まず、前段作戦の前の下準備として紅隼騎士団が持ってきた巨大な
「バトソン!」
「あ、アル! いきなりあんなの言われても困るのはこっちなんだよ? 一応、親方達にも手伝ってもらって出来る限りはしたけどさ」
「あー、すみません。でも、"出来る限りの装備で"と指示したのは兄さんなので後はそっちで対応してください」
ガルラに新規装備を含めた諸々の取り付けなど頼んでおいた工房へ向かって走っていたアルの耳にバトソンの文句が届く。だが、『困る』と言われようともそれをやって欲しいと頼んできたのはエルの方なので、平謝りしつつも責任の所在は銀鳳騎士団のトップであることを念押ししておく。
そんな言い訳がましいことを言いながら走っていると、ようやく飛行形態のまま係留しているガルラまで見えてきた。2人の存在に近くで作業の最終確認をしていたダーヴィドが気づくと、親指でガルラを指差しながら不満顔で先ほどバトソンが言ってきたことと同じような文句を言ってくる。
「銀色小僧! 俺たちゃやれって言われたらやるが、夢物語の魔法使いじゃねぇんだぞ!」
「えぇ、承知しています。最低限、マギカクレアトゥラと戦えるようになれば十分です」
「親方、指示したのはエルだからそれ以上アルを責めても仕方ないよ」
先ほどの会話から責任の所在はエルの方にあることを教えられたバトソンが口を挟むが、そんな説得をもってしてもダーヴィドは怒り心頭であった。
だが、
可変機構を備える法撃に重きを置いた
流石に
ただ、デメリットとして多少の重量が増加したことと、
なお、設計に関しては機動戦士なアニメの敵役が装備しているようなミサイルポッドをパク……オマージュした形状をとっており、突貫設計にしてはデメリットが少ない点も相まってアル個人としては割と気に入っていたりする。
「時間がなかったから片側3本の計6発しか発射出来ねぇからな? 後、あのエーテリックスピアにはシルバーナーヴが付いてなかったが、あれで良いのか?」
「はい、直線に飛ばすので問題ないです」
ダーヴィドとの会話を続けながらアルは降下甲冑を纏うと操縦席に固定させる。操縦席には見慣れないボタンが2つあり、気になったアルが固定の確認をしていたダーヴィドに問うと先ほど説明された
「すみません、助かります」
「予備はねぇからな? エーテリックスピアの補充がしたけりゃ外すまでは良いが、失くすなよ?」
「善処します」
ダーヴィドの目から『手荒に扱うな』といった圧を感じるが、アルはどこ吹く風で答える。仮に戦場で不足の事態に陥った場合、彼は心の中で申し訳なく──もしかしたら何度も謝罪の言葉を口にした後に『沢山謝ったから良し』と言いながら容赦なく投棄するだろう。
「お前なぁ……。まぁ、良いや。槍を補充したけりゃ失くすなってだけだ。ほれ、次だ。持ってきて良いぞー!」
馬の耳に念仏をねじ込んだような反応を返すアルに、ダーヴィドはすっかり諦めた様子で
すると、今度はいくつもの
「うわ、剥き出しですね」
「時間がなかったし、すぐに使い終わるもんだしな。ほれ、とっとと上書きしろ」
外装や研磨を施す時間も惜しかったらしく、よく見ればごつごつしている筒状の物体を飛行形態をとっているガルラの左右に簡単な溶接で取り付けられる。そこから身体強化の範囲を書き換えることでそれらの
「ほれ、お呼びだぞ」
そんなことをしていると、暴風雨が吹き荒れる空を突き抜ける一条の蒼い閃光が瞬く。その信号法弾の詳しい符丁は分からなかったが、『蒼い』というだけで素早く宛先と差出人の関係を見抜いた彼はこれまた素早い行動でガルラから降りて工房内に居た
「エーテルリアクタの吸気経路を再確認。エーテル量正常。エーテリックレビテータ作動。内包エーテル量、許容値。マギウスジェットスラスタ及び変形スクリプトのテストコードを実施……正常値。トーイングアンカーを収納。行けます」
マガツイカルガニシキのようなキーボードではないが、所々のある計器を指差し確認しながらアルは機体をチェックしていく。
これより行われるのはフレメヴィーラ王国には直接関係はなくとも、失敗すれば新しく生まれ変わったクシェペルカ王国を再び戦乱の真っ只中に叩き落してしまうやもしれぬ大規模作戦だ。ゆえにいつもなら多少簡略化させる作業もしっかりと点検し──やがて全ての事前作業が完了する。
その頃には既に
「では、アルフォンス・エチェバルリア。行ってまいります」
「言っとくが、銀色坊主には深入りするなよ! おめぇーはもうフレメヴィーラとクシェペルカのやんごとなき人間に両脚突っ込んでんだからな!」
暗に『危なくなったら即時撤退しろ』という指示だろうが、あまりにもその通りな言い方にアルの中に居た小市民が断末魔を上げる。
おかしい。アルの当初の人生設計では適当に騎士になり、適当に
それがなぜか学園時代には銀鳳騎士団の創立メンバーに入り、侯爵の娘にアプローチされ、今ではやんごとなき方々の仲間入りである。サクセスストーリーにしてもやりすぎだ。
「直掩に入りました」
「やっぱり戦艦ものは直掩機があると映えますねぇ」
ただ、それを手放すかと言われたら今のアルは即座に『NO』を叩きつけるだろう。なんといっても彼は今も
「エーテル濃度を最大に!」
「全部起動するよー」
事前に起動していた
「上昇姿勢確保!」
「外部から確認出来ました!」
「オラシオだ。そろそろ第1目標高度を突破するぞ」
マガツイカルガニシキとガルラによるダブルチェックが為された後、オラシオからそろそろ目標高度を突破するという報告が2人の耳に入る。
そして、その報告から次の段階に入るための準備を機に2人は一斉に取り掛かった。
「推力最大!」
「追従します!」
一方は
「直線機からオラシオさんへ、大丈夫ですか!?」
「だい……じょうぶに……みえ……がぁっ!」
まるで天から降ってきた彗星を逆再生したかのような軌道を描きながら登っていくが、やはりその加速力は一介の鍛冶師には厳しかったらしい。アルの生存確認にオラシオは苦し気な返答を返すのみであったが、そんな彼も空の果てという『夢』を追う人間らしく根性は座っていた。
「エルネスティっ! エーテルチャー……ジャーをぉ! 最……大……にぃ……しろおぉぉ!」
「分かりました!」
オラシオの精一杯の指示にエルは全
この装置はかつてオラシオが開発し、ティラントーに取り付けられていた
そして、その改修内容の中には急激な炉の劣化を起こすような高濃度エーテルに対する機能といった『リミッター』を当然かけているわけだが──。
「リミッター解除! 全力全壊で行きます!」
これも当然のごとくエルは解除し、
リミッターを解除したことで
「申し訳ない気持ちになりますね」
赤熱化した装甲が剥離した瞬間や固定ごと
その間にもどうやら既定の高度は稼げたらしい。エルは感謝の言葉と共に役割を終えた
その光景を何かを耐えるような表情で見届けたエルは続けてトゥエディアーネによる加速をかけようとすると、はっと息を呑んだ後に叫ぶ。
「緊急事態! ドラッヒェンカバレリの一部が離れていません!」
「んなぁにぃ!?」
緊急事態の報告にいち早く反応したオベロンは魔王の首を左右に振りながら元凶を探すと──居た。固定用の器具から外れてはいるが、
「おいおいおい、まずいぞ! 既に全体が赤熱化してる!」
「法撃で排除できませんか!?」
「無茶言うな! ウィスパードソングで何とかできないのか!」
「操作を受け付けません! おそらく、暴走しているかと」
魔王の法撃は
しかし、このまま放置すると緻密に計算しながら計画がずれる可能性や爆発をもろに食らって作戦自体がご破産する可能性が高い。どうにかして取り除く必要があるが、
そんなどうにか出来ないかという切羽詰まった状況の最中、突如として衝突音が鳴り響いた。先ほどの
今現在も襲い掛かる衝撃に頭を打って幻覚でも見ていたのか、オベロンが不思議に思って再び周囲を見張り始めたのも束の間。今度は遥か後方から小規模の爆発の光を魔王越しにオベロンが見たと同時に雲を突き抜けながらこちらに追いすがってくる飛行物体が1つ。
「すみません、排除に手間取りました」
アルだ。飛行形態で近づいて来るガルラと『排除』という言葉、最後に折り畳まれていた脚部の装甲が凹んでいることにオベロンは先ほどの暴走状態にあった
「ナイスです、アル。では、第2段階へと──」
「すみません、僕はここまでです」
「は? 何でですか?」
今度はトゥエディアーネ群を使用した2段階目の加速といったところでアルは追随不可能と伝える。だが、かなりの急ごしらえであるにしても、ガルラに接続されている
加速度に対するダメージも降下甲冑でガッチガチかつ、強化魔法も当然併用しているだろうことからまだまだ余裕だろうと、エルは珍しく困惑気に尋ねた。
「さっき、"変形"してドラッヒェンカバレリを蹴ったので魔力に余裕がないんですよ」
「あー!」
ここでエルは計算外の事象に気づく。先ほどの脳内シミュレートは『全行程を飛行形態で追随や戦闘による露払いが行われた場合』という条件の上で計算されており、
そのため、変形による魔力消費や
「そもそも、なんで蹴ったんだい」
「オベロン、加速してるこいつを正確に打ち貫けます? 旅客機の爆弾削ぎ落すア〇ランの傭兵じゃないんですよ!」
「君の言っていることは分からん! エルネスティもそうだがな!」
暗に『
現在、この高度ではかなりの気流が発生している。その中を
先ほどのオベロンの意見を言い換えるならば、『手が激しくブレている状態で
しかも、ミスったら今後の作戦に大きく響くデメリットのオマケつきだ。そんな激烈に難しい狙撃をするぐらいならば、魔力を犠牲にして近づいて物理的に排除した方が安全だろう。どこぞの射撃が苦手な赤服でも出来なかったことがアルに出来るわけがない。
しかし、そこら辺のネタを当然知らないオベロンが苛立たしげに答えるが、当然のごとくアルは無視してエルに今後のことを相談し始める。
「まぁ、それは置いといてですね。一応、魔力補給してもらえればまだついて行けますが……もう護衛はいらないでしょ」
「そうですね。一番危険そうな第1加速の高度さえ抜けてしまえば大丈夫だと思います」
アルに護衛を頼む際、エルは一番襲撃されやすい地点として上昇前と
ゆえにこの高度まで来てしまえばそう簡単に撃撃はされないと判断したエルは、アルに拠点付近の防衛に出ている部隊への増援と突入の際に脱出するオラシオの保護を指示する。魔王という強大な乗り物に乗っているオベロンは別として、オラシオは武装も何もない脱出装置で嵐の中で退避しなければならない。そのための措置だ。
「俺としてはそのままどこかへ放浪も吝かじゃないが、今の雇い先も悪くないからな」
「了解でーす」
金のこともあるからか、オラシオも脱出の際の保護には賛成の声を上げる。オラシオの救助も含めて指示を了承したアルは、ガルラの
目標は拠点付近。そこでは白鷺騎士団と合流した紅隼騎士団がパーヴェルツィーク王国の防衛隊と激しい攻防戦を行っているはず──だが、何かを見つけたアルはおもむろに進路を変える。
「あの船は……」
「まー、お世話になりましたから一言だけ言っときますか」
もしかしたら、その辺を航行中にこの嵐で船が破損して立ち往生しているかもしれない。そのため、一応義理で避難勧告や避難の手伝いぐらいはしてあげようと
そうすると、こちらを視認した見張りが居たのだろう。甲板の昇降機が上下し、中からブロークンソードが現れる。
「あーあー! 聞こえますかー」
「あン? その声はエルネステ……いや、そのシルエットナイトはアルフォンスか。わっかりにきぃンだよ、お前ら」
『姿が似ているから紛らわしい』と言われ慣れているが、まさか声までもとアルは多少げんなりするが、気を取り直して現状進んでいる作戦の概要と周囲の危険を周知する。そうすると、グスターボは『凡そは知ってンよ』と発言する。
「おや、知ってたんですか?」
「ちょっと考えりゃ、ちょっとは分かるこった。そンでなんかやることないかと彷徨ってたら双剣のと出会っちまってな。手伝った礼に、斬り合いでも頼んでみるかと悩んでたら言い出す前にさっさと行っちまった」
「それじゃあ、早くこの場を離れてください。もうすぐ振ってきますよ?」
防衛戦で手一杯の時にこの狂人がやってきたら即座に終わりを意味するため、アルはグスターボの悔しそうな声を右から左に流しながら『退避』を推奨する。
前もって作戦概要を伝えて周囲に危険が及ぶ可能性があることを伝えたのが功を奏したのか、話を聞いていた船員達は『お頭!』と撤退方向に話を向けるが、グスターボ自身は退避に否定的な様子だった。
この期に及んで何が彼をこの場に縫い留めているのだろうか。それが気になったアルは思い切って聞いてみることにした。
「あん? さっきおめぇーがいってたろ。あいつだよあいつ」
「ほら、あの眼鏡だよ。眼鏡」
「あー、オラシオさんでしたっけ。ご友人なんですか?」
外見的特徴を言われてやっとアルはオラシオのことだと理解する。少し前、彼はジャロウデク王国に雇われていたはずである。その時にグスターボと友達になったのだろうと推測しながら質問を続けると、唐突に彼は非常に嫌そうな顔をした。
「げぇっ、やめてくれよ。あんなのと友達なんて思いたかねぇ。ただ、"礼儀"が必要だろ?」
「殺すためにわざわざここへ?」
ただ、殺すのだけは駄目だ。そう結論付けるにはかなりの暇が必要であったが、『アレ』を害してしまうと雇い先も黙ってはいない。余計な火種をクシェペルカ王国に降り注がせないためにアルはなんとか矛先を逸らそうとすると、グスターボは鼻を鳴らして興味なさげに呟いた。
「んなめんどっちぃことはしねぇよ。いざとなったら真っ先に斬るが、あっちに喧嘩売るにしてもうちだってそんな暇じゃねぇんだ。石拾いが主題でこっちがついでだ」
「あぁ、良かった。てっきり暗殺者役でも仰せつかっているのかと」
「ま、あのヒョロさなら勢いあまって……ってこともあるかもしンねぇっか。安心しな、俺流の手加減でやってやんよ」
一頻りゲラゲラと笑ったグスターボは、『だからここで待つ』とブロークンソードを膝立ちにさせる。そんな彼の結論を聞いた船員達は着々と船が流されないように固定作業を行っていることから、この場は梃子でも動かない気だろう。
「えーっと、ここは地図だと……ここか」
「どした?」
「いえ。物事が手筈通り進めば、僕がオラシオさんを救出する役目なので」
「ほほう。じゃあ、色々手引きした手間賃を──」
「払いますよ。これで貸し借りなしってことで」
思えば儲けにならないハルピュイアの救出のために色々割を食ってもらった記憶もあるため、あっさりとオラシオを少しの間だけ貸し出すことを約束するアル。
無論、アルはパーヴェルツィーク王国の所属ではないためにバレたら危ないが、ちゃんと引き継ぎなどの『諸々』を行わずに脱走したオラシオ側が悪いと結論付けたことでそれはそれ、これはこれの精神で契約は成った。
「じゃ、俺はこの辺で待ってっからな」
「了解でーす。じゃあ僕は拠点の防衛に戻るんで」
やたら軽い感じでアルはグスターボと別れると、一気に拠点がある島を目指す。既に
周囲の状況を鮮明にすべく、松明や魔力で灯らせるライトの明かりが忙しなく動いている拠点の姿を視認したアルは安堵の息を漏らすのも束の間。ガルラの下で大量の
「あれ、動かない」
左側に接続した小型
「アルフォンス! エルネスティの用は終わったのかい!」
「滞りなく。群れはこれで全部ですかね?」
「あぁ、あんまり頭の方は良くないらしい。力押しで来るから結構楽だよ。……ただね」
エルから賜ったらしい新しい剣を振り回しては
そこには1機の巨大な
半ば砕け散った胴体に数多の
「あれは何ですか?」
「エーテライト塊を持ってくる時に邪魔してきたやつだよ。どうやら付いて来たらしい」
「おオォレノヲオォ ざいサァアん! ガエ"せ がエ"ェゼエエ!」
なんでも
天翔ける竜がこの騒動を終わらせる一手を担う光の円環を作り出している別の所で、
VOBはロマン