銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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161話

 極彩色の光が厚い雲の向こうからも見える戦場にて、銀鳳大騎士団麾下の拠点防衛隊は幻魔獣(マンティコーラ)の真ん中で暴れまわる巨大な幻晶騎士(シルエットナイト)に唖然としていた。

 そう、暴れまわっているのだ。幻魔獣(マンティコーラ)という幻晶騎士(シルエットナイト)に潜む魔法生物(マギカクレアトゥラ)的には仲間のような存在の中心で駄々をこねた子供のように巨大化した腕を振り回し、地団太を踏む巨大幻晶騎士(シルエットナイト)。その証拠に混成獣(キュマイラ)の部分を叩き潰したり、幻晶騎士(シルエットナイト)部分を叩き潰したことで生じた肉片や金属片がこちらまで飛び散ってくるため、アルとディートリヒの不快指数が留まることを知らない。

 

「これ、もうちょっと時間おきません? 全部倒してくれるかも」

 

「同意見だね。適当に距離を取ろうか」

 

「いやいやいや、お前達は何を言ってるんだ」

 

「あ、エドガーさんお疲れ様でーす」

 

 アルとディートリヒがフレメヴィーラ騎士にあるまじき消極的な行動を取ろうとしていると、自身の担当していた敵を屠って追いかけてきたエドガーが呆れ気味に会話に参加する。

 無論、会話に参加する距離まで近づいているのでアルディラットカンバーの純白の装甲にも肉片や金属片が飛んできている。ただ、アル達同様に若干嫌そうに表情を引き攣らせながらも盾と剣を構えるところから流石は生真面目という言葉が服を着て歩いていると話題の騎士というべきだろうか。

 

「しかし、あれをどうやって倒すっていうんだい」

 

「前はどうしたんですか?」

 

「あー……。詳しくは言えないんだがね」

 

 『ジャロウデクの剣狂いに手助けされた』と口が裂けても言えなかったディートリヒは簡潔に話し出す。

 当初は複数の幻晶騎士(シルエットナイト)の部品と複数の混成獣(キュマイラ)の肉体をこねくり回したような醜悪な見た目なのは目の前にいる進化後と変わりなかったが、その大きさはツェンドリンブルを見慣れていればツェンドリンブルよりも多少大きいぐらいの『割と常識的』な大きさだったらしい。

 そして、その倒し方は紅隼騎士団が密かにもらい受けていた戦馬車(チャリオット)の強化版である『クリムゾンチャリオット』による力押し。しかも、件のクリムゾンチャリオットは戦場の狭さゆえに飛空船(レビテートシップ)内で眠りについている事実にアルは心の中で『ジーザス』と叫ぶ。

 

「私が相手をした時はキュマイラとかいう魔獣の肉体も混ざってたが、見事に固いシルエットナイトの部材のみになってるね」

 

 そんな中、『学習でもしたのかね』と当事者にしては覇気が感じないディートリヒの言葉が紡がれる。その言葉に釣られたアルとエドガーは、揃って巨大幻晶騎士(シルエットナイト)を見やった。

 

 そう──巨大幻晶騎士(シルエットナイト)だ。数多の幻晶騎士(シルエットナイト)がくっついている異様な作りだが、中央部に居る元騎操士(ナイトランナー)らしき物体以外の生身は一切ない。純粋な金属の塊である。

 幻魔獣(マンティコーラ)混成獣(キュマイラ)という簡単に槍を突き刺せる部分があるためにやりやすかったが、法撃を無効化されている状態で大きな質量を持つ相手は中々にヘヴィーな相手だ。──巨体だけに。

 

「もうほっときましょうって。あのまま暴れてくれれば敵が少なくなりますから」

 

「いや、拠点に近づいて来るだろ」

 

 未だに転進を切望するアルだが、アルディラットカンバーの首を左右に振りながらエドガーはその意見を却下する。

 今はまだ拠点から離れているが、このまま放置するとあの巨大幻晶騎士(シルエットナイト)がどういった行動を取るのか予想が出来ないのだ。そして、拠点にはフリーグデントやエムリスといった護らなければならない人間やイズモやアサマといった帰るための足が存在している。どちらにしてもこの場で討ち取らなければ、怖くてうかつに目を離すことも敵わない。

 

「じゃあ、ファルコネット持ってきます?」

 

「もう物理的に吹き飛ばせば良いんじゃないかな」

 

「あー、これでか」

 

 ディートリヒの提案にアルディラットカンバーに持たせていた紋章術式(エンブレム・グラフ)が刻まれた剣に目を向ける。

 

 魔導剣(エンチャンテッドソード)。アルが開発した推進剣と同じく刀身の強化と魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)によって近接攻撃能力を上げた装備だが、この剣には追加能力として執月之手(ラーフフィスト)と同じく刀身の周囲に爆炎魔法を放射させる機能を有している。

 その威力は幻魔獣(マンティコーラ)の下半身である混成獣(キュマイラ)の肉体を粉々に粉砕するほどすさまじく、ディートリヒはそれを巨大幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦席に突き刺して爆散させようという考えを話した。

 

 無論、突き刺す担当は特に危険なのだが、他の2機も圧倒的な隙を生み出すために動き回って攪乱しなければならないためにかなり危険な作戦となる。

 ただ、他に案を即座に出せるかと問われれば首を横に振るしかないためにエドガーとアルは頷いてその提案を呑む。──が、問題は役割をどう割り振るかだ。

 

「では、誰が突撃します?」

 

「ん」

 

「ん」

 

 アルディラットカンバーとグゥエラリンデの指がそれぞれガルラを指し示す。

 

 なにが『ん』だろうか。もしや、魔法生物(マギカクレアトゥラ)が指先に憑りついたのでへし折って欲しいのか。そんな感想と共に『お前らどっちかがやれよ』といった意思を込めてガルラの両手で2機を指し示したが、よくよく考えればあのような巨大な幻晶騎士(シルエットナイト)を倒すには1本、2本では到底足りないだろう。

 改造を施すことも視野に入れたアルは、最終的にため息混じりで了承した。

 

「良いですよ。ディーさんの奴を貸してください、改造します」

 

「すまない」

 

「助かるよ。この中で一番性能が良いのはガルラだからね」

 

 ディートリヒの言葉も事実である。防御面や機動力といった機体の性能面で見ればガルラは彼らの乗機よりも遥かに高性能だ。乗り手としての性能も彼らと遜色ない──いや、あの規格外(エルネスティ)まではいかずとも秀でていることは確かだ。

 失敗した時のことを度外視すれば、作戦の成功率的にアルを前に出すのは実に理に叶っている。

 

 そんな彼らの言葉に、グゥエラリンデから魔導剣(エンチャンテッドソード)を受け取ったアルは渋々ながら了承するが──。

 

「一応僕、クシェペルカのやんごとなきお方ですよ? 重要人物ですよ?」

 

『そう思っているのなら、もう少し大人しくしててくれ(ないか)』

 

 アルの苦し紛れの反論にエドガーとディートリヒは無慈悲に切り捨てる。

 敵の船への強襲に始まり、遭難。そして度重なる前線での戦い。軽く数えただけでも決して少ないない事件を巻き起こしたアルがその言葉を言うにはお門違いも甚だしい。

 

 その返しに『ぐぬぅ』と何も言い返せない様子のアルだったが、どうやらそれらの寸劇は相手にとって面白くなかったらしい。

 

「りエキィィ! カエセあaa!」

 

「では、手筈通りに」

 

「任された」

 

 もはや人の言語すらも怪しくなりかけている存在が拳を振るう。幻魔獣(マンティコーラ)数匹の存在諸共潰したその一撃を散開することで回避した3機は、それぞれ与えられた役目に従って行動を開始した。

 

 アルディラットカンバーとグゥエラリンデは、手持ちの装備にて巨大幻晶騎士(シルエットナイト)や数匹の幻魔獣(マンティコーラ)と対峙する。

 

「まずは露払いだな」

 

「そうだね。ちょっとこれは多い」

 

 そう言って2機は揃って源素化兵装(エーテリックアームズ)を前に出す。本来であれば両騎士団の予備戦力をここに集めれば良いだけなのだが、不確定要素である巨大幻晶騎士(シルエットナイト)を相手にさせるのは元銀鳳騎士団から移籍した古参メンバーでないと厳しい。そして、肝心の古参メンバーは漏れなく中/小隊の指揮を執ってもらっているので動かしにくい状況ゆえに、ここはエドガーとディートリヒが頑張るしかない。

 

「ディー、まずはマンティコーラ。そしてあのデカブツで良いか?」

 

「構わないっよ!」

 

 ディートリヒの返事と共にグゥエラリンデが猛然と突進する。慣れ親しんだ二振りの剣を巧みに動かし、幻魔獣(マンティコーラ)幻晶騎士(シルエットナイト)部分を接合が緩い関節ごとに、混成獣(キュマイラ)部分は四肢ごとに解体していく。

 まるで屠畜場で働く職員のように瞬く間に混成獣(キュマイラ)部分を1体解体すると、十全に動ける目の前の寄生候補目掛けて魔法生物(マギカクレアトゥラ)が襲い掛かってくる。

 しかし、歴戦の騎士であるディートリヒは慎重に相手が移動する速度や距離を見計らうと、バックウェポンに装備してあるエーテリックスプレーを前方に出して噴射することで魔法生物(マギカクレアトゥラ)を弾き飛ばすことで難を逃れる。

 

「さぁ、こっちだ!」

 

 一方でエドガーはというと、盾を打ち鳴らしながら巨大幻晶騎士(シルエットナイト)の注意を自分の方に向かわせていた。人間からしてみればガンガンとけたたましい音が嫌でも注意を引くが、人間ではない存在はどうだろうと内心では不安がっていた彼だったが、どうやら魔法生物(マギカクレアトゥラ)にも効いたようでほっと安心するのも束の間。巨腕がアルディラットカンバーを潰さんと迫ってくる。

 

「ディー、ここから先は入ってくれるなよ!」

 

「承知した!」

 

 可動式追加装甲(フレキシブルコート)を地面に引っかくことで『境界』を設定したエドガーは、巨腕の攻撃から逃れるためにアルディラットカンバーを走らせる。右に避け、左に避け、時には可動式追加装甲(フレキシブルコート)で叩いて軌道を逸らしたり、わざと幻魔獣(マンティコーラ)の近くによることで同士討ちを狙う。

 

 そんな戦いぶりにエドガーの中の騎士の心が『騎士の戦い方か? これが』と苦笑いをする。たしかに真っ向から打ち合うには少々どころではない程巨大だが、こうも避けたり同士討ちを誘うのは如何なものか。

 だが、同時に内なるアルが『勝ちゃ良いんですよ。勝ちゃ』と囃し立てる。

 その解像度の高さにエドガーはまたもや頬を緩ませながら回避や位置取りといった挙動の鋭さをより鋭利にしていく。

 

「白鷺騎士団の防御は受けるのみに留まらないことを覚えてもらおうか!」

 

 より自分に食いつきやすいよう、エドガーの咆哮が轟く。

 

 そんな彼らの奮闘の後ろでは、アルがガルラから降りてグゥエラリンデの魔導剣(エンチャンテッドソード)に細工をしていた。当然ながら未だに幻魔獣(マンティコーラ)幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)が入り乱れている戦場の真っ只中である。

 そんな危険性を孕みながらもアルは、手持ちのハンマーと鏨を使って慎重に紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻んでいく。

 

「えーっと、ここがこうなってるから……。ここにこれを組み込んで」

 

 何度も処理を繰り返すループや値さえ放り込んでしまえば勝手に変換して返却してくれるクラス化などを用いつつ、アルは既に完成されている魔導剣(エンチャンテッドソード)を改造していく。

 ただ、時間も限られている中で試作機ではない完品をさらに用途を限定するような改造は例え同郷の転生者でも無理だろう。この行動は言うなれば、限られた既に完成した至高の剣を打ち直して元の性能以上の剣にするようなものだ。一部のミスがそのまま『バグ』という形で反映し、全てを台無しにしてしまう。

 

 しかし、アルにはそれが出来る。製作者のエルと同郷に加え、彼はアルの上司なのだから。

 コードを書く癖、よく用いる作法、処理のまとめ方。彼の仕事ぶりや成果物、レビューをしてもらった際の駄目だしを経験したからこそ実行することが出来る離れ業である。

 

「よし、出来た。後は……見直し!」

 

 だが、いくら優れたプログラマーでも人間であるからには『ミス』はある。たった数行の配置ミス──たった1文の処理ミス──たった1文字の単語ミス。それだけでも処理は動作せず、その動作が出来ないために求めた結果を返却が叶わず連鎖的に崩壊してしまう。

 

 それを防ぐためにアルは見直し作業に入る。目の前では巨大幻晶騎士(シルエットナイト)やかなり数が少なくなった幻魔獣(マンティコーラ)にアルディラットカンバーとグゥエラリンデが奮闘し、少し遠くでは彼らの騎士団や騎士団から抽出された幻晶甲冑(シルエットギア)の部隊。そして、パーヴェルツィーク王国の防衛隊という大部隊が拠点防衛のために奮闘している中、黙々とアルは自分の作業に没頭する。

 

 エルの書いた処理の流れを把握し、自分の書いた処理に飛ぶのか。どんな異常があった場合はどう伝えるのか。どういうことをするのが正常か。そして──最終的に何を為すのか。

 

「整った」

 

 時間にして10分。アルとしては長くかけ過ぎた見直し作業は完了する。

 即座にガルラの操縦席へと戻ったアルは、改造を施した1振りの魔導剣(エンチャンテッドソード)を左右に装備してから前方に準備完了を叫ぶ。その声に反応した2機は何も言うことなく左右に分かれ、巨大幻晶騎士(シルエットナイト)の手に突撃を開始する。

 既に周囲には幻魔獣(マンティコーラ)を形成していた混成獣(キュマイラ)の肉片や幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸のみが残されており、後は巨大幻晶騎士(シルエットナイト)を倒すのみという万全の状態となっていた。

 

 なお、それを為したのが巨大幻晶騎士(シルエットナイト)自身という事実がこれまたエドガーをげんなりとさせるのだが、それはそれ。これはこれである。

 

「やはり硬いね」

 

「あぁっ!」

 

 2機の剣戟が巨大幻晶騎士(シルエットナイト)の腕部に直撃する──が、力押しの一撃は過剰に強化された幻晶騎士(シルエットナイト)の集合体の前に呆気なく弾き返された。注意を引くついでに腕の一本でも切り落としたかったディートリヒは悔しさに口元を歪ませるが、エドガーの声掛けによって次なる一手を打つ。

 

「ならば動かせないように固定するのみ!」

 

 巨大幻晶騎士(シルエットナイト)から繰り出される巨腕をジャンプで躱した2機は手に持った剣を巨腕に突き刺す。腕を形成している数多の幻晶騎士(シルエットナイト)の隙間を縫って突き刺された剣はしっかりと固定され、2機はそれにしっかりと捕まりながら背面武装(バックウェポン)可動式追加装甲(フレキシブルコート)の裏に装備したエーテリックスプレーを展開。巨腕の所々から間欠泉のごとく噴き出してくる魔法生物(マギカクレアトゥラ)に向けて攻撃を始めた。

 

 エーテリックスプレーから噴射される高濃度のエーテルが壁となり、魔法生物(マギカクレアトゥラ)を跳ね返す。その様子にエドガーとディートリヒは、それぞれの機体に装備されたランチャーからあまり使用しない何にも着色されていない信号法弾を打ち上げた。

 

「はナセ"! ハな"せェえ!」

 

「誰が離すものか!」

 

「悪いが、もう少しだけ俺達に付き合ってもらおう!」

 

 明らかな時間稼ぎ。魔法生物(マギカクレアトゥラ)もそれを察したのだろうか、攻撃は苛烈を極めていく。ただ、エーテルの壁に阻まれてそれ以上の進行もままならない。

 

 そんな時、巨大幻晶騎士(シルエットナイト)の正面から何かが猛烈な勢いで突っ込んで来る。知覚という感覚が魔法生物(マギカクレアトゥラ)にあるのか分からないが、その何かに向けて巨大幻晶騎士(シルエットナイト)は手一杯の巨腕の代わりにこれまた巨大な足で勢いよく踏みつけた。

 

 浮遊した大地を揺らすほど凄まじい踏みしめ。さしもの幻晶騎士(シルエットナイト)でも、まともに食らえば中身の騎操士(ナイトランナー)ごと軽くペシャンコだろう。

 

 ──当たればの話だが。

 

「取った!」

 

 魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の甲高い音に紛れ込んだ叫びと共に巨大幻晶騎士(シルエットナイト)で唯一、元のサイズであった胸部の操縦席に大剣が突き刺さった。その一刀によって操縦席に取り込まれている未だ人の姿を辛うじて残していた肉の塊は両断される、

 

「チェックメイト!」

 

 大剣を突き刺したアルはガルラの腕を思いっきり振り被ると、魔導剣(エンチャンテッドソード)の柄を思いっきり殴り付ける。その勢いは半ば突き刺さった魔導剣(エンチャンテッドソード)をさらに奥へ食い込ませる結果となり、同時にガルラの手から流れた膨大な量の魔力が魔導剣(エンチャンテッドソード)全体に行きわたって1つのギミックを起動させた。

 

 それは魔導剣(エンチャンテッドソード)に元々込められた執月之手(ラーフフィスト)と同じ周囲に爆炎魔法を放射する紋章術式(エンブレム・グラフ)。だが、もしものためにエルによって使用者まで爆炎が届かない規模という制限が付けられていたのだが、アルはその紋章術式(エンブレム・グラフ)をわざわざ書き換え、さらには威力を増す紋章術式(エンブレム・グラフ)を何度もループさせる処理を加筆することで持ち手ごと爆炎の餌食になるように『魔改造』していた。

 そんな魔導剣(エンチャンテッドソード)を殴りつけた反動で大きく後ろに下がったガルラのすぐ側を放出された炎が掠めたため、アルは若干ながら強化のし過ぎを反省したのだが、『やってしまったものは仕方ない』という精神で爆炎によって幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦席を中心に大爆発を起こす巨大幻晶騎士(シルエットナイト)を見やる。

 

「ァアアあ きょダい……エーテらイトヲ。 リえキィ……」

 

「あんなになってまで利益優先とは、商人というのも度し難い生き物だね」

 

「うちの御用商人はあのような感じではないのだがなぁ」

 

「それが普通かと」

 

 爆発によって全体が弾け、その炎に焼かれても尚、利益を追求するようなうわ言を放つ狂人。いや、この場合は人の体もなしていないことから化け物と言っても失礼にならないだろう。そんな存在に対して一同は呆れを通り越し、形容しようがない清々しさを感じながら目の前の存在から魔法生物(マギカクレアトゥラ)が出てくる瞬間を今か今かと待っていた。

 

「ほい、来た。お二方、よろしくお願いします」

 

「了解」

 

「既に投射している」

 

 飛んで火に居るなんとやら。宿主が使い物にならなくなった瞬間、魔法生物(マギカクレアトゥラ)はこちらを取り込もうと突撃してくる。しかも、幻魔獣(マンティコーラ)に巣食っていたのも合流したのか少々巨大な存在だったが、大きさを増してもアルディラットカンバーとグゥエラリンデから放たれたエーテリックスプレーから噴き出された高濃度のエーテルには太刀打ち出来ず、動きを封じられると同時に左大腿部に接続した動作しない内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)から最後のエーテリックスピアを引き抜いたガルラが巨大魔法生物(マギカクレアトゥラ)を細切れにする。

 

「これで一段落だね。やれやれ、思いがけない強敵だったよ」

 

「そうは言うが、そもそもお前が連れて来なければ楽に防衛できたと思うぞ」

 

「仕方ないじゃないか。私もあんなにしつこいとは思わなかったよ」

 

「はいはい、銀鳳騎士団のノリはここまでですよ」

 

 まるで一口大にまで刻まれた魔法生物(マギカクレアトゥラ)がボロボロと砕け散る様子を前に、一仕事終えた騎士団長2人が揃って減らず口込々の雑談を始めた。

 ただ、既に拠点に攻め入ってくる幻魔獣(マンティコーラ)もほぼ駆逐され、彼らの騎士団が追加の指示をもらうために合流してくるのも時間の問題である。元から銀鳳騎士団に居る古参なら問題ないが、銀鳳騎士団の栄光に目をやられて入団した面々からしてみれば、『相手の騎士団の団長と不仲!?』と論理の飛躍をかます輩が居ないとも限らないためにアルは2人に騎士団の長としての仮面を被せる。

 

「そうだね。……騎士団長は不便だね。友人と語り合うことも難儀する」

 

「まったくだ」

 

「仕出かしたことが仕出かしたことですからね。……っと、始まったかな」

 

 未だ騎士団を無理やりつくらされた不満があるのか2人は愚痴を言うが、仕出かしたことを考えればさもありなんといった様子でアルがふと上空を見やると、全体が巨大な源素晶石(エーテライト)塊へと変貌した魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)が雲を突き抜けながら落ちてきていた。

 一筋の流星のように一直線に。そして高速に落ちてくる弩級の質量を持った物体を光の柱──正確にはその中に居た特大の魔法生物(マギカクレアトゥラ)は最後の抵抗にと巨大な触腕を伸ばして押し返そうとする。が、その抵抗は長くは続かない。

 最終的に魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)に力負けした魔法生物(マギカクレアトゥラ)が押しつぶされる形で封印が為され、光の柱を中心として渦巻いていた暗雲はかの決戦騎と天候をも書き換える規格外の化け物が衝突した衝撃によって綺麗に晴らされた。

 

 ──かに見えた。

 

「なんだと!?」

 

「あちらも往生際が悪いな。しかし、失敗か」

 

 源素晶石(エーテライト)塊が完全に魔法生物(マギカクレアトゥラ)を圧し潰したように見えたのも束の間、軟体のような性質を利用したのか僅かな隙間から幾本もの触腕が源素晶石(エーテライト)塊にまとわりつき、それを引き剥がそうとする姿にエドガーとディートリヒは先ほど倒した巨大幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸を見ながら『配下が配下なら、親玉も親玉でしつこい』と悪態をつく。

 

 だが、事態は深刻である。流星槍作戦(オペレーション・バスターランス)は制作側が無理をして、無謀な調整で、残る作業はぶっつけ本番という狂気の深淵も真っ青なぐらいのどブラックな環境下でフレメヴィーラ王国とパーヴェルツィーク王国、そして約数名のクシェペルカ王国の人間が総力を結集させることでようやく実行できた作戦であり、つまるところ──二の矢がなかった。

 

 希望と共に送り出した魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)の敗北に現場に居た全員が絶望に打ちひしがれる。それはエルの無茶ぶりや、ミスったらそのままあの世に行っていたような綱渡り体験を所々で経験していたアルも例外ではなかった。

 

 脳裏ではクシェペルカ王国への報告や退避勧告の流れ。そして、後々始まるであろう第2次大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)に向け、どういったスタンスで居ることが正しいだろうか。という皮算用をはじめたのだが、なにかを発見した彼は鬼が笑うようなことをしていたことを自覚する。

 

 先ほど振ってきた超弩級の質量と比べると明らかに小さい質量。されど、その存在感はまるで一番星のそれであった。

 その星の名前はマガツイカルガニシキ。どうやら、目の前の失敗を認めることが出来ない往生際が悪い奴らがまだ残っていたらしい。

 

「ちょっと兄さんの手伝いをしてきます」

 

「行くのか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

 むしろ、居なければならない。既に銀鳳騎士団から去った身だが、『もしかしたら助けが必要かもしれない』という曖昧な気持ちだけでアルはガルラに接続した変形に必要な追加装備(オプションワークス)以外をパージする。

 これにより、変形時に機首となる部分から射出する大火力の魔導兵装(シルエットアームズ)と腕部に内蔵した魔導兵装(シルエットアームズ)のみという魔獣に対して非常に攻撃力が低い状態になってしまったが、相手が魔法生物(マギカクレアトゥラ)なのでその分だけ加速出来るはずだと自信を納得させ、いざ──というところで。

 

「あー、すまない。アルフォンス」

 

「いっっッだ! ディーさん、なにしてんですか!」

 

 ディートリヒが声をかけたことでガルラはその場でつんのめって転ぶ。降下甲冑が身体を固定してくれていたおかげで難を逃れたが、一歩間違えれば大怪我は必死の事故にアルは大声で怒鳴る。

 しかし、その怒声を真正面から受け止めながらもディートリヒはグゥエラリンデに装備したエーテリックスプレーを差し出すと、そのまま光の柱の方に機体の首を向けた。

 

「残念ながら、私は騎士団長の所にはせ参じることは出来なさそうだ。"あれ"を見た時、負けだと思ってしまったんだ。だが、君は行こうとしている。ならば、せめて武器は持って行ってくれないかい?」

 

「あぁ、そういうことですか。喜んで」

 

「あー、アルフォンス。申し訳ないが、ディーと同意見だ。そういうわけだから、エンチャンテッドソードを持って行ってくれ」

 

 会話に混ざりつつもアルディラットカンバーが魔導剣(エンチャンテッドソード)とエーテリックスプレーを手渡してくる。アルはガルラの両手に内蔵していた魔導兵装(シルエットアームズ)を取り外すと、変形の邪魔にならないようにエーテリックスプレーと魔導剣(エンチャンテッドソード)を各所に固定する。

 

「じゃ、行って来ます」

 

「拠点は任せてくれ」

 

「はやい帰りを期待してるよ」

 

 あくまでも朗らかに飛び去ったガルラを見送った2機。しかし、その内面は悔しさに歪んでいた。

 大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)やボキューズという命がいくつあっても足りなさそうな徹底した場数を踏み、並大抵のことでは動揺しなかった2人だが、今回の敵──魔法生物(マギカクレアトゥラ)の規格外具合には音を上げたらしい。

 

「強くなりたいね」

 

「そうだな」

 

 力不足と心の鍛錬不足を胸に2人の騎士団長──否、『騎士』は黙って光の柱を見上げていた。

 

「あ、ディーダンチョ。うぇーい、おつかれーっす!」

 

「騎士団長! 周辺の魔獣の討伐完了しました!」

 

「ダンチョ!」「ダンチョー!」「クーニッツ騎士団長閣下!」

 

「騎士団長、ご采配を!」「騎士団長!」「エドガー、なにぼぅっとしてるの!」

 

「だー! うるさいよ、お前達!」

 

「……あぁ、今行こう」

 

 ──数分ほど。




さて、そろそろ浮遊大陸編も終了なので一応告知をば。

浮遊大陸で原作(小説版)に追いつくので、一旦【完結】しようと思っております。

※なにかネタが思いついたら投稿する予定ですが、隔週でやっていたのを止めた段階で連載かと自問自答した結果、『時折 連載状態にしていつもは完結状態にしよう』という結論に至りました。
なにか『こういうのどうよ』ってのがあったら意見ください

さて、年の瀬ということですが。今年はかなり執筆時間が削られ、来年もまた大変そうな気配がするので、申し訳ありませんが来年初の投稿を1/14(日)にさせていただきます。重ね重ね、申し訳ありません。

(試しにやってみたライザとの二刀流はやっぱりきつかったということで)

というわけで、年末にお読みくださった方々は良いお年をお迎えください。そしてお正月にこれをお読みくださった方々、明けましておめでとうございます。
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