銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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明けましておめでとうございます
本年度も銀鳳の副団長をよろしくお願いします


162話

 対魔法生物(マギカクレアトゥラ)に特化した装備を搭載したガルラが一直線に光の柱へと向かう。既に魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)の核となる飛竜戦艦(リンドヴルム)の上にマガツイカルガニシキが下りたとうとしているのを見ているため、なによりもまずは情報収集とアルは鐙を踏む足に力を込めた。

 

 すると、本体の防衛本能の一端なのであろう。既にほどけかけていた光の柱から夥しい数の魔法生物(マギカクレアトゥラ)飛竜戦艦(リンドヴルム)に降りようとするマガツイカルガニシキを妨害するために包囲を始めた。

 そんな多勢に無勢という言葉を表現したような現場だが、マガツイカルガニシキは執月之手(ラーフフィスト)機動法撃端末(カササギ)を展開。それぞれの先には小規模なエーテルの円環を纏わせながら魔法生物(マギカクレアトゥラ)を弾き飛ばしていく。

 

 たしか、『全騎投射(フルディスパーション)』と製作者が言っただろうか。今更1機追加しても焼け石に水と思っていた戦況がまさかの善戦にアルはそんな現実逃避染みた独り言を呟いていると、ガルラの存在を探知した魔法生物(マギカクレアトゥラ)がガルラに向かって殺到し始めた。

 

「んなろ!」

 

 アルは気合を込めた声と共に魔法生物(マギカクレアトゥラ)の群れの中に突っ込む。だが、今の装備では全ての魔法生物(マギカクレアトゥラ)を纏めて相手するには荷が重すぎる。

 

 ならばどうするか。どうやったらこの状況から合流できるか。

 

 ──決まっている。

 

「最速で!」

 

 魔導演算機(マギウスエンジン)内の魔法術式(スクリプト)直接制御(フルコントロール)で変更することで魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の位置を後方に集約。そこから鐙の踏みつけを最大にすることでガルラの持てる推力を前進させることに成功させる。

 

「最短で!」

 

 そうすると進行上の魔法生物(マギカクレアトゥラ)が邪魔になる。しかし、アルは幻像投影機(ホロモニター)を食い入るように見つめながらさらなる魔法術式(スクリプト)変更を実施。変更を加えた瞬間にガルラの両腕が動き出し、飛行形態のままなのにもかかわらず両腕をフリーにさせた。

 早速フリーとなった両腕でサブアームから受け取った魔導剣(エンチャンテッドソード)をしっかりと持たせる。エドガーから借り受けた魔導剣(エンチャンテッドソード)は、度重なる剣撃によって振り下ろした際に起動する魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)魔法術式(スクリプト)が損壊していたのだが、アルのお目当てはそれではない。

 執月之手(ラーフフィスト)と同じ原理で作られた周囲に爆発を放射する刀身を前面に押し出し、爆発させながら突き進むことで生じた余波で周囲の魔法生物(マギカクレアトゥラ)を弾き飛ばす。

 

「一直線に!」

 

 周囲に破壊的な力をまき散らしながら暴力的な加速を続けるガルラは、一向に減速も曲がることもせずに暴走列車のごとく突き進む。魔法生物(マギカクレアトゥラ)を撃滅できないまでも、刀身の爆発の余波に煽られる形で跳ね飛ばしていき、最終的に向かってきた魔法生物(マギカクレアトゥラ)の壁を抜けたガルラは飛竜戦艦(リンドヴルム)の上で膝立ちになりながら佇んでいるマガツイカルガニシキの元へとはせ参じることが出来た。

 最後の障害となる魔法生物(マギカクレアトゥラ)幻晶騎士(シルエットナイト)形態となりながら減速をかけている最中に吹きかけたエーテリックスプレーによって排除したガルラは、飛竜戦艦(リンドヴルム)の装甲を抉りながらマガツイカルガニシキの横に乱暴な着艦を果たすと、首をマガツイカルガニシキの方に向ける。

 

「アル君!?」

 

「アディ、状況は」

 

 離脱したはずのアルがやってきたことに驚くアディだが、今は時間が惜しいとアルは状況を確認する。だが、今も刻一刻と状況が変わっており、彼女も彼女で機動法撃端末(カササギ)を用いて小型の魔法生物(マギカクレアトゥラ)かマガツイカルガニシキを守ろうと奮闘している最中なので、詳しい状況を説明できずにいた。

 

「アル、こっちです。接続の補助をお願いします」

 

「あぁ、黙ってたから気絶でもしたかと思ってました」

 

「僕はそんなに柔じゃないですよ。それよりも、説明するので黙っててください」

 

 すると、エルの声と共にイカルガの執月之手(ラーフフィスト)が添えられる。内心ではアディだけが無事でなんとか飛竜戦艦(リンドヴルム)にたどり着けたのではないかと肝を冷やしていたアルだが、接続補助という彼からの指示を聞く姿勢に入る。

 

 なんでも再び加速をかけて光の柱に居る巨大な魔法生物(マギカクレアトゥラ)ごと圧し潰すようで、その為に飛竜戦艦(リンドヴルム)が動かせないか精査をしたらしい。だが、その結果は散々だったとか。

 なので、今度はもう一つの核となった黄金の鬣(ゴールドメイン)号を精査すると、エルやアルがリスクを徹底的に排除した飛空船(レビテートシップ)作りの教本のようなものをクシェペルカ王国にも配っていたことが幸いしたのか、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)本体や紋章術式(エンブレム・グラフ)の故障は見当たらなかったらしい。後は魔力さえ流せば何とかなるとのことだ。

 

 ただ、問題が1つ存在する。それは飛竜戦艦(リンドヴルム)側の魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)が機能不全に陥っていることだ。

 この魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)飛竜戦艦(リンドヴルム)黄金の鬣(ゴールドメイン)号というメインスラスタによってバランスが保たれているが、今は御覧の有様だ。このまま増速をかけようとも忽ちバランスが崩れてしまい、源素晶石(エーテライト)塊を大地に向けて押し付ける力がかなり削がれてしまうだろう。

 

「アルにはリンドヴルム側に潜り、魔力の伝達が出来るように改造して欲しいんです」

 

「了解。この際、細かいことは気にしなくても?」

 

「良いです。結果が伴うならば、ちゃちゃっとやってください」

 

 問題を解決するためにエルが指示を出し、アルはそれに対して全く疑うことなく実行に移す。すかさず飛竜戦艦(リンドヴルム)の割れた装甲から内部へと侵入したガルラにて、まずは小部屋や破損した部品等々移動に邪魔になる障害物を排除するために周囲の大掃除を開始する。魔導剣(エンチャンテッドソード)で斬りつけながら爆発させることで周囲の空間ごと邪魔な区画を幻晶騎士(シルエットナイト)1機分ぐらいの余白が開くぐらい破壊することで、飛竜戦艦(リンドヴルム)の主な魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)へと繋げる執月之手(ラーフフィスト)の通り道を作ったアルは次のステップへと進む。

 

「道を開けましたよ」

 

「分かりました。ラーフフィストの誘導をお願いします」

 

 報告を聞いたエルが操縦席の操作盤から魔法術式(スクリプト)を変更することでイカルガ側の背部に装備された執月之手(ラーフフィスト)の内、2本が炎の尾を吐き出しながら飛竜戦艦(リンドヴルム)の割れた装甲を通って内部へと入って行く。

 アルの方はエルの声と共に飛竜戦艦(リンドヴルム)の内部からそれらが侵入してきたことを幻像投影機(ホロモニター)越しに見ると、合図を送りながらガルラの両手で執月之手(ラーフフィスト)を掴む。合図によって執月之手(ラーフフィスト)の推進用魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)が停止したことを確認した後、急いで飛竜戦艦(リンドヴルム)の主要魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)のメンテナンス用の取っ手に執月之手(ラーフフィスト)の拳部分を握らせた。

 

「接続完了でーす」

 

「反応来ましたー! では、行きましょうか!」

 

 皇之心臓(ベヘモスハート)女皇之冠(クイーンズコロネット)から放たれる咆哮と同時に、飛竜戦艦(リンドヴルム)黄金の鬣(ゴールドメイン)号の主要魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)に再び炎が点る。そのまま取り戻した推力で巨大魔法生物(マギカクレアトゥラ)を圧し潰すようにじわじわと圧力を掛けていくが、無抵抗でやられるほど魔法生物(マギカクレアトゥラ)というものは潔くなかった。

 

「大きな腕が来るよ!」

 

「分かっています、こんなことがあろうかとぉ!」

 

「それが言いたかっただけでは?」

 

 あらかじめ予想していたかのようにエルはイカルガの操縦席から魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)に命令を下す。その叫びに冷静なツッコみを入れたアルだが、この機構は本当に対魔法生物(マギカクレアトゥラ)用に用意していたために彼の予想の方が正しかったりする。

 その命令とは黄金の鬣(ゴールドメイン)号に搭載された内蔵式多連装投槍器(ベスピアリ)の起動命令だ。イカルガ越しにその命令を受け取った黄金の鬣(ゴールドメイン)号の甲板では次々と蓋が開けられ、中から切っ先を源素晶石(エーテライト)製に変更した特別製の魔導飛槍(ミッシレジャベリン)が顔を覗かせる。

 

「一斉射!」

 

 片側16連装の計32本もの魔導飛槍(ミッシレジャベリン)が射出され、魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)ごとマガツイカルガニシキを叩き潰さんとする触腕目掛けて飛翔。瞬く間に触腕はハリネズミとなった。

 めった刺しになったことに加えて源素晶石(エーテライト)の作用から明らかに怯んだ様子の触腕。エルはこの機は逃すまいとさらなる魔法術式(スクリプト)を演算し、飛竜戦艦(リンドヴルム)黄金の鬣(ゴールドメイン)号の主要魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)目掛けて叩き込んだ。

 

「これで最後です! 後は……野となれ、山となれ!」

 

 新たな命令によって竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)のように魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の全制限が解除される。正真正銘、最後の攻撃に転じるための措置であり、エルが呟く通り後に続くようなプランはどこにも存在しなかった。

 

 されど、魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)は突き進む。例え自らの推進器が熱で赤熱しようが、マガツイカルガニシキから膨大な魔力を無理やり送られ続けながら目の前の存在を封印せんと一向に前進しない旅路を進む。

 魔法生物(マギカクレアトゥラ)と人が作り出した存在。延々と終わることが無さそうな2つの戦いだったが、最終的に魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)の敗北で幕を閉じた。魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の本体が耐えきれなかったのである。

 

「アル、オラシオさんを回収してください。その後は銀鳳騎士団と共に撤退、クシェペルカ王国に現状を報告してからフレメヴィーラ王国に避難を持ちかけるように」

 

 一歩──それも大きすぎる一歩が足りなかったと盛大なため息をついたエルは、今後のことをアルに話す。

 未だ『最後のあがき』は残されてはいるが、このままでは浮遊大陸が西方諸国に落ちるのは確定だろう。地理的にも内部的にも同盟国であるパーヴェルツィーク王国は今からだと間に合わないだろうが、銀鳳騎士団と良い仲──それも副団長を連れて行ったばかりのクシェペルカ王国であるならば話を聞き、迅速に避難することが可能かもしれない。

 

 だが、突如として周囲が闇に覆われたことで2人は会話を中断する。まるで再び黒雲が周囲を飲み込んだような変わりようだったが、バケツをひっくり返したような雨や姿勢制御にも難儀するほどの風の奔流は見られないことから颱風招来(コーリング・タイフーン)ではないと予測した2人は何時でも動けるように周囲の警戒を強めた。

 

「うわっ」

 

「なんですか、あれ」

 

 それぞれの期待の操縦席で警戒していた2人の幻像投影機(ホロモニター)には、天から舞い降りる光の帯が見えた。まるで七色の薄い光の布で編み込まれたような薄い薄い光の帯。それが光の柱目掛けて徐々に降りてきたのだ。

 銀鳳騎士団にとって状況が目まぐるしく変わることなど日常茶飯事なのだが、ここまで規模が規格外で理解の範疇でない状況はかなり稀なことであった。

 

「多分ですが、間に合いませんね」

 

「……かもですね」

 

 ただ、原理や理屈が一切分からなくともこれだけは分かる。

 ここに居るのは危険で危ない。思わず同じ意味合いの単語を繋げてしまうほどの度合いであるということだ。

 

「アル、先に回収と撤退準備をお願いします。ただ、もし戻らなければ……あとは分かりますね?」

 

「分かってます」

 

「今までありがとう、助かりました。アディも出来れば逃げてくれると 「エル君を置いていけないのでなーし」 あ、はい。分かってました」

 

 アディの言葉が挟まったが、先ほどと同じ指示。されど、ここに『戻らなかったら』というIFが付けられる。それほどの相手なのだとアルは納得し、ガルラは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を後方に集めると一気に加速を掛けて巨大魔法生物(マギカクレアトゥラ)の持つ大きな触腕の範囲外へとかっ飛んでいく。

 

 しかし、その胸中は後悔が一杯であった。

 もっと戦えるように訓練していれば。咄嗟に何かを閃く頭脳があれば。様々なたらればを夢想しては頭の奥底へ封印していくアルだが、『もし、あの人と婚約しなければ最後まで残って戦えたかもしれない』と言い出しそうになった瞬間に己の顔を全力でぶん殴る。

 

「何言ってるんだ、僕は。あの人は関係ないだろ」

 

 降下甲冑(ディセンドラート)の腕に加えて全力で殴ったことで鼻から血がだくだくと出ている状態だが、それを戒めとしてアルは再び柱へと戻っていく巨大魔法生物(マギカクレアトゥラ)を見やる。触腕の所々から生え、絶賛機動法撃端末(カササギ)で迎撃しているあれは源素晶石(エーテライト)だろうか。だとすると、あの生物の脅威度は跳ね上がる。

 仮に価値しか見えていない人物が見れば、文字通り目の色を変えて捕獲に臨むだろう。

 

「もう禁忌モンスターじゃん」

 

 ゲームや漫画の世界には存在そのものが厄災とされる存在が度々登場するが、あの類はまさしくそれであろう。人知を超えた魔法を使い、セッテルンド大陸史上最優とはいかずとも『天災』ばかりを集めてもなお届かない。

 さらにはその中で演算に秀でた者でようやく漕ぎつけた技術を容易く模倣する存在が平気で外をうろつかれては敵わない。そう結論付けたアルは内心で彼らの企画した封印案が正しかったことを悟りつつも、オラシオが脱出に用いた小さな飛空船(レビテートシップ)を探す。

 

 そんな折、周囲を飛んでいた魔王がガルラに近づいてきた。その手には飛空船(レビテートシップ)が握られており、時折痛みを訴える声が聞こえていることから搭乗者であるオラシオは無事なのだろうことが伺える。

 

「アルフォンス。エルネスティはどうしたんだい?」

 

 ガルラの周囲を見た小王(オベロン)はいつもの余裕そうな態度を一切見せず、さらには皮肉たっぷりの軽口を叩くことなく率直にエルのことを訪ねる。彼のこの反応から嫌な予感──いや、操っている物から『虫のしらせ』と言った方が正しいだろうか。

 しかし、残念ながら事態はそのようなどうでも良いことを考えていられるかのような安穏とした状況ではなかった。既にエムリス達が作戦失敗を察しているのか宙に浮かぶ飛空船(レビテートシップ)の数が増えている。この状態で小王(オベロン)率いる魔王軍と戦う余力などあるはずがないため、最大限遅延行為を行おうとアルはガルラの指で光の柱を指差した。

 

「あの中です」

 

「あぁ、くそっ! やっぱりか! せっかく殺す機会に恵まれたというのに!」

 

「お、おい! やめろ! 揺らすな!」

 

 小王(オベロン)の叫び声に反応するかのように魔王がよく分からない動きで悶えている。その余波で魔王に捕まれている小型の飛空船(レビテートシップ)もシェイクされているため、オラシオが文句を言うが徐々にその元気は失われていっているのでアルは若干留飲を下げることが出来たのは秘密である。

 

「アルフォンスの見立てではどのくらいだい?」

 

「4対6。死亡の方が高いですね」

 

「あぁ、そのぐらいだよな。むしろ、それより下がりそうだ」

 

 『なにが』とは聞かずにアルは巨大魔法生物(マギカクレアトゥラ)とエルによる最後の戦いの下馬評を言い合う。なにせ、相手は全人類の中で上位に食い込む演算能力を持った規格外の技を容易く真似、さらには空の上にあるとされる純粋なエーテル空間から純粋なエーテルを下ろして膨大な補給を行う化け物だ。

 

 某Zな戦士のように最初は新たなる脅威に『あ……あ……』と言いながら敗北し、修行の末に新たなる力を目覚めさせて見事に勝利するような展開ならば別に良いが、今回はただ相手が悪ければ修行時間もない。そして、敗北した後の傷跡は尋常ではない。

 そのためアルは、エルが初めに言ったように『後のこと』を小王(オベロン)と共有しだした。無論、エルが居なくなったことでこちらに矛が向くのを極力下げるような言い方で──だが。

 

「オベロンはどうします? 個人的にもっと遠くの場所なら浮遊していられるかと」

 

「そうだね、君は確か船を奪っていただろう。あれをもらいたいね。魔王軍が君達を襲わないという言質があれば君達の事情的に十分な取引だろ?」

 

 小王(オベロン)はすぐさまアルの欲しい対価を約束してくる。口約束ゆえに拘束力はないが、彼のプライド的にもこれは口約束の形をとった書面での約束事に近いと判断したアルはそれで納得すると魔王と共に拠点へと向かう──前に魔王の手からオラシオが乗っている小型の飛空船(レビテートシップ)を奪った。

 

「こいつも連れていくんじゃないのかい? お前達の仲間だろう」

 

「僕個人のなんやかんやは別として、同盟相手の技術者なだけですよ。だけどこの人、前の働いていたところを夜逃げ同然で出て行ったみたいなんですよ。だから、引継ぎやら挨拶やら全然してないっぽいんです。オベロンならそういった人、どうします?」

 

「お、俺はただの雇われだぞ! 国と心中するなんてまっぴらだ!」

 

「あぁ、そりゃ酷いな。論外だ。そうだな、不義理なのに違いはないね。ほんっと、これだから徒人は」

 

 芝居がかった動きの魔王から聞こえてくる、これまた操縦席での表情が透けて見えるぐらいに呆れきった声。ジャロウデク王国生まれではなくて別の国から仕官してきたオラシオとしては色々言いたいことはあったらしいが、それらは聞き届けられることはなく最後に『アルフォンスがそういうんだったら準備は出来ているのだろう、連れて行きたまえ』と拠点へ向けて降下していく。

 それを見届けたアルは、未だギャイギャイ騒ぐオラシオを乗せた小型飛空船(レビテートシップ)の『搭乗口』をしっかりとガルラの手で抑え込み、そのまま約束の地へと向かった。

 

「おっ? 本っ当に来やがった」

 

「そりゃ約束は守りますよ。どっかの夜逃げ技術者とは違ってね」

 

「おいおいおい、別に俺はお前に何かしたわけじゃないだろ。そんな風に言われる筋合いはないと思うぞ」

 

「あ"?」

 

 そこら辺の岩場に座っていたグスターボに、アルはチクチクと嫌味を言いながらオラシオを差し出す。ただ、その嫌味がお気に召さなかったのだろう、彼が『お前とは無関係だ』とアルに強く言ってしまった。

 

 ──それが彼の喉に新しく生えてきた逆鱗だとも知らずに。

 

 たしかに大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)以前の西方諸国はアルにとっては他人事。例え戦争が起きようとも『大変だな』という対岸の火事を見ているかのような感覚であった。

 だが、実際にクシェペルカ王国に派遣され、あちこちを忙しなく戦いながら移動し、とある女性と出会い、とある思いに気づいてからは決して他人事とは言えなくなってしまった。

 

 オラシオにとっても雇われたからには成果が必要だったのであろうが、流石にクシェペルカ王国を一度滅ぼした技術を生み出した技術者が『お前には関係ない』と言われると図星であろうともムッとしてしまう。

 『人間の側が間違いを起こさなけりゃ機械も決して悪さはしない』というとあるアニメの名言。それもロボやメカに対する至言ともいえる言葉がある通り、悪いのはジャロウデク王国の上層部ではある。

 

 ただ、そこまで人間が出来ていないアルからすれば、『そもそもこいつが飛空船(レビテートシップ)のことをジャロウデク王国に伝えなければ』と考えてしまうのも仕方がないわけで──。

 そこからさらに付け加えれば、雇われ技術者として仕官した身でありながら戦況がまずくなったら挨拶も引き継ぎもせずに、いきなり消え失せるという社会人にあるまじき行為に憤慨するのも仕方がないわけで──。

 

 つまり、なにが言いたいかというとアルは珍しく八つ当たりかつガチギレの状態であった。

 

「安心しなァ、殺しはしねェよ。あっちの国とはまだ大きくやり合う気はねェからな」

 

「僕はクシェペルカ王国に影響なければどうでも良いです。あ、エーテライトですがこの浮遊大陸が西方諸国に落ちる可能性が高……。あ、やっぱ落ちないです」

 

 『どっちだよ』とグスターボがアルに問いかけるが、その声はもはやアルの耳には届いていなかった。目線の先には先ほどまで煌々と照らされていた光の柱が徐々にその輝きを失い始め、それと同時に天から降ってきた薄い光の帯が何の前兆もなしに消え失せた。

 光の帯が消えた途端に急激な大地の揺れが生じ、その揺れが収まったと思えばズゥンという非常に重々しい音がアル達の耳に届く。

 

「やっぱり落ちないですね。兄さんがやってくれました」

 

「エルネスティがやりやがったか」

 

 アルとグスターボが揃って光の柱の方角を見やる。光の柱が暴れていた場所には、流星槍作戦(オペレーション・バスターランス)でこさえた物よりも巨大な源素晶石(エーテライト)塊が屹立しており、アル達からは見えないがその中にはうっすらと魔竜鬼神(ウルトラキシングレート)の残骸が源素晶石(エーテライト)塊に取り込まれる形で存在していた。

 

 だが、何事もいざという時がある。『とりあえずケジメつけてくらぁ』とオラシオを引き摺りながら奥の方へと消えたグスターボを余所に、アルは残された船員の1人──パヴァンにこれからの浮遊大陸についてを伝えた。

 

「これから浮遊大陸に国が興ると思うので、秘密裏に採掘は難しいと思いますよ」

 

「そうなんですか。……仮に見つかった場合はどうなるので?」

 

「仮に見つかったら、ハルピュイアの軍勢とか兄さんと同等の強さの機体。後は多分同盟関係で僕も出張るかと」

 

 ──そう。エルが魔法生物(マギカクレアトゥラ)を鎮めたとなれば、小王(オベロン)は予定通りこの地に王国を築くだろう。そうなってしまえば気軽にホイホイと源素晶石(エーテライト)を掘るのは重罪になる可能性がなるため、ジャロウデク王国の金策が消失してしまうことに等しい。

 本来はそこで話を終了しても良いのだが、グスターボにも色々世話になっている返礼のためにアルは『王国を築く際の保証国として名乗りを上げてみては?』と提案するが、パヴァンの顔色は一向に良くならなかった。

 

「無理ですね。現在の我が国は先の大戦で生じた傷も満足に癒せないので」

 

「まぁー、そこは自業自得と思いますよ」

 

「仰る通りです。その中で新たな国を認めると宣言するよう進言するのも厳しいのですよ」

 

「そんとーり。いくら良い結果になろうが、親父が居ない以上は俺っちがそこまで上に物申すことはできねェよ」

 

 『我々も少数の外回りですから』とパヴァンが自分達の存在を卑下していると、なにやら拳に赤い液体を付着させたグスターボが帰ってくる。その満面の笑みから察するにきっちりケジメはつけたらしく、『ボロ雑巾』の位置を地図に書いてくれた。

 ただ、いつまでも駄弁っているのは彼らの出発が遅れて迷惑がかかると思ったアルは早々に話を区切ってガルラへ乗り込んでいく。

 

「では、また機会があれば」

 

「おうっ! 機会があれば斬り合おうぜ!」

 

 まるで散歩の約束を取り付けるように殺し合いを提案するグスターボに内心、『二度と出会うか』と吐き捨てたアルは聞こえなかった振りをしてそそくさとガルラを飛び立たせた。

 アルが『オラシオがこの辺りで見失いました』と地図を片手に報告を入れて少し経った後、顔面がボコボコになったオラシオをパーヴェルツィーク王国の竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ)が見つけて帰ってきたのだが、傷の経緯を聞かれた彼はその横に立っていたアルの顔をチラチラ見ながら頑なに起こったことを話そうとはしなかった。

 

 ***

 

 臨時拠点となったイズモの中央船倉では、エルやダーヴィドを中心とした銀鳳騎士団の中核が勢揃いで国元へ送る報告書を書き記している。

 毎度のことながら『無理 無茶 無謀』という三銃士を引き連れた作戦を思い返すのは非常に頭が痛くなるが、仮に報告書を出さずに口答で報告となると自身の正気が耐えられるか分からないために今もこうして無心で紙に内容を書き連ねていた。

 

 他の陣営とか協力を始め、未知の敵となった魔法生物(マギカクレアトゥラ)の出来る限りの詳細、そして天候操作級魔法(ハザード・スペル)という新たなる魔法の定義など、短期間によくもまぁこれだけの報告が出来る現場に遭遇したものだと振り返るダーヴィドは、横に居る紫銀の髪を揺らしながら報告書を書き漁る存在を見やる。

 

「なんで僕まで混ざってるんですかね」

 

「銀色坊主の代わりだ。言っただろうが」

 

 アルだ。エルではなく──アルだ。何故、一応銀鳳騎士団から脱退したはずの彼がこうして報告書を作っているのか。理由は簡単、エルとアディの代役としてダーヴィドが彼を引き摺ってきたのだ。

 

 名目上は『キッドへのメッセンジャー』としてアルは銀鳳騎士団に同行していたため、こういった報告は銀鳳騎士団に丸投げしても良かったのだが、端的に原因を述べるなら『アディが限界を迎えた』と言えばわかるだろうか。少なくともそれを聞いたアルは『あっ……』となにかを察したようで、為すがまま引き摺られてイズモへとやってきた。

 

「おーい、アルフォンスー。手伝って……なにやってんだ?」

 

「資料作成を手伝ってます。なぜか銀鳳騎士団側の」

 

「だからそれはわりぃと思ってるよ」

 

 微妙にダーヴィドへの当たりが強いアルが瞬く間に資料を量産している姿に、エムリスは先ほど見かけた凄まじく凶暴な魔獣も尻尾を撒いて逃げだすほどの圧を放っていたアディとその片腕に運ばれたエルのことを思いだす。

 『あ、こいつも被害者なんだ』と妙な親近感が沸いたが、それはそれといった具合に『クシェペルカ王国のやんごとない身分』という最強の剣で見事にアルを奪取したエムリスは、意気揚々とキッドが待つ部屋まで帰っていく。

 

「リース兄、こんな優秀な資料作成機をなんでクシェペルカに渡したんですか? 一旦余所渡した人材を元の業務に携わらせないでくださいよ」

 

「その呼び方で呼ぶな。仕方ないだろう、お前が散々やらかしたんだ。それに、お前を渡さなかったらどうなるか……考えるだけで恐ろしいわ」

 

「仲良くなれって言ったのは殿下でしょうが!」

 

「俺だってこうなるとは思ってなかったぞ! 文通はまだ良いが、なんでそこに贈り物とか形見分けみたいな髪の毛が入るんだよ!」

 

「髪の毛は知りませんよ! その時、不思議な事でも起こったんじゃないですか!?」

 

 凄まじい言い合いが廊下に響くが、内容が内容だけにそれらを聞いた人間は即座に口を固く閉ざしながら方々へと逃げていく。流石はフレメヴィーラ王国屈指の銀鳳騎士団。危機察知の類はお手の物であった。

 

 その後、アルの参戦が追い風となったエムリスとキッドは割と余裕な顔つきで部屋を退出。部屋には『もうフレメヴィーラ王国の事務作業はやらん』と呟くアルだけが遺された。




ボツ案供養
 ウルトラキシングレート上昇中にマンティコーラの群れが来襲。迎撃のために防空で拠点に残された全トゥエディアーネとドラッヒェンカバレリをエーテライト製の鎖で繋いで一網打尽にするといういわゆる連環馬作戦。
 『そんなにあるならウルトラキシングレートのブースターに使うよな』という脳内に住む編集の意見で没。なにもかもあの認証欲求が鬼強いなぜかTSした混ざり物が悪い
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