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本人達も既にここは前世に住んでいた世界ではないことを自覚し、仕方ないから第2の人生を楽しむ的なスタンスを決め込んでいた。
多少怪しい舌回りを無視すれば非常に明瞭に喋れるようになり、歳の割に落ち着いた賢い子と家族や周囲から認識されていたが、二人としては『転生者なので』と流石に言えず、多少恥ずかしい思いをした。
そんなある日、二人は母のセレスティナにつれられ郊外のライヒアラ騎操士学園へ足を運んだ。
「二人にお父さんのお仕事を見せてあげるからね」
手を繋ぎながらセレスティナと歩いていると演習場と思わしき場所に辿り着いた。
演習場の中央では巨大な人間が片方は剣と盾、もう片方は両方に剣を持ってぶつかり合っている。
腹に響く重厚な音を立てながら一歩ずつ進み、力強く剣を振り上げるその姿はエルとアルを釘付けにした。
「ろ…」
「ろぼっとだ……」
熱気と重厚な音に彩られた空気が可愛らしい声で霧散する。
先ほどまで巨人の動向を見逃すまいと鋭い目線で睨み付けながら他の生徒に指示を飛ばしていたマティアスがその声に振り返って笑みを浮かべる。
それを見た周囲が軽くざわつくが、マティアスは周囲を一睨みで黙らせると咳払いをして近づいてくる。
「ティナ、どうしたんだ? 学園の方に顔を出すなんて」
「ふふ、エルとアルにお父さんのお仕事を見せてあげようと思って」
「そうか…エル、アルどうだ? お父さんの仕事はかっこいいか?」
マティアスは二人の目線を合わせるように膝を折るが、子供はまったく話を聞いていなかった。
(うほぉ! マジモノのロボットだ! 動かしたいなぁ! アルフォンスいっきまーす! ってやりたいなぁ!)
アルは、今まで抑圧されてきたロボ欲が本物のロボット、しかも動いている物を見て爆発していた。
「……これは聞こえてないな」
苦笑しながら二人の頭を撫でる。
(うぅむ…エルはともかく、アルは完全に昔のティナだな)
エルもアルもセレスティナから紫がかった銀髪を引き継いだが、マティアスに似てやや釣り目がちのエルとは違い、アルは完全にセレスティナの外見を小さくした姿で育っていた。
髪型もおかっぱのエルと違い、アルはセレスティナと同じで腰ぐらいまで伸ばしているが、その理由は『同じ髪型にすると家族に兄さんと間違われる』という水溜りよりも浅い理由だったりする。
一時期、あまりにもセレスティナに似てきたので久方ぶりの飲酒でテンションが上がっていたこともあり、マティアスは思わず『アルが女の子だったら』というつぶやきをアルに聞かれたことがあった。
その後、愛する
「まぁ、エルとアルったらお父さんよりも
「それが縁で騎士を目指す子供も多いと聞く。二人も本当に気に入ったようだな」
マティアスがしばらくエルとアルの髪を撫で続けているとアルが反応を示す。
「とうさま、あれはしるえっとないとというんですか?」
いきなり反応を示したアルに驚きながら、説明をする。
「ああ。あれが
「しるえっと……」
「ないと……」
男の言葉に先ほどまで真剣に
二人は巨人の名前を呟くと、そのまま考え込み始めた。
その姿にマティアスは再び苦笑を浮かべ、再度二人の頭を撫でると妻と簡単に言葉を交わしてから顔を引き締めて生徒の集団の中へ戻っていく。
演習場では、巨人の騎士は互いに礼をして両側の出入り口と思わしき所へ引き上げようと歩を進めていた。
その日の夕食後、子供部屋では《どきっ! 第128回(憶測)兄弟だけの秘密会議(命名アルフォンス・エチェバルリア)》が行われていた。
「えー、ほんじつのぎだいですが」
「はい! ろぼっとがいました!」
議長のエルがアルの言葉に頷く。
「ええ、じつざいのろぼがあるならはなしは はやいです。のりましょう!」
「のりましょう!」
実質3分にも満たない時間で会議が終了した後、兄弟は父の元に突撃する。
「とうさま、しるえっとないとにのりたいです! どうすればのれますか!」
二人の真剣な表情にやはりと思ったマティアスは騎士ではないと乗れないことを話す。
しかし、「どうやったら騎士になれますか?」と予想通りの回答をし、マティアスは思わず苦笑いを浮かべる。
騎士になるうえでは剣の訓練は必要不可欠であるがまだ3歳の子供に剣は早すぎると判断したマティアスは妻をちらっと見る。
「二人に剣は早いから、魔法のお勉強をしましょうか」
「「まほう!」」
夫の意思を汲み取ったセレスティナが魔法の勉強を提案すると二人は一斉に食いついた。
マティアスはそれでも剣を教えてほしいと請われなくて良かったと胸をなでおろす。
その後、祖父のラウリにセレスティナが頼み込み、肩たたきを条件に二人はライヒアラ騎操士学園の魔法に関する教本を入手する。
二人は自室に戻るが、アルフォンスは少し考えるとエルネスティに持っていた本を押し付ける。
「にーさんがさきによんでて。かあさまのおてつだいしてきます」
エルの礼の言葉を背にアルはキッチンへと歩いていく。
(まぁ、文字わからないし。教本用意する後押ししてくれた母様にもお礼しないとなぁ)
アルは若干腹黒いことを考えながらセレスティナにお礼を言った後にせめてものお返しとして家事を手伝う。
皿洗いやキッチンの掃除といった手伝いが終わって部屋に戻るとエルが手招きをしてきた。
「にーさん、なんですか?」
「アル、もじがわからないです」
アルは、『やっぱり』と内心思いながら教本を見せてもらう。
図形ということは分かるが、文字が分からないので何の図形か分からないので、もらった本を斜め読みしているとドアが叩く音が聞こえる。
「2人とも、少し良いか?」
「おじいさま!」
ちょうど良い所に来てくれたと思い、ラウリを中に招いて椅子に座ってもらう。
先ほどもらった教本を手分けして持ちながらニコニコとラウリに詰め寄る。
「おじいさま、もじをおしえてほしいです」
「ああ、やはりか……」
2人が教本を持って部屋に上がった後、マティアスが文字を知らないのではという疑問を口にし、アルが書斎で本を見ているのを見たから既に誰か教えたとラウリとセレスティナは勘違いしていたらしい。
「文字については、明日にでもティナに教えてもらいなさい。今日は魔法についてちょっと話そう」
久しぶりの孫とのコミュニケーション。ラウリは寝物語の代わりに魔法について子供にも分かりやすいように掻い摘んで説明する。
その言葉に2人は正座して拝聴の構えを取る。俗に言う正座待機である。
ラウリの話は掻い摘むと
・魔法は、魔法術式というものにより火や風などの現象や規模を決定し、魔力を触媒を介す事によりこの世界に発現させる。
・魔力は大気中のエーテルを体内に取り込み、エーテルを魔力に変換して自分の体に保存される。
・魔法術式自体は特定の図形の組み合わせとして認知され、教本に載っている。
といったものだった。
ラウリの話に正座しながらアルはまだ知らぬ魔法という技術にそわそわと体を左右に動かしていた。
「こんなところじゃな。ほかに知りたいことはないか?」
話が一区切りし、質問を受け付けたラウリにエルとアルは手を上げる。
「そのしょくばいは、どうやっててにいれるんですか?」
「いい質問じゃ」
その質問に満足そうな顔をしたラウリが自分の腰から杖を取り出して答える。
「人には触媒がなくての。このように杖の先などに触媒を取り付けてそこに魔力を込めるんじゃ」
「おじいさま、しょくばいがあるいきものとかいるのですか?」
「そうじゃのぉ。触媒を持っている生き物は魔獣や魔物などと呼ばれておるの」
そこでアルは手を上げた。
「おじいさまがしっているなかでいちばんすごいまじゅうってなんですか?」
アルの質問にラウリは目を閉じて一番かと呟きながら唸る。
しばらく唸ると膝をぽんと叩いて一匹の魔獣を答えた。
「
『まぁ、会うことはないだろうがな』と微笑みながらアルフォンスの頭を撫でる。
「ちょっとは役に立ったかの? 明日に備えてもうお休み」
「はい、せんせい! ありがとうございました」
その言葉にラウリは笑いながら去っていく。扉が閉まると同時に二人はいそいそと自分達のベッドに入っていく。
「
「めったにいないみたいですけどね」
ふたりはもし
***
パシュッ
乾いた音と共に杖から火線が飛び、木に吊るされた的を叩く。
「ふぅ……」
エルは息を整えて先ほど当てた的を見る。
「兄さん、交代してください」
「はい、どうぞ」
エルは、すぐ隣で待機していたアルに杖を渡して後ろに下がる。
「お疲れ様。基礎式とはいえこんなにすぐに魔法を使えるなんてエルはすごいわ」
「母様、本には基礎式は基礎中の基礎と書かれていましたが」
「そうね。でも、今みたいに的の真ん中へ真っ直ぐ飛ばすには練習が必要なのよ」
(なんか……“Hello,○○World”って表示させるぐらい簡単だなぁ)
エルとセレスティナの会話を聞きながらアルは同じように数発火線を飛ばして的に当ててエルと交代し、後ろに下がる。
「まさかこんなに早く実技をしてもらえるなんて思いませんでした」
「だって二人共優秀なんですもの、ちょっとぐらい…ね?」
(まぁ、文字ぐらいしか苦労しなかったしなぁ)
教本を受け取ってから2ヶ月、最初は文字を教えてもらい、ついでに話し方の練習を行った。
読み書きと話し方は十分だと判断された次の日から座学を行っていたが、今日は座学だけではつまらないだろうということで家族の監視の下、魔法の実技を行っていた。
交代で魔法を唱えること数回、アルは急に全身に疲労感を覚えながら足をふらつかせる。
(うわ、きっつ。これ上級魔法になると一発撃つごとに倒れるんじゃね?)
呼吸を荒くしながら心配するエルにサムズアップを送り、杖を渡して側で待機する。
(兄さんもそろそろこうなるかな?)
予想通り、魔法を撃ったエルが足をふらつかせたので、二人で肩を貸し合う。
ティナの近くに戻るとマティアスに担がれ、『かっこよかったぞ』と声をかけられる。
「少し使っただけでこんなに疲れるんですね」
「なぁに、エルもアルもまだ小さい。むしろこれだけ撃てるんだったら素養は十分だ」
「そうじゃの。それに魔法を制御する筋も良い。これからも慢心せずに精進すれば騎士にもなれるじゃろう」
隣でエルが魔力の増やし方についてティナに聞いていたが、アルは騎士のことで
その夜、議事録などマトモにとってないので何度目になったか忘れた《どきっ! 兄弟だけの秘密会議》が自室で開始される。
「魔力トレーニングと体力づくりをしましょう」
「できるところからこつこつとですね。兄さん」
2人共、
問題は、体力などの自分自身のキャパの少なさである。
2人は走りこみや魔法を倒れるまで撃つ、
「アル、これはどうですか?」
「身体強化? ………たしかにこれなら魔法をどかどか撃つより効率的ですけど、上級魔法ですよ?」
身体強化は自分の身体を強化し、耐久性、力、動作速度の全てを強化する魔法である。
ただし、制御する対象が骨や筋肉、皮膚といった多岐にわたるために制御が難しく、魔法を行使するための魔力もべらぼうに必要な上級魔法である。
「ふっふっふ、術式の構成見れば分かりますよ」
いぶかしみながら、術式の構成を見る。
数分後、アルの顔が『こいつ頭おかしいんじゃねぇの?』という懐疑的な顔から『やっぱすげぇよ…エルは』という顔つきに変わる。
「同じような処理がありますし、関数に切って自分の状態を取得するサブ関数や組み込む構成作ればいけそうですね」
「ふふん、アルならそう言ってくれると思ってました。さ、2人でよりよい構成考えましょう」
その後兄弟は術式を組み、時折術式を書いた紙をつき合わせて相談を行う。
「兄さん、ここの処理どう?」
「ほほう、採用です」
相談がすんなりいくこともあれば。
「ここの関数はこうしたほうがすっきりするでしょうが!」
「それだと取得する時に一手間かかるでしょうがぁ!」
自分の考えた処理の正当性を言葉とたまに拳で殴りあったりと紆余曲折があり、身体強化の改良が終わった。
その直後にセレスティナに夜更かしと喧嘩をしていることがばれ、怒られたのは余談である。
次の日、ランニングをしようと家にある触媒をこっそり2人分持ち出して外に出る。
「準備はいいですか?」
「いつでもどうぞ」
『よーい、どん!』という掛け声とともに二人は風になる。
(踏み込みがつよい! 体が軽い! もうなにも怖く………)
強化された肉体の手ごたえにもう一歩踏み出そうとしたところでがくんと視界が落ちる。
「へなっぷ!」
素っ頓狂な声を上げながら倒れた直後にすさまじいダルさと息切れが襲う。
数十メートル先には同じようにヤ○チャスタイルで倒れているエルの姿も見えた。
数分後、やっとの思いで立ち上がった二人は無言で帰路に着く。
……二人の顔が赤いのは地面で顔を擦ったせいだろうか。
「消費魔力のことすっかり忘れてましたね。しばらくは地盤固めをしましょう」
こっそり触媒を返し、自室に戻ると同時にエルが口を開く。
結論として、基本魔法やお遊びで改造したネタ魔法を使って魔力トレーニングを行うことにしたが、
念願の身体強化を改造込みとはいえ実用化出来るまでここから約2年の年月が流れた。