。中には魔導兵装(シルエットアームズ)で撃ち落そうとする新人も居たが、どう見ても質量的に迎撃は不可能だと判断した騎士が新人のカルディトーレの装甲を引っ掴みながら後退させる。

 

 直後。凄まじい地響きと共にナニカが地面に突き刺さる。落ちた周囲から既に退避していた部隊は魔導兵装(シルエットアームズ)をナニカに向けながらいつでも法撃出来るよう注視していたが、土煙が晴れると共に警戒を解いた。

 先ほどから飛空船(レビテートシップ)や地上部隊を襲ったナニカの正体──それは撃刺殻獣(デッドリーシェルケース)が放っていた棘を数十倍ほど大きくした棘であった。

 

「棘だ。でかい個体でも居るのか?」

 

「団長、あれを!」

 

 騎士団長の言葉に被せるように騎士団員が魔導兵装(シルエットアームズ)を森林地帯の上部に向ける。未だ遠いが、それでも幻像投影機(ホロモニター)で視認できるほど巨大な個体──女皇殻獣(クィーンシェルケース)の口と思われる器官から、先ほど飛来してきた棘が顔を覗かせていた。

 

「いかん! 部隊に連絡しろ!」

 

 信号法弾による合図が空を彩る。そして、その報告を皮切りに展開していた部隊のあちこちからも同じような色の信号法弾が上がり、各騎士団は密集した状態から散開し始める。

 すると、またもや大気の切り裂く独特な音が聞こえる。今度はどこからなにが来ていたのか観測していた騎士団が多々あり、やはり女皇殻獣(クィーンシェルケース)が長距離からの質量攻撃を行っていることが部隊全体に共有された。

 しかし、落ちてくる速度や破壊力はたしかに脅威だが、女皇殻獣(クィーンシェルケース)の口元を見張る者が居れば飛んでくる方向は看破出来る。いくら連射されようとも、幻晶騎士(シルエットナイト)の歩行速度を持ってすれば十分に回避可能な攻撃だ。

 問題は射程範囲だが、未だ指令所や臼砲部隊が狙われていないことからそんなに射程がないと判断した各騎士団は、山なりに飛んでくる棘に注意しながら前方に火力を集中させるように指示する。

 

 ただ、その指示には落とし穴があった。

 

「くそっ、火力が!」

 

「こっちにもっと法撃をよこせ! 抜かれるぞ!」

 

「おい、誰かクィーンの攻撃をみた"ッ」

 

 次々と森を抜けて侵攻して来る殻獣(シェルケース)。ほとんどが兵士殻獣(ソルジャーシェルケース)と呼ばれる小型種だが、その数は地面を埋め尽くさん限りであった。それらを対処するには遠距離からの法撃が最適なのだが、さきほどから飛んでくる棘を回避するために法撃部隊を散開させていたので、思った以上に敵への打撃力を欠いていた。

 

 それでも必死に法撃を放つナイトランナー達。しかし彼らは今、『こちらに向かってくるシェルケースへの法撃』、『魔力貯蓄量(マナ・プール)の管理』、『女皇殻獣(クィーンシェルケース)からの攻撃』という3つの大きなタスクを並行している状態だ。

 なお、それらのタスクを一度でも誤った場合。女皇殻獣(クィーンシェルケース)の攻撃の兆候を視認するものが居らずに棘に機体を潰されたり、火力不足から兵士殻獣(ソルジャーシェルケース)や近接特化の砕甲殻獣(デモリッションシェルケース)の接近を許してしまって殺られるという欲しくもないオマケが付いてくる。

 

「緑貂騎士団、左翼の援護に回る! 付いてきてくれ!」

 

「朱兎騎士団は右翼だ! 紫馬騎士団も手伝って欲しい!」

 

 そんな戦場の最中、中央や中央寄りの左翼に布陣していた4騎士団は最低限の機体を中央に残してそれぞれの方向に動き出す。

 ただ、遠距離に重きを置いた機体のため、緑貂騎士団は予備の小型連装投槍器(アトラトルポッド)を前腕部やサブアームの余剰スペースに銀線神経(シルバーナーヴ)で括りつけるといった作業。紫馬騎士団は連射型の魔導兵装(シルエットアームズ)や使用した蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)の交換作業があるため、先行して常識的な改修を行っていた朱兎騎士団と現地で肩部ごと交換すれば良いという考えから武器腕の予備をありったけ確保した緋犀騎士団が先に現場に急行した。

 

 だが、左翼の損耗は緋犀騎士団の想定よりも酷いものだった。集中的な曲射攻撃によって部隊間の連携が取りづらく、魔獣らも1匹がやられても一切萎縮することなく死骸を押し潰しながら突っ込んでくる。小型種のみに集中していると、遠距離から棘の集中砲火や堅牢な甲殻に守られた大型種の攻撃で操縦席ごと機体が破砕される。

 そんな酷い有様に緋犀騎士団の戦闘を走る1個小隊──バルトサールの隊のカルディトーレが首を縦に動かしたかと思うと一気に増速する。

 

「バルトサール、隊を乱すな!」

 

「ですが、ここからでは法撃が届きません! 俺の……いえ、俺達だけでも行かせてください!」

 

 バルトサールの隊は全員、バルトサールと似たような年齢の者で構成されている。おそらく救援と言う気持ちが先走ったのだろう。

 ただ、ここで諌められるほど左翼の形勢は良くない。むしろ、カルディトーレだからこそあそこで持ちこたえていられる有様だ。苦渋の決断に迫られる騎士団長に、バルトサールは少しだけ速度を落として騎士団長機の横につく。

 

「先に仕事しやすいように整地をしてくるだけです」

 

「…………許可する」

 

 落ち着いた声量のバルトサールに騎士団長は許可を出す。許可をもらったバルトサールは先に行かせた小隊に追いつくと、さらに速度を上げた。受けるよりも回避が得意な彼らが扱いやすいよう軽量化が図られた機体はぐんぐんと食い破られそうな地点に近づき、持ち前の機動力を活かした法撃戦を仕掛けていく。

 こうして、左翼の戦線は一時だが安定する。右翼側も数が多い朱兎騎士団の活躍により、多少の被害は出たがなんとか落ち着きを取り戻しつつあった。

 

***

 

「騎士団長、そろそろ戦闘域に入ります」

 

「先ほどすれ違ったレビテートシップから長距離攻撃が報告されていますので、もう一度森へは近づかないように連絡をしてください。ニキチッチを出撃させた後は予定通り、指揮所周辺で部隊を展開します」

 

 ようやく戦場の端に到着したイズモとアサマ。周囲には近衛騎士団や紫燕騎士団所属の飛空船(レビテートシップ)が船団を組んでおり、それらは森にはこれ以上船を近づけないよう注意を払いながら指揮所があると思われる陣へと進路を取っていた。

 なぜ彼らが森からの脅威を把握しているのか。それは、先ほど損傷があまりにも酷い飛空船(レビテートシップ)が居たので応急修理がてら話を聞いたからである。実際に飛空船(レビテートシップ)に残された巨大な棘を検証した結果、飛翼母船(ウィングキャリアー)でも耐えて数発だと推測したエルは今一度森へは近づかないよう僚艦に連絡するよう指示を送る。

 

「了解です。あちらにニキチッチを出撃させるよう伝えます」

 

 エルの指示に騎操鍛冶師(ナイトスミス)はすぐさま監視所へ繋がっている伝声管の蓋を開けると、先ほどエルから下された指示を繰り返す。その指示が監視所の騎操鍛冶師(ナイトスミス)によってすぐさま符号化され、マギスグラフを通してアサマへと伝えられた。

 アサマの艦橋ではその符号を素早く解読したアルが同じく艦橋に居たエドガーらに出撃を宣言し、4人は揃って降下甲冑を纏うと揃って船倉へと向かう。船倉にたどり着くと、デシレア含む出向組やデュフォールから共に移動してきた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達がニキチッチの近くに居り、アル達の登場に待っていたといわんばかりの笑顔を向けてくる。

 

「いくら"色々"馴染みの物を突っ込んだからといっても過信はダメだよ」

 

「分かってます」

 

 そう言って彼らはニキチッチに乗り込む。カンカネンを訪れた時と異なり、ニキチッチの操縦席には前方180度に幻像投影機(ホロモニター)が配された近衛騎士団仕様となっており、機体の両肩部には小型連装投槍器(アトラトルポッド)、頭部にはナンブ改のように連射式魔導兵装(スナイドル)魔法術式(スクリプト)を転用した『頭部兵装改』が接続されている。

 さらにアルの機体は心臓自体も積み替えているのだが、それは後ほど話すことにしよう。

 

「アディ、僕達が発艦したら艦橋の指示に従って高度調整をしてください」

 

「分かった」

 

 各ニキチッチの後ろに鎮座しているエクスワイヤ・チックをクレーンで引き上げている最中、アルは船倉の再奥に座り込んだカルディトーレに声を掛けると、カルディトーレからアディの返事が聞こえる。

 

 そのカルディトーレには降下用追加装甲(ヘイローコート)の簡易的な源素浮揚器(エーテリックレビテータ)をトゥエディアーネが使用していた物をさらに大きくした特別仕様の物に換装したことでかなりゴッテゴテな見た目をしており、とてもじゃないが戦闘に使えそうな感じでは無い。──そもそも立てるのかどうかも疑問である。

 それもそのはず──。この機体は魔力をエーテルに再変換して飛空船(レビテートシップ)を浮遊させるだけの実験機である。

 無論、非常時に備えてエーテライトも半分ほど貯蔵しているが、今は飛翼母船(ウィングキャリアー)に内蔵してある魔力転換炉(エーテルリアクタ)数基と機体自体に組み込まれた魔力転換炉(エーテルリアクタ)の魔力をエーテルに変換し、それを源素浮揚器(エーテリックレビテータ)に入れて飛空船(レビテートシップ)を浮かせている。

 ちなみに、イズモの方は開放型源素浮揚器(エーテルリングジェネレータ)飛空船(レビテートシップ)を浮かせることができるのかという検証のためにマガツイカルガを用いており、その影響からエルはこの戦いにはギリギリになるまで参加しない方針だ。

 

「エクスワイヤ・チック接続完了。制御をナイトランナーに移譲します」

 

 エクスワイヤ・チックの補助腕がニキチッチの背を掴む。これによりニキチッチとエクスワイヤ・チックは物理的に連結を果たした。連結を成した際に生じた振動と騎操鍛冶師(ナイトスミス)からの声に、アル達はエクスワイヤ・チックの魔導演算機(マギウスエンジン)の制御に取り掛かる。

 それぞれの強化魔法の範囲を同期し、連結することで魔法術式(スクリプト)的にも2機は1機の幻晶騎士(シルエットナイト)として定義され、こうしてニキチッチに飛行能力が付与された。

 無事に合体を果たした4機のニキチッチはエクスワイヤ・チックの源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を始動させつつ、自ら歩行して昇降機へと足を踏み入れる。

 

「昇降機を上げな! ニキチッチのお披露目だよ!」

 

 昇降機の上がる振動と音を感じながらニキチッチは甲板に出ると、十分なエーテルが源素浮揚器(エーテリックレビテータ)に流入したことにより機体が浮かび上がる。

 

「テストの時も思ったが、これは2機分の資材を使うことになるんじゃないかね?」

 

「そうですね。ですが、こうやって飛ぶだけでも価値はあるかと」

 

 エクスワイヤ・チックにも魔力転換炉(エーテルリアクタ)があるので、魔力の生成効率は2倍になっている。ただ、お値段的には量産は厳しいというディートリヒの意見も尤もだとアルは肯定した。

 ただ、今はこうして悠長に機体の所感を話し合っている場合では無い。離れていくイズモとアサマの背を見送りながらどこの戦線がマズいのかアルは戦場を見回す。

 

「偵察装備をつけてこなかったのが痛いですね。……っと、なんかヤバげな物が着弾しましたし、あそこに行きますか」

 

 遠い戦場の風景を見ても状況がよく分からず、アルは途方に暮れる。すると、森から半身見えている女皇殻獣(クィーンシェルケース)から巨大な物体が部隊の左翼辺りに着弾。大きな土煙を撒き散らしていたので、彼はそこをひとまずの目的地に設定すると魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)から炎の尾を吐き出して増速する。

 後ろで待機していた3機もそれに倣って左翼の地上目指して一斉に魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を拭かしていった。




というわけで2度目のクィーンシェルケースです。

 巣分けがある以上、巣に残ったやつが強いということからデッドリーシェルケースのように棘を飛ばす。所謂迫撃砲染みた攻撃を付与しました。
 対する騎士連合側はアルフォンスという原作主人公と似た存在による影響で様々な武装やクリスタルプレートを用いた補給所の概念が生まれましたが、それでも現状は戦況次第で如何様にも転んでしまう危うさを持っています。

ニキチッチ(フルミッションモード)
 従来のニキチッチの性能をそのままに、エクスワイヤ・チックによる飛行能力の付与と攻撃手段の増加を目的に改修した機体。
 頭部にはカササギのスナイドルで用いられたスクリプトを従来の頭部兵装に移し変えた物、両肩部にはトゥエディアーネのアトラトルポッドが装備している。
 また、操縦席は近衛騎士団所属のナイトスミスによって前方180度が見える『視界改善型』に調整されており、その関係で眼球水晶も2つほど追加されている。
 
 エドガー、ディートリヒ、ヘルヴィ機は上記の改修が成されたが、アルのだけはエーテルリアクタをパッチワーク、黒騎士、トイボックス・ハーミットと受け継がれていった専用のリアクターを使っている。
 ある意味では実家の母ちゃんに会いに行っている最中なのかもしれない。

イズモの改修
 Reactor Online. Sensors Online. Weapons Online. All Systems Nominal.
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