銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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18話

カンカネンの郊外に広がる訓練場。

周囲の観客席には緋犀騎士団に所属するリデア小隊の面々と技術者、そして王都であるカンカネンを守護する近衛騎士団の騎操士(ナイトランナー)達が訓練場の中央で対峙している2機の幻晶騎士(シルエットナイト)を見ていた。

片方は近衛騎士団の小隊長機、もう片方は今回の新機能である『頭部兵装』を積んだリデア小隊の隊長であるリデアの機体だ。

両機は共に微動だにせず、適度な緊張感の下で決闘の開始を今か今かと待っていた。

 

「アルフォンス、驚かせたようですまなんだ」

 

「……」

 

観客席の中でも貴族や王族が座る所謂VIP席。

そこでアルも独特の緊張感を持ちながら座っていた。なぜなら……

 

「むぅ、固まってしもうたわい」

 

「陛下が意地悪するからでは?」

 

(僕は何でここに居るんでしょう?)

 

『右を向けばフレメヴィーラ王国の国王(アンブロシウス)』、『後ろにはフレメヴィーラ王国の台所の領主(ヨアキム)』、『左を向けば怪しげなターバンを巻いた細身の謎の人物』という胃が秒で溶け落ちそうな空間に居るからである。

 

事の起こりは昨日に遡る。

頭部兵装の完成を聞きつけたアンブロシウスは開発現場にお忍びで見物に来ていたのだが、その出来栄えにとうとう押さえが利かなくなったらしくその場にヨアキムを召喚すると模擬戦のセッティングを行うように命令する。

それを聞いた現場はメンテナンスや調整をするためにデスマーチを敢行した。いつの世も突然の事態に苦労するのは現場の人間であることを徹夜で作業していたアルは実感するのだった。

 

そして本日、いざ決戦のバトルフィールドへと意気込んで工房の入り口を開けたアルの目の前には、ヨアキムと『アンブロシウスの遣いの者』を名乗る知らない美人さんが現れ、瞬く間に身体を抱えられるとそのままこの場所に座らされ今の状態に至る。

 

アルの胃と頭が悲鳴を上げている最中、訓練場に銅鑼の音が鳴り響いた。

その音を聴いた両者が指し示したかのように一斉に動き出す。近衛機は装備している魔導兵装(シルエットアームズ)で挨拶代わりの法弾をリデア機に放つが、その法弾は先ほどまでリデアが居た地点に着弾した。

 

「くそっ、こう走らされては法弾が!」

 

近衛機の騎操士(ナイトランナー)は歯噛みするが、すぐに思考を切り替えると徐々に魔導兵装(シルエットアームズ)の先端を調整してリデア機の進行方向に法弾を放ち始める。このままではリデア機に法弾が当たるのも時間の問題だろう。

 

その時だった。

突如リデア機の頭部からおびただしい量の細かい法弾が発射され、無防備に魔導兵装(シルエットアームズ)を構えていた近衛機を襲う。

 

「うおっ!?」

 

予想外の攻撃に近衛機は操縦席を守ろうと片手に装備していた盾を掲げる。

法弾が着弾する小さな爆発音が訓練場に響く中、両者は一歩も動かず場は膠着する。

だが、この状態は長くは続かなかった。

 

「ちっ、マナ・プールが……」

 

操縦席に座っているリデアがちらりと計器を見ると魔力貯蓄量(マナ・プール)の減りが想定より早いことに気づく。

改めて考えれば法弾を小さくしようが、戦術級魔法(オーバード・スペル)である。それを連続で放っているのだから減りが早くて当然であった。

 

小さく舌打ちをしながらリデアは操縦幹のボタンから手を離すと自分の機体に備え付けられた剣を取る。剣を持った半身が隠れるように片手に装備した小さな盾を正面に突き出して機体の姿勢を低くする。近接戦の構えだ。

 

「ほう、あのナイトランナー今までの有利を捨ておったぞ」

 

その様子をアンブロシウスが興味深げに見物していた。

リデア機は『カルダトア』がベースだが、近衛機はそのカルダトアの上位互換である『カルディアリア』がベースになっている。

王国最強の騎操士(ナイトランナー)集団である『アルヴァンズ』の乗機や各騎士団長の旗機である『ウォートシリーズ』のベースとなるような高性能の機体に近接戦はよほど自信があるか、それともただの蛮勇か。

アンブロシウスは動きを見逃すまいと食い気味の視線を2機に送った。

 

近衛機が動く。先ほどの法弾を食らわないように盾を掲げながらの突撃である。

負けじとリデアも鐙を動かしてその突撃に真っ向から立ち向かう。

重厚な足音とともに両者の距離が縮まり、やがて2機の剣が激しい轟音を打ち鳴らしながらぶつかり合った。

 

数秒の膠着後、やはり膂力の差でリデアの機体が押され始めてしまう。

 

(やはり蛮勇か…)

 

「陛下、あれを!」

 

アンブロシウスは少々落胆するが、ターバンを巻いた男が目の前の事態に糸のような細い眼を見開いて前を指差す。

そこにあったのは『鍔迫り合いをしながら頭部兵装を放つ』リデア機の姿だった。

リデアは別に勝負を捨てたわけではなかった。近接戦闘、特に鍔迫り合いの最中の場合は盾は使えない。そこを狙ったのだ。

 

「いけ!」

 

リデアの叫びと共に無数の法弾が近衛機の頭部に殺到する。

いかに眼球水晶を保護する面覆い(バイザー)がされてるとはいえ、演習用の威力の低い法弾を連続で食らったらどうなるか。

 

「くっ! ホロモニターが!」

 

幻像投影機(ホロモニター)一杯に広がる爆炎に驚いた近衛騎士団の騎操士(ナイトランナー)だったが、間髪入れずに操縦席が真っ暗になった。

法弾によって面覆い(バイザー)と共に眼球水晶が壊れたのである。

一般的に騎操士(ナイトランナー)幻晶騎士(シルエットナイト)の眼球水晶から出力される映像を見て外部の様子を認識する。

そこが壊れた今、近衛機の戦闘力はガクンと下がるのは火を見るより明らかだった。

 

一応装甲の隙間に穴が開いており、そこから外部の様子を頑張って見る事が出来るが、今回の模擬戦ではする必要がないと判断した近衛騎士団の騎操士(ナイトランナー)は剣と盾を放り出して降参の体勢を取ると銅鑼が盛大に鳴り響き、模擬戦は終了した。

 

 

***

 

未だ訓練場では盛大な宴が繰り広げられていた。負けた近衛騎士団の騎操士(ナイトランナー)も新機能の性能を食らった側からの感想を饒舌に話し、それを聞いた近衛騎士団全員が『陛下に直談判しにいこう』と杯をぶつけながら結束を強めている。

それを聞いた緋犀騎士団の面々もリデアと近衛の模擬戦を称え、摂取するアルコール量は加速していく。

そんな中、シュレベール城の会議室ではアルとアンブロシウスとヨアキム、それに謎のターバンの男が座っていた。

 

「アルフォンス。大儀だった」

 

「ありがとうございます。ですがそれは緋犀騎士団の方々に言ってあげてください。私はお手伝いしただけです」

 

この状況に少しづつ慣れてきたアルは首を振って答えるが、その言葉にアンブロシウスは少しため息をついて諭すようにアルに語りかけた。

 

「驕れとは言わんが、お主の発案じゃろうが……少しは誇らんか」

 

「まぁまぁ陛下、それより本題を」

 

アンブロシウスはアルをたしなめるが、ターバンの男がそれを制する。

もう一度盛大なため息をついたアンブロシウスは、隣に座っているターバンのようなものを巻いている男に目をやる。

 

「まあ良い。アルフォンス、ここにおるのがオルヴァーじゃ。ラボの所長をしておって今回の開発の引継ぎのために呼んだのじゃ」

 

国立機操開発研究工房(シルエットナイトラボラトリ)

通称国機研(ラボ)はフレメヴィーラ王国において唯一にして最大の幻晶騎士(シルエットナイト)の研究機関である。平時は機体の製造を行っているが、一度国からの指示があれば新型機の研究・開発の最前線へと様変わりする場所である。

そこの長が今、アルの目の前に居るのだ。

アルの脳内に搭載されている『小市民センサー』が『偉い人オーラ』を感知して急激に喚きたてるが、それを無理やり押さえ込んでオルヴァーと握手をする。

 

「お初にお目にかかります。アルフォンス・エチェバルリアと言います」

 

「オルヴァー・ブロムダールです。先ほどの機能、お見事でした」

 

「恐縮です。早速今回の開発の概要について説明させていただきます」

 

その手の『職人らしさがない』ことに違和感が残るが、アルはそのことについては無視して本命である今回の開発についてのレポートを配布して説明を行う。

新機能『頭部兵装』の有用性については先ほどの模擬戦が物語っていた。装備の切り替えを行わない分、咄嗟に使える遠距離武器と言う物は心強いものである。

また、先ほどの勝負の鍵を握った『攻撃しながら射撃が出来る』という魅力にアンブロシウスもオルヴァーもすっかり虜になっていた。

 

「……以上になります」

 

「よく分かった。してアルフォンス。先ほど言ったが、この技術は一旦ラボ預かりにしたい。よいか?」

 

アンブロシウスの提案にアルは内心ほっとしていた。

ここで『アルも引き続き開発を続行』とアンブロシウスに命令されると、本格的に学園を休学する羽目になるからだ。

前世の考えから学校中退は避けたかったので、アルはその提案に乗っかることにした。

 

「異論はありません」

 

その後はヨアキムの司会の下、今回の開発に参加した技術者などを国機研(ラボ)に招集して技術講習を行うといった今後のスケジュールを話し合っていたが、その話の最中にアルは手を上げた。

 

「なにか?」

 

「あのー、学園の休校期間がそろそろ終わるのでラボにはいけないんですが」

 

その言葉にアンブロシウスとヨアキムは『ああ、そういえばこいつ学生だったな』と共通の思考が頭をよぎった。

だが、2人の日頃鍛えた表情筋はこのようなことでは揺るがない。ヨアキムは手元の紙面になにやら修正を行っている。

 

「そうか。では、技術者とリデア小隊だけラボに向かわせると言うことでよろしいですか?」

 

「はい。技術者と現物があればラボでも解析出来るので大丈夫ですよ」

 

「あ、解析結果とか細かい不具合があったら教えてください。兄さんが作る新型機に参考になるかもしれないので」

 

その言葉にアンブロシウスは、『エルネスティが新型機の概要を詰め、製図に入ったかもしれない』というヨアキムからの報告を思い出した。

 

「アルフォンス……ヨアキムから聞いたのじゃがエルネスティが製図に入ったのは真か?」

 

「製図に入ったというのは兄ならやりかねないと仮定した話ですが、製図に入る前の段階……つまり概要を詰めた所までは進んでいますよ」

 

アルから改めて聞かされる報告にヨアキムは今後のエチェバルリア兄弟、特にエルネスティの爆走具合に頭を抱える。

だが、逆にアンブロシウスとオルヴァーは興味深そうにアルを問い詰めた。

 

「ほう、もうそんな段階まで行ったのか」

 

「僕も昨日陛下からお聞きしましたが、どのようなことを行うのです? 頭部兵装のような新機能の実装ですか?」

 

国機研(ラボ)の所長と言うのもあってか、実装する機能について聞いてくるオルヴァーをアンブロシウスは手で制した。

ネタバレをされたくないのかその真剣な目にオルヴァーは『すみません』と気まずそうに謝罪すると、アンブロシウスはアルを見据える。

 

「アルフォンス、おぬしやエルネスティが非常に有能であることは分かった。特におぬしはこうして成果を持って国に貢献してくれたことは嬉しく思う」

 

「恐縮です」

 

「だがその力は余計な災いを招く。……本当なら今すぐラボにでも叩き込んで身の安全と共に新型機の開発に従事させたいのだが……」

 

アンブロシウスはチラリとアルの方を見るが、アルは首を左右に振って拒絶の意志を表す。

内心では『中学校中退とか絶対ありえん! もしそこクビになったら路頭に迷う!』と割と切羽詰っているのだが、アンブロシウスは知る由もなく手元のベルを鳴らして1人のメイドを呼び寄せる。

 

「あ、朝の…」

 

そのメイドは朝にアルをアンブロシウスの元に文字通り『持って行った』女性だった。

彼女はなにやら黒い鱗で形成された革鎧を持っており、いきなりそれをアルに装着し始めた。

鎧と言うより、どちらかというと使い込まれた革服のような着心地に腕を振り回しているとアンブロシウスから声がかかる。

 

「ふむ、似合っておるの」

 

「陛下、これは?」

 

メイドが来たと思ったらいきなり革鎧を着せられる。

アルが困惑するのも当然だろう。

 

「うむ、おぬしがラボに行かないと分かっておったからの。身を守る一助にエムリスの幼少の頃に使っていた革鎧をくれてやろうと思ってな」

 

『服の下に着ておくが良い』と快活に笑うアンブロシウスに、アルは『いらない服を押し付けただけじゃね?』といぶかしんだ。

 

「あの、なんでこんな物を僕に?」

 

「端的に言えば、シルエットナイトの機能をポンッと生み出したおぬしの身が危ないからじゃ。本当は新型機が出来た折にでもエルネスティと共にラボに送ろうとしておったのじゃが、まさか弟の段階でこれほどの成果が上がるとは予想外での……どんな危険があるか分からぬゆえじゃ」

 

アンブロシウスの中では、新型機は少なくともエル達が中等部を卒業したあたりと踏んでいたらしい。

しかし、今回の開発でその思惑は一瞬にして粉砕されることになった。

呼び出そうとした当初は開発のサポートと思っていたのが、気付けば『アルフォンスと言う少年が開発の中心になった』と関係者が口を揃えて言うほどアルは精力的に働いていた。アルが頑張りすぎたのだ。

『1人の子供が主体になって幻晶騎士(シルエットナイト)の機能を開発した』

それが他国に知られたらどうなるか、アンブロシウスはそれを危惧していた。

 

「まぁ、10歳そこらの童が中心になったという話は一部の者しか知らん。もし、知ったとしても簡単に信じんじゃろう。ほれ、この話はこれでしまいじゃ」

 

重くなりかけた空気を払拭するようにアンブロシウスは手を叩くと、その意図を察したようにヨアキムが次の議題に取り掛かる。

数時間にも及ぶスケジュール調整やアルからの聞き取りが終わり、最後にオルヴァーがアルに握手をしてこの会議はお開きになった。

 

会議室を出る前にアンブロシウスは思い出したかのようにアルを呼び寄せると、とある紙面をアルに手渡した。

それは所謂『欠席届け』。それも『アンブロシウスとヨアキムとオルヴァーの名前が入っている』代物で、これを見せた一般人の教師なぞ余裕でオーバーキルできるだろう。

 

「もし、学園が始まっていたら使いなさい。ワシとしても手伝ってもらったのに欠席扱いされるのは面白くないからの」

 

「ありがとうございます」

 

お礼を言ってヨアキムと共に退室したアルを見送ったアンブロシウスはどっかりと椅子に座り込む。

 

「陛下、我々になにか隠してることがあるのでは?」

 

「隠しているとは人聞きが悪いの。あやつだけではまだ余計な茶々を入れられかねんからの」

 

長年の付き合いからかオルヴァーは疑問を口にすると、アンブロシウスはくっくっとイタズラ小僧のような表情をしながらとある策を思い浮かべる。

仮にエルネスティが新型機を完成させ、さらに彼らの考えを形作る騎操鍛冶師(ナイトスミス)、そして彼らのために力を振るう騎士がそろった場合……その策を彼らに話すことになるだろう。

 

それはたらればで語るような可能性が低い話。だが、彼らのあの目と実際に事を成したアルの功績を目の当たりにしたアンブロシウスにはこの策の成功率はそう低いものではないと確信していた。

 

 

***

 

「それではアルフォンス、例の件だがよろしく頼む」

 

「分かりました」

 

翌日、国機研(ラボ)へ向かうリデア達と別れたアルは、ヨアキムに『エルネスティのことについて』再度念押しされると『セラーティ家から出してもらったお金で買った』お土産が満載された馬車に乗り込む。

馬車に揺られること半日、彼はライヒアラの土を踏んだ。

 

懐かしの生家に帰って彼が真っ先にした事……それは

 

「あ、アル。実は高等部の人と協力して新型シルエットナイトを造ることになりました」

 

ヨアキムに大急ぎで報告書を書くことだった。




これにて新型装備の章は終了になります。

次回からとうとう原作に合流して新型機の開発に突入します。
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