銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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157話

「現状は?」

 

 まるで混成獣(キュマイラ)のように3人から別々のことを述べられたアルが少々時間をかけ、ようやく捻り出した言葉がそれだった。

 その言葉にまずはガルラの変形機構に興味を持ちつつも、イカルガのように土足で自身の聖域である空を穢したアルに激情していたオラシオは何も言い返さずに身を引く。

 次に突然の失踪で中々円滑なコミュニケーションをとることが難しく、ようやく歯車が回り始めた時にのこのこ帰ってきたアルに対して嫌味の一つでも言ってやろうと突っかかってきた小王(オベロン)は、『説明する義理がないし、面倒くさい』とそっぽを向く。

 

 そんな彼らに改めて『相性最悪のパーティですね』と毒を吐いては両者に睨まれたエルは、咳ばらいをしながら事情を説明し出した。なお、ここまでかかった時間は数十分。明らかな時間の無駄であった。

 

「まず、この天候ですが……藍鷹騎士団に調査は?」

 

「藍鷹騎士団は他のことを調査していただいています。おそらく、あの魔獣が活性化しているかと」

 

「先ほどから地鳴りが酷いですが、それもですか?」

 

「だと思います」

 

 険しい表情のエルからもたらされた情報を整理すると、事態は最悪に向かいつつあった。青く澄み切っていた空は既に黒い雲に彩られ、時折来る地鳴りや浮遊感が嫌でも『落下』という2文字を脳裏に叩きつけてくる。

 

「なので、それを対策するためにこの3人で知恵を出し合いました」

 

「利害が一致しただけだ」

 

「君と知恵を出し合うなんて、反吐が出るがね」

 

 またしても息を合わせようともしない面々に、アルの頭には『呉越同舟』という文字がデカデカと瞬いている。しかし、息を合わせることに対しては最悪の一言だが知識面は最高峰と言っても差し支えのない面々なので、とりあえず文句を飲み込んだアルはその対策に目を向けた。

 

「すみません、このエーテリックアームズというのは?」

 

「文字通り、エーテルを射出する装備です。現在は魔力をエーテルに変えて吹きかける"エーテルスプレー"と、エーテライトを刃にした手槍の"エーテライトスピア"があります」

 

「エーテライトを拳大ぐらいに砕いてスリングで投げた方がマシでは?」

 

「なるほど! そんな手もありますね!」

 

 不明点やそれに付随した雑談を織り交ぜつつ、アルは対策を読み解いていく。

 源素化兵装(エーテリックアームズ)搭載型の飛竜戦艦(リンドヴルム)で高高度に上昇。エーテルを収集の後に源素晶石(エーテライト)への結晶化。魔獣──『魔法生物(マギカクレアトゥラ)』への突撃。雑に切り分けて3つのステップだが、そのどれもが突拍子もないことを次々と言ってくるためにアルは一頻り眉間を解しながらエルに正気を尋ねた。

 

「兄さん、これは本気で?」

 

「はい」

 

「勝算は?」

 

「初めから負け戦と思っていない程度には」

 

「負ければ?」

 

「西方諸国の大半の国が無くなりますね。その後のことは、アルお得意のマイナス思考で考えてください」

 

 淡々と。だが、エルの口から語られる最悪の未来を相槌にアルの決意は鍛錬される。余計な考えが叩かれるたびに追い出され、見る見るうちに決意は頑強な意思へと変貌を遂げた。

 

「やろう」

 

 そう短く告げたアルがすっかり戦闘態勢に入ったことを感じたエルは、『結構』とエムリスなどの総指揮官にこの計画を説明する場に出席して欲しいと伝え、拠点の方へと足を向ける。

 そんな彼を追いかけようとアルが足を踏み出したところで、ハルピュイアのことを忘れていたアルは慌ててその場から去ろうとする小王(オベロン)に声をかける。

 

「あ、オベロン。あなたはどうせ出席しないでしょうから報告です。こっちに戻ってくるまでにイレブンフラッグスの船からハルピュイアを保護してますので、魔王軍で保護してあげてください」

 

「君は本当に空気を読んだ方が良いよ。……けど、感謝はしておくよ」

 

「お互い様でしょ」

 

 そう言い合った後、彼らはそのままこの場から去って行った。

 

***

 

「……なんだこれは。冗談しか書いていないように見えるが?」

 

「全て真剣に考え、全て実現できるギリギリを見据えて書いています」

 

 拠点のとある一室でフリーグデントはエルから手渡された作戦立案書を前に眉間を解す。その行動に妙な既視感を感じたアルであったが、彼はフリーグデントのみならずエムリスや彼らとは少々離れた場所で仁王立ちしている『グスタフ』と紹介してもらった人物に視線を向け続けていた。

 

 エムリスは長年エルの奇行ともいえる行動を見ているからここで強く否定することはないだろうが、パーヴェルツィーク王国にとってこの作戦は無茶に無茶を重ねた現実的ではない内容のオンパレードだ。仮に『敢行する』と言ってしまえば杖を抜かれることも視野に入れ、アルはここに来る前にポケットに隠した触媒結晶を握り込んだ。

 

 すると、アルの想定外の事象が発生する。持ち前の『何だか知らんが、とにかく良し!』な気質で口を挟まないだろうと思っていたエムリスが声を上げたのだ。

 

「エルネスティ、いつの間にエーテライトを作れるようになったんだ?」

 

「それは机上の理論です。実験はこれから行います」

 

「は?」

 

(まぁ、そうなりますよね)

 

 絶句する周囲を前にアルは彼らの反応に同意する。まさかエムリスが気づくとは思っていなかったが、エーテルから源素晶石(エーテライト)への変換は未だ実験すら出来ていない。エル曰く『机上では出来るんです』らしいが、博打なことに変わりはない。

 絶句から立ち直った面々が口々に『エルネスティ = ごり押しの権化』のごとく非難しているが、当の本人はどこ吹く風で作戦内容を伝える。

 

 しかし、どんなに取り繕っても旗艦を対価に伸るか反るかの大博打を執り行うという事実は変わりない。そんな破天荒な作戦──否、作戦というのも烏滸がましい世迷いごとに傍に控えていたグスタフがとうとう吼えた。

 それに呼応するかのように自身の船──パーヴェルツィーク王国に至っては自国の威信にかけて建造した飛竜戦艦(リンドヴルム)を軽々しく特攻させる案にエルを批判する声が強くなる一方で、とうとうアルが動いた。

 

 ポケットの中で握っていた触媒結晶に身体強化の魔法術式(スクリプト)を送り込み、勢いよくその場を踏みつける。『ガツンッ』とも『ドカン』ともいえる幻晶騎士(シルエットナイト)が間近で歩いたような音に周囲が一瞬押し黙る中、アルが良く通る声で全員に語り掛けた。

 

「ではこの島が自国に落ちないことを祈り、その後のバトルロワイヤルで殺し合いますか?」

 

「なに?」

 

「貴殿は……エチェバルリア卿の弟と紹介があったな」

 

「元フレメヴィーラ王国、現クシェペルカ王国の騎士のアルフォンスと申します。先日はそちらの大勢の騎士をお借りしました」

 

 殺し合う。国同士の会合に使用すべきではないほどの暴力的な言葉にグスタフの堪忍袋が限界寸前まで引き延ばされる。そんな一方で、フリーグデントはアルの自己紹介に先だっての颱風招来(コーリング・タイフーン)が直撃した際の被害を抑えた騎士の姿を見据える。

 

 一見若く、それでいて絶賛隣で歯を強く噛むことで己を律しているグスタフよりも男っぽくない見た目。到底、あの嵐の中を器用に飛んではパーヴェルツィーク王国所属の飛空船(レビテートシップ)竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)を救ったとは思えないほどの益荒男とは思えない。それがフリーグデントが一目見た際の感想であった。

 

「本当に貴殿があの嵐の中を?」

 

「エムリス殿下を救助するついでにですね。あの時は我々もどのくらいの手出しが可能な同盟関係なのかは把握できていませんでした」

 

「そうか、世話になった。この場にて申し訳ないが、感謝させてもらう」

 

 どうやら本当に助けてくれたらしいのだと理解したフリーグデントは頭を下げる。一国の王女がそこまでするほどの感謝の意に思わずアルも『ありがたく頂戴します』と騎士の礼を取る。

 そこまでで済めばお互いにとってほっこりした階段で終わるのだろうが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「貴様! 先ほどの言葉の意図を全く説明できていないぞ!」

 

「グスタフ!」

 

 すっかり頭に血が上ってしまったグスタフがアルに詰め寄り、そんな当人にフリーグデントは叫ぶ。だが、天空騎士団(ルフトリッターオルデン)はフリーグデントの剣以前にパーヴェルツィーク王国が保有する空に関係する軍事力の全てで戦いの先触れだ。先ほどの『殺し合い発言』に過剰に反応してしまうのも無理もない話である。

 

「そうですか。では、私が考えたこの島を放置した場合の最悪の最悪。それを語らせてもらっても?」

 

「エムリス。エチェバルリア騎士団長も。彼の話は信じられるのか?」

 

「あぁ、あり得るという話を考える才能ではあいつの右に出る物は中々居ないと思う。以前にその話をしてもらった時はあり得そうでつい手が出てしまった」

 

「うちの騎士団では彼よりも深刻に話を考える人間は居ませんでしたよ。ですから、僕の作戦や案によく対抗策として献策してもらってました。……もう元ですがね」

 

 アルとしてはあんまり褒められて欲しくはない技能だが、どうやらエムリス達はそうでないらしい。そんな彼らの発言にフリーグデントはグスタフを強く睨み付けつつ、改めてアルの考える『ここで逃げた場合の最悪』を説明するよう促す。

 

「承知いたしました。まず、この同盟には魔王軍も入っています。当然ながらこの策には魔王軍の総帥であるオベロンも参加しているため、ここで臆病風に吹かれて撤退したとなれば彼は西方人を本格的に信用しなくなる。ここまでは良いですか?」

 

「ふん、ハルピュイアごときが何匹居ようと──」

 

「彼は魔法に精通した別の種族です。ゆえにナイトランナーの動きを抑制する特殊能力も持ち合わせています。さらに言えばいくら兄さんが弱らせたといっても魔王という特級戦力もあり、彼はこの同盟が無ければそもそも浮遊大陸の西方人を駆逐する派閥の方です。仮にここで逃げだしたら……追ってきますよ?」

 

「だが、それは貴様の感想であろう」

 

 まるでどこかの掲示板開設者のような返しをしてくるグスタフだが、これがアル個人の行き過ぎた思惑だったらどれほど良いことか。

 あの西方人どころか徒人に対する嫌がりようや同盟に対してのかなりの葛藤。そしてなによりエルへの固執も合わさると、『逃げている尻に食らいついて来ない』という確率は限りなく0となる。

 ただ、最後のエルについては説明をすると『こいつを囮にすれば良いじゃん』と言われてしまうため、最期まで一蓮托生を貫せてもらうようあえて説明はしない。アルだって聖人君子ではないのだ。

 

「そこまでか」

 

「はい、そこまでです。んで、犠牲多く撤退しても浮遊大陸の落下が待っています。ぶっちゃけどこに落ちるかも分からないので、ここは運頼みになります」

 

「僕らはフレメヴィーラ王国なんでそのまま帰りますがね」

 

「クシェペルカ王国もフレメヴィーラ王国の友邦国なので、色々避難がはかどりますね」

 

 まるで『そっちは大変ですねぇ』とばかりにケラケラ笑う2人に再びグスタフの怒りが貯まるが、『落ちてこない』という反論が出来るほどの状況ではないことを察して何も言い返してこない。

 確かにこの状況を放り出した場合、浮遊大陸が西方諸国に落ちてくることは必然である。仮にパーヴェルツィーク王国に落ちてきた場合は祖国は間違いなく全滅するだろうし、周辺に落ちてきても余波でどれほどの被害が起こるか分からない。

 

「やはり、この作戦に賭けるしかないのか」

 

「え? まだ言っていないことがありますよ?」

 

 アルの言葉にエル以外の全員が目を丸くする。──そう、ここまでが『序章』である。彼の考える最悪とは、この未曽有の大災害の後に巻き起こる惨劇のことだ。

 大前提だが、浮遊大陸とは巨大な源素晶石(エーテライト)を核とした大地である。そのような物体が西方諸国目掛けて落ちてくるとなると、計算することも億劫になるほどの被害を被るだろう。

 

 ただし、この被害は対極分けて二分化される。即ち、『直撃した国』と『余波で済んだ国』である。

 直撃を食らった国は幻晶騎士(シルエットナイト)戦力や飛空船(レビテートシップ)戦力が軒並み破壊され尽くし、道や街の機能といった経済面が麻痺するだろう。その一方、余波で済んだ国は被害こそあったものの『何か』をする余力が残っている。

 

 さて、ここで大前提を振り返ってもらいたい。浮遊大陸とは、『源素晶石(エーテライト)』を核とした大地。それが安易に輸送が出来る陸上まで降りてきたのである。

 

 ここまで言えば分かるだろう。『スーパー火事場泥棒大戦』の始まりである。

 浮遊大陸の残骸を賭けた奪い合いを行う傍らで、あわよくば他国の領土をちょろまかす。直撃した国はというと防衛の幻晶騎士(シルエットナイト)戦力が捻出できないので、一方的に殴られては領土を奪い取られるばかり。

 もしこれが実際に起こった場合、『醜悪な争い』と未来の歴史家が評しても文句が言えないかもしれない。

 

 そこまでアルが説明したところでようやく頭の理解が追い付いて来たのか、フリーグデントは震え声でアルを呼ぶ。

 

「それは貴殿の言っている"最悪"だろう? 援助を行う国があるだろう」

 

「パーヴェルツィーク王国は援助を行うと?」

 

「む、無論だ。我が国はそのような破廉恥な──」

 

 『国ではない』と言い終わる前にアルの顔が心底馬鹿にしたような表情に変わる。一目見るだけで見た人間の神経を逆撫でするような表情に、ついにグスタフがキレた。

 胸ぐらを掴み、『何を考えている』や『無礼だろう』と口角泡を飛ばすが掴みあげられたアルは少々ムッとしながらも嘲笑の笑みは止めなかった。

 

「グスタフ卿、その辺にしてくれないか。言いたいことは分かるが、俺もこいつと同意見だ。ただ、やってることは気に食わんがな」

 

「ほう、エムリスよ。では聞かせてもらえるか?」

 

「まず、フリーグデントよ。お前、王女が王が決めた軍事行動に口を出せるのか?」

 

 宙吊りにされたアルの頭部をペシペシ叩きながらエムリスは語る。

 フリーグデントはパーヴェルツィーク王国の王女だが、『女王』ではない。つまり、親である王が『是』と言えば素直に従わなければならないのだ。ただ、そこまでになんとか王に事態を説明して方針を変えさせることも可能ではあるが、それでも高序列の王女1人の意見など数で押してしまえばそれまでだ。

 

 恐らく自身が身に置いている境遇の良さから来る発言だったのだろうが、彼女が反省する前にアルの言葉がさらにぶつけられる。

 

「先ほど僕の言ったことを"考えすぎ"みたいなこと言いましたが、ウエスタン・グランドストームに負けたジャロウデク王国を切り取ろうと頑張っている国が一杯ありますよ? そんな状況で我先に国が動かない保証とかあります?」

 

「ほう、誰がそんな情報を言ってたんだ?」

 

「ジャロウデク王国の騎士ですよ。グスターボって人です」

 

「あぁ、狂剣の人ですか!」

 

 噂の仕入れ先のトンチキさに『仲良くなる人間選べ』と怒られる横でエルが声を上げる。どうやら本当に知り合いだったようだ。

 それはともかくとして、絶賛周囲から切り取られ中の国があるのは事実である。価値が高そうな物が降って湧き、自分の国が兵を派遣する余裕を持っていた場合など想像に難くない。

 特に孤独なる十一(イレブンフラッグス)などは即座に動くだろう。なにせ、かの国の実質的な支配者は商人だ。『遠慮』という一銭の価値にも満たない感情は持っていない。

 

「それらの被害にあった国を守れるんですか? 防げるんですか? この船1隻では到底足りませんよ」

 

「この船を知らぬ貴殿に何が分かると?」

 

「分かりますよ。コデルリエ平原に到着するまでかなり遅れていたような船ですよ? それよりも広い西方諸国を1隻で賄えるはずがない」

 

「……貴殿もエチェバルリア卿の騎士団に?」

 

「ご想像の通りかと。当時は銀鳳商騎士団の副団長を拝命しておりました」

 

 竜殺しの一端ということで性能が把握されていることに合点がいったフリーグデント。ここまで来ると、もはや逃げ出す方が大風呂敷を広げなければならないような気がしたため、両手を挙げて降参の意思を示した。

 

「あぁ、もう逃げ出すのは止めだ。貴殿らの考えた作戦に乗ろう」

 

「殿下!?」

 

「おや、ここからもう少し面白い話になるんですが」

 

「止めてくれ。どうせ、我がパーヴェルツィーク王国に落ちた場合のことも考えたんだろう。これ以上は心身共に疲弊したくないゆえ、速やかにその口を閉じて欲しい」

 

 もはやお腹一杯という様子のフリーグデントに。アルは少々つまらなさそうに礼をしながらエルの傍で待機する。草むらから蛇どころか竜が出た騒ぎだったが、何とか作戦決行が可決されることとなった。

 途中、搭乗員の割り振りなどといった内容も話題に出るが、あらかじめ決められていた通りにエルやオラシオが名乗りを上げる。ただ、結論の速さに事前に決めていたことを看破されつつも、他に戦力になりそうな騎士が居ないことを悟ったフリーグデントが項垂れるという一幕はあったが、後に『やるからには徹底的に』と号令が彼女から為される。

 

***

 

 無事に作戦の承認をもらったところで拠点から出たエルとアル。そこにノーラが小走りで近づいてきた。

 

「騎士団長閣下!」

 

「おや、ノーラさん。頼んでいた物の調査は?」

 

「滞りなく完了しました。その件につきまして報告させていただきます」

 

「それって僕も理解できますかね?」

 

 どうやら頼んでいた調査が終わったらしいが、アルとしては作戦の概要を知ったばかりで藍鷹騎士団からもたらされるであろう情報を理解できるか心配だった。その問いにエルも『たしかに』と同意するが、逆に何をアルにしてもらうのが良いのか決めあぐねていた。

 

 そんなところにダーヴィドを伴った銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊が通りがかる。

 

「おう、銀色坊主。クシェペルカへの言い訳を考えてたが、銀色小僧も帰ってきたところでなによりだ」

 

「あれ、親方。作業ですか?」

 

「あぁ、今から殴り込みに行くんだよ」

 

 重機動工房(ドワーヴズフィスト)の親指で飛竜戦艦(リンドヴルム)が収まっている作業場を器用に指し示すダーヴィド。中々に過激なことを言っているが、刻一刻と近づいてくるタイムリミットを前に悠長な話し合いは無駄である。

 そのまま会話を打ち切って再び作業場へと歩き出そうとするダーヴィド一行だったが、エルの呼びかけで立ち止まった。

 

「なんだ? なんか注文か?」

 

「いえ、エーテリックアームズのことなんですがね。シルエットナイトでも使用できるものはやっぱり必要じゃないかなと」

 

 源素化兵装(エーテリックアームズ)は現段階で2種類しかなく、そのどれもが効果はあるものの耐久性や有効射程がないといった改善点がべらぼうにある代物である。今後は魔法生物(マギカクレアトゥラ)に挑むわけなので、当然ながらそれらを相手にするための戦支度が必要不可欠なのだが、そういった武装面の強化を指揮する責任者が今まで不足──有体に言えば手が足りていなかった。

 

「そりゃそうだな。だが、手が足りてないんじゃ……。あぁ、そうか」

 

「なんで無言で人に指差すんですか? せめて何か言ってくださいよ、指をへし折りますよ?」

 

 ただ、そんな現状は騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の隊長であるダーヴィドも分かっているために奇異な視線を向けるが、エルが無言でアルの方に指を指したことで納得する。幻晶騎士(シルエットナイト)ではエルに何歩か劣るだろうが、それらの機体に取り付ける武装に対してはエル以上に場数を踏んだ人間のエントリーである。これで不足と言ったら誰が担当しても不足であろう。

 

「バト坊、銀色小僧についていけ。他に何人か見繕ってからな」

 

「了解。じゃあ、久しぶりに中等部組で集まろうか」

 

「りょうか~い」

 

「ひっさしぶりだなぁ」

 

 バトソンの呼びかけに元ライヒアラ騎操士学園鍛冶科の中等部から卒業して銀鳳騎士団入りした面々が手を上げて彼について行く。

 既に卒業してから何年も経っているため、彼らも立派な青年や乙女となっているがその腕は長く幻晶騎士(シルエットナイト)開発の最前線にいたために国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)騎操鍛冶師(ナイトスミス)達と同程度の腕を持っている。

 

「副団長は相変わらず小っちゃいなぁ」

 

「元でしょー。あ、結婚するんだって? 良いな~」

 

「あー、こいつと一緒に仕事するのも最後かー」

 

「やめ……やめろぉ!」

 

 やけにフランクに接する彼らに大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)以降に補充された騎操鍛冶師(ナイトスミス)達がぎょっとするが、彼らにとってアルは同年代なので『昔馴染みだ』とダーヴィドは飛竜戦艦(リンドヴルム)が安置されている作業場の方に重機動工房(ドワーヴズフィスト)の足を向かわせる。

 

「では、皆。僕は藍鷹騎士団の報告を聞いてくるんで、後で見学に行きます」

 

『うぇ~い』

 

 まるで指示したかのような返事に苦笑しつつもノーラと共にイズモの中に消えていくエル。それを見送ったアル達は、バトソン達の案内で元来た道を戻ってフレメヴィーラ王国が使用している工房の中へと入って行く。

 工房の中は白鷺騎士団や紅隼騎士団が使用している幻晶騎士(シルエットナイト)が各騎士団に配属された騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の手によって整備が為されており、帰ってきたバトソン達に近くの騎操鍛冶師(ナイトスミス)が忘れ物かと問いかける。

 

「いや、俺達は別の作業に入るんだ。エーテライトとかエーテリックアームズの保管場所ってここだよね?」

 

「はい。あっちの区画です」

 

「ありがと」

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)に礼を言いながら教えてもらった区画へと足を進めるバトソン。そんな彼のやり取りにもうすっかり人を使う方の人間なのだと、アルが時の流れを感じ言ったのは内緒である。

 そんな年寄り臭い成人したての異常者の感慨深さはともかく、源素晶石(エーテライト)源素化兵装(エーテリックアームズ)の保管場所にたどり着いた。木製だが非常に頑強そうな扉を前に一同はアルを扉に近づけさせないように指示すると、何度かに渡って幻晶甲冑(シルエットギア)の気密を確認する。

 

「気密ヨシ」

 

「ヨシ」

 

「じゃあ、エーテライトの箱を2箱。エーテリックアームズはそれぞれ2つずつ取り出そう。運び込む先は外……いや、整備の邪魔になるな。アルはそっちの部屋の扉や窓を全開にして、雨が入り込んでもお構いなしで」

 

「了解」

 

 バトソンの指示の下、源素晶石(エーテライト)などが開け放たれた部屋の中に次々と運び込まれる。外は未だに颱風招来(コーリング・タイフーン)の影響で豪雨が降り注いでおり、雨粒が開けた窓から容赦なく入り込んでくるが、ここで窓を閉めたりすると源素晶石(エーテライト)から発せられる高濃度のエーテルが部屋に充満して『エーテル酔い』にかかりかねない。そのため、命と多少の不快感を天秤で計るまでもないと彼らはひたすら物資を運び込む。

 数分後には部屋の中には木箱と幻晶騎士(シルエットナイト)が持つサイズのあれこれが並べられ、その中央で全員がアルの方を向く。

 

「さて、元副団長。どうします?」

 

「ちょっと、俺が一応の隊長だよ?」

 

「ひとまず、エーテライトの再調査からしましょう」

 

「そんな悠長なことしてて良いの?」

 

 アルの言葉に全員が首を傾げる。飛空船(レビテートシップ)やトゥエディアーネを国元で作成する折に源素晶石(エーテライト)の特性は既に調査を終えている。それどころか、目の前の元副団長こそが源素晶石(エーテライト)がエーテルを常時待機中に放出している現象を抑制するために水で一杯にした箱の中に保管するという新しい保管方法を確立させ、リオタムスに意見を通したのはエル伝手でバトソン達も知っている。

 

 これ以上に調査するところなどないのではないだろうと1人の騎操鍛冶師(ナイトスミス)が言うが、アルは源素化兵装(エーテリックアームズ)を指し示しながら説明を始めた。

 

「僕らが調べたのは燃料としての源素晶石(エーテライト)です。武器としてはまだ調べてないでしょ。硬度は? どのくらいの大きさの物がどれくらいの時間で消滅するんです? それらの基準があいまいだと、いざという時に武器が喪失して騎士が命を落としますよ」

 

「あ、そっか。たしかにそれは調べないとまずいな。よし、やるか」

 

「じゃあ、2人ずつで班に分けよう。1班は硬度を調査、2班は欠片の大きさごとに無くなる時間を調べよう。時間を調べる時は水に漬けながら細かくしてね」

 

「僕はバトソンと有用な武器のイメージを固めておきます」

 

 アルが武器の刃先としての源素晶石(エーテライト)の検証を行う必要性を改めて説くと、全員が一斉に箱に積まれた源素晶石(エーテライト)にかじりついて調査を始めた。

 硬度を調べる班はハンマーやら紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻むノミ、幻晶甲冑(シルエットギア)の握力を用いては源素晶石(エーテライト)を相手に硬さを計っては木を平らにして作った木簡に刻んでいく。

 一方で揮発時間の調査を担当している班は、最初から水に沈められている源素晶石(エーテライト)幻晶甲冑(シルエットギア)の握力で無理やり砕いては欠片を机に置いていく者と、その大きさや各かけらが完全になくなる時間を計っては木簡に刻む者という長年の作業で培われたコンビネーションを発揮しながら調査を行っていく。

 

「調査とか言ってたけど、そんなので新しい物とか作れるの?」

 

「一定時間の存在を確約できる大きさなら、原始的ですがスリングという手もあります」

 

 そんな調査風景の横でバトソンとアルが話し合いをしていた。

 外気に触れている間はエーテルを周囲に発し続け、ついには無くなってしまうという不思議物質。ただ、逆を言えば揮発し続けようと問題ないかつ、相手にダメージを与えることが出来る大きさにしてしまえばモーマンタイである。

 

 そうなると打てる手も自然と増えていく。とある事情で『検証したばかり』のスリングもそうだし、いざとなればどこかの島の妙に戦闘能力の高かった量産型の一つ目巨人みたいに岩投げも視野に入る。

 ただ、それだけでは手数が足りない。せめて銃みたいに安易にリロード出来る物はないかと思っていたアルが開け放たれた扉の方に視線を向ける。

 

「あれ、シナツヒコってここで整備されてたんですね」

 

「いや、どこに置くか迷った挙句にここに放置されてるだけだよ。肝心の持ち主が失踪してたから」

 

 何やら言葉の節々で毒を感じるが、アルの視界に彼自身が作り出した大気を圧縮した物を打ち出す魔導兵装(シルエットアームズ)が飛び込んでくる。作りとしては単純だが、いかんせん殺傷能力がない木偶の棒。そんな魔導兵装(シルエットアームズ)を視界に納めつつ、少々考えたアルはバトソンにこう切り出した。

 

「バトソン、こういうの作ってもらえます?」

 

「またガンライクロッド?」

 

 雨に当たらないところで銃杖(ガンライクロッド)っぽい設計図を書いてバトソンに渡すアル。後にこれがきっかけで魔法生物(マギカクレアトゥラ)相手にかなり有用な武器が開発されるのだが、それは後のお話。

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