「棘がくるぞ! 散開しろ!」
そんな左翼で緋犀騎士団長が前方で戦っている部隊に向けて警告を発する。その声に所属問わずカルディトーレが持ち場を離れて散開し、盾などで山なりに落ちてくる棘の襲来に備えた。
間もなくすると、土煙や地響きを周囲に撒き散らしながら
「次の攻撃までおよそ3分!」
緋犀騎士団長の指示が再び左翼中に響く。
緋犀騎士団が左翼に到着してから十数分。度重なる
3分きっかりではなく誤差は多少あるし、必ず左翼に棘が来るというわけではないが法則が見つかればその対策は用意である。左翼の中で一番主の位が高い緋犀騎士団長が同じく左翼で戦っていたアルヴァンズのお墨付きを得、『対策役』となることで左翼の棘による被害は激減する。
「数が多い!」
「黙って撃て、押し切られるぞ!」
ただ、棘への脅威は減ったがそれは
まるで死兵。それらの相手に加え、上位種の
ただ、
「ぐぁっ!」
「おいおい、何やってんだ。早く起き上がれよ。…………おい、なに遊んでんだ?」
巨大棘という定期便を無事にやり過ごしたと思っていたとある騎士団所属の機体が1機、大小に砕かれた岩が胸部装甲に当たったことでバランスを崩して転倒した。それだけでは現場でよくある『ミス』なので、転倒したカルディトーレを見ていた騎士は囃し立てながら僚機を見ていた。
だが、いつまで経っても片足を引きずったままもがくカルディトーレと聞こえてくる焦り声にその騎士の顔はさぁっと青ざめる。
「ダメだ! あ、足が動かねぇ!」
「は、はやく脱出しろ!」
「わかっ……てっ……るっ! な、なんで胸部装甲が開かねぇんだよ!」
起き上がることを諦めたカルディトーレの
ただ、思い出しただけで事態が好転するわけでは無い。大きくなりつつある地響きに『最悪の想像』をしながらも法撃を再開しながら声を掛けてくる僚機に向けて叫んだ。
「このまま置いていけ! お前まで道連れにするわけにはいかないだろ!」
「なに言ってんだ! もう救援を頼んだから、もうちょっと頑張れ!」
劇場のワンシーンのようなやり取りをしながらも法撃による敵に駆逐を行うが、
その時だった。勇ましい号令と共に法弾を射出しながら妙に早い
珍妙な機体に
「救援要請を請けて来た緋犀騎士団のバルトサールだ。損傷か?」
「は、はい。片足が動かなく、胸部装甲も動作不良で脱出が出来ません」
「君、損傷機を引きずって行ってくれ。その間は俺達が抑える」
「分かりました」
倒れた機体の両肩に手を入れたカルディトーレは後ろにある補給所に向けて後退を始める。ただ、カルディトーレは膂力は増したが同時に重量が重くなっているので撤退は遅々として進まない。
周囲のカルディトーレもそんな状況は分かっては居るのだが、今この場を離れることができる機体はこの左翼に1機たりとも存在しなかった。
そうしている間にも
「散開しろ!」
緋犀騎士団長の警告に左翼の部隊は即座に散会する。それはバルトサールの小隊も例外ではなかった。
仮に損傷機もろとも撤退中のカルディトーレに当たっても不運だったと思うしかないとちょっとした言い訳をしつつ、バルトサールは懸命に鐙を動かす。しかし、度重なる散開行動にバルトサールの中で『右に移動する』というルーチンが反射的に出来てしまっていた。
「隊長、そっちはダメです!」
「バルトサール、上だ!」
小隊員が叫ぶ声にバルトサールがふと上を向くと、巨大な棘がバルトサールの方向に落ちてくるのが見える。
そう、彼は回避しようと移動していたが、実は棘に近づいていたに過ぎなかったのだ。緊張感のあまりヒュッという息を呑む声を知覚した瞬間、めくり上げられた地面ごとバルトサールの乗ったカルディトーレは空中に放り投げられる。
僅かな浮遊感を楽しむ間もなくカルディトーレは地面に衝突し、その衝撃で武器腕は左右ともに根元から捥げてしまう。
「サブアーム……動かない! なら、脱出するしかないか」
咄嗟にサブアームを動かして転倒から脱しようとするが、仰向けに倒れたためなのかいくら操縦桿を動かしても動く気配は全く無かった。しかし、反応が無いと見るやバルトサールはすぐさま機体から脱出しようと胸部装甲の開閉スイッチを押す。
『動いてくれよ』という熱心な念が通じたのか、幸運なことに胸部装甲が特徴的な音とともに開かれ、バルトサールは自身の運の良さに内心ガッツポーズで外への脱出を果たす。
しかしながら、彼の幸運はそこまでだった。眼前には迫ってくる
このままこの場にいては死ぬのを待つばかり。速く逃げ出さなければと頭の中で反芻させるが、ふとバルトサールは身体の違和感に気付いた。
(動くってどうするんだっけ)
あまりの恐怖に体が硬直するばかりか、彼は動き方さえ忘れ去っていた。ガチガチと歯を鳴らしながら目の前の死に呆然と立ち竦むバルトサール。そんな彼に
「へぁ?」
突如聞こえる鋼鉄を叩いたような衝撃音に、目の前で信じられないものを見たかのようなバルトサールの素っ頓狂な声が掻き消えた。
カルディトーレとは姿が異なる鉛色の
「おおぉぉ!」
気合いの入った声と共にその機体は背部や腰に装備した筒から炎を吐き出し、押さえ込んでいた
すると、バルトサールの周囲に影が差し込む。先ほどから起こっている事態すらも消化出来ていない彼は何気なく上を向くと、上空から降りてくる
最近開発された空を活動範囲にしている
しかし、先ほどからバルトサールが目にしているのは明らかに足がある。呆然と見守る彼の視線を気にすることなく
「無事か?」
「両腕ともシルエットアームズって……。うちの騎士団長みたいなことしてる」
「いや、武器を主体にしてるから副団長寄りの考えだよ」
拡声器が多少鳴音した後、鉛色の
「助かりました。後、重ね重ねすみませんがあっちに脱出不能な状態の機体を引きずっているので手を貸してもらえないでしょうか」
バルトサールからの救援要請に彼の機体を
「アルフォンスとヘルヴィは中央、ディーは前衛。後方は俺で損傷機を囲む形で移動する。目標地点は……もう見えてるな。あの引きずられているカルディトーレだ」
てきぱきとした指示が下され、ニキチッチ全機はバルトサール機の歩調に合わせて移動を開始する。その間も
目標は目を瞑っていてても当たる状況なのであえて絞らず、ナンブ改から吐き出された橙色の法弾は
「デモリッションがきます」
「私がやるわ。副団長君はデッドリーをお願い」
正面から死骸や未だ生きている
エドガーがヘルヴィに向かって飛んでくる
矢のような速度で飛ぶ
「よし、急ぐぞ」
「皆さんはあっちの方々とシェルケースの対応を」
「了解した」
いの一番に
「銀鳳騎士団副団長、アルフォンス・エチェバルリアです。状況は?」
「はっ!? で、伝説の?」
突然劇場で人気の当人が現れたことで多少上擦った声を出している
加えてバルトサールの機体のこともある。どこに逃がすか決めあぐねていると、
「ひとまず、フルコントロールで救出してあげた方が良さそうだね」
「あれ、もう帰ってきたんですか?」
「厄介になるデモリッションやデッドリーを中心に食ってきたからね。今はマナ・プール回復で一旦休憩だよ。……話は戻るけど、ここじゃあナイトスミスも出張ってくれないよ」
ディートリヒが胸部装甲が凹んだカルディトーレを一瞥しながら方針を提案する。
たしかに
アルはディートリヒの方針に賛成の意を示すと、胸部装甲が陥没しているカルディトーレの腰辺りに簡易
「うーむむむ…………。お、繋がった繋がった」
少々苦戦したが、
「本来はもっと時間をかけて壊すべきですが、今は時間が惜しいので」
そう言いながらニキチッチの手を凹んだ胸部装甲に引っ掛け、一気に引き剥がす。身体強化のない装甲は多少の抵抗はあるが、難なく引き剥がすことに成功する。操縦席には腕で顔を保護した
そのまま僚機の手に収まった
「では、そちらの──というか、バルトサールさんだったんですね。挨拶をしたいところですが、まずは小隊ごと後方に行って修理をお願いします。その間、ここは僕達が抑えるので」
「そんな、小隊だけでは無理ですよ! 俺達は大した損傷していないのでまだ!」
2個半の小隊でも降り注ぐ棘の妨害もあって穴が空いてしまった現場。それを1個小隊のみで支えきれるわけがないとバルトサールの小隊員が意見する。
学生の頃などは数が多い相手を前に単機で乗り切るという妄想に駆られるが、現実でそれを行うには一つでもミスれば即座に死が迫ってくるタイトロープを渡りきる必要がある。とてもじゃないが任せられないという小隊員達だが、彼らは一様に片腕が捥げていたり装甲に無数の棘が刺さっていたりと損傷していない機体に乗っている者は皆無だった。
せめて、損傷が少ない機体も随伴させて欲しいと意見する面々を前にアルはどう断ろうか悩んでいた──が。
「騎士の心得として犬死にをしろと学園で学んで来たのかい?」
ディートリヒの言葉が反対意見を出していた全員に突き刺さる。
犬死に。そこまで自分達の戦力には価値がないのかと絶望の底に突き落とされる彼らに、ディートリヒは『失礼』と言い過ぎたことを謝罪すると機体の指を今も前線で戦っている2機のニキチッチに向ける。
「私達はああやって敵の中を掻き分け、逃げ、誘い込んでいる。その過程で誰かが行動不能になれば……戸惑いなく切り捨てるよ? さて、君達に問題だ。その機体性能で我々についてこられるのかい?」
左右の腰にある筒から炎を吹き出しながら
どの行動も筒から吐き出される炎の推進力があってこその行動にカルディトーレに乗った
仮に無理を言ってでもこの場に残ったらどうなるか。敵陣に散歩感覚で乗り込んでいく機体と同じようについていき、数十匹は屠ることはできるだろう。
ただ──次が無い。
「ただ、結構集中力がいるから修理をしたら早めに救援に来てくれたまえ。なーに、ティラントーやあの変態に比べれば可愛げがあるものさ」
(変態?)
謎の単語と共にディートリヒはニキチッチを前線へ進ませる。彼の合流もあってか、もはや飛び地に空間がなくとも飛んだ先の
その圧倒的な殲滅速度を目の当たりにし、今度こそ付いていくこと自体が無理と悟ったのかバルトサールは全員に一度後退することを告げる。
「あのディーさんがねぇ」
『騎士の心得とて命を捨てろなんてないし、私も無駄死にはしたくない』
あの日、ベヘモスという圧倒的力の前から逃げたディートリヒの言葉である。並大抵の精神では言った当時のことを思い出してしまう言葉を平然と説得に使う彼の強さに、アルはもはや中隊長達は別の騎士団として動き出していることを自覚する。
ならば、同じ銀鳳騎士団として作戦に参加できる最後の機会こそ思う存分
「遅いぞ」
「すみません、ディーさんの語録がかっこよくて痺れちゃいました」
「ほう、ディーがなにを言ったんだ」
「え、なになに? 後で聞かせてよ」
「やーめーたーまーえ!」
緩い会話が続けられるが、その裏では森自体が動いていると錯覚するような
両腕とサブアームのナンブ改から法弾をバラ巻き、小隊に
そして、手の平に強化魔法を付与した状態で死骸の間から飛び掛ってきた
それぞれが持てる全ての技術で
「イズモ、強襲上陸モードで部隊を展開します!」
「おっしゃぁ、待ってたぜ!」
エルの指示が伝声管を伝って船倉に届くと共に、待ってましたとダーヴィドは
元第1中隊、現白鷺騎士団の
「隔壁開け! 上陸準備に入るぞ!」
「展開後は小隊ごとに集合。いつでも移動できるようにしておけ」
作業台ごとカルディトーレが回転する中、それぞれの作業台の後ろにあった壁が上下に開いていく。やがて機体が壁の方に向くと、そこにあったはずの壁が外へと繋がる『出口』と変ずる。外の光に照らされたカルディトーレらは作業台から勢い良く立ち上がると、側に置いていた剣や
「あっちは……まだ展開中か」
ふと、イズモから出てきた1機のカルディトーレが他の部隊の展開具合を確認するべく横を見る。他の
なんと言っても高度の変更の調整が効き易いため、今までの鎖方式という危険かつ手間がかかる降下方式が一新されたのが大きい。
だが、それだけでは終わらない。そこからさらにエルが『整備しやすいように直結にしちゃいましょう』と回転式の作業台を実装。機体を損傷してもイズモの左右にある整備台に座ってしまえばそのまま1分で整備状態に入ることが出来、整備終了後は1分もあれば再び戦場に舞い戻ることが可能というお手軽さである。
部隊の展開速度と修理状態への移行のしやすさ。それだけでも組み込んでしまえば
ただ、
(使い勝手はいいんだがなぁ。大団長次第か)
使い勝手や展開速度の速さ的にも満足だったらしく、白鷺騎士団の団員はエドガー経由でこの
そうしている間にも続々と銀鳳騎士団傘下の機体や近衛騎士団が隊を為し、迫る
『先王陛下と一緒に行くか』とあくまでも自由奔放な紅隼騎士団と、左翼を指差しながら『やはり左翼が手薄ですね』と布陣位置を吟味する慎重派な白鷺騎士団といったような感じだが、どちらも大団長であるエルの指示がないと動けないのは変わらない。
しかし、騎士とは異なる『彼ら』は違った。紫燕騎士団の
突然の巨人──しかも発表前なので敵か味方かも分からない彼らを前に、魔獣かの出現かと指揮所周囲のカルディトーレは剣を抜きながら身構えるが、近衛騎士団の騎士達が『無害です』と宥め回る。
「失礼します……っと、あなたでしたか」
「エチェバルリア騎士団長。ご無沙汰しておりますが──うぉ!?」
銀鳳騎士団の到着に指揮所から出てきたアーニィス。だが、エルが天幕を開いたことで奥に見えた生足。明らかに人間サイズではないその足を視線を動かすことで持ち主を確認したアーニィスは驚愕の声を上げる。
「ほほう、あれら全てがヒューマンの戦士か。手当たり次第問いを投げかけたいところではある……が! 今は名乗りの時である! マーガよ!」
「然り! ならばアストラガリここにありと盛大に名乗らねばならぬ!」
そんなアーニィスを余所に
肉厚の剣を肩に背負った
当たり前だが現在の指揮官はアーニィスなので、エルが指揮権を譲って欲しいといわない限りは彼が何も言わなければ攻撃は却下される。そのことを横に居る
「ふむ、アルヴァンズよ。大儀である、ワシも参加するゆえ頼むぞ?」
「……御意」
「あ、みなさーん。各隊で自由に戦っていただいて構いませんのでー!」
『うおぉぉぉ!』
自身の立場をわきまえない者がまた2人。ジルバティーガから聞こえてくる声と各隊にフリーハンドを与える大騎士団の騎士団長の姿に、アーニィスは内心『どっちも指揮を執らないのですか!』と叫んでいた。
そんなアーニィスの心労も知らず、アンブロシウスはジルバティーガの拡声器の出力を最大まで上げる。
「フレメヴィーラ王国先王、アンブロシウスである! 救援に参った!」
なにやら聞き馴染みのある名前に手が空いたそれぞれが指揮所の方を一瞬見て──もう一度見直す。
その形相はあまりにも『救援に来たゾ☆』というにはあまりにも凶暴性を秘めていた。そして、明らかに
さらに言えば。
「ぬぅおぉぉ!」
「負けんわぁ!」
その巨人と銀の虎が武器を持って
もはやなにがなんだか分からない状態だが、戦っていた騎士達はとある確信を得た。
『銀鳳騎士団が来たから勝てる』
現にその確信は決して気のせいではなかった。
「カエルレウス氏族の……併せよ」
「分かった」
『
中央は
銀鳳騎士団傘下の騎士団や近衛騎士団の投入により、左翼は十分に立て直せたと判断したニキチッチ小隊は河岸を変えることにした。増援にきた白鷺騎士団とこの場の責任者である緋犀騎士団の騎士団長にこの場を任せると伝え、
ただ、ニキチッチは銀鳳騎士団傘下の騎士団が戦闘を開始するまでの間も動きっぱなしである。中心部の
「押し返してきましたし、今のうちに補給しときましょう」
「そうだね。そろそろこの剣も無理だろう」
「イズモが近いな。このまま飛び越えて親方達から色々受け取ろう」
指揮所のほうから飛んでくる瓦礫や球状の石を避けたり、帰りがけの駄賃として押し込まれつつある小隊近くの群れを殲滅しつつ向かったので多少時間はかかったが、全機無事にイズモまで向かうと壁に開けられた空間の先に鎮座している作業台へと機体を座らせ──られなかった。
この装備の仕様を決める際に『時間がないからカルディトーレの大きさで』とオーダーを出したため、エクスワイヤ・チックの横幅分が壁に引っかかったのだ。
「あちゃー、後ろが邪魔ですね」
そう言いつつアルはニキチッチの背部に接続されたエクスワイヤ・チックが広げていた
「親方、今帰りました」
「おぅ、修理作業に入るぞ!」
その後は特にどこも引っかかることはなく、先ほど白鷺騎士団のカルディトーレを出撃させた手順を逆再生させるかのようにイズモの壁が閉じ、ニキチッチは船倉内へと戻っていった。やがて、作業台を固定する音を皮切りに
「帰りました。戦況はどうですか?」
「うぉっと!? アルフォンス殿」
「待ってください。……すっかり持ち直しましてますね」
艦橋に入ったアルは開口一番エルに状況を確認する。なぜかそこにはアーニィスも居てアルの突然の帰還に声を上げるが、エルはイズモやアサマに取り付けられたリーコンを伸ばして戦域全体を見渡しながら結果を報告する。
第3中隊が解体され、2個大隊程度となったが彼らの錬度はこの国で指折りの存在だ。さらに近衛騎士団に加えて昔は武人として名を馳せていたアンブロシウスさえも出撃している。逆にこれで押し込まれようものならフレメヴィーラ王国はとっくの昔に滅んでいるだろう。
それはともかく、今は持ち直していても戦場と言うものは水の流れのようなものだ。いつ氾濫するとは限らないので余裕がある内にもう少し固めておきたいと話し合っている最中。
「うぉっと。あの棘が厄介ですね。法撃で崩してしまいましょうか?」
「あー、出来るならやっていただきたいですがね。無理でしょ、あれは」
再び棘が地面に着弾する。今度は中央の前線付近だ。
3分と言うインターバルは分かったが、こう頻繁に攻撃を加えられるのは部隊を動かす身としては厄介極まりない存在である。エルの発言にアーニィスはあまり期待していなかったのかおざなりに返答するが、その言葉に言質を得たとエルのテンションは天元突破する。
「確かアルが作ってたアレがまだイズモにあったはず…………よし、いける。分かりました! では現地改修となりますが、いくらか資材をいただいて対策を講じます!」
飛び出していくエルにアーニィスは『え?』と目を白黒させる横で、アルは『あーあ』とまるで制御装置を外れた機体を遠巻きから眺めているような言葉を漏らす。もはやあれは止められないと思ったアルは、アーニィスに『じゃ、また出撃してきます』と言い残してとっとと艦橋から出て行く。
「あの人、逃げたな」
「アーニィスさんでしたっけ? ちゃんと見てないと騎士団長、なにするか分からないですよ」
「エーテライトでいつでも動かせるようにしておくように伝えとくぞ」
「あいあい」
艦橋に残されたアーニィスは呆然と立ち尽くす中、そこに詰めていた
下手をすると棘を破壊するためにマガツイカルガを出撃することもありえるので、伝声管に近い位置に居た
近くでニキチッチの
ただ、肝心のアーニィスはその光景すらも異常だと彼らの動く姿と戦場の様子をひたすら目に映していた。
***
なんのつもりだ。
案の定というべきか、鉄の巨人達に包囲されたがそれはどうでも良い。だが、急にあの娘の気配が近くなったかと思えば近くに居座り、その後は何の挨拶もなく静観を決め込んでいる。娘に着けたあの精兵も、親に顔も出さずに近くを激しく動き回ってて一向に考えが読めない。
つい棘を飛ばしてみたが、何の音沙汰もなくいたずらに時が過ぎ去っていく。その間も兵は消耗していき、いずれやつらはここまで攻め込んでくるだろう。
よもや、このまま何もせずに時が過ぎるのを待つつもりではなかろうか。
ここまで薄情で愚鈍な娘と馬鹿者とは思わなかったが……致し方無い。遣いを出そう。あの子に預けたあの馬鹿者よりは劣るが、いつまでもこちらに近づいてこない愚娘と馬鹿者の尻を叩かせるのには十分だ。