青く広いお空の上を飛ぶ1機の飛行物体。その上には1機の
「こりゃ良いぜ! うちにも似たようなの作らせっかぁ!」
「やるなら運搬用と割り切った方が良いですよ」
飛行物体──飛行形態のガルラの上に載せられたブロークンソードの伝声管からグスターボの機嫌良さげな声が漏れる中、彼らは雲をかき分けつつ
何故、アルがブロークンソードのタクシー代わりになっているのか。それは少し前のお茶会まで巻き戻る。
***
「あの邪魔してきた法撃野郎はおめぇか! 剣同士の戦いに水を差すのは反則だろーが!」
「剣を蹴るってありなんです?」
「馬鹿野郎、勝っちゃ良いんだよ!」
…………
「へぇ、ソードマンがねぇ」
「戦った時の所感から正式な乗り手ではないと思ってましたが、やはりでしたか。良ければそっちに送りましょうか?」
「いんや、俺っちには既にブロークンソードが居るからな。そっちで何とかすりゃ良いっさ」
すっかり意見交換の場となっていたお茶会だったが、それは唐突に終わりを迎える。船倉の伝声管からグスターボを呼ぶ声が響き、彼がそれに応じると伝声管の先から『来ましたぜ』という短い返答が響いた。
男の返答に一気にやる気のボルテージが上がるグスターボの様子に首を傾げたアルは、茶の片づけを行っていた『パヴァン』と呼ばれた男に声をかけた。
「何が来たんですか?」
「この状況が餌なんですよ。追いかけっこをするのでは収入源であるエーテライトが減ってしまうので、弱らせた船を助けに来た船ごと叩くのが我々の定石なんで」
「そーゆーこった、こいつを動かすぞ! 1個小隊は餌の確保、もし連れ去られても助けに行かねぇぞ! おい、アルフォンスもさっさと準備しなぁ!」
意気揚々とブロークンソードに乗って出撃準備を始めるグスターボに促され、アルもガルラに火を入れ始める。しかし、彼はこのまま
「グスターボさん、この機体の上に乗ります?」
「シルエットナイトの上に乗るってどういう……ってオィオィオィィ!」
論より証拠と飛行形態へと変形するガルラ。いきなり訳の分からない変形機能を見せつけられたことにグスターボや他の作業をしていた
ただ、そんな反応は慣れっことばかりにアルは一旦機外に出ると、
「この上に乗ってください。なるべく落とさないようにしますが、心配ならば取っ手を溶接してくださればこちらで何とかします」
「ハハッ、おっもしれぇな! 予定変更だ! 俺とアルフォンスが先に出るから後から来な!」
「了解です。ナイトスミスは溶接準備を急げ!」
こうしてジャロウデク王国の
「あれが目標ですか?」
「あぁ、思いのほか大物だな。アーマードシップだぜ、ありゃ」
眼下に映るのは
ただ、それは
高度が高度ゆえにグスターボは
「でくの坊が1……2……3の……見えにくいが6か? 取り付いて仕留めるか」
「良い目をお持ちで。ならば、攻撃しながら突っ込みますか。ちょうど良いタイミングで降りてもらって構いませんが、落ちた場合の助けは?」
「いらねーよ。仮に落ちたらそのまま帰って伝えてくれ、"頭は空から落っこちて死んだ"ってな。あいつらもそれで納得してくれるだろ」
辞世の句じみた物を受け取ったところでアルは勢いよく降下しながら狙いを定める。グングンと高度が下がっていき、ふとした瞬間に錘が外れたようにガルラは一気に速度を増す。おそらく乗っていたブロークンソードが乗り移るためにガルラから飛び降りたのだろうと推測し、アルは不幸な機体──その頭部に向けて法撃を叩きこんだ。
一方その頃、無事に
ブロークンソードの周囲には別の機体がそれぞれ武器を構えて出しているのだが、それが逆にグスターボのやる気スイッチを跳ね上げた。
「なんだぁ、お前ら? やる気ねぇやつぁ帰っちまえ!」
「あの剣……狂剣だ! 狂剣が出たぞぉ!」
瞬く間に2機を両断したブロークンソードを前に後ずさりを始める機体。既に士気が無いに等しいが、それでも応援を呼ぼうとした1機のドニカナックが舳先に向かう──が。
「うひぃぁ!」
舳先の上部甲板に転がっている全ての機体の胴体から頭部が無くなっている惨状。それを
そんな悲鳴を上げていたからか、彼の背後にこの場を地獄に変えた鬼が姿を現した。
「あ、残ってる方がいらっしゃったんですね」
すぐ後ろで声を掛けられる。その声が耳に届いた瞬間、
所属不明機はひたすら前に直進していたのだ。法弾の嵐、普通の
まるで所属不明機を避けるように法弾が明後日の方向に逸れていくのだ。妖術の類を疑った
「なん……で。なぜだ! なぜだ! なぜ当たらん!」
「スクリプトが杜撰なこと。それに加えてサブアームを構成する関節の締めが甘いですね。強風に煽られてガタついてますよ」
時たま当たりそうになる法弾だけを迎撃していた所属不明機から声がかかると共に、
現状を把握しようと
「操縦席に戻って大人しくしておいてください。さもなくば……」
途端、警告を発した
こうして瞬く間に
「助かったぜ。良けりゃ俺のとこに来ないか? 戦場には事欠かないことを約束すっぜ?」
「いや、自分クシェペルカの騎士なんで」
「んじゃー、しゃあねっか! 次はシルエットナイト同士の斬り合いで我慢することにすっか」
『あぁ言えばこう言う』というべきだろうか。アル個人としては御免被りたいことを矢継ぎ早に言われてしまったのでどうやって断ろうか思案していると、合流した2隻の
その一方で
しばらくしてからハルピュイア達が残っていないことをグスターボとアルに報告すると、今度は
「よぅし、引き上げだ! お前ら、ひとまず拠点へ帰れそうなぐらいのエーテライトは残しといてやった。後はどこへでも行っちまえ」
やる気のなさそうなグスターボの声と共に産出分の
「なぁ、あのアーマードシップって人居たっけ?」
「誰かいるんじゃねぇのか? じゃなきゃ動かせねぇよ」
「とりあえず、拠点に戻るぞ。……はぁ、大損だ」
あっという間に征圧されて身包みを剥がされた
***
しばらくガルラから伸びた
アルがガルラの
「じゃ、改めて話し合うか。お前はあの船と鉄くず。後は船倉のハルピュイア? で良いんだよな?」
「あ、後エーテライトも欲しいです。味方と合流しなきゃいけないので」
「それぐらいなら良いぜ」
機嫌良さげにグスターボは戦利品と同時にジャロウデク王国の希望の光でもある
彼、彼女達とアルは移動中に伝声管越しでだが大まかな事情を話していた。ハルピュイアの言葉で『自分は群れとはぐれた風切のような者である。成り行き上保護させてもらった』と説明したのは良いが、それでも人間という種族の壁は厚くて最初は信用されていなかった。
しかし、藁をも掴む勢いで自身が魔王軍の
そんなことがあり、最終的にアルと保護されたハルピュイアは『魔王軍が翼を寄せているであろうところに寄せてもらう』ということで話が通った。
「手伝ってもらって申し訳ないです」
「アルフォンスは地の此にしてはこちらの言い回しに寄せてくれている。魔王軍のこともあるし、翼を預けることは出来るさ」
「魔王軍を知らない我々のことも心配してもらっているからね。これ以上の贅沢はとても言えないよ」
「そう言っていただけると助かります」
言葉を交わしながらの積み込み作業も終わった頃、グスターボは
初日は何事もなく進むことが出来、夜間飛行は危険という事で別の浮島に一旦着陸した際にアルは『今後見知る機会もあるだろう』とハルピュイアと共に船内を探索し始める。『地の此は派手だな』、『いや、あれはちょっと御免被りたいです』などと悪趣味に装飾された応接室を見ながら感想を言い合ったり、『ちょっと動かしてみましょうか』とハルピュイアに船の操り方を教えたりと充実したコミュニケーションを交わすことが出来た一行は一夜を明かし、次の日もまた光の方へと進路をとった。
「自らの翼で飛ばないのは不思議な感覚だな」
「何かあればすぐに助けるので、そのまま練習してください」
ただ、本日のフライトはアルが最初から遠隔操舵を行うのではなく、昨夜教えた中で呑み込みが早いハルピュイアに操舵を任せていた。『国を興して
その為にもハルピュイアが多少勉強するだけで動かせるという実績があった方が何かと都合が良いし、なによりアルも操縦に専念しなくて済むので楽だ。
「んー、んー、ん? ……止まります!」
そんな思惑を余所に
「あの大きさはカーゴシップですね」
クレヤボヤンス込みで出力された映像には1隻の
「アルフォンス、どうした!」
「地の此よ、なぜ飛ぶのを止める!」
「まーまーまー、ちょっと代表者を集めてください」
ぴーちくぱーちくと喧しい囀りをシャットアウトしつつも、何とか代表者をあの趣味の悪い部屋の中へ集めたアルは偵察した
もしかしたら中に捕まったハルピュイアが居るかもしれない。そんな予想を立てたからこその相談だったが、対するハルピュイアは慎重だった。
「あの船に乗っている奴らは我々よりも輝く石に興味があった。それのみを収めていてもおかしくなかろう」
「だが、我々はあの石が詰め込まれた箱よりも小さい! 小さき羽根ならば、それこそ隙間に押し込めることが出来るぞ!」
やいのやいのと相談が過熱していく勢いに、アルもアルで次の行動について迷っていた。
ハルピュイアの老人が言うようにあの中には
本当ならば『ちょっくら行ってくる』というアルの考えの後押しをして欲しかったのだが、このまま取り逃がすのは馬鹿らしいと彼は部屋の出口へと向かう。
「とりあえず行って来ます。僕が戻らなければ一直線に寄り道せず、光の柱へ向かってください」
「わ、分かった!」
戻らなかった時用に指示を出したアルは、元来た道や伝って来た外壁を経てガルラの操縦席に滑り込む。こちらに気づいていないのか、件の
その後は特に面白みもなく制圧出来てしまったので割愛する。ただ、ラスト1機となったドニカナックから放たれる弾幕を回避していくごとにテンションがぶち上がっていったアルが勢いのままに機首によるラムアタックを決め、その攻撃を受けた1機が足を踏み外して真っ青なお空の上へとフライハイ。数秒の浮遊経験を経て襲っていたはずのガルラに助けられるといった非常に貴重な経験をした
あっという間に防衛線力が無くなった
「隠していると為になりませんよ?」
「これ以上は居ねぇ! 本当だ!」
「そこの君と君、君達の乗っていたそれぞれの船には他に誰も居なかった?」
「うん!」
「居ないよ!」
ぶっちゃけ船員の話は信用ならないために子供のハルピュイアに確認したアルはガルラを駐機状態にしてからおもむろに
「ちょっと船をお借りするだけです」
「は? 貴様、いったい何をおぉ!?」
訳の分からない解答に怒り心頭の船長であったが、突如として
「俺達をどこに連れていくつもりだ!」
「僕らのアーマードシップまで連れていきます。この機体の両手では落っことしそうなので」
どうでも良さげに答えながらも速力を上げるアルに向かって『
結局、
「んー、そろそろ魔王軍の誰かが接触してくれても良いんですがねぇ。この辺に詳しい方っていらっしゃいます?」
「この辺は飛んだことがあるが、地の此の奴らに村を焼かれたりしてすっかり様変わりしてしまったからな。忌々し……あ、すまない」
「良いんですよ。僕は風変わりな地の此ですから」
『ラブ&ピース、ラブ&ピース』とセッテルンド大陸では伝わりそうにない博愛の言葉を投げかけつつ、アルは地図を回転させる。現状のおおよその所在地は把握出来ているため、その気になればこのままイズモ船団が停泊していた場所に半日かけて突撃をかますことは出来る。
が停泊していた場所に半日かけて突撃をかますことは出来る。
ただ、長い幽閉生活で疲弊しているハルピュイアにそれほど無茶はさせられないとアルは徐々に焚火を強く、大きくしていく。
「お、おい。他の船に見つかるぞ?」
「まー、仮に見つかっても臨時報酬か保護対象あざーすなので。……それに」
「それに?」
含みを持った笑みを浮かべるアルに、疑問を投げかけたハルピュイアの青年が唾を飲み込む。
複数の鋼鉄の巨人を一気に倒すほどの戦闘力を有し、ハルピュイアにも友好的に接してくる稀有で賢き存在。どのような意図があるのか分からないが、恐らく戦いを有利に進めるためだと考えた彼はアルに続きを促した。
だが──。
「キャンプファイヤーしたいんです」
「は? きゃん……ぷ?」
「1日目は我慢したんですよ。周囲にほぼ何もない小さな浮島だったので。ただ、ここだと燃料もありますし」
本当に何を言っているのか分からないといった具合の表情を浮かべる若者。その周囲でも聞き耳を立てていた他のハルピュイアも似たような感じの困惑顔であった。
ちなみに、この時のアルは結構はっちゃけていたりする。
アルや仲間達と離れて何かすることは数あれど、ほとんどは街の中で他の組織に編入という所謂『出張』のようなものだった。
だが、今は違う。
少々仲間が増え過ぎなのは否めないし、最終的な目標地点は定まっているのだが、一応は『気ままな一人旅の真っ最中』である。旅程や空の情勢的に先を急ぐことはしなければならないが、かといって急ぎ過ぎるのも電車の中で走るような無意味なことゆえにアルは半ば観光気分となっていた。
つまり何が良いたいかというと──大自然のキャンプ感覚である。キャンプというのならばキャンプファイヤーは必要不可欠。感じの良い木の棒やマシュマロ、コーヒなんかもあればご機嫌で完璧な布陣だ。
再三言うが、この時のアルはすっかりはっちゃけている。いつものIQの7割ほどが蒸発してしまっている『アホの子状態』であることを忘れてはいけない。
「大きな火を皆で囲いたいんですよぉ。こんな旅とかしたことないからぁ!」
「分かった、分かった。火を大きくすればいいんだな?」
何故か泣き上戸のアルを宥めながら他のハルピュイアに薪を取ってきてもらい、焚火を大きくさせる若者。もはやすっかり保護者である。
その後もキャンプファイヤーを前にゆったりとしながら
「あっちに居る群れもそうだが、なぜ我々を助ける? 地の此のことはよく知らんが、お前は我々とは関係ないだろう」
「んー、殴りかかるより仲良くした方が良いじゃないですか。それだけです」
「たしかにそうだな」
「後、僕は地の此だからハルピュイアのことをあまりよく分からない。だからハルピュイアを知ろうとするのが今回の目的ですかね。その途中で捕まっているあなた達に出会ったわけです」
仲良くするためには共通の話題や共感が大事である。『モテる女のさしすせそ』ほどではないが、相手が大事と思っている感覚をリスペクトすることで相手との距離もグンと近くなることは請け合いだ。
ただし、なんの愛もないコピペで体裁を整えたティラントーと、どこから拾ってきたのか分からないような劣化スクリプトを使っているドニカナックは許さん。もう少し何か奇抜な物を付けろ。ドリルとか、ペンチとか、何かの石に呼応して進化する気概が無ければ容赦なく滅ぼす魔のエネルギーとか。
それがアルの思いであった。
「あと、魔王軍の長がこの浮遊大陸で国を興す気満々なのでエーテライト……あなた達の言う輝く石の売値を融通してもらいたいなーって」
「随分と先のことを正直に言うな。まだ決まってないだろう」
どうやら冗談の類と思われたらしい。彼は笑いつつも『そろそろ良い時間だ』ということで集団の中へ戻っていく。
こうして2日目の夜は静かに過ぎていき、3日目の朝となった。
「今日の夕方には拠点に到着するので、その時にあちらの代表と色々話しましょう」
「大丈夫なのか? アルフォンス以外は俺達に高圧的とかだったりは……」
「魔王軍と同盟関係なので。何かあったら棘を刺すぐらいはしますよ」
不安げなハルピュイア達の意見は最もだが、今日でこの旅も終わるのでアルも意識を仕事の方へと回していく。
恐らくアルが抜けた後も検証は続けられ、あの光の柱──魔獣への対抗策をエルを主導として行っているだろう。あのデカブツを封印することを考えると数日そこらで完成させるのは至難の業。つまり、アルの手も必要としている可能性が大いにある。
急がず。されど、本日中に合流できるように本日の操舵はアルが執り行う。道中、光の柱付近の雲が黒くなり始めているのをクレヤボヤンス越しに見ていた彼は、『まだ調査してるのか』と珍しく手際が悪い騎士団長に不思議がりながら
その甲斐あってか、『高速で侵入してくる
そんな彼だが……。
「アル! 無事でしたか! さぁ、手伝ってください!」
「お前があの変なシルエットナイトの制作者か! 聖域を土足で踏みにじりやがって! キィィィ!」
「アァァルフォンスゥゥ! お前はあれかい? 小さいから吹き飛ばされやすいのかい!? 勝手にフラフラとどこかに行ってさぁ!」
(おうちにかえりたい)
狂気に満ちた眼差しの変態3人に囲まれ、それぞれが放った魂の叫びに耳を傾けていた。アルの日常が帰ってきたのだ。
原作(WEB版)でグスターボがサブフライトもどきに乗っていたので、下地的なお話
最後の3人の形相については小説版11巻の表紙がぴったりだと思います