銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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ご通読ありがとうございます。マジックテープ財布です。
しばらくは1週間に1話を目処に投稿したいと思います。


3話

ライヒアラ学園街の屋根の上を疾走する小さい影が1つ。

時は真夜中を過ぎており、普段は賑やかな町も今では屋根を踏みつける硬質な足音のみが響いていた。

 

「兄さんも薄情だよなぁ。ちょっと猫と戯れていただけなのに」

 

アルは自分を置いて出発したエルを追う為に文句を言いながら屋根を疾走する。

ちなみにたっぷり30分は構っていたのでちょっとどころではなかった。

 

2年前の失敗から2人は暇があれば魔法を撃ったり、近所の子供を相手に様々な遊びで鎬を削り合ったり、お願いマッスルをすることでその辺の子供と比べても勝負にならないような魔力とスタミナを手に入れていた。

改造に改造を重ねた身体強化魔法も今では運用方法を少し変え、低出力で指定箇所のみを強化することで魔力を節約、長時間の運用も可能になった。

 

走り始めて早数分、助走をつけながら大通りを飛び越えようとした時、大通りの先に人影が見えたのでアルは急停止する。

 

(身体強化で目を強化してっと…)

 

アルは魔法術式(スクリプト)を変更し、強化部位を足回りから目の辺りに変更する。

そうすると最初は距離でぼやけていた人影が若干だが鮮明に映る。

 

(多分兄さん…………ですよね? 大人にでも見つかったかな?)

 

それでも夜のためなのか少し見えづらかったが、背格好から兄のエルだと判断したアルは空気弾丸(エア・バレット)の魔法を準備する。

 

そのまま後方で魔法を炸裂させようとしたアルは、ふとなにかを思いつくとそのまま腰を空中で下ろす。

俗に言う空気椅子の体勢を取ったアルは後方の安全を確認するとそのまま空気弾丸(エア・バレット)を後ろで炸裂させる。

 

反動を受けたアルの身体は、前方の人影に向かってすっ飛んでいく。

無論、空気椅子の状態で。

 

 

***

 

時はアルが座りながらの大跳躍をする少し前に遡る。

出窓から身を乗り出した少年が訝しげな視線をエルに向けてくる。

 

「ますます怪しいだろ。何だよ特訓って」

 

「えーっと…」

 

エルはつい先ほどまで猫に魂を引かれた弟を置いて屋根マラソンに勤しんでいたが、お邪魔した屋根で少年と少女にエンカウントしていた。

最初は泥棒と間違われたが、特訓としてここを走っていただけと説明する。

常識的に考えてこんな夜更けに屋根の上をフードを被って疾走するのは十分に怪しいのだが、エルはそのことに気づいていない。

 

走る時間がなくなるのが惜しいとばかりに口早に『入学に向けて』と言いながら駆け出そうとした時だった。

 

「にぃさ~ん」

 

だらしない顔をしながら猫と戯れていたはずの弟の声が聞こえ、エルが思わず振り返る。

だが、視線の先には座りながらの姿勢で飛んでくる一人のアル(へんなの)が居た。

 

「おい、変なのが座りながら飛んできてるぞ」

 

(ごもっとも…)

 

少年が若干引きながら言う言葉にエルも同意する。

 

アルフォンス・エチェバルリア、魔法を組む速度などはエルには一歩劣るが、彼の強みは魔法の多様さにあった。

元々は改造など、元をより良くすることに関心があった彼は一つの魔法から威力や範囲など、それこそどう考えてもネタ魔法にしかならない物も嬉々として作っては兄に見せる名目で実験を行っていた。

 

(一時期、大気の壁を前後左右に配置して『ネク○トごっこ』とかやってましたねぇ)

 

遠い目をしつつ昔を思い出していると、アルが降りてきた。

 

 

***

 

「だ、誰?」

 

少年の側にいた少女が恐る恐るアルに声をかけた。

 

(大人と思ったら子供だったか。騒がれると面倒だなぁ)

 

下手に騒ぎを起こしたら親も巻き込んでしまうので、アルはなんとか穏便にしようと自己紹介をする。

 

「おや、こんばんは。自分はそこにいるちんちくりんの弟です」

 

「誰がちんちくりんですか。誰が」

 

アルは軽い冗談のつもりでエルに向かって指をさしたが、エルは笑みを浮かべて何かを握って思いっきり上に捻る動作をする。

一体何を捻っているのだろうか。アルは皆目見当も付かない体で吹けていない口笛を吹く。

その掛け合いに少女はクスリと笑ったのを見てアルは言葉を続ける。

 

「走りにくい屋根を走って体幹のトレーニングをしている途中なんですよ。時間も惜しいんでこれで失礼します」

 

『お邪魔しました』と言って駆け出すとそれに追従する形でエルも駆け出す。

 

「前! ぶつかっちゃう!」

 

少女の声に呼応するかのようにエルは煙突を一足飛びに上り、そこから次の屋根に飛び移る。

アルもそれに続こうとしたが、同じ事をしては面白くないと考え、煙突の前で急停止する。

 

少年がその様子に不思議に思っているとアルはおもむろに煙突の出っ張りを頼りに登っていく。

出っ張りと言ってもせいぜい指が掛けれるか掛けれないかぎりぎりの代物をアルは強化を頼りにすいすい登っていく。

そうして煙突の天辺に立ったアルは、ずれかけていたフードを被りなおすとエルと同じく他の屋根へと飛び移った。

 

先ほどの出来事を忘れたかのように無言で走り続けたエルとアルだったが、いつも魔法の練習をしている草原に辿り着くと、いきなりエルがアルに掴みかかってくる。

 

「……というわけで。人のことをちんちくりんといった愚弟にお仕置きを執行します」

 

「場を和ませるためにとっさに言ったジョークだっtイダダダダ!」

 

2人以外誰も居ない草原でアルの悲痛な叫びが響く。

 

 

***

 

次の日、同じ場所で彼らは再び対面した。

前の日と違うところは、アルも並走していたことと出窓から様子を伺っていた少年と少女が出窓から出ていたことだろうか。

 

「こんばんは、また会いましたね」

 

軽い挨拶をした後、本題とばかりに少年は質問をする。

簡単にまとめると身体強化魔法を教えてほしいとの事だったが、エルは難しい顔をして返答を悩んでいた。

 

「兄さん、教えてあげたら?」

 

アルの言葉にエルはため息を吐きながら了承する。

少年と少女、アーキッドとアデルトルートに自己紹介をしながら二人は被っていたフードを脱ぐ。

 

「お前ら、女だったのか?」

 

「確認……します?」

 

少年の方がエル達が幼い頃からよく見た反応をしたので、アルはベルトを鳴らしながら答える。

 

「いや! いい! ベルトを動かすな!」

 

顔を赤くしながらアーキッドは必死に止める。それを見ながらエルは盛大にため息を吐く。

結局、収拾がつかなくなったので明日にでもエチェバルリア邸で軽い説明をすることに決まってこの場は解散となった。

 

「兄さん、こっちで初めて人を家に呼びましたね」

 

「そうですね」

 

帰り道、アルの嬉しそうな声にエルも相槌を打つ。

 

 

***

 

そしてアーキッドとアデルトルートが家に来る日、エルは母親とお茶菓子を作る弟を見つつテーブルで頬杖をつきながら待機していた。

 

「せっかく家に招待したんだからおもてなしはしっかりしなくちゃだめよ」

 

「もちろんです。母様」

 

子供達が友達を家に呼ぶことを知り、テンションが上がっているセレスティナに同意しながらアルもエプロンを身に付け、長い髪を後ろでまとめる。

テーブルからぼーっとその様子を眺めていたエルは元後輩である弟の女子力に戦慄していた。

 

(うちの弟…女子力たかすぎ)

 

前世での独り身スキルを日頃の家事手伝いでエンチャントすることにより、アルの家事スキルは結構高いものになった。

もっとも、家事手伝いの理由はアル曰く『ソウルフードのうどん作りたいじゃん!』というくそどうでも良い欲望なのは本人と薄々だがエルしか知らない。

 

(顔も母様と似てきてるし、いつかスカートはいて『お兄様』といわれたらどうしましょう)

 

自身の容姿を全力で棚上げしながら、母親と仲良く調理する弟を見ているとドアを叩く音とアーキッドの声が聞こえた。

エルはアーキッド達を家に招きいれ、アルに一声かけてから自室へ先導する。

アーキッド達はその光景に少し首をかしげながら付いていく。

 

「なぁ、アルフォンスって男じゃなかったっけ?」

 

「奇遇ですね。実は僕もさっきまでどっちだっけと思ってました」

 

アーキッドは『だよなぁ』と言葉を繋ぎながら案内された部屋の中で車座で座る。

目の前の小さな机には前日に作ったであろうメモや魔法についての教本が並んでいた。

 

「随分大掛かりな準備してたんだな」

 

「ええ、僕達がやってた動きはちょっと特殊な物ですから人に話す前にまとめていたんです」

 

「特殊? 魔法についてだよね?」

 

「ええ、その話は後でしますので」

 

雑談をしているとアルが紅茶と茶菓子を持って入ってくる。

机の資料を脇にどけながらそれらを広げるとエルは一つ咳払いをする。

 

「それでは、僕達が使っていた魔法についてのガイダンスを始めます」

 

「兄さん、それ以上いけない」

 

『がいだんす?』というアデルトルートのきょとんとした顔にアルは『説明のことですよ』と補足し、エルに注意をする。

 

「失礼しました。説明を始めます」

 

エルは即座に言い直して説明を始める。

基本は身体強化を全身ではなく部位に集中させ、低出力で使っていること。

飛び跳ねるのは空気弾丸を動きたい方向と逆の方向に炸裂させていること。

着地の際には空気弾丸を利用してクッションにしていることなど、初めて会った時に使ったことを教本とメモを使って説明していく。

 

時折、アルも補足やメモを指差しながらサポートをしていたので、説明を聞いていた二人は詰まる様子もなく聞き入っていた。

 

「あれ? それって魔法自体を改造しているってこと?」

 

「はい」

 

「僕と兄さんは体格的にほぼ似ているので多少流用はできますが、お2人の場合はちょっと威力強めとか調整しないと想定以下の結果になりそうですね」

 

「いい加減僕より低いことを認めなさい。脱線しましたが、これは決して簡単なことではありません。それでもやりますか?」

 

『ほぼ』の部分を若干強めに言うアルにチョップを入れながら困惑している2人に声をかける。

尻込みして引き下がるだろうとちょっと考えていたエルだったが、『もっと詳しく教えてほしい』や『毎日勉強していけばやれるようになる』といった前向きな意見が2人から出て、思わずエルも口元に笑みを浮かべた。

 

「では、改めてよろしくおねがいします。アーキッド、アデルトルート」

 

「キッドでいいぜ。よろしくな」

 

「私はアディね」

 

「では僕のことはエルと」

 

「あるです。よろしくおねがいします。あるはいます!」

 

こうして、エルとアルの特訓に2人の友人が加わった。

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