銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

197 / 200
カスタムメックウォーズやってて予約投稿忘れたとは言えない…


160話

 流星槍作戦(オペレーション・バスターランス)。何気にかっこいい命名をしたのが内心で腹が立ったため、アルの中では『馬鹿野郎3人+αの突貫攻撃』と勝手に改名している作戦がついに実行を開始した。

 まず、前段作戦の前の下準備として紅隼騎士団が持ってきた巨大な源素晶石(エーテライト)塊を決戦騎である魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)が受け取らなければならないために少々暇があるが、残念ながらゆっくりはしていられない。

 

「バトソン!」

 

「あ、アル! いきなりあんなの言われても困るのはこっちなんだよ? 一応、親方達にも手伝ってもらって出来る限りはしたけどさ」

 

「あー、すみません。でも、"出来る限りの装備で"と指示したのは兄さんなので後はそっちで対応してください」

 

 ガルラに新規装備を含めた諸々の取り付けなど頼んでおいた工房へ向かって走っていたアルの耳にバトソンの文句が届く。だが、『困る』と言われようともそれをやって欲しいと頼んできたのはエルの方なので、平謝りしつつも責任の所在は銀鳳騎士団のトップであることを念押ししておく。

 そんな言い訳がましいことを言いながら走っていると、ようやく飛行形態のまま係留しているガルラまで見えてきた。2人の存在に近くで作業の最終確認をしていたダーヴィドが気づくと、親指でガルラを指差しながら不満顔で先ほどバトソンが言ってきたことと同じような文句を言ってくる。

 

「銀色小僧! 俺たちゃやれって言われたらやるが、夢物語の魔法使いじゃねぇんだぞ!」

 

「えぇ、承知しています。最低限、マギカクレアトゥラと戦えるようになれば十分です」

 

「親方、指示したのはエルだからそれ以上アルを責めても仕方ないよ」

 

 先ほどの会話から責任の所在はエルの方にあることを教えられたバトソンが口を挟むが、そんな説得をもってしてもダーヴィドは怒り心頭であった。

 だが、騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の隊長としての責務ゆえか『後で銀色坊主共々説教だ』といいつつ、彼はガルラの整備状況を説明してくれる。

 

 可変機構を備える法撃に重きを置いた幻晶騎士(シルエットナイト)のガルラだが、かの魔法生物(マギカクレアトゥラ)に対抗するための改修としてエーテリックスピアを連続で射出する機構である内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)を新たに取り付けていた。

 流石に飛空船(レビテートシップ)に搭載するような大型の機構は物理的に不可能なため、幻晶甲冑(シルエットギア)で運用する小さいサイズのエーテリックスピアを連続射出できるような箱型の物を急遽作成し、変形に邪魔にならないよう両足の脛辺りに増設してある。

 ただ、デメリットとして多少の重量が増加したことと、幻晶騎士(シルエットナイト)形態にならなければ使用できない事が挙げられるが、突貫工事という余裕のない状況なので騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が言うには『もうちょっとやりようはあった』と色々妥協したことを仄めかしている一品となっている。

 

 なお、設計に関しては機動戦士なアニメの敵役が装備しているようなミサイルポッドをパク……オマージュした形状をとっており、突貫設計にしてはデメリットが少ない点も相まってアル個人としては割と気に入っていたりする。

 

「時間がなかったから片側3本の計6発しか発射出来ねぇからな? 後、あのエーテリックスピアにはシルバーナーヴが付いてなかったが、あれで良いのか?」

 

「はい、直線に飛ばすので問題ないです」

 

 ダーヴィドとの会話を続けながらアルは降下甲冑を纏うと操縦席に固定させる。操縦席には見慣れないボタンが2つあり、気になったアルが固定の確認をしていたダーヴィドに問うと先ほど説明された内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)の固定に追加装備(オプションワークス)用のハードポイントを噛ませているらしく、それらを外すボタンだと答えてくれる。この短期間で気配りの良いことだ。

 

「すみません、助かります」

 

「予備はねぇからな? エーテリックスピアの補充がしたけりゃ外すまでは良いが、失くすなよ?」

 

「善処します」

 

 ダーヴィドの目から『手荒に扱うな』といった圧を感じるが、アルはどこ吹く風で答える。仮に戦場で不足の事態に陥った場合、彼は心の中で申し訳なく──もしかしたら何度も謝罪の言葉を口にした後に『沢山謝ったから良し』と言いながら容赦なく投棄するだろう。

 

「お前なぁ……。まぁ、良いや。槍を補充したけりゃ失くすなってだけだ。ほれ、次だ。持ってきて良いぞー!」

 

 馬の耳に念仏をねじ込んだような反応を返すアルに、ダーヴィドはすっかり諦めた様子で騎操鍛冶師(ナイトスミス)に指示を出す。

 すると、今度はいくつもの板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の塊を1本の長い筒のように加工し、その先に大型の魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)が取りつけられた物を2本。見るからに増速を目的とした追加装備(オプションワークス)が運び込まれてきた。

 

「うわ、剥き出しですね」

 

「時間がなかったし、すぐに使い終わるもんだしな。ほれ、とっとと上書きしろ」

 

 外装や研磨を施す時間も惜しかったらしく、よく見ればごつごつしている筒状の物体を飛行形態をとっているガルラの左右に簡単な溶接で取り付けられる。そこから身体強化の範囲を書き換えることでそれらの追加装備(オプションワークス)をガルラの一部として取り込んだ。

 

「ほれ、お呼びだぞ」

 

 そんなことをしていると、暴風雨が吹き荒れる空を突き抜ける一条の蒼い閃光が瞬く。その信号法弾の詳しい符丁は分からなかったが、『蒼い』というだけで素早く宛先と差出人の関係を見抜いた彼はこれまた素早い行動でガルラから降りて工房内に居た騎操鍛冶師(ナイトスミス)達を退避させ始めた。

 

「エーテルリアクタの吸気経路を再確認。エーテル量正常。エーテリックレビテータ作動。内包エーテル量、許容値。マギウスジェットスラスタ及び変形スクリプトのテストコードを実施……正常値。トーイングアンカーを収納。行けます」

 

 マガツイカルガニシキのようなキーボードではないが、所々のある計器を指差し確認しながらアルは機体をチェックしていく。

 これより行われるのはフレメヴィーラ王国には直接関係はなくとも、失敗すれば新しく生まれ変わったクシェペルカ王国を再び戦乱の真っ只中に叩き落してしまうやもしれぬ大規模作戦だ。ゆえにいつもなら多少簡略化させる作業もしっかりと点検し──やがて全ての事前作業が完了する。

 

 その頃には既に騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の退避も完了している。さらには工房に魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)から吹き出る炎が蔓延しないよう、ご丁寧に防護用の金属板も準備されていた。

 

「では、アルフォンス・エチェバルリア。行ってまいります」

 

「言っとくが、銀色坊主には深入りするなよ! おめぇーはもうフレメヴィーラとクシェペルカのやんごとなき人間に両脚突っ込んでんだからな!」

 

 暗に『危なくなったら即時撤退しろ』という指示だろうが、あまりにもその通りな言い方にアルの中に居た小市民が断末魔を上げる。

 おかしい。アルの当初の人生設計では適当に騎士になり、適当に幻晶騎士(シルエットナイト)を乗り回し、適当に改造をして日々を過ごしながら食いっぱぐれない稼ぎを得、普通の人と恋愛した末に結婚して子供は男女居ればそれで良いと思っていた。

 それがなぜか学園時代には銀鳳騎士団の創立メンバーに入り、侯爵の娘にアプローチされ、今ではやんごとなき方々の仲間入りである。サクセスストーリーにしてもやりすぎだ。

 

「直掩に入りました」

 

「やっぱり戦艦ものは直掩機があると映えますねぇ」

 

 ただ、それを手放すかと言われたら今のアルは即座に『NO』を叩きつけるだろう。なんといっても彼は今も魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)をノリノリで動かしているであろう兄の直掩機である。何事も強欲ではないと彼にはついて行けないのだから。

 

「エーテル濃度を最大に!」

 

「全部起動するよー」

 

 事前に起動していた囁きの詩(ウィスパードソング)により、魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)や後部に接続されているトゥエディアーネと竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)の集合体が一斉に源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を起動する。幾重にも集まった純粋なエーテルによって魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)の周辺には強固な浮揚力場(レビテートフィールド)が顕現し、やがてその巨躯は艦首を天に向けた。

 

「上昇姿勢確保!」

 

「外部から確認出来ました!」

 

「オラシオだ。そろそろ第1目標高度を突破するぞ」

 

 マガツイカルガニシキとガルラによるダブルチェックが為された後、オラシオからそろそろ目標高度を突破するという報告が2人の耳に入る。

 そして、その報告から次の段階に入るための準備を機に2人は一斉に取り掛かった。

 

「推力最大!」

 

「追従します!」

 

 一方は囁きの詩(ウィスパードソング)越しに魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)に接続した竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で、もう一方はガルラに装着した無骨な増速用追加装備(オプションワークス)によってさらなる増速を開始する。太陽のごとく煌々と光る魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)による推力は伊達ではなく、2機は源素浮揚器(エーテリックレビテータ)による高度限界を悠々と飛び越えていく。

 

「直線機からオラシオさんへ、大丈夫ですか!?」

 

「だい……じょうぶに……みえ……がぁっ!」

 

 まるで天から降ってきた彗星を逆再生したかのような軌道を描きながら登っていくが、やはりその加速力は一介の鍛冶師には厳しかったらしい。アルの生存確認にオラシオは苦し気な返答を返すのみであったが、そんな彼も空の果てという『夢』を追う人間らしく根性は座っていた。

 

「エルネスティっ! エーテルチャー……ジャーをぉ! 最……大……にぃ……しろおぉぉ!」

 

「分かりました!」

 

 オラシオの精一杯の指示にエルは全竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)に搭載された『源素過給機(エーテルチャージャー)』と呼ばれる装置を最大にする。

 この装置はかつてオラシオが開発し、ティラントーに取り付けられていた源素供給器(エーテルサプライヤー)を多少改良した物で、改修した内容としては魔力転換炉(エーテルリアクタ)に吸入させるエーテル濃度を薄くすることで炉の劣化を抑えることに成功したらしい。

 そして、その改修内容の中には急激な炉の劣化を起こすような高濃度エーテルに対する機能といった『リミッター』を当然かけているわけだが──。

 

「リミッター解除! 全力全壊で行きます!」

 

 これも当然のごとくエルは解除し、竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)内部の魔力転換炉(エーテルリアクタ)に特濃エーテルをぶち込んだ。大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)時代のティラントーのように幻晶騎士(シルエットナイト)1機としては少々過分な魔力を糧に、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)を押し上げ続ける。

 リミッターを解除したことで魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の許容限界まで達したのか、尋常ではない魔力と爆炎に晒された推進器自体が赤々と熱を帯び、それが組み込まれた竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)自体もそこかしこから白煙の尾を引いている。

 

「申し訳ない気持ちになりますね」

 

 赤熱化した装甲が剥離した瞬間や固定ごと竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)が脱落する瞬間を同高度で付かず離れず飛んでいたガルラの幻像投影機(ホロモニター)から確認したアルは、衛星軌道上を疾走する幻影にエンジンカットを呼びかけるような想像を頭でしながら何とも言えない表情を浮かべて独り言ちる。

 

 その間にもどうやら既定の高度は稼げたらしい。エルは感謝の言葉と共に役割を終えた竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)を遠隔操作にて固定を外して魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)から離れさせていく。自由落下に任せるのみの竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)は、雲海の中へ姿を消していきながら次々と推力を得た代償を支払って爆散していく。

 その光景を何かを耐えるような表情で見届けたエルは続けてトゥエディアーネによる加速をかけようとすると、はっと息を呑んだ後に叫ぶ。

 

「緊急事態! ドラッヒェンカバレリの一部が離れていません!」

 

「んなぁにぃ!?」

 

 緊急事態の報告にいち早く反応したオベロンは魔王の首を左右に振りながら元凶を探すと──居た。固定用の器具から外れてはいるが、魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)から離れる前に装甲板に竜脚が深く引っかかってしまった『不運な1機』が今も尚、風に煽られて揺らいでいる。

 

「おいおいおい、まずいぞ! 既に全体が赤熱化してる!」

 

「法撃で排除できませんか!?」

 

「無茶言うな! ウィスパードソングで何とかできないのか!」

 

「操作を受け付けません! おそらく、暴走しているかと」

 

 魔王の法撃は魔導兵装(シルエットアームズ)のような簡略化はされていない。いくら即興で演算しようとも、こんなところで放っても吹き荒れる風に邪魔されてかすりもしないだろう。

 しかし、このまま放置すると緻密に計算しながら計画がずれる可能性や爆発をもろに食らって作戦自体がご破産する可能性が高い。どうにかして取り除く必要があるが、囁きの詩(ウィスパードソング)による自壊も暴走状態でままならず、魔王の法撃は即応性や命中率が心許無く、マガツイカルガニシキの機動法撃端末(カササギ)はこの状況では無用の長物だろう。

 

 そんなどうにか出来ないかという切羽詰まった状況の最中、突如として衝突音が鳴り響いた。先ほどの竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)がいよいよ爆発したかと焦ったオベロンが魔王の首を操作すると、先ほどまで未練がましく装甲にくっついていた竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)の姿はなかった。

 今現在も襲い掛かる衝撃に頭を打って幻覚でも見ていたのか、オベロンが不思議に思って再び周囲を見張り始めたのも束の間。今度は遥か後方から小規模の爆発の光を魔王越しにオベロンが見たと同時に雲を突き抜けながらこちらに追いすがってくる飛行物体が1つ。

 

「すみません、排除に手間取りました」

 

 アルだ。飛行形態で近づいて来るガルラと『排除』という言葉、最後に折り畳まれていた脚部の装甲が凹んでいることにオベロンは先ほどの暴走状態にあった竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)が実際に存在していて、アルが排除したことを悟る。

 

「ナイスです、アル。では、第2段階へと──」

 

「すみません、僕はここまでです」

 

「は? 何でですか?」

 

 今度はトゥエディアーネ群を使用した2段階目の加速といったところでアルは追随不可能と伝える。だが、かなりの急ごしらえであるにしても、ガルラに接続されている追加装備(オプションワークス)は設計書をチラ見したエルの脳内シミュレートではトゥエディアーネによる2段階目の加速の後──魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)自身の最終加速の中頃までついていけると確約できるほどの計算である。

 加速度に対するダメージも降下甲冑でガッチガチかつ、強化魔法も当然併用しているだろうことからまだまだ余裕だろうと、エルは珍しく困惑気に尋ねた。

 

「さっき、"変形"してドラッヒェンカバレリを蹴ったので魔力に余裕がないんですよ」

 

「あー!」

 

 ここでエルは計算外の事象に気づく。先ほどの脳内シミュレートは『全行程を飛行形態で追随や戦闘による露払いが行われた場合』という条件の上で計算されており、幻晶騎士(シルエットナイト)形態に変形や再加速といった考慮がされていなかった。

 そのため、変形による魔力消費や竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)を排した後に魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)に追いつくよう再加速に費やした魔力は膨大であり、とてもトゥエディアーネによる2段階目の加速に追随できるような魔力は追加装備(オプションワークス)には残されていなかった。

 

「そもそも、なんで蹴ったんだい」

 

「オベロン、加速してるこいつを正確に打ち貫けます? 旅客機の爆弾削ぎ落すア〇ランの傭兵じゃないんですよ!」

 

「君の言っていることは分からん! エルネスティもそうだがな!」

 

 暗に『魔導兵装(シルエットアームズ)でこそぎ落とせば良いじゃないか』というオベロンの意見に、アルはキレる。

 現在、この高度ではかなりの気流が発生している。その中を魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)やガルラは凄まじい勢いで突き進んでいるわけなので、嫌が応にも機体自体が激しく振動しているわけである。

 先ほどのオベロンの意見を言い換えるならば、『手が激しくブレている状態で魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)にへばりついている竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)を落す』だろうか。

 しかも、ミスったら今後の作戦に大きく響くデメリットのオマケつきだ。そんな激烈に難しい狙撃をするぐらいならば、魔力を犠牲にして近づいて物理的に排除した方が安全だろう。どこぞの射撃が苦手な赤服でも出来なかったことがアルに出来るわけがない。

 

 しかし、そこら辺のネタを当然知らないオベロンが苛立たしげに答えるが、当然のごとくアルは無視してエルに今後のことを相談し始める。

 

「まぁ、それは置いといてですね。一応、魔力補給してもらえればまだついて行けますが……もう護衛はいらないでしょ」

 

「そうですね。一番危険そうな第1加速の高度さえ抜けてしまえば大丈夫だと思います」

 

 アルに護衛を頼む際、エルは一番襲撃されやすい地点として上昇前と竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)を用いた第1加速を行う2点を示した。前者は言わずもがな幻魔獣(マンティコーラ)やその他の魔獣の活動圏内で、後者は前者よりも少々高いが魔法生物(マギカクレアトゥラ)が寄生先に多少無理をさせれば十分迎撃圏内である。

 

 ゆえにこの高度まで来てしまえばそう簡単に撃撃はされないと判断したエルは、アルに拠点付近の防衛に出ている部隊への増援と突入の際に脱出するオラシオの保護を指示する。魔王という強大な乗り物に乗っているオベロンは別として、オラシオは武装も何もない脱出装置で嵐の中で退避しなければならない。そのための措置だ。

 

「俺としてはそのままどこかへ放浪も吝かじゃないが、今の雇い先も悪くないからな」

 

「了解でーす」

 

 金のこともあるからか、オラシオも脱出の際の保護には賛成の声を上げる。オラシオの救助も含めて指示を了承したアルは、ガルラの魔導演算機(マギウスエンジン)に保存されている身体強化範囲を書き換えることで加速のために接続されていた追加装備(オプションワークス)をパージする。元々は溶接のみで形を保っていた筒状の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)は大小の塊となりながら空中に飛散しながら落ちていき、それを見届けたガルラは機首を浮遊大陸に向けて一気に降下していく。

 

 目標は拠点付近。そこでは白鷺騎士団と合流した紅隼騎士団がパーヴェルツィーク王国の防衛隊と激しい攻防戦を行っているはず──だが、何かを見つけたアルはおもむろに進路を変える。

 

「あの船は……」

 

 幻像投影機(ホロモニター)に映った特徴的な見た目の船。それは、数日前に乗った覚えのある記憶に間違いが無ければグスターボの船であったはずだ。たしか、彼は分かれる際に奪った源素晶石(エーテライト)を別動隊に引き渡すと言っていなかっただろうか。

 

「まー、お世話になりましたから一言だけ言っときますか」

 

 もしかしたら、その辺を航行中にこの嵐で船が破損して立ち往生しているかもしれない。そのため、一応義理で避難勧告や避難の手伝いぐらいはしてあげようと魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)でさらなる増速をかけるガルラ。

 そうすると、こちらを視認した見張りが居たのだろう。甲板の昇降機が上下し、中からブロークンソードが現れる。

 

「あーあー! 聞こえますかー」

 

「あン? その声はエルネステ……いや、そのシルエットナイトはアルフォンスか。わっかりにきぃンだよ、お前ら」

 

 『姿が似ているから紛らわしい』と言われ慣れているが、まさか声までもとアルは多少げんなりするが、気を取り直して現状進んでいる作戦の概要と周囲の危険を周知する。そうすると、グスターボは『凡そは知ってンよ』と発言する。

 

「おや、知ってたんですか?」

 

「ちょっと考えりゃ、ちょっとは分かるこった。そンでなんかやることないかと彷徨ってたら双剣のと出会っちまってな。手伝った礼に、斬り合いでも頼んでみるかと悩んでたら言い出す前にさっさと行っちまった」

 

「それじゃあ、早くこの場を離れてください。もうすぐ振ってきますよ?」

 

 防衛戦で手一杯の時にこの狂人がやってきたら即座に終わりを意味するため、アルはグスターボの悔しそうな声を右から左に流しながら『退避』を推奨する。

 前もって作戦概要を伝えて周囲に危険が及ぶ可能性があることを伝えたのが功を奏したのか、話を聞いていた船員達は『お頭!』と撤退方向に話を向けるが、グスターボ自身は退避に否定的な様子だった。

 この期に及んで何が彼をこの場に縫い留めているのだろうか。それが気になったアルは思い切って聞いてみることにした。

 

「あん? さっきおめぇーがいってたろ。あいつだよあいつ」

 

「ほら、あの眼鏡だよ。眼鏡」

 

「あー、オラシオさんでしたっけ。ご友人なんですか?」

 

 外見的特徴を言われてやっとアルはオラシオのことだと理解する。少し前、彼はジャロウデク王国に雇われていたはずである。その時にグスターボと友達になったのだろうと推測しながら質問を続けると、唐突に彼は非常に嫌そうな顔をした。

 

「げぇっ、やめてくれよ。あんなのと友達なんて思いたかねぇ。ただ、"礼儀"が必要だろ?」

 

「殺すためにわざわざここへ?」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)越しだが、ピリッとした視線が交差する。正直なところ、アルはオラシオにはそんなに良い感情が芽生えなかった。彼が飛空船(レビテートシップ)を開発していなければ……などと言うのは『たられば』になってしまうが、仮に彼がジャロウデクに雇われていなければあのような惨事は起こらなかったかもしれない。

 ただ、殺すのだけは駄目だ。そう結論付けるにはかなりの暇が必要であったが、『アレ』を害してしまうと雇い先も黙ってはいない。余計な火種をクシェペルカ王国に降り注がせないためにアルはなんとか矛先を逸らそうとすると、グスターボは鼻を鳴らして興味なさげに呟いた。

 

「んなめんどっちぃことはしねぇよ。いざとなったら真っ先に斬るが、あっちに喧嘩売るにしてもうちだってそんな暇じゃねぇんだ。石拾いが主題でこっちがついでだ」

 

「あぁ、良かった。てっきり暗殺者役でも仰せつかっているのかと」

 

「ま、あのヒョロさなら勢いあまって……ってこともあるかもしンねぇっか。安心しな、俺流の手加減でやってやんよ」

 

 一頻りゲラゲラと笑ったグスターボは、『だからここで待つ』とブロークンソードを膝立ちにさせる。そんな彼の結論を聞いた船員達は着々と船が流されないように固定作業を行っていることから、この場は梃子でも動かない気だろう。

 

「えーっと、ここは地図だと……ここか」

 

「どした?」

 

「いえ。物事が手筈通り進めば、僕がオラシオさんを救出する役目なので」

 

「ほほう。じゃあ、色々手引きした手間賃を──」

 

「払いますよ。これで貸し借りなしってことで」

 

 思えば儲けにならないハルピュイアの救出のために色々割を食ってもらった記憶もあるため、あっさりとオラシオを少しの間だけ貸し出すことを約束するアル。

 無論、アルはパーヴェルツィーク王国の所属ではないためにバレたら危ないが、ちゃんと引き継ぎなどの『諸々』を行わずに脱走したオラシオ側が悪いと結論付けたことでそれはそれ、これはこれの精神で契約は成った。

 

「じゃ、俺はこの辺で待ってっからな」

 

「了解でーす。じゃあ僕は拠点の防衛に戻るんで」

 

 やたら軽い感じでアルはグスターボと別れると、一気に拠点がある島を目指す。既に魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)は最後の第3加速まで行っているみたいで、大量の墨を垂らしたような黒雲の切れ間から眩い太陽のような魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の光が見える。思いのほか時間を食ってしまったらしい。

 

 周囲の状況を鮮明にすべく、松明や魔力で灯らせるライトの明かりが忙しなく動いている拠点の姿を視認したアルは安堵の息を漏らすのも束の間。ガルラの下で大量の幻魔獣(マンティコーラ)と防衛部隊がぶつかり合う怒号や金属音などに一瞬で表情を曇らせた。

 

 幻晶甲冑(シルエットギア)や新しい源素化兵装(エーテリックアームズ)の導入で拠点に押し込まれずに済んではいるが、数が数なので早急な増援が必要なのは間違いない。そう結論付けたアルは、ガルラを上空で幻晶騎士(シルエットナイト)形態に変形させるとエーテリックスピアを搭載した小型内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)幻魔獣(マンティコーラ)の群れに向かって掃射──するはずだったが。

 

「あれ、動かない」

 

 左側に接続した小型内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)がうんともすんとも行かないことに首を傾げるが、右側のは仕様通り動いたので検証は後で行おうと装填されたエーテリックスピアを引き抜いて地上へと降下する。

 

「アルフォンス! エルネスティの用は終わったのかい!」

 

「滞りなく。群れはこれで全部ですかね?」

 

「あぁ、あんまり頭の方は良くないらしい。力押しで来るから結構楽だよ。……ただね」

 

 エルから賜ったらしい新しい剣を振り回しては魔法生物(マギカクレアトゥラ)ごと幻魔獣(マンティコーラ)を吹き飛ばすグゥエラリンデからディートリヒの頼りなさそうな声。そんなグゥエラリンデが首を動かしたので、ガルラの首を同じように動かす。

 

 そこには1機の巨大な幻晶騎士(シルエットナイト)が居た。否、幻晶騎士(シルエットナイト)であればどれほど良かっただろうか。

 半ば砕け散った胴体に数多の幻晶騎士(シルエットナイト)が取り付き、それらが巨大な手足となっている異業なる存在。普通であれば重量的にとてもその姿を維持できないのだが、魔法生物(マギカクレアトゥラ)が糊の役割を果たすことでそれは形を成していた。

 

「あれは何ですか?」

 

「エーテライト塊を持ってくる時に邪魔してきたやつだよ。どうやら付いて来たらしい」

 

「おオォレノヲオォ ざいサァアん! ガエ"せ がエ"ェゼエエ!」

 

 なんでも魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)に搭載した源素晶石(エーテライト)塊が埋まった所で襲われたらしい。『ヒューマン以外からモテますね』と言いそうになったが、それは余りにもアストラガリやハルピュイアに失礼だと呑み込んだアルは臨戦態勢を取る。

 

 天翔ける竜がこの騒動を終わらせる一手を担う光の円環を作り出している別の所で、魔法生物(マギカクレアトゥラ)とそれ以外による生存競争の第2幕が始まろうとしていた。




VOBはロマン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。