銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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156話

 青く広いお空の上を飛ぶ1機の飛行物体。その上には1機の幻晶騎士(シルエットナイト)が膝立ちで乗っていた。

 

「こりゃ良いぜ! うちにも似たようなの作らせっかぁ!」

 

「やるなら運搬用と割り切った方が良いですよ」

 

 飛行物体──飛行形態のガルラの上に載せられたブロークンソードの伝声管からグスターボの機嫌良さげな声が漏れる中、彼らは雲をかき分けつつ飛空船(レビテートシップ)でも航行しないような高度で突き進んでいる。

 何故、アルがブロークンソードのタクシー代わりになっているのか。それは少し前のお茶会まで巻き戻る。

 

***

 

「あの邪魔してきた法撃野郎はおめぇか! 剣同士の戦いに水を差すのは反則だろーが!」

 

「剣を蹴るってありなんです?」

 

「馬鹿野郎、勝っちゃ良いんだよ!」

 

…………

 

「へぇ、ソードマンがねぇ」

 

「戦った時の所感から正式な乗り手ではないと思ってましたが、やはりでしたか。良ければそっちに送りましょうか?」

 

「いんや、俺っちには既にブロークンソードが居るからな。そっちで何とかすりゃ良いっさ」

 

 すっかり意見交換の場となっていたお茶会だったが、それは唐突に終わりを迎える。船倉の伝声管からグスターボを呼ぶ声が響き、彼がそれに応じると伝声管の先から『来ましたぜ』という短い返答が響いた。

 男の返答に一気にやる気のボルテージが上がるグスターボの様子に首を傾げたアルは、茶の片づけを行っていた『パヴァン』と呼ばれた男に声をかけた。

 

「何が来たんですか?」

 

「この状況が餌なんですよ。追いかけっこをするのでは収入源であるエーテライトが減ってしまうので、弱らせた船を助けに来た船ごと叩くのが我々の定石なんで」

 

「そーゆーこった、こいつを動かすぞ! 1個小隊は餌の確保、もし連れ去られても助けに行かねぇぞ! おい、アルフォンスもさっさと準備しなぁ!」

 

 意気揚々とブロークンソードに乗って出撃準備を始めるグスターボに促され、アルもガルラに火を入れ始める。しかし、彼はこのまま飛空船(レビテートシップ)を横づけるのは余りにも危険だと判断し、横で剣を装備しなおしていたブロークンソードに話しかけた。

 

「グスターボさん、この機体の上に乗ります?」

 

「シルエットナイトの上に乗るってどういう……ってオィオィオィィ!」

 

 論より証拠と飛行形態へと変形するガルラ。いきなり訳の分からない変形機能を見せつけられたことにグスターボや他の作業をしていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が驚愕の声を上げる。

 ただ、そんな反応は慣れっことばかりにアルは一旦機外に出ると、圧縮大気推進(エアロスラスト)でガルラの頭部を覆っている追加装備(オプションワークス)の上に取り付いた。

 

「この上に乗ってください。なるべく落とさないようにしますが、心配ならば取っ手を溶接してくださればこちらで何とかします」

 

「ハハッ、おっもしれぇな! 予定変更だ! 俺とアルフォンスが先に出るから後から来な!」

 

「了解です。ナイトスミスは溶接準備を急げ!」

 

 こうしてジャロウデク王国の騎操鍛冶師(ナイトスミス)の手によって幻晶騎士(シルエットナイト)運搬用の取っ手が追加されたガルラの上にブロークンソードが乗り込み、そのまま飛空船(レビテートシップ)の扉をゆっくりと通り抜けることで澄み切った青空へと飛び出した。幻晶騎士(シルエットナイト)という重量物を載せながらも、自前で組んだ高出力な魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の推力で強引に上昇して今に至る。

 

「あれが目標ですか?」

 

「あぁ、思いのほか大物だな。アーマードシップだぜ、ありゃ」

 

 眼下に映るのは重装甲船(アーマードシップ)と呼ばれる大型船。飛翼母船(ウィングキャリアー)よりかは小さいが、それでも装甲が張り巡らされた頑強な船体は生半可な攻撃では沈めることも敵わないだろう。

 ただ、それは飛空船(レビテートシップ)同士でやり合う場合の話。今のグスターボやアルのように幻晶騎士(シルエットナイト)のみの戦力で言えば『乱暴にしても沈まない足場がある』ということに他ならない。

 高度が高度ゆえにグスターボは幻像投影機(ホロモニター)を凝視しながら甲板に載せられたドニカナックの数を数え始めた。

 

「でくの坊が1……2……3の……見えにくいが6か? 取り付いて仕留めるか」

 

「良い目をお持ちで。ならば、攻撃しながら突っ込みますか。ちょうど良いタイミングで降りてもらって構いませんが、落ちた場合の助けは?」

 

「いらねーよ。仮に落ちたらそのまま帰って伝えてくれ、"頭は空から落っこちて死んだ"ってな。あいつらもそれで納得してくれるだろ」

 

 辞世の句じみた物を受け取ったところでアルは勢いよく降下しながら狙いを定める。グングンと高度が下がっていき、ふとした瞬間に錘が外れたようにガルラは一気に速度を増す。おそらく乗っていたブロークンソードが乗り移るためにガルラから飛び降りたのだろうと推測し、アルは不幸な機体──その頭部に向けて法撃を叩きこんだ。

 

 一方その頃、無事に重装甲船(アーマードシップ)の後部にある上部甲板にいた別の機体をクッションに着地したブロークンソードは舳先付近の爆発に口笛を吹きながら『やるじゃねぇか!』と称賛しつつも周囲に目を向ける。

 ブロークンソードの周囲には別の機体がそれぞれ武器を構えて出しているのだが、それが逆にグスターボのやる気スイッチを跳ね上げた。

 

「なんだぁ、お前ら? やる気ねぇやつぁ帰っちまえ!」

 

「あの剣……狂剣だ! 狂剣が出たぞぉ!」

 

 瞬く間に2機を両断したブロークンソードを前に後ずさりを始める機体。既に士気が無いに等しいが、それでも応援を呼ぼうとした1機のドニカナックが舳先に向かう──が。

 

「うひぃぁ!」

 

 舳先の上部甲板に転がっている全ての機体の胴体から頭部が無くなっている惨状。それを幻像投影機(ホロモニター)に納めたことによって機体の騎操士(ナイトランナー)は悲鳴を上げる。

 そんな悲鳴を上げていたからか、彼の背後にこの場を地獄に変えた鬼が姿を現した。

 

「あ、残ってる方がいらっしゃったんですね」

 

 すぐ後ろで声を掛けられる。その声が耳に届いた瞬間、騎操士(ナイトランナー)は機体を前に進ませながら方向転換し、即座に法撃を加えた。

 重装甲船(アーマードシップ)が余波を受けようが関係ない。自身の恐怖を少しでも軽減するためにひたすら法撃を加える騎操士(ナイトランナー)だが、幻像投影機(ホロモニター)に映る所属不明機の行動に両目を限界まで開いて驚きを露にした。

 

 所属不明機はひたすら前に直進していたのだ。法弾の嵐、普通の騎操士(ナイトランナー)ならば回避するために動くのが正常な判断と言える。だが、所属不明機は避けようとせずに直進を続ける。それなのに一向に所属不明機には損傷らしい損傷を受けていなかった。

 まるで所属不明機を避けるように法弾が明後日の方向に逸れていくのだ。妖術の類を疑った騎操士(ナイトランナー)が半狂乱になりながらボタンを押し込み続けるが、それでも法弾は逸れていく。

 

「なん……で。なぜだ! なぜだ! なぜ当たらん!」

 

「スクリプトが杜撰なこと。それに加えてサブアームを構成する関節の締めが甘いですね。強風に煽られてガタついてますよ」

 

 時たま当たりそうになる法弾だけを迎撃していた所属不明機から声がかかると共に、騎操士(ナイトランナー)が見ていた幻像投影機(ホロモニター)が暗転する。突然の現象に彼は恐慌状態になりながら『どうなってるんだ!』と誰に問うているか分からない叫びを上げていると、しばらくしてからメキリともゴキリともいう異音と共に衝撃が走る。

 現状を把握しようと騎操士(ナイトランナー)は慌てて胸部装甲を開く。外の光に目がやられないよう手で遮りつつも周囲を確認すれば、目の前にはどう見ても孤独なる十一(イレブンフラッグス)の所属ではない幻晶騎士(シルエットナイト)が1機佇んでいた。その手にはドニカナックの頭部を首級のごとく掲げており、思わず後ろを向けば自身が乗っていた機体の頭部が無い。

 

「操縦席に戻って大人しくしておいてください。さもなくば……」

 

 途端、警告を発した幻晶騎士(シルエットナイト)はおもむろに頭部を持った手に力を込め出した。強化魔法が途切れた頭部は見る見るうちに小さくなり、やがて圧壊する。そんな光景が指示に従わなかった自分の末路だと脳裏に過ぎった騎操士(ナイトランナー)は、激しく首を上下に振りながら操縦席へと戻っていった。

 

 こうして瞬く間に重装甲船(アーマードシップ)幻晶騎士(シルエットナイト)戦力を無力化させることに成功した所属不明機2機──ブロークンソードとガルラは艦橋に魔導兵装(シルエットアームズ)や剣をつきつけながら武装解除を命じる。幻晶騎士(シルエットナイト)戦力が全て無力化された重装甲船(アーマードシップ)なぞ張り子の虎に等しく、かの船の船長の口から武装解除が言い渡されたことでグスターボの乗っていた『剣角の鞘号』が来る頃には曳航準備が既に整っていた。

 

「助かったぜ。良けりゃ俺のとこに来ないか? 戦場には事欠かないことを約束すっぜ?」

 

「いや、自分クシェペルカの騎士なんで」

 

「んじゃー、しゃあねっか! 次はシルエットナイト同士の斬り合いで我慢することにすっか」

 

 『あぁ言えばこう言う』というべきだろうか。アル個人としては御免被りたいことを矢継ぎ早に言われてしまったのでどうやって断ろうか思案していると、合流した2隻の孤独なる十一(イレブンフラッグス)所属の輸送型飛空船(カーゴシップ)重装甲船(アーマードシップ)に人員移動用の橋を接続。輸送型飛空船(カーゴシップ)から次々とハルピュイアが重装甲船(アーマードシップ)へと移乗していく。

 その一方で輸送型飛空船(カーゴシップ)の後部ハッチが開かれ、中から鷲頭獣(グリフォン)が飛び出しては次々と重装甲船(アーマードシップ)の船倉内へと格納されていき、やがて船倉内がハルピュイアや鷲頭獣(グリフォン)で一杯になったところでグスターボの部下達が輸送型飛空船(カーゴシップ)の中を細かく捜索していった。

 

 しばらくしてからハルピュイア達が残っていないことをグスターボとアルに報告すると、今度は重装甲船(アーマードシップ)に乗っていた船員達を2隻の輸送型飛空船(カーゴシップ)に分譲させる。グスターボやアルにとって、孤独なる十一(イレブンフラッグス)の捕虜をこのまま連れて行っても何の得にもならないからだ。

 

「よぅし、引き上げだ! お前ら、ひとまず拠点へ帰れそうなぐらいのエーテライトは残しといてやった。後はどこへでも行っちまえ」

 

 やる気のなさそうなグスターボの声と共に産出分の源素晶石(エーテライト)で満たされた剣角の鞘号とハルピュイアや鷲頭獣(グリフォン)、機体の残骸で一杯になった重装甲船(アーマードシップ)は空を往く。

 

「なぁ、あのアーマードシップって人居たっけ?」

 

「誰かいるんじゃねぇのか? じゃなきゃ動かせねぇよ」

 

「とりあえず、拠点に戻るぞ。……はぁ、大損だ」

 

 あっという間に征圧されて身包みを剥がされた孤独なる十一(イレブンフラッグス)の面々は、幻晶騎士(シルエットナイト)が1機甲板に乗っただけの重装甲船(アーマードシップ)が動いている様子にどのように反応して良いか分からないような呆けた顔でひたすらその2隻を見つめていた。

 

***

 

 しばらくガルラから伸びた銀線神経(シルバーナーヴ)越しに重装甲船(アーマードシップ)を進ませていたアルだが、剣角の鞘号からの符丁が入る。どうやら先ほど逃がしたやつらの追跡を受けていないと判断したらしく、この先にある浮島で一旦話し合いがしたいそうだ。

 アルがガルラの面覆い(バイザー)を一定の調子で光らせて返答を行った後、すぐ近くの浮島へと飛空船(レビテートシップ)を下ろした2人は再び相対する。

 

「じゃ、改めて話し合うか。お前はあの船と鉄くず。後は船倉のハルピュイア? で良いんだよな?」

 

「あ、後エーテライトも欲しいです。味方と合流しなきゃいけないので」

 

「それぐらいなら良いぜ」

 

 機嫌良さげにグスターボは戦利品と同時にジャロウデク王国の希望の光でもある源素晶石(エーテライト)が詰まった箱を運び出してくるので、アルはハルピュイアや鷲頭獣(グリフォン)の力を借りつつも重装甲船(アーマードシップ)にそれらを積み込んでいく。

 

 彼、彼女達とアルは移動中に伝声管越しでだが大まかな事情を話していた。ハルピュイアの言葉で『自分は群れとはぐれた風切のような者である。成り行き上保護させてもらった』と説明したのは良いが、それでも人間という種族の壁は厚くて最初は信用されていなかった。

 しかし、藁をも掴む勢いで自身が魔王軍の小王(オベロン)と同盟者であると説明すると態度は一変。どうやら幸運にも魔王軍の関係者が多かったらしい。この時ばかりはアルも、『サンキュー、小王(オベロン)。フォーエバー、小王(オベロン)』と仮に相対した状態で言ったら頭の心配をされそうな賛辞を述べた。

 

 そんなことがあり、最終的にアルと保護されたハルピュイアは『魔王軍が翼を寄せているであろうところに寄せてもらう』ということで話が通った。

 

「手伝ってもらって申し訳ないです」

 

「アルフォンスは地の此にしてはこちらの言い回しに寄せてくれている。魔王軍のこともあるし、翼を預けることは出来るさ」

 

「魔王軍を知らない我々のことも心配してもらっているからね。これ以上の贅沢はとても言えないよ」

 

「そう言っていただけると助かります」

 

 言葉を交わしながらの積み込み作業も終わった頃、グスターボは源素晶石(エーテライト)を『届け人』に渡すためにさっさと行ってしまった。『今度は幻晶騎士(シルエットナイト)で戦りあうか!』と言ってくるが、個人的にはノーセンキューなのでガルラで手を振り返す程度に納めたアルは重装甲船(アーマードシップ)にハルピュイアを戻すと点呼をしてから光の柱へ向けて船を走らせた。

 

 初日は何事もなく進むことが出来、夜間飛行は危険という事で別の浮島に一旦着陸した際にアルは『今後見知る機会もあるだろう』とハルピュイアと共に船内を探索し始める。『地の此は派手だな』、『いや、あれはちょっと御免被りたいです』などと悪趣味に装飾された応接室を見ながら感想を言い合ったり、『ちょっと動かしてみましょうか』とハルピュイアに船の操り方を教えたりと充実したコミュニケーションを交わすことが出来た一行は一夜を明かし、次の日もまた光の方へと進路をとった。

 

「自らの翼で飛ばないのは不思議な感覚だな」

 

「何かあればすぐに助けるので、そのまま練習してください」

 

 ただ、本日のフライトはアルが最初から遠隔操舵を行うのではなく、昨夜教えた中で呑み込みが早いハルピュイアに操舵を任せていた。『国を興して源素晶石(エーテライト)の貿易をしてもらう』という小王(オベロン)への言葉を誠とするためにも、ハルピュイアは飛空船(レビテートシップ)を『敵』とするのではなく『便利な乗り物』と見てくれた方が人間的にもありがたいのだ。

 その為にもハルピュイアが多少勉強するだけで動かせるという実績があった方が何かと都合が良いし、なによりアルも操縦に専念しなくて済むので楽だ。

 

「んー、んー、ん? ……止まります!」

 

 そんな思惑を余所に重装甲船(アーマードシップ)はそのまま前進するが、機嫌良さげに周囲を見まわたしていたアルが突如として重装甲船(アーマードシップ)の操作に介入して緊急停止を図る。突然止まったことにハルピュイアや鷲頭獣(グリフォン)が騒ぐが、アルはそれらを宥めつつも重装甲船(アーマードシップ)の左側にガルラの首を向ける。

 

「あの大きさはカーゴシップですね」

 

 クレヤボヤンス込みで出力された映像には1隻の輸送型飛空船(カーゴシップ)とその上部甲板に突っ立っているドニカナックっぽい幻晶騎士(シルエットナイト)の姿。十中八九、孤独なる十一(イレブンフラッグス)が飼っている中小企業の輸送船であると推測した彼はガルラを一旦降りてから外壁を伝って重装甲船(アーマードシップ)の見張り台から中へと侵入する。

 

「アルフォンス、どうした!」

 

「地の此よ、なぜ飛ぶのを止める!」

 

「まーまーまー、ちょっと代表者を集めてください」

 

 ぴーちくぱーちくと喧しい囀りをシャットアウトしつつも、何とか代表者をあの趣味の悪い部屋の中へ集めたアルは偵察した輸送型飛空船(カーゴシップ)の発見を説明する。

 もしかしたら中に捕まったハルピュイアが居るかもしれない。そんな予想を立てたからこその相談だったが、対するハルピュイアは慎重だった。

 

「あの船に乗っている奴らは我々よりも輝く石に興味があった。それのみを収めていてもおかしくなかろう」

 

「だが、我々はあの石が詰め込まれた箱よりも小さい! 小さき羽根ならば、それこそ隙間に押し込めることが出来るぞ!」

 

 やいのやいのと相談が過熱していく勢いに、アルもアルで次の行動について迷っていた。

 ハルピュイアの老人が言うようにあの中には源素晶石(エーテライト)のみが入っていることが大いにあるし、同じくハルピュイアの女性が言うように体格の小さい者を押し込んでいることもある。まさしく『シュレディンガーのハルピュイア』ともいえるべき状況だ。

 本当ならば『ちょっくら行ってくる』というアルの考えの後押しをして欲しかったのだが、このまま取り逃がすのは馬鹿らしいと彼は部屋の出口へと向かう。

 

「とりあえず行って来ます。僕が戻らなければ一直線に寄り道せず、光の柱へ向かってください」

 

「わ、分かった!」

 

 戻らなかった時用に指示を出したアルは、元来た道や伝って来た外壁を経てガルラの操縦席に滑り込む。こちらに気づいていないのか、件の輸送型飛空船(カーゴシップ)は徐々に離れつつあったが手早く機体を立ち上げた彼は上部甲板から力強くガルラを飛び立たせると、飛行形態で一直線に輸送型飛空船(カーゴシップ)へとすっ飛んでいった。

 

 その後は特に面白みもなく制圧出来てしまったので割愛する。ただ、ラスト1機となったドニカナックから放たれる弾幕を回避していくごとにテンションがぶち上がっていったアルが勢いのままに機首によるラムアタックを決め、その攻撃を受けた1機が足を踏み外して真っ青なお空の上へとフライハイ。数秒の浮遊経験を経て襲っていたはずのガルラに助けられるといった非常に貴重な経験をした騎操士(ナイトランナー)が居たことを記しておく。

 

 あっという間に防衛線力が無くなった輸送型飛空船(カーゴシップ)に対し、アルはハルピュイアと鷲頭獣(グリフォン)の解放を望む。すると、女性の言い分が正しかったようで数名のハルピュイアが姿を現した。

 

「隠していると為になりませんよ?」

 

「これ以上は居ねぇ! 本当だ!」

 

「そこの君と君、君達の乗っていたそれぞれの船には他に誰も居なかった?」

 

「うん!」

 

「居ないよ!」

 

 ぶっちゃけ船員の話は信用ならないために子供のハルピュイアに確認したアルはガルラを駐機状態にしてからおもむろに輸送型飛空船(カーゴシップ)に手を突き刺す。突然の奇行に輸送型飛空船(カーゴシップ)の船長が『何をする』と怒るが、何機かのドニカナックを撃ったことで未だ陽炎を残す腕部の魔導兵装(シルエットアームズ)を突きつけながら無理やり黙らせる。

 

「ちょっと船をお借りするだけです」

 

「は? 貴様、いったい何をおぉ!?」

 

 訳の分からない解答に怒り心頭の船長であったが、突如として輸送型飛空船(カーゴシップ)が動き出したことに背後を見やる。そこには輸送型飛空船(カーゴシップ)が拿捕された時から武装解除のために上部甲板に上がってきた船員達が人が一切居ない状態で動き出す自分達の船に叫び声を上げていた。

 

「俺達をどこに連れていくつもりだ!」

 

「僕らのアーマードシップまで連れていきます。この機体の両手では落っことしそうなので」

 

 どうでも良さげに答えながらも速力を上げるアルに向かって『重装甲船(アーマードシップ)とは我が国の!』と叫ぶ船長だが、それ以上の会話は発展しなかった。

 結局、重装甲船(アーマードシップ)と合流したアルはガルラによるピストン輸送でハルピュイアを重装甲船(アーマードシップ)に移乗させ、そのまま輸送型飛空船(カーゴシップ)をリリース。安全のためにガルラで重装甲船(アーマードシップ)を押しながら増速することで完全に輸送型飛空船(カーゴシップ)の索敵範囲から脱したところで2日目の夜となった。

 

「んー、そろそろ魔王軍の誰かが接触してくれても良いんですがねぇ。この辺に詳しい方っていらっしゃいます?」

 

「この辺は飛んだことがあるが、地の此の奴らに村を焼かれたりしてすっかり様変わりしてしまったからな。忌々し……あ、すまない」

 

「良いんですよ。僕は風変わりな地の此ですから」

 

 『ラブ&ピース、ラブ&ピース』とセッテルンド大陸では伝わりそうにない博愛の言葉を投げかけつつ、アルは地図を回転させる。現状のおおよその所在地は把握出来ているため、その気になればこのままイズモ船団が停泊していた場所に半日かけて突撃をかますことは出来る。

 が停泊していた場所に半日かけて突撃をかますことは出来る。

 ただ、長い幽閉生活で疲弊しているハルピュイアにそれほど無茶はさせられないとアルは徐々に焚火を強く、大きくしていく。

 

「お、おい。他の船に見つかるぞ?」

 

「まー、仮に見つかっても臨時報酬か保護対象あざーすなので。……それに」

 

「それに?」

 

 含みを持った笑みを浮かべるアルに、疑問を投げかけたハルピュイアの青年が唾を飲み込む。

 複数の鋼鉄の巨人を一気に倒すほどの戦闘力を有し、ハルピュイアにも友好的に接してくる稀有で賢き存在。どのような意図があるのか分からないが、恐らく戦いを有利に進めるためだと考えた彼はアルに続きを促した。

 

 だが──。

 

「キャンプファイヤーしたいんです」

 

「は? きゃん……ぷ?」

 

「1日目は我慢したんですよ。周囲にほぼ何もない小さな浮島だったので。ただ、ここだと燃料もありますし」

 

 本当に何を言っているのか分からないといった具合の表情を浮かべる若者。その周囲でも聞き耳を立てていた他のハルピュイアも似たような感じの困惑顔であった。

 

 ちなみに、この時のアルは結構はっちゃけていたりする。

 アルや仲間達と離れて何かすることは数あれど、ほとんどは街の中で他の組織に編入という所謂『出張』のようなものだった。

 

 だが、今は違う。

 少々仲間が増え過ぎなのは否めないし、最終的な目標地点は定まっているのだが、一応は『気ままな一人旅の真っ最中』である。旅程や空の情勢的に先を急ぐことはしなければならないが、かといって急ぎ過ぎるのも電車の中で走るような無意味なことゆえにアルは半ば観光気分となっていた。

 

 つまり何が良いたいかというと──大自然のキャンプ感覚である。キャンプというのならばキャンプファイヤーは必要不可欠。感じの良い木の棒やマシュマロ、コーヒなんかもあればご機嫌で完璧な布陣だ。

 再三言うが、この時のアルはすっかりはっちゃけている。いつものIQの7割ほどが蒸発してしまっている『アホの子状態』であることを忘れてはいけない。

 

「大きな火を皆で囲いたいんですよぉ。こんな旅とかしたことないからぁ!」

 

「分かった、分かった。火を大きくすればいいんだな?」

 

 何故か泣き上戸のアルを宥めながら他のハルピュイアに薪を取ってきてもらい、焚火を大きくさせる若者。もはやすっかり保護者である。

 その後もキャンプファイヤーを前にゆったりとしながら重装甲船(アーマードシップ)に残されていた苦い茶を啜っては『癒されるわぁ』と妙に爺臭いことを言ったかと思えば、『あ"ー、帰ったら結婚かぁ。……これがマリッジブルーってやつかぁ』と急にテンション下がったりと忙しないアル。そんな彼に今日助けられたばかりの若者のハルピュイアは助けてくれた理由について問いかけた。

 

「あっちに居る群れもそうだが、なぜ我々を助ける? 地の此のことはよく知らんが、お前は我々とは関係ないだろう」

 

「んー、殴りかかるより仲良くした方が良いじゃないですか。それだけです」

 

「たしかにそうだな」

 

「後、僕は地の此だからハルピュイアのことをあまりよく分からない。だからハルピュイアを知ろうとするのが今回の目的ですかね。その途中で捕まっているあなた達に出会ったわけです」

 

 仲良くするためには共通の話題や共感が大事である。『モテる女のさしすせそ』ほどではないが、相手が大事と思っている感覚をリスペクトすることで相手との距離もグンと近くなることは請け合いだ。

 

 ただし、なんの愛もないコピペで体裁を整えたティラントーと、どこから拾ってきたのか分からないような劣化スクリプトを使っているドニカナックは許さん。もう少し何か奇抜な物を付けろ。ドリルとか、ペンチとか、何かの石に呼応して進化する気概が無ければ容赦なく滅ぼす魔のエネルギーとか。

 それがアルの思いであった。

 

「あと、魔王軍の長がこの浮遊大陸で国を興す気満々なのでエーテライト……あなた達の言う輝く石の売値を融通してもらいたいなーって」

 

「随分と先のことを正直に言うな。まだ決まってないだろう」

 

 どうやら冗談の類と思われたらしい。彼は笑いつつも『そろそろ良い時間だ』ということで集団の中へ戻っていく。

 こうして2日目の夜は静かに過ぎていき、3日目の朝となった。

 

「今日の夕方には拠点に到着するので、その時にあちらの代表と色々話しましょう」

 

「大丈夫なのか? アルフォンス以外は俺達に高圧的とかだったりは……」

 

「魔王軍と同盟関係なので。何かあったら棘を刺すぐらいはしますよ」

 

 不安げなハルピュイア達の意見は最もだが、今日でこの旅も終わるのでアルも意識を仕事の方へと回していく。

 恐らくアルが抜けた後も検証は続けられ、あの光の柱──魔獣への対抗策をエルを主導として行っているだろう。あのデカブツを封印することを考えると数日そこらで完成させるのは至難の業。つまり、アルの手も必要としている可能性が大いにある。

 急がず。されど、本日中に合流できるように本日の操舵はアルが執り行う。道中、光の柱付近の雲が黒くなり始めているのをクレヤボヤンス越しに見ていた彼は、『まだ調査してるのか』と珍しく手際が悪い騎士団長に不思議がりながら重装甲船(アーマードシップ)を増速させて雲を切り裂いていく。

 

 その甲斐あってか、『高速で侵入してくる飛空船(レビテートシップ)』という報を受けて駆け付けた白い塗装のトゥエディアーネと合流することに成功した。突然消息不明となった心配よりも『大きすぎる土産』に対する呆れが勝った彼らの案内により、アルは飛空船(レビテートシップ)鷲頭獣(グリフォン)が飛び回っている拠点の発着場へと着陸を果たす。

 

 そんな彼だが……。

 

「アル! 無事でしたか! さぁ、手伝ってください!」

 

「お前があの変なシルエットナイトの制作者か! 聖域を土足で踏みにじりやがって! キィィィ!」

 

「アァァルフォンスゥゥ! お前はあれかい? 小さいから吹き飛ばされやすいのかい!? 勝手にフラフラとどこかに行ってさぁ!」

 

(おうちにかえりたい)

 

 狂気に満ちた眼差しの変態3人に囲まれ、それぞれが放った魂の叫びに耳を傾けていた。アルの日常が帰ってきたのだ。




原作(WEB版)でグスターボがサブフライトもどきに乗っていたので、下地的なお話

最後の3人の形相については小説版11巻の表紙がぴったりだと思います
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