銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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??・エチェバルリア「原作では量産型イカルガが出たらしいじゃないですか。なら、大商人さんの量産計画に同意しても良かったのでは?」

??・エチェバルリア「まずは僕がやりたいんです! イカルガは僕の夢そのもの! なので、僕が先にやりたいんです!」

??・エチェバルリア「さいですか」


144話

「なるほど、レスヴァントを改造。確かに貸与すると言っただけで改造するなとは言っていないが……。やりすぎではないかな?」

 

「いや、ではそちらはせめて色塗ってきてくださいよ。時間あったでしょ」

 

 てっきりボロボロのレスヴァントでやってくると思ってたエザールにとって、それは寝耳に水どころか溶岩をぶち込まれたような衝撃だった。でかい筒状の魔導兵装(シルエットアームズ)を担ぐティラントーのようなマッシヴな印象を受ける幻晶騎士(シルエットナイト)。しかも、目の前で座り込む決闘相手が言うには『自身が貸し出したレスヴァント』と言うではないか。

 

 即座に嘘だと断定したかったエザールだが、色の件を持ち出されて黙ってしまう。イサドラの婚約者候補が訪ねてきたという噂を信じた彼は、『決戦機』ともいうべき機体を『少々着脹れさせて』から自領を出てきたので、色塗り作業が頭から抜け落ちていたのだ。

 そのまま黙ってしまったエザールに、アルは困った様子で『証拠がありますよ?』と懐から銀の短剣を取り出して彼に渡す。最初こそいぶかしみながらその短剣を上下左右から見ていたエザールだが、ふと彼の顔が己の失敗に気づいたかのように険しくなった。

 だが、それも一瞬のことで素早くそれをアルの手からひったくると、横で話を聞いていた審判役の近衛騎士団長に手渡す。

 

「君、これであれを動かしてみてほしい。念のためにね」

 

「は、はぁ」

 

 覇気のなさそうな返答をした近衛騎士団長が銀の短剣を片手に駆けていく。体裁的には貸与したレスヴァントと別の物を持ってきたのではないかという確認だったが、エザールは内心『あんな短期間でどうやってあんなボロを改造したんだ』とあの魔改造されたレスヴァントが本当に自身が貸与した機体であることを認識していた。

 

 そういうのも、事前にエザールはすり替えられる可能性も考えてかなり凝った装飾を紋章式認証機構(パターンアイデンティフィケータ)の柄に施していた。まるで家宝の短剣のような精巧な装飾を数日で完全にコピー出来る職人なぞ、デルヴァンクールに居ないことを含めての策略であった。

 なにせ、レスヴァントには元々紋章式認証機構(パターンアイデンティフィケータ)は搭載されていない。『ちゃんと貸与したレスヴァントだろうね?』と紋章式認証機構(パターンアイデンティフィケータ)を確認し、動かせない場合は『おやおやおやおや』とワザとっぽく言ってなし崩し的に不戦勝を十分にもぎ取れる。

 

 あの仰々しい見た目だ。おそらく近衛騎士団の試作機だと推測して話を切り出してみたが、その充ては大きく外れてしまった。手渡された短剣の柄には寸分違わず自身の記憶に残っている装飾が映る。短期間で幻晶騎士(シルエットナイト)を魔改造をした例を知らないエザールにとって、これほど動揺することは早々ないであろう。

 

「エザール辺境伯閣下、動きましたよ」

 

「どうでしょう? これで貸与されたレスヴァントというのが証明されましたよ」

 

「そうだね、失礼したよ」

 

 ドヤ顔のアルとは正反対にエザールは苦虫を嚙み潰したかのような表情で同意する。最初からわかってはいたが、いざ証拠を見せられても未だに状況を呑み込めない様子だった。

 ただ、目の前の魔女が何かしらをしてレスヴァントを短時間でパワーアップさせたことは事実である。その計り知れない異常性を感じると共に、彼の人材に対しての欲求が唸りを上げる。

 

「しかし、あんな短期間で素晴らしい改造だ。……どうだろう、もう一度よく考え直してほしい。少し前はお互いにとってかなり残念な仲たがいとなってしまったが、僕の領に来ないかい?」

 

「よくあのようなレスヴァントをよこしておいて素晴らしい改造と言い張れますね。ティラントーを持ってきてるし」

 

「そんなに酷かったのかい? 僕は騎士としてはあんまりでね、鍛冶師の言葉を鵜呑みにしていたんだよ。そうなると、然るべき処置をその鍛冶師に与えないとね。それと、あの機体だがレーヴァンティアの配備が遅れていてね。クシェペルカの最前線を担うエザール家として少しでも力を蓄えるべく、使えるものは全て使っているってわけさ。それにほら、君の言葉を借りれば多少は意匠もレーヴァンティアに似せてるよ」

 

 ベラベラとよく回る舌。アルからしてみれば正直、怪しさ満点で引っこ抜いてやりたい衝動に駆られるが、ここで証拠をぶつけてものらりくらりとしそうなので放っておく。

 ただ、このまま言われっぱなしになるのは趣味ではない。そう思ったアルは意地の悪い笑みを浮かべ、再び『どうだい?』と自信たっぷりに勧誘の言葉を投げかけてくるエザールに心ばかりの返礼を申し上げた。

 

「イサドラ様やクシェペルカ王国の掌握を諦めるなら、一考の余地がありますね」

 

「おいおい、僕が彼女を……。待て、何のことを言っている?」

 

「さて、なんのことやら」

 

 ジャブと思わせたボディーブローがエザールを突く。彼にとっては自分やその『身内』しか知らない情報がぽろっと相手から出てきたことに、ついついいつもの温和な声色と口調が大きく変わってしまう。

 そのことに気づいてハッとするが、もう遅い。かなりおざなりにはぐらかしてレスヴァントに戻っていくアルの後姿に、エザールは小馬鹿にされた羞恥心よりも計画が漏れた可能性による恐怖の方が勝っていた。

 立ちすくんでいるエザールを心配してか、お供の2人が彼に駆けよってきた。

 

「……今すぐ国を出ますか? 我々が囮になればあるいは」

 

「もう決闘は始まってしまっている。逃げられるのか?」

 

「五分よりも低いですな」

 

 アルから放たれた反撃の言葉に、今更ながら国からの関与を脳裏にかすめ始めるエザール。だが、もう全てをなかったことにするのは遅すぎる。

 思えば──否、エザールのイサドラを娶るというかなり性急すぎる計画によって全てが一気に露呈したのだが、全ては大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)が悪いのだ。あの時素直にクシェペルカ王国が滅んでいれば、ジャロウデク王国側に恭順するという名目で準備をしていた計画や施策が花開き、『大戦前からこちらに来た2人』と共に順風満帆な未来が待っていた。

 

 だが、何度も言うがそうはならなかった。新生クシェペルカ王国となったことで形勢は逆転し、彼らに残ったものは裏切りを証明する証拠の山や様々な状態のティラントー。そして、どこぞの変態が乗り捨てたとされる曰く付きの高性能機。俗にいう不良債権だ。

 

 しかし、あのままじっとしていても感づかれる可能性があった以上は進むことは決して悪くはなかったとエザールはお供の2人に指示を下す。

 

「このまま決闘をする。なぁに、相手は1人だ。勝ったどさくさに脱出しよう」

 

「そう上手くいけば良いのですがね。しかし、仮にあちらへ行けても君は"エザール辺境伯の息子"。それにクシェペルカ王国での地位は無くなったも同然。その辺の覚悟はおありですな?」

 

「承知しています。"トッツ男爵"、橋渡しはお願いします」

 

「我らに言われてもなぁ……。元々、私や子爵はこの一戦に全てを賭ける次第だが?」

 

「……承知しました。自分で何とかします、"トッツ男爵"」

 

 男爵位のトッツに対して丁寧な言葉遣いを投げかけるエザール。それに対し彼は『私や"マグリット子爵"はあの大戦前から息子に家督を譲っている』と小声で返しながらそれぞれの機体へと戻っていく。

 

 進んでも地獄。逃げても地獄。ならばあとは『その先の生存率』の話となってくる。彼らを追いかけるエザールの胸中には執念のような粘っこい炎が煌々と灯っていた。

 

***

 

「あの、エザール辺境伯閣下? どうして3機で1機を相手にしようと?」

 

 誤解も解けたところで両者は相対して構える。だが、ここでも近衛騎士団長はストップをかける。

 もはや肩に施された紋章と多少の意匠が変更されていること以外、ほぼティラントーなのはまだ良い。どうせ『放棄されたものを修理しただけ』と言い逃れされるだけだ。

 

 だが、3機が1機に対して武器を構えるのは流石にスルーできなかったらしく、近衛騎士団長は一応理由を尋ねてみた。

 

「僕はシルエットナイト同士の対決と言っただけで、"1対1"とは言っていないよ?」

 

「……はぁ」

 

 ほら、やっぱり。想像通り『1対1とは言っていない』と主張するエザールに近衛騎士団長は青筋を隠せずにいた。正直なところ、練兵場内外に待機している3個中隊ほどのレーヴァンティアを一気に雪崩れ込ませて数に物を言わせた『貴族狩り』をしたい程度には彼もピキッていたが、そうしてしまうと『エザール辺境伯を近衛騎士団が潰した = クシェペルカ王国がエザール辺境伯を亡き者にした』という図式が完璧に整ってしまう。

 今でも『ちょっと支援しすぎかな』というレベルなので、これ以上の介入は出来ないと歯噛みする近衛騎士団長を他所に当事者のアルはというと──。

 

「え、まだ始めないんですか?」

 

「えっ、私の話とか相手の数を数えました!?」

 

 レスヴァントに増設されたサブアームに魔導兵装(シルエットアームズ)を保持させ、右手に金属球を入れたスリングを 左手に袖口の端子と接続した金属球をそれぞれ持っていた。

 すっかり準備万端な様子に近衛騎士団長は声を上げるが、アルの妙に準備が手慣れた様子やスリングという原始的な武器を見たエザールは『自分達を舐めている』と判断したのか、『彼女もそう言ってるんだ。問題ないだろう』とがなり立てる。

 明らかに余裕のなさそうなエザールの気配に、近衛騎士団長は内心でアルの心配をしながらも決闘開始の合図を空に放った。

 

 瞬間──。

 

「ぐぅっ! なんだこの音は」

 

 耳をつんざく笛の音のような怪音が練兵場に響き渡る。その音に最初こそ面食らったエザール達だが、その怪音の発生源がレスヴァントの右でに握られているスリングだと分かると背面武装(バックウェポン)を起動する。

 音だけならば我慢すれば良い。逆に良い的である。だが、レスヴァントの拡声器から聞こえてくる声がエザール達の警戒度を限界まで引き上げ、彼らの指を法撃スイッチから遠ざけた。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる──」

 

「な、なんだ! 何をするつもりだ!」

 

「エザール様、後ろへ!」

 

 スリングから聞こえてくる笛の様な音と共に、レスヴァントの拡声器から響いてくる呪文めいた言葉の数々。そのいかにも『儀式』をしているような言動に、不気味がったマグリットとトッツは自身のティラントーを盾にエザールを最後列にした小隊における防御陣形を組み始める。

 

 人間、不可解な動きをする相手に対してまずは様子見をするのが常である。──が、その『見当違いな対応策』を単眼鏡越しに見ていたエルは治安維持のために低空で飛ばしていた飛空船(レビテートシップ)内で噴き出していた。

 

「いやー、思い出したり練習した甲斐ありましたね」

 

「エル君、アル君ってなにかすごい魔法の準備してるの?」

 

「なにやらまじないの言葉が聞こえるが、人間はああいったことが出来るのか?」

 

 エルが含み笑いをしたことで、彼と同じく単眼鏡で決闘の観戦をしていたアディとパールが反応する。しかし、実を言えばあの動きは『ブラフ』だとエルは早々にネタ晴らしをした。

 

 そう、あの呪文。前世のオサレな漫画からパクってきただけである。その理由は単純明快で、『動きが止まっている敵ほど狙い打ちやすいから』だ。

 相手がアルのことを『魔女』と思っており、いざ相対した時に奇妙な音と呪文と大仰な動作をすればどう思うか。

 一時的に動きを止めてでも『警戒』か、その動作を法撃で『妨害』するか。どちらにせよ近づいて攻撃されるという線はなくなる。

 

(相手を騙すときは恥ずかしがらず、大げさに自信を持って!)

 

 防御陣形で出方を伺っているティラントー達を見据えながら、アルは事前に練習した通りに声を発し続ける。こんな厨二的詠唱だが、ここまで堂々と唱えてしまえば案外ブラフに最適だったらしい。

 結局、詠唱もどきが終わるまで一向に法撃も近接攻撃もしてこない3機に対し、とうとうアルはスリングによる一投目をティラントーの1機に目掛けて放った。

 鋭く飛んでいく金属球はマグリットが駆るティラントーの盾に命中。衝突の際に凄まじい轟音が周囲に響くが、その轟音に重なる形で『メキリ』という幻晶騎士(シルエットナイト)という魔導兵器に携わっている者が思わず顔をしかめるような異音が混ざる。

 

「ぶ、無事か!」

 

「盾を持つ腕がイカれました!」

 

 その轟音にエザールがマグリットを案じていると、彼自身はどこも怪我をしていないようだった。ただ、彼のティラントーは金属球の衝撃を完全に受け止めることが出来なかったらしく、彼がいくら盾を構えた方の腕を動かそうとも腕や肩の挙動が油を差していない機械のようにぎこちない反応を返している。

 さらには先ほど放たれた金属球が盾を貫通せずに半ば埋まってしまっていることも手伝ってか、もはやそのまま腕を動かさずに正面防御に徹した方が防御的に役立つぐらいの被害であった。

 

 そんな驚異的な攻撃力を目の当たりにしたエザールだが、謎の詠唱というミステリアスな行動をしたにしては対処しやすそうな攻撃だったことに安堵する。

 

「ふふ、たしかに威力はすさまじいけど仰々しい詠唱の割に避けやすいね。それじゃあ、こっちもいかせてもらうよ」

 

 仮にこれが大きな火球を雨あられと降らせる大魔法だったら、エザールは今頃スライディング土下座をしていただろう。しかし、相手はスリング。金属球が放たれる寸前に避けたり、防御をしながら肉薄すれば勝機はあると、エザールは笑みを浮かべながら指示を出すと剣を片手にティラントー達を突進させる。

 

 ただ、彼らの攻撃をただ待っているアルではなかった。彼はレスヴァントの魔力経路の変更を実施し、試合開始直前に準備をしていたスリングとは逆方向の手の平に収まった金属球に魔力を送り込む。その間も盾を前に突き出しながら3機のティラントーが突進してくるが、アルは動揺せずに脚部の魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を起動。高速移動の準備に入った。

 

「エザール様、砂が!」

 

「構わん、散開して斬りかかるぞ!」

 

 レスヴァントの周囲に砂埃が吹き上がるが、エザールは構わず突撃を続ける。巻き上がった砂が覗き窓から操縦席に入ってくるために若干視界不良となるが、それでも彼らはレスヴァントに狙いをつける。

 

 そんな時だった。大音量が周囲に鳴り響き、前方に居たはずのレスヴァントが堰を切ったように高速で動き出す。それに呼応するように更なる砂埃が舞うが、その機動性に呆気にとられた全員の足がピタリと止まった。──止まってしまったのだ。

 

 レスヴァントが高速移動して間もなくした頃。彼らの足元に転がっていた金属球が突如爆発し、金属の破片がまき散らされながら爆炎で彩られた大輪の華を咲かせた。

 

「な、なんだ!?」

 

 急激に動き出した複数の事態。それらを辺境伯はうまく呑み込めない中、お供の2人は何も言わずにエザール機を基点に背中合わせで防御に徹した。

 その行動はまさに幻晶騎士(シルエットナイト)戦術の教本にも書かれているほどの基本的な行動だったが、合図を出さず、なおかつ流れるようにその陣形を敷くことは白鷺騎士団や紅隼騎士団などの熟練した騎操士(ナイトランナー)で形成された小隊でないと至難の業である。それに加えて想定外かつ未知の爆発を前に、彼らは冷静に陣形を組んだ。

 強靭な胆力に冷静な判断能力、さらには卓越した操縦技術。どれも責務として幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っている新米貴族が持っていて良い代物ではない。

 

(一体誰なんだ?)

 

 砂埃の中で例のグレネードもどきを地面に転がし、そのままホバー移動でエザール達から大きく距離を取っていたアルが彼らの正体に疑問を抱く。彼らは本当に前子爵や前男爵の『息子』なのだろうか。

 以前、密偵達からエザール家やそのお供は代変わりを果たしたという情報をもらったが、その先入観を持って彼らに会ってみると代替わりしたにしては些か若者特有のフレッシュさは薄かった。

 

(いや、悩む時間がもったいない。答えは剣の中にある!)

 

 悶々と考えてはいたが、このまま悩んでいてもせっかくの好機が無駄になることを悟ったアルはレスヴァントを前に進ませる。今はお空の上の馬鹿殿下(エムリス)の言葉を胸に、アルは再びレスヴァントの手に握りしめたスリングを回し始めた。

 

「見つけました。こちらに向かっています」

 

「子爵、頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

 レスヴァントの接近に気づいたトッツがなぜか子爵という上位の爵位であるにも拘らず、マグリットに指示を出す。そして、それをとがめることなく素直に受け止めたマグリットが剣を構えて前に出た。

 ただ、マグリット機の片腕は先ほどのスリング攻撃によって機能不全を起こしており、仮に二投目が放たれた時は満足に防ぎきるのは敵わないだろう。

 そこでマグリットが出した答えは距離を詰めること。つまり、『放たれる前に攻撃』であった。

 ろくに動かすことが出来ない腕を前に突き出して前面を防御し、先の爆発によって多少動かしにくい足をひたすら前へと動かし続けてレスヴァントとの距離を詰めていく。

 

 距離にして200m、100mと徐々に近づいていくが、レスヴァントはそこから距離を取るわけでもなくスリングを振り回しており、一向に二投目は放ってこない。遠距離の優位性をわざわざ捨てるような行動に子爵は不気味に思うが、いまさら距離を取るのは愚の骨頂だ。

 腕。足。どちらも一撃で戦闘不能に出来るような硬さではなく、胴体は今後の行動から狙うにはリスキーすぎる。ならばやはり、狙うのならば眼球水晶が取り付けられた頭部だろうと、剣の間合いにレスヴァントが入ったと同時に剣を横薙ぎに走らせた。

 すると、薙いだ剣は何の手ごたえも生まずに空を切る。

 

「なにっ!」

 

 タイミング的に避けられるはずはなかった。なのに、なぜ幻像投影機(ホロモニター)には無傷のレスヴァントが振り回していたスリングをお返しとばかりに振りかぶっているのか。──答えは至極単純、アルは魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を前方に使って瞬間的に剣の間合いから逃れたのだ。

 それを知覚したマグリットは最後のあがきとして操縦桿を思いっきり引っ張る。返す刀によってレスヴァントを討とうとするが、渾身の横薙ぎを繰り出した後の腕をもう一度振るうには圧倒的に時間が足りなかった。

 

「やはり良すぎる腕ですね。なので、真っ先に潰させてもらいますね」

 

 ふいにレスヴァントの拡声器から聞こえてくるか細い声。それが今もなお必死の形相で操縦桿を引いていたマグリットの耳に届いた。ただ、その言葉の意味を深く考える暇もなくティラントーはスリングによる『殴打』によって顔面が見るも無残な姿に変えられ、その衝撃で機体が仰向けに倒れてしまう。

 幻晶騎士(シルエットナイト)が倒れたことにより、その衝撃でマグリットの身体は固定してもなおシートに何度も打ち付けられる。気を抜いてしまえばそのまま意識を手放してしまうほどの激痛の中、彼は必死にレスヴァントから聞こえた言葉を反芻させる。

 

 言葉の意味をそのままに受け取れば釣られてしまった。近接攻撃時の読み合いのことも加味すれば完璧な自分の敗北だ、そこに悔いはない。

 だが、『やはり』とは何のことだろうか。腕が良いと思われるのはこの状況ながら少々面映ゆいが、自分をそこまでの腕だと看破されたことにマグリットの背筋が凍る。

 

 おかしい。本当にこいつは魔女なのか。もしや……もしかしたら……。いや、『きっとそうだ』。

 時間にして30秒以下という短い時間ながらに自分の考えが纏まったマグリットは、おもむろに拡声器の集音装置の前に口を近づけ──あらんかぎりの声量で叫んだ。

 

「エザール様! こいつは魔女じゃない! こいつは! この"男"は──」

 

 言い終わる前にマグリットの乗ったティラントーの拡声器がレスヴァントの足によって壊される。ただ、壊される前の彼の叫びはしっかりとエザールやトッツの耳に届いていた。

 

「魔女じゃない!?」

 

「ありゃ。やられてもなお情報を届けるとは、本当に操縦技術や心構えがしっかりしている。もしかして……あの大戦にも居ました?」

 

 再度動いて場をかき乱されないよう、ティラントーの脚部を念入りに折って戦闘不能へと追い込むレスヴァント。その念の入れようだけでもマグリットの叫んだ言葉に真実味が出てくる。

 自分達が『魔女』と呼んでいたアルフォンス・エチェバルリア、それが実は間違いだった。だが、彼女は──彼は自分自身をそう名乗っていた。それらが結びつく答えが今、エザールの頭の中で浮かび上がった。

 

「君は……お前はまさか……」

 

「勝手に勘違いしたのはそちらでしょうけど、一時休戦して自己紹介でもしましょうか。元フレメヴィーラ王国、銀鳳騎士団副団長のアルフォンス・エチェバルリアです。もし、お疑いになるのでしたらどうぞ本国へご確認ください」

 

 敵が目の前に居るにも拘らず、手や腰につけた金属球の予備やスリングを手放したレスヴァントはそのまま騎士の礼をする。人間では大したことないが、幻晶騎士(シルエットナイト)にそんな複雑な操縦をさせていることからようやく目の前の人間があの大戦にてジャロウデク王国に壊滅的打撃を与えた悪魔の片割れだとエザールとトッツは認識する。

 驚愕と恐怖がごっちゃになって微動だに出来ない2機のティラントーに対し、レスヴァントは指をその内の1機に指し示した。

 

「さて、それではあなたの方も自己紹介していただきましょうか?」

 

「お、俺はポット・エザール辺境伯「いや、あなたではなく。そちらの方です」」

 

 今頃新たになったエザールの名前だが、アルは器用にレスヴァントの手を左右に振って『お前は聞いてない』と表現した後に再び指を指し示す。

 

 器用にレスヴァントの手を左右に振った後、再び指が指示される。その先に居たのはエザールではなく、トッツ男爵が乗ったティラントー。そんなアルの動きに明らかに動揺を隠せていないエザールが何かを言いかけるが、それを自身のティラントーによる殴打で黙らせたトッツ。咳払いをしているのか耳障りなハウリングの末に彼は素っ頓狂な声を出し始めた。

 

「仰る意味が分かりませんが?」

 

「いえいえ、流石にシルエットナイト操縦や陣形の組み方が手慣れ過ぎてますって」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)は人型の魔導兵器ではあるが、直接制御(フルコントロール)が使える規格外な例外を除けば本人の思考の通りに動くわけではない。そのため陣形や咄嗟の行動などは反復練習をすることで上達するのがセオリーであり、それを練習するために学園が存在している。

 

 しかし、マグリットもトッツも操縦が手慣れ過ぎている。グレネードもどきといった正体不明の攻撃に対しても即座に主であるエザールを護ることから、小隊活動を幾度となく行ってきたことが伺える。そんな実践染みたことが代替わりしたばかりかつ、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)までのほほんとしていたクシェペルカ王国の低級貴族が出来るだろうか。

 

「仕方ないですね、では雇用主にお尋ねします。エザール辺境伯閣下。よろしければ、彼の来歴を話していただけないでしょうか」

 

 一向に話したがらないトッツにしびれを切らしたアルは、先ほどまでは蚊帳の外だったエザールに話の矛先を向ける。

 ただ、決して油断はしない。仮に抵抗は無駄だと悟ったエザールが暴れ出す前に鎮圧できるよう、レスヴァントのサブアームに掴ませていた筒状魔導兵装(シルエットアームズ)板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を挿入していつでも撃てるように構えておく。

 

「さぁ、ご返答を」

 

 すると、エザールは本当に期待の裏切らないことをやってのけた。

 ただ、人間というものは水際まで追い詰められたら損害を顧みずに前進する生き物である。背水の陣──といえるのかは定かではないが、既に退路が立たれて一杯一杯だった彼に残された道は『前進』であった。

 意味の分からない叫びと共に剣を振り上げながら突進するエザール。その脳内はおおよそ目の前の敵を倒すことのみに固執しているのであろう。

 

「無力化させていただきます」

 

 そう言い放ったアルは冷静にボタンを押す。直後、筒状魔導兵装(シルエットアームズ)からの投射された法弾が何度もティラントーの両脚部に着弾し、3発目といったあたりでティラントーが勢いよく前のめりに倒れこんだ。

 

「ぐぅ、くそぉ!」

 

 必死で上体を起こすが、エザールの感情的な操縦とは対照的にティラントーはゆっくりとした歩調でレスヴァントの方へと向かっていく。

 それもそのはず──。ティラントーの脚部は外装が砕かれ、中身の銀線神経(シルバーナーヴ)の大半が切断された状態だった。

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)は陸上では歩行によって移動するのが基本だ。なおかつ、現技術ではイカルガのようにドヒャドヒャと陸上を駆け回ったかと思いきや、空中を変態的に飛ぶ機体は量産されていない。そのため、脚部がイカれるとそのまま無抵抗になってしまうのだ。

 今もなお1歩ずつティラントーを進ませるエザール。正直、そのガッツを治世で費やしてほしかった気持ちはあるのだが、どうやら本当に言い出せないことらしい。おそらく、とっ捕まえて物理的に口を裂いても言わなそうな執念にアルは操縦席に向かって筒状魔導兵装(シルエットアームズ)の切っ先を構える。

 

 亡き者にする気はない。ただ、少々強めに衝撃を加えて眠ってもらうだけだ。

 そんなことを考えつつ、アルがボタンに手をかけるが……。

 

「流石にそれは見逃せないですな」

 

 それはまさに瞬く間に起こった出来事だった。トッツのティラントーが自壊したかと思えば、破片の中から飛び出した何かがレスヴァントの横合いから凄まじい速度をもって急接近してきたのだ。

 アルが慌てる間もなく剣による一閃によって十分な厚みを持って作られた金属の棒でもある筒状魔導兵装(シルエットアームズ)の先端が『切り取られ』、さらに連続攻撃を仕掛けてきた。

 

「んなろっ!」

 

 レスヴァントの胴体を捻らせることで何とか躱したが、殺気どころか近づいてきた気配すら感じ取れなかったことにアルの脳内に存在する警鐘はすっかり16連射のフィーバーモードであった。自身の感覚に従いアルはレスヴァントの魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を起動。即座にジグザクに動きながら距離を取ろうとするが、すぐそばの地面に法撃が着弾したことでよろめいてしまう。

 

「好機!」

 

 その隙に乗じ、トッツは自身の機体を前へ進ませる。重厚なティラントーであれば、たとえよろめいて動きを止めたにしても魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)によって稼いだ距離を覆せるような脚力はない。だが、このティラント───否、『ソードマン』は違った。

 細身ゆえにレスヴァントとの距離をあっと言う間に0にしたソードマンが目の前の機体を袈裟切りにしようと剣を振るう。しかし、レスヴァントは持っていた筒状魔導兵装(シルエットアームズ)を剣にかちあわせることで初撃を防ぐ。

 

 そのまま1合、2合と剣と鈍器の応酬は続く中、アルはようやく気になったことを口に出した。

 

「随分な変貌ぶりですね。それに……その機体は別の方の物では?」

 

「もう、彼では取り繕うのも無理だと判断したのでね。私の判断で動いたまでです」

 

 7合目……の辺りで両者の武器は鉄くずと化す。このままでは戦えないと判断したのか、ソードマンは倒れたマグリット機の持っていた剣を予備を含めて2本抜き取り、レスヴァントは金属球を少し見て相性が悪いと思ったのか肉弾戦の構えを取る。

 

「流石はフレメヴィーラの騎士。思い切りが良いですな」

 

「では、取り繕うことを止めたついでにこの騒動の詳細を吐いてもらいましょうか?」

 

 冗談で軽口を言ったつもりのアルだったが、トッツからの答えは『別に構いませんよ』という何とも気が抜ける返事だった。彼の後ろでエザールが何かを言っているが、トッツは気にした様子はなく剣を両手に構える。

 はて、情報を喋るにしては臨戦態勢を取っているではないか。そう思ったアルがレスヴァントの動きを止めた途端、ソードマンは猛然と襲い掛かってきた。

 

「ですが、この情報のお代はしっかりと楽しませてもらいませんとね!」

 

「やっぱり覚悟完了系だったー!」

 

 世の中にはどうでも良くなると命を賭ける輩が居る。そんな知見をアルは今日、学んだのであった。




ソードマン(トッツ男爵ver)
 エーテルリアクタが土壇場で壊れ、そのままグゥエラリンデに敗北したグスターボ・マルドネスの元乗騎。
 そのまま放置するのもどうかと思った彼の部下が密かに回収を依頼したが、当の本人は『刀剣マシマシ一丁!』と注文した後だったので結局受け取りに来ず、そのままジャロウデク軍が撤退ということもあって取り残された可哀想な機体。
 元々至る所に剣をくっつけた変態仕様だったが、彼ら3人の中で一番操縦が巧みなトッツが『せめて西方仕様にしてくれ』と懇願。また、決闘に臨んできたアルが仮に優勢になった場合の対処としてを、レーヴァンティア・ガードナーのアーマーパージ機能を流用したエザール達のティラントー(ちょっと突起物が少ないマイルドバージョン)の偽装を施した。(いわゆる某Zな戦士達がおもりを外すムーブ)
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