エチェバルリア兄弟が『ヤバイやつら』、それらに着いていくオルター兄妹が『ほどほどにやばいやつら』という認識を周囲から受けて数ヶ月がたった。
エルとアルの2人は、
鼻歌を歌うエルに並ぶ形で満面で笑みを浮かべているアルがせっかくだから親友兼弟子であるオルター兄妹を誘おうと学園内を歩く。
だが、教室や食堂などを経由しながら歩き回るがキッドもアディも見つからない。
そのまま数十分ほど歩くと彼らの浮かべていた笑みが、焦りの表情に変わる。
「キッドとアディはどこ行ったんですかね?」
「そうですね、アレの時間もあるから早めに合流したいんですけどね」
「うーん……あ、バトっさん発見」
先ほどよりも真剣に2人を探しているとアルが2人の代わりにバトソンを見つける。
アルがバトソンにキッドとアディの所在について心当たりがないか聞いている中、エルは周りで『決闘』というワードを聞く。
(決闘って確かどうしても問題が解決しなかった場合、両者合意の上で戦闘による決着をつける制度でしたっけ?)
『何処かの貴族が問題でも起こしたのでしょうか?』とエルが一人で推測を立てていると人ごみを器用に避けながらアルが戻ってくる。
「兄さん、バトっさんとその友達から情報もらった。アディは上級生に連れられてどこか行ったらしい」
見かけないキッドに上級生に連れられたアディ、2人の脳裏に一抹の不安がよぎる。
「きな臭いですね」
「R元服の匂いがしますね」
エルは鈍器に似た書物の中で使われているワードを言った弟を軽く小突く。
とりあえず上級生と共に居ると思われるアディだけでも見つけるために捜索を再開しようと足を前に出した時、声をかけられる。
声の主はステファニアだったが、その顔は走ってきたのだろうか汗ばんで不安そうな表情をしている。
「実は……」
「アディが行方不明な件ですね?」
「それを餌にキッドが決闘を申し込まれた……ですね?」
アルに続いたエルの言葉に目を見開くステファニアとアルだったが、エルは『憶測だったんですけど当たりでしたか』と残念そうに言う。
上級生に連れられたアディだけでも見つけようとした所だと説明するとステファニアは利用されていない教室のリストを書いた紙をエルに渡した。
エルはその紙面を見ながらアルと言葉を交わす。
「僕はアディを探します。アルはキッドの方を探してください」
「場所は?」
「広場で誰かが決闘していると聞こえたので多分そこかと。必要であれば援護を」
「Copy」
これからのことを話して二人は行動を開始しようとする。
しかし、ステファニアから『待った』がかかったので2人はその場で停止する。
アルは若干不機嫌になりながらステファニアを見ると深くお辞儀をしている彼女を見てアルは思わず寄り添って顔を上げさせる。
「今回の件、よろしくお願いするわ」
「先輩、自分で何を言っているのか分かってるんですか?」
「もし、アディに危害を加えられていたら誰であろうと容赦はしませんよ?」
それは、『セラーティ家はこの件に関することは目をつぶる』という免罪符と同じ意味の言葉だった。
アルの動揺した問いとエルの既に覚悟を決めた言葉にステファニアは無言で再び頭を下げる。
精神年齢は前世を含めると30歳を超えるエチェバルリア兄弟だが、親友が害されるのを黙ってみているほど平和主義でもなければ日和っているわけでもない。
だが、アルは貴族という存在が非常にややこしいことは前世の歴史の教科書から知っている。
「色々時間がなさそうなので失礼します」
「あ……」
アルは血判や誓約書などを用意してもらおうかと思案していたが、エルはそのまま廊下を全速で駆け出してしまう。
それを見たアルは思案するのもめんどくさくなり、肩にかけている紐を手繰り寄せると紐の先で結んでいた長物を手にする。
「アル君、決闘を止めるなら生徒会長の名前を使っても構わないわ」
「ああ、その場に割り込んで止めるつもりないですよ。邪魔するだけです」
『この子は何を言っているのだろうか』という表情をしているステファニアにアルは更に言葉を続ける。
「風系統の魔法って便利ですからね」
悪そうなにやけ顔をしたアルは窓から出て少し歩くと
無事に学園の屋上に着地したアルは、そこから広場の集まりを見つけると手に持っていた長物を膝立ちしながら構える。
それはエルネスティの持つウィンチェスターの銃身をさらに長くしたような見た目で前世で言うライフルのような見た目をしていた。
アルは腰から小型の単眼鏡を取り出すと、それを長物の上部についた溝に合わせて力を込める。
カチリッという歯車が合わさった音がしたので、アルは長物を軽く振って落下しないか確認すると、単眼鏡を覗き込んでそのまま腰を少し回転させる。
「威力は最小限に……
屋上なので人がいない事をいいことに
火の弾丸が単眼鏡の真ん中から少しずれた壁に着弾する。
片手でキリキリとつまみを調節しては再び
すると単眼鏡にはキッドとおそらく彼の兄であるバルトサールの様子がはっきりと映った。
「っ!」
バルトサールが懐に手をやるとキッドの動きが止まる。
その反応に気をよくしながらキッドをぼこぼこにすると言う、決闘とは名ばかりの私刑にアルの手に思わず力が入る。
出来ることなら『あの綺麗……とは言えない顔を中級魔法で吹き飛ばしてやろうか』とどす黒い感情がアルの心に染み込んでくるが、メキッという異音にはっと正気に返る。
落ち着くために数回深呼吸をするとアルは再び狙いをつけてから
***
「名残惜しいがいささか飽きてしまった。決着をつけるとしようか。なぁ?」
バルトサールはアディの髪飾りを懐からちらりと覗かせて木剣を構える。
(身体強化と
キッドは魔法を使用して外傷を抑えていたが、魔法も万能ではない。
当然ダメージは蓄積し、もはや立っているのもやっとであった。
その上、決着ということでバルトサールの渾身の一撃が来るだろう。
キッドは頬を張って気合をいれたその時、目の前で小さな爆発が起こる。
「な、なんだ?」
バルトサールの慌てた様子に呼応するように1つ、2つと追加で爆発が起こる。
「だ、誰だ! 神聖な決闘を邪魔するのは! キッド! お前の差し金か?」
疑われたので周りを見渡したが、当然エルもアルも居ない。
反論しようとしたその時、バルトサールの周辺で何度も爆発が起こる。
最初に3回、少し間を空けて3回、さらにまた間を空けて7回というリズムを取っているかのような爆発が起こった。
それを見たキッドはなぜか分からないが、両腕を上に伸ばし、更に片足を曲げて上げる……所謂『荒ぶる鷹のポーズ』を取りながら曲げた膝でバルトサールの顔面を飛び膝蹴りしているアルを幻視した。
(親友が見てるかも知れねぇのに無様は晒せねぇな。もうひとふんばりいくか!)
「ぺっぺっ! やはり貴様の差し金だな! キッドォ!」
「しらねぇよ!」
気合を入れなおしたキッドが吼えた。
***
「ふー、誰にも当たらなくてよかった」
構えを解いて息を吐く。炎や雷系魔法なら軌跡でバレる可能性が格段に上がるが、この距離と風系魔法ならバレようがない。
狙いもこの長物……
以前は単眼鏡を用いずに身体強化で目を強化するという手段を使っていたが、あれをやっても大した効果が得られないばかりか、1日ぐらい目が赤く充血したり、解除した途端に視力が下がるといったデメリットがあったのでアルは非常時以外は肌身離さず持っている単眼鏡で魔法の訓練を行うようになっていた。
「実践でも問題なし。おっと、もう終わってますね」
膝に付いた埃をぽんぽんと払い、先ほど異音がしたサンパチを軽く見て異常がないか確認する。
ホワイトミストーという魔力を良く通す木材で作られた部分に亀裂が走っていたので、アルは修理に出しに行った時に上がるであろうバトソンの悲鳴と恨み節を想像して多少げんなりする。
そうしているとアディをお姫様抱っこしたエルが到着し、キッドがバルトサールをフルスイングで吹き飛ばすのが見えた。
顔が腫れ上がり、無様に噴水に突っ込む姿にアルは多少同情を覚えるがその思いは数秒後に綺麗さっぱり忘れる。
「おっと、もう模擬戦が始まってしまう」
遠くの方でズシンズシンという重そうな足音と共にちらりと白い頭が見えた。
サンパチを片手で持ち直したアルは、少しでも早く
いくらか突拍子な行動をするアルだが、とあるゲームへの憧れだけでこんな危険な行動を起こしたわけではない。
……憧れがゼロではないとは口が裂けてはいえないのも事実だが、今回はちゃんと出来ると思ったからアルは躊躇なく実行に移した。
「
アルは自身の背中に幾層もの大気の層を設置し、衝撃を和らげる。
最初はその層を突き破っていたアルの身体は、大気の層を何度も経由するうちに凶悪とも言える速度が減速し、地面に設置した空気の層に包み込まれる。
トランポリンのように跳ね返った身体をアルはしっかりと制御して地面に着地する。
一歩間違えたらミンチ確定の行動だが、アルは過去に何度も自身の魔術による失敗によって『上空にフライアウェイ』する体験をしているので冷静に対処することが出来た。
それでも多少怖かったので、アルは模擬戦に行く前にトイレに行こうと固く心に誓うとその場で振り返る。
「決闘の邪魔してごめんなさい」
一度噴水の方を見たアルは独り言を呟くとこちらに歩いてきたエル達と合流し、仲良く演習場へと走っていく。
***
一方その頃。
「アルフォンス君!? アル君どこ?」
窓から出て行った少年が突然目の前から消えたので、ステファニアが慌てた様子で学園中を駆け回ってアルを捜索していたが、その時
その後、数日ほど心配させた罰ということでセラーティ家の令嬢が美が付くほどの少年? を侍らせ、身の回りのことや生徒会の業務等を手伝わせていたとかいなかったりしたらしい。
***
そしてその噂が消え去った頃。
「アル、紅茶の淹れ方上手くなってません?」
「……昔、ちょっとね」
焦点が合っていないような遠い目をしているアルに、エルは不思議に思いながら琥珀色の液体を飲み干した。