銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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153話

 ガルラがイズモから発艦した頃。目的地である飛竜戦艦(リンドヴルム)の艦橋は大忙しであった。

 全身から青白いナニカを生やす混成獣(キュマイラ)達を黄金の鬣(ゴールドメイン)号の内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)幻晶騎士(シルエットナイト)による法撃によって迎撃した飛竜戦艦(リンドヴルム)は、パーヴェルツィーク王国などの飛空船(レビテートシップ)を伴って攻撃によって僅かに空いた包囲の穴から全速力で逃げの一手を計っていた。

 

 ただ、混成獣(キュマイラ)側も魔獣だが決して馬鹿ではなかった。瞬く間に包囲から追走の構えを取ると、飛竜戦艦(リンドヴルム)を追いかけ始める。その速度は逃げに徹した飛竜戦艦(リンドヴルム)どころか後ろを追いかけていた飛空船(レビテートシップ)にも劣るものだったが、西方諸国で生まれて初めて見る生の魔獣。そして、それが自分達を食い殺さんと追いかけてくる姿に恐怖した見張り台からの声が伝声管を伝って飛竜戦艦(リンドヴルム)の艦橋まで聞こえてくる。

 

 そんな見張りの不甲斐なさにパーヴェルツィーク王国の第一王女である『フリーデグント・アライダ・パーヴェルツィーク』が『我が軍は……』と苛立たしげに呟くが、エルの方は冷静に黄金の鬣(ゴールドメイン)号へ繋がる伝声管に語り掛けた。

 

「ミッシレジャベリンの再装填時間は?」

 

「後7分……いえ、5分ください」

 

 黄金の鬣(ゴールドメイン)号に備えられた内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)は先代の飛竜戦艦であるヴィーヴィルを落とした一助となるほど強力な装備ではあるが、いかんせん装填速度が未だにネックであった。32本もの魔導飛槍(ミッシレジャベリン)の換装という作業を5分で済ませられる騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は間違いなく凄腕なのだが、残念ながらそれを待てるほどの時間はこの船には残されてない。

 今はどうにかなっているが魔法などで加速された場合、この均衡も儚く崩れ去るだろう。どうにか迎撃出来ないか考えていると、エルの双眸が遠くから何かが高速で飛来してくるのを捉えた。

 

「ありゃなーんですかね。殿下、騎士を遠くに派遣したりはしてませんよね?」

 

「いや、そんな命は出していないぞ。グスタフ?」

 

「いえ、私も出しておりません。そもそも、ドラッヒェンカバレリ単騎でこなせる任務なぞないことは卿が一番よく理解しているのでは?」

 

「ですよねぇ。そうなるとありゃなんだぁ?」

 

 フリーデグントとパーヴェルツィーク王国の天空騎士団(ルフトリッターオルデン)の長を務める『グスタフ・バルテル』は顔を見合わせながらそれぞれに騎士を派遣する命を出したか確認するが、両方の答えは否定で終わる。

 先ほどのグスタフの言葉通り、竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)1機では大して攻撃力はないに等しく、また航続距離も少ない。飛空船(レビテートシップ)の直掩や先導に回すといった飛空船(レビテートシップ)圏内の行動なら十全に働けるが、長距離偵察といった圏外の行動は全くといって良いほど適性がない。

 

 それと同時に単機というのもおかしな話だ。偵察目的ならば情報の齟齬を防ぐためにも最低でも2機(2人)、連絡要員を入れると最大で1個小隊は必要である。

 戦術的な観点から目の前から向かってくるのは天空騎士団(ルフトリッターオルデン)の騎士ではない。そう考えていた矢先のことであった。

 飛翔体が縦横無尽に高度を弄りながら動き回る。エーテルの関係上、急激な高度の変更はかなり難しい。なにせ、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の方向や源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の内包エーテル量を同時に動かさなければならないからだ。

 竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)に開発初期から携わっていたグスタフもそれをよく分かっており、近づいてくる存在を見て咄嗟に『あんな破天荒な動きは自分でも無理だぞ』と心の中で冷や汗を流す。

 

 一方、グスタフの考えは竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)や飛竜戦艦の生みの親である『オラシオ・コジャーソ』も持っていた。単眼鏡を持ってきてないことを惜しみつつ目を細めて飛んでくる物体を見定めようとするが、まるでこちらの神経を逆なでするように縦横無尽に飛び回るので単眼鏡では碌に姿を拝むことが出来ない。

 『どうしても姿が見たい』と目を血走らせるが、頭のどこかで予言めいたとてつもない予感が浮上してきた。徐々に冷えていく頭のまま、オラシオは恐る恐る横に居るエルへと目を向ける。

 

「まさか……」

 

「遠くで機体は見えませんが……、アルですね。そういう動きだ」

 

「やっぱりお前の関係者かぁ!」

 

 空に関する技術について一家言があるオラシオにとって空は自身の開発物のみが占有する聖域であった。しかし、そんな聖域を脅かす存在が現れた。──エルだ。

 オラシオが渇望する空の果て。『真空』の概念を理解し、飛竜戦艦(リンドヴルム)の内部構造や魔法術式(スクリプト)を瞬時に把握した手腕。なのに、空の果てには一切の興味がないエルを彼は親しみが4分の1、その他は全て嫉妬や苛立ちといった負の感情で見ていた。

 

 そんな奴の関係者が忌々しい蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)のように空を我が物顔で進んでいる様子から、オラシオアは頭をガシガシと掻き毟りながらも研究してやろうと単眼鏡を振り回す。その横でエルはというと、平然と操舵しながらアルの登場によって来ているであろう援軍の内容を推測しては起死回生の手段を黙って考え出す。

 

 そんな近づきがたい雰囲気にフリーデグントとグスタフは『本当にこいつらに任せて大丈夫なのだろうか』と正気を疑いだすが、飛竜戦艦(リンドヴルム)の横を一瞬で通り過ぎた物体がことでそんな不安は霧散する。

 即座に見張り台にその正体を問うが、見張り台からの報告が届く前に1機の幻晶騎士(シルエットナイト)が最高速度で逃げている飛竜戦艦(リンドヴルム)の艦橋横に現れた。

 

「迎げ「待ってください!」」

 

 迎撃を命じようとしたグスタフの声をエルの大声がかき消す。命令を邪魔されたことで彼の堪忍袋のいくつかが千切れるが、すぐさまその幻晶騎士(シルエットナイト)飛竜戦艦(リンドヴルム)の進行方向を指差しながら面覆い(バイザー)を何度も点灯させていることに気づいた。

 

「なん……、シルエットナイトか? 竜殺し……、あのオリジナルではない。飛竜戦艦(リンドヴルム)の最高速度についてくるのもおかしい。ありゃ……、なんだ?」

 

「あぁ、さっきは飛行しやすい形態に変形してたんですよ。それより、符丁を読むのでお静かに」

 

「変形ぃ!? そんなの可能なのか!」

 

「お静かに!」

 

 艦橋に居る全員が魔導光通信機(マギスグラフ)代わりの連絡事項だと把握した余所で、ブツブツと独り言を呟いているかと思ったらエルの言葉で一気に沸騰して気が狂ったかのような声で叫ぶオラシオ。そんな彼にちょっとだけキレて静かにさせたエルは、未だにガルラの面覆い(バイザー)から発せられている符丁をフレメヴィーラ式に読み解いていく。

 黄金の鬣(ゴールドメイン)号側からも見えるような位置で灯るそれの内容とは、銀鳳騎士団が自身を証明する特別な符丁と『チョクセン イズモ チュウイ』の3単語。すぐさま意図を読み解いたエルが伝声管に黄金の鬣(ゴールドメイン)号の見張り台に了解を返すように伝えると、しばらくしてから幻晶騎士(シルエットナイト)は自身の頭部に手を添える『敬礼』をすると、手足を折り畳みながら飛竜戦艦(リンドヴルム)の艦橋の視界外へと消えた。

 

「おい、ちょっと待て! 今のが"変形"か!? もっと見せろ! 研究するからもっと見せろよぉ!」

 

「エチェバルリア卿、あのシルエットナイトはなんだ?」

 

「あの信号は何を伝えようとしていた、答えろ!」

 

 三者三様で発することは異なるが、意味は変わらない。『あれはなんだ』である。当然、一つ一つ応える気もないエルは無視して一直線に飛竜戦艦(リンドヴルム)を飛ばす。

 アルの情報から迎えに来てくれたのはイズモ。それも白鷺騎士団と紅隼騎士団をつけた『銀鳳大騎士団』だ。戦力としても、各人の練度としてもエルが望む最上級の代物だ。

 それに銀鳳大騎士団が出動しているという事は騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の隊長であるダーヴィドもことになる。彼ならば、必ず『アレら』を持ってきているのは明白。

 

 逸る気持ちを代弁するかのような速度で飛竜戦艦(リンドヴルム)を飛ばしてから10分──いや、もう少し早いかもしれない。艦橋のガラス越しに壁のように並ぶ巨大な船や飛空船(レビテートシップ)の大船団の影が見えた。

 

「なん……だ、あの巨大な船は」

 

「冗談だよな? 俺以外にあんな巨大な船を作るなんて……。しかも2隻なんて嘘だよなぁ!」

 

 距離が遠いので未だ陰でしか捉えられないが、船団の規模や中央に据えられたイズモとアサマの大きさに驚愕する2人を放っておき、エルは伝声管でエムリスに本国からのお叱り艦隊が来たことを伝える。彼の背中では『お前の国のかよ』という意味が込められた視線が突き刺さる。

 しかし、それらの視線をなかったかのように報告を終わらせたエルが黄金の鬣(ゴールドメイン)号との連絡を絶つと、フリーデグントに向かって一礼をした。

 

「王女殿下、少々方針を変更しようと思います。僕はこれからあの巨大な船、イズモに移って自分の機体を取り出して出撃するので、この飛竜戦艦(リンドヴルム)はあの船団付近で停止してください」

 

「護衛か。出来るのだな?」

 

「えぇ、うちの騎士団の精強さは僕が保証します」

 

 そう言って思い出すのはアルディラットカンバーを駆る真面目な騎士の姿。彼ならば創意工夫をもって対処してくれるはずだと、エルは今後の予定をエムリスにも伝達。無事に許可も取れたことで飛竜戦艦(リンドヴルム)の連絡係に発光信号の手配を行いながら総舵輪を強く握りしめた。

 

***

 

 そんなエルとは対照的に、アルは窮地に立たされていた。窮地とは言っても機体が壊れたわけでも、かといって負傷したわけでも断じてない。ただ、有効打が与えられないだけである。

 

「法撃効かないってマジっすか」

 

 両腕部に仕込んである魔導兵装(シルエットアームズ)にて手あたり次第に掃射を試みるが、結果は最初に混成獣(キュマイラ)の群れに突っ込んだ時と同じであった。本体にたどり着く前に本体から出てきている青白い触手のような物によって法撃が掻き消えるのだ。

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)のように盾で防がれるのは分かる。巨人族(アストラガリ)や大型魔獣のような持ち前のタフネスや無意識でかけている身体強化で弾かれるのは分かる。どれにも当てはまるが、法撃に対して法撃で相殺するのも十分あり得る話だ。

 ただ、あの青白い触手に触れた途端に爆発もせず、まるで何もなかったかのように魔法がエーテルになるのは明らかに異常であった。

 

「そうなると……持久戦で兄さんを待ってからの方が確実ですね」

 

 法撃主体のガルラでは殲滅どころか数を減らすのも難しい集団。そんな状況にアルは速やかに『高機動を用いた持久戦』を選択する。

 再び飛行形態で混成獣(キュマイラ)の群れに入り込んだガルラは効果がないのが分かっているにも拘らず、法撃で手あたり次第攻撃を始める。案の定、法弾がかき消されるが、この行動によって『攻撃してきた』と混成獣(キュマイラ)が判断。群れの全てでアルの操縦するガルラを屠らんと殺到してきた。

 

 牙や爪、3つ首から放たれる魔法や青白い触手。そんな攻撃の合間を機体を傾けながら寸でで避けたり、追いかけっこの最中に折りたたんだ足を伸ばして進行方向に突き出した状態で魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を噴射することでオーバーシュートを仕掛けたり、はたまた高度を急激に上下させたりと混成獣(キュマイラ)達にとって非常に嫌らしい戦い方でその空気に彼らを固定する。

 

 しかし、最初こそ全員で仕留めにかかっていた混成獣(キュマイラ)達だが、そんな積極的に敵を屠らんとする気概が見えない戦い方をするガルラの姿に飽きてくる個体も出てくる。そうなると先ほど見逃した飛竜戦艦(リンドヴルム)の方を襲おうとする個体も居るわけだが──。

 

「そうは問屋が卸しませんよ!」

 

 アルはガルラを急旋回させると混成獣(キュマイラ)達を追い抜かし、飛竜戦艦(リンドヴルム)が逃げて行った方向に立ちはだかった。この時のアルには情報共有が為されていないが、いくら『乗り移ったナニカ』が聡明でもここまで足が速いガルラの相手をせずに飛竜戦艦(リンドヴルム)を追いかける真似は出来なかった。

 

 こうしてヘイトを稼ぎながらも避けに徹する、前世のゲームでいう『避けタンク』のような真似でアルは飛竜戦艦(リンドヴルム)黄金の鬣(ゴールドメイン)号がイズモと合流して保護されるまでの時間を稼いでいた。

 ガルラでは太刀打ちできなかったが、無い袖をあるように見せても撃ち落とされるだけだ。そう考えてひたすらに相手の進軍を単騎で阻んでいると、思いのほか援軍が早く駆けつけてくれる。

 

 1匹の混成獣(キュマイラ)炎の槍(カルバリン)よりも出力の高い炎弾が飛来する。生憎、いくら出力が高かろうとその炎弾は青白い触手によってエーテルとなって呆気なく霧散されてしまうが、自分以外の法撃──さらに言えば『見知った法撃』にアルは微笑を浮かべた。

 

「案外、早いですね」

 

「射出機構の賜物ですよ、よくもあんな面白い物を作ってくれましたね!」

 

「男の子ってああいうのが好きなんでしょ?」

 

「はい!」

 

 上空という事で幾分か出力が上がった伝声管越しに、未だ姿が捉えられない存在と雑談を交わしながらアルはその法撃が飛んできた方角へと全力で後退する。数秒後にはすっかり慣れ親しんだ機体とそれにくっつく新型機の姿を捉えたので、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を小まめに動かしながら接近を試みたアルの耳にアディの声が入ってくる。

 

「アル君ー、またイサドラちゃんに叱られても知らないからね」

 

「アディが黙っててくれたら万事OKですよー」

 

「アル、アディ。お喋りはこの辺で終わりましょうか。ひとまず、アルはエーテルリアクタの呼吸器の調整をしてください、あの光の柱はエーテルです」

 

 天を衝くほどではないが、今も発している光の正体。それを聞いたアルは即座にフレメヴィーラ王国での飛空船(レビテートシップ)やトゥエディアーネ開発時期から魔導演算機(マギウスエンジン)に追加された魔力転換炉(エーテルリアクタ)の呼吸器に関する魔法術式(スクリプト)を弄り出す。高度によってエーテル濃度が高まるので、せっかく作り出した魔力転換炉(エーテルリアクタ)の寿命が縮みかねないことを危惧したエルが、手ずから作成した魔力転換炉(エーテルリアクタ)の全てに魔法術式(スクリプト)によって吸入量を調節する機能を追加したのだ。

 ガルラに備わった2つの化け物級の炉にもそれらの機能を組み込まれており、エルの助言で見てみるとやはり『少々ヤンチャ』しているようである。

 

「ありがとうございます。ちょっと"おイタ"していたので、宥めました」

 

「それは結構。それでは対戦よろしくお願いしますってことで、アディ!」

 

「はーい、"カササギ"ちゃん出番だよー」

 

 再び銃装剣(ソーデッドカノン)を構えたイカルガ改め、『マガツイカルガニシキ』。その背部に接続された『シルフィアーネ・カササギ三世(サード)・エンゲージ(以下シルフィアーネ)』の可動式追加装甲(フレキシブルコート)が一斉にもちあがる。

 シルフィアーネの操縦席でアディがイカルガと同じようなキーボードで魔法術式(スクリプト)を奏でると、翼のような形状の装甲が2つに割れ、先端部がそれぞれ独立可動をし出した。飛びやすいように翼や尾羽がせり出した数羽の『鳥』は、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の甲高い音と共に空を掛ける。

 

 これらこそがマガツイカルガニシキに新たに組み込まれた力。名を『機動法撃端末(カササギ)(以下カササギ)』という。

 ただ、カササギがマガツイカルガニシキ本体から伸びる銀線神経(シルバーナーヴ)を介して動いていることに『とある武装』を思い出したアルはケラケラと笑い始めた。

 

「うーわ、ファン●ルだ。この人、ファ●ネル装備してる」

 

「何言ってるんですか。有線だからイン●ムですよ! 新しいタイプじゃないんでね!」

 

「2人とも、なに話してるの?」

 

 よく聞いた武装の単語で盛り上がる2人だが、もちろんアディには何のことだか分かっていない。ただ、共通の話題に華を咲かせる彼らにちょっと疎外感を感じたのか、先ほどの鳥達をより鋭く──より早く動かしていく。

 その様子に気づいたエルは若干申し訳なさそうにアディに声をかけ、改めて銃装剣(ソーデッドカノン)から法撃を加えた。轟炎の槍(ファルコネット)というジャロウデクの重装型幻晶騎士(シルエットナイト)ですら一撃で圧倒する法撃だが、混成獣(キュマイラ)から伸びた青白い触手の前にはやはり効果を見込めなかった。

 

「アディ!」

 

「いっけー、カササギちゃん達!」

 

 アディの声と共に法撃を加えられた混成獣(キュマイラ)にカササギが殺到する。あっという間に包囲された混成獣(キュマイラ)に目掛け、カササギの先端から炎弾が次々と射出。最初こそ青白い触手によって退けていた混成獣(キュマイラ)も徐々に押されていき、カササギの法撃の合間に繰り出された2発目の轟炎の槍(ファルコネット)には全く対応できていなかった。

 

 そんな戦闘内容を大勢の混成獣(キュマイラ)を引き連れながらアルは『なるほど』と独り言ちる。カササギに包囲された際も他の混成獣(キュマイラ)もマガツイカルガニシキに襲い掛かろうとしていたのだが、検証に乱入されてはかなわないとアルが押し止めていた。

 すると、防御能力の検証が済んだのだろう。魔導光通信機(マギスグラフ)で合図したと同時にマガツイカルガニシキは前へと動き出した。

 

「では、いざ……」

 

 検証が済んだ後は実践の時間である。混成獣(キュマイラ)の群れに突撃したエルは手ごろな1匹に目をやる。

 流麗な動きで銃装剣(ソーデッドカノン)を照準した後、挨拶代わりに放たれた轟炎の槍(ファルコネット)が空を焼きながら混成獣(キュマイラ)を包む。──が、それを青白い触手が振るわれることで瞬時に無効化される。

 しかし、その瞬間に横合いからカササギによるいくつもの火線が獲物を捉える。最初こそ順調に無効化で来ていた青白い触手だが、何重にも及ぶ火線にとうとう無効化する許容量を超えてしまったのか沈黙してしまう。

 そのタイミングで銃装剣(ソーデッドカノン)から2発目の轟炎の槍(ファルコネット)が射出され、直撃した混成獣(キュマイラ)を物言わぬ黒炭へと変貌させた。

 

 次なる混成獣(キュマイラ)も同じようにわざと轟炎の槍(ファルコネット)を受けさせたうえでカササギによる防御手段の無効化を講じるが、最後に轟炎の槍(ファルコネット)を撃とうとエルが銃装剣(ソーデッドカノン)を構えさせた時──。

 

「ガン●ムファイトォ!」

 

 素っ頓狂な叫び声と共にガルラが幻晶騎士(シルエットナイト)形態でエントリー。突っ込んできた速度を一切落とさず、あろうことか目の前の混成獣(キュマイラ)を『蹴った』。幻晶騎士(シルエットナイト)は人型ゆえに某騎士団の拳馬鹿のように肉弾戦は出来るのだが、空で……しかも可変機が蹴るとは思ってもみなかったアディは驚きの声を上げ、一方のエルは『ボールは友達ですね!』と嬉し気に叫んだ。

 

 ただ、食らった方はたまったものではない。モロに速度や質量を飛んだ一撃がお見舞いされたらしく、割とフラフラな状態であった。そんな被害者に加害者のアルはそのまま腕部の魔導兵装(シルエットアームズ)を展開し、一方的に法撃を射出。防御手段も無く、身を捩ったり防御を固める余裕もなくなった混成獣(キュマイラ)は瞬く間にボロ雑巾になって落下する。

 

「足癖悪いとロリコンになりますよ」

 

「金色に塗らないから大丈夫」

 

 またしても謎のやり取りをしながらもエルとアルは順調に混成獣(キュマイラ)を墜としていく。しかし、いくらマガツイカルガニシキやガルラの性能が高かろうと魔獣もそれ相応に強力かつ賢かった。根性のある混成獣(キュマイラ)が、あろうことか同胞の死骸を隠れ蓑にして突貫してきたのだ。

 

「このっ……!」

 

 マガツイカルガニシキに肉薄しようとする混成獣(キュマイラ)に向けて飛行形態へと変形したガルラの機首部分から放たれた高出力の法弾が命中するが、それらは青白い触手によって阻まれる。その間にもマガツイカルガニシキにたどり着いた混成獣(キュマイラ)が3つ首全ての口元から魔法を吐き出すが、それらはシルフィアーネに装備された可動式追加装甲(フレキシブルコート)によって防がれる。

 

「囮とは、中々賢いようですね!」

 

 吐き出された魔法の切れ目から青白い触手が飛び出してくるが、まだマガツイカルガニシキには対抗手段があった。──ラーフフィストである。

 イカルガの背面から飛び出した腕がそれぞれ法弾を放つことで混成獣(キュマイラ)の態勢を崩し、そのまま止めとして銃装剣(ソーデッドカノン)からの法撃で魔獣を焼く。炭化した混成獣(キュマイラ)が法撃の勢いに吹き飛ばされた──瞬間、青白い触手がずるりと混成獣(キュマイラ)の身体から抜け降りてマガツイカルガニシキに突っ込んできたのだ。

 

「うぇ? あれって別の魔獣だったんですか!?」

 

 他者と共生する魔獣なんて見たことがないアルが声を上げるが、突っ込んでくる魔獣を前にエルは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を高出力で吹かせることで機体を勢い良く後退させる。その速度に食らいついてくる青白い触手──改め魔獣だが、マガツイカルガニシキに到達する前にまるで壁に勢いよく当たったかのように急に動きを停止した。

 

 謎の挙動にキョトンとしたのも束の間。何かを思いついたらしいエルは不敵に笑ってアディとアルに頭の心配をされる中、マガツイカルガニシキは未だ光り──エルが言うにはエーテルが噴き出している件の島へ進路を取る。

 

「高濃度エーテルです。対策してもあまり近づかないように」

 

「了解」

 

 高濃度のエーテル対策を機体と人に施した3人は、幻像投影機(ホロモニター)越しに見える島の異様な光景に唖然とする。

 全長は軽く見ても飛空船(レビテートシップ)がすっぽり入る範囲。噴き出す勢い的に飛空船(レビテートシップ)船団が数日は行動できそうなエーテルが瞬く間に失われていく。それらを何とかするにはマガツイカルガニシキとガルラだけではどうしようもないというのがここに居る3人の結論であった。

 

「どうする?」

 

「どうするって言われましてもね」

 

「ひとまず帰りましょう。そろそろお客様もいらっしゃいますし」

 

 こんな空の果てのようなところに来るお客人について眉を動かすエルだが、同タイミングでかの島の中央から噴出するエーテルに動きがあった。今も尚吹き上げるエーテルの中心の色合いが七色から僅かに変わったかと思えば、気体の集合体かと思われていた物体が水面のように波打ったのだ。

 

 見たこともない変化にエルはマガツイカツガニシキを後退させつつ、アルにも撤退を促す。その間にも目標はもはや『柱』の形すら危ういほど波打ち、徐々に天辺から解れていく。

 解けていった物はそれぞれ飛空船(レビテートシップ)1隻に匹敵する太さを持った触腕と成り、さらにそこから樹木のように小さな触腕が生えては形を成していく。その姿はまるで羽化を行っている最中の虫のような様子であった。

 

「驚きましたね。まさかエーテルそのものが1つの魔獣なんて」

 

「うわぁ」

 

「なぁにこれぇ」

 

 半ば放心状態で生命に喧嘩を売っているようで『変態』という生命が行う機能に準じた振舞いをする魔獣(仮)を見つめる3人だが、彼らの眼下──数多に存在する触腕の根本にある球体群から幻像投影機(ホロモニター)越しに熱烈な視線を受け取ることで、彼らの天秤は『逃げ』に激しく傾いた。

 

「今の装備では戦うのは無理です! 殿は僕とアディがします!」

 

「とっくに逃げ支度!」

 

 言うが早いか、アルはガルラを飛行形態にすると一目散に逃げだした。背後では魔獣の気配がひたすら大きくなり、脳をゆっくりと撫で回されるような悪寒を彼に与え続ける。

 極限の緊張感が張り詰める操縦席内。だが、アルは手足だけは何時でも動かせるように脱力させるよう頭の中で意識する。これは魔獣と戦う上で大事なことだと騎操士学園で教わる初歩的なことだが、今まで幾度となくこの技術には助けられてきた。

 

 ただ、そんな技術をもってしても未知の魔獣が後ろにいる状態では『極力』という言葉が前に出てきてしまうが、それでも恐怖に呑まれて咄嗟の回避行動が出来ないよりかはマシだろう。

 そう考えていると、突然の突風がガルラとマガツイカルガニシキを襲った。風に流されないように2人が慌てて体勢を立て直している最中、操縦をしていないアディだけがその突風の正体に気が付いた。

 

「ねぇ、この風。大気魔法じゃない?」

 

「魔法現象? ……アル、ちょっと後ろを向きましょう」

 

「えー、怖いんでお先にドロンしたいです」

 

「今見ておかないと初見殺しっていうもっと怖い目に合いますよ」

 

 エルに指摘されたことで非常に嫌そうな顔でアルはガルラを停止させ、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を軽く吹かして慣性によって方向転換する。徐々に例の魔獣の姿を幻像投影機(ホロモニター)は捉えるが、同時に先ほどから吹き付けてくる突風の正体が分かってきた。

 

 ここで一つ講釈をつけよう。

 この世界に数ある魔法はその中でもいくつかの系統に分かれる。単純な破壊力なら火、投射後に演算する必要があるというデメリットを聞かなかったことにした誘導性なら雷と様々な用途で使い分けられるが、その中でも大気というものは単品だと他の系統よりも凶悪性や悪辣性はさておき、攻撃性に乏しいパッとしない系統というのが世間の反応である。

 

 代表例としては風の刃(カマサ)と第2次調査船団にて酸の雲(アシッドクラウド)に対策するために作られた魔導兵装(シルエットアームズ)、『シナツヒコ』であろうか。

前者は中々に使い勝手が悪いゆえに炎の槍(カルバリン)の在庫が無いといった非常事態に渋々使われるもので、後者は風衝弾(エアロダムド)を巨大化した物を投射して酸の雲(アシッドクラウド)を晴らすことは出来てもその威力は轟炎の槍(ファルコネット)はおろか、炎の槍(カルバリン)にも劣るだろう。

 

 そのような平凡な魔法系統だが、他の系統から淘汰されない絶対的な強みがある。それは『周囲を利用する』ことだ。

 火や雷はその系統によって現象が生じる。例えば焚火を元手に火炎弾丸(ファイアトーチ)を演算しても上手くいかないどころか事故の元となる。

 それとは逆に大気系統に至っては大気圧壁(ハイプレッシャーウォール)なり風衝弾(エアロダムド)なり、周囲の大気に働きかけることで魔法が顕現する。

 では、そのことを踏まえて今回のことを振り返ってみよう。

 

 見渡す限りの青空。操るべき大気はそれこそ濡れた手で穀物を掴むぐらいあるだろう。

 それを操る魔力。高度が高いゆえにエーテル濃度は地上以上となり、それに加えてかの魔獣が居るのは源素晶石(エーテライト)が溶けた超高濃度エーテルの中。どうやって魔力としているのかは不明だが、こうして魔法が発動間近なことを見るとお察しである。

 後は触媒となる触媒結晶だが……これも魔法が出来掛けなことからどうにかなっているのであろう。

 

閑話休題(つまりだ)

 

「あばばばば」

 

「エル君。どどどどどーするの!?」

 

 広範囲で操られた大気が一気に上昇気流を発生させる。それに巻き込まれた雲が次々と合体し、いつしか巨大な積乱雲を形成。既に結構な高度のマガツイカルガニシキよりもさらに高くに放り投げられる。

 すると、いつしか真っ白だった雲が墨を落としたように黒くなっていき、すっかり空が黒一色に染まった頃には周囲は雷鳴とバケツをひっくり返したような雨が同居する嵐が出来上がっていた。

 

「天候を変えるなんて……」

 

 やっていることは膨大な魔力による力技。しかし、到底幻晶騎士(シルエットナイト)では賄えない量の魔力で練られた魔法である。

 雨に打たれながらも先ほどの魔法現象について再現できるかエルはひたすら自問自答するが、いくらイカルガの中にある化け物級の炉やシルフィアーネの炉を連結させてもここまで大規模な天候の操作は出来ないだろう。

 

 ならば、後に使いまわしそうな新事象は定義しなければならない。それがプログラマー及びSEの性である。

 人間やアルヴが放つ魔法よりも強力で幻晶騎士(シルエットナイト)巨人族(アストラガリ)のような存在が用いるようなオーバードスペル。それよりも強大かつ、幻晶騎士(シルエットナイト)のような人類の英知の結晶ですらも歯牙にもかけない存在が発する新たなる規模の大魔法。

 

「ハザード・スペルとでも呼びましょうか」

 

「いや、定義とか良いから船団助けに行きますよ」

 

「さんせー!」

 

 まるで神が繰り出したような天変地異を背に受けつつ、エルはキリッとした表情で『天候操作級魔法(ハザード・スペル)』を定義する。──が、即座に他2人に邪魔されたのでちょっとテンションが下がってしまった。




厄介者が2人になってグスタフさんの堪忍袋が心配な今日この頃。
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