銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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143話

 所属不明の飛空船(レビテートシップ)がデルヴァンクール付近で見つかるという謎の事件の翌日。今朝の新聞では例の飛空船(レビテートシップ)が航路を外れた1隻だという報道が為され、住民たちは『人騒がせな』という文句と共に胸を撫で下ろしていた。

 

 そんな街中からかなり離れた区画。主に近衛騎士団が専用で使用する設備がある場所の工房にて、アル達は近衛騎士団長や騎操鍛冶師(ナイトスミス)達と向かい合って何かを話していた。

 

「えー、では1班はホバー機能を含めた脚部の作成。第2班はエーテルリアクタの改造と取り付けを行ってください。仕様は全てそちらの机に並んでいるので、各班ごとに見て不明点はこちらのエルネスティか私、アルフォンスまでお願いします」

 

『うぃーっす』

 

 アルの指示後、工房は一気に騒々しくなる。金属を叩く槌の音や怒号、人々が走り回る足音など聞こえ慣れた音の雨を耳に彼は工房の隅へと向かった。

 そこには十数人から成る騎操鍛冶師(ナイトスミス)集団が居り、それぞれは手に持った紙の内容を見ていたがアルの到着に目線を上に上げる。

 

「我々が集められたということは、武器ですか?」

 

「はい。このシルエットアームズの改造と同時進行で色々作ってもらいたいものがあります」

 

 そう言ってアルは追加の仕様書を声をかけてきた騎操鍛冶師(ナイトスミス)に渡す。彼がそれを見てふんふんと何度か頷いた後、『心得は?』とアルに尋ねる。

 

「えぇ、あります。学園で習いましたから」

 

「分かりました。では、ちょっと試作品を作らせに行かせましょう。その間に、この魔導兵装(シルエットアームズ)のことで一つ。口を閉じるのはどういった理由をお尋ねしても?」

 

 そう言って騎操鍛冶師(ナイトスミス)は近くの部下に何かを頼むと、あらかじめ配られた筒状魔導兵装(シルエットアームズ)の改造仕様書に指を這わせる。取り回しの向上のために板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の挿入位置を変えたり、マガジン用の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の品質を高めて数発は撃ちたいといった要望は意図が分かる分、叶えやすい。

 だが、法弾を投射する『口』を潰すのは意図が分からなかった。

 

 そんな疑問に、アルは至極当然のように『いざとなったら殴りつけるためです』と答える。

 

「なぐ……り?」

 

「はい、これは一種の杖でしょ? なら、近づかれたらこれで殴るのもありなのでは?」

 

 無茶苦茶すぎる。アルから放たれた説明に、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は『ひょっとして、フレメヴィーラ王国ではそんな使い方が一般的なのだろうか』という、フレメヴィーラ王国の騎士に聞いたら数%の人間を除いて『いや、そんなわけないだろ!』と答えそうな感想を胸に抱いた。

 

 当然ながら仕様の再検討をすべきだと力説する騎操鍛冶師(ナイトスミス)達だが、『蒼き鬼神の銃装剣(ソーデッドカノン)』という前例を前に出されると全員は黙ってしまう。

 ──そう、その銃装剣(ソーデッドカノン)こそが今回の魔導兵装(シルエットアームズ)の着地点なのだ。

 近接戦闘も可能な魔導兵装(シルエットアームズ)の開発。言葉だけで見れば夢のような装備だが、法撃用の魔法術式(スクリプト)を近接攻撃を行っても壊れないように守るのが肝である。

 

 銃装剣(ソーデッドカノン)はその身に備えた2基の化け物炉の魔力で何とかなっているが、一般的な幻晶騎士(シルエットナイト)では近接攻撃をしただけで法撃不能となるだろう。

 そこで、この筒状魔導兵装(シルエットアームズ)だ。周囲を厚い金属で覆われた筒は、多少それで殴りつけても内部の魔法術式(スクリプト)は一切壊れないだろう。あとは、唯一の急所である砲口を閉じ、法弾の出力位置や触媒結晶の位置を変えてあげれば完成だ。

 

「さしずめ、これは一般機でも使えるソーデッドカノンですか」

 

「ソードじゃなくて丸太とか鈍器の類ですよ」

 

「まぁ、名前はどうでもいいんですよ。法撃はクリスタルプレート任せな衝撃に耐えうる質量を持った杖。これが僕の考え着いた近接攻撃可能なシルエットアームズの雛形です」

 

 雛形。そう、雛形である。

 なにせ構想も中途半端、実際に戦ってみないとどのような不具合が起こるか分からない代物だ。

 だが、それで良い。最初から究極で完璧な武装などこの世には存在しないし、仮に途中で法撃出来無くなれば投棄なり、鈍器なりでいかようにも戦える。

 そこまで説明された騎操鍛冶師(ナイトスミス)はようやく意味を理解する。決闘に勝利するためではなく、その次──クシェペルカ王国で開発を始める下地を作っていたという一見すると決闘に興味がないように見せながらも『決闘に勝利するのが当たり前』という意気込みを感じ取った彼は小さく『任せておけ』とアルに告げる。

 

 すると、先ほど遣いに出していた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が手に何かを持って再び彼らの輪に入ってきた。

 

「お待たせしました。人間サイズの試作品です」

 

「早いですね」

 

「石に触媒結晶の取り付けと銀メッキをしただけですから」

 

 そう言って受け取った手の平に丁度納まるぐらいの物体。本当にそこらの石を流用したらしいその物体の周囲には銀メッキが施され、一か所に触媒結晶がアクセントのように取り付けられている。

 そんな試作品をアルの横で見ていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達はそれぞれ、『魔力がちゃんと流れるのか』や『失敗するんじゃ』と試作品に対して不安視していたのだが、アルはおもむろに近くの鏨の刃先で銀メッキを引っかくように魔法術式(スクリプト)を書き始めた。

 

 書く内容は魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)にも用いられる爆炎魔法。それも魔力が通った瞬間に魔法術式(スクリプト)を起点に小規模な爆発を起こす魔法術式(スクリプト)だ。小さいので書くのに難儀したが、ようやく出来たその物体に、今度は十分な長さの銀線神経(シルバーナーヴ)を巻き付けてしっかりと固定。ようやく試す段階となったが、工房内でやるには迷惑だとアルは今更思い至る。

 念のためにとアルは手ぬぐいのような長方形の布を手に騎操鍛冶師(ナイトスミス)を引き連れて近衛騎士団の練習場の一画へと移動し、先ほど魔法術式(スクリプト)を書いていた物体を布の中心部に収める。

 

「じゃ、はじめます」

 

 実験の開始を宣言したアルは銀線神経(シルバーナーヴ)の端っこを自身の右肘に括り付け、右手で布の両端を掴んで振り回す。最初は緩く弧を描くのみだった動きが徐々に早くなり、十分な力を得られたと判断したところでアルは両端の内の片方を放した。

 

「ここ!」

 

 布から放り出された物体が鋭い速度で飛んでいく最中。銀線神経(シルバーナーヴ)を通じてアルの魔力が物体に走った。

 魔力は物体の表面に書き込まれた魔法術式(スクリプト)を通り、触媒結晶と反応することで正しい魔法現象が発現し、地面に落ちるか落ちないかのギリギリのタイミングでその物体は小さな爆発を引き起こしながら砕け散る。

 想定内の動きをしたことで実験は成功したと安堵するアル。すると、その一連の動作──原初過ぎる武器の使い方に呆気にとられていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が徐々に再起動を果たしてはアルの手に持っていた布を指差す。

 

「す、スリングですか?」

 

「えぇ、そうです。うちの学園ではもっぱら対魔獣用に教えられてましてね」

 

 フレメヴィーラ王国。魔獣という西方では太古に滅んだ化け物と日夜戦う国だ。そんな国が剣や槍といった武器や魔法を使って戦う方法『だけ』教えるだろうか?──否である。

 

 装備を喪失したまま戦うことになるかもしれない。連戦で砦や村には武器の備蓄がないかもしれない。実際起こった事故も相まり、そこらの石ころでも良いかつ大した魔力も使わないスリングはフレメヴィーラ王国ではまだまだ地方の村に住む村人から砦に努める騎士の装備として現役であった。

 そうなると当然、アルの母校であるライヒアラ騎操士学園をはじめとした様々な学園でも使い方のレクチャーがされている。彼がスリングという慣れが必要な武器を扱えるのはその為だ。

 

「ですが、先ほどの爆発は?」

 

「手投げ式の爆弾ですよ。飛ばしたり、投げた物が爆発したら驚くかと」

 

 先ほど爆発した爆炎魔法の魔法術式(スクリプト)を掻き込んだ物体、それは前世の手榴弾(グレネード)を模した物である。先ほどは石だったが、実物は石よりも固い金属の球体に銀メッキを施した存在となる予定だ。

 投げてぶつけて良し、足元に転がして相手の注意を散漫にさせるのもよし。あるいは……さっきのスリングのような原始的な投射方法で油断を誘ったうえで相手の脚部や腕部、頭部を粉砕するのも中々に面白いだろう。

 

「ですが、シルエットナイトにスリングというのは聞いたことがありません」

 

「聞いたことがないからこそ効果があると思いますが? ……ですが、僕も実際シルエットナイトでやったことがないので練習はしてみるつもりです」

 

 『練習してみるつもり』と言い放つアルは、その後も決して『失敗した場合』のことは一切言わなかった。その自信にも似た言いっぷりと後ろ姿に騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は根拠は一切ないが、彼に対して信頼のようなものが芽生え始めていた。

 ただ、ふと今後はアルの開発に自分達も巻き込まれる可能性が頭を通過してしまい、彼らの背筋に冷たい物が走っていたりもする。

 

***

 

 その後も設計上の疑問についての説明会だったり、工員が1人『現場猫』案件に引っかかったりと様々なことが起こるも、やはりマンパワーは御する力量さえあれば増やすだけ品質も速度も上がるものだ。

 たったの1日と半分が過ぎた頃、すっかり武器や機体が魔改造され尽くした元レスヴァントを前にアルは満足げに頷いていると、後ろの方から拡声器越しに騎操鍛冶師(ナイトスミス)の声が上がる。

 

「テストの準備が終わりました。いつでもどうぞ」

 

「では、これより試験を開始します」

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)からの準備完了の声を合図に、アルは試験開始を宣言しながらレスヴァントへと乗り込む。紋章式認証機構(パターンアイデンティフィケータ)を差し込んでから直接制御(フルコントロール)で各部位の反応を逐一検査し、やがて全個所から正常な応答が返ってくると共に彼は操縦桿を操作。レスヴァントを片膝立ちの駐機体勢から直立体勢へとを移行させる。

 幻晶騎士(シルエットナイト)としては日常的に行われる動作だが、このレスヴァントの魔導演算機(マギウスエンジン)はエル謹製の魔法術式(スクリプト)に入れ替わっている。ゆえに即座に爆発や自壊が起こらないという確認が十分に取れた頃合いで騎操鍛冶師(ナイトスミス)の集団がおっかなびっくりといった緩慢な動きで盾を構えながらレスヴァントに近づいていく。

 

 なお、彼らのこの異様なまでの怖がりようは昨日、アルが茶飲み話として話していた『一般業務あり得ないが、開発を行う銀鳳騎士団では結構な頻度起こっていた話』のせいで、それを聞いた藍鷹騎士団の親父は『お前のところ、いっつもなんか壊してたよな』と笑いながら相槌を打っている横でクシェペルカ王国の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は面食らっていたとかなんとか。

 

「では、試験No1から順番にやっていきます」

 

 試験する順番を読み上げつつ、アルは手元の試験仕様書を見やる。そこに書かれている試験の意図を頭の中に反芻させながら操縦桿を操作し、その間もずっと直接制御(フルコントロール)にて魔法術式(スクリプト)の流れを読み解いて正常かの判断を行うという忙しないことを慎重かつ丁寧に試験を消化していく。

 

 ただ、こなしていく試験の内容としてはまるで幻晶騎士(シルエットナイト)を1から開発しているかのような緻密さであった。──というのも、先にもあったとおりレスヴァントに搭載された魔導演算機(マギウスエンジン)はエザール辺境伯の妨害によって魔法術式(スクリプト)が全滅状態だった。

 それをエルによって最新版……どころか『あ、この魔法術式(スクリプト)はイケてないですね』と言いながら自身の考えを反映させた手直し部分が多々含まれている、言うなればエルのオリジナルなのだ。

 

 本来ならば最新版の方が信頼できる分だけ試験工程が短縮出来る。そして、無駄に工期が増える場合は上司を殴りつけてでも止めるのがエンジニアという生物である。

 ──で、あるのだが……。近衛騎士団のおかげでかなりのスピードで一旦の開発を終わらせることが出来たことに加えて、エルの『多分、性能こんだけ上がりますよ』という予測データを見せながら繰り出された甘言よって首を縦に振らない騎操鍛冶師(ナイトスミス)は居なかった。

 

「今なら不思議な回路を組み込むように指示したあの人の思いもわかりそうだ。……っと、No45いきまーす」

 

 右腕を上下、右肘の伸縮、手の平全体の開閉と指1本1本の開閉。何度も行ったからか既に身に沁みついた動きを機体に命じつつ、アルは某ロボットアニメの主人公の父親を思い出す。階段から転げ落ちて退場したキャラだが、品質や性能を上げるためというエンジニアとしての信念を最期まで持っていたのはすごいと思う。

 そのためか、『いきまーす』という声が若干某天然パーマの少年の物真似のような感じになったのを自覚しながらも、アルは試験を進めていく。

 

 幸か不幸か。それとも流石はエルが作ったものと褒めるべきなのかは分からないが、ホバー機構を含めた動作試験は何事もなく最後まで終わる。

 

「個人的には一つぐらい不具合出て欲しかったんですがね」

 

「同感です。出てくれないと不安になりますね」

 

 アルがレスヴァントから降りてきた端から不具合が出て欲しそうな感想を言い出し、エルもそれに頷きながら同調する。そんな2人の意見や行動に『不具合なんて起きない方が良いだろう』と変人でも現れたかのような眼差しを送る騎操鍛冶師(ナイトスミス)達だが、エンジニア的観点から見れば2人の意見が正しかったりする。

 

 バグというものは100%解消されることはほぼ不可能である。ゆえにコードを書いていくエンジニア達は、その『ほぼ』を目指すために通常では起こりえない動作も含めてテストを行うのが当たり前となっている。

 そんな彼らにとって理想のテストは何だろうか。それは『多すぎず、少なすぎない。それでいて致命的でもないバグ』が出てくることだ。

 全てのバグがコードのミスだったり、チーム内の約束事に沿っていない書き方だったりと1時間で対応できるバグなのを前提とし、テスト初期から中盤にかけてガンガン修正を行う。そして終盤では、あらかたバグを取り終わって多少の余力が出たところで仕様に抵触するバグを上役と相談して修正をするのか、予算は出るのかといった協議を行った後、手順書や客先に送付するあれこれといった面倒な作業を除けば開発やテストといった主に開発エンジニアが行う作業は一旦の目途がつく。

 

 エルとアルもそういった流れを意図してテスト内容を選定したし、そういった結果を期待していた。その結果が来れである。

 お望み通り勘違いでの小さなバグが数件。明らかに膨大な試験工数と発生したバグ件数が見合わなかったのだ。

 

「懐かしいですねー。僕が不具合まで上げれるやつを全て網羅した試験項目を作ったら上長に怒られたんですよね」

 

「ありましたね~。やる気がある人が良くやっちゃう様式美ですよね」

 

 『不具合が少ないのは考慮しているパターンや項目が足りない。しっかりテストをやれ!』

 前世の若かりしアルが上長から言われたことだ。今でも鮮明に思い出せるほど怒られた記憶に身震いしつつ、アルはエルに試験項目が書かれた紙を渡す。紙を渡された彼は、ダブルチェックとして一通り試験工程と項目一つ一つの観点をじっくりと精査していく。

 

 一つ一つの処理の行方や実際に起こった挙動を思い出しながらエルは試験項目を読み進めていくが、やはりバグらしきものは起こらなかったし、試験的にもうっかりやってしまいそうな操作ミスを含めた不具合テストも行っている。

 

「不備とかはないですね。本当にガチガチに項目固め過ぎて考えうるすべてのの事象が想定内ってことだと思います」

 

「分かりました。では、続けて武器の実験を含めた試験に入ります!」

 

 当然、100%バグがないとは言い切れない。だが、ここで再度試験項目を増やして試験を行う時間も頭もない。

 なので、アルは自分の想定通り動かせば少なくとも爆発はしないだろうという考えに切り替え、続けて武器の試験に入るように機体の周囲に居る騎操鍛冶師(ナイトスミス)に声をかけた。

 

「例のやつ持ってこい!」

 

「魔力に気を付けろよ!」

 

 合図に合わせ、訓練場の外からレーヴァンティアが数機現れる。

 筒状の巨大な魔導兵装(シルエットアームズ)や四角く成形された板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を満載させた台車。そして魔法術式(スクリプト)が刻まれた球体が数個はめ込まれたケースや綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)で作られたスリングといった様々な『武装』を持つレーヴァンティア達は、レスヴァントの隣にそれらを置き、そこから少し離れた場所に木で出来た巨大な的を並べ始めた。

 

「周囲に人影なしです!」

 

 その間に騎操鍛冶師(ナイトスミス)も機材や周囲の安全確認をし、すべてが終わると大人しく後方の『盾の壁』に退避する。どうやら筒状の魔導兵装(シルエットアームズ)も半ばアルの考えに則った設計をしているので、彼らにとっては『理解の範囲外認定』を受けたらしい。

 

 そんなあからさまなに警戒する騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に『脅かしすぎたかな』と反省しつつも、アルは再びレスヴァントに乗り込む。

 その際に並べられた武装を見たアルの頭に筒状魔導兵装(シルエットアームズ)と金属でできた球体2個で出来る『完成度たけーなオイ』といった評価を受けそうなオブジェが過ぎるが、何事もなかったかのように筒状魔導兵装(シルエットアームズ)をレスヴァントの肩に担がせる。前日の改造によってマッシヴな脚部になったことで、なんとも重装備な機動兵器の見た目に、エルは『重装型って男の子だよなー』と謎の発言をしながら見上げていた。

 

「武器の保持試験から続けます。正面から上方向に急激な射線変更を想定した動きを3セット、外部からも確認お願いします」

 

 正面に構えた状態からの上下左右への方向変換や、テストしたばかりの魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を用いた機動中の動き。そして何度か放り投げてからの損傷チェックなどを経て、筒状魔導兵装(シルエットアームズ)の試験は無事に全部終わる。

 

「oh……こんだけやってざっと見た感じでスクリプトに異常がないのはすごいですね」

 

「途中で撃てないじゃ話になりませんからね。特別頑丈にしましたよ」

 

 しかし、アルにとって誤算だったのは筒状魔導兵装(シルエットアームズ)が思いのほか頑強な点であった。流石に地面に何度が荒く落とした後、的を何個か砲身で破壊するという荒々しい使い方をすると使い物にならなくなるだろうと緊急的にメンテ難を想定したのだが……。結果は表面の傷のみで中身の魔法術式(スクリプト)が一切損傷していないという嬉しい誤算が発覚する。

 

 そうなると『某機動兵器の装甲を全部盾の材質で作ればいいじゃん論』のような話となるが、話はそう単純ではない。どうやらかなりの金属資源や精錬系の最新技術も取り込んだらしく、この筒状魔導兵装(シルエットアームズ)1本だけでもかなりお高い。さらに言えば交換する日数ももったいないので、アルの舵取りでレスヴァントの装甲を総入れ替えは未然に防がれることとなった。

 

「では、試射といきますか」

 

 元に戻した筒状魔導兵装(シルエットアームズ)を再度レスヴァントに担がせたアルは試射の準備に入る。

 レスヴァントに握らせた取っ手の横に不自然に空いた四角い空洞に板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が押し込まれ、押し込んだことで空洞内に『爪』が隆起する。爪ががっちりと板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が固定されたところで、2~3度強く魔導兵装(シルエットアームズ)を振っても板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が落脱しないことを確認したアルは、再度周囲に人間が居ないかを確認してから正面の的に狙いを定める。

 

「発射!」

 

 一息に操縦桿のボタンを押したと同時にレスヴァントが握っている取っ手の引き金も連動して引かれ、そのまま板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の魔力が魔導兵装(シルエットアームズ)のエンブレムに流れていく。塞がれた砲口の少し離れた位置にカルバリンを2倍にしたかのような火球が生まれ、やがてそれは橙色の軌跡を伴って的に向かう。

 ドカンだのドゴンだのというカルバリンが命中しても鳴らないような着弾音を周囲に響かせた後、上がった土煙の向こうからは大半が焼失した的の残骸の姿があった。

 

「おー、これは本当にバズーカだ」

 

「的だとこれぐらい派手ですが、シルエットナイト相手だと装甲を多少削るぐらいですね」

 

「フレメヴィーラではここからさらに確殺を望むのですが、今回は決闘ですからね」

 

 爆炎砲撃(フレイムストライク)を真似た自覚からか、いまいち貫通力がないことに不満を漏らすパーサー。たしかに範囲攻撃能力や目くらましという名目ならばこの状態でも良いが、大型魔獣を駆逐できるような攻撃性を求めるならば圧縮して槍状に形成する機能が追加で必要だ。

 

 ただ、そうなるともはや決闘どころではない観点からアルは次なる武装──幻晶騎士(シルエットナイト)が運用できるスリングの試験に入った。

 

「建物に退避ー! 退避しろー!」

 

「レーヴァンティア・ガードナーを出せ!」

 

 途端に幻晶騎士(シルエットナイト)を持ち出す騒動となるが、問題ない。むしろ正規の手順といえる。

 これから打ち出されるのは法弾ではなく、『砲弾』だ。幻晶騎士(シルエットナイト)の手の平に収まるサイズの金属球が近場に着弾しただけでも人間ならば生死の境をさまようレベルなのは想像に難くない。

 

 そんなわけで少々戸惑ったが、改めて試験準備が完了したことでアルはレスヴァントに球体の一つを手に取らせる。幻像投影機(ホロモニター)には球体に書かれた夥しい量の魔法術式(スクリプト)が映し出され、それを流し見してからスリングの中心に球体を置いて振り回し始める。

 

 途端、スリングからまるで笛の様な音が鳴り始めた。徐々に甲高く、大きくなっていく音を前に全員は示し合わせたかのように試験項目の成功欄にチェックを入れる、──そう、これも立派な仕様の一つであった。

 

「我々は聞き慣れましたが、たしかにいきなりこんな音を鳴らされると動揺しそうですね」

 

「ほんと、うちの弟は搦め手ばかり上手くなって……困ったものですよ」

 

「エチェバルリア閣下、そう言って俺を見るのは止めてもらえます? 毎度、策を巡らせないと土俵に立てずに負けるって愚痴ってましたよ」

 

「真剣に遊んだだけなんですがねぇ」

 

 エルと藍鷹騎士団の親父が『アルをこんな奇策大好き人間に仕立てたのは誰か』というお題で責任を押し付けあっている傍ら、アルはいよいよスリング内の球体を放った。十分な加速力を溜め込んだ球体は、的目掛けて一直線──と思いきや、的を支える支柱に命中する。

 

「地味にコントロールがあるのかないのか分からない結果ですが、一応スリングでの投射試験は完了。続けて投げる試験を行います」

 

 曖昧な結果だが、命中したことにしたアルは続けてレスヴァントの手に球体を乗せる。

 

「では、球体に魔力を込めます」

 

 宣言したアルがレスヴァントの膨らんだ腕部から銀で出来た端子を引っ張り出し、球体に開けられた小さな穴に差し込む。端子から延びる銀線神経(シルバーナーヴ)からレスヴァントの魔力とわざわざアルが演算した魔法術式(スクリプト)が球体に流れ込み、内部に鋳込んだ魔法術式(スクリプト)が起動状態に入った。

 

 先だって実験した結果から、この手榴弾(グレネード)もどきはいくつかのアップグレードが為されている。

 一つ目は外部からの衝撃で擦り切れる心配から銀メッキから紋章式認証機構(パターンアイデンティフィケータ)で良く使用する鋳込み式になったこと。鋳込み技術によって多少の手間が発生するが、その分不発になる可能性がぐっと減った。

 二つ目は『ループ処理による遅延処理』の実装である。最初こそ魔力を流しただけで即爆発するので、投げた後に魔力を流すというワンクッションが必要な代物だった。しかし、無駄な処理を何度も繰り返すことで意図的に遅延を発生することで、魔力を流して放り投げた数秒後--時間にして20秒前後で爆発させることが可能となった。

 最後は先ほどもあった端子を用いての魔力供給方法だ。メッキ時代は多少の魔力--それこそ人間が無意識で流し込んでしまった魔力に反応してしまってあわや大惨事一歩手前といった事故になったことから、端子からの魔力供給と魔法術式(スクリプト)上のロックを解除して使用するといった二重の安全対策が為された。

 これらによって安全性や発動率も高い武装となったわけだが、この手榴弾(グレネード)もどきもいわば『雛形』。まだまだ改良の余地があったりする。

 

「投げます」

 

 やがて魔力などの取り込みが終わったのか、レスヴァントは大きく振りかぶって投球。的近くで非常に重そうな音を立てながら地面にめり込むと、その数秒後に爆発音とともに巨大な爆炎をまき散らした。

 

「ふむふむ、こんぐらいだと流石にビビりますよね」

 

 先ほど流し込んだ魔力量と実際に起こった爆発によって敵がどんな反応をするのか、若干ウキウキした声でアルはテスト結果を書いていく。

 その後も2日を予定していたテストは順調に。そして入念に実施されていき、いよいよをもってレスヴァント(魔改造済)は完成したわけである。

 

***

 

 あっという間。だが、非常に濃い5日間が終わり、決闘当日を告げる朝日が3機の黒い意匠の幻晶騎士(シルエットナイト)と1機の鉛色をした幻晶騎士(シルエットナイト)を照らす。

 これより行われるのは人を賭けた一世一代の大一番。そんな緊迫した空気の中で、黒い意匠の幻晶騎士(シルエットナイト)──どう見てもティラントーと呼ばれている機体の拡声器から、エザールの決闘という空気に似つかわしくない叫び声が漏れ出てきた。

 

「レスヴァントじゃないのかね!?」

 

「え、ちゃんとこことかレスヴァントですよ! それに、外装を取り外せばレスヴァントです!」

 

「う、うん……。とりあえず、降りよう。話を聞かせてもらっても?」

 

 どうやら報連相の精神は決闘の場でも有効らしい。

 こうして即座にドンパチする白熱するバトルが繰り広げられるかと思った決闘だが、なんとも肩の力が抜ける展開から始まった。




筒状シルエットアームズ
 言わずと知れたバズーカ。スクリプトによって1個のクリスタルプレートで数発は撃つことが出来、機体の腰に予備の弾倉も装着している。
 また、球切れの場合は両腕で抱えて『バズーカは持ったな!行くぞぉ!』と相手を殴り倒すが出来る。──バズーカとは何なのだろうか。

球体
 遺恨であるまれた爆炎魔法のスクリプト(遅延あり)により、魔力を流して数秒後に爆発するグレネードもどき。なお、鋳込んであるので金属球として相手にぶつけることが出来、その場合は高音の出るスリングを用いる。
 音が出る理由については彼曰く『それっぽい動作と言葉だけで相手はビビるんですよ』というコメントを残しており、夜中にエルと共になにやらオサレで厨二な詠唱の練習をしているとかなんとか。
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