銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

168 / 200
131話

 4機のニキチッチが元来た道を戻っていく。補給作業時間で魔力貯蓄量(マナ・プール)が満タンになったため、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で地面スレスレを滑るように移動している。

 

「エクスワイヤで一気に飛ばないのかい?」

 

「デッドリーシェルケースで撃ち落されるわけにもいかないですから」

 

 魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)での移動とはいえ、空中を移動する快適さとは雲泥の差である。そのことを呟くディートリヒにアルは撃刺殻獣(デッドリーシェルケース)の放つ棘の脅威について語る。

 飛距離は個体によってまちまちだが、ゲームで『航空機絶対撃ち落す光線を放つ属種』を知っているアルからすれば迎撃が予想される現場を暢気に空を飛ぶのは危険である。

 ただ、そのことを語るのは現地人であるディートリヒ達には到底理解出来なさそうなので、アルは言葉を濁して答える。

 

 そのためか、周囲に討ち捨てられたカルディトーレの残骸が嫌でも目に入る。その度にアルは中の騎士が無事なのかと逐一気にかけてニキチッチの挙動が怪しくなるが、それを見たエドガーはアルを嗜める。

 

「アルフォンス、今は目の前だけを気にしろ。まだ前線ではないが、ソルジャーシェルケースが入り込んでいる場合がある。意識を別に向けていると思わぬ伏兵に食われるぞ」

 

「分かってます。今はクィーンシェルケースを討ち取ることを考えます」

 

 そう言ってさらに増速をかけるアル。時折、後方から臼砲によって打ち出された瓦礫や、魔導師(マーガ)小魔導師(パールヴァ・マーガ)が放った魔法(マギア)が森に着弾する様を見ながらも彼らは各戦域が見渡せる中央へとたどり着いた。

 そこには何故かジルバティーガと勇者(フォルティッシモス)が時折背合わせになりながら殻獣(シェルケース)を屠っており、アンブロシウスの護衛に就いていると聞かされていた紅隼騎士団の姿が見当たらなかった。

 

「あれ、2人だけかい? …………いやいやいや、ありえない。あいつらがそんな簡単にくたばるわけがないじゃないか」

 

 前方には1機と1人しか居ない現状が、嫌でもディートリヒに最悪の展開を頭に植え付ける。殺しても死なないような面々がこんな数が多いだけに、魔獣に遅れをとったという驚愕や魔獣に対する憎悪を膨らませながら周囲を見渡す。

 

 そんな時だった。

 

「先王陛下ー! 戦いながら移動するのは良いですけど、俺らも戦ってるんですからちゃんと言ってから移動してくださいよー!」

 

 右翼の方から殻獣(シェルケース)の波を剣や斧といったそれぞれが得意とする得物で掻き分けながらこちらに来る紅の機体群。その先頭に居るカルディトーレがジルバティーガに剣を振りながら己の存在をアピールし、ついでにその少し後ろでカルディトーレの集団を見ているニキチッチの姿を見るや否や、剣でニキチッチを指し示す。

 

「あれ、ダンチョ達居るじゃん。うぃーっす」

 

「ダンチョ、いぇーい」

 

「あぁ、うん。君達はそんな奴等だったね。忘れてたよ」

 

 思い返せば長い者は銀鳳騎士団が設立されてから苦楽を──苦の比率がかなり高い気がするが、共に過ごして来た殺しても黙って死ななそうな面々である。ディートリヒの方に剣や槍を振るカルディトーレ達に、彼が先ほどまで纏っていた緊迫感はすっかり萎んでしまった。

 心なしかディートリヒのニキチッチが奏でる吸気音がため息のような音色を奏でたのは錯覚であろう。

 

 そんな中、ジルバティーガは周囲の戦況を見渡しながら覇気のある声を上げる。

 

「お、おぬしらも来たか。戦況もこちら側に傾いておるし、おあつらえ向きに戦力も揃った。……行くか!」

 

「うむ! アルゴスよ、御照覧あれ!」

 

 ニキチッチや紅隼騎士団の到着に少し考えた後、意気揚々と森林部に向かおうとするアンブロシウスと勇者(フォルティッシモス)。あまりにも自然すぎる流れに一瞬着いて行きそうになった面々だが、はっと我に返ると『行きません!』と声を荒げつつ彼らを制止しだす。

 前線大好き爺ちゃんと化しているが、アンブロシウスは元フレメヴィーラ王国の国王である。ゆえに彼の放つカリスマの前では多少の不自然な言動は押し切られてしまうのだろう。

 

「えぇい……クヌート以外ならば見破られぬと思うたが……」

 

「ガチで止めてくださいね? 最悪、僕らの処遇もヤバいので。ホント、頼みますよ?」

 

「そんなに心配せずとも大丈夫じゃ。予め許可は取っておるし、おぬしの粗末なやつよりも上等な書置きも用意しておるわ」

 

「それは言わない約束でしょ! あれは僕の理解の埒外ですよ!」

 

「そんな約束しておらぬわ! それに書いて放置しておくほうが悪いじゃろ!」

 

 アルやエドガーによってこれ以上の前進を止められたアンブロシウスは未練がましく文句を言うが、以下に力自慢のジルバティーガでも綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)を2本内蔵してあるニキチッチの膂力には勝てずに森の入り口付近まで運ばれる。

 

 ちなみにアンブロシウスの言う書置きだが、政務に関しては既にリオタムスが主導となっているのでそういったことは書いておらず、ただ『遠乗りに出かける。なにかあっても心配無用』とアルのと比べても五十歩百歩の文面が綴られていたりする。

 しかも、アンブロシウスが居なくなるごとにその文面がコピーのように机の上に置いているので、リオタムスもそれを見つけると即座に破り捨てるほどのツーカー具合だったりする。

 ただ、今回はあらかじめ許可は取っているので、仮にアンブロシウスが重体になったとしても銀鳳騎士団の方に管理不行き届きの責任がこないことは確かだ。

 

 閑話休題。

 再び合流した地点に戻ってきた彼らは、戦況を見ながらどこに救援に向かえば良いか話し出した。──が。

 

「なにか来るぞ!」

 

「そこかっ!」

 

 野生の勘ゆえか、はたまた長年鍛え抜かれた戦場の機微を嗅ぎつける鼻か定かではないが、アンブロシウスは即座に敵の襲来を看破する。即座に横に居た勇者(フォルティッシモス)と共に地面に落ちていた槍を拾うと、槍投げの要領で森の奥へと投擲を行った。森の奥に姿を消した槍はしばらくすると派手な衝突音を撒き散らすが、その影で殻獣(シェルケース)特有の断末魔がアル達の耳まで届く。

 しかし、未だ羽音のような耳障りな音がこちらに近づいてくる。全員はそれぞれの武器を構えて森の奥を見据えるが、距離が近くなったからか羽音のような音と共にシューシューと何かを噴出す音が聞こえだすと、アルの中にあった『羽音』と現在戦っている『殻獣(シェルケース)』という2つの点は1つに繋がった。

 

「エドガーさんを中心に防御体勢! ヘルヴィさんは僕と一緒に法撃!」

 

 突然声を上げたのにも拘らず、各機はアルの号令に従って行動を開始する。エドガーが可動式追加装甲(フレキシブルコート)を前面に押し出しながら最前衛で立ち塞がり、その横を可動式追加装甲(フレキシブルコート)ではないものの前面の装甲を厚めにカスタマイズされたカルディトーレが支える。

 その後ろにはアルとヘルヴィのニキチッチがナンブ改を森の中に向けて法撃を開始し、その後ろでは地面に落ちていた長柄の武器を拾っては投擲するジルバティーガや勇者(フォルティッシモス)を中心にディートリヒのニキチッチや紅隼騎士団のカルディトーレが彼らの周囲を守るような陣形が組まれた。

 

「アルフォンス。これはもしかして……」

 

「多分ですが、前に僕が戦った"アレ"です。誰か、指揮所に連絡を!」

 

「俺がしておきます。危険を知らせる文面で良いんですかね?」

 

「ひとまずはそれで! かく成る上はマガツイカルガの発進も検討するようにも連絡して置いてください。何十匹も出てきたら間違いなく必要になります」

 

 アルが言っている『アレ』とは、初代パッチワークと相対した司令殻獣(コマンダーシェルケース)である。腹部から魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)のように取り込んだ空気を圧縮して放出することで空を駆け、前腕部に露出した心臓にあるそれとは異なる触媒結晶によって法弾を撃ち放つことが出来る大隊級魔獣だ。

 

 あの時はナンブの残骸を取り込ませて動きを鈍らせたが、今回は女皇殻獣(クィーンシェルケース)の討伐も入れなければならないのでそのような捨て身はご法度だ。

 

 ならば──。

 

「ヘルヴィさん、法撃箇所の変更! シルエットアームズを装備している人は法撃を手伝ってください! 目標、森の切れ目の地面!」

 

 森への法撃を止めたアルは、手本を示すように自身のニキチッチが装備するナンブ改で森と荒野の境目を広範囲に何度も法撃する。法弾が地面に突き刺さるごとに少量の岩の欠片や砂埃が舞って森の様子が分からなくなるが、それでも彼は法撃を止めない。

 

「大副団長に続け! 法撃開始!」

 

 エルのような突拍子のないアイデアを突然言い出すことは数あれど、軍事行動時に何かしら行動する時は裏になにかしらの意図があるということを良く知っている彼らは、それぞれ装備している魔導兵装(シルエットアームズ)で法撃を開始する。

 

「あ、ジルバティーガはご遠慮ください。僕らが吹き飛ぶので」

 

「言われずとも分かっておるわ」

 

 当たり前だが、こんな所で高火力のマップ攻撃などされればたまった物では無い。狙いに注力しつつあるにも拘らず、アルはそのことについて注意を行うがアンブロシウスは鼻を鳴らして再び地面に落ちた槍を手にとって土煙の向こうへと投げつけ始める。

 

 このまま何事もなく終われば良かったが、土煙の向こうから棘ではなく法弾が飛んで来る。しかし、エドガー機の可動式追加装甲(フレキシブルコート)によって法撃は防御され、敵からの攻撃にアルらも一層法撃の圧を強めていると、土煙を吹き飛ばしながら片手では足りないほどの司令殻獣(コマンダーシェルケース)が姿を現した。

 アルやエドガー、ディートリヒにとっては2度目。他の者達にとっては初見の魔獣。しかもその脅威度は大隊級ということもあってかそれぞれの手足に余計な力が入っていたが、目の前で起こった不可解な事態に目を丸くする。

 

「かこ……め?」

 

「おろ? 落ちていく」

 

 土煙を吹き飛ばしながら元気良く現れた司令殻獣(コマンダーシェルケース)だが、全体の約半分ぐらいがそのままの勢いで地面と激しいキスを交わしたのだ。地面にガリガリと甲殻を押し付けたことで所々から外殻の砕けた辺りから体液を流しながらその場で痙攣している姿に紅隼騎士団員はポカンとしていると、ニキチッチ小隊は彼らに『トドメ!』と短い指示をしながら前に出る。

 半分の敵をなぜか戦闘不能になってしまったが、まだ健在な敵が居るのだ。

 

「全部で4匹。私達と同じね」

 

「1人1匹だね。エドガー、こちらを片付けたら手伝ってあげようか?」

 

「その言葉、そっくり返すぞ」

 

「狙えるようなら腹部の呼吸器官を狙ってください。それで終わります」

 

 それぞれが言葉を交わしながら示し合わせたかのように1匹に対して1機のニキチッチが相対する。

 ある者は可動式追加装甲(フレキシブルコート)を構えてのカウンターを駆使し、ある者は司令殻獣(コマンダーシェルケース)の鋭い前腕部と推進剣(ブーステッドソード)で競り合い、ある者はニキチッチお得意の高速戦闘とナンブ改による法撃戦を仕掛ける中、アルも補給によって交換した新しい推進剣(ブーステッドソード)を加速させながら目の前で同じく自らの獲物である鋭い前腕を振り上げる司令殻獣(コマンダーシェルケース)と相対する。

 

 直後、片方は生体であるにも関わらず金属同士を打ち合わせたかのような硬質な音が鳴り響く。

 そのまま何合か打ち合うが、やはりと言うべきだろうか。大隊級の触媒結晶を別で備えている司令殻獣(コマンダーシェルケース)の前腕は推進剣(ブーステッドソード)とかち合っても刃毀れすら起こさない強靭さを誇っていた。

 

(やっぱり楽に勝たせてはくれませんか)

 

 ロボットものをはじめとした戦闘が入るアニメでは、『新しい力に目覚めた主人公が過去に苦労して倒した敵を一瞬で倒す』といったものがある。もちろん、そんなシーンも履修済みのアルは心の隅では期待していたのだが、現実はそう甘くはなかった。

 推進剣(ブーステッドソード)のみならず、時には拳で前腕を弾いたりと攻守を何度も入れ替えながらの命のやり取りを続けるアル。しかし、何度目かの攻撃でとある違和感が彼を襲う。

 

(あれ、なんだか……足が前に行き過ぎてるような)

 

 剣を振り下ろした際、僅かにニキチッチの足がアルの思っていた以上に踏み込まれていたように思えた。実際に測っていたわけではないのだが、まるで定規で10cmの線を引くと力を入れすぎて13cmになってしまった──ぐらいの余韻の悪さ。それがどうにも気持ち悪くて仕方がなかった。

 

 相手が幻晶騎士(シルエットナイト)と比べて軽いので、ついつい反射的に押し切ろうとしているのだろうか。そんなこと考えながらアルは剣と頭部兵装を織り交ぜた攻撃に移る。頭部兵装は威力こそ低いが、空中を駆ける司令殻獣(コマンダーシェルケース)に当てるとバランスを崩してすぐさま墜落してくれる。それもあってか、徐々に戦況はアルの方へと傾いていく。

 

「っあ! てめっ!」

 

 そんな自身が劣勢な事態に気付いたのか、司令殻獣(コマンダーシェルケース)はいきなり攻撃の手を止めると一目散に森の方へと飛翔する。

 しかし、背を向けるという明らかな逃走の構えに気付いたアルはニキチッチの前腕部に備えた簡易執月之手(ラーフフィスト)を射出すると、飛ぶ司令殻獣(コマンダーシェルケース)の甲殻を掴む。

 

「どらっしゃぁ!」

 

 射出したワイヤーをニキチッチに持たせ、謎の掛け声と共にワイヤーを背負い投げる。すると、重量が軽い司令殻獣(コマンダーシェルケース)はワイヤーに引かれて弧を描くように空を飛び、そのままビタァァン! という痛そうな音を出しながら背中から地面に衝突する。

 

「むぅ、あれこそは……フレメヴィーラ式格闘術!」

 

「先王陛下! 知ってらっしゃるのですか!」

 

「左様……」

 

 なにやら架空出版社の本を引用するかのようなやり取りが行われようとしているが、アルは遠目からトドメを刺すために盾と推進剣(ブーステッドソード)を地面に落としてからナンブ改をサブアームから左手に持ち替える。窮鼠、猫を噛むのであれば噛まれる間合いに立ち寄らないのが彼のモットーだ。

 

 ただ、その窮鼠が猫に向けて噛み付きに来ることもある。今回はそのケースだった。

 ナンブ改を構えて法撃する直前、司令殻獣(コマンダーシェルケース)はニキチッチに向けて一直線に飛び込んでくる。その加速力にアルは慌てて撃ち落そうと法撃するが、足が捥げても顔面の一部が弾けても司令殻獣(コマンダーシェルケース)は決して怯まず突進を続ける。

 このまま撃っても迎撃出来ないことを悟り、アルはそれ以上の法撃を止める。さらにニキチッチの腰を落とすと、向かってくる司令殻獣(コマンダーシェルケース)との間合いを慎重に計り出した。

 

「こなくそぁ!」

 

 迎撃を止めたことで司令殻獣(コマンダーシェルケース)の前腕が届く範囲まで接近を許してしまうが、前腕を振り被ってから振り下ろすまでの僅かな隙間を見切るとナンブ改で振り下ろそうとした前腕を押さえ、何も持っていない右手で相手の顔面を掴むとそのまま司令殻獣(コマンダーシェルケース)を地面へと叩きつけた。

 その威力に背中の甲殻が割れたのか夥しい量の体液が地面を濡らすが、それでも安心は出来ないとアルは頭部兵装で前腕部や歩行に使う脚部を狙いつつ司令殻獣(コマンダーシェルケース)に組み付くとナンブ改の切っ先をグロテスクに広がった呼吸器へ向ける。

 

「往生せいやぁー!」

 

 (タマ)の取り合いというアドレナリンがドバドバ出る環境にいるせいか、まるでヤの付く自営業のような言葉を叫びながらアルは法撃ボタンを押す。ナンブ改から雨のように法弾が呼吸器に吸い込まれていき、法弾が着弾したことで発生する破壊力を内部にため込むことが出来なくなった司令殻獣(コマンダーシェルケース)は木っ端微塵に砕け散った。

 

「ハッ……ハッ……ハァー……ッスゥゥーはぁー。相変わらず泥臭いなぁ」

 

 緊張感で呼吸が荒くなりながらもアルは殻獣(シェルケース)の体液と泥に汚れた腕や胴体をホロモニターに映し、自身のスマートさに欠ける戦い方に呆れながら周囲の様子を見やる。

 そこにはちょうどディートリヒ機が司令殻獣(コマンダーシェルケース)を一刀両断する姿やエドガー機が盾に張り付いた死骸をヘルヴィ機に取ってもらう姿が見え、明らかに戦闘経験値が足りなさすぎる己に対して重いため息をついた。

 

「片付きましたね」

 

「大副団長ー、最初に落ちてきたやつらは全部トドメ刺しときましたー」

 

「お疲れ様です」

 

「それより、なんでああなってたんです?」

 

 トドメを刺して回っていた紅隼騎士団のカルディトーレやジルバティーガと合流したところで、紅隼騎士団の1人が司令殻獣(コマンダーシェルケース)数匹が何も出来ずに墜落した原因を問うてくる。その質問に、アルはかの魔獣と初めて戦った際の経験や魔獣の生態などを調べている機関から聞かされた詳細な生態を交えて今回行った対策の意図を話し出す。

 

 何度も言っているが、司令殻獣(コマンダーシェルケース)魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)と同じく空気を一度取り込み、それを圧縮して放つことで推進力を得ている。ただ、魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)と違って司令殻獣(コマンダーシェルケース)は生身。それも、甲殻が存在しない内蔵に外気を取り込んでいるという致命的弱点がある。

 過去にアルはナンブをわざと破壊し、その残骸を呼吸器に吸い込ませることで器官ごと内部をズタズタにしたが、今回は武装を損壊させるのは嫌だったのでヴィーヴィルがイカルガに行ったように粉末状の硬い物質──法撃によって空中に散らばった大きな岩石を吸い込ませることにした。

 その結果、岩石によって機能不全を起こした司令殻獣(コマンダーシェルケース)は飛ぶ力を失い、先ほどまで生み出していた推進力で自分自身を負傷させることとなった。

 

「おぬしのやったことにしては中々の戦果じゃな」

 

「先王陛下は僕のことをなんだと思ってるんですか」

 

「大事な局面で自身の機体を壊しながらも任務を完遂する死狂い」

 

「あー、たしかに最終的に壊して帰ってきますよね。大副団長」

 

「しかもちゃんと色々こなしてから」

 

「さすが橋の勇者。その戦い様は素晴らしいな、見習うことにしよう!」

 

 総じてアルのことをデストロイヤー扱いしてくることに彼は少々ふてくされる。

 確かにパッチワークは節目節目で大きく損傷してはお色直しをし、最終的にヴィーヴィルの火竜撃咆(インシニレイトフレイム)から王族を守ったことで朽ち果てた。

 次にエルを探索するために持ち出したトイボックス・ハーミットは小王(オベロン)の策略にわざと引っかかる形で操縦席を入れ替えないと操縦不可能なぐらいの損傷を負った。

 ただ、乗っただけで無事に返却した機体もあるので『どれもこれも破壊したわけではない』と反論したかったアルだが、今はそんな時ではないと司令殻獣(コマンダーシェルケース)を仕留めてもなお押し寄せてくる殻獣(シェルケース)に法撃を放つ。……少々ナンブ改の狙いが乱暴なのは決して気のせいでは無い。

 

「ところで、なんでこっちに棘とか落ちてこないんですか?」

 

「おぬし、本当にいまさらじゃの」

 

 司令殻獣(コマンダーシェルケース)とは少なくとも数分。そして、押し寄せてくる殻獣(シェルケース)の相手をして数分。合計で10分は立っているにも拘らず、女皇殻獣(クィーンシェルケース)からの棘攻撃がこないことを質問するアルにアンブロシウスは『他のところにも目を向けい』とジルバティーガの指を上に向ける。

 すると、ちょうど女皇殻獣(クィーンシェルケース)が口から棘をにゅっと出して攻撃準備を行っており、それを見たアルはぎょっとしながらも退避命令を出そうとするが、アンブロシウスは再びジルバティーガの指を今度は中央後方に巨体を下ろしているイズモに向けて話し出す。

 

「すでにあやつの攻撃はワシ等に届かん。……見ておれ」

 

 アンブロシウスに宥められつつも、アルは未だ不安な様子だったが飛ばされた棘がイズモの方向から飛んでくる一条の法弾にぶち当たる様を見ると、妙に納得した声を出しながら女皇殻獣(クィーンシェルケース)の討伐をアンブロシウスに進言し出した。

 

***

 

 時はつい先ほど。ちょうど女皇殻獣(クィーンシェルケース)が棘を口から出して攻撃態勢を取っている時に遡る。

 イズモの甲板ではカササギを取り外した状態のイカルガが手に持った長大な魔導兵装(シルエットアームズ)を森の方へと向けていた。

 『アヴェンジャー』。本来はトイボックス・ハーミットのお供である強襲型追加装備(オプションワークス)に装備させる銃装剣(ソーデッドカノン)よりもバ火力を持つ魔導兵装(シルエットアームズ)である。

 

 調査船団から帰ってきたばかりということもあってか、アサマの船倉内に放置されているのをエルが思い出し。それを素早く確保。『後で言えば良い』と事後承諾という論理武装を施した彼は、自分の都合が良いように出力や諸々の魔法術式(スクリプト)を追加し始める。

 元は『一般的な魔力転換炉(エーテルリアクタ)で運用する装備』だったはずだが、ついつい興が乗ってしまったのだろう。ふと気付けばイカルガという規格外の心臓を持つ機体しか放てないようなえげつない改造を施していた。流石に悪いと思ったのか、彼がアルに対しての謝罪予定を脳裏に書き込んだのは言うまでも無い。

 

「また来ましたね」

 

 女皇殻獣(クィーンシェルケース)の棘が口から半分ほど出たタイミングで、エルは魔改造されたアヴェンジャーにイカルガの魔力を流し込む。潤沢な魔力によって轟炎の槍(ファルコネット)以上の熱量を孕んだ炎弾が顕現し、大気による圧縮を持って槍状に形成される。

 アヴェンジャーに備わった望遠レンズの先には女皇殻獣(クィーンシェルケース)の口元に飛び出た棘が映し出されており、エルの命令一つで棘を破壊できる環境が整っていく。

 

「もう少し近づけば棘ごと撃ち抜けそうなんですがね」

 

 狙撃によって一撃で仕留めることが出来たら良いのだが、仮に飛距離が足りないといった理由で狙撃がバレて暴れられる危険性を考えるとこの場で女皇殻獣(クィーンシェルケース)ごと撃つのは博打が過ぎるとエルは自身を律する。そんな彼を余所に女皇殻獣(クィーンシェルケース)は中央に棘を山なりに打ち出した。

 

「今!」

 

 棘の弾道が最高値に達する頃合でエルは法撃のボタンを押した。アヴェンジャーの切っ先に待機していた炎の槍はまるでイカルガが空を翔るかのような速度で一直線に射出され、重力に引かれて後は落ちるのみだった棘の横っ面に命中する。

 法弾は即座に爆発せず、熱によって棘の表面を溶解させながら徐々に棘の中心地点まで食い込むと、満を持したかのように爆発する。その圧倒的な破壊力によって巨大な棘は細かな欠片へと変じて大地に落ちていった。

 

「これで3分は安泰ですね。空冷しながら様子を見ますか」

 

 魔法術式(スクリプト)をアヴェンジャーに送り込むことで砲身を取り囲む装甲の一部が開き、本来のアヴェンジャーよりも甲高い排気音と大量の蒸気がイカルガを包みこむ。開かれた装甲には新たに大気系の紋章術式(エンブレム・グラフ)が大量に刻まれており、それらが砲身内を損傷しない程度に緩やかに冷却していく。

 もちろん大量に刻み付けてある紋章術式(エンブレム・グラフ)は全てエルの手作業。しかも、そこらのパーサーならば下書きをする所を彼は下書きなしのぶっつけ本番で行うという化け物具合だ。

 

「あっちはどうしてますかねぇ」

 

 相変わらず飛びぬけた才能を影で披露しながらも、当の本人は3分のインターバルがあるとはいえアヴェンジャーの連続使用に砲身は本当に大丈夫なのかとチェックを始める。ただ、たまに視線を森の方に向けて不測の事態に備えながら最新鋭機で飛び出していった弟や中隊長達を案じる。

 

「最新鋭機……乗りたかったですねぇ」

 

 多分──案じている! 

 

***

 

 そして、再び中央の最前線。エルからの援護を目の当たりにしたアル達は改めてどう動くかを戦いながら検討する。

 

「とりあえず正面突破で大将首を獲るべきじゃろう」

 

「いや、火力集中させましょうよ」

 

 『とりあえずビール』みたいに脳筋的解決法を提示するアンブロシウスや勇者(フォルティッシモス)、ディートリヒ含めた紅隼騎士団に、『囲んで棒で叩くこそ至高』と言わんばかりに周囲の力を借りる方針を唱えるアルやエドガー、ヘルヴィ。

 両者の意見が完全に真っ二つで両案の代表であるアンブロシウスとアルは余計に頭を捻るが、出てくるのは対面の策の批判ばかりであった。

 

 正面突破で女皇殻獣(クィーンシェルケース)の首を獲るのは確かに手っ取り早いが、こちらから向かう以上は森林地帯で戦う羽目となる。エルの場合は幻晶騎士(シルエットナイト)すら乗ることが可能なほど太い枝を持つ樹木が立ち並ぶ場所だったが、ここはただの森林地帯だ。視界不良の森林地帯で他の殻獣(シェルケース)を相手しながら女皇殻獣(クィーンシェルケース)と戦うのはリスクが高い。

 かと言って火力を集中させる案はたしかにローリスクだが、現時点では女皇殻獣(クィーンシェルケース)が荒野に足を伸ばすかも不明確だ。森林地帯を通って別の方向に移動すれば陣地転換をすることとなり、その移動時間だけ近隣の村や街に危害が及ぶ可能性が出てくる。

 

「せめて、こちらに牽引することが出来れば良いのじゃがな」

 

「そうですね、機動性が高い機体に餌になって……もらって……」

 

『それだ!』

 

 平行線かと思われていたそれぞれの主張が境界線上で交わる。やはり話し合いは良い文化であるということを実感しつつ、彼らは間髪入れずに叫びつつも殻獣(シェルケース)をエドガーらに任せてから後方でその案を基に案を練り出した。

 

 作戦としてはこうだ。まず、ニキチッチ小隊が女皇殻獣(クィーンシェルケース)にカチコミをかける。しかし、いくら高性能で纏め上げたニキチッチでも旅団級を相手にするのはかなり骨の折れる作業だ。

 なので、適当な頃合で逃げながら戦うことで興味を持たせ、女皇殻獣(クィーンシェルケース)を荒野のキルゾーンまで誘導し、後は煮るなり焼くなりお好きにどうぞといった具合である。

 正直、ニキチッチ小隊で女皇殻獣(クィーンシェルケース)が興味を持つのかは勝負の分かれ目になるが、このままなにもしないのもジリ貧になる。

 ならば、道は一つしかない。

 

「若旦那が言ってました。答えは剣の中にあるって」

 

「都合の良い様に解釈しすぎであろう」

 

「さらに言ってました。最後に決めるのは気合だと!」

 

「進化しおった……」

 

 使い勝手の良いエムリス語録を媒介に脳筋的な勢いを借りたアル。そんな彼にアンブロシウスは『間違えてもエムリスの前で言うな。殴られるぞ』と厳命しつつ、前方で戦っているエドガーらに先ほど決めた作戦を伝達する。

 作戦を聞いた紅隼騎士団や勇者(フォルティッシモス)は『それしかない』と妙に納得した物言いで森までの道筋を開こうと殻獣(シェルケース)らを排除する速度を上げ、ニキチッチ小隊はアルに近づくと陣形を攻撃的な鏃状に変える。

 

「森だとやはりエクスワイヤの出番かい?」

 

 鏃の切っ先を担当するディートリヒ機がアルの方に首を向ける。だが、アルはニキチッチに首を左右に動かせながらその意見を却下し、森の中を進むように提案する。

 

 せっかくの飛行能力を活かせる機会なのだが、森林地帯に無数に居る撃刺殻獣(デッドリーシェルケース)から攻撃を喰らえばいかに強靭なニキチッチでも容易く撃ち落されてしまうだろう。射点を特定して攻撃しても、別の所から別の個体が攻撃をしてきたら結局イタチごっこになって前進どころでは無くなってしまう。

 ならば、木々を盾に前進した方がいくらか損耗は少ないだろうというのがアルの考えた方針だった。

 

「そうね。トゥエディアーネのようにとはいかないし、森を突っ切りましょ」

 

 ヘルヴィの後押しもあって一行は森中を突っ切る方針へと固まる。そんなニキチッチ小隊にジルバティーガが近づくと、森の方に向き直ってから腰部の装甲をスライドさせて地面に突き刺し始めた。

 騎操士(ナイトランナー)や機体は違うが、その慣れ親しんだ獣王轟咆(ブラストハウリング)の構えに横に居るニキチッチ小隊はもちろん前方に戦って居た紅隼騎士団も一様にギョッとする。

 

「先王陛下、なにを!?」

 

「森を駆け抜けるのじゃろ? ならば空間を多少開けてやろうと思ってな。勇者に紅隼騎士団よ、道を開けよ!」

 

「うわ、ブラストハウリングじゃん! 撤退、てったーい!」

 

「勇者さん、巻き添え食らうからちょっとこっちに移動してくれな!」

 

「な、なんだ。我の問いを邪魔「そんなのいーから! 巻き添え食らうから!」」

 

 獣王轟咆(ブラストハウリング)の威力を知らない勇者(フォルティッシモス)を必死で宥めながら紅隼騎士団は射線上から退避していく。やがて直線上に味方機が居なくなるが、念のためにアンブロシウスやアルを含めた超隊長たち4人によるチェックが済んだところで銀の虎が超圧縮した大気を込めた咆哮を上げる。

 巨大な大気は射線上に居た殻獣(シェルケース)はもちろん、木々を根元から粉みじんにしながら森を抉り取っていく。そんな環境破壊現場を見た勇者(フォルティッシモス)はその威力にあんぐりと口を開けながら驚いていると、手を引いていた紅隼騎士団員が『な?』と問いかけてきたので彼は首を何度も上下に振っていた。

 

「ふむ、流石に直通とは行かぬな」

 

 一瞬のうちに途中まで木々が無くなり、殻獣(シェルケース)も居なくなった道が完成する。ただ、アンブロシウスが言葉を完全に言い終わらぬ内に横の木々から姿を現した殻獣(シェルケース)によってせっかく開けた道が徐々に侵食されていく。

 

「もう一度攻撃を行うゆえ、その時に突撃せよ」

 

「分かりました。全機、突撃準備」

 

 そう言ったアンブロシウスは近くのカルディトーレから魔力供給を行い、再度獣王轟咆(ブラストハウリング)の準備を行う。

 そして、再び大気がシェルケースごと森を削り取ると同時にニキチッチ小隊は女皇殻獣(クィーンシェルケース)を陽動するべく削り取られた轍に沿って森の中へと進入していった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。