銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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139話

 オルヴェシウス砦にやってきた藍鷹騎士団の手からリオタムスからの召喚状を受け取って数日後。カンカネンの駐機場にエルとアディの姿があった。おそらく新人なのだろう、ぎこちなく案内する近衛騎士の背中を追いつつ、エルはまるで初めて来たかのように辺りをキョロキョロ見渡しながら口を開く。

 

「アルはどうしてるんですかねー」

 

「よく言うよ。数日間、アル君の試作機を弄り回してたくせに」

 

 エルの口からは何気なく弟の心配する声。だが、アルが拉致された次の日から行ってきた言動や先ほどの言葉の節々から白々しさを感じたアディはじっとりとした視線を夫に浴びせる。

 たしかに銀鳳騎士団や教官といった責務から解放されて暇であろうとはいえ、本人の了解も得ずにカンカネンに拉致したのはやりすぎだろう。ただ、説明はある程度でき、意見を言うこともでき、話し合いや規格の修正をその場で練れる対応力もあり、なおかつそれを上に報告として挙げることができる都合の良い人間が暇になったら上の人間はどう思うだろうか。

 そうだね、追加タスクだね!──ということだ。

 

 そんなこんなで帰りにカンカネンに出荷されたアルを迎えに行こうという予定を組んでいた彼らは、事前に召喚状に書かれていた会議室のドアを数度ノックしてから入室する。

 

「おぉ、来たか」

 

「よく来たな」

 

「お加減が優れないようですが?」

 

 些かげっそりとしたリオタムスとアンブロシウスに迎えられ、彼らの体調を気にしたエルがそれについて言及する。すると、少々気まずそうにした2人が顔を見合わせながらどちらが話すか無言のバトルを展開し、やがて覚悟を決めたリオタムスが『人には向き、不向きがあるな』と零す。

 

「アルが何か?」

 

「いや、アルフォンスに財務関係の仕事を学ばせようとしたのだがな……」

 

 てっきりいつもふらっとどこかへ行く王族(アンブロシウス)のお付きでもするのかと思っていたのに、蓋を開けてみれば国の根幹レベルの仕事をやらせていることにエルは戦慄するが、同時に違和感を覚える。

 アルの計算レベルは前世仕込みなためか、そこら辺の町民よりも高い。四則演算はお手の物で、加減法といったプラスαの内容も苦手ながらも多少の理解があるので、その気になれば今すぐどこかの商会に行っても計算要員として雇ってくれるはずだ。

 そんなアルが計算でヘマをして迷惑をかけるのはあり得ない。そもそも、自信がなければ自信があるまで計算をやり直す性質なのは銀鳳騎士団の経理関係をたまにぶん投げる経験上、エルでも分かっている

 

「あれ、アルって結構計算は得意じゃありませんでしたっけ?」

 

「左様。ただ、少々民の思想に天秤が寄りがちというかな……」

 

 『計算が早くて正確だから大助かりなのは事実なのだがな』と言葉を詰まらせるリオタムスだが、それを言い切る前にとても良い笑顔でアルが入ってきた。幻晶騎士(シルエットナイト)の設計図を説明するときのような紙の束を抱えてはいるが、ちらりと見えるのは表やら升目に収まるように書かれた数字。いわずと知れた出納に関しての紙だ。

 

「陛下、ドネス領で膨大な使途不明金が見つかりました! あとこの領と……この領もちょっと怪しいです」

 

「あ'ぁ'あ"ー!」

 

「こういうことじゃ。アルフォンス、使途不明金は説明出来ない隠し財産ゆえに放置せよ」

 

「先王陛下! 民が税でどれだけ苦しんでるか分かってるんですか! 近所の八百屋のおっちゃんも税収とかで!」

 

「あー、分かった分かった。しかしな? 見舞金や復興費用を一時的に貯蓄しておくこともあるのじゃぞ?」

 

「それがちゃんと使われてるかなんて市民にはわからないでしょうが! 紙っぺらだけで世界回ってるんじゃないんすよ! 大体、なんで活動報告すらない団体にこんなに義援金突っ込んでるんすか! 絶対怪しいでしょ!」

 

「分かった、分かったから落ち着いてくれ」

 

 エルとアディを放置してなにやら騒々しい話が展開されていく。途中で割って入ったアンブロシウスでさえも鎮火させることは敵わず、その無双っぷりにリオタムスがひたすらエルに目線での救援要請を求める。

 最初こそ話の展開が分からないエルだったが、話しっぷりから貴族の隠し財産の痕跡が見つかったんだろうと推測。アルを羽交い絞めしながら『お仕事は終わりです』と彼を正気にさせることに力を注いだ。

 

「あー、兄さん。聞いてくださいよ、この国の貴族堂々と裏金の存在明かしてるんですよ! 普通、入ってきたお金とか費用とか増減させて帳尻合わせますよね!?」

 

「あー、はいはいはい。どー、どーどーどー」

 

 ポコポコと怒る暴れ馬のような存在を宥めつつ、エルは脳内で『こいつが身内以外の勘定系役職とか絶対無理』という結論を結ぶ。ただ、どうやらそれは王族2人も思っていたらしく、興奮状態で聞こえていないことを良いことに『イサドラが頼みじゃな』や、『使えすぎて扱いに困る。こいつには数字関係を見せないようにしよう』といった陰口が聞こえてくる。

 

「あ、そういえばなんでこっち来てるんですか?」

 

「そこからですか……。先日の新婚旅行の企画関係で呼ばれたんです」

 

「本来は玉座で話すことじゃが、アルフォンスのことも言っておこうとな」

 

「それはお手数をおかけします」

 

 どの口が言うのか。絶対反省していないような定型文で話すアルだが、これ以上蒸し返すのも良くないとリオタムスはさっさと本題を話し始める。

 

 アンブロシウスと協議の結果、クシェペルカ王国への新婚旅行は許可された。ただ、アルに連絡された通りイカルガを連れていくことは許されなかった。幻晶騎士(シルエットナイト)をペット扱いするエルがリオタムスの説明に異を唱えたが、ここでアルは彼の逃げ道を塞ぐためにアディの耳元でさっと呟く。

 

「イカルガって親方達じゃないと整備できないですよね? せっかくの新婚旅行に銀鳳騎士団がぞろぞろ来て良いんですか?」

 

「エル君! イカルガは置いていこう!」

 

「アルー!」

 

 やられて嫌なことを相手に押し付けるのが戦いの極意である。それに、今まで散々逃げ道を塞いでくれたのだからこれぐらいの意趣返しぐらいは許されるはずだ。

 叫ぶエルを一旦無視したリオタムスは、イカルガの代替品としてカルディトーレを使うことを命じる。大変不本意だが既にカルディトーレの技術は流出しており、クシェペルカの正式量産機であるレーヴァンティアにその設計思想は吸収されているので万が一の危険性は少ない。操縦席の多少の改造は必要だろうが、白鷺と紅隼の活躍によって割かし暇な銀鳳騎士団が何とかするだろう。

 

「ご配慮いただきありがとうございます。それでは、そのように対応致します」

 

 イカルガとの旅を却下されたにしてはやけに元気にエルとアディは退室していく。そのついでにアルも『もうお前に財務関係は触らせん』と何気に酷いことを言われながら暇を出されたので、彼も2人についていく。

 

「ねー、エル君。悪だくみはだめだよ?」

 

「わかってますよー」

 

「……アル君、解説」

 

 じっとりとした視線を巧みにかわしつつも終始上機嫌なエル。その不可思議さにアディはつい、ツェンドリンブルの角のあたりに掴まっている外部ハードディスク(アルフォンス)に話を聞くことにした。いきなり話を振られた彼は『うぇっ!?』と身体強化を解いてしまってツェンドリンブルから落ちかけるが、確かに何とも言えない悪い予感がして気味が悪いので原因を推測しては操縦席のエルに回答を投げかけていく。

 

「兄さん、イカルガの外装を外してカルディトーレの外装くっつけるのはだめですよ?」

 

「やりませんって」

 

「透明になる魔獣の皮を大量に買って、それをイカルガに周囲に貼り付けて無断外出も駄目ですよ」

 

「いや、親方の目をどうするんですか」

 

「んー……新婚旅行の最中だけイカルガの名前をカルディトーレに変更するのはだめですよ?」

 

「違いまーす」

 

 ガワだけカルディトーレ作戦、透明幻晶騎士(シルエットナイト)作戦、型式名詐欺作戦とすぐさま思いつく答えはすべて外れ。ならば何が正解なのかと訳が分からなくなるアルやアディに、エルは微笑みながら『使えとは言われましたが、改造するなとは仰っていません』というトンチを聞かせた策を話しだす。

 

「パッチワークが修繕中で調査が出来ず、イカルガには余計な誤作動が起こりそうだったので詰めずにいた案が色々あるんですよ。せっかくなのでそれを詰め込もうかと」

 

「そっちかー!」

 

「でも、アルの作戦も面白そうですね。カルディトーレの形に成形したイカルガの外装を増加装甲みたいに貼り付けて正体を現す! みたいなことやってみようかな」

 

 まさかの改造計画であった。灯台下暗しな作戦に若干悔しそうな顔をするアルと先ほど彼が言っていた案を取り入れようとするエル。そんな幻晶騎士(シルエットナイト)馬鹿に囲まれた幻晶騎士(シルエットナイト)の理解度が一般人に毛が生えた程度のアディの心境は、ひたすら陛下が怒らないかという心配ばかりであった。

 

***

 

 やってきた当初はシートの匂いも新鮮で、誰の癖もついていない卸したてのカルディトーレ。幻晶騎士(シルエットナイト)史ではまだまだ現役だが、乗る人間からしてみればどこか物足りなさも香るその機体に幻晶騎士(シルエットナイト)開発のパイオニアであると共にその機体に乗る予定のエルネスティ・エチェバルリアは改造というメスを入れた。

 

 そして、1か月後。──なんということでしょう。どことなくカルディトーレの面影を残しつつも、全身くまなく匠の技がちりばめられた一品に仕上がってしまいました。なお、面影は残しているとは言ったが匠の技が入った個所のほとんどはカルディトーレの設計から逸脱したもので、端的に言えばほぼ新型である。

 

「アル君、もうこれ新型だと思うんだけど? ほんとにお許し出たの?」

 

「設計図も進捗も裏で報告してますが、別段なにも言われなかったんで大丈夫じゃないんですかね? ……多分」

 

「多分って言ったよね!?」

 

 アディの質問にアルはここ1か月で起こったことを思い出しながら話す。

 エルがカルディトーレの再開発をしている期間、アルはさすがに改造はやりすぎじゃないかという考えからエルに再開発の仕様書やその進捗を報告書に纏めさせ、纏めた端から試作機の試験運用という体でオルヴェシウス砦とカンカネンの間を往復していたのだ。

 本来ならば密偵である藍鷹騎士団がその仕事を請け負わなければならないのだが、通常業務である密偵作業や情報の集積を行う傍らでエムリス捜索の部隊編成もタスクに入ってきたため、重要度の低い連絡に割く人員は皆無。言い換えれば『人手が足りない』状況である。

 

 そのため、迅速な情報伝達ができる幻晶騎士(シルエットナイト)を保有するアルフォンス。またの名を『暇人』が光り輝くわけだ。エルの考えた装備案や内容が是か非かを先王かつアルと同じ暇人のアンブロシウスに検討してもらうため、アルは試作機と共にまるで電報のように情報を往復する通信機器と化したのは良き思い出である。

 

「そういえば、陛下からまた感謝状が届いてましたよ」

 

「自分の問題なのにさらっと別の話を持ってくる兄さん、逆にスゲーわ」

 

「照れますねぇ」

 

「アディ、君の旦那さん殴っていい?」

 

 ドヤ顔で照れるエルをしばき倒したい衝動に駆られるアルだが、もらえる物はもらっておく精神で感謝状を手にする。今回は定期便を魔獣の群れから助け出したことによる感謝状らしいが、アルは脳内の記憶を探り出そうと奮闘するも『そういった現場』と遭遇しすぎて思い出すことを諦めた。

 

 それもそのはず。1日の内にカンカネンとフレメヴィーラ付近を往復するメール機能と化したアルだが、毎度決まった航路を飛んでいなかったのだ。そのため、定期便や地上の村が魔獣に襲われているという『元』騎士としては見過ごせない状況を多々発見し、その度に飛行形態での空中戦や幻晶騎士(シルエットナイト)形態による近接戦で時間稼ぎを敢行。大抵はそのまま撃退してしまうが、後に事情聴取も嫌だったアルは礼をさせる暇すら与えずに空の彼方に姿を消す。

 もはや、辻切りや辻ヒールならぬ『辻救助』なのだが、変形する幻晶騎士(シルエットナイト)という世界中探してもそんなになさそうな特徴の機体ゆえ、あっさりアルの所業が王族にバレた。

 

 『傷だらけになりながらも船から魔獣を引き離してくれた』、『片腕や片足を失くしても魔獣に突撃して村を守ってくれた』といった感謝の言葉が報告されるが、既に銀鳳騎士団の騎士では無くなったアルにどのような報奨が最適なのだろうかと王族は意図せず増えた仕事に頭を抱える。

 結果として、感謝状と損傷を負った機体の修繕費用を全て持つという褒賞としては些か軽いものとなったが、当の本人は『わーい、損傷気にせず戦闘訓練が出来るぞー』とご満悦だったとか。

 

 そんな経緯で受け取った『10枚目』の感謝状をどこに飾ろうかと決めあぐねていたアルと、『旦那さん』という言葉にやられて体をくねらせながらニマニマとしているアディの周囲が突如陰った。

 

「話の途中にすまないが、やはり我やナブが居ないほうが良いのではないか? シンコンリョコウ……というものは分からぬが、夫婦の絆を深める旅だと橋の勇者から聞いたぞ?」

 

「あー、そういえばそんなこと言ってましたね。かまいませんよね?」

 

 巨人の中では小柄ではあるが、人間からすると見上げるような大きさの小魔導師(パールヴァ・マーガ)が眉を顰めながら申し訳なさげに体を小さくして2人に問いかける。まさかそんなことを律義に聞いてくるとは思わなかったアルは、目の前のどことなく小動物チックな行動を取る少女に若干ほんわかした気分になりながらアディに了解を取ると、彼女は『当然!』と自信満々に胸を張る。

 

「ほら、アディも言っているだろ。それに、様々な景色を目に入れてアルゴスや皆に伝えるのも俺達の役目だからな!」

 

「むぅ……、ナブよ。何度も言うが、マギステル エルとアディの邪魔はするでないぞ?」

 

「大丈夫ですよ。そもそも、クシェペルカ王国にはお二人共招待されています。それにアディは元から兄さんにべったりなので今更ですよ」

 

 アルの言う通り、この新婚旅行に小魔導師(パールヴァ・マーガ)とナブを連れて行くのは絶対である。エムリスやキッド、そしてアルのことで埋没していたが、クシェペルカ王国側がフレメヴィーラ王国に滞在中の巨人族(アストラガリ)達を招待したのだ。

 人間やドワーフとは異なるが人の形を成し、なおかつ国が作れるほどの独自文化を持つ意思疎通が出来る生物。しかも、友邦国がその国と手を取り合おうとしている。魔獣すらも居なくなってかなりの年月が経った西方諸国の人間が興味を持たないわけがない。

 

 そんなわけで同行人が増えたが、小魔導師(パールヴァ・マーガ)はエルとアディにとって身内。かつ、その比較的素直に言うことを聞いてくれるということでナブもクシェペルカ王国行きに抜擢された。

 なお、他の巨人族(アストラガリ)は既に大人。今更何を言っても『問い』によって物事を決める文化が変わることはないと判断したエルとアルにより、『交流期間の終了』を言い訳にボキューズ大森海へ帰ってもらった。無駄にいざこざが増えるのは、新婚旅行に向かうエルやアディにとってもクシェペルカにとっても望むところではないのである。

 アディからの言葉によって自分達は邪魔ではないと分かった小魔導師(パールヴァ・マーガ)が安堵の表情を浮かべていると、今度は荷馬車(キャリッジ)の方からノーラが歩み寄ってきた。

 

「エルネスティ様。出立の準備が整いました」

 

「分かりました。あ、もう一度言いますが僕達の世話については優先度を低くして構いませんからね。僕たちは旅行で行くので」

 

「いや、一応兄さんたちも半分ほどは任務でしょうが」

 

 ノーラの報告に朗らかな笑顔で答えたエルだが、隣国まで純粋に旅行を楽しむ気持ちを前面に押し出した言い方にアルはリオタムスから託された命令を今一度、認識共有しようかと迷った。

 もちろん、新婚旅行としてクシェペルカ王国に赴く以上はそれなりに楽しめば良いが、西方諸国の情報を集めるノーラ達藍鷹騎士団の張った網に少しでも揺らぎが発生すれば、すぐさま新婚旅行から任務へと転じなければならない。

 オンオフの落差が非常に激しい任務なのだが、当の本人はアルのツッコミを受けてもクシェペルカ王国の発展具合を気にした様子で荷馬車(キャリッジ)に乗り込んでいく。すでに工房の外にはいつ頃帰ってくるかも分からない夫婦を見送ろうと何人もの人間が集まっていた。

 

「では、出発しましょうか」

 

「いってらっしゃーい」

 

 エルの号令に呼応するかのようにアルの声が響く。その声と『いってらっしゃい』の意図に気づいたエルが周囲を見渡すと──居た。ダーヴィドの隣でさも見送る側のように手を振っている自分達よりも見送られる側が似合っている存在が。

 とてつもなく爽やかに手を振っているアルの姿に、『なんでこいつがここに居るんだ』とダーヴィドが驚愕したのも束の間。アルの頭部を誰かが掴んだ。

 

「お前も行くんだよ、往生際悪いぞ!」

 

「あ"ー! おやっさん、ジョーク! いっつ フレメヴィーラジョーがあ"ぁぁ!」

 

「ダーヴィド隊長、こいつの機体どこにある?」

 

 姿を見せた親父はダーヴィドに試作機の場所を問う。藍鷹騎士団の人間がすぐ隣に居たのにかなり驚いたダーヴィドだったが、すぐに親指をアサマの甲板に向けた。

 甲板には昨日までアサマに増設した新装備のテストを行っていたためか、飛行形態の試作機──ついさっき『ガルラ』と名付けた幻晶騎士(シルエットナイト)がパターンを抜いた状態で放置されており、その存在を確認した親父は一言、『すまない』と言ってアルを連行。そのままアサマの甲板までたどり着くとガルラの操縦席にアルを突っ込んだ。

 

「まったく、ノーラに2人になったら渡すように言ったメモが無駄になったじゃねぇか」

 

 そう言ってメモ帳を取り出した親父は真っ白なページに色々書き込んだ後、破った紙片をアルに突き出す。紙片には住所のような記載や人の名前のようなものが書かれてはいるが、どれもアルの記憶に覚えがないものばかりだ。いったい何に使うのかわかないまま硬直する彼に対し、親父は『発進準備しながら聞け』と誰にも聞かれていないかもう一度周囲を点検してから操縦席に視線を戻す。

 

「こっちは藍鷹騎士団が間借りしている宿舎の場所。……で、こっちは王族にも存在を隠している場所だ。基本的には2つ目の場所には来るな、場所が割れるとまずい。……が、あっちでなにか揉め事があったり秘密裏に調べる必要があるなら来い。俺の隊が対応する」

 

「駆け込み寺ですね、助かります」

 

「カケコミ……? まぁ良いか、次の数名の名前がイサドラ様に粉かけてるやつの名前だ。どれも元ロカールとの国境近くに領地を持つやつらで……こいつの治める領地の工房からティラントーが出ている」

 

 次々に共有されていく情報。友邦国とはいえホームではない以上は好きに諜報は行えないので、こういった隠れて情報を取得できる場所はありがたい。そして、とりあえず注意しておく人物があらかじめ聞けたのも好調な滑り出しと言えるだろう。

 だが、そこまで藍鷹騎士団がクシェペルカ王国に入れ込むのはまずいのではないかという考えに至ったアルがそのことを聞くと、親父は『向こうもこっちに入れてるからな』としれっと言ってきたことにアルは大層驚きながらも『そんなもんか』と返す。

 

「そんなもんだ。なにかを治める立場になるなら、上の立場の人間が善意で何かをやろうとしている考えは捨てとけ。たとえそれが善意だろうとも、受け取った当人にしては貸しになるからな」

 

「妙に実感篭ってますね」

 

「こんな歳だからな、……色々あんだよ。お前が飛んで行ったのを確認してから俺はクシェペルカ王国への定期便で追いかける。ノーラにはそう伝えておいてくれ」

 

 言いたいことを全て言ったのか、親父は胸部装甲から降りるとそのままどこかへ姿をくらました。相変わらず藍鷹騎士団の隠遁術は常識が通用しないものだと舌を巻いたアルは、気を取り直して胸部装甲を完全に閉鎖する。

 行った手順に不備がないか指を指しながら確認をし、いざ出発しようとしたところで現在のアサマに人員が居ないことに気づいたアル。いかにエルとアルが揃って『ロボットの発進はこれ!』と豪語しながら作った新装備でも運用できる人員が居なければ無用の長物である。

 

「最後に堪能したかったなぁ」

 

 そう呟きながらも追加装備(オプションワークス)内の源素浮揚器(エーテリックレビテータ)によってゆっくりとガルラは浮き上がる。名残惜しむかのようなゆったりとした上昇の末、オルヴェシウス砦の城壁よりも高度を上げたガルラは変形によって後方に集められた魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を一気に解き放つ。砦に背を向けた状態なので、おそらくもう豆粒状態になってしまったであろう古巣にアルは小さく別れを告げた。

 

 その後、多少出遅れつつもアルは悠々とツェンドリンブルに追いつく。アルが居ないと多少の騒動になっていたこともあり、普段はクールなノーラでさえもかなりご立腹で彼を注意していた。エルとアディの新婚旅行には様々な付随任務が存在するが、どれもフレメヴィーラ王国とクシェペルカ王国の間を取り持つ大事な任務だ。そんな初っ端で躓くのは士気にも関わるので、なるべく一人になるのはやめるよう説得されたアルの横で着陸状態のガルラを見てエルが一言。

 

「アル! アル! 背中に乗せてくださいよ!」

 

 大人しく旅行をする気がないのかと思えるような発言だった。他にも『源素晶石(エーテライト)、向こうで補充出来ますかね?』や『いざとなったらヘレナちゃんからもらおうよ』などといった相手の身分をよく分かっていないような言動と提案が連発されたので、いよいよノーラ達は彼らを旅行の型に嵌めることを諦める。端的に言うと『どうにでもなーれ』である。

 

 その後もトイボックスマーク2と名付けられるエルの新しいおもちゃ箱を背中に乗せたガルラが空を飛ぶという『サブでフライトなシステム』を堪能したり、上空から襲われている村に対して近隣の騎士団が駆けつける前に上空からの一方的に殲滅して戻っていくといった彼らなりの『遊び』をしつつもツェンドリンブルの脚力はたった1日でオービニエ山地を駆け抜けた。

 

 しかし、道草をしていたからか既に日が暮れている。このまま行けば関所の人間に迷惑がかかると脳内のお気遣いの紳士が叫んだため、アルがこの場で野宿をするよう提案する。

 

***

 

「アル! 見てください!」

 

「盾持ちの重装甲! いかにも門番って装備ですね!」

 

 次の日の朝。さっそくクシェペルカ王国との関所までツェンドリンブルを進ませると、エルとアルの目に関所前に立ったレーヴァンティアのカスタム機が目に入る。幻晶騎士(シルエットナイト)全体を隠せるような大きな金属製のタワーシールドを持ち、至る所に増加装甲が加えられたその機体はまさしく壁と評するにぴったりな存在であろう。

 内心では機体全体が見えるような位置でもう少し鑑賞──それもドリンク系を片手に意見を言い合いたかったが、そろそろノーラや他の藍鷹騎士団員の目が怖いのでエルは前進を告げる。

 

「人馬騎士……それにその紋章はまさか!」

 

「銀鳳騎士団だ! 銀鳳騎士団が来たぞ!」

 

 まるで化け物が来たかのような口ぶりだが、彼らにとって銀鳳騎士団は救国の英雄だ。そんな彼らに落ち着けといっても無理な話であろう。

 未だ衰えぬ……というか、彼らが勝手に話し始めた銀鳳騎士団の伝説が尾鰭にパテを盛り盛りにしたかのような惨状だったので、今もどこかで新たな伝説が作られているのだろう。そんな気がしたエルが些か居心地悪そうに入国手続きをする傍ら、アルは件の重装型レーヴァンティアを見るために関所に近づいていた。どこまでもフリーダムなエチェバルリアである。

 

「どうも、見せてもらっても?」

 

「おぉ、アルフォンス閣下」

 

「どうぞどうぞ」

 

 大声に反応したレーヴァンティア達。その内の1機が駐機状態を取ると、胸部装甲から騎士が下りてきてアルと握手を交わす。

 大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で猛威を振るった蒼き鬼神(エルネスティ)とは若干毛色が異なるが、アルもまた王族をヴィーヴィルの炎から守った騎操士(ナイトランナー)だ。注目されて然るべきなのだが、アル個人としてはあの防御も近衛騎士団が魔力を渡してくれていなければそのまま犬死にしていた痛い過去となっている。

 

「この機体。レーヴァンティア・ガードナーという名前なのですが、なんでも近衛騎士団がパッチワークを参考にして作っていたものらしいんですよ!」

 

 早口で捲し立てる騎操士(ナイトランナー)に対し、アルは心の中で『知ってる』と返す。なにせ、大型の盾を持った防衛用機体の構想を近衛騎士団長に渡したのが自分自身なのだ。

 しかし、そんな心の声とは裏腹にアルは興味深そうな視線でレーヴァンティア・ガードナーを見物する。おそらくティラントーから着想したのだろう、どっしりとした脚部とゴツい腕部は大抵の衝撃を受けても決して仰け反ることがなさそうな力強い印象を彼は抱く。

 

「あのサブアームも変わってますね」

 

「はい。かのイカルガのサブアームを参考にしたらしいです」

 

「整備が大変ですがね」

 

 アルと騎操士(ナイトランナー)の横で別の騎操士(ナイトランナー)が、彼らの話に拡声器で相槌を打ちながら乗機のサブアームの先端を動かす。先端にはイカルガのような五指を備えており、なおかつ通常の幻晶騎士(シルエットナイト)と同じような太さをしているのでもはや『サブ』といえるような簡易的なものではなかった。

 

 話を聞くに、当初は大型の盾を両腕で構えて背面武装(バックウェポン)で攻撃を加えるという案が主流だったらしい。ただ、それでは奇襲を受けるといったすぐさま近接攻撃に移らなければならない事態に対応出来ないと大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)──特にコデルリエ平原の戦いを経験した騎操士(ナイトランナー)から意見が述べられた。

 そこで騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は、かの蒼き鬼神が背負う五指のサブアームに目を付けることとなる。五指や、もはやサブとは呼べない腕と共に持つことで片手が空き、両腕で持つのと同等の防御性能を持ちながら近接戦闘すらもこなせる拠点防衛用としては破格の性能を手に入れたらしい。

 

「詳しいですね」

 

「シルエットナイトが好きで騎士になりましたからね。王都に居た頃、工房に入り浸ってる時に聞こえてきた話ですよ」

 

「ほう……作るのも好きですか?」

 

「いえ、動かす専門ですね。テストランナーとかやってみたくはあります」

 

 どうやらクシェペルカにもエルやアル寄りの人間がいるらしい。『そうですかー』と相槌を打ちながらも、アルは脳内に彼のことを記憶する。いつか開発沼に墜とすために。

 そうこうしている内に関所にある厩から騎士を乗せた馬がクシェペルカ領へ向けて走り出していく。合流したエル曰く、途中途中で銀鳳騎士団が来たことを知らせながら最終的にエレオノーラの元へ行くのだそうだ。

 

「もう逃げられませんね」

 

「元より覚悟の上で着いて来てるんですよ。そもそも、本気で嫌ならば銀鳳騎士団や藍鷹騎士団から学んだことを総動員させてフレメヴィーラで全力かくれんぼに興じてますよ」

 

「本気でやめてくださいね? 我々も暇ではないので」

 

 アルの気持ち次第で今頃、フレメヴィーラ中を捜索する羽目となっていた可能性をサラッとばらされた藍鷹騎士団員は全身を冷や汗で濡らしながら狼狽える。なお、彼の目は冗談とか嘘がないガチの目だと気づいたノーラは小さくエルにこれ以上アルを刺激しないよう注意を促すが、彼は『ここまで来たんですから大丈夫でしょう』と平然としながらツェンドリンブルに進むよう指示を出す。

 

 大きな戦場となった場所。良い物を仕入れることが出来た場所。様々な記憶を思い出してはその思い出を肴に雑談をしていく一同。されど、彼らの胸中にはとある懸念事項が浮かんではいるが誰もそのことに対しては言及しなかった。いったが最後、火中の栗を拾う役割を押し付け……もとい、抜擢されると踏んだからである。

 

『エレオノーラ様になんて切り出せば良いんだ……』

 

 声に出さない悩みを浮かべながら、一同はゆったりとした足取りで王都であるデルヴァンクールを目指した。




どなどなどーなーどーなー。あ、他意はないです。ナイ デス ヨ

ガルラ
 アルフォンスの夢の結晶。コマンダーシェルケースとクィーンシェルケースの炉によって出力された魔力とエチェバルリア兄弟のスクリプトにより、無理やり変形による破損問題を解決した力任せの権化。
 シルエットナイト形態の性能はアルディラット・カンバーやグゥエラリンデと同等だが、飛行形態ではトゥエディアーネを容易に追い抜く推力を持つ。
 また、廃部のオプションワークスには展開式の取っ手がついており、陸戦用シルエットナイトが握ることで空中移動用の足として用いることが出来る。

 武装は頭部兵装をはじめ、両腕の腕部に内蔵されたシルエットアームズ。サブアームと接続しているオプションワークスの両翼付け根に連射型シルエットアームズ。先端--飛行形態の際に機首となる部分に存在する大出力のシルエットアームズと射撃特化の武装をしているが、この機体は発展途上なので色々仕込んではいるらしい。

 先日に乱戦となった時に腕や足を捥がれたこともあってか、特に防御用の仕組みも仕込んでいるのだとか…。


レーヴァンティア・ガードナー
 クシェペルカ王国の制式量産機であるレーヴァンテイアを重装甲化させた拠点防衛を重きに置いた機体。
 機体の各所に増加装甲が貼られ、ティラントーから転用した通常のシルエットナイトよりも大きな四肢と、イカルガのサブアームから着想を得て前正式量産機であるレスヴァントの腕を再利用して作られたサブアームが特徴である。

 専用装備である大型のタワーシールドが正式な装備だが、両手が塞がるという点からサブアームと併用することで片手での運用が可能だが、他の弱点として移動が遅いこ都があげられる。ただ、拠点防衛のコンセプト的にはあっているので放置している。

 後々だが、我らが元副団長が色々弄るとか弄らないとか…。バズーカとかジャイアントガトリングとか似合いそう。
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