銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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 エーテライトが絡むと、死人が増える。ウエスタン・グランドストームから今まで、変わらない事実だ。
 というわけで浮遊大陸編 始まります


148話

 クシェペルカ王国から無事に飛び立ったイズモ、アサマを中核とした大船団が地面に影を落としながらゆったりとした足取りで移動していく。本来ならば飛翼母船(ウィングキャリアー)2隻や強襲揚陸船(ランディングシップ)といった幻晶騎士(シルエットナイト)での強襲揚陸用に設計された船達の速力はもっと出るはずなのだが、物資を十全に積み込んだ輸送型飛空船(カーゴシップ)を陣の内側に取り込んでいるために歩調を合わせている。

 

 しかし、船団を管理する者達──白鷺騎士団の騎士団長であるエドガーと副団長のヘルヴィ、そして銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の隊長であるダーヴィドはこれ幸いとばかりに来る浮遊大陸に向けての動きを会議にて煮詰めていく。

 

 だが──。

 

「ディーさん、会議に参加しなくていいんです?」

 

「そっすよ、今頃は親方カンカンですよ」

 

「良いんだよ。むしろ、毎日毎日よくやるよ。そうだ、ここらでぱーっと模擬戦をしたいんだがね」

 

 イズモの甲板という強風が吹き荒れる場所。そこで命綱を腰に巻きながら寝転がる数人の命知らず達。言わずと知れたディートリヒと現在は紅隼騎士団の騎士だが、元第2中隊の古株達。そして、なぜかついて来たアルだ。

 風を堪能するディートリヒにアルが会議のことを伝え、古株の1人が親方の怒り狂った表情を幻視して身震いする。しかし、当の本人は出立して数日だというのに既に毎日行われる会議に嫌気が差したらしく、まるで良い考えを思いついたとばかりに模擬戦の提案をアルにする。

 

「えー、ディーさんのやつって近接戦闘のあれでしょ? ヤですよ」

 

「そこはほら、君がクシェペルカ王国で作ってたあれ! あれのテストという名目でやろう! 君だって実践的な試験はやっておきたいだろ?」

 

「あ、ディーダンチョずりぃ! 俺だってあれ使いたいのに!」

 

 ギャーギャーと話を進めていく紅隼騎士団員達。彼らの言っている『アレ』とは、パッケージシステムのついでということで開発を進めていたナンブ改の現物である。既に動作試験は終わらせているのだが、実戦でどれだけ使えるかの試験という名目で持ってきていているのをディートリヒ達は知っていた。

 

 たしかに魔法術式(スクリプト)の調整をすれば損傷はしないし、『板状結晶筋肉(クリスタルプレート)1つまで』と制限を付ければ従ってくれるだろう。ガス抜きも兼ねることが出来れば案外悪くないと考えたアルだが、徐々に『使いたい』と叫ぶ古株達に『あれ、これは全員相手しなきゃいけない流れ?』という悪寒に襲われた。

 

「そういうのはちゃんと親方に話を通してからにしてください。というわけで会議に出てきてください。僕は次期ウィングキャリアーの構想とか現状でも弄れる部分ないか考えておきますよ」

 

「おめぇーもな、銀色小僧。あと、物騒な話やめろ」

 

 ふと、ここに居るはずもない人間の声と共にアルの頭部に衝撃が走る。生み出された痛みにもんどりうちながら後ろを振り返ると、命綱無しという状態でダーヴィドが仁王立ちしていた。相変わらずのハチャメチャっぷりだが、自身が会議に参加する必要はないのではないかとアルが問うと、返事代わりのもう1発を賜る羽目となった。

 

「おめぇはクシェペルカ王国側としての参加だろうが!」

 

 明確な理由を叫ぶダーヴィド。言うまでもなくアルもこの船団の中枢、それもクシェペルカ王国側として乗っている重要人物だ。ゆえにこの船団の航路だの、残っている物資の残量だの、持ってきている機体や人員の状況やスケジュールの決定といった内容を把握する側の人間なので、会議に出なければならない。

 だが、天下のダーヴィドが怒ってもアルのテンションはちょっと低い。それもそのはず、銀鳳騎士団を抜けたのに今更元の業務をするのが限りなくダルかったのだ。

 

「いやー、全て皆に任せますって」

 

「そういうわけにはいかねぇだろうが! 物資はクシェペルカ側が全面的に協力してくれてるんだ、だからそれの管理者として発言してくれ。お前ら、手伝え!」

 

「へーい」

 

 流石に序列的に銀鳳大騎士団の1隊を率いるダーヴィドの命令に逆らうことが出来ないのか、はたまた銀鳳騎士団時代に染み込んだ上下関係ゆえにか──おそらくは後者であろう。古株達は2人でディートリヒの両肩を掴み、1人は『仕方ないですねー』と寄ってきたアルを肩車で連行する。

 その相変わらず子供なのか大人なのかよく分からない反応でついてくるアルはともかくとして、部下に裏切られた形のディートリヒが『裏切者』と叫ぶが後ろのダーヴィドから『この場で一番偉い人間は俺だ』という説得力のある言葉にいよいよ何も言わなくなってしまった。

 

「まったく……。ところでなにを考えてやがる?」

 

「は?」

 

「次期ウィングキャリアーの話だよ。陛下が言うには、おめぇはフレメヴィーラ王国とクシェペルカ王国共同のなにかしらを作成する役職に就くんだろ? なら、俺達もそれにあやかるかもしれねぇじゃねぇか」

 

 アルがクシェペルカ王国に婿入りとなった条件知っていたダーヴィドは会議室に着くまで暇だから話すよう促すが、その話も未だ宙に彷徨っている部分なので確証はなかった。しかし、エルには及ばないが『自慢したい病』が併発した結果、アルは喜々として語り出す。

 

「まずは……そうですね。上部甲板にストランドタイプの伸縮機構を用いた発進機構を取り付けます」

 

「それはあれかい? 以前に話に出ていた弓みたいな感じかい?」

 

「えぇ、浮遊状態ならば高度を一定に出来るのでそこから射出すればマギウスジェットスラスタを併用した速度で直進できるかと」

 

「今まで腕でぶん投げていた分、損傷しないだけいくらか優しいな。帰ったら検討してみるか」

 

 アルがディートリヒ相手に机上の理論を語る横でダーヴィドは戻ってきた船倉内の奥──トゥエディアーネが出撃時に使用する『腕』を見やりながら発言する。騎操鍛冶師(ナイトスミス)の魔力によって待機位置まで運ばれた機体を掴んで放り出す仕組みのクレーンのようなものなのだが、それぞれの技量で出撃前にほんのちょっと装甲を凹ますことが多々あった。

 それに比べ、先ほどアルが提示した発進機構──彼の前世におけるカタパルトはそういったことはない。むしろ、浮揚力場(レビテートフィールド)の作用でエーテル量や魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の噴射角度を弄らなければ一定の高度を滑るように移動できることからこちらの方が便利である。

 

 昔は浮揚力場(レビテートフィールド)の理解に乏しく、そういった利点を満足に説明できなかったためにクレーン方式となったが調査飛行を経て銀鳳騎士団に船団を運用するにあたっての知識が膨大に入ってきた今だからこそ、カタパルト形式が花開いたわけである。

 割と乗り気な反応を見せたダーヴィドにアルはちゃっかり『打ち出し式にするならば、競り上がる昇降機は回転式が良いですねー』とロマンを語ったが、お気に召さなかったのか無視されたので彼は次の改装案を提示した。

 

「次は艦橋の位置ですね。やっぱり下にへばりついた形ではなく、装甲とか骨格の内側に入れるべきかと」

 

「それじゃあ周囲が見えないじゃないっすか?」

 

「いやー、課題が山積みなのは確かですがね。エクスワイヤ系が生まれたとなると逆に必要だと思いますよ?」

 

 紅隼騎士団員の疑問を『課題』としながらも、アルは理由を話し始める。

 トゥエディアーネはその性質上、殴る蹴るといった格闘戦は不向きな作りである。しかし、近接戦仕様機(ウォーリアスタイル)追加装備(オプションワークス)の力で飛ばせるようになった今、空中での徒手空拳は夢物語ではなくなった。

 そうなると艦橋が露出しているのはまずいのではないかというのがアルの言だ。

 

「なにがまずいんだ? 空中で格闘戦が出来るだけだろ」

 

「あ、俺分かっちゃった。あれでしょ、近接武器……極論で俺みたいに拳で艦橋を破壊する変なの対策」

 

「まさにそれです。居て欲しくはないですが、そういうのに限ってやってこようとするのが君含めて3名ぐらい浮かぶんですよね」

 

「ちょっと待ちたまえ、さらっとこっち見てそんなこと言わないで欲しいな。私がこいつと同じに見えるだろう」

 

 イレギュラーがイレギュラーの考えを知るといったように1つの推測を立てる紅隼騎士団きっての拳馬鹿。その推測を『当たり』とアルは評し、続けて彼の口から放たれた『3名』という言葉にディートリヒは憤慨する。

 なお、残り1名はいうまでもなく剣を一杯つけた変態なのだが、さらにディートリヒがキレそうなのでアルは言及するのは控えた。こっちに飛び火したら面倒……ゲフン、本意ではないからである。

 

「まぁ、ディーダンチョって軽い方が避けやすいって最低限まで武器捨てて突撃かけそうなイメージだよな」

 

「異議なし、エドガー団長みたいに堅実に戦うのとは真逆だし」

 

「君達ねぇ……」

 

「あ、親方。とりあえず、会議前にそちらの持ってきた物を再度確認させてもらっても?」

 

「へいへい。相変わらずだな」

 

 自らが火種を投下し、それが燃え広がっているにも拘らずそれを傍観しながら事前情報を求めるアルにダーヴィドは呆れながら持っていたリストを肩車をしている紅隼騎士団員の手を経由して彼に渡す。

 リストにはトゥエディアーネのような空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)が多々あったのだが、読み進めていく内に『どう考えても浮遊大陸にはいらないだろ』と思ってしまうものが多々あったために横で未だギャイギャイ騒いでいるディートリヒ達を一旦静かにさせたうえで問いかけを行う。

 

「え、皆さんって行き先が浮遊大陸ってことは分かってますよね?」

 

「南方にあるって噂の空飛ぶ大陸だろ? 眉唾だが、殿下が行ってるならちげぇねぇよな」

 

「そうだね、だから完成したばかりのエスクワイアを私とエドガーで現地試験を行うという体裁で分捕ってきたんだ。結構、苦労したけどね」

 

 どうやらエスクワイア・チックの運用データから『エスクワイア・ファルコン』と『エスクワイア・イーグレット』という新たな支援騎が生まれたようだ。それはめでたいし、それならば各騎士団の旗機が積み込まれている理由もエクスワイヤ系の試験という観点で見れば理解出来る。

 それにカルディトーレ。これも拠点の防衛を考えるならば使えないわけではないだろう。

 

 しかし……、しかしだ。

 

「あの、なんでツェンドリンブルが居るんですか?」

 

「そのだね。うちにはツェンドリンブル専用の若手が居てだね」

 

 聞きたくない情報がディートリヒの口から洩れる。その情報を聞いて真っ先にあのゴンゾース(つるっぱげ)の笑顔がアルの脳裏に過ぎるが、それを加味してもツェンドリンブルや持ってきた荷物のリストに見つからないよう隅の隅に追いやられている『とあるブツ』を持ってきた理由には程遠い。

 

「ちなみに、何人ぐらい?」

 

「その……だね。輸送小隊が組めるぐらい……かな?」

 

「機種転換訓練してきてくださいよー!」

 

「初めに好きな機体を乗らせてあげようって言ってたのは君と大団長だろー!」

 

 責任の押し付け合いが始まった。

 小隊──つまり3から4人分のツェンドリンブルである。そこから予備機として1機、修理部材として1機と考えるとかなりの積載量が浮遊大陸でまともに使えるのか怪しい機体やその機体で初めて真価を発揮する武装によって食い潰されていることとなる。

 

「親方も止めてくださいよ」

 

「アサマがあるから大丈夫だと思ったんだよ。現に運べてるだろ?」

 

「あ”ー! どうするんですか、浮遊大陸が結構狭かったら!」

 

「その時は歩哨にでもなってもらいますよ。騎士はシルエットナイトを乗るだけじゃないですし」

 

「良いね、それ採用」

 

 行き当たりばったりを地で行く紅隼騎士団。その相変わらずっぷりにアルは内心でほっとしながらも、前途多難な未来に不満たらたらで会議に臨む。

 

 そして数時間にも及ぶ会議を経て分かったことだが、流石は真面目の擬人化たるエドガーが率いる白鷺騎士団ということもあってか、アルが今以上に狼狽えるほど素っ頓狂な装備がなかった。逆に積載量が限られている飛空船(レビテートシップ)に使えるかどうかも分からない物を詰め込むという暴挙自体が『アレ』なのだが、ディートリヒが口笛を吹きながら誤魔化したのでアルは容赦なくダーヴィドをけしかけた。

 

 すると、イズモの船内で一定のリズムでラッパが鳴り響く。そのリズムは──別の船の接近であった。

 

「失礼ですが、西方は空の交通整備がなってないのですか?」

 

「はい、各国が集まるということは無いので各国、たまに領ごと独自の規則が定められています。なので、彼らもその独自ルールで動いているかと。……ただ、あれは流石に」

 

 エドガーの問いにアルにくっついてきた密偵が西方諸国の空における交通事情が未だ不完全であることを説明。それを裏付けるかのように窓から見える輸送型飛空船(カーゴシップ)と思われる船とそれよりも小さく小回りが利きそうな船がこちらの船団に対し、『こちらが優先。道を開けろ』と頻繁に魔導光通信機(マギスグラフ)での信号を発し続けている。さらに、それらの船は自身の所属を隠すように旗が取り付けられていないことから密偵はその船達を『酷い』と吐き捨てる。

 

 しかし、飛空船(レビテートシップ)飛空船(レビテートシップ)だ。お互いは距離はまだ先ながらも、このまま行けば船団と正面衝突する角度にある。ちなみにその場合は数が多い方が急に止まれないために降下や上昇で船団にその進路を譲ることと、アルや紫燕騎士団が手掛けた『空の交通マニュアル フレメヴィーラ王国版』に記載されている。

 

 ただ、ここは西方諸国のどの国にも属していない部分。したがって飛空船(レビテートシップ)の船長の判断に問われるのだが、今回遭遇した船長は降下や上昇を一切行わない。先を急ぎたいのか、それとも源素晶石(エーテライト)の余剰がないのか分からないが、このまま行けば前方の飛空船(レビテートシップ)と正面衝突なのは目に見えている。

 

「船団に停止要請、相手には横をすり抜けてもらうように要請してください。あ、こちらはちゃんとフレメヴィーラ王国の旗は掲げてますよね?」

 

「承知した。……旗は当然掲げさせているが、どうしたんだ?」

 

「いえ、ああいった"道を開けろ"っていう輩は後先考えないんですよね。でも、相手を下に見たいという傾向が強いので」

 

 前世でも道を譲ったのにもかかわらずに譲った人間を『恐れをなした』と下に見て挑発してくるライダーやドライバーが居たように、そういった手合いはどの世界にも居る。アルも幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っていなければチンチクリンな外見なので、そういった手合いをこちらでも結構見てきた。

 

 そんな彼の勘という曖昧な理由だったが、それを聞いたダーヴィドは妙に納得した様子で僚艦に警戒を告げる通信をするように指示する。仮に何かあっても即対応できるように、何もなければ笑えば良いという判断で着々と準備が進められる中、件の船はせっかく船団が止まったのにもかかわらずに礼の通信もないまま船団を横切った。

 

「2隻、遠ざかっていきます!」

 

「はぁー、どうやら何もなk「警告! 法撃!」」

 

 安堵したのも束の間。突然の法撃警告を監視員が叫ぶが、既にその法弾はイズモの後方──白鷺騎士団の所属する船の下部を掠めた。しかし、掠めたといっても窓から見るにかなりギリギリで相手の無駄な技量の高さがうかがえる。

 

「結構ギリギリではずしましたね、やり慣れてそうー」

 

「そうね。私達が大げさに航路を譲らないから、思わず噛み付いちゃったんでしょうね」

 

「そうだな、西方諸国にとってフレメヴィーラ王国は田舎だからな。そこの大船団であっても、侮られることは仕方がないことだ」

 

「ちげぇねぇ、流石は西方諸国様の挑発だ。品があらぁ」

 

「そうだね、じゃあ満場一致だ」

 

 ケタケタと笑いながら『仕方ない、仕方ない』と諦め口調で話す彼らだが、一切目が笑っていなかった。それどころか、もはや豆粒ぐらいとなってしまった2隻の船に対して恨みがましく睨み付けた後に全員が異口同音を会議室に響かせる。

 

『よし、買うか!』

 

 国を代表する複数の騎士団の長とは思えない言葉を発した彼ら。ただ、仕方ないのである。

 例え自他共に認める田舎国であるフレメヴィーラ王国でも、『王国』という面子がある。それをどこかの国が飼っているであろう商人風情が馬鹿にしてきたら……戦争である。

 むしろ、この場で船団を反転させてから魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)での高速移動で件の2隻を拿捕。ご説明を賜った後に飼われている国に喧嘩を仕掛けないだけ涙を流して感謝して欲しいレベルなのだが、流石にそれをやる物資はないと悟ったらしい。

 

 閑話休題

 件の2隻からの喧嘩を買うことにしたところで彼らは瞬く間に広げていた地図や筆記用具を片付けると、ダーヴィドに2~3の注文をしてから会議室から飛び出す。そして、船倉まで続く廊下を走りながら作戦会議の続きを行いだした。

 

「俺達が最前線の防衛に当たろう。アルフォンス、白鷺騎士団の旗艦でヘルヴィと下ろしてくれ」

 

「僕は"オハナシ"に向かおうか。でも、発進までに逃げられたらそれこそ大事だね。……アルフォンス、乗せてくれるかい?」

 

「ガルラは広めに設計されてるので、大丈夫ですよ。あ、エドガーさんは船に付いたらアサマに向かって親方に頼んだ連絡をもう一度打診してください」

 

「分かった」

 

「ディー、物資よりも情報をお願いね。見るからに輸送目的だから、背後の国も分かるわよね?」

 

 長年連れ立って歩いて来た騎士同士ともいうべきか、互いの役割をしっかりと把握した作戦がトントン拍子に立てられ、会議室から出て5分という短い時間でイズモの船倉に全員が降下甲冑(ディセンドラート)を着込んで勢ぞろいする。

 

「あ、副団……。じゃない、アルフォンス殿。先ほど、親方から船倉に連絡があったので発進準備を行いました! また、船団には警戒指示が出されたのでトゥエディアーネとの衝突には十分気を付けてください」

 

「流石、親方ね」

 

 どうやらダーヴィドが会議室の伝声菅で準備の指示や船団への連絡指示をしていたらしい。既に外につながる重い扉は開かれており、そこから見える空には白い塗装のトゥエディアーネが防衛のために慌ただしい状態で動き回っている。

 そして、扉から少し離れたところには幻晶騎士(シルエットナイト)形態のガルラが整備台に座っていた。

 

「ガルラもチェック完了してます。今すぐにでも発進可能です」

 

「ありがとうございます。ディーさんは操縦席に! エドガーさんとヘルヴィさんは申し訳ありませんが、ガルラの両手にそれぞれ乗ってください」

 

 そう言いながらアルはガルラの操縦席の奥から非常食やら瓶詰のジャムやらを掻き出してスペースを作り、操縦桿下に増設された端子口に降下甲冑(ディセンドラート)の袖口から伸ばした端子を挿入する。その間にディートリヒが操縦席に、エドガーとヘルヴィがガルラの左右の手の平に腹ばいになりながら収まると、さっそく直接制御(フルコントロール)で機体を動かし始めた。

 

「アルフォンス、エドガー達の旗艦は進行方向から見て3時だよ」

 

「了解、ゆっくり飛んでいきます」

 

「ガルラ出るぞ、作業員は退避しろ! クレーンアームも必要ない!」

 

 源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の力で浮遊しながら大型扉の外に出たガルラは、既に発進していた白鷺騎士団のトゥエディアーネ小隊のエスコートにされながら彼らの旗艦の上部甲板に2人を下ろす。

 

「では、エドガーさん達は手筈通りに」

 

「わかった!」

 

 そうエドガーが返事をするよりも早く、手足を折りたたんだガルラは一直線に後方を進んでいるであろう2隻を追跡する。

 その速さはイカルガ──いや、もしかするとそれを超えるかもしれない。そんな感想に至ったエドガーだが、彼の脳裏には『仮にアルがフレメヴィーラ王国に牙をむいた時に防衛できるのだろうか』という皮算用にもならない疑問が持ち上がる。

 

「何ボケっとしてるの、エドガーの機体が準備に時間かかるんだから早く指示を出しなさい」

 

「あ、あぁ。分かった」

 

 ただ、詳しい戦力分析をする前に頼りになる副団長によって先ほどの疑問が霧散する。そのまま船内に戻ったエドガーは、支援騎がついた新しいアルディラットカンバーの準備を開始した。

 

***

 

「いやー、やつら。撃ってきませんでしたね」

 

「ばっきゃろう、撃てなかったんだよ! それに、あんな見るからに鈍足そうな船団がここまで追いかけられるはずもねぇよ。だいたい、フレメヴィーラっつったら東のド田舎じゃねぇか。そんなのがこっちにまで足伸ばしてんじゃねぇよっつー話だ」

 

 ところ変わって先ほど法撃を仕掛けた船。快速艇(カッターシップ)と呼ばれる孤独なる十一(イレブンフラッグス)製小型高速飛空船(レビテートシップ)の艦橋でひげを蓄えた男が鼻を鳴らしながら部下を小突く。

 彼と輸送型飛空船(カーゴシップ)の船長は兄弟で運び屋を営んでおり、今回はとある議員からの命令で積み込んだ源素晶石(エーテライト)を含んだ西方諸国ではなかなかお目にかかれない動物やそれについて来た人のような動物といった『商品』をその議員が管理する都市まで運送する任務に就いていた。

 

 専属ではないフリーの運び屋ということでいかに早く荷物が届けられるかが売りとなってくるので、先ほどの船団のように鈍重な者達への当たりは結構強く、法撃したのも『貴重な時間を奪いやがって』という文句のつもりであった。

 しかし、彼らには絶対に事を荒立てられないという自信があった。後々問題になっても、法撃の撃った撃たないは根拠がないので水掛け論となってしまう傾向が強い。そして、命中させていない以上は相手も強くは出れないゆえにそのまま逃げ切れてしまう。

 

 そうなると彼らが負けを認める道筋といえば、現在進行形で追いかけてきて『何してくれとんじゃ』と文句を言われることだけになる。しかし、こちらは件の船団からかなり離れている。あの鈍重そうな船を基点とした船団では到底追いつけないし、そもそもどの国の所属か『わざと』旗を掲げなかったのだ。バレようがない。

 

 よって、あの船団は泣き寝入りでこちらは『カマしてやったぜ!』と優越感に浸ることが出来る。そんな完璧な作戦だった。

 そう、あることを除けば。そんなことを知る由もなく、『ド田舎』と馬鹿にしてゲラゲラと笑う船長の耳に伝声菅から漏れ出した見張り台からの報告が届いた。

 

「せ、船長! 後ろから高速で何かが近づいてきます!」

 

「んなにぃ!? おめぇ、あの紋章はフレメヴィーラ王国って言ってたじゃねぇか!」

 

 その報告に船長が隣に居た元紋章官の副官を問いただす。彼が慌てふためく理由、それは商売敵であるパーヴェルツィーク王国の戦闘用小型飛空船(レビテートシップ)の存在であった。

 伝え聞く大きさは幻晶騎士(シルエットナイト)サイズでありながら、その性能は破格と言って差し支えないほど激烈で、まるでクシェペルカの鬼神のように飛行中の法撃も可能とするらしい。

 

 現に雇い主である孤独なる十一(イレブンフラッグス)の迎撃船団を壊滅させたという噂も彼は耳にしている。そんな代物がこの空域で自分達の船目掛けて迫ってくる、死刑宣告と言って差し支えなかった。

 

「げ、迎撃だ! 戻したドニカナックをもう一度出せ!」

 

「了解!」

 

 ただ、そんな死神の鎌の具現化のような代物を搔い潜る手は残っている。船長は輸送型飛空船(カーゴシップ)にも警告する傍ら、船倉に一旦戻した『ドニカナック』という幻晶騎士(シルエットナイト)をもう一度船外に立たせるよう命じる。

 

 ドニカナック。孤独なる十一(イレブンフラッグス)で使用される機体だが、その性能はサブアームを持っていながらもティラントーの劣化コピ──-つまり、コピー品をさらにコピーした粗悪品である。

 特に攻撃精度が劣っており、その理由もジャロウデクのティラントーを手にしたは良いが技術者が未熟なために模倣も出来ずにすでにある物を組み合わせたまさに『パッチワーク(つぎはぎ)』と呼んだ方が通りが良さそうな状態であった。

 

 ただ、何もしないよりかはましと迎撃を命じられたドニカナックは昇降機を通じて快速艇(カッターシップ)の上部甲板に立つと、徐々に近づきつつある謎の飛翔体目掛けて炎の槍(カルバリン)を撃ち放った。橙色の炎弾は空中でかなりのばらつきを見せながらも謎の飛翔体近くまで飛んでいくが、まるで遊んでいるかのように炎弾の合間を縫うよう加速した。

 

「ば、化け物だ! 早く逃げろ! 早く!」

 

 右、左、上、下とその飛翔体に狙いを定めて砲撃するが、そのどれもが当たらない。それどころか、法弾を発射した瞬間には既に避けられている。操縦桿を介して操縦する以上、動きの反映にタイムラグがあることはドニカナックの騎操士(ナイトランナー)も把握しているために余計にその飛翔体の動きが不気味に思えてしまった。

 しかし、そうしている間に輸送型飛空船(カーゴシップ)の方からもドニカナックが何機か上部甲板に降り立つ。『数さえいればこっちの物』と騎操士(ナイトランナー)は飛翔体を近づけまいと輸送型飛空船(カーゴシップ)の僚機と息を合わせた法撃を行うが、まるで効果はなかった。

 先ほどよりも機敏な動きを見せ、さらには急降下や急上昇という飛空船(レビテートシップ)では到底行えないような動きも追加される。

 

「なんなんだ! 一体なんなんだよ!」

 

 訳が分からないとばかりに法撃しまくる騎操士(ナイトランナー)だが、ふいにその飛翔体から光が瞬く。それを知覚した瞬間、騒々しい破砕音と共にドニカナックは大きく体勢を崩して快速艇(カッターシップ)から滑落する。

 『法撃し返された』という考えと共に『助からない』という諦めの言葉が彼の口から洩れる。下は海だが、助かる見込みは限りなく0に近い。せめて一思いにと目をぎゅっと閉じた彼だったが、操縦席が揺れるような強い振動の後に落下していたことで感じていた操縦席に押さえつけられるような力が消失した。

 

「中のナイトランナー、一応聞くけど大丈夫かい?」

 

「は、はい。大丈夫……です?」

 

 幻像投影機(ホロモニター)には大きな覆いのような物で頭部を隠した胴体が映る。ドニカナックの首を動かしてみればそれ以外は少々細身な幻晶騎士(シルエットナイト)のようだが、機体の至る所から爆炎を放出しているような異様な機体であった。

 思わぬところで九死に一生を得た騎操士(ナイトランナー)だが、ふと我に返ると自身が謎の存在に捕縛されたことを悟る。

 

「き、貴様! 離せ!」

 

「ん? 離しても良いのかい?」

 

「う、うわぁあ! や、やめろ! やめてください!」

 

「うん、素直なのは良いことだ。それでは、君の雇い主に会いに行こうか」

 

 捕まえていた手を一瞬離したりと一頻り遊ぶような素振りを見せた飛翔体の騎操士(ナイトランナー)は、ドニカナックを盾にしながら『そちらの従業員を救助した』と呼びかけつつ輸送型飛空船(カーゴシップ)に接近していく。

 すると、輸送型飛空船(カーゴシップ)の後部にある積み荷を搬入する部分が開き、中から先ほど上部甲板に居たドニカナックが手招きする。

 

「君の雇い主は人員を大切にしているようだね」

 

 声からして若そうな声を聴きながら騎操士(ナイトランナー)とドニカナックは輸送型飛空船(カーゴシップ)への生還を果たしたのだった。

 

***

 

 ところ変わって無事に輸送型飛空船(カーゴシップ)に入場を果たしたアルとディートリヒ。魔導兵装(シルエットアームズ)を構えている数機の幻晶騎士(シルエットナイト)にも一切怯むことなく雑談に興じていた。

 話の話題はもちろん、先ほど撃ってきた幻晶騎士(シルエットナイト)──ドニカナックについてだ。

 

「なんか、集弾性が舐めてましたね。ちょっと1機のマギウスエンジン調整しても良いですかね?」

 

「一応、舐め腐った真似をした商人にケジメを付ける名目できたんだから押さえて欲しいね」

 

 先ほどの対空砲火では満足できなかったのか、このまま放流すればドニカナックに取り付いて数十分後には魔導演算機(マギウスエンジン)の最適化が完了しそうな剣幕のアルを操縦席の真後ろに押し込んだディートリヒは、再度アルの方を向いて『君は今から僕の支援騎だ。前に君がやってた遠隔操作を僕がやっているように振舞って欲しい』と頼み込んでから開いた胸部装甲から外部に出ていく。

 降下甲冑(ディセンドラート)に備えられた大気衝撃吸収(エア・サスペンション)によって地面に着地したディートリヒは兜を外しながら、人だかりの中心に居た見るからに偉そうで指輪といった装飾品が目に付く男に話しかけた。

 

「やぁやぁ、せっかく道を譲ったのに熱烈なお誘いを頂いたのでね。思わず追いかけてきてしまったよ! しかし、流石はこんな未開の地でもに運びをする猛者だ。肝が据わってるね?」

 

「い、いやぁ。その……行き違いがありまして」

 

「ほう、行き違い! よもや……"部下が勝手にやったこと"と煙に巻くようなことは言うまいね? 船を率いる以上は部下の統率が最重要課題だ。やらかしたらその1人の責任ではないということは分かっているはずだよ?」

 

「お、仰る通りです」

 

 紅隼騎士団という脳筋軍団を率いているからか、案外ディートリヒも規律──彼の場合は言葉遣いと言った細々したことではなく、ただ個人やその周囲が命令や騎士団長である自分を納得しうる理由なく動き回らないという鉄の掟に結構厳しい。個人や数人の暴走が部隊の、ひいては紅隼騎士団の壊滅に起因すると分かっているからだ。

 

 そこをチクチクと指摘され続ける男だが、ディートリヒは周囲の怒気。否、殺気というべきだろうか。そんな気配が濃くなっていくことに気づくとガルラに向かって『周辺警戒』と命じる。

 

「ラージャー」

 

「だ、誰か乗ってらっしゃるので?」

 

「違うよ、我がフレメヴィーラ王国では騎士を支援するために機外に居ても動かせるようにしてるのさ。声が出ているのは……そう、スクリプトで調整しているのさ」

 

 『こんな風にね』と腕を仰々しく振るうディートリヒに合わせ、ガルラも腕を振るいだす。本当は下部に設置された幻像投影機(ホロモニター)から見える彼の腕の動きに合わせ、後ろのスペースに隠れていたアルが抑揚のない機械的な声をあげながら直接制御(フルコントロール)で操縦しているわけだが、操縦席が空っぽなことには違いない。

 ドニカナックの騎操士(ナイトランナー)達も『誰も居ない!』や『本当に操縦桿無しで動いてやがる!』といった驚きの声を上げていた。

 

 なお、実際に返事をするのはディートリヒも想定外だったために『言い訳を考えるこっちの身になってほしいね!』といった怒りと共にガルラを一瞬睨み付けたのは内緒である。

 

「分かったろう? アルって名付けてるんだが、私に何かあればこいつは絶対何かするよ? 詳しくはラボの連中が仕込んだから分からないけどね」

 

「肯定。団長が倒れた瞬間に本機は自爆します、それはもう盛大に。我が製作者、ダーヴィド・ヘプケン氏もこの判断にこう言うでしょう、"そこです。自爆なさい"……と」

 

 意趣返しを込めてつい無茶ぶりを投げたら、アルはとんでもないことを言いだした。幻晶騎士(シルエットナイト)に情熱を注ぐダーヴィドがそんなエルのようなことを言うはずがない。バレたらもれなく舳先に吊るされるコース確定だと内心で『何言ってんだこいつぅ!』と戦々恐々するが、フレメヴィーラ王国で有数の騎士団の長まで成長した彼の外面は崩れなかった。

 

「ほらね、だからあんまり刺激しない方が良いよ。……で、だ。フレメヴィーラ王国であるってことは見張りも居たようだし分かってたろ? 至近距離で近づいていたから船長である君も旗は見えていたはずだ。なぜ、攻撃した?」

 

「その……私共は運送速度を意識しておりまして。船団という障害で輸送速度を無駄に殺してしまうことが……その……」

 

「なるほど、それは悪いことをした。では、そのことを我らの方から君たちの雇い主に陳謝させてもらおう。君に依頼した国を言いたまえ」

 

 『こちらから謝る』というディートリヒの慈悲のような言葉。しかし、これは彼の罠であった。

 地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったもので、ここで男が素直に雇い主を言ってしまえばディートリヒはすかさず本隊に合流予定の藍鷹騎士団一派に報告後に放流。そこから紆余曲折があり、その雇い主の元にフレメヴィーラ王国とクシェペルカ王国の連名で『うちのが悪かったよー。でもさ、なんでうちの旗確認しておきながら法撃したの? 喧嘩したいの?』といった謝罪文が届くだろう。

 

 そうなってしまえば彼らはおしまいである。流石の男もそれを察しているのだろうか、脂汗を垂らしながら口をチャックしている。

 ──が。

 

「団長殿、この船はイレブンフラッグスのものかと」

 

 ガルラの指が船倉の一点を指差す。そこには木箱の壁の奥に押し込まれた孤独なる十一(イレブンフラッグス)の旗があったのだ。勝手に動いたガルラに面食らって動けないドニカナックや男達だが、これ幸いと操縦席の後ろに隠れていたアルはちょいちょいとガルラの指先で件の旗を摘み上げてディートリヒの上に垂らした。

 

「たしかにイレブンフラッグスだね。アル、退散しようか」

 

「ラージャー。国相手に文句となると、忙しくなりますね」

 

「僕の乗騎だろ? 君には頑張ってもらわないと」

 

「お、おおお待ちをぉお!」

 

 用は済んだとばかりに退散を指示するディートリヒに縋りつかん勢いで男は声を上げる。ここで見送ってしまえば最後、何もかもご破算なのだから必死だ。

 ここでディートリヒを口封じしようとも、イカルガよりは劣りそうだが1機で2隻を全滅させることは朝飯前に出来そうなアルが居るのでどうあってもこちらの勝利は変わらない。そんな余裕を表情に反映させながら、彼は男の肩を叩いた。

 

「じゃ、君達が居た浮遊大陸で何が起こっているのか。君たちはどういった目的と編成で来ているのか、そういった情報をもらおうか。断ったら……分かっているよね?」

 

 まるで債務者に借金の返済を迫る債権者のような口ぶりで、ディートリヒは彼に話を促した。




機体を取り囲むようにレールを張り巡らせて、いくつもの武器を滑らせるように移動させる。…良い案じゃないか。
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