銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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多数のお気に入りと感想の書き込みありがとうございます。

新機体開発編ですが、ここからかなり独自設定というかオリジナルの方に寄り道します。
タグのほうにも『独自設定』『独自解釈』を追加しました。


14話

西方暦1277年の春、フレメヴィーラ王国東部の国境防衛線を1匹の魔獣が蹂躙した。

魔獣名はベヘモス、師団級魔獣に位置するかの魔獣は国内の大動脈を食い破らんと迫ったが、ヤントゥネン守護騎士団とライヒアラ騎操士学園の学生騎士の奮闘と犠牲によって魔獣を打ち倒した。

 

これが『陸皇亀(ベヘモス)事変』と呼ばれる魔獣災害にて市民が知りえる情報である。

 

オービニエ山地を背後にするように建てられた城塞都市、王都『カンカネン』。

王城『シュレベール城』の周りは現在、活気に満ち溢れており、あちこちに立つ出店から香ばしい香りと共に何かを焼いたり、煮たりする音が道行く人を楽しませる。

 

「おー 勇敢なる騎士団よー」

 

さらには吟遊詩人が、先ほどの陸皇亀(ベヘモス)事変の内容を高々に歌い上げ、酒場ではその歌を肴に昼間からのん兵衛が巣を作っては杯を打ち鳴らしていた。

 

そんな王都の噴水広場では、初老の男性となにやら胸に拳をくっつけては離している挙動不審の子供が座っていた。

ライヒアラ騎操士学園の学園長である『ラウリ・エチェバルリア』とその孫の『アルフォンス・エチェバルリア』である。

近所のクレープの露天では似たような髪色の少年、『エルネスティ・エチェバルリア』が久方ぶりの甘味を今か今かと待っている。

 

「お祖父様、陛下に会う時の礼はこれでいいんでしょうか?」

 

「アル、おぬしの心臓は右にあるのか?」

 

アルは手を右に添えて礼をしたが、ラウリは手を額に当てて呆れる。

そもそもこのやり取りは5回目なのだ。

出かける前も『失礼がない髪型』と、夜会巻だったりポニーテールだったり七三分けだったりと身支度を整えるのに2時間も費やしたことも考えるとアルの本気度が伺えるが、確認する方はたまったものではない。

なぜ、このようなことになったのかというと昨日の夜中、『エチェバルリアと愉快な親友達』がエチェバルリア邸に帰宅したところまで遡る。

 

 

***

 

夜、エチェバルリア邸の食堂では無事な子供達を祝う為のささやかなパーティが行われており、エルとアルの母親『セレスティナ・エチェバルリア』とキッドとアディの母親『イルマタル・オルター』がせっせと料理を取り分けていく端から腹ペコヤングが平らげていく光景が繰り広げられていた。

 

だが、アルだけはオーブンの前に陣取って何かの様子を見ているが、セレスティナとイルマタルは特に気にする様子もなく残った子供達の給仕に専念している。

 

「あれ、アルは?」

 

「特別料理を作ってるから後でだそうよ」

 

「アディもやんちゃばかりしないでアルフォンス君みたいに料理も覚えなきゃだめよ?」

 

(母様……比較対象おかしい)

 

イルマタルの視線にさっと視線を逸らすアディだが、キッドはその比較対象のおかしさを冷静に判断して心の中で突っ込んだ。

 

「熱いの持っていきます」

 

なにやら白い塊をオーブンから取り出したアルはテーブルの中央にそれを置くと、懐から金槌を取り出して白い塊に叩き込む。

すると、白い塊の中から良い匂いと共に熱が十分に入ったつやつやの肉塊が現れ、アルはそれを厚めに切るとそれぞれの皿に移してソースポットの中のソースをかけていく。

 

塩釜焼き、塩で食材の周りを固めてオーブンで焼くこの料理は、見た目のインパクトもあって中々好評だった。

ソースの香りとあらかじめ肉に振りかけておいた香辛料と香草の香りを胸いっぱいに吸い込みながら口に含むと、舌の上でソースの旨味と肉汁、そして濃い目の塩加減が味覚に直撃する。

子供達が飲み込んだ後の余韻を感じる前にもう1口、もう1口と口に放り込み、気付けば空の皿にナイフを突き立ててしまう。それを見たアルは最大の賛辞を受け取ったような笑顔だった。

 

そして食べ物もあらかた食べ終え、食後の紅茶を飲んでいる最中でセレスティナは今回の騒動についての疑問を子供達に投げかけた。

 

「エルとアルは向こうではなにをしていたのかしら?」

 

「はい、ベヘモスと殴り合ってきました」

 

「ングッ!」

 

母息子(おやこ)のストレートすぎる会話が耳に直撃したマティアスの気管に紅茶が侵入する。

咳き込んでいる父親の背中を摩るアルだが、母と長男の口撃は止まらない。

 

「まぁ、とても大きかったのでしょう? 大丈夫? ちゃんと殴れたの?」

 

「先輩からシルエットナイトを借りたので、大丈夫です。少し危ない場面もありましたが、アルが助けてくれたのでなんとか殴り勝って来ました」

 

「あらあら、アルもお兄ちゃんを助けて偉かったわね。でも二人共、余り無茶はだめよ? いつも貸してもらえるとは限らないんだから」

 

ちょっとずれてる会話に『はい』と返事をするエルとアルだったが、マティアスの受難は止まらない。むしろ加速する。

 

「アルの方はどうだったの?」

 

マティアスは辛そうな目で必死にアルフォンスを見る。『お前もナニカしたのか』という強い意志がひしひしと感じるが、アルは口を開いた。

 

「先輩のシルエットナイトの動力を借りて、魔法でベヘモスの横っ面を引っぱたきました。あ、後でその先輩にお礼の品を購入したいのでお小遣いください」

 

「ゴブフォッ!」

 

マティアスの気管内にある紅茶が暴れ、激しく咳き込むマティアス。

 

「あら、その心掛けは素晴らしいわ。お小遣いあげるからちゃんとした物を選ぶのよ?」

 

「はい」

 

もうどうでもよくなったとばかりにマティアスは明後日の方向を向くが、先ほどからの会話に誰も何も突っ込みを入れないあたり、エチェバルリア一家もオルター一家も無駄に訓練の行き届いた家庭なのである。

 

そして、パーティーもお開きになってエル達が部屋に戻ろうとすると、ラウリが声をかけてきた。

 

「エル、アル。明日少しワシと出かけぬか? 連れて行きたいところがあるんじゃ」

 

「もちろん。お祖父様、ところでどちらに?」

 

「うむ、それはな……」

 

その後、ラウリから『国王陛下に会いに行く』と告げられると、アルは大変取り乱して心停止一歩手前になるほどの動悸に襲われたのはラウリとエルしか知らない。

 

 

***

 

いまだに手を置く位置を間違えるアルだったが、とある歌が聞こえてきたので辺りを見渡す。

そこには1人の吟遊詩人が他と同じような歌を歌っているが、その1節が気になった。

 

「クロケの森よりいでし精霊、魔獣から騎士を守護せんと立ち上がる」

 

(……あるぇ)

 

アルは歌詞の内容と似たようなことをした覚えを感じ、周りの吟遊詩人を見る。

そこかしこから同じような1節が聞こえるところを見ると、その歌詞が正しいのだろう。

思わぬ事態にアルの頬に冷や汗が一筋流れた。

 

「お待たせしました。いやー、さすがに並びました」

 

「兄さん、お祖父様。どうやら僕はクロケの森の精霊のようです」

 

<<何事!?>>

 

アルは先ほどのことを歩きながら話すと、ラウリは少し考え込む。

 

「多分じゃが、アルの名前を出さないように陛下や騎士団長が配慮したんじゃろ。感謝しておきなさい」

 

「せいwれいwwアルがwww」

 

事態を真面目に推測するラウリとは対照的にエルは草を生え散らかすように笑っている。

そうこうしてると城の裏口に辿り着いた。そのままラウリが兵士に用件を伝えると、『どうぞ』という言葉と共に門が開かれる。

 

「すみません、陛下への礼ってこれで合ってますよね? 手の位置も合ってますよね?」

 

「え? ええ、合ってますよ」

 

「これ、アル。早くしなさい」

 

いまだに不安なアルが兵士と問答していたが、ラウリが素早く回収する。

ラウリは緊張のきの字もないような兄に、いまだに腕の中で携帯のバイブレーションと化している弟を交互に見て、『エルとアル2人を合わせて割ったらちょうど良いのに』と兄弟を持つ親のような不満が心に浮かぶ。

とりあえず、腕の中の振動する生物(なまもの)をなんとかするために、ラウリはとある部屋にエル達を先導する。

 

謁見の間、その中央にその幻晶騎士(シルエットナイト)が置かれていた。

ライヒアラの訓練機よりも頑強な装甲、貴重な部材を使った細やかな装飾と色彩配置。なにより稼働状態ではないのに幻晶騎士(シルエットナイト)から放たれるなんとも言えない圧にエルもアルも夢中になっていた。

 

「アレが国王機『レーデス・オル・ヴィーラ』!」

 

「まさに専用機の中の専用機……良いですねぇ。機体性能とか私、気になります」

 

「これ、2人共。そろそろ時間じゃ。あのお方をお待たせするようなことがあってはならぬからな」

 

かれこれ20分ぐらい国王機を眺めていた2人だったが、ラウリに促されて小さな会議室へと辿り着く。

小さな会議室の前には兵士が2人立っており、中でしばらく待つように指示された。

 

「すみません。お辞儀の角度ってこれで合ってますか?」

 

「……もうちょっと下げた方が良いね」

 

「アル……」

 

平常運転のように兵士に不安部分の教えを請う姿にとうとうラウリは何も言わなくなった。

しばらく中で待っていると、兵士が待ち人の到来を告げる声が上がる。

3人が姿勢を正すと、会議室の扉が開き数名の人物が入ってくる。

 

先頭に立つのはフレメヴィーラ王国の顔、『獅子王』の異名を持つ壮年の男性『アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ』その人である。

他にも貴族然とした雰囲気の男性が2人入ってくる。

 

「ご苦労、待たせたようだ。久しいな、ラウリ」

 

「お久しぶりにございます、陛下。陛下こそ、お忙しいというのにお時間を割いていただきありがとうございます」

 

アルは入りざまのアンブロシウスとラウリの挨拶に2人は気安い仲だということに改めてラウリへの尊敬を強める。

するとアンブロシウスの視線がラウリからその後ろの自分達に移ったことを悟り、一層背筋を伸ばして姿勢を良くする。

 

「よい、この場はワシの好奇心から出たようなものでもあるしな。……して、そちらの2人が件の紅の騎士とクロケの精霊か?」

 

アンブロシウスは『わずか12歳にして幻晶騎士(シルエットナイト)を駆り、ベヘモスと対等に渡り合った子供』、『自分で構築した戦術級魔法(オーバード・スペル)を用いてベヘモスから大勢の騎士団員を守った同じく12歳の子供』と報告書に書かれていたので、歳に似合わぬ体躯の益荒男と学者然とした知恵者がくるものと想像していた。

 

だが実際は『平均的な12歳よりもさらに小柄な身長、滑らかな丸みを帯びた顔立ちに片方は意志の強そうなパッチリとした瞳に紫銀の髪を顎の辺りで切り揃えられた子供。もう片方はおっとりとした垂れ気味の瞳に紫銀の髪を腰の辺りまで伸ばした子供』だった。

 

その風貌に国政の場にて鍛え抜かれた貴族然とした男達の鋼ともいえるような顔面筋が引きつったが、アンブロシウスはわずかに眉を動かすと、すぐに面白がるような表情に変わった。

 

「ほう、報告書から勝手に男子と思っておったがまさか女子であったか」

 

「いいえ陛下、僕はこう見えてもれっきとした男子にございます。申し遅れました、お初にお目にかかります陛下。ラウリ・エチェバルリアが孫でエルネスティと申します。本日は陛下への拝謁の誉れに与り、恐悦至極に存じます」

 

堂に入ったエルの挨拶にアンブロシウスは感嘆の声がでる。

 

「ほう、随分と堂に入った物ではないか。で、そこの髪の長いのは……ラウリ、昔見せてくれたおぬしの娘に似ておるの。今度こそ女子であろう?」

 

「はい、いいえ! 陛下、自分も男子であります。そちらの愚兄と見分けがつくように伸ばしております。陛下、お初にお目にかかります。自分はラウリ・エチェバルリアの孫のアルフォンスと言います。本日は陛下への拝謁の誉れに与り、光栄でございます」

 

アルも少し言葉遣いがおかしいが、同じく堂々とした振る舞いにラウリはほっと胸をなでおろした。

 

「ふっ、アルフォンスよ。城に着いてから兵士に聞いて回っていた甲斐はあったか?」

 

エルはアルの方からバキリとメッキがはがれた音が聞こえた。

アルは背中を冷や汗でびっしょりにしながら平静を保とうとする。

 

「な、なぜそれを?」

 

「ここはワシの城だ。兵士から話を聞くのは容易い。随分と練習したそうじゃないか」

 

悪戯っ子のようにアルを見るアンブロシウスにアルの表情は限界寸前だった。

そのなんともいえない表情をしばらく見るとアンブロシウスは突然吹き出して快活に笑った。

 

「なぁに、別にとって食いやすまい。すまなかったな。2人共、堅苦しいのも話しにくかろう。この場は楽にするがよい」

 

「いいえ、陛下。自分はこのまま「はい、ではお言葉に甘えまして」」

 

<<……はっ?>>

 

アルの言葉にエルがかぶさったことで思わず両者から地の声が出る。

2人の無言の見つめあいが数秒続くとこれまたアンブロシウスが声高に笑った。

 

「おぬし達、似とらんのぉ。わしがよいと言ったんじゃ、アルフォンスの方も楽にせよ」

 

『王命じゃぞ?』と茶目っ気を出すアンブロシウスにアルも姿勢を楽にしてラウリやエルと共に椅子に腰掛ける。

アンブロシウスの後ろに控える2人、『クヌート・ディクスゴード公爵』と『ヨアキム・セラーティ侯爵』は、その漫才を見て兄より弟の方が礼儀に関しては上だとわずかに評価を上げる。

 

アンブロシウスは、対面に座る2人の少年を無遠慮に観察しながら今回の謁見の理由を話す。

先の陸皇亀事変の褒賞について、エルとアルは納得はしたがそれをアンブロシウス自身が是としないので、こっそり褒賞を渡したい。

しかし、騎士団に推薦すれば角が立つ。されど、褒賞がないというのも不義理。ならば本人に選ばせれば良い。今回の謁見の理由はそれだった。

 

「さてエルネスティ、アルフォンス。『なにが欲しい?』」

 

「兄さん、功績の大きさと序列的に兄さんが最初に答えるべきです」

 

即座にアルは、エルにキラーパスを敢行した。

それを受け取ってしまったエルは、内心『いつか泣かせる』と報復宣言をするが、アンブロシウスの提案の返答を考えるために思考を回す。

 

濡れ手に粟や棚ぼたと考えず、タダより怖い物がないという『最悪』を想像する。

しかし、国の王様の厚意を無下にするという手段も悪手である。

まずは自分の功績の試金石代わりに無茶な要求をしてみようかと考えたエルは口を開きかける。

 

(いや、あの表情は……)

 

一見、にこやかな顔をしている奥で見える黒い顔。少しでも矛盾点が見つかればそこを突かれて納期等を縮めてくる『営業マンの顔』をアンブロシウスがしていたので、エルは先ほど考えていた要求を何とか喉に押し込む。

 

試金石と生半可なことは許されない駆け引きに、エルは自分の欲望を満たすために『幻晶騎士(シルエットナイト)1機』と返そうとするが、その時エルに電流走る。

 

時間にしてものの数分もかかってない脳内会議に結論が出たのか、エルは改めて口を開いた。

 

「では。陛下にお願いいたします。僕が今一番欲している物は知識……『エーテルリアクタの製造方法』の知識にございます」

 

場が凍った。予想外の返答に流石のアンブロシウスも虚を衝かれたような表情で固まっている。

いや、ありえそうだけど流石にしないだろと高をくくっていたアルだけは『マジで言いやがったぞこいつ』という表情でにこやかなエルを凝視している。

 

魔力転換炉(エーテルリアクタ)幻晶騎士(シルエットナイト)の部品の中で一番高価なのは、その製造方法が世間一般に知れ渡っていないためである。

どこで作られるのか、部材はなんなのか、どのような技術を使っているか。部材以外はマトモに調べてもでてこないのだ。

その『精霊石』と呼ばれる部材もどのように入手するのかすら書かれておらず、その秘匿性の高さに当時調べていたエルとアルはネットの海でのサーフィンが懐かしくなったほどである。

それをベヘモスの対価で教えろと強請るエルに、アルは頭を抱えた。

 

「貴様、自分がなにを言っているか、わかっ「静かにせよ」」

 

非常識さに混乱しかけたクヌートの言葉をさえぎるようにアンブロシウスが待ったをかける。

今まで気楽だった雰囲気とは打って変わり、国を背負う長としての圧をまとうアンブロシウスに、思わず全員が姿勢を正した。

 

「エルネスティよ。エーテルリアクタの製法は確かにわしに願うぐらいしか手に入る術はないだろう。だが、普通はそんなことは願わない。それは分かるな?」

 

アンブロシウスのどちらかというと諭すような口ぶりにエルがこくりと頷く。

 

「ならばその理由は? エーテルリアクタの製法をなぜ聞こうとした?」

 

アンブロシウスの目が細められ、代わりに鉛のような重圧がエルとついでにアルの背中にのしかかって彼らの背中から冷や汗が流れる。

 

「は、僕はライヒアラにて騎士を目指し学ぶ身でございますが、そもそもは自身のためだけのシルエットナイトを欲しておりました」

 

(僕達にとってはそれが原点ですね)

 

自分だけのロボを作る…そのために今まで頑張ってきたのだ。アルの脳裏にはエルが何度も見せてきた鎧武者のようなイラストと自分が書いた重装甲にその上から被せられている使い捨ての装甲板という存在感のあるイラストが浮かんだ。

いまだ機能の概要も煮詰めていない本当に想像だけの果てしなく遠い存在。それに今、エルが1歩踏み込んだ。

 

「そのためにライヒアラ騎操士学園にて様々な知識を求めてまいりました。魔法をはじめ、シルエットナイトの構造や動かし方、機体を作りあげる技術も既に調べ上げております。しかしながら完成まで後1つの部品……そう、エーテルリアクタが足りません。ご存知の通りエーテルリアクタの製法は一般的には知らされておりません。ですので、製法をご教授いただきたいのです。それが分かれば後は作るのみでございます」

 

いささか長すぎる独白にラウリも固唾を呑んで見守る。幻晶騎士(シルエットナイト)が好きだと分かってはいたが、これほどとはラウリも思わなかったのだ。だが、既に賽はなげられてテーブルの上を激しく転がっている。助けに入ることも難しいだろう。

ラウリはアンブロシウスのほうをちらりと見たが、その表情は堅かった。

 

「……つまり、その理由は?」

 

「趣味でございます」

 

(うちの兄貴が趣味のために国家機密を強請ったんだけど質問ある? っと)

 

なんともいえない沈黙の最中、アルは脳内スレを建てる。クヌートもヨアキムも黙っている中、アンブロシウスは肩を震わせながら破顔して笑った。

 

「なんと! ふはっ、なんと馬鹿馬鹿しい! 言う事欠いて趣味と申したか! はははっ、これは愉快な!」

 

『本当に12歳か』や『傑作』と中々に好印象なエルの独白だったが、脳内スレを立て終えたアルは次の自分の褒賞について思考をめぐらせる。

 

(シルエットナイト1機…いや、強請っても置くとこがないし維持費もかかる…)

 

アルはしばらく考えている間に話が進み、アンブロシウスが『実際に幻晶騎士(シルエットナイト)を作って見せろ』という条件をエルに叩きつけ、エルもそれを拝命する。

その時、アルは天啓が舞い降りた。

 

「待たせたなアルフォンス、さぁおぬしの褒賞を決めようか」

 

アンブロシウスが愉快そうな顔でアルを見る。

アルは口を引き締めなおしてアンブロシウスを見つめた。

 

「はい、自分は陛下からの『お話』を希望します」


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