銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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163話

 フレメヴィーラ王国とパーヴェルツィーク王国が拠点にしていた場所では現在、盛大な後片付けが進行中であった。カルディトーレなどといった陸戦機を飛空船(レビテートシップ)に積み込む音や物資の運び込みを指示する声といった活力のある音をBGMに、いざという時に逃げ込めるようにわりと強固に作られた避難所の一画にある会議室ではやけにやつれたエムリスとフリーグデントといった両国の代表が、分厚い紙束とその横で泥のように眠っているアルを交互に見た後に顔を見合わせて話していた。

 

「まさか、この大陸の未来──国を興す準備がこれほど大変だったとは」

 

「我々の祖先もこのような困難を前に頭を抱えていたのだろうな」

 

 紙束の中にはエムリスやフリーグデントといった上層部と、キッドやアルといったいわゆるハルピュイアをよく知っている人間が考えた『これからの浮遊大陸をどうするのか』という草案が纏められていた。

 

 なぜ、あわや西方諸国に落ちると思っていた浮遊大陸に国を興すのか。それは小王(オベロン)に協力してもらうための条件ということも当然あるが、現在の浮遊大陸の位置も大きく関係していた。

 魔法生物を辛くも封印した後のこと、先ほども言った通り西方諸国に落ちるかと思っていた浮遊大陸は突如として浮上を始めた。その緩やかな浮上は元の高度に至ると動きを止め、念のために騎士団に調査を依頼して数日経ったが未だに高度を保っていることから再び落下する可能性は著しく低いという見立てだとか。

 ただ、高度は元に戻ったが『位置』は未だに戻らなかった。今は西方諸国の南方という、どこの国の領土にも属していない緩衝地付近に留まっている。

 

 つまりは宝の山が無造作に転がっているといっても差支えがない状況。どうなるかはお察しの通りで、やりすぎればどうなるか──先ほどまで多大な犠牲を払って封印を行った処置の二番煎じである。

 人間の治世や国といった知識を蓄える気が全くなかった小王(オベロン)はともかく、両国は今の状況を幸運かつ極々短期間の猶予しかないと考えた。各地の探検家や源素晶石(エーテライト)採掘の実績のある国が人員を差し向け、浮遊大陸中が飛空船(レビテートシップ)で一杯になる前にこうして必要最低限の『型』を急ピッチで仕上げたわけである。

 

「しかし、外れた当ては大きいな。まさか頼みにしていたエーテライトの精製が出来なかったとは」

 

「ハハハ、流石はエルネスティ君だ。まさかアルヴの私でも扱えないものを作り出すとはね」

 

「オベロンでも無理ですか?」

 

 突然アルがむっくりと起きたことに少々驚いた小王(オベロン)だが、咳ばらいをすると『今は』という返答をする。

 長い寿命を持つアルヴの民である小王(オベロン)ならば、長い時間をかけて解析するのも組み込むのもお手の物らしい。後々は彼の乗機である『魔王』にも取り付けるという心構えを聞かされるが、今はエルとイカルガにしか使えなかった源素晶石(エーテライト)の精製方法よりも精製が出来なかったことで依然として宝の山であることに変わりはない浮遊大陸における問題の方が先決とフリーグデントは話を元に戻す。

 

 ちなみに、いちばん惜しかったのはやっぱりアルとガルラであった。源素晶石(エーテライト)が小指の先ほどしか精製できなかったが、短時間で源素晶石(エーテライト)を生成できるという結果と西方諸国内に居る騎士という条件にフリーグデントが目の色を変える。ただ、エムリスの『うちとクシェペルカ王国に喧嘩を吹っ掛けたいのならどうぞ』という言葉に素直に引き下がったとかなんとか。

 

──閑話休題(それはともかくとして)

 

 まず、浮遊大陸の問題として件の源素晶石(エーテライト)が挙げられる。

 全面的な採掘の禁止では所謂『無敵の人』といった後に引けない者達を扇動し、密入国後に秘密裏に採掘。バレても『あいつらが勝手にやった。うちの国には関係ない』とシラを切られるだろう。そんなことになるぐらいなら、緩やかでも国の事業として採掘し、各国に輸出して外貨を得るという『交易』という手段を取るのが道理だろう。

 

「元々は国を興すという約束だったからな。俺としてはそれが妥当だと思うが、そちらの本国がよくそれを許したな」

 

「なに、魔法生物についてのあれこれを多少の尾鰭を付けて語らせたまでだ。誰も酒樽に火がついた状態で独占して飲み干す馬鹿は居ない。……おそらくな」

 

「どこかで魔法生物の恐ろしさ的な記録を作る必要がありますね」

 

「どうだか。徒人のほとんどは無知だからね、あったかなかったか分からない昔話扱いされるのが関の山だろ」

 

 あれだけの被害を被った魔法生物の恐ろしさを肌で感じ取った面々が色々言い合うが、徐々に話が源素晶石(エーテライト)交易の話から脱線気味になってきたので今度はエムリスの言葉で一旦交易の話は終わったと軌道を修正する。

 

 次に問題になって来るのが、ハルピュイアのことである。

 小王(オベロン)はこの浮遊大陸に住んでいるハルピュイア全員を国民として迎え入れる腹積もりらしい。そのハルピュイアの中に、少し前に一時的にとはいえ魔王軍と敵対していたスオージロ達の村も例外ではないらしい。

 

「なんとも懐が深いですね」

 

「アルヴとハルピュイアは遠き昔に別れたが、同じ祖を持つものだよ。多少の入れ違いで一緒に飛べなかっただけで群れから外すのは早計過ぎると思っただけさ。それに、彼らには西方人との付き合いがあるからね」

 

 『多少の打算もあるよ』とばかりに小王(オベロン)は胸の内を晒す。彼らにはシュメフリーク王国との交易で培ったノウハウから源素晶石(エーテライト)交易における重要なポストを用意しているようで、スオージロ達もその妙な待遇に良さに若干の不信感を募らせつつもOKを出したらしい。

 

「それとだが……、これは僕の口から言っても良いのかい?」

 

「……いえ、僭越ながら私が説明させていただきます」

 

 心底面倒そうな表情を浮かべた小王(オベロン)が不意に首を横に向けると、そこには魔王軍に所属して混成獣(キュマイラ)に乗っていた元風切りの姿があった。彼は数十秒ほど黙りこくっていたが、小王(オベロン)からの命令染みた問いかけにようやく重い口を開く。

 

「ハルピュイアは今後、西方人と多く付き合う必要がある。そのため……人の……生活を……り、りりかい……」

 

「あーあー、ったく面倒臭いねぇ! 僕の考え的に、そこの風切りの娘であるローカをそっちに送って生活させたいんだよ」

 

 小王(オベロン)の言葉を噛み砕くと、ローカを人の世界に留学させたいらしい。たしかに今のハルピュイアや小王(オベロン)にとって人の営みというのは理解とは程遠い位置にある。それを学べる立場にある者が居るのならば、勉強しに行ってもらって後で聞くのが理に叶っている。──その対象が未だ子供で、その親も苦渋の決断しなければならないことを除けばだが。

 

「あの子をぉ……まだ小さいあの子をぉぉお!」

 

「すまないが、君の所で面倒見てもらえないかい?」

 

「無理っすね」

 

「んなぁっ!?」

 

「考えることなく拒否か。どういうことか説明してくれるかい?」

 

 即座に要望を斬り捨てたアルは、小王(オベロン)の促しもあって説明を始める。

 まず、アルは既にクシェペルカ王国の人間なため、ローカを連れていくとすればクシェペルカ王国になる。ただ、この国は未だ人間やドワーフといったセッテルンド大陸全体で認知している種族に関しては問題ないが、巨人族(アストラガリ)は王族ぐらいにしか認知されていない。

 そうなるとかなり厄介かつ、余計な問題を常に連れ歩くようなものだ。いくらアルが公爵でも、小さなトラブルを積み重ねていく恐れのあるローカを無暗に連れ歩けない。

 

「なるほどねぇ。じゃあ、どこが良いんだい? そこのパーヴェ……なんとかかい?」

 

「パーヴェルツィーク王国も同じか、もっと酷いことになるかと。僕はフレメヴィーラ王国を推しますね」

 

「まぁ、銀の長の話を聞くにうちは最近、アストラガリとかいう巨人と国交を結んだらしいしな」

 

 自身の国の名前を失念されて若干不機嫌なフリーグデントはさておき、アルは3国の中で比較的まともに留学が出来そうなところとしてフレメヴィーラ王国を挙げた。

 フレメヴィーラ王国は既にリオタムスによって巨人族(アストラガリ)がボキューズ大森海に存在する国からやってきた賓客。行く行くは国交を行うと宣言しており、受け入れる下地は出来ている。

 そして、今もこうしてエムリスが浮遊大陸に国を興す準備をしていることから『フレメヴィーラ王国はハルピュイアや彼らが住む国の存在を認めた』という何よりの証拠となるため、留学するのならばフレメヴィーラ王国だろうとアルは小王(オベロン)達に猛プッシュする。

 

「で、ですが! それだとローカはあのディートリヒという者に!」

 

「まぁ、拾ってきた責任を取ってもらわないとですね」

 

「おぉ……お"お”ぉ"ぉぉ!」

 

「蹲って泣くほどかい?」

 

「親になって見ないと分からない感情かと」

 

「そのローカという者が羨ましい限りだ」

 

 様々な想像が現在進行形で頭に流れて脳が破壊されているのであろう。その場で蹲っておいおい泣きわめく風切りを男達は共感出来ずに見守り、この中で唯一の女性であったフリーグデントは自身の父親と比較して苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

 

「まぁ、その前にディーさんも嫁さん見つけるでしょ」

 

「だが、アルフォンス。妾や側室なんてこともあるぞ?」

 

「今はそんなこと言わないでください。それに僕は一夫一妻派なんで」

 

 エムリスの反論を聞き、なお一層泣き声が大きくなる風切り。もはや手の打ちようがないと、4人は次の話題として戴冠式の話をし出した。

 

***

 

「やっぱり、ハルピュイアを導く者として魔導王国と名乗っておけばよかったよ」

 

「響きが良くなさそうなので却下で」

 

 強固な避難所を改築した、形だけは仰々しい建物の屋上で小王(オベロン)とアルは話をしながら澄み切った青空を見ていた。既に各国の飛空船(レビテートシップ)がそれぞれ離陸を開始しており、アル達が浮遊大陸に居られる時間も残り少ないことが伺える。

 

 あの後、簡易的な戴冠式を済ませた小王(オベロン)──否、『初代魔王』の名義で西方諸国にとある怪文書がばら撒かれた。

 

 その中には、以下のことが書かれており、西方諸国の国々は度肝を抜くことになる。

 ・初代魔王は浮遊大陸を領土とした『魔王国』を建国する。

 ・魔王国の住民はハルピュイア族のみである。

 ・魔王国は西方の大地を侵すことなく、またいかなる国家の支配も受けないと。

 ・魔王国は交易をもってのみ西方の国々と関わることと。

 

 そして、最後に──。

 ・魔王国のハルピュイア族を保有する国家は個人の意思を確認後、必要であれば魔王国に返還すること。また、それを拒否する場合は先ほどの宣言の例外とみなす。

 最後の文を誰が書いたかはお察しである。

 

 ただ、一方的な書状のみでの建国宣言という非常識な真似に西方諸国の歴々が憤慨するのも束の間。後に書かれていた賛同国として名を連ねた国々の名前に顔を青白く変色させた。

 

 パーヴェルツィーク王国、クシェペルカ王国、フレメヴィーラ王国、シュメフリーク王国。

 

 まさかの4か国である。その中でもパーヴェルツィーク王国は飛竜戦艦(リンドヴルム)という規格外の飛空船(レビテートシップ)を筆頭に航空戦力が充実した強国。クシェペルカ王国は大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で一時期滅んでいたが、不死鳥のごとく復活したその反動で性能の良い幻晶騎士(シルエットナイト)を今もなお開発しては強国への道を駆け上がっている大国。フレメヴィーラ王国に至っては、未だ伝説的な存在である魔獣と日夜切った張ったをしているという得体の知れない噂が絶えない修羅の国である。

 

 万が一にも喧嘩が勃発した際、即座に王都に奇襲を掛けられて滅亡してきそうな国々の名前を前に各国は振り上げた拳や剣をそっと横に置き、引き攣ったようなスマイルで『建国おめでとう』という内容の畏まった返事を書いたのは言うまでも無かった。

 

 そんな(表向きは)建国を祝う返事の中には、かつて大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で覇を競っていたジャロウデク王国と途中から全くの空気であった孤独なる十一(イレブンフラッグス)からの返事もあった。

 ジャロウデク王国は恐らくだが、帰って行ったグスターボが何を入れ知恵したのだろう。返事の早さが異様に早く、その対応にエムリスをはじめとした大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)参加者は『あの国は渋って攻撃してくると思ってた』と意外そうに同じ感想を漏らす。──残当である。

 

 孤独なる十一(イレブンフラッグス)からの返事については、同じ西方諸国のフリーグデント曰く『あり得ない』らしい。

 かの国はどのような些細な条約でも最後の最後までゴネる性質の悪い国らしく、その凄まじさは盤面を引っ繰り返されてはその度に会議を行ってその結果を外交官やその部下が泣きながら書面に反映するほどらしく、その説明だけでもアルの前世に刻み込まれた記憶に深々と突き刺さるほどであった。

 

「やっぱり滅ぼしましょうよ。イレブンフラッグス」

 

「お前は何時からジャロウデク王国みたいな思想になったんだ?」

 

「話を戻そう。そんな国が今回だけは異様に大人しく条件を呑んだ。何かあると疑うのも当然じゃないか」

 

「大方、君達の国の国力に恐れを為したんじゃないかね。ほら、君達もここでは結構暴れたじゃないか」

 

 今まで優雅にグラスを傾けていた小王(オベロン)が唐突に口を挟む。たしかに『色々』したし、『ボコボコ』にしたのは全員の記憶に残っているため、全員は納得の声を上げた。

 

 ただ、孤独なる十一(イレブンフラッグス)側からすればそれはただの『小さな事故』に過ぎない。彼らは知る由もないがかの国は現在、孤独なる十一(イレブンフラッグス)という名前にはそぐわない旗数を掲げているという非常に由々しき問題に直面している。

 先の浮遊大陸の一件で少なくとも2本の旗が消失し、その余波で消えた旗が治める都市国家を中心に混乱が広がっており、彼らはその火消しに躍起なのだ。当然、そんなときに外から連合の長達が決めねばならない大事が舞い込んできても気を回すことが出来ないだろう。

 さらにいえば、先ほどの『ハルピュイア族の返還』という爆弾がさらに投下されるため、さらなる混乱が予想される。

 

 かくして、かなり都合の良いように事態が転んだという結果となったが、未だ浮遊大陸──『魔王国』に留まっている全員がこの情報を知るのはかなり後になるのであった。

 

──閑話休題(それはともかく)

 

「なぁ、アルフォンス。父母をアルヴに返したのは君の案かい?」

 

「僕と兄さんの案です。大まかな日程と護衛の編成は兄さんが作りましたし、先王や衛使の方も同席してくださいましたよ」

 

「随分仰々しく流れに返されたんだね。君だけは素直に感謝を伝えても良いね、色々とありがとう。特に君が居なければ既に徒人の手にある領民の返還なんて思いつきもしなかったよ」

 

 下でキッドとホーガラが熱量の高い喧嘩をしているのを『陛下に連絡だな』と心のメモに刻みながら見ていたアルだが、小王(オベロン)からの感謝の言葉が聞こえたために慌てて横を見る。彼は真剣な眼差しで下のハルピュイアを見てはいるが、照れ隠しなのか頬が少しだけ赤かった。

 

「どういたしまして。てっきり兄さんと一緒の時に言われると思ってましたよ」

 

「はぁっ? 素直にと言っただろう! なんでエルネスティにも感謝……はするが、形式的にだ! それに、君とは違って追放だよ! あんなやつ!」

 

 やはり、ロボアニメや戦隊物のお約束のように『一時的に身内になったら仲間』とはいかなかったらしい。フィクションはどこまでもフィクションなことを噛み締めつつも、アルは小王(オベロン)の愚痴を延々と聞いていたが──。

 

「おっと、噂をすれば来たな。エルネスティ君」

 

「オベロン、それにアルもどうしたんですか?」

 

「僕はオベロンに頼まれてきた立会人なんで、無視していただけると」

 

 立会人ということは何かをするのだろうとエルはイカルガの方に向き直るが、対する小王(オベロン)は『そんなに身構えなくても良い』と手を左右に振ると、尊大な格好で椅子に座りながら真剣な眼差しをエルに向けた。

 

「アルフォンスにも言ったが、君と私の因縁に決着を付けたいだけだよ」

 

「僕とあなたの因縁なんて……一緒の機体に乗った仲じゃないですか」

 

「なんでっ! そんなっ! 関係にっ! なるんだぁ!」

 

 やはりエルもアルと同じ認識を持っていたようだ。首を横に傾げて不思議そうに喋るエルの前で血管がぶち切れんばかりに叫ぶ小王(オベロン)

 しかし、国を興して早々に脳出血で逝ってしまわれては堪ったものではないとアルはエルに『アニメはアニメ』だと伝え、小王(オベロン)には冷静になるように助言する。

 そんな甲斐があったのだろうか。ようやく落ち着いた小王(オベロン)が再び椅子でふんぞり返ると、心底嫌そうな表情を浮かべた。

 

「うぐぐ……まぁ、良い。エルネスティ・エチェバルリア。魔王国領土の落下の阻止した、此度に働き大儀であった! そして、我が領内の民を護るため尽力したこと、魔王として感謝する!」

 

 告げられたのがまさかの感謝にエルが口を半開きで硬直していると、小王(オベロン)はさらに言葉を続ける。

 

「そして! 初代魔王として貴で……いや、もう貴様で良いな。貴様にはこの魔王国からの永久追放を命じる! ただし、これは貴様が魔王国領土から出た後に効力を発揮する! 父母をアルヴの流れに返してくれた礼と思ってくれたまえ」

 

「オベロン、オベロン。優しさを見せたようですが、それだといつまでもここに居座られますよ?」

 

「ん? あ、そうか。では、即刻退去も命ずる」

 

 一体どちらの味方なのだろうか。そもそも、味方をするならばこちらだろう。

 小王(オベロン)の横に立って的確にアドバイスする宰相気取りのナマモノに苛立ちを見せたエルだが、先ほど述べた小王(オベロン)の言葉を遂行した後に去り行く小王(オベロン)に声をかけた。

 

「残念です、魔王陛下。僕はあなたが嫌いではありませんのに」

 

「うぉっふぉう!? や、やめたまえ! 気色が悪い! そもそも、嫌いではなかったら僕ごと機体を自爆させるな!」

 

「それはそれ。これはこれですので」

 

 やる時は徹底的に。死ぬ時は操縦席の中で。昔聞いたエルのロボへの感情や自分に対する死生観は、結婚してからも一切変わっていないらしい。一週回っていっそ清々しいほどに小王(オベロン)の意見を右から左に流したエルを見て、もうどうでも良くなったのか小王(オベロン)はひらひらと手を振りながら『早めに帰ってくれよ』と言い残して去って行った。

 

 後に残されたエルとアル。彼らは数秒ほどお互いを見つめ──そして。

 

「あそこは普通に兄を味方するんじゃないんですか!」

 

「兄さんこそ、オベロンに何したんですか! あんたの問題に飛び火して、クシェペルカの貿易権無くなったらどうするんですか!」

 

「君達、煩い! さっさと帰れ!」

 

 兄弟喧嘩へと発展し、その騒々しさに戻ってきた小王(オベロン)が混ざって大乱闘が始まった。

 

 そして、その数日後。殿役のイズモに乗り込んだエル達は魔王国を発った。悠々と彼方へ飛んでいくイズモを建物の屋上──エルに追放宣言を行った場所からいつまでも見ていた小王(オベロン)だが、その胸中は誰にも察することは出来なかった。

 

** ??? **

 

 デルヴァンクールからの使者から騎士団が数日中に帰ってくることを伝えられた私は、大慌てでフォンタニエに早馬を飛ばして母と合流してから馬車に飛び乗った。護衛の幻晶騎士(シルエットナイト)の調達も済んでいないのに馬車を出すという危険行為を母から咎められたが、数分後には『気持ちがデルヴァンクールの方に向いている』と呆れられた。

 失礼ね。反省は……ちょっとしてるけど、緊急事態なんだから仕方がないじゃない。

 

 そこから数日程馬車での移動を続けながらも逸る気持ちが強いせいでフォンタニエの実家で働いている御者の人にもっと早くデルヴァンクールことが出来ないかと強く当たってしまったけど、母も御者の人もそのことに対して怒ることも無く、むしろまるで小さな子を見ているかのような生暖かい視線を投げかけてきたのが不思議だった。

 

「マルティナ様、イサドラ様。デルヴァンクールが見えてまいりました」

 

 遠くに見える王城。そしてその周囲に浮かび上がる飛空船(レビテートシップ)。しかも、あれは……。

 

「あれ! ゴールドメイン号じゃないかしら!」

 

「そうね。おそらくエムリスが帰ってきたんでしょうね」

 

「そ、そう! リース兄が帰ってきたのよね!」

 

 母の言葉につい同調してしまうが、私の頭の中には別の人間の姿が浮かび上がる。

 小さくて──強くて──頼りになって──でも弱くて──そこが逆に愛おしい。そんな人の名前。

 意図せずに首から下げた鞘に入った銀の短剣に指を這わせていたらしく、私の耳に短剣と繋がった鎖の音──とは異なる轟音を届けた。

 

「何事です!」

 

「シルエットナイト……? おそらくシルエットナイトがこちらに飛んできます!」

 

 困惑した御者の人の言葉につい馬車から身を乗り出すと、何度も見ていたおかげで慣れてしまったといった方が正しいような存在がこちらに向かって飛んできていた。御者の人は当然だけど、母もその存在に慌てている姿が自身が既に『あっち側』なのを嫌でも認識させられる。

 

 だけど、あそこに頭の中に浮かんでいた人が居るのもまた事実。そう結論付けた私は勢いよく馬車の扉を開けて外に出ていった。

 

「ここで止めて。迎えに行くから」

 

「へ? あっ、イサドラ様!」

 

 御者の人の声を背に受けながら道をまっすぐ進む。心の中で彼に対する謝罪の言葉を呟きながら、私は頭を上げて飛んできた存在──ガルラを見やる。

 既に幻晶騎士(シルエットナイト)の形状へと変化したガルラは駐機状態となり、その胸部から私よりも小さい存在が様々な物をそこらに放り捨てながら地面に降りて……あ、ちょっと着地に失敗した。

 

 ふふっ、きっとあの鎧……降下甲冑(ディセンドラート)といったかしら。あれを脱ぐのに集中して演算に失敗したのね。兜に八つ当たりしてる。

 

 そのままこっちにゆっくりと歩いて……なにかしら? 身体を震わせながら周囲をキョロキョロと……。あ、お土産忘れたのかな? 

 それで道の片隅に屈んで……もしかして、道端の花をお土産代わりに!? あ、小石も掴みだして……何事も無さげに立ち上がったわね。

 

 それで? 私を見つけて? 手を上げて──名前を呼ぶわ。

 

「イサドラ様!」

 

 ほーら、当たった。片手に花を持ちながらアルが近づいて来る。

 私とアルの距離が近づくごとに、さっきまでは平熱だった頭がゆで上がった芋のように熱くなってくるのを感じる。でも、決して目を逸らすことは出来ない──いや、私自身が逸らすことを許さない。

 そして、ついに私と彼の距離がちょうど1mという頃になった頃。

 

「ただいま帰りました」

 

「お帰りなさい」

 

 ようやく話が出来た。そのことだけで私にはちょっとしたお祝い事のように思えたのだから、つくづく自分が如何に彼に対して安易な思考をしているのか痛感する。

 すると、彼はガルラの方を指差して笑い始めた。

 

「いやー、格好よく着地をしようとしたんですがね? ディセンドラートを外すのに真剣で演算のタイミングミスって落っこちちゃったんですよ」

 

「もぅ、気を付けなさいね?」

 

 当たった。ついでに兜にも八つ当たりしていたよね。とは決して言わない。だって、全部見てたって言ったら彼のことだから不貞腐れて全部の解答が発表されないんだから。

 すると、唐突にアルが挙動不審になりながらもおずおずといった様子で花を差し出してくる。

 

 ふふっ、でもちょっと意地悪してやろう。

 

「で、なんですがね? お土産はその……」

 

「さっき、道端で拾ってきた?」

 

「こ、小石もありますよ?」

 

「それをアルの頭にぶつければ良いのね?」

 

 まったく……。でも、お土産と言われると確かに欲しくなってしまうのが人の性じゃないかしら。

 

 ──そうね。せっかく全問正解したことだし、『ご褒美』も追加してもらわないと損ね。

 

「アル、こっち来て」

 

「? はい」

 

 私の手招きにアルは素直に応じてくれる。この飼いならされた小動物チックな素直さに庇護欲を感じてしまうが、己を律することでなんとか耐え抜いた私はそのままアルを抱きしめる。彼も最初こそ私の行動に驚いていたが、私の背中を軽く叩いてくれる。それが何よりも幸せだった。

 

 でも、幸せは続くものらしい。すっとさらに踏み込んできたアルの唇が私の唇に触れる。

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

**浮遊大陸編 完**

 

**予告(予告内容が通知なく変更する場合がございます)**

 

 一条の光がトイボックス参式改(マーク3カスタム)を通り過ぎ、マガツイカルガニシキのすぐ横を掠める。光に一番近かった外装が融解し出したところを見ると、先ほど放たれた『試作型過剰強化魔導兵装』と叫ばれていた物よりも高出力なことが伺える。

 

 それが続けざまに3発。どれも操縦席である胸部装甲ではなく、肩や膝といった無力化を狙いとした攻撃。狙いどころから意図を割り出したウーゼルはトイボックス参式改(マーク3カスタム)に並び立った幻晶騎士(シルエットナイト)に向けて嘲笑をぶつけた。

 

「生け捕りをしようと? 確かに私1人では君の動きを捉えきれなかったが、"私達"なら造作もないことだ。無駄だよ」

 

 しかし、その嘲笑を受けても尚、幻晶騎士(シルエットナイト)魔導兵装(シルエットアームズ)を放ち続ける。如何にフレメヴィーラ王国最強で最大の欠陥機であろうともまともに食らえば大破は確実な破壊の光が空を走るが、マガツイカルガニシキはその驚異的な機動力でもって回避する。

 

「無駄だと言っただろう。懲りないやつには……そうだね"私"。お帰り願おっ!?」

 

 誰かと話しているかのような口ぶりでウーゼルは機動法撃端末(カササギ)を展開しようとするが、突然操縦席に衝撃が走る。何事かとマガツイカルガニシキの首を頻りに左右に振って索敵を行うが、どこにも敵の姿を見つけることが出来なかった。

 

 ただ──。

 

「ヒィィートブゥーメランッ!!」

 

「ほい、置き狙撃。置き狙撃」

 

 そんな決定的な隙を見逃す間抜けは居なかった。トイボックス参式改(マーク3カスタム)は新たな試作武装である『飛翔燃刃(ヒートブーメラン)』を放り、幻晶騎士(シルエットナイト)を構えた機体はマガツイカルガニシキの動く先を狙って射撃を行う。

 それらを何とか掻い潜ったマガツイカルガニシキは大きく距離を取ろうとするが、そこに再び謎の法撃が飛来する。

 

「ははっ、外したな! そして見えたぞ!」

 

 射撃地点を見つけたウーゼルが歓喜の声を上げる。葉っぱや木の枝を被せた魔獣の皮で偽装した魔導兵装(シルエットアームズ)が森の中にあり、それが未だに法撃をしてくるために鬱陶しがるように顔を顰めたウーゼルだが一瞬の内に笑顔になると射撃地点目掛けて急降下を行った。

 

「ここまでコケにしてくれたんだ。手ずから葬ってやらねばね」

 

 そう言いながらズンズンと森の中に分け入って射撃地点に近づいていくマガツイカルガニシキ。だが、そこにあったのは魔導兵装(シルエットアームズ)を装備した幻晶騎士(シルエットナイト)──ではなく、『魔導兵装(シルエットアームズ)のみ』が固定されていた。

 

「なん……」

 

「団長の合図だ! 爆破ぁ!」

 

「爆破っ!」

 

「爆破後はそれぞれの待機場所へ走れ!」

 

 流石に情報が処理できずに狼狽えるウーゼルの耳に数人の声が聞こえたかと思えば、耳をつんざくような爆音と共に辺りが一瞬にして紅蓮に染まる。思わず飛び上がったウーゼルだが、そこに再び幻晶騎士(シルエットナイト)からの法撃やトイボックス参式改(マーク3カスタム)の攻撃、そして潰したはずの謎の法撃が再び襲い掛かった。

 

「一体何なんだ!」

 

「兄さんならトラップを予想して上から破壊していました」

 

 盛大に声を張り上げたウーゼルに魔導兵装(シルエットアームズ)を持った幻晶騎士(シルエットナイト)──ガルラ改から声が響く。聞き覚えのある声にウーゼルが応答する間も無く、ガルラ改の法撃によって1振りの銃装剣(ソーデッドカノン)を弾き飛ばした。

 

「くっ!」

 

「兄さんならここで逃げはあり得ません。このように足止めを食らって高火力を叩きこまれるので」

 

「トマホォォォク!!」

 

 マガツイカルガニシキの進路を阻むように所々の森の中からバラバラのタイミングで法撃が空を舞い、動きを止めたところをトイボックス参式改(マーク3カスタム)の投げた妙にゴテゴテした魔導飛槍(ミッシレジャベリン)──重魔導飛槍(トマホーク)によって右脚部が粉砕される。

 

「君は……お前は……なんなんだ!」

 

「僕ですか?」

 

 立て続けに予言めいたことをされたことで、もはや訳が分からなくなったのだろう。なりふり構わない叫び声にガルラの操縦席に居る騎操士(ナイトランナー)──アルは答える。

 

 だが、その内心はとても穏やかではいられなかった。今もこうして唇をかみしめることで、『逆にお前こそ何なんだ』という批判染みたことを言いそうになる口を閉じている真っ最中だ。

 エルとイカルガは『最強』であった。まさに特別とも言わんばかりに事件を解決し、その有り余る力で困難を次々と打ち破っていく一等星だ。

 そんな星に、まるで太陽目指して蝋で固めた羽根で飛ぶ英雄のように挑んでは負け、別の手で挑んでは作戦を看破されて負け。正直、それを繰り返していく内に自分という存在に自身がエルのオマケや引き立て役のように思ったことも多少あったりする。

 

 だが、逆にこうも思った。エルとイカルガは『完璧』なのだと。

 何度か打倒されたが、それでも諦めずにリベンジを果たしている。その事実が一層アルにそんな考えを根強くさせる。

 

 それなのに、この体たらくは何だ。自分が昔考えた作戦に尽く引っ掛かり、場当たりな攻撃に場当たりな回避。これでは蒼き鬼神の名も泣こうものだ。

 

 やめろ──。

 

 そんな無様な姿を晒されると、戦いを挑んでは敗北していった過去の自分が恥ずかしい。

 

 止めろ──。

 

 こちらが思っている通りに攻撃が当たっていく。認められるか、あんなイカルガ。

 

 ──止めろ! 

 

 誰よりも強くて完璧な2人以外は断じて認めない! 

 

 厄介なファンというべきだろうか。そんなポジティブともネガティブとも言い難い感情のまま──彼は自身の所属を告げた。

 

「銀鳳の元副団長です!」

 

 

白銀の鬼神編 原作(小説)発売頃に復活予定




 さて、銀鳳の副団長。一旦の完結です。以降は暇なときに幕間を書きつつ、小説側の原作が進んだら書いて行こうかと思っております。
 2019年から始まった本作品も、これまで続けて来れたのは皆様の応援があったからこそだと思っています。本当にありがとうございました。

 そして、数ある応援者の中から贔屓をして大変申し訳ありませんがペットボトム様。支援絵という素敵な物をどうもありがとうございました。

 最後に、原作者様やコミカライズ担当者様に多大なる感謝を(また、今度は出番多めでスパロボ出て欲しいなぁ)
 長々と語るのもあれなので、これにて一旦完結の挨拶とさせていただきます。

 それでは、また会う日まで

 実は、ライザ/ナイツマ/異世界食堂の3本を一気に書いていた週が一番ヤバかったのは内緒(何度、"あ、これ別原作のやん!"と間違えたことか)
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