銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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159話

 強襲してきた幻魔獣(マンティコーラ)を退けた白鷺騎士団とパーヴェルツィーク王国の防衛部隊が拠点へと帰ってくる。そのどれもかなりの数の傷がつけられており、中には胸部装甲近くに深い傷がつけられていた機体も散見される。

 だが、全員無事に帰還出来ていることに白鷺騎士団の団長を務めるエドガーはほっと胸を撫で下ろしていた。

 そんな時、エドガーの背後で幻晶甲冑(シルエットギア)の集団が工房に入ってくる。肩や手には源素化兵装(エーテリックアームズ)軌条腕(レールアーム)魔導兵装(シルエットアームズ)と思われる物体を装備した物々しい集団の先頭に居た幻晶甲冑(シルエットギア)は、音に気付いた彼が振り返ってくると同時にフレンドリーに手を振りながら話しかけてきた。

 

「いやー、危なかったですねー」

 

「アルフォンス。シルエットギアで援護するのは助かるが、せめて場所を選んでくれないか?」

 

「僕としても場所は気を使ったんですよ? でも、色々助かったと思いますが?」

 

 そう切り返されるとエドガーはちょっと反応に困ってしまう。

 彼がそんな反応を示す原因。それは先ほどの拠点を直に襲撃してきた幻魔獣(マンティコーラ)を倒した時まで巻き戻る。

 

 拠点にやってきた1匹を討伐したアルを含めた幻晶甲冑(シルエットギア)の部隊はそのまま拠点の外に来襲した敵の迎撃に向かっていた。その際に騎士団やパーヴェルツィーク王国所属の防衛隊と合流したわけだが、本来は幻晶騎士(シルエットナイト)が大立ち回りに興じている場所で幻晶甲冑(シルエットギア)の援護など余計なお世話に等しい行為である。

 しかし、エドガーは彼らの参戦を認めた。それもこれも、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)の最終局面ともいえるデルヴァンクールの戦いにて幻晶甲冑(シルエットギア)が攪乱と妨害に徹し、止めを幻晶騎士(シルエットナイト)が刺すという連携を実践していたからだ。

 それに、今は1人の戦力でも惜しい状況でもあるため、『支援のみ』を厳命。こうした経緯を経て、アル達も戦闘に参加した。

 

 その結果だが、エドガーの抱いていた幻晶甲冑(シルエットギア)への期待が良い意味で裏切られた。

 板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を用いた手持ち式の幻晶甲冑(シルエットギア)の弾幕で幻魔獣(マンティコーラ)の動きを制限し、さらには幻晶甲冑(シルエットギア)サイズまで縮小させたエーテリックスピアや源素晶石(エーテライト)の礫を多数発射する銃杖(ガンライクロッド)によって魔獣の中に潜む魔法生物(マギカクレアトゥラ)の動きを抑制するというお膳立て。そこまでしてもらって獲物を仕損じることなど白鷺騎士団として恥以外何者でもない。当然ながら容易く平らげることが出来た。

 

 それでも魔獣と相対した経験の少ないない白鷺騎士団の新人や、そもそもで遭遇した事も無い最近のパーヴェルツィーク王国所属の防衛隊はそうはいかない。中にはもう少しで死亡していた場面もあったのだが、そこは幻晶甲冑(シルエットギア)部隊ではなく後からやってきたカルディトーレが上手く捌いてくれたらしい。

 軌条腕(レールアーム)によってエーテリックスピアを幻魔獣(マンティコーラ)に突き刺して牽制し、それでも間に合わない場合は自らの装甲の厚い部分を盾に味方を庇い、そこから腕に取り付けられた杭を打ち出しながら殴り付けるというカウンターを実行。その一連の動きは防御に重きを置いた白鷺騎士団を率いるエドガーの目からしても見事と評価するほどであった。

 

 こうして戦闘結果のみを抽出すると赤点どころか余裕の満点を叩きだせるほどの成果であったが、物事は結果だけという意見もあれば過程も必要という意見もある。つまり──。

 

「まぁ……、そうだな。だが、こちらとしては踏み潰さないかヒヤヒヤしたぞ」

 

「誰が踏み潰したくなるほどの豆粒だこの野郎」

 

「いや、そこまでは言ってないが!?」

 

 突然訳の分からないことでキレ芸を披露するアルにちょっと辟易したエドガーだが、幻晶騎士(シルエットナイト)という人間と比べて遥かに背が高い乗り物に乗っている身としては、幻晶甲冑(シルエットギア)という人間よりちょっと大きいぐらいの物が高速で足元をすり抜けるのはいつも以上に神経をすり減らしたのは事実だ。

 ただ、戦闘をスムーズに展開できたり、身内が助けられたりと借りが大きい中でそれを言うのもエドガーの心情としては言いたくなかった。

 

「もっと後ろから支援するのはどうだ?」

 

「銃身長くしてスクリプトを刻めば行けそうですね」

 

 なのでエドガーは出来るならば戦闘以外で神経をすり減らさないようにという願いを込め、さも次に生かせるような改善点のような体で文句を言う。その願いがアルに届くかは……また別の問題だが。

 

「皆さん、ご苦労様です」

 

「お疲れ様でーす。ところで、そっちの進捗どうです?」

 

 そうこうしていると今度はエルとアディが工房へと入ってきた。『千客万来だな』と呟くエドガーを余所に、アルはプロジェクトを進める者にはいささか心臓に悪い言葉をエルに言うが、彼は平然と『あとはドッキング部分のみ』と飛竜戦艦(リンドヴルム)が格納されている作業場に目を向ける。作業場からは未だにゴンゴンやらカンカンといった作業音が聞こえてくるので、エルが言ったことは真実なのだろう。

 

 そんなところでアルとしてもやるべき仕事を片付けるために一旦会話を切り上げようとするのだが──。

 

「まだ具体的な装備の紹介をしてもらってませんよ!」

 

「そうだな。そろそろ量産して防衛戦のために俺達にも渡すつもりだろう? 仕様は知っておいて損は無いからな」

 

 エドガーは単純に自分達に渡ってくるであろう装備のスペックを知りたいのだろうが、もう片方は純粋に『ロボの最新装備』に興味を示したのだろう。ただ、仮にエルが源素化兵装(エーテリックアームズ)の開発をやった場合でも、アルは現在の彼と同じような反応で食いつくだろう。

 

「あ、はい」

 

 そういった状況も踏まえ、アルはそんな生返事をするしか出来なかった。

 

 一旦、試射も踏まえた実演ということもあって全員は工房外の射撃場へと移動する。目を輝かせながらアルの方を見るロボキチの視線を右から左へ流しつつ、アルは自身の手元の銃杖(ガンライクロッド)とカルディトーレの右手に装備された魔導兵装(シルエットアームズ)の改造版を交互に指差した。

 

「まずはこれらですね。単純にエーテライトの欠片を大気を圧縮した法弾で飛ばすだけのシンプルなやつです。シルエットナイトには、同効果のシルエットアームズがあったために流用しました」

 

 腰のポーチに格納した小さな樽を破壊し、水と共に入っていた源素晶石(エーテライト)の欠片を見せながらアルは説明を開始する。

 これらはアルとバトソンが担当したラッパ銃型の源素化兵装(エーテリックアームズ)で、運用方法は初期に構想されていた物よりも洗練化されており、樽を銃口に詰めてから幻晶騎士(シルエットナイト)自身、もしくは幻晶甲冑(シルエットギア)の搭乗者の魔力を用いながら引き金を引くだけのお手軽な方法となっている。

 銃口に入れる樽も源素晶石(エーテライト)を砕いて水に入れるだけと難しい工程はなく、銃杖(ガンライクロッド)本体自体も大きさが異なるだけで仕組みは単純なので十分に量産は可能だ。

 現にカルディトーレの都合上1丁しか戦場に持ち出せなかったが、工房には幻晶騎士(シルエットナイト)サイズの予備は1個小隊分。幻晶甲冑(シルエットギア)に関してはもっと作りを簡素に出来ないかと見直したおかげで5丁は保管してある。

 

「しかし、樽ごと入れて飛ばすとは……。豪快というべきか、雑というべきか」

 

「そこは時間がなかったということで一つ。続けて、レールアームを使用したエーテリックスピアの投射ですね」

 

 魔法の言葉である『時間がない』を盾にエドガーの意見を突っぱねたアルは、論より証拠とバトソンを呼び出す。バトソンが搭乗していた幻晶甲冑(シルエットギア)の肩部に備わった軌条腕(レールアーム)には事前に小さなエーテリックスピアが装填されており、彼は射撃場の奥にある的に軌条腕(レールアーム)の照準を向けるとエーテリックスピアを投射した。

 炎の尾を吹かして飛んで行ったエーテリックスピアだが、数秒もしないうちに炎が引っ込むとそのまま重力に従って落ちていく。

 

「シルバーナーヴを外したんですか?」

 

「レビテートシップみたいに上空を狙いませんからね。相手に刺さるか、外してもエーテリックスピアの刃先からエーテルが漏れるのでマギカクレアトゥラの動きも阻害するのが目標です」

 

「なるほど、真新しい技術ではないから数を揃えやすいな」

 

「そういうことです」

 

 今回はエーテリックスピアと飛ばす対象は違えど、魔導飛槍(ミッシレジャベリン)系の技術であることに変わりはない。ゆえにカルディトーレへの対応はその気になれば今すぐにでも改造に着手できるだろう。

 そして幻晶甲冑(シルエットギア)の方だが、これは対応の容易さももちろんだがカルディトーレ以上に効果のある試みだとエドガーはさらに推測する。

 

 飛空船(レビテートシップ)で運んできた関係上、それぞれの騎士団で保有する幻晶騎士(シルエットナイト)の数には限りがあり、それに付随して機体に乗せることが出来る団員の数も制限される。有体に言えば、幻晶騎士(シルエットナイト)の数が足りなくて員数からはみ出す騎士が居るのだ。

 だが、先ほどの銃杖(ガンライクロッド)も含めた幻晶甲冑(シルエットギア)でも使用できる源素化兵装(エーテリックアームズ)を用いれば文字通りの全戦力を投入することが可能なので、迎撃が多少楽になる。

 

「まったく、戦力に成り辛い者を平均的な戦力にさせるのが上手いな」

 

「それ、嫌味ですか?」

 

「いや、シルエットナイトに乗れずに戦力外になるよりもシルエットギアに乗って前線に赴いて戦力になる方が騎士として本望だろ?」

 

 人間を武器の部品にした闇の歴史を持つ国を知っているからか、機嫌が悪そうにアルがエドガーを睨むが、彼にしてみれば魔獣に対抗する盾や剣となる騎士が幻晶騎士(シルエットナイト)という鎧がないという理由で指をくわえながら魔獣被害を見物する方が立場的にまずいと指摘する。

 そんないまいち話が噛みあわない会話が交わされ、両者共に『ん?』と首を傾げているとエルが先んじてカルディトーレの前腕部に接続された追加装備(オプションワークス)を見上げながらアルを呼ぶ。

 

「アル! アル! これはやっぱりパイルバンカーですよね! 種類的に!」

 

「いいえ、エーテリックバンカーです。フロイド君!」

 

 まるで英会話の教科書に書かれているような返答をしつつ、アルはカルディトーレの操縦席に声をかける。そうすると、操縦席からフロイドの返事がし、カルディトーレがゆっくりと立ち上がった。

 そのまま射撃場の一画にある廃材といった物を纏めていた所から幻魔獣(マンティコーラ)の上半身──ドニカナックと思われる幻晶騎士(シルエットナイト)の上半身を取り出すと、それを地面に置いてから胴体に向けてパンチを繰り出した。

 

「今ッ!」

 

 パンチを繰り出すと共にフロイドが操縦席に増設されたボタンを押し込むことで、追加装備(オプションワークス)内のエンブレムから爆炎魔法が発動。杭が覗いている側の反対から爆炎を吹き出しながら源素晶石(エーテライト)の杭が勢いよく打ち出され、固定されたドニカナックの胴体──それも幻晶騎士(シルエットナイト)の中で一番頑強な作りをしてある胸部装甲を真正面から打ち抜いた。

 

「うひょー!」

 

「打ち込んでいるところを何度か見たが、小さなハードクラストバンカーか」

 

 歓喜の声を上げるエルの傍らで、エドガーはというと武器の特性をアルに聞いていた。

 一見すると対大型魔獣用破城鎚(ハードクラストバンカー)の射出機構を魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)のような爆炎魔法にすることで威力を高めた物だと分かるが、たとえ操縦席を潰しても魔法生物(マギカクレアトゥラ)であるがゆえに決定打になりにくい。

 そういった観点から『危なくないか』と指摘するエドガーだが、カルディトーレが追加装備(オプションワークス)から源素晶石(エーテライト)製の杭を取り外した後に杭からエーテルが徐々に充満していく様を見て納得する。

 

「エーテライトから溶け出たエーテルで相手から手出しできないようにするのか」

 

「はい、杭を残すことで相手を損傷させつつもこちらに乗り移って来ないようにします。ですが100%ではないところだけは気を付けてくださいね」

 

 魔法生物(マギカクレアトゥラ)付きの魔獣は依り代が極度に損壊すると乗り移ってくることがある。その為に源素化兵装(エーテリックアームズ)を持った機体で防ぐように通達はしてあるが、どのような可能性も留意しなければならないのが騎士団長というものである。

 しかし、これを使用すれば源素晶石(エーテライト)の塊から揮発するエーテルによって魔法生物(マギカクレアトゥラ)の動きを多少鈍化させて乗り移られるリスクをある程度減らすことが出来る。これで『いざという時』の可能性を放棄するわけにはいかないが、リスクを減らせるのならば喜ぶべきであろうとエドガーは強く頷いた。

 

 こうして3点。幻晶甲冑(シルエットギア)でも使用できるものも含めると5点の源素化兵装(エーテリックアームズ)が出来たわけだ。運用方法や量産体制もしっかりしており、合流して幾ばくかしか経っていないということも加味すれば並々ならぬ成果である。

 

「では、これにてエーテリックアームズの開発は終了となります。ところで、アルって今後はどうするつもりです?」

 

「どうするとは? また仕事ですか? 出るとこ出ますよ?」

 

 開発された成果を見届けたエルは満足げに頷きながらアルに今後の出方を問う。ただ、いくら切羽詰まった状態だといっても少しばかりの暇ぐらいは出してもらわなければ、騎士団長という騎士を纏める存在としては落第だとアルは憤慨する。

 そんなアルの怒りを飄々と流したエルは、親指で後ろの飛竜戦艦(リンドヴルム)を指し示しながら『今後はどうするか』と重ねて問う。

 

「アルの進む道は3つ。1つは飛竜戦艦(リンドヴルム)改め、決戦騎に乗り込んで魔法生物(マギカクレアトゥラ)に立ち向かう。2つ目は拠点で襲撃の対処を行う。3つ目はさっき言った2つの統合版で、いわゆる遊撃ですね。僕的にも1つ目で作り上げた機能を自慢したいですね。あ、そう考えると3つ目も捨てがたいな」

 

 エルから提案された3つの行き先。危険度的に言えば拠点の防衛は他の騎士団やパーヴェルツィーク王国の部隊と合同なので一番危険が少なく、決戦騎に乗り込むのが中くらい、最後のトッピング全乗せのような頭の悪い案はルナティックであろうか。

 短期間で新兵器の開発というデスマーチを行った後ということで、疲労感からどれも基本的にはやりたくない。だが、この愚兄のことなので黙っていたら問答無用で『じゃ、決選騎がそろそろ出来上がるんで行きましょう』とアルを拉致しかねない。

 いつもはエルの暴走をたまーに止めてくれる存在のアディも彼の願望全開によるおねだりの前では無力なので、アルは一番平穏そうな2つ目を選択しようとする──が。

 

「アルフォンス、お前の力がなくとも防衛は出来るぞ?」

 

「そーだよ。ディーさんも帰ってきたら戦力も増えるだろうし、新しいエーテリックアームズも開発したんだから、アルも行ってきたら良いじゃん」

 

 獅子身中の虫。いや、この場合は善意からくる言葉なのだろう。地獄への道も善意で舗装されているとはよく言ったものだ。かと言ってアルもアルで『こっちが良い!』と強く出てしまえば終わりなのだが、既に期日が無くて炎上しているプロジェクトに長年身を置いてきたことで『人手が足りない所や重要そうな部分に自発的に入る』という悲しき性が勝手に決戦騎に乗ることを承諾してしまった。

 

「アルならそう言ってくれると思いましたよ」

 

「エル君、エル君。アル君がすっごい変な顔してるんだけど……」

 

「気のせいですよ! さぁ、ガルラをとりつけますよー」

 

「あ"ぃ"……」

 

 すぐ傍で趣味が同じな人間に自慢できるというどこまでも自分本位な楽しみを想像したのか、エルが意気揚々と歩く後ろでアディは後ろからついてくるアルを見ながらエルに報告する。しかし、肝心の彼は本格的に眼前のお祭りに集中しているのか、アルの顔色に気づくことはなかった。

 

 エルからそう言われようとも、幼馴染的関係ゆえにアディはアルの表情が気になっていた。

 おかしい。いつもの彼ならば、現在進行形で猪突猛進する愛する! 夫に並行し、エチェバルリア語という自分でもよく分からない言葉を用いながらこちらが思わず嫉妬の心を漏れ出すほど仲良さげに色々準備を手伝うはずだ。

 

 それがまるでテンションがだだ下がった時のようなションボリ顔。何かがおかしいと思うのが自然だ。

 しかし、肝心の理由が分からないときたものだ。アディは最近アルの身に起こったことを脳内で羅列しながら、彼がこんな反応をする関係を考えこみ──やがて『とあること』が思い浮かんだ。

 

(イザドラちゃんとの結婚!)

 

 エルとアディが空へ向かった後も様々なことが起こったらしいが、最終的には丸く婚約という形で成立したという報告は彼女も受けているし、銀鳳騎士団でもエレオノーラの侍女をしていた密偵の1人が『堀を埋める役目』として吹聴したおかげで周知の事実だ。

 

 そんな考えに至ったアディは、持ち前の機転からすぐさまそれを自分へと置換してみる。

 アルをエル。イサドラをアディ自身と置換。そしてその逆のパターンを試した結果、アディの顔が見る見るうちに萎れていく。

 

(エル君に限ってそんなことはあり得ないけど、エル君を置いて危険な任務につくのはヤだなぁ。あー、そっかぁ)

 

 アディの場合は彼の歩く方向に自分でついて行くことが出来るが、イサドラはそう簡単にはいかない。愛する者を自覚したことで危険な任務を前に二の足を踏んでしまったのだろうと想像した彼女は、『アル君はしょうがないなぁ』と妙な先輩風を吹かせながらエルに近づこうとする。

 そんなアディの耳に、アルのか細い声が聞こえてきた。

 

「絶対、事後承諾だ。後でなし崩し的に許可もらうつもりだ。後でオベロンとかに言い訳するの僕なんですよ、ふざけやがって」

 

「え?」

 

 胸を押さえつけながら恨み言を零したアルに、アディは思わず声が出た。そんな彼女の声に反応した彼は『あぁ、すみません』と恨み言が聞こえてしまったことに謝罪をするが、当の本人は自分の推理が外れたことを確信しながらもおずおずといった様子で先ほどからアルがやっていた百面相について質問する。

 

「えっと、イサドラちゃんと婚約してるから危険な任務は受けたくないんじゃないの?」

 

「そんな思いなら、そもそもここに来てませんよ。それにいざとなったら兄さん置いて僕だけでも退避しますし、あの方は僕が居なくても時間さえあれば大丈夫そうなお方ですよ」

 

「最後はイサドラちゃんに言わない方が良いよ、絶対。絶対言わないでね?」

 

 やはり根は『陰の者』ゆえなのか、最後の最後で消極的なことを言い残したアルと前を歩くエルに向かって『ちゃんと報連相してるんですよね?』と疑問をぶつける。ただ、その疑問の返答として目線を明後日の方に向かわせたエルを見た瞬間、彼は胸ぐら掴みながら物理的に揺すっては『報連相!』と連呼する。

 そんなアルの耳と頭には、アディからの忠告は全く入ってくることはなかった。

 

***

 

 アルが思いの丈をエルにぶつけて数時間後のこと。

 フレメヴィーラ王国所属のエルネスティ・エチェバルリア。パーヴェルツィーク王国所属(雇われ)のオラシオ・コジャーソ。魔王軍所属(自称王)の小王(オベロン)。傍目から見て錚々たる面子ではあるが、アルの目からすれば『頭は良い狂人が集まったトンキチ軍団』の承認により、ようやく決戦騎は最低限の準備を終えた。

 

 改修内容としては損失した格闘用竜脚(ドラゴニッククロー)を再建してくっ付けた黄金の鬣(ゴールドメイン)号と融合した飛竜戦艦(リンドヴルム)の背にマガツイカルガニシキと魔王がくっついただけのデタラメな姿であるが、それら全てに魔法的な接続がされているので、その性能は控えめに言って『破格』な化け物である。

 

 なお、ガルラの組み込みに至っては『アルが居ることで操作系が楽になります』というエルの言葉にかぶさる形で、『完成間近に別の要因を追加するとか馬鹿か、お前は』とオラシオから、『君はあれかね? 本当は私の国を地面に落としたいのだろう? やはり、今から殺してやろうか?』と小王(オベロン)から残念ながら当然の言葉を賜ったことで却下されていたりする。

 その際にフリーになったガルラに装備を施すためにバトソンを始め、飛竜戦艦(リンドヴルム)を取り仕切るオラシオや急な仕様変更という不義理にを働いたことで怒り心頭な小王(オベロン)などに謝罪し回ったアルの苦労についてはプライスレス。

 

「──以上がこれからの作戦となります。意見は?」

 

「僕としては実験せずに出たとこ勝負なんて金輪際したくなかったんですけどね。しかも、オベロンが居ないと出来ない機能とか、兄さんに人の心ないんですか?」

 

「お、なんだ。こっちのエチェ何某は話が合うじゃないか」

 

「そうだそうだ、もっと言ってやれアルフォンス!」

 

「おかしい、3対2のはずが2対3になっている」

 

 そんな決戦騎──『魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)』の艦橋内で今後の作戦展開をしていたエルだが、いつの間にか弟が裏切っていた事実に首を傾げた。

 ただ、アルが反旗を翳すのも無理はなく、この魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)は未だ本調整はされていないまま作戦を開始しようとしていたのだ。そんな本調整を実施する期間については、言わずもがな(いまさら)である。

 

「シルエットギアの戦闘面を強化しといて良かったですよ。兄さん、あとでトゥエディアーネ乗りに謝罪行脚しといてくださいよ」

 

「分かってますって、乗騎を取り上げるわけなんですから」

 

 作戦の概要を簡潔にまとめれば──こうである。

 まず、魔王が新たに身に着けた権能である『囁きの詩(ウィスパードソング)』によって数多の竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)とトゥエディアーネを同時操作し、この魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)を宇宙一歩手前──完全にエーテルで満たされた空間まで上昇させる。

 次に飛竜戦艦(リンドヴルム)の内部に格納された魔力転換炉(エーテルリアクタ)の命をその場で使うことで多量の魔力を生み出し、さらにそれを再変換することで飛竜戦艦(リンドヴルム)の周囲に極限まで濃縮されたエーテルを纏わりつかせる。

 仕上げにそれらを全て巨大な源素晶石(エーテライト)塊にし、その状態で魔法生物(マギカクレアトゥラ)の親玉に突っ込ませて封印終了。

 

 ──傍目からすれば『馬鹿が考えた』としか思えない作戦であるが、これぐらいしか打つ手がないのが事実である。

 

「リンドヴルムを核にするってのはフリーグデント殿下には通達済みで、核の核……触媒にするためのエーテライト塊は」

 

「今、紅隼騎士団に取りに行ってもらっています」

 

「では、本格的に準備を開始するとしよう」

 

 『お先に失礼させてもらう』と小王(オベロン)はそそくさと部屋から出てしまう。アディもエルに促されて先にマガツイカルガの方へと行ってしまい、最終的に飛竜戦艦(リンドヴルム)の艦橋の船長席で待機予定のオラシオとエルとアルのみとなった。

 

「じゃ、時間が無いので始めましょうか」

 

「いや、2人も必要ないだろ。俺だけでも固定は出来るぞ?」

 

「何言ってるんです? ひょっとして真空ナメてます?」

 

「ちょ、お前……"真空"ってお前もまさk」

 

 言うが早いか、オラシオが狼狽える間に船長席へと押し付けたアルの横でエルが固定用のベルトをオラシオを足蹴にしながらきつく巻いていく。決して途中で外れないように、決して緩まないようにガチガチにベルトで固定し終わったあとに残されたのは座席にしっかりと固定されたオラシオの姿。横に斧を持った大男でも居れば、処刑間際といった所だろうか。

 

「おい! ここまでやる必要はあるのか!?」

 

「いつもマギウスジェットスラスタを吹かせてかっ飛んでいるナイトランナーの視点的に言えば、これでもちょっとねぇ……」

 

「ですね。騎士ではなく、鍛冶師の方となると最大加速は結構苦しくなるやもしれませんね」

 

 これでも充足だと批判したはずが、まさかの不足宣言にオラシオは顔を蒼くする。ただ、これ以上ベルトを探すとなると時間的にもったいないので2人はそれ以上の固定は諦め、今度は短いベルトでオラシオの下半身や太もも当たりを締め付け始めた。

 

「ちょっと待て! これはあれか? 俺がレビテートシップでクシェペルカを滅亡寸前まで追い込んだ報復か!?」

 

「は? 何言ってるんです? これをしないと最悪、失神しますよ?」

 

「まぁ、僕らがやってるのも"なんちゃって"ですから過信しないでくださいね」

 

 エルとアルが施しているのは加速時に発生する身体負荷を軽減する措置である。頭部から足先へ向かって負荷がかかると下肢に血液が貯まって失神する恐れがあるため、こうして下半身を圧迫している。

 本来ならばコンピュータ制御などで加速時に膨張するエアバックなどを使用したり、上半身なども同等の措置を行うのだが、そういった医療知識については2人共門外漢な為に脚部のみに留めている。

 

 ちなみにこの機能は紫燕騎士団の顧問をしていた高名な医者の進言によって降下甲冑(ディセンドラート)にも加えられており、血流云々からの不調についてはこの世界の人間によって解明されていたりする。後にその報告を聞いた2人は揃って、『そんな話を聞いたような……』とどこまでも幻晶騎士(シルエットナイト)外の技術についてはポンコツな反応を示したことは2人だけの秘密である。

 

 閑話休題

 

 もはやこのまま電気で生命活動を止める刑罰を執行しそうな勢いの拘束を受けたオラシオを残して艦橋を去った2人。

 

「じゃ、後は高度な柔軟性をもって臨機応変にってことで」

 

 まるっきり信用ならない言葉と共に飛竜戦艦(リンドヴルム)から降りていくアルを見送ったエルは、自身の乗機であるマガツイカルガニシキに乗りこんでから魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)を起動させる。

 浮揚力場(レビテートフィールド)によって支えられた魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)の視線の先には、複数のツェンドリンブルの群れとそれに繋がっている源素晶石(エーテライト)塊が見える。紅隼騎士団がやってくれたのだと確信したエルは、拡声器にて作戦の開始を告げる。

 

「これより、オペレーション・バスターランスを開始します」

 

 刻一刻と西方諸国に近づく浮遊大陸。その最終決戦の幕が今、開こうとしていた。

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