銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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幕間(あったかもしれない物語)

**新劇場版 銀鳳騎士団物語**

 

 大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)。数十年前、西方にある大国『ジャロウデク王国』が巻き起こした大きな大戦である。

 この大戦をテーマにした劇や考察本はそれこそ両手足の数だけでは足りない程世に出されるが、それと同じ数だけ人々の記憶から消えていった。なぜこの大戦が人気なのか。それはこの大戦にとある騎士団が参入した疑いがあるからである。

 

『銀鳳騎士団』

 フレメヴィーラ王国の誇る精鋭。はたまた世に普及している全ての東方仕様(イースタンスタイル)の原点。英雄と呼称する者もいたりするが、一部の貴族から『人型軍団級魔獣』や『目を合わせれば最期』、『愚連隊』や『どうせ皆、幻晶騎士(シルエットナイト)をビルドすることになる』と複数の呼び声や諦めたような声が返ってくるナウなヤングに大人気の騎士団である。

 

 しかし、この騎士団が大戦に参加したという明確な記録はどこを探しても存在せず、あるのは『王族であるM殿下に似たような人物が、王族が到底利用しないような場末の酒場で口を滑らせた』や『国境から少し離れた村の近くで全身金ぴかな幻晶騎士(シルエットナイト)が高笑いを響かせながら大きな馬車に乗っていた』という眉唾な情報しかなかった。

 

 そんな大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)から数十年経ったある日のことだった。

 フレメヴィーラ王国の国王『リオタムス・ハールス・フレメヴィーラ』とクシェペルカ王国の女王『エレオノーラ・ミランダ・クシェペルカ』が双方同意の基で、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)についてクシェペルカ王国が保管していた正式な記録を開示するという発表が行われた。もちろん、新生クシェペルカ王国になってからの記録なので銀鳳騎士団が派遣される前の記録はジャロウデクによって消失してしまっているが、それでも彼らからすればご馳走とも言える内容だった。

 

 それを聞いた演劇の脚本家や物書きは舞い上がり、我先にと最高級ともいえる情報を貪る。だが、彼らはそれだけでは足りないといった様子で更なる獲物──クシェペルカ王国の記録で大戦に参加していたことが分かった銀鳳騎士団の団員にコンタクトを取ろうと駆けずり回った。

 結果が言うまでもなく、今や雲の上のような身分である銀鳳騎士団の元団員にそう簡単にコンタクトなど取れるはずもなく、それでも諦めなかった数人が『一番当時の様子を知っているかつ、一番アポを取りやすい人物』を求めてライヒアラのとある邸宅に押し入ろうとし、『雷を落とされていた』のは私の中でも記憶に新しい。

 

「あの人のことですか? ええ、知ってますよ。……ですが、あの戦争の話もセットとなると長くなりますよ?」

 

 そんなある日、私はとある砦の工房に足を運んでいた。目の前には長い銀髪を一つに括った線の細い男がこちらを一切見ずになにかを書いている。

 彼は話が長くなることを理由になんとか断ろうとしていたが、私は力強く何度も頼み込むと折れてくれたのか机のある方向に私を案内してくれる。

 

「まさかステファニアさん経由で来るとは思いませんでした。あの人には昔お世話になりましたからね……ええ、まぁ古い話ですのでそれは置いときましょう。あ、ドワ子さんありgイテテテ!」

 

「だーかーら、ドワ子って言わないでって!」

 

 彼は懐かしそうに空を見上げながら着席する。彼とステファニア様の間に何があったのか……記者として大きく興味を惹かれる事柄なのだが、彼は頑なに口を閉ざしたことを見るとあまり触れてほしくないことらしい。これ以上聞き出そうとして取材が中止になったら目も当てられないので、温かい紅茶が彼の部下であろうドワーフの女性によって供され、彼が失言による折檻を受けているところで私は当たり障りのない話題である『騎操士(ナイトランナー)として大成する秘訣』を切り出した。

 

「大成する秘訣ですか? そうですね。では逆に聞きますが、あなたの言う活躍するナイトランナー……エースですね。その素質って何だと思いますか?」

 

 彼の質問に私は少し悩んだ。『あの人』のように力と手数で圧倒する人か、『あの人』のように対象を何があっても守り切る人か、『あの人』のように立ち位置を変えて相手を翻弄する人か。

 私が長考する様子に彼は小さく笑うと『多分、元隊長達のこと考えてますね?』と私の考えを読まれてしまった。

 

「ご存知かもしれませんが、彼らは見事に系統の分かれてるエースです。僕が考えるに、エースという物は最低3種類いらっしゃいます。個々の強さで圧倒する人、誇り……あの人曰く『騎士としての信念』とのことですが、それを自身の核にしている人、戦況が読めて的確な援護を入れられる人。この3つです。……とあるエースの受け売りですがね」

 

 指折り数えながら言っていくエースの素質に私は彼の元部下。今では国が誇る紅の剣と白き盾、そして白き盾に寄りそう副団長のイメージにガッチリとあてはまった。

 しかし、肝心の『彼』はどうなのだろうか。意を決して聞いてみると、彼は笑いながら『残念ながらこの3つにあてはまりません』と答えと西の方角に飛び去っていくフレメヴィーラ王国所属の飛行船(レビテートシップ)を懐かしそうに見る。

 

「あの人は自由なんです。誰よりも自由で、誰よりも我儘。そして誰よりもシルエットナイトを愛している人なんですよ」

 

 彼……過去には『クロケの精霊』と呼ばれた男。そして、銀鳳騎士団の副団長であり『鬼神』の相棒だった男、アルフォンス・エチェバルリアは語りだした。

 

***

 

 アルフォンスの眼前には夥しい量の幻晶騎士(シルエットナイト)が倒れている。その幻晶騎士(シルエットナイト)全ての胸部には大穴が開いており、中の騎操士(ナイトランナー)の生存はほぼ絶望的だった。

 

「これだと……僕達が加害者じゃないですか! 一体、平和ってなんなんですか!」

 

 アルフォンスの絶叫に後方に居た銀鳳騎士団の団員達が黙って視線を下げる。最初は滅びかけた国を救援するために銀鳳騎士団が派遣されたが、この殺し殺されるが繰り返されるこの戦争に疑問を持ったのだ。幸運にも銀鳳騎士団は誰も欠けずにここまで来ている。だが、それがいつまで続くのか先ほどのアルの絶叫で彼らは思い出した。

 

「受け入れなさい、アルフォンス・エチェバルリア! これが戦争なんです! ……君はライヒアラに帰った方が良さそうですね」

 

 団長であるエルネスティの失望しきった眼差しがアルフォンスを貫く。

 戦力外通告。だが、戦争と言う一言で片付けるエルネスティの異常性にアルフォンスは激怒した。

 

「僕は……俺はあんたや皆みたいに強くないんだよ!」

 

 胸倉を掴みながら叫ぶアルフォンスの身体はエルネスティの平手によって弾かれ、そのままアルフォンスは地に伏せた。

 

***

 

 ミリシエの防衛戦。クシェペルカ王国側に傾ける大一番であった。高台の上に鬼神と共に並び立つのは数々の改修を経て姿を自在に変えていった異形の物。彼らの眼下にはミリシエの、そしてクシェペルカの命運を断とうと濁流のように迫る黒き群れ。その光景を見た2機は怖気づくことなく高台から飛び降りる。

 

「ここが抜かれたらミリシエがまずいです! 僕は飛行船を落としますので、アルは地上をお願いします」

 

「でしょうね。では、また後で」

 

 鬼神が空中で炎の尾を引きながら重力から開放されたように空を舞い、異形の物は足から空気を噴出し、緩やかに着地する。頭部をジャロウデクの幻晶騎士(シルエットナイト)に向けると、それは面覆い(バイザー)を真っ赤に光らせていた。

 

「こちらから先は新生クシェペルカ王国の領土になります。通行手形はお持ちでしょうか?」

 

「知ったことか!」

 

「でしょうね。皆さん! 玄関でお出迎えですよ!」

 

 アルフォンスの叫びに高台に布陣していた幻晶騎士(シルエットナイト)の群れが法撃を開始する。

 法弾による応酬によって被弾した幻晶騎士(シルエットナイト)が命の儚い輝きを灯しながら爆散して行く。その中でもアルフォンスは、ただひたすらに正面からなだれ込んでくるジャロウデクの幻晶騎士(シルエットナイト)達を見据えていた。

 

***

 

 広大な西方の空をエルネスティの幻晶騎士(シルエットナイト)、『イカルガ』が空を我が領土のごとく自由に飛翔する。だが、その手には血を分けた弟であるアルフォンスが納まっていた。

 

「アル、空の景色はいかがですか?」

 

「良い景色ですね。ここから見ればこの土地が今、どちらの領土なのか分からないですね」

 

 自らが乗る鬼神の掌から下。つい最近までジャロウデクの領土だった土地を眺めながらアルフォンスが何を思うか。

 

***

 

 自身の乗艦である対空衝角艦(ジルバヴェール)の甲板に立つは、これまで数多の戦場を支配してきた鬼神の騎操士(ナイトランナー)、エルネスティ。彼は遠くに見えるジャロウデクによって奪われた最重要拠点である四方楯要塞(シルダ・ネリャック)に向けて腰に佩いている剣を引き抜き、それを指し示した。

 

 四方楯要塞(シルダ・ネリャック)近郊。それはエース達に与えられた己の力を示す舞台である。

 地上では現ジャロウデク王国の護国の将が仲間の装備を手に舞い踊り、それをフレメヴィーラの白き盾が食い止め、金獅子が咆哮が轟いた。

 

「鬼神狩りだ!」

 

「さぁ、ダンスの時間ですよ」

 

 そのはるか上空では伝説上の魔獣を模したドレイクと鬼神が再び対峙する。西方の大国がぶつかり合った大戦は最終段階へ移行していった。

 

 銀鳳騎士団物語[序] カンカネン演舞団体より西方暦1300年春 公演開始 銀鳳騎士団の歴史がまた1ページ。

 

***

 

「兄さん、これだと僕って裏切る流れじゃないですか? エドガーさんあたりが告白しようとして撃墜されません?」

 

「いやー、我ながらやばい扉を開けちゃったかな? って思いましたけど、結構書き始めたらいけるもんですね」

 

「褒めてねぇよ。その扉今すぐ閉めてください」

 

 アルは紙束をめくりながら文句を言う。結論から言うと、先ほどのは全て劇場で行われる予告編の台本に書かれていた場面である。

 どうやらエムリス経由で話が飛んできたらしく、話を聞いたエルが当時の様子を思い出しながら面白おかしく脚色しようと画策していたらしい。

 

 紙束には大きな文字で『銀鳳騎士団物語予告版草案』と書かれており、草案の所々には幻晶騎士(シルエットナイト)が格好良く見える角度などが事細かに記載されており、どうやら幻晶騎士(シルエットナイト)の動きが今回行う劇の目玉らしい。

 その割と本気を出して書いたっぽい草案に、『いつから演劇家に転職したんだ!』と突っ込もうとしたアルだったが、劇の中盤に気になる場面を見つけたのでそれを食い入るように見つめた。

 

 時期的にはクシェペルカの制式量産機である『レーヴァンティア』を試作していた時だろうか。機体名と共に当時の工房の様子が事細かに記載されており、その中でアルがテストランナーの1人と口喧嘩をしていた。

 そのセリフから読み取るに、魔獣蔓延るフレメヴィーラ側の幻晶騎士(シルエットナイト)を製造・運用する概念と対人がメインとなっているクシェペルカ側の幻晶騎士(シルエットナイト)の製造・運用概念がぶつかり合っているらしく、最終的には『貴様はフレメヴィーラ機における特性を理解していない』とアルが吐き捨ててシーンが終了する。

 その刺々しい物言いに『うわ、嫌なやつ……って僕じゃん!』と思わず突っ込んでしまった。

 

「いや、僕こんなこと言いませんよ!」

 

「まぁ、劇団の人からラヴシーン入れてほしいと言われましてね。ここから2人の愛が……」

 

 両手を用いてハートマークを作りながらエルが説明する。それを見たアルが頭の中で先ほどの台詞からのラブシーンに至る過程を数度シミュレートしてみたが、結果は『お察し』であった。

 

「こんなこと言われたら100年の恋も冷めるわ!」

 

 スパンッと勢いよく草案を床に叩きつけたアルはエルに掴みかかるが、脳が何か重要なことを思い出しそうだったので動きを止めて思考を続ける。

 開発のたびに開かれた『前世フォルダ』の中のさらに奥。エルへの突込み用として未だ削除していない『ロボネタフォルダ』の中を次々と開けていったアルは、とある作品のヒロインを思い出し、エルにすがるように問いかけた。

 

「あの……。もしかして僕、山吹色のシルエットナイトに乗せられるんじゃ……イカルガか! 斑鳩から連想したのか!」

 

「ちっ、バレたか」

 

 舌打ちしながら白状するエルに、『勝手に自分の弟をヒロインにすんな! やるんだったら銀髪のちゃんねーにしろ!』とエルを揺らしながら謎の言葉を叫ぶアルを銀鳳騎士団の全員が止めにかかるといういつもの光景をもってこの騒動は収まるはずだった。

 

 だが、話はここで終わらなかった。

 そんなこんなで一時的に話題に上がった劇の草案は、我らが若旦那であるエムリスが『面白そうじゃないか。やらせようぜ!』と指示したために劇団に提出され、その草案を基にした予告や劇は無事公演されることになった。──なっちゃったのである。

 

 それを見たらしい元団員の反応はそれはもう酷いものだった。

 

「大団長の馬鹿はどこだぁ!」

 

「イカルガ乗ってどこかへ飛んでいきましたよ? それより劇見ましたよ! エドガー団長とヘルヴィ副団長にあんなラブストーリーがあったなんて!」

 

「いや……その……まぁ、間違ってないが……」

 

 白鷺騎士団の団長は実際に起こったことを数割増しで過激かつ、ドラマティックに演出した劇の内容に抗議しようと砦に乗り込んだが、諸悪の根源の姿はどこにもなく、代わりに最近銀鳳騎士団に入団した夢見る乙女な年齢の女性団員というブービートラップに引っかかった。

 

 劇の内容が本当のことなのか問い詰められるが、『数割増しだけど事実』なので完全に嘘だと言い切れないエドガーの様子を見て団員達は『本当にあったこと』だと勘違いして一気に色めき立つ。その後、キレながら出かけて行った団長が若い団員に囲まれている光景を目にした白鷺騎士団の副団長が団長を引きずりながら出て行ったとかなんとか。なお、その一部始終を見ていた銀鳳騎士団の副団長は『ジェラってますねぇ』と妙に嬉しそうに眺めていたという。

 

「私達って……結構ヤバかったんだね。剣だらけのことを悪く言えないじゃないか」

 

「まぁまぁ、ディーダンチョ。俺達に物語の騎士様のような行動は似合いませんよ。もっと気楽にいきましょう」

 

「君達のせいでもあるんだけどねぇ!?」

 

 紅隼騎士団の団長も劇で見た自分の来歴を改めて見た結果、自身の拠点に存在する工房の床で盛大に凹んでいた。特に姫殿下を励ます言葉として『第2中隊の輝かしい戦績』というどう考えても場違いの台詞に、『当時の自分をぶん殴りたくなった』と工房の床を転がりながら自問自答を繰り返していた。

 その後、魔獣討伐や警邏の時はエレガントで物腰柔らかい騎士を演じようと躍起になっていたディートリヒだが、その様子を見た銀鳳騎士団大好き人間であるゴンゾースが、『騎士団長閣下! ご乱心!』と工房中に触れ回り、いつものように団員を巻き込んだ盛大な鬼ごっこを興じることになったらしい。

 

 

**イカルガになってみよう**

 

 K県のとある道路で鞍馬翼の生命活動は停止した。身体は焼却され、魂は三途の川やら極楽、はたまた神の御許やヴァルハラや冥界で戦い続けるなど彼が信じていたであろういずれかの経典の地へ導かれるはず──だった。

 しかし、何の因果か彼と近くに居たもう1人の魂は元の世界からセッテルンド大陸という異なる大地が存在する世界に紛れ込んでしまう。

 

 そんなことなどいざ知らず、鞍馬は夢の中のようなふわふわした感覚とゆったりとした時間の流れに身を任せていた。しかし、突如獣のうなり声のような大音量に鞍馬の意識は一気に覚醒した。

 

(ここはどこだ)

 

 まぶたを開くという感覚が無かったことも気になったが、鞍馬の視界に飛び込んできたのは『石で作られた空間』だった。周囲には鞍馬が最も愛する無機物である『ロボット』が鎮座しており、一瞬で鞍馬のテンションを最大以上に振り切る。しかし、突如自身の胸付近から聞こえてくる『狂ったような笑い声』に鞍馬は固定された視界の中で必死に情報収集を行い始めた。

 

(あのロボットが今の僕と同じぐらいの大きさ……。そして胸の中から聞こえてくる『ナニカ』の声。身体は動かない……声は出るのかな)

 

 口を開ける。と形容して良いのかわからないが、鞍馬は口を開けて喉を震わせるという行動を意識的に行う。その直後、自身の胸に当たるところからマイクのハウリングのような高音が鳴り響き、『テステス』という何とも機械的な合成音声が流れた。

 

「んお? 銀色坊主。なんか言ったか?」

 

「いえ、何も言ってませんよ? ……。親方! 今のなんて聞こえました!?」

 

「てすてすって聞こえたが、何て意味だ? また変なこと仕込んでるんじゃないだろうな?」

 

 急に鞍馬の胸の辺りが小気味良い音と共に涼しくなり、そこから少年か少女かよく分からない声と野太い声が激しく言い合いをしている中、コンタクトに気付いたと判断した鞍馬はさらに『はじめまして』と言葉を続ける。その声に驚いたのか、鞍馬の身体の表面を触り始めた『ナニカ』は再び鞍馬の胸の中に戻ると、なにやらキーボードを叩くような音を響かせ始めた。

 

「AIなんてつけてませんよ? どこかにバグでもあるのでしょうか」

 

「こんにちは ハロー ナマステ。えーっと、他には」

 

「あーもー! 【うるさいですね!】」

 

 作業が上手くいかないのか、イライラしながら日本語で指示してきた『ナニカ』の声に従って鞍馬は数分ほど黙る。その間もタイピングのような音が響き、鞍馬の真下辺りが騒がしくなる。何を言ってるのか鞍馬には皆目見当もつかないが、これ以上何も出来ないのでそのまま静観することにした。

 

「おかしい、バグが見当たらない」

 

 その間もなにやら独り言が聞こえてくるので、鞍馬は恐る恐る『日本人ですか?』と聞く。すると、再び胸の辺りが小気味良い音と共に涼しくなり、『ナニカ』は音を立てながら手や足を掛けて鞍馬の身体を登り始めた。

 

「【あなたは、誰ですか?】」

 

「私は鞍馬翼という者です。あなたはどなたでしょうか?」

 

「【鞍馬!? ……すいません。いくつか質問してもよろしいでしょうか?】」

 

 質問をしながら鞍馬を登っていく。触覚が無いので音で登っていることを知覚していた鞍馬は、その質問に答えると共に、自身の身体から発せられている硬質な音に嫌な予感をひしひしと感じていた。

 やがて、鞍馬の目の前に件の『ナニカ』は姿を現した。紫銀の髪を揺らす少年とも少女とも言える容姿。しかし、その瞳は信じられない物を見るかのように大きく見開きながら鞍馬から視線を外さずに見つめていた。

 

「【質問です。あなたはK県K市にあるKソフトワークスに所属していましたか?】」

 

「はい、とある方の下でプログラムやテストのお手伝いをしていました」

 

「【そのとある方はロボットが好きですか?】」

 

「はい、ぶっちゃけ好き過ぎて僕を巻き込んでファーストから最新作まで徹夜でマラソンする変態【誰が変態ですか!】 あ、はい」

 

 質問を続けていく中で目の前の子供が鞍馬の頭部を叩きながら怒る。そのあまりの剣幕に鞍馬は黙るしかなかった。

 だが、その数秒後に子供が急に泣き出すという事態が起こった。それを真正面から見た鞍馬は『情緒不安定だなぁ』と呆れていると、子供の方が『鞍馬ぁ』と泣きじゃくりながら鞍馬の頭部に抱きつくので、疑問が疑問を呼ぶ状況に鞍馬はつい、『誰なんですか?』と少し怒りながら聞いてしまう。

 

「【すみません。僕の名前はエルネスティ・エチェバルリア。鞍馬の言っていたとある方……倉田翼です】」

 

「すみません。理解が追いつきません」

 

「【僕も追いつきません。それに鞍馬、君の身体というか肉体? こうなってますよ】」

 

 頭の整理が追いつかないまま目の前のエルネスティという子供は鞍馬の眼前から消えると、鞍馬の胸の中に戻っていった。すると、鞍馬の意識とは関係なく腕が動き、彼の真正面に蒼い装甲を纏った金属の腕が映った。

 

(これはやっぱり……あれかな?)

 

 鞍馬の疑惑が熱された鉄棒を押し付けられたバターのようにゆっくりと溶けていく。その間にまたもや登って来たエルネスティが少し困り顔で『こうなっちゃってます』と言った瞬間、工房中に『ロボだこれー!』という叫び声が轟いた。

 

***

 

「はい、お騒がせしてすみませんっと言っています」

 

「それは構わねぇが、その座り方は壊れるからやめてくれ。一先ず片付け始めるぞ」

 

 ひとしきり騒いだ後、鞍馬は近場で座っていたロボットによって拘束された。そのままエルに頼んで正座の体勢をとった鞍馬が、目の前の背が小さい髭の生えた男に謝罪すると、男は指でイカルガの後ろにある椅子のような台に座るように指示をし、作業員らしき集団を纏めてどこかへ言ってしまった。

 

 その後、台に座らせてもらった鞍馬は、優に数時間かけたエルネスティとのマンツーマン? の説明によって、この世界は日本などがあった世界とは異なること、エルネスティは本当に倉田翼が転生した姿であること。──そして、今鞍馬はエルネスティが心血を注いで作成した彼だけのロボットである『イカルガ』に憑依していることをようやく理解した。

 

「先輩、すみません。せっかく自分で作った機体に僕なんかが入っちゃって」

 

「わざとじゃこんな事出来ませんよ。それに、AI付きと考えたらお得じゃないですか」

 

 エルネスティ──エルの言っていることに鞍馬は思案する。確かに自分と似たロボ好き思考を持つAIとなると確かにお得だろう。

 だが、今の鞍馬は思考して話すだけで自らの身体を動かせない。そう伝えるとエルは『じゃあお勉強ですね』と嬉しそうな声色で言うと、解散させていた作業員を招集して何かを話し始めた。

 

「はぁ? えーあいってなんだ?」

 

「自分で学習、思考して話す機能です。つけてたの忘れてました」

 

「はぁー……。だからいつも連絡しろって言ってるだろ」

 

 内容は分からないが、声の調子的にまたあの先輩が突っ走って迷惑を掛けていることが伺えた鞍馬は『うちのがすみません』と話し、それをエルが翻訳すると様々な声で笑いが起こる。結局の所、鞍馬はイカルガに内臓された学習型AIという謎の機能として片が着いた。

 

「【クラマって名付けるのもアレですし、名前考えましょうよ。A○Aとかチェ○ンバーとか】」

 

「肯定です 軍曹殿。というわけでアルにしましょう。魂が鎧と言う名のロボットに定着してますから二重の意味でアルにしましょう」

 

「きー○のってでー!」

 

「流石銀色坊主が作ったというだけあって話をかみ合わせてやがる」

 

 そして、そこから鞍馬改め『アル』のAI生活が始まったのである。

 

***

 

「【というわけで言葉と皆の名前と魔法を行使する方法を教えます】」

 

「この身体で生きて……生きて? いく以上は頑張りますよ」

 

 エルは台車に満載された本を叩きながらイカルガを見る。現在、イカルガは気持ち首を下に向くようにエルに調整してもらったので、エルや本の量などを確認することが出来ている。問題は、小さい本をどうやって幻晶騎士(シルエットナイト)であるイカルガに読ませるかと言うと──エルがイカルガの頭部で読み聞かせを行うのである。

 

「うー! イカルガとあんなにイチャイチャしてぇ!」

 

「アディ、比較対象がおかしいことに気付け。そもそもエルがシルエットナイトにお熱なのは知ってるだろ」

 

 木箱に隠れながらこちらに嫉妬の表情を向けている女の子とそれを宥める男の子、エル曰く弟子の人達を視野に入れつつ、エルの開く本の内容や時折エルが話して来る言葉の聞き取りのおかげで1週間後にはエル以外と意思の疎通が取れるようになった。

 

「すみません。ディートリヒさん、エルネスティを見ませんでしたか?」

 

「俺はエドガーだよ アル」

 

 名前に関してもたまに名前を間違えることもあったが、アルは持ち前の勤勉さでエルが所属している銀鳳騎士団のメンバーの名前を覚えていき、次第に銀鳳騎士団のメンバーと仲良くなっていく。そして、日が経つにつれてイカルガの周囲には人が集まり、勉強と称したおしゃべりも目立つようになって来た。

 

「随分馴染んだ所で魔法の勉強をしましょうか」

 

「えー、それなんの役に立つんですか?」

 

 中学生がよく言うようなセリフを吐くアルに、エルは幻晶騎士(シルエットナイト)が動く原理と、エルがこれから教える直接制御(フルコントロール)を覚えることでアルが自分でイカルガを動かせるかもしれないという推測を説明する。それを聞いたアルは俄然やる気を出すと、魔法に関する修練をエル同伴のもとで行われた。

 

「これ、プログラムに似てますね。関数とか隠蔽使ってますし」

 

「そうなんですよ。僕も最初驚きましてね。あ、ここはこうすると滑らかになりますよ」

 

 時折紙で補足しながら修練を続けること3日。アルは首を自由に動かすことと立ち上がることに成功する。それ以外は出来ないのでエルの介助が必要だが、自分で考えて動く幻晶騎士(シルエットナイト)に最初にエルと話し合っていた男──騎操鍛冶師(ナイトスミス)のダーヴィドやダーヴィドが指揮をする騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊が口を大きく開けながら驚いたのは、アルの目から見ても笑える事件であった。

 

***

 

「ダーヴィドさん。この箱、こっちに置いときますね。あ、それと背中のサブアームなんですが、左側の根元の固定が緩いんで締めなおしてください」

 

「あんがとよ。……、自分でどこが悪いか言ってくるシルエットナイトなんて外で言った日にゃ病院紹介されるよな」

 

「アルー、お祭りに行きましょう。お祭り」

 

 イカルガが建造されて数週間後。この頃にはアルの言葉も流暢になり、直接制御(フルコントロール)によってエルが居なくても動き回れるようになっていた。動き回れるようになったアルは日がな一日、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の手伝いを行ったり、ここフレメヴィーラ王国にしか存在しない害獣である『魔獣』とのお祭りを繰り広げたりしていた。

 

「アル、着地の隙は任せましたよ。You have control(ユー ハブ コントロール)!」

 

「レディ!」

 

 魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で高く飛び上がったイカルガが重力に曳かれ、地面に居る魔物を踏み潰しながら着地する。その一瞬の隙を突いて決闘級魔獣がイカルガの正面から殴りかかってくるが、それをひらりと避けたイカルガがカウンター気味に決闘級魔獣を殴り倒す。アルが操縦を行っている時は本能的に魔力転換炉(エーテルリアクタ)の出力を自在に動かせるので、着地時の行動といった機体の制御関係はエルよりアルの方が上手だったりする。

 

 そんなイカルガの操縦権だが基本的にエルが持っており、アルはいつでもその操縦権を掌握することが出来るようになっている。だが、そうすると操縦系統がめちゃくちゃになるためにエルが操縦している時は操縦を全てをエルに任せっきりにしている。

 

「先輩、You have control(ユー ハブ コントロール)!」

 

I have control(アイ ハブ コントロール)

 

 即座に操縦権をエルに託し、残った魔獣がひたすら駆除されるのを黙って見守るアルは、金属の身体だが少しずつこの世界に順応していっている気がした。

 

***

 

「なんですか。これは」

 

「アルがイカルガに憑依したらっていう小説です。よく書けているでしょ?」

 

 アルは呼んでいた冊子から視線を外さずにエルに問いかけるが、その自身ありげな返答に冊子を顔に叩きつけたくなった。

 アルが頭を悩ませるのも仕方が無い。日常風景にイカルガを横に歩かせながら雑談に興じるシーンが多々あり、しまいにはシルエットナイトがシルエットナイトの設計や等身大のモック製作を行うシーンもあるので、作家の頭を疑うレベルの作品になっているのである。どこの世界に人の数倍デカいロボットの隣に立って雑談に興じる世界があるのかと、アルは再三聞きたい気持ちになってきた。

 

 そして、作品のラスト。第二次森伐遠征軍の冒頭でエルが森に墜落する最中に書かれていた『着地の衝撃にエルが耐えられないと判断したアルが、周囲の酸の雲を吹き飛ばしながらイカルガの胸部装甲を無理矢理砕いて中のエルを優しく握りこみ、信じて! と言いながらアディのシルフィアーネに向かって投げるというシーン』を見たアルは、『ねぇわ!』という評価を下した。

 だが、銀鳳騎士団系の著書は結構売れるためか、それなりの売り上げになったことにアルは納得がいかない様子だったとかなんとか。




銀鳳の副団長の投稿から1年が経ちました。
UAやお気に入り、評価や感想を沢山いただき、その度にモチベーションをいただいております。

今後も1週間に1話投稿を続けて行きたいですが、予定は未定なので長い目で見ていただけたら嬉しいです。
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