極彩色の光が厚い雲の向こうからも見える戦場にて、銀鳳大騎士団麾下の拠点防衛隊は
そう、暴れまわっているのだ。
「これ、もうちょっと時間おきません? 全部倒してくれるかも」
「同意見だね。適当に距離を取ろうか」
「いやいやいや、お前達は何を言ってるんだ」
「あ、エドガーさんお疲れ様でーす」
アルとディートリヒがフレメヴィーラ騎士にあるまじき消極的な行動を取ろうとしていると、自身の担当していた敵を屠って追いかけてきたエドガーが呆れ気味に会話に参加する。
無論、会話に参加する距離まで近づいているのでアルディラットカンバーの純白の装甲にも肉片や金属片が飛んできている。ただ、アル達同様に若干嫌そうに表情を引き攣らせながらも盾と剣を構えるところから流石は生真面目という言葉が服を着て歩いていると話題の騎士というべきだろうか。
「しかし、あれをどうやって倒すっていうんだい」
「前はどうしたんですか?」
「あー……。詳しくは言えないんだがね」
『ジャロウデクの剣狂いに手助けされた』と口が裂けても言えなかったディートリヒは簡潔に話し出す。
当初は複数の
そして、その倒し方は紅隼騎士団が密かにもらい受けていた
「私が相手をした時はキュマイラとかいう魔獣の肉体も混ざってたが、見事に固いシルエットナイトの部材のみになってるね」
そんな中、『学習でもしたのかね』と当事者にしては覇気が感じないディートリヒの言葉が紡がれる。その言葉に釣られたアルとエドガーは、揃って巨大
そう──巨大
「もうほっときましょうって。あのまま暴れてくれれば敵が少なくなりますから」
「いや、拠点に近づいて来るだろ」
未だに転進を切望するアルだが、アルディラットカンバーの首を左右に振りながらエドガーはその意見を却下する。
今はまだ拠点から離れているが、このまま放置するとあの巨大
「じゃあ、ファルコネット持ってきます?」
「もう物理的に吹き飛ばせば良いんじゃないかな」
「あー、これでか」
ディートリヒの提案にアルディラットカンバーに持たせていた
その威力は
無論、突き刺す担当は特に危険なのだが、他の2機も圧倒的な隙を生み出すために動き回って攪乱しなければならないためにかなり危険な作戦となる。
ただ、他に案を即座に出せるかと問われれば首を横に振るしかないためにエドガーとアルは頷いてその提案を呑む。──が、問題は役割をどう割り振るかだ。
「では、誰が突撃します?」
「ん」
「ん」
アルディラットカンバーとグゥエラリンデの指がそれぞれガルラを指し示す。
なにが『ん』だろうか。もしや、
改造を施すことも視野に入れたアルは、最終的にため息混じりで了承した。
「良いですよ。ディーさんの奴を貸してください、改造します」
「すまない」
「助かるよ。この中で一番性能が良いのはガルラだからね」
ディートリヒの言葉も事実である。防御面や機動力といった機体の性能面で見ればガルラは彼らの乗機よりも遥かに高性能だ。乗り手としての性能も彼らと遜色ない──いや、あの
失敗した時のことを度外視すれば、作戦の成功率的にアルを前に出すのは実に理に叶っている。
そんな彼らの言葉に、グゥエラリンデから
「一応僕、クシェペルカのやんごとなきお方ですよ? 重要人物ですよ?」
『そう思っているのなら、もう少し大人しくしててくれ(ないか)』
アルの苦し紛れの反論にエドガーとディートリヒは無慈悲に切り捨てる。
敵の船への強襲に始まり、遭難。そして度重なる前線での戦い。軽く数えただけでも決して少ないない事件を巻き起こしたアルがその言葉を言うにはお門違いも甚だしい。
その返しに『ぐぬぅ』と何も言い返せない様子のアルだったが、どうやらそれらの寸劇は相手にとって面白くなかったらしい。
「りエキィィ! カエセあaa!」
「では、手筈通りに」
「任された」
もはや人の言語すらも怪しくなりかけている存在が拳を振るう。
アルディラットカンバーとグゥエラリンデは、手持ちの装備にて巨大
「まずは露払いだな」
「そうだね。ちょっとこれは多い」
そう言って2機は揃って
「ディー、まずはマンティコーラ。そしてあのデカブツで良いか?」
「構わないっよ!」
ディートリヒの返事と共にグゥエラリンデが猛然と突進する。慣れ親しんだ二振りの剣を巧みに動かし、
まるで屠畜場で働く職員のように瞬く間に
しかし、歴戦の騎士であるディートリヒは慎重に相手が移動する速度や距離を見計らうと、バックウェポンに装備してあるエーテリックスプレーを前方に出して噴射することで
「さぁ、こっちだ!」
一方でエドガーはというと、盾を打ち鳴らしながら巨大
「ディー、ここから先は入ってくれるなよ!」
「承知した!」
そんな戦いぶりにエドガーの中の騎士の心が『騎士の戦い方か? これが』と苦笑いをする。たしかに真っ向から打ち合うには少々どころではない程巨大だが、こうも避けたり同士討ちを誘うのは如何なものか。
だが、同時に内なるアルが『勝ちゃ良いんですよ。勝ちゃ』と囃し立てる。
その解像度の高さにエドガーはまたもや頬を緩ませながら回避や位置取りといった挙動の鋭さをより鋭利にしていく。
「白鷺騎士団の防御は受けるのみに留まらないことを覚えてもらおうか!」
より自分に食いつきやすいよう、エドガーの咆哮が轟く。
そんな彼らの奮闘の後ろでは、アルがガルラから降りてグゥエラリンデの
そんな危険性を孕みながらもアルは、手持ちのハンマーと鏨を使って慎重に
「えーっと、ここがこうなってるから……。ここにこれを組み込んで」
何度も処理を繰り返すループや値さえ放り込んでしまえば勝手に変換して返却してくれるクラス化などを用いつつ、アルは既に完成されている
ただ、時間も限られている中で試作機ではない完品をさらに用途を限定するような改造は例え同郷の転生者でも無理だろう。この行動は言うなれば、限られた既に完成した至高の剣を打ち直して元の性能以上の剣にするようなものだ。一部のミスがそのまま『バグ』という形で反映し、全てを台無しにしてしまう。
しかし、アルにはそれが出来る。製作者のエルと同郷に加え、彼はアルの上司なのだから。
コードを書く癖、よく用いる作法、処理のまとめ方。彼の仕事ぶりや成果物、レビューをしてもらった際の駄目だしを経験したからこそ実行することが出来る離れ業である。
「よし、出来た。後は……見直し!」
だが、いくら優れたプログラマーでも人間であるからには『ミス』はある。たった数行の配置ミス──たった1文の処理ミス──たった1文字の単語ミス。それだけでも処理は動作せず、その動作が出来ないために求めた結果を返却が叶わず連鎖的に崩壊してしまう。
それを防ぐためにアルは見直し作業に入る。目の前では巨大
エルの書いた処理の流れを把握し、自分の書いた処理に飛ぶのか。どんな異常があった場合はどう伝えるのか。どういうことをするのが正常か。そして──最終的に何を為すのか。
「整った」
時間にして10分。アルとしては長くかけ過ぎた見直し作業は完了する。
即座にガルラの操縦席へと戻ったアルは、改造を施した1振りの
既に周囲には
なお、それを為したのが巨大
「やはり硬いね」
「あぁっ!」
2機の剣戟が巨大
「ならば動かせないように固定するのみ!」
巨大
エーテリックスプレーから噴射される高濃度のエーテルが壁となり、
「はナセ"! ハな"せェえ!」
「誰が離すものか!」
「悪いが、もう少しだけ俺達に付き合ってもらおう!」
明らかな時間稼ぎ。
そんな時、巨大
浮遊した大地を揺らすほど凄まじい踏みしめ。さしもの
──当たればの話だが。
「取った!」
「チェックメイト!」
大剣を突き刺したアルはガルラの腕を思いっきり振り被ると、
それは
そんな
「ァアアあ きょダい……エーテらイトヲ。 リえキィ……」
「あんなになってまで利益優先とは、商人というのも度し難い生き物だね」
「うちの御用商人はあのような感じではないのだがなぁ」
「それが普通かと」
爆発によって全体が弾け、その炎に焼かれても尚、利益を追求するようなうわ言を放つ狂人。いや、この場合は人の体もなしていないことから化け物と言っても失礼にならないだろう。そんな存在に対して一同は呆れを通り越し、形容しようがない清々しさを感じながら目の前の存在から
「ほい、来た。お二方、よろしくお願いします」
「了解」
「既に投射している」
飛んで火に居るなんとやら。宿主が使い物にならなくなった瞬間、
「これで一段落だね。やれやれ、思いがけない強敵だったよ」
「そうは言うが、そもそもお前が連れて来なければ楽に防衛できたと思うぞ」
「仕方ないじゃないか。私もあんなにしつこいとは思わなかったよ」
「はいはい、銀鳳騎士団のノリはここまでですよ」
まるで一口大にまで刻まれた
ただ、既に拠点に攻め入ってくる
「そうだね。……騎士団長は不便だね。友人と語り合うことも難儀する」
「まったくだ」
「仕出かしたことが仕出かしたことですからね。……っと、始まったかな」
未だ騎士団を無理やりつくらされた不満があるのか2人は愚痴を言うが、仕出かしたことを考えればさもありなんといった様子でアルがふと上空を見やると、全体が巨大な
一筋の流星のように一直線に。そして高速に落ちてくる弩級の質量を持った物体を光の柱──正確にはその中に居た特大の
最終的に
──かに見えた。
「なんだと!?」
「あちらも往生際が悪いな。しかし、失敗か」
だが、事態は深刻である。
希望と共に送り出した
脳裏ではクシェペルカ王国への報告や退避勧告の流れ。そして、後々始まるであろう第2次
先ほど振ってきた超弩級の質量と比べると明らかに小さい質量。されど、その存在感はまるで一番星のそれであった。
その星の名前はマガツイカルガニシキ。どうやら、目の前の失敗を認めることが出来ない往生際が悪い奴らがまだ残っていたらしい。
「ちょっと兄さんの手伝いをしてきます」
「行くのか?」
「えぇ、もちろん」
むしろ、居なければならない。既に銀鳳騎士団から去った身だが、『もしかしたら助けが必要かもしれない』という曖昧な気持ちだけでアルはガルラに接続した変形に必要な
これにより、変形時に機首となる部分から射出する大火力の
「あー、すまない。アルフォンス」
「いっっッだ! ディーさん、なにしてんですか!」
ディートリヒが声をかけたことでガルラはその場でつんのめって転ぶ。降下甲冑が身体を固定してくれていたおかげで難を逃れたが、一歩間違えれば大怪我は必死の事故にアルは大声で怒鳴る。
しかし、その怒声を真正面から受け止めながらもディートリヒはグゥエラリンデに装備したエーテリックスプレーを差し出すと、そのまま光の柱の方に機体の首を向けた。
「残念ながら、私は騎士団長の所にはせ参じることは出来なさそうだ。"あれ"を見た時、負けだと思ってしまったんだ。だが、君は行こうとしている。ならば、せめて武器は持って行ってくれないかい?」
「あぁ、そういうことですか。喜んで」
「あー、アルフォンス。申し訳ないが、ディーと同意見だ。そういうわけだから、エンチャンテッドソードを持って行ってくれ」
会話に混ざりつつもアルディラットカンバーが
「じゃ、行って来ます」
「拠点は任せてくれ」
「はやい帰りを期待してるよ」
あくまでも朗らかに飛び去ったガルラを見送った2機。しかし、その内面は悔しさに歪んでいた。
「強くなりたいね」
「そうだな」
力不足と心の鍛錬不足を胸に2人の騎士団長──否、『騎士』は黙って光の柱を見上げていた。
「あ、ディーダンチョ。うぇーい、おつかれーっす!」
「騎士団長! 周辺の魔獣の討伐完了しました!」
「ダンチョ!」「ダンチョー!」「クーニッツ騎士団長閣下!」
「騎士団長、ご采配を!」「騎士団長!」「エドガー、なにぼぅっとしてるの!」
「だー! うるさいよ、お前達!」
「……あぁ、今行こう」
──数分ほど。
さて、そろそろ浮遊大陸編も終了なので一応告知をば。
浮遊大陸で原作(小説版)に追いつくので、一旦【完結】しようと思っております。
※なにかネタが思いついたら投稿する予定ですが、隔週でやっていたのを止めた段階で連載かと自問自答した結果、『時折 連載状態にしていつもは完結状態にしよう』という結論に至りました。
なにか『こういうのどうよ』ってのがあったら意見ください
さて、年の瀬ということですが。今年はかなり執筆時間が削られ、来年もまた大変そうな気配がするので、申し訳ありませんが来年初の投稿を1/14(日)にさせていただきます。重ね重ね、申し訳ありません。
(試しにやってみたライザとの二刀流はやっぱりきつかったということで)
というわけで、年末にお読みくださった方々は良いお年をお迎えください。そしてお正月にこれをお読みくださった方々、明けましておめでとうございます。