所属不明の
そんな街中からかなり離れた区画。主に近衛騎士団が専用で使用する設備がある場所の工房にて、アル達は近衛騎士団長や
「えー、では1班はホバー機能を含めた脚部の作成。第2班はエーテルリアクタの改造と取り付けを行ってください。仕様は全てそちらの机に並んでいるので、各班ごとに見て不明点はこちらのエルネスティか私、アルフォンスまでお願いします」
『うぃーっす』
アルの指示後、工房は一気に騒々しくなる。金属を叩く槌の音や怒号、人々が走り回る足音など聞こえ慣れた音の雨を耳に彼は工房の隅へと向かった。
そこには十数人から成る
「我々が集められたということは、武器ですか?」
「はい。このシルエットアームズの改造と同時進行で色々作ってもらいたいものがあります」
そう言ってアルは追加の仕様書を声をかけてきた
「えぇ、あります。学園で習いましたから」
「分かりました。では、ちょっと試作品を作らせに行かせましょう。その間に、この
そう言って
だが、法弾を投射する『口』を潰すのは意図が分からなかった。
そんな疑問に、アルは至極当然のように『いざとなったら殴りつけるためです』と答える。
「なぐ……り?」
「はい、これは一種の杖でしょ? なら、近づかれたらこれで殴るのもありなのでは?」
無茶苦茶すぎる。アルから放たれた説明に、
当然ながら仕様の再検討をすべきだと力説する
──そう、その
近接戦闘も可能な
そこで、この筒状
「さしずめ、これは一般機でも使えるソーデッドカノンですか」
「ソードじゃなくて丸太とか鈍器の類ですよ」
「まぁ、名前はどうでもいいんですよ。法撃はクリスタルプレート任せな衝撃に耐えうる質量を持った杖。これが僕の考え着いた近接攻撃可能なシルエットアームズの雛形です」
雛形。そう、雛形である。
なにせ構想も中途半端、実際に戦ってみないとどのような不具合が起こるか分からない代物だ。
だが、それで良い。最初から究極で完璧な武装などこの世には存在しないし、仮に途中で法撃出来無くなれば投棄なり、鈍器なりでいかようにも戦える。
そこまで説明された
すると、先ほど遣いに出していた
「お待たせしました。人間サイズの試作品です」
「早いですね」
「石に触媒結晶の取り付けと銀メッキをしただけですから」
そう言って受け取った手の平に丁度納まるぐらいの物体。本当にそこらの石を流用したらしいその物体の周囲には銀メッキが施され、一か所に触媒結晶がアクセントのように取り付けられている。
そんな試作品をアルの横で見ていた
書く内容は
念のためにとアルは手ぬぐいのような長方形の布を手に
「じゃ、はじめます」
実験の開始を宣言したアルは
「ここ!」
布から放り出された物体が鋭い速度で飛んでいく最中。
魔力は物体の表面に書き込まれた
想定内の動きをしたことで実験は成功したと安堵するアル。すると、その一連の動作──原初過ぎる武器の使い方に呆気にとられていた
「す、スリングですか?」
「えぇ、そうです。うちの学園ではもっぱら対魔獣用に教えられてましてね」
フレメヴィーラ王国。魔獣という西方では太古に滅んだ化け物と日夜戦う国だ。そんな国が剣や槍といった武器や魔法を使って戦う方法『だけ』教えるだろうか?──否である。
装備を喪失したまま戦うことになるかもしれない。連戦で砦や村には武器の備蓄がないかもしれない。実際起こった事故も相まり、そこらの石ころでも良いかつ大した魔力も使わないスリングはフレメヴィーラ王国ではまだまだ地方の村に住む村人から砦に努める騎士の装備として現役であった。
そうなると当然、アルの母校であるライヒアラ騎操士学園をはじめとした様々な学園でも使い方のレクチャーがされている。彼がスリングという慣れが必要な武器を扱えるのはその為だ。
「ですが、先ほどの爆発は?」
「手投げ式の爆弾ですよ。飛ばしたり、投げた物が爆発したら驚くかと」
先ほど爆発した爆炎魔法の
投げてぶつけて良し、足元に転がして相手の注意を散漫にさせるのもよし。あるいは……さっきのスリングのような原始的な投射方法で油断を誘ったうえで相手の脚部や腕部、頭部を粉砕するのも中々に面白いだろう。
「ですが、シルエットナイトにスリングというのは聞いたことがありません」
「聞いたことがないからこそ効果があると思いますが? ……ですが、僕も実際シルエットナイトでやったことがないので練習はしてみるつもりです」
『練習してみるつもり』と言い放つアルは、その後も決して『失敗した場合』のことは一切言わなかった。その自信にも似た言いっぷりと後ろ姿に
ただ、ふと今後はアルの開発に自分達も巻き込まれる可能性が頭を通過してしまい、彼らの背筋に冷たい物が走っていたりもする。
***
その後も設計上の疑問についての説明会だったり、工員が1人『現場猫』案件に引っかかったりと様々なことが起こるも、やはりマンパワーは御する力量さえあれば増やすだけ品質も速度も上がるものだ。
たったの1日と半分が過ぎた頃、すっかり武器や機体が魔改造され尽くした元レスヴァントを前にアルは満足げに頷いていると、後ろの方から拡声器越しに
「テストの準備が終わりました。いつでもどうぞ」
「では、これより試験を開始します」
なお、彼らのこの異様なまでの怖がりようは昨日、アルが茶飲み話として話していた『一般業務あり得ないが、開発を行う銀鳳騎士団では結構な頻度起こっていた話』のせいで、それを聞いた藍鷹騎士団の親父は『お前のところ、いっつもなんか壊してたよな』と笑いながら相槌を打っている横でクシェペルカ王国の
「では、試験No1から順番にやっていきます」
試験する順番を読み上げつつ、アルは手元の試験仕様書を見やる。そこに書かれている試験の意図を頭の中に反芻させながら操縦桿を操作し、その間もずっと
ただ、こなしていく試験の内容としてはまるで
それをエルによって最新版……どころか『あ、この
本来ならば最新版の方が信頼できる分だけ試験工程が短縮出来る。そして、無駄に工期が増える場合は上司を殴りつけてでも止めるのがエンジニアという生物である。
──で、あるのだが……。近衛騎士団のおかげでかなりのスピードで一旦の開発を終わらせることが出来たことに加えて、エルの『多分、性能こんだけ上がりますよ』という予測データを見せながら繰り出された甘言よって首を縦に振らない
「今なら不思議な回路を組み込むように指示したあの人の思いもわかりそうだ。……っと、No45いきまーす」
右腕を上下、右肘の伸縮、手の平全体の開閉と指1本1本の開閉。何度も行ったからか既に身に沁みついた動きを機体に命じつつ、アルは某ロボットアニメの主人公の父親を思い出す。階段から転げ落ちて退場したキャラだが、品質や性能を上げるためというエンジニアとしての信念を最期まで持っていたのはすごいと思う。
そのためか、『いきまーす』という声が若干某天然パーマの少年の物真似のような感じになったのを自覚しながらも、アルは試験を進めていく。
幸か不幸か。それとも流石はエルが作ったものと褒めるべきなのかは分からないが、ホバー機構を含めた動作試験は何事もなく最後まで終わる。
「個人的には一つぐらい不具合出て欲しかったんですがね」
「同感です。出てくれないと不安になりますね」
アルがレスヴァントから降りてきた端から不具合が出て欲しそうな感想を言い出し、エルもそれに頷きながら同調する。そんな2人の意見や行動に『不具合なんて起きない方が良いだろう』と変人でも現れたかのような眼差しを送る
バグというものは100%解消されることはほぼ不可能である。ゆえにコードを書いていくエンジニア達は、その『ほぼ』を目指すために通常では起こりえない動作も含めてテストを行うのが当たり前となっている。
そんな彼らにとって理想のテストは何だろうか。それは『多すぎず、少なすぎない。それでいて致命的でもないバグ』が出てくることだ。
全てのバグがコードのミスだったり、チーム内の約束事に沿っていない書き方だったりと1時間で対応できるバグなのを前提とし、テスト初期から中盤にかけてガンガン修正を行う。そして終盤では、あらかたバグを取り終わって多少の余力が出たところで仕様に抵触するバグを上役と相談して修正をするのか、予算は出るのかといった協議を行った後、手順書や客先に送付するあれこれといった面倒な作業を除けば開発やテストといった主に開発エンジニアが行う作業は一旦の目途がつく。
エルとアルもそういった流れを意図してテスト内容を選定したし、そういった結果を期待していた。その結果が来れである。
お望み通り勘違いでの小さなバグが数件。明らかに膨大な試験工数と発生したバグ件数が見合わなかったのだ。
「懐かしいですねー。僕が不具合まで上げれるやつを全て網羅した試験項目を作ったら上長に怒られたんですよね」
「ありましたね~。やる気がある人が良くやっちゃう様式美ですよね」
『不具合が少ないのは考慮しているパターンや項目が足りない。しっかりテストをやれ!』
前世の若かりしアルが上長から言われたことだ。今でも鮮明に思い出せるほど怒られた記憶に身震いしつつ、アルはエルに試験項目が書かれた紙を渡す。紙を渡された彼は、ダブルチェックとして一通り試験工程と項目一つ一つの観点をじっくりと精査していく。
一つ一つの処理の行方や実際に起こった挙動を思い出しながらエルは試験項目を読み進めていくが、やはりバグらしきものは起こらなかったし、試験的にもうっかりやってしまいそうな操作ミスを含めた不具合テストも行っている。
「不備とかはないですね。本当にガチガチに項目固め過ぎて考えうるすべてのの事象が想定内ってことだと思います」
「分かりました。では、続けて武器の実験を含めた試験に入ります!」
当然、100%バグがないとは言い切れない。だが、ここで再度試験項目を増やして試験を行う時間も頭もない。
なので、アルは自分の想定通り動かせば少なくとも爆発はしないだろうという考えに切り替え、続けて武器の試験に入るように機体の周囲に居る
「例のやつ持ってこい!」
「魔力に気を付けろよ!」
合図に合わせ、訓練場の外からレーヴァンティアが数機現れる。
筒状の巨大な
「周囲に人影なしです!」
その間に
そんなあからさまなに警戒する
その際に並べられた武装を見たアルの頭に筒状
「武器の保持試験から続けます。正面から上方向に急激な射線変更を想定した動きを3セット、外部からも確認お願いします」
正面に構えた状態からの上下左右への方向変換や、テストしたばかりの
「oh……こんだけやってざっと見た感じでスクリプトに異常がないのはすごいですね」
「途中で撃てないじゃ話になりませんからね。特別頑丈にしましたよ」
しかし、アルにとって誤算だったのは筒状
そうなると『某機動兵器の装甲を全部盾の材質で作ればいいじゃん論』のような話となるが、話はそう単純ではない。どうやらかなりの金属資源や精錬系の最新技術も取り込んだらしく、この筒状
「では、試射といきますか」
元に戻した筒状
レスヴァントに握らせた取っ手の横に不自然に空いた四角い空洞に
「発射!」
一息に操縦桿のボタンを押したと同時にレスヴァントが握っている取っ手の引き金も連動して引かれ、そのまま
ドカンだのドゴンだのというカルバリンが命中しても鳴らないような着弾音を周囲に響かせた後、上がった土煙の向こうからは大半が焼失した的の残骸の姿があった。
「おー、これは本当にバズーカだ」
「的だとこれぐらい派手ですが、シルエットナイト相手だと装甲を多少削るぐらいですね」
「フレメヴィーラではここからさらに確殺を望むのですが、今回は決闘ですからね」
ただ、そうなるともはや決闘どころではない観点からアルは次なる武装──
「建物に退避ー! 退避しろー!」
「レーヴァンティア・ガードナーを出せ!」
途端に
これから打ち出されるのは法弾ではなく、『砲弾』だ。
そんなわけで少々戸惑ったが、改めて試験準備が完了したことでアルはレスヴァントに球体の一つを手に取らせる。
途端、スリングからまるで笛の様な音が鳴り始めた。徐々に甲高く、大きくなっていく音を前に全員は示し合わせたかのように試験項目の成功欄にチェックを入れる、──そう、これも立派な仕様の一つであった。
「我々は聞き慣れましたが、たしかにいきなりこんな音を鳴らされると動揺しそうですね」
「ほんと、うちの弟は搦め手ばかり上手くなって……困ったものですよ」
「エチェバルリア閣下、そう言って俺を見るのは止めてもらえます? 毎度、策を巡らせないと土俵に立てずに負けるって愚痴ってましたよ」
「真剣に遊んだだけなんですがねぇ」
エルと藍鷹騎士団の親父が『アルをこんな奇策大好き人間に仕立てたのは誰か』というお題で責任を押し付けあっている傍ら、アルはいよいよスリング内の球体を放った。十分な加速力を溜め込んだ球体は、的目掛けて一直線──と思いきや、的を支える支柱に命中する。
「地味にコントロールがあるのかないのか分からない結果ですが、一応スリングでの投射試験は完了。続けて投げる試験を行います」
曖昧な結果だが、命中したことにしたアルは続けてレスヴァントの手に球体を乗せる。
「では、球体に魔力を込めます」
宣言したアルがレスヴァントの膨らんだ腕部から銀で出来た端子を引っ張り出し、球体に開けられた小さな穴に差し込む。端子から延びる
先だって実験した結果から、この
一つ目は外部からの衝撃で擦り切れる心配から銀メッキから
二つ目は『ループ処理による遅延処理』の実装である。最初こそ魔力を流しただけで即爆発するので、投げた後に魔力を流すというワンクッションが必要な代物だった。しかし、無駄な処理を何度も繰り返すことで意図的に遅延を発生することで、魔力を流して放り投げた数秒後--時間にして20秒前後で爆発させることが可能となった。
最後は先ほどもあった端子を用いての魔力供給方法だ。メッキ時代は多少の魔力--それこそ人間が無意識で流し込んでしまった魔力に反応してしまってあわや大惨事一歩手前といった事故になったことから、端子からの魔力供給と
これらによって安全性や発動率も高い武装となったわけだが、この
「投げます」
やがて魔力などの取り込みが終わったのか、レスヴァントは大きく振りかぶって投球。的近くで非常に重そうな音を立てながら地面にめり込むと、その数秒後に爆発音とともに巨大な爆炎をまき散らした。
「ふむふむ、こんぐらいだと流石にビビりますよね」
先ほど流し込んだ魔力量と実際に起こった爆発によって敵がどんな反応をするのか、若干ウキウキした声でアルはテスト結果を書いていく。
その後も2日を予定していたテストは順調に。そして入念に実施されていき、いよいよをもってレスヴァント(魔改造済)は完成したわけである。
***
あっという間。だが、非常に濃い5日間が終わり、決闘当日を告げる朝日が3機の黒い意匠の
これより行われるのは人を賭けた一世一代の大一番。そんな緊迫した空気の中で、黒い意匠の
「レスヴァントじゃないのかね!?」
「え、ちゃんとこことかレスヴァントですよ! それに、外装を取り外せばレスヴァントです!」
「う、うん……。とりあえず、降りよう。話を聞かせてもらっても?」
どうやら報連相の精神は決闘の場でも有効らしい。
こうして即座にドンパチする白熱するバトルが繰り広げられるかと思った決闘だが、なんとも肩の力が抜ける展開から始まった。
筒状シルエットアームズ
言わずと知れたバズーカ。スクリプトによって1個のクリスタルプレートで数発は撃つことが出来、機体の腰に予備の弾倉も装着している。
また、球切れの場合は両腕で抱えて『バズーカは持ったな!行くぞぉ!』と相手を殴り倒すが出来る。──バズーカとは何なのだろうか。
球体
遺恨であるまれた爆炎魔法のスクリプト(遅延あり)により、魔力を流して数秒後に爆発するグレネードもどき。なお、鋳込んであるので金属球として相手にぶつけることが出来、その場合は高音の出るスリングを用いる。
音が出る理由については彼曰く『それっぽい動作と言葉だけで相手はビビるんですよ』というコメントを残しており、夜中にエルと共になにやらオサレで厨二な詠唱の練習をしているとかなんとか。