4機のニキチッチが元来た道を戻っていく。補給作業時間で
「エクスワイヤで一気に飛ばないのかい?」
「デッドリーシェルケースで撃ち落されるわけにもいかないですから」
飛距離は個体によってまちまちだが、ゲームで『航空機絶対撃ち落す光線を放つ属種』を知っているアルからすれば迎撃が予想される現場を暢気に空を飛ぶのは危険である。
ただ、そのことを語るのは現地人であるディートリヒ達には到底理解出来なさそうなので、アルは言葉を濁して答える。
そのためか、周囲に討ち捨てられたカルディトーレの残骸が嫌でも目に入る。その度にアルは中の騎士が無事なのかと逐一気にかけてニキチッチの挙動が怪しくなるが、それを見たエドガーはアルを嗜める。
「アルフォンス、今は目の前だけを気にしろ。まだ前線ではないが、ソルジャーシェルケースが入り込んでいる場合がある。意識を別に向けていると思わぬ伏兵に食われるぞ」
「分かってます。今はクィーンシェルケースを討ち取ることを考えます」
そう言ってさらに増速をかけるアル。時折、後方から臼砲によって打ち出された瓦礫や、
そこには何故かジルバティーガと
「あれ、2人だけかい? …………いやいやいや、ありえない。あいつらがそんな簡単にくたばるわけがないじゃないか」
前方には1機と1人しか居ない現状が、嫌でもディートリヒに最悪の展開を頭に植え付ける。殺しても死なないような面々がこんな数が多いだけに、魔獣に遅れをとったという驚愕や魔獣に対する憎悪を膨らませながら周囲を見渡す。
そんな時だった。
「先王陛下ー! 戦いながら移動するのは良いですけど、俺らも戦ってるんですからちゃんと言ってから移動してくださいよー!」
右翼の方から
「あれ、ダンチョ達居るじゃん。うぃーっす」
「ダンチョ、いぇーい」
「あぁ、うん。君達はそんな奴等だったね。忘れてたよ」
思い返せば長い者は銀鳳騎士団が設立されてから苦楽を──苦の比率がかなり高い気がするが、共に過ごして来た殺しても黙って死ななそうな面々である。ディートリヒの方に剣や槍を振るカルディトーレ達に、彼が先ほどまで纏っていた緊迫感はすっかり萎んでしまった。
心なしかディートリヒのニキチッチが奏でる吸気音がため息のような音色を奏でたのは錯覚であろう。
そんな中、ジルバティーガは周囲の戦況を見渡しながら覇気のある声を上げる。
「お、おぬしらも来たか。戦況もこちら側に傾いておるし、おあつらえ向きに戦力も揃った。……行くか!」
「うむ! アルゴスよ、御照覧あれ!」
ニキチッチや紅隼騎士団の到着に少し考えた後、意気揚々と森林部に向かおうとするアンブロシウスと
前線大好き爺ちゃんと化しているが、アンブロシウスは元フレメヴィーラ王国の国王である。ゆえに彼の放つカリスマの前では多少の不自然な言動は押し切られてしまうのだろう。
「えぇい……クヌート以外ならば見破られぬと思うたが……」
「ガチで止めてくださいね? 最悪、僕らの処遇もヤバいので。ホント、頼みますよ?」
「そんなに心配せずとも大丈夫じゃ。予め許可は取っておるし、おぬしの粗末なやつよりも上等な書置きも用意しておるわ」
「それは言わない約束でしょ! あれは僕の理解の埒外ですよ!」
「そんな約束しておらぬわ! それに書いて放置しておくほうが悪いじゃろ!」
アルやエドガーによってこれ以上の前進を止められたアンブロシウスは未練がましく文句を言うが、以下に力自慢のジルバティーガでも
ちなみにアンブロシウスの言う書置きだが、政務に関しては既にリオタムスが主導となっているのでそういったことは書いておらず、ただ『遠乗りに出かける。なにかあっても心配無用』とアルのと比べても五十歩百歩の文面が綴られていたりする。
しかも、アンブロシウスが居なくなるごとにその文面がコピーのように机の上に置いているので、リオタムスもそれを見つけると即座に破り捨てるほどのツーカー具合だったりする。
ただ、今回はあらかじめ許可は取っているので、仮にアンブロシウスが重体になったとしても銀鳳騎士団の方に管理不行き届きの責任がこないことは確かだ。
閑話休題。
再び合流した地点に戻ってきた彼らは、戦況を見ながらどこに救援に向かえば良いか話し出した。──が。
「なにか来るぞ!」
「そこかっ!」
野生の勘ゆえか、はたまた長年鍛え抜かれた戦場の機微を嗅ぎつける鼻か定かではないが、アンブロシウスは即座に敵の襲来を看破する。即座に横に居た
しかし、未だ羽音のような耳障りな音がこちらに近づいてくる。全員はそれぞれの武器を構えて森の奥を見据えるが、距離が近くなったからか羽音のような音と共にシューシューと何かを噴出す音が聞こえだすと、アルの中にあった『羽音』と現在戦っている『
「エドガーさんを中心に防御体勢! ヘルヴィさんは僕と一緒に法撃!」
突然声を上げたのにも拘らず、各機はアルの号令に従って行動を開始する。エドガーが
その後ろにはアルとヘルヴィのニキチッチがナンブ改を森の中に向けて法撃を開始し、その後ろでは地面に落ちていた長柄の武器を拾っては投擲するジルバティーガや
「アルフォンス。これはもしかして……」
「多分ですが、前に僕が戦った"アレ"です。誰か、指揮所に連絡を!」
「俺がしておきます。危険を知らせる文面で良いんですかね?」
「ひとまずはそれで! かく成る上はマガツイカルガの発進も検討するようにも連絡して置いてください。何十匹も出てきたら間違いなく必要になります」
アルが言っている『アレ』とは、初代パッチワークと相対した
あの時はナンブの残骸を取り込ませて動きを鈍らせたが、今回は
ならば──。
「ヘルヴィさん、法撃箇所の変更! シルエットアームズを装備している人は法撃を手伝ってください! 目標、森の切れ目の地面!」
森への法撃を止めたアルは、手本を示すように自身のニキチッチが装備するナンブ改で森と荒野の境目を広範囲に何度も法撃する。法弾が地面に突き刺さるごとに少量の岩の欠片や砂埃が舞って森の様子が分からなくなるが、それでも彼は法撃を止めない。
「大副団長に続け! 法撃開始!」
エルのような突拍子のないアイデアを突然言い出すことは数あれど、軍事行動時に何かしら行動する時は裏になにかしらの意図があるということを良く知っている彼らは、それぞれ装備している
「あ、ジルバティーガはご遠慮ください。僕らが吹き飛ぶので」
「言われずとも分かっておるわ」
当たり前だが、こんな所で高火力のマップ攻撃などされればたまった物では無い。狙いに注力しつつあるにも拘らず、アルはそのことについて注意を行うがアンブロシウスは鼻を鳴らして再び地面に落ちた槍を手にとって土煙の向こうへと投げつけ始める。
このまま何事もなく終われば良かったが、土煙の向こうから棘ではなく法弾が飛んで来る。しかし、エドガー機の
アルやエドガー、ディートリヒにとっては2度目。他の者達にとっては初見の魔獣。しかもその脅威度は大隊級ということもあってかそれぞれの手足に余計な力が入っていたが、目の前で起こった不可解な事態に目を丸くする。
「かこ……め?」
「おろ? 落ちていく」
土煙を吹き飛ばしながら元気良く現れた
半分の敵をなぜか戦闘不能になってしまったが、まだ健在な敵が居るのだ。
「全部で4匹。私達と同じね」
「1人1匹だね。エドガー、こちらを片付けたら手伝ってあげようか?」
「その言葉、そっくり返すぞ」
「狙えるようなら腹部の呼吸器官を狙ってください。それで終わります」
それぞれが言葉を交わしながら示し合わせたかのように1匹に対して1機のニキチッチが相対する。
ある者は
直後、片方は生体であるにも関わらず金属同士を打ち合わせたかのような硬質な音が鳴り響く。
そのまま何合か打ち合うが、やはりと言うべきだろうか。大隊級の触媒結晶を別で備えている
(やっぱり楽に勝たせてはくれませんか)
ロボットものをはじめとした戦闘が入るアニメでは、『新しい力に目覚めた主人公が過去に苦労して倒した敵を一瞬で倒す』といったものがある。もちろん、そんなシーンも履修済みのアルは心の隅では期待していたのだが、現実はそう甘くはなかった。
(あれ、なんだか……足が前に行き過ぎてるような)
剣を振り下ろした際、僅かにニキチッチの足がアルの思っていた以上に踏み込まれていたように思えた。実際に測っていたわけではないのだが、まるで定規で10cmの線を引くと力を入れすぎて13cmになってしまった──ぐらいの余韻の悪さ。それがどうにも気持ち悪くて仕方がなかった。
相手が
「っあ! てめっ!」
そんな自身が劣勢な事態に気付いたのか、
しかし、背を向けるという明らかな逃走の構えに気付いたアルはニキチッチの前腕部に備えた簡易
「どらっしゃぁ!」
射出したワイヤーをニキチッチに持たせ、謎の掛け声と共にワイヤーを背負い投げる。すると、重量が軽い
「むぅ、あれこそは……フレメヴィーラ式格闘術!」
「先王陛下! 知ってらっしゃるのですか!」
「左様……」
なにやら架空出版社の本を引用するかのようなやり取りが行われようとしているが、アルは遠目からトドメを刺すために盾と
ただ、その窮鼠が猫に向けて噛み付きに来ることもある。今回はそのケースだった。
ナンブ改を構えて法撃する直前、
このまま撃っても迎撃出来ないことを悟り、アルはそれ以上の法撃を止める。さらにニキチッチの腰を落とすと、向かってくる
「こなくそぁ!」
迎撃を止めたことで
その威力に背中の甲殻が割れたのか夥しい量の体液が地面を濡らすが、それでも安心は出来ないとアルは頭部兵装で前腕部や歩行に使う脚部を狙いつつ
「往生せいやぁー!」
「ハッ……ハッ……ハァー……ッスゥゥーはぁー。相変わらず泥臭いなぁ」
緊張感で呼吸が荒くなりながらもアルは
そこにはちょうどディートリヒ機が
「片付きましたね」
「大副団長ー、最初に落ちてきたやつらは全部トドメ刺しときましたー」
「お疲れ様です」
「それより、なんでああなってたんです?」
トドメを刺して回っていた紅隼騎士団のカルディトーレやジルバティーガと合流したところで、紅隼騎士団の1人が
何度も言っているが、
過去にアルはナンブをわざと破壊し、その残骸を呼吸器に吸い込ませることで器官ごと内部をズタズタにしたが、今回は武装を損壊させるのは嫌だったのでヴィーヴィルがイカルガに行ったように粉末状の硬い物質──法撃によって空中に散らばった大きな岩石を吸い込ませることにした。
その結果、岩石によって機能不全を起こした
「おぬしのやったことにしては中々の戦果じゃな」
「先王陛下は僕のことをなんだと思ってるんですか」
「大事な局面で自身の機体を壊しながらも任務を完遂する死狂い」
「あー、たしかに最終的に壊して帰ってきますよね。大副団長」
「しかもちゃんと色々こなしてから」
「さすが橋の勇者。その戦い様は素晴らしいな、見習うことにしよう!」
総じてアルのことをデストロイヤー扱いしてくることに彼は少々ふてくされる。
確かにパッチワークは節目節目で大きく損傷してはお色直しをし、最終的にヴィーヴィルの
次にエルを探索するために持ち出したトイボックス・ハーミットは
ただ、乗っただけで無事に返却した機体もあるので『どれもこれも破壊したわけではない』と反論したかったアルだが、今はそんな時ではないと
「ところで、なんでこっちに棘とか落ちてこないんですか?」
「おぬし、本当にいまさらじゃの」
すると、ちょうど
「すでにあやつの攻撃はワシ等に届かん。……見ておれ」
アンブロシウスに宥められつつも、アルは未だ不安な様子だったが飛ばされた棘がイズモの方向から飛んでくる一条の法弾にぶち当たる様を見ると、妙に納得した声を出しながら
***
時はつい先ほど。ちょうど
イズモの甲板ではカササギを取り外した状態のイカルガが手に持った長大な
『アヴェンジャー』。本来はトイボックス・ハーミットのお供である強襲型
調査船団から帰ってきたばかりということもあってか、アサマの船倉内に放置されているのをエルが思い出し。それを素早く確保。『後で言えば良い』と事後承諾という論理武装を施した彼は、自分の都合が良いように出力や諸々の
元は『一般的な
「また来ましたね」
アヴェンジャーに備わった望遠レンズの先には
「もう少し近づけば棘ごと撃ち抜けそうなんですがね」
狙撃によって一撃で仕留めることが出来たら良いのだが、仮に飛距離が足りないといった理由で狙撃がバレて暴れられる危険性を考えるとこの場で
「今!」
棘の弾道が最高値に達する頃合でエルは法撃のボタンを押した。アヴェンジャーの切っ先に待機していた炎の槍はまるでイカルガが空を翔るかのような速度で一直線に射出され、重力に引かれて後は落ちるのみだった棘の横っ面に命中する。
法弾は即座に爆発せず、熱によって棘の表面を溶解させながら徐々に棘の中心地点まで食い込むと、満を持したかのように爆発する。その圧倒的な破壊力によって巨大な棘は細かな欠片へと変じて大地に落ちていった。
「これで3分は安泰ですね。空冷しながら様子を見ますか」
もちろん大量に刻み付けてある
「あっちはどうしてますかねぇ」
相変わらず飛びぬけた才能を影で披露しながらも、当の本人は3分のインターバルがあるとはいえアヴェンジャーの連続使用に砲身は本当に大丈夫なのかとチェックを始める。ただ、たまに視線を森の方に向けて不測の事態に備えながら最新鋭機で飛び出していった弟や中隊長達を案じる。
「最新鋭機……乗りたかったですねぇ」
多分──案じている!
***
そして、再び中央の最前線。エルからの援護を目の当たりにしたアル達は改めてどう動くかを戦いながら検討する。
「とりあえず正面突破で大将首を獲るべきじゃろう」
「いや、火力集中させましょうよ」
『とりあえずビール』みたいに脳筋的解決法を提示するアンブロシウスや
両者の意見が完全に真っ二つで両案の代表であるアンブロシウスとアルは余計に頭を捻るが、出てくるのは対面の策の批判ばかりであった。
正面突破で
かと言って火力を集中させる案はたしかにローリスクだが、現時点では
「せめて、こちらに牽引することが出来れば良いのじゃがな」
「そうですね、機動性が高い機体に餌になって……もらって……」
『それだ!』
平行線かと思われていたそれぞれの主張が境界線上で交わる。やはり話し合いは良い文化であるということを実感しつつ、彼らは間髪入れずに叫びつつも
作戦としてはこうだ。まず、ニキチッチ小隊が
なので、適当な頃合で逃げながら戦うことで興味を持たせ、
正直、ニキチッチ小隊で
ならば、道は一つしかない。
「若旦那が言ってました。答えは剣の中にあるって」
「都合の良い様に解釈しすぎであろう」
「さらに言ってました。最後に決めるのは気合だと!」
「進化しおった……」
使い勝手の良いエムリス語録を媒介に脳筋的な勢いを借りたアル。そんな彼にアンブロシウスは『間違えてもエムリスの前で言うな。殴られるぞ』と厳命しつつ、前方で戦っているエドガーらに先ほど決めた作戦を伝達する。
作戦を聞いた紅隼騎士団や
「森だとやはりエクスワイヤの出番かい?」
鏃の切っ先を担当するディートリヒ機がアルの方に首を向ける。だが、アルはニキチッチに首を左右に動かせながらその意見を却下し、森の中を進むように提案する。
せっかくの飛行能力を活かせる機会なのだが、森林地帯に無数に居る
ならば、木々を盾に前進した方がいくらか損耗は少ないだろうというのがアルの考えた方針だった。
「そうね。トゥエディアーネのようにとはいかないし、森を突っ切りましょ」
ヘルヴィの後押しもあって一行は森中を突っ切る方針へと固まる。そんなニキチッチ小隊にジルバティーガが近づくと、森の方に向き直ってから腰部の装甲をスライドさせて地面に突き刺し始めた。
「先王陛下、なにを!?」
「森を駆け抜けるのじゃろ? ならば空間を多少開けてやろうと思ってな。勇者に紅隼騎士団よ、道を開けよ!」
「うわ、ブラストハウリングじゃん! 撤退、てったーい!」
「勇者さん、巻き添え食らうからちょっとこっちに移動してくれな!」
「な、なんだ。我の問いを邪魔「そんなのいーから! 巻き添え食らうから!」」
巨大な大気は射線上に居た
「ふむ、流石に直通とは行かぬな」
一瞬のうちに途中まで木々が無くなり、
「もう一度攻撃を行うゆえ、その時に突撃せよ」
「分かりました。全機、突撃準備」
そう言ったアンブロシウスは近くのカルディトーレから魔力供給を行い、再度
そして、再び大気がシェルケースごと森を削り取ると同時にニキチッチ小隊は