まずはまともな武器に仕立てることが出来るのかという観点の調査から始まった新機軸の源素化兵装開発。やはりというべきだろうか、障害は大きく、そして多かった。
「質量に見合う硬度は合格レベルですね」
調査を担当した騎操鍛冶師達からもたらされた調査内容をざっと見たが、硬度については鍛え上げた金属よりは脆いが鉱石としては一定の硬度が備わっていることにアル達は一安心する。これならば鉱石としての硬度が保てる大きさを『弾』として用いれば質量ダメージは出るし、その大きさの『剣』を拵えても数合は打ち合うだけの強靭さは確約できるであろう。
だが、それ以外は何というべきか──『ダメダメ』であった。
「やっぱり加工は障害がありすぎるよ」
バトソンの言葉にアルが肩を若干落すことで残念感を表現しながら反応する。
源素晶石最大の特徴である大気に霧散する──『溶ける』と形容した方がしっくりくる特性上、そこら辺の剣のように棚に置いておくと数日後には『刀身が無くなった柄』しか残っていない事象が発生する。おそらくはエルもそんな苦い経験をしたからだろう、まるで打製石器のような源素晶石を無理やりくっつけたような手槍を見ながらアルは再び長考の構えをとった。
絶えずエーテルが噴出する環境で刻一刻と小さくなっていく源素晶石を加工する環境を考えると、当初にアルが考えていた研磨して刀身に仕立て上げた源素晶石の剣を量産するという案は、控えめに言って無理、無茶、無謀のそれであった。
次は溶ける時間である。これはあらかじめ予想はしていたが、人間の片手サイズ程小さい物はそれこそ数分。幻晶甲冑の両手ぐらいであれば数十分は持つことが確認されている。おそらく、幻晶騎士が用いる剣の刀身ほどの大きさであれば1時間か1時間半ぐらいは持つのではなかろうか。どちらにしてもその1本の寿命──言葉を変えれば継続戦闘能力が著しく低いことは避けようのない事実である。
最後は硬度である。
『おいおい、さっき硬度は合格だろ言っただろうが。オタンチン』と言いたいだろうが、『溶けだした状態から計測した硬度』という観点の調査なので安心して欲しい。
源素晶石は先述した通り、大気中に溶ける鉱石だ。ゆえに戦闘中の破損も視野に入れねばならない。
そんな思いから様々な大きさに溶けた源素晶石を壁にぶつけたり、幻晶甲冑の握力で握りつぶしたりしたわけだが、溶け出た質量に比例して硬度も失われていることを再確認した。
つまるところ、剣に仕立てれば常に劣化し続ける剣。弾に仕立てれば常に質量が軽くなる弾が出来上がるわけである。
これまでの検証から総括するならば、源素晶石は武器として見るには大変心もとない素材という事が分かった。
「皆なら何を作りますかね?」
「大きな棒かな。大きな塊を真ん中で割って、ちょっと成形すりゃ出来るし」
「私は単純に石礫ー。砕くだけだから、砕いた端から水の中に入れちゃえば溶ける量も最低限だし」
「石礫ねぇ。それをもうちょっと細かく砕いてその辺の木の棒に固定すれば、シルエットギアでも使えない?」
「大きな塊に棒をくっつけて、ハンマーにするのも悪くないかと。もう加工するって話じゃないですが」
それぞれの案が飛び交う中、質問したにも関わらず当人は案を聞きつつもバトソンから渡された銃杖を受け取る。
ただ、この銃杖。エルやアルが持っていたような銃型の杖ではなく、『銃口』存在する正真正銘の銃のような構造が加えられていた。その銃口の中に先ほど検証で砕いていた源素晶石の欠片を流し込んだアルは、斜線上の騎操鍛冶師に壁から退くように声をかけてから狙いを付ける。
「バトソン、シルバーナーヴ」
「はいよ」
片方を魔力が充填した板状結晶筋肉に繋いだ銀線神経をバトソンから手渡され、銃杖に取り付けられた器具に挟み込んだアルは周囲の確認を再度行ってから引き金を引く。直後、引き金と連動した器具が銀板を叩くことで銀線神経の魔力が魔法術式へと送り込まれ、銃口から『ポンッ』という軽そうな音と共にいくつもの源素晶石の欠片が凄まじい勢いで飛んで行った。
「ふぉ!?」
「副団長、なにやってんすか!」
「いや、エアロダムドを利用して欠片を飛ばしただけですよ? 石礫の案も出てきましたし、僕の案はこんなのって伝えたかっただけです」
壁に当たって粉々になった源素晶石と多少削れた壁。そして先ほどそれらが発射された銃杖をそれぞれ見つつ、騎操鍛冶師達は唖然とする。風衝弾という魔法を攻撃ではなく、推進力に変える発想は騎士団長であるエルを含めた『エチェバルリア』の常套手段だが、まさか石礫にまで使用するとは思わなかったからだ。
なお、今回のアルが使用した仕組みは『ラッパ銃』。ブランダーバスとも呼ばれるこの銃はラッパのように広がった銃口を持っているのが特徴の先込め式の散弾銃で、最初こそは鉄くずや木片といったそこら辺にある物を弾丸として飛ばしていた。ただ、それでは銃口が傷ついてしまうために鉛玉が使われ、そこからさらに時代が発展することで短銃身の小銃に取って代わられた武器である。
今回は法撃が利かない魔法生物にメタを貼ろうということで『源素晶石をぶつけるんだよ!』とばかりに発案したが、もはや小指の先ほどしかなかった源素晶石の欠片をいくつも銃口に詰め込んで飛ばすだけという簡素な運用方式にしては思いのほか威力が高く、彼らも『これはイケるんじゃね?』という空気が出てきた。
「風魔法で飛ばすのは他に応用できそうね。さっき言ったとおり、シルエットギアでも戦えるんじゃないかしら」
「シルエットギアで使用するエーテリックアームズね。あたしはそっちの方に興味あるかな」
「でも、大目標はあの魔法生物だろ? やっぱりシルエットナイトが使うような大火力はいるんじゃね?」
「なら、ちょっと作ってみるか」
「では、再び班を再編。連絡と情報の共有は密にお願いします」
流石は銀鳳騎士団で色々な経験を経て『エチェバルリア化』した精鋭達。自然とアイデアを出し合いながら自らで班を分けていく。
こうなってしまえば後は具体的な報連相の導線を敷いてあげれば勝手に考えて動いてくれるし、問題があれば即座にこちらにエスカレーションを行ってくれる。つくづく出来過ぎた元部下達だと安堵しながら、アルはラッパ銃型の源素化兵装を煮詰める方針でバトソンと話し合い始めた。
***
こうして魔法生物に対抗する策という建前でパーヴェルツィーク王国の要所に少しずつ銀鳳の羽根が入り込み、各々が好き勝手に振舞うこと幾ばくかの時間が経過する。その間にも件の魔法生物の動きがますます活発化してきていき、あろうことか魔法生物付きの原生魔獣を拠点に差し向けたのだ。
その魔獣はパーヴェルツィーク王国の防衛部隊や白鷺騎士団によって撃退されることとなったが、すぐまた別の個体がやってくることもあるためにフレメヴィーラ王国出身の者は騎士、騎操鍛冶師問わず幻晶甲冑着用の命がエルから発せられることとなった。
「まずは前段作戦の開始ですね」
ようやく出発した紅隼騎士団の飛空船を見つめながらエルは独り言ちる。
ノーラから作戦に使う巨大源素晶石塊の運搬任務を偶然立ち聞きしていたディートリヒが請け負ったまでは良かったのだが、トゥエディアーネの整備を優先していたこともあってツェンドリンブルやとある装備についてはクシェペルカ王国を発ってから整備を行っていないことが準備段階で発覚したのだ。
出発時にアルも言っていたが、浮遊大陸でツェンドリンブルなぞ無用の長物。ゆえに整備をしないままなのは仕方がないのだが、出番が出来てしまったのならば整備をしなければならない。
そのため、エドガーとディートリヒとヘルヴィという昔馴染みが集まって両騎士団の内で腕っこきを選出。魔法生物の脅威に耐えながらも整備を終わらせ、本日ようやく出立準備が整ったのである。
「しかし、そろそろ決着を付けねばなりませんね」
既に暗雲が立ち込め、暴風雨が吹き込む情景はすっかり慣れたもんだとエルは振り返って拠点を見やる。
地面の所々に付けられた激戦を思わせる傷跡や、道行く人々の表情からは嫌でも魔法生物付きの魔獣の襲来は着実に騎士達の体力や気力が削がれていることを臭わせてくる。
しかし、今までの襲撃は散発かつ単体の襲撃なのは幸運であったと思うしかない。ただ、次の襲撃も同じものと断じて対策をしないのは危険であるということはエルも重々承知している。
その為、源素化兵装の作業進捗を聞くべくエルはアルやバトソンが先日赴いていた工房。その後ろに急遽建てられた射撃場のような広い空間に足を踏み入れた。
軽く均しただけの広場の奥には魔導飛槍投射する軌条腕の他に様々な改修を施したことを伺えるカルディトーレが1機。そして、その周囲には作業用として普及しているモートリフトや降下甲冑を装着したかなりの数の人間がそれぞれ作業を行っていた。
「また暇そうな人を拉致りましたね」
「あ、兄さん。いえ、ちゃんと配置転換の書類はアディに渡してますよ。親方にも許可は取ってますし」
「うん、"こっちや他の騎士団の手伝いよりもエーテリックアームズのが大事だ"って言ってたよ」
人だかりの中心にいたアルとバトソンに近づいたエルは、もはや人間戦力の小隊規模にまで膨れ上がっている人数を見ながら文句とも言えない棘を呟くが、2人は『何で知らないの?』と無自覚のカウンターを食らわせる。
銀鳳騎士団の配置についてはエルやアルに一任されていたのだが、アルが銀鳳騎士団から抜けた際にエルは人事権をアディやダーヴィドにも割り振るという改革を行っている。
だが、それを決定してからすぐに浮遊大陸への出張。そして魔法生物に対する大掛かりな作戦の準備。端的に言うと書類の状態も確認できないほどの多忙な環境に身を置いている状態であった。
「アル、たまにはこっちに戻ってきても良いんですよ?」
失ってみて──否、今まで重宝していたのを奪われて初めて分かる不便さを噛み締めつつも、エルは源素化兵装開発の進捗を聞き出そうと口を開ける──が。
『敵襲! 敵襲! 拠点の中央付近にマンティコーラ!』
幻魔獣。魔法生物の持つエーテル体によって混成獣の下半身と幻晶騎士の上半身が結合された、本来ならば生物として定義するのも烏滸がましい個体の総称である。魔法生物付きということもあってか、生物として本来有するべき自身の肉体に対してのリミッターを超えた攻撃能力と法撃に対しての防御能力を有しており、難易度で言えば決闘級以上だと呼ぶ声も多い存在だ。
「ぶっつけ本番ですが、迎撃態勢を敷きます! フロイド君はカルディトーレに、他は手筈通り4班に分かれて現場に!」
そんな魔獣の出現を告げる拡声器にも慌てずに、アルは幻晶甲冑に搭乗した1個小隊に声をかけた。その指示を合図にそれぞれは幻晶甲冑の留め具がしっかり止められていることを確認。やがて確認が終わった班からそれぞれ予め決められていたのであろう装備を手にし出す。
まずはミシリエの攻防戦でも使用されていた連射型の魔導兵装を2丁と弾倉代わりの板状結晶筋肉をしこたま抱えた班員が『お先に』と言いつつも、全速力で現場に向かって走り出した。
それに続く形で工具を用いて幻晶甲冑の肩部に魔導飛槍を投射する際に使用する軌条腕をサイズダウンさせた物を取り付けた班が、工房からエーテリックスピアを少々小さくした物を複数本持ちだしながら出発する。
「居残りなし。銃よし。弾よし。行くか」
「ちょ、アル!」
最後に色々点検したアルが装備を抱えながらエルの言葉も聞かずに走り出し、とうとう広場にはエルとカルディトーレだけが残った。
「えっと……」
「閣下、乗っていきます?」
組織だった動きのまとめ方と異常事態を前にした際の集中力に相変わらずだと舌を巻くエルだが、『どうやって追いかけよう』と思案をしていると上から声がかかる。フロイドだ。
未だ魔力が貯まっていないのか、駐機状態のままで留まっているためにエルはその申し出を快く受け取ると操縦席に飛び込んでから操縦の邪魔をしないように後ろの隙間へと潜り込む。
目の前では忙しなく出撃準備を整えているフロイドの姿があるが、エルとしてはカルディトーレの操縦席に見慣れないボタンがいくつかあることが気になっていた。
そう思えば様々な武装と思われるものが取り付けられていたことを思い出したエルは現状が予断を許さない状況なのは重々承知しているのだが、ついつい知的好奇心が勝ってしまう。
「カルディトーレに何を付けてるんですか?」
「新型のエーテリックアームズとエーテリックスピアを飛ばすレールアームですね。魔獣を相手にしたことはありませんが、ある程度はやれるかと」
ただ、流石はアルから色々無理難題や無茶ぶりを言われ続けた右腕ともあってか、フロイドは機体を立ち上がらせてゆっくり歩かせながら『新型はこんなのですよ』と器用にカルディトーレの両手に装備された追加装備や装備を幻像投影機に映す。
右腕の前腕部には長細い箱のような物が接続されており、手首側からは虹色に光る杭の先端が顔を覗かせている。
一方、左手にはアルが作った魔導兵装のシナツヒコが握られていた。ただ、銃口の部分がラッパのように広がっており、そのことから現地改修をしたのだろうと推測できるが、それ以外は目立った改修点が見当たらないことに自分の弟の『癖』を知っているエルは首を傾げた。
「あれ、このぐらいですか? あの子のことだからもっと盛り盛りにすると思ってたのに」
「時間がありませんからね」
何はともあれ時間が足りない。クリエイターにとって納得するしかない魔法の言葉に押し黙ったエルを横目に、フロイドはようやく現場へと到着する。
現場では幻魔獣とパーヴェルツィーク王国や白鷺騎士団のカルディトーレが暴れまわっている状況だが、それらに混ざって幻晶甲冑部隊が幻晶騎士が戦っているやや後方から幻魔獣に攻撃を加えていた。
「シルエットアームズ班! クリスタルプレートを交換しろ!」
「補給班! 空のクリスタルプレートは待機中の機体から魔力を奪って来い!」
銃身に取り付けられた三脚によって固定された幻晶甲冑が持てるサイズの魔導兵装からは天から降り注ぐ豪雨にも負けないほどの法弾を吐き出すと、幻魔獣は動きを止めて混成獣の下半身と幻晶騎士の上半身を繋ぐ青白い触手によって迎撃していく。
そこに幻晶騎士からの法撃も混ざり、息を途切れさせぬ猛攻にいよいよ幻魔獣は動きを止めた。
「マンティコーラ、動きが止まりました!」
法撃の勢いを止めぬまま1人の騎操鍛冶師が叫ぶと、アルを含めた数人の幻晶甲冑が法撃の間を縫いながら前進を開始する。アルの手にはフロイドが乗っていたカルディトーレの手に握られた改造型シナツヒコを小さくした銃杖が握られており、彼と追随していた幻晶甲冑達は幻魔獣の目と鼻の先まで進むと匍匐状態でそれぞれ持ってきた装備を構え始める。
「バトッさーん! 先に撃ちます!」
「りょうかーい!」
子供の拳大ぐらいの源素晶石の欠片がぎっちり詰め込まれた瓶を銃杖の膨らんだ銃口部分に詰め込んだアルが狙いを幻魔獣の生身部分である下半身に付け、周囲の攻撃準備が完了していることを確認してから引き金を引く。
幻晶騎士の胸部装甲が開いた時のような圧縮空気が抜ける音を何倍にもした騒々しい単音がアルの周囲で鳴ったかと思えば、銃口から先ほど詰め込んだ瓶が勢いよく幻魔獣に向けて射出される。推進力に戦術級魔法級の風衝弾を使用したためか、瓶が割れて中身ごとガラスが前方に飛散するがアルは特段慌てることなく『ここまでは練習通り』と笑みを浮かべる。
アルがそう考えている間にも、中身の源素晶石ごとガラスの破片が幻魔獣の生体部分である下半身に到達する。しかし、人間よりもちょっと大きいだけの幻晶甲冑が扱う瓶の大きさなどたかが知れているために大したダメージにはなっておらず、魔獣側も音に気づいて上半身代わりに憑りついた幻晶騎士の面覆いにアルや他の幻晶甲冑の部隊を納めた。
「バトッさん! 今だ!」
「レールアーム用意、奴の下半身へ!」
圧縮大気推進を用いて一気に前線から身を引いたアルの合図に呼応し、バトソン達は幻晶甲冑の肩部に増設された軌条腕を目標である幻魔獣の下半身に向ける。既に工房から持ってきた小さなエーテリックスピアの軌条腕が装填されており、徐々にその刃先から揮発防止の覆いが取り去られていく様子を確認したバトソンはカウントダウンの後に射出を命じた。
すると、今度は魔導飛槍のように炎の尾を引きながら源素化兵装が飛翔する。──が、それらの後ろには魔導飛槍の誘導や魔力を流す役割の銀線神経が接続されていなかった。
魔力が失ったことで魔法現象が失われ、エーテリックスピアが弧を描くように落ちていくがその先には幻魔獣の下半身があった。
だが、いくら自然の理から外れた出で立ちをしていようとも魔獣。幻晶騎士部分と混成獣部分を接合していた魔法生物は法撃の嵐の中で何とか身をよじろうとするが、傍目から見てその動きが遅かった。
その理由は幻魔獣の下半身にあった。未だ肉特有の赤々とした断面に源素晶石の欠片が埋め込まれており、それらが絶えずエーテルを吐き出し続けていたのだ。そのエーテルが僅かに魔法生物の動きを邪魔し、そうしている間にも──。
「よし、命中! 皆、下がれ下がれ!」
数本のエーテリックスピア(小)が幻魔獣の下半身に突き刺さる。惜しくも外した物もあったが、そんな戦果を一切見ずにバトソンが必死で撤退を叫びながら後退していく。そんな彼らと入れ替わる形でやってきたのがフロイドのカルディトーレであった。
「まずはエーテリックスピア射出!」
走りながらも背部の軌条腕を前方へ展開したカルディトーレはそのまま装填されたエーテリックスピアを射出。エーテリックスピアは先ほどの幻晶甲冑から放たれたものと同様に炎の尾を引き連れながら銀線神経もなく少しの距離を飛翔した後、放物線を描いて片方は幻魔獣の上半身を強かに叩き、もう片方は下半身の胴体部分に突き刺さる。
痛覚がないのだろうか。かなり大ぶりの槍が命中したことに何のアクションも起こさなかった幻魔獣だが、突如として機械と生物を繋ぎ合わせていた魔法生物の動きが一気に鈍化し始めた。
「操縦席内の対エーテル装備起動。突っ込みます!」
フロイドの流し込んだ魔法術式によってカルディトーレの操縦席に開けられていた小さな覗き窓など、外気が入ってくる恐れのある隙間の全てが一気に閉じられる。それと同時に小規模な風防が展開され、機体の周囲に大気の層が形成された。
この処置の直後、カルディトーレは先ほどから様々な源素化兵装をぶっ放したことで高濃度のエーテルが貯まった地帯に踏み込む。簡易ながらも装備を施していなければエーテル酔いからの緩やかな死亡は避けられぬ危険極まりない環境だが、魔法生物もただでは済まなかった。
「下半身は諦めたようですね」
「えぇ、残るはシルエットナイトの部分から追い出すのみかと」
エルとフロイドが見ていた幻像投影機には青白い触手を辛うじて胸部装甲の隙間から揺らめかせる幻晶騎士の胴体部分のみが映っていた。既に下半身として使用していた混成獣の下半身には魔法生物が乗り移った時特有の反応はどこにも見当たらず、幻晶騎士もこちらに手を伸ばしながら恨めしそうに面覆いを向けている。
そんなどこか物憂げな反応を見せる幻魔獣のなれの果てだが、一気に潰さねば別の物に憑りついて被害が大きくなるためにフロイドは改造したシナツヒコを構えた。
「怯ませます!」
引き金を引くと再び単発の高音が周囲に発せられた後、今度は小さな樽が銃口から飛び出した瞬間に弾け飛ぶ。木片や中に入っていた水と共にまたしても源素晶石がエーテルをまき散らしながら幻晶騎士の頭部に命中、その勢いで頭部の破壊に成功する。
一時的に怯ませることに成功したフロイドはカルディトーレを進ませながら左手に握っていたシナツヒコを投げ捨て、今度は右手を振り被りながら一気に速度を上げる。
青白い触手が健在ならば即座に乗り移られそうな超接近戦。しかし、これまで放った全てのエーテリックアームズから発せられるエーテルと言う名のバリアによって魔法生物は金縛り状態となっている。
「ま、まさか。それは」
「元副団長が言うにはエーテリックバンカーというそうです」
驚くエルの声に冷静な言葉を返したフロイドがボタンを押し込むと、振りかぶった左手が幻晶騎士の胴体を叩くと同時に前腕部に取り付けられた追加装備が火を噴いた。爆炎魔法による咆哮を轟かせ、反作用によって源素晶石で出来た杭が一気に飛び出したかと思えば幻晶騎士の横っ腹部分を強打。その勢いのまま、操縦席と思われるところを一気に刺し貫く。
「撃破確認。後退します」
そのまま打ち込んだ杭を追加装備から『取り外し』たカルディトーレは、前方を警戒しながら後ろ歩きで距離を取る。前方では既に魔法生物は消滅しているのだろう、魔獣が構成していた混成獣部分や幻晶騎士部分からは青白い反応はすべて喪失。物言わぬ躯と残骸に代わっていた。
「すみません。助ける余裕がありませんでした」
「いや、あんな状態で生きているとは思えませんからね。良い手際です」
そんな後退の最中、『操縦席』という騎士にとって馴染み深く、生きていたらワンチャンスあり得る場所を潰したことでフロイドが誰に言っているのか分からない謝罪を零すが、エルとしてはあんな魔法生物が憑りついている状態で『無事なことなどありえない』と彼の手際の良さを褒めていた。
こうして1匹──匹と呼んでいいのかは後の学者に任せるが、幻魔獣を始末したアル達は一旦エルをイズモまで送り届けた後に銀鳳騎士団が拠点を防衛するために打って出ていることを聞くと武装の再装填などを済ませてから再度出撃をする。
本来であれば騎操鍛冶師や幻晶騎士に乗っていない騎士が魔獣と幻晶騎士が切った張ったをしている前線に行くのは危険極まりない行為だが、こういった少数の組織だった兵の運用もまた自分には持っていないアルの強みだとエルは許可を出す。
「じゃ、行って来ます」
「アルー、方針はどうする?」
「森の中から援護一択でしょ。相手の邪魔をするだけして、ヤバけりゃ逃げて止めはシルエットナイトに任せる感じで」
「元副団長はほんと好きっすねー。その戦法」
「ロボットの戦闘に人間が邪魔をするのが一番いけないと思うんですよね。やっぱ、花形はロボットで僕たちはそのオマケ。でも、やる時はやるみたいなのが格好良いんじゃないですか」
謎の力説をしながら今後の方針をさっと決めたアル達がイズモを離れていく。バトソンを含めた小隊の騎士や騎操鍛冶師が『まーたはじまったよ』とばかりに彼を追いかけるが、その会話を聞いていたエルだけは頭の中で『すっごい分かる!』と万感の思いを込めて同意していたのは秘密である。
***
一方その頃。拠点の指揮所ではエムリスとフリーグデントが揃い踏みで、どう反応して良いのか分からないような微妙な表情をしながら先ほどまで幻魔獣との激闘が繰り広げられていた場所を見ていた。
「エムリス。あやつらは騎士なのか? お前達の国はあんなので魔獣と相対しているのか?」
「騎士なのも混じっているが、かなりの数が鍛冶師の奴だな。それと心配せずともああいったのはうちの国のほんの一部だ。鍛冶師についてはお前達の国と一緒の認識だと思うぞ」
暗に『あいつらがおかしい』と言うエムリスだが、フリーグデントはそれでも安心できなかった。あの妙な鎧の異質さもあるが、たった数十人と幻晶騎士1機の援護が到着した途端に今まで攻めあぐねていた魔獣との戦闘がスムーズに片付いた事実。これがもし対人間──『戦争』における防衛戦や制圧戦の一幕であった場合、アルの手管は驚異の一言に尽きる。
なにせ幻晶騎士の乗り手にあぶれた騎士はともかくとして、本来は非戦闘員である騎操鍛冶師も幻晶騎士に打撃を与える兵として活躍出来てしまうのだ。これ以上の悪夢はない。
「エムリス、あのアルフォンスという者はかなり兵の動きを統率しているように見えたが……。そういったことは得意なのか?」
「得意かは分からん。ただ、ああいった兵や罠、その他口先など諸々を用いてシルエットナイトの大隊を足止めさせたことはあるな」
『全員の助けを借りてだがな。いやー、ほんと惜しい人間を引き抜かれたものだ』と付け加えながら快活に笑うエムリスであったが、フリーグデントは聞いていなかった。
どうやらとんでもない人間がクシェペルカ王国に渡ったかもしれない。彼女はそんな思いで未だに爆音轟く遠くの戦場を見つめていた。