銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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コロナコロナと騒がれていますが。皆様もどうかお気をつけください。


21話

放課後。

カランカランという鐘の音と共に学園の敷地から授業という束縛から解放された生徒達が外に出てくる。

 

彼らはそのまま敷地外に出たり、人が集まってる場所に合流したりと思い思いの行動をとっている中、騎士科と鍛冶科のホームグラウンド『工房』の小さな黒板と椅子が並んである一画 ──『会議室』では騎士科の騎操士(ナイトランナー)が勢ぞろいしていた。

黒板のそばには昨日出来立てほやほやの幻晶甲冑(シルエットギア)が正座した様な体勢で『乗らないか?』と誘うかのように前面装甲を開いている。

 

「皆さん、お待たせしました」

 

少しすると会議室の後ろの方から大量の冊子と紙を持った2匹の悪魔、エルとアルが現れた。

そして彼らについてくる形でこれまた大量の荷物を持ったキッドとアディも姿を現す。

 

「ほい、エドガー先輩の分」

 

「すまない」

 

「はい、ヘルヴィ先輩もどうぞー」

 

「ありがと、これは?」

 

「それはシルエットギアを動かすための参考書です。すみませんが本が足りないので回し読みしてください」

 

手分けして冊子を騎操士(ナイトランナー)に渡しながらやつれた表情でエルが説明する。

エドガーが冊子を開くとなにかの魔法術式(スクリプト)がびっしりと書き込まれており、所々に説明や注釈が書かれていた。

 

「そして参考書だけでは不十分なので、これから講習を開きます」

 

たしかにこれだけでは何から手を着けて良いのか分からなかったヘルヴィを含む数人の騎操士(ナイトランナー)は興味深げに前を見る。

恐らくエルかアルが講師をするのだろうとエドガーは思っていたが、意外な人物が前に出てくる。

 

「アーキッド先生とアデルトルート先生です」

 

予想外の人選だった。だがよく考えてみれば昨日の帰り際には手足のように動かしていた事を思い出して少し安堵する。

『大丈夫だ』、『あれを動かしたのだから説明できる』

そういった希望と共に騎操士(ナイトランナー)達は各自の筆記用具を取り出す。

その間にエルとアルはうきうきしながら会議室を出てすぐ近くに待機させていた幻晶甲冑(シルエットギア)に頬ずりしにいく。

 

こうして講習会は比較的平和に始まった。

 

 

─3年A組 アディ先生─

 

「えっとですね」

 

アディの言葉を一字一句聞き逃すまいと筆記用具を片手に生徒達は息を飲む。

 

「シルエットギアにしゅばっと乗り込んでぐぐぅってしたら、がちゃんってなります! そこからすぃーって動かすようにしたらばっちりです!」

 

…………

 

会議室の空気が死んだ。

会議室の外で頬ずった後に油を射していたエルとアルも固まって会議室を見つめる。

 

「えっと、アディちゃん。もっかい言って?」

 

ヘルヴィは何かの聞き間違いだと考えてアディにTAKE2を要請する。さすが騎士科の紅一点である。

 

「ですから、しゅばっと乗ってぐぐってしたらがちゃんってなるので、その後はすぃーっと……あ、すっがしゃんの方が分かりやすいですか?」

 

分かる分からないの話どころではなかったので、アディ先生はものの数分で解雇された。

 

 

─3年B組 金……キッド先生─

 

しっかり基礎を読み込んで実践する性分だからなのか。キッドの説明は分かりやすかった。

少なくとも現在会議室の外で『説明できない子』という木製のプレートを首から提げて反省しているアディと比べると雲泥の差だった。

 

しかし。

 

「なぁ、エル。ここってどういう意味なんだ?」

 

「えっと、そこはですね」

 

しかし。

 

「アルー、ここなんだけど質問が来てさ」

 

「分かりました。説明しに行きます」

 

質問に来る頻度が多かった。

別にキッドが悪いわけではない。エルとアルの認識不足が悪いのだ。

しかし、そう何度も説明しに行ってるうちにディートリヒが手を上げて尋ねる。

 

「もう君達がやれば良いんじゃないか?」

 

この発言でアーキッド先生の任期は終了した。

 

 

***

 

「困りましたねぇ」

 

「困りましたねぇ」

 

エルとアルは悩んだ素振りを見せながら自らの手と相手の手を絡み合わせる『手四つ』で力比べをしている。それだけ相手にこの仕事を押し付けたいのだ。

 

もちろん2人共教えることは嫌ではない。人に教えるということは自分が気付かない事を相手に教わることができる。

また、言葉にすることで自分への理解も深まるのでエルにとってもアルにとってもやりたくはあるのだ。

 

しかし、そのやりたい気持ちは()()()()()()()()()()()()()

 

今の2人の状況は『減量後に極厚の絶品ステーキを食べようと口を開けているところにどちらかが数日の減量に戻る』様なものだ。

なんとか相手に押し付けようとするが、身体強化を使っていない素の能力が互角のため、なかなか勝負がつかない。

 

「仕方ないですね」

 

一旦アルから距離をとったエルはため息混じりであるに再度近づくと耳元で一言二言ささやいた。

するとアルの目がだんだんと開いていく。

 

「まじですか!」

 

「ええ、嘘ついたら釜玉食べてあげますよ」

 

「やります!」

 

目を輝かせながら声高に宣言したアルを見た騎操士(ナイトランナー)一同は少し不安になるが、頼みの綱のエルは既に幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ってキッドとアディを回収してちゃっかりその場を後にしている。

 

なお余談だが、良い子の皆は異世界で生卵は食べないようにしよう。

 

─3年C組 アル先生─

 

「とりあえずこの術式からいきましょうか」

 

騎操士(ナイトランナー)達の『大丈夫かなぁ』という心配をよそに、妙に張り切っているアルは手元にあった紙を黒板に貼り付けながら早速講習を開始する。

 

 

***

 

講習が始まって2時間。

添削を行った張本人ということもあったのだろう。分からない言い回しを例を用いて説明したり、質問をしたら即座に答えが出てくるアルの講習はキッドよりも分かりやすかった。

 

「なるほど、それでは身体強化を1つのスクリプトではなく複数のスクリプトで管理するんだな?」

 

「流石エドガーさん。この考え方はシルエットナイトの操縦だけではなく、普段使いの魔法でも役立つので是非練習してみてください……ではそろそろ終わりましょうか」

 

当初に騎操士(ナイトランナー)達が感じた心配を良い意味で裏切ったアルは、時計をちらりと見ると参考書を机に置く。

講習を終えた騎士科の面々は長時間座っていたからか肩を回しながら会議室の一角から立ち去っていく。

高等部の最上学年であるディートリヒ・クーニッツも『あの日』から自身に課した自己訓練をこなそうと他の生徒と同様にその場から立ち去ろうとしていた。

 

「あ、ディー先輩。ちょっと待ってください」

 

だが、大き目のトランクを両手に持ったアルがディートリヒを呼び止める。

 

「なんだい、少し訓練がしたいから手短に頼むよ」

 

本当はガッツリやる予定だが後輩の前なので、ディートリヒは少しだけ見栄をはって『少し』とこともなさげに言う。

アルはその見栄に気付くはずもなく、トランクを開けて1枚の厚手の封筒を取り出してディートリヒに差し出す。

 

「わかりました。では、このカンカネンのお土産をどうぞ」

 

お土産に封筒という変わった物品にディートリヒは首をかしげながらそれを夕日に透かしたり、逆さまにするが当然厚手の封筒なので中身は見えない。

『まぁいいか』と気にせずに中身を空けようとすると、彼の両肩を強く叩いて邪魔をする者が現れた。

 

「ディー、良いか? 気をしっかり持つんだぞ」

 

「いや、いきなり何を言ってるんだい?」

 

ディートリヒの左肩に手を置いたエドガーが彼を元気付けようと言葉をかける。しかし、お土産を開ける前の段階でその言葉を言ったため、ディートリヒは軽く混乱する。

生真面目なエドガーがそんなことを言うので、なんとなく嫌な予感がしたディートリヒは封筒をアルに返そうとするが、その腕をヘルヴィが掴んで止める。

 

「言っとくけど……それ受け取り拒否すると最悪の場合、騎士になれないかもしれないわよ」

 

「一体何が入っているんだい!?」

 

「だからお土産ですって。安心してください。ディー先輩のがいっちばん特別で特に入手しづらかったんですから!」

 

中身を知っている2人は同じように首を縦に振る。

たしかに、陛下から直に渡された特別な一品である。そして代価として『頭部兵装の技術』と引き換えにこのお土産を入手している。

なのでアルは別に嘘はついていない。

 

「ああ、わかったよ。ありがたくいただくよ。まったく……」

 

エドガーとヘルヴィの脅迫じみた会話にヤケになったのか文句を言いながらディートリヒは封筒を開ける。

そこには1枚の紙があるだけだった。

 

「なんだい? 散々人を怖がらせてこんな紙いち……まい……」

 

紙をヒラヒラさせながら中身を見たディートリヒの声が段々小さくなっていく。

先の陸皇亀(ベヘモス)事変での功績を称えた感謝状だ。だが、その文面は式典に参加したエドガーに恥を忍んで見せてもらった内容とは少し異なる。

さらにこのような感謝状は文官に大量に書かせて後で名前を入れるといった手法をとっているので、『名前の筆跡と文面の筆跡が一致しない』のが普通である。

 

「筆跡が同じ……」

 

独特のはねや止めるなど簡単なものしか分からないが、ディートリヒの目にはこの書状の筆跡は『文面と名前が同じ筆跡』に見えた。

その時、ディートリヒは普段は失笑するような出来事を理解(アイデアロールに成功)してしまった。

 

「アルフォンス、これはもしかして……」

 

「はい、陛下に書いてもらいました」

 

「それはアンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ国王陛下のことかい?」

 

「はい、ていうかフレメヴィーラ王国にいるんですから当たり前じゃないですか」

 

『不敬。不敬であるぞー』とおどけて言うアルの声はディートリヒの耳には届いていない。

そのまま彼は全身の力が抜けていき、多少の浮遊感を数秒堪能した後、バタンという音と共に意識を手放した。

 

 

***

 

「……というわけでこれを手に入れました」

 

「君は馬鹿かね?」

 

『医務室』という単語で早々に気絶から復帰したディートリヒは、アルにこの感謝状の入手方法を問うと開口一番に罵倒した。

どこの世界に自国の王に直訴して他人の感謝状を書いてもらい、その代価に幻晶騎士(シルエットナイト)の新機能という自分の成果を差し出す阿呆がいるのか。(現に目の前に居るなんか変な銀髪は除く)

その理由を散々アルが話したが、ディートリヒは理解できなかった。……が、言いたいことは分かったのでディートリヒは感謝状を1回名残惜しげに見回すと、アルに返した。

 

「君の言いたいことは理解はしていないけど……分かった。でも、残念だけど今はこの感謝状は受け取れない」

 

「ディー! アルフォンスがどんなにがんばって「今はと言ったんだ!」」

 

否定の言葉が聞こえた瞬間に激昂したエドガーをディートリヒが椅子から勢いよく立ち上がりながら大声で制する。悩みに悩んだ末に結論を決めたようなディートリヒの表情にエドガーは黙って席に着く。

 

「……騎士になってどこかの騎士団に入ってもしばらくは見習い騎士としてシルエットナイトに乗れないはずだ。だから、僕が騎士団でシルエットナイトに乗れる立場……騎士になったらもらう。いや、初心を忘れないために受け取りたいんだ」

 

どこか覚悟を決めたディートリヒの目とアルの目が交差する。バルトサールの例にもあるとおり、騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)は最重要のパーツである魔力転換炉(エーテルリアクタ)の関係上、そんなにぽんぽん生産できない。なので、入団したては見習い騎士として先輩に様々なことを学んでいき、やがて騎士になるのが通例である。

 

「分かりました。ではその時にまたお渡しします」

 

アルの返事にディートリヒが額に手を当てて深くため息をつきながら椅子に座りなおすとポツリと呟いた。

 

「まったく……エルネスティは僕に新しい騎士の道を見せ、君は騎士の道を見失っていた自分を忘れるなと楔を打って……君達兄弟は僕をどうしたいんだい?」

 

「兄さんが仕出かしたことは知りませんが、僕は自分が正しいと思ったことをやったまでです。なので初心を忘れるなとかそう言うメッセージはないですが……ディー先輩がやりたいことがディー先輩にとって正解だと思います。決して悔いなく進んでください」

 

ディートリヒは目の前の少年の言葉に妙な圧迫感というか説得力を感じた。……が、その後に湧き上がる身を焦がすほどの情熱を発散させようと近場に居たエドガーに声をかける。

 

「エドガー、久しぶりに走りこみしてみないかい? 先ほどは少しなんていったが訂正だ。思いっきりやろう」

 

「珍しいな。ならばこちらも負けてられん」

 

エドガーの声色がいささか弾んでいる。おそらく先ほどのアルの言葉に感化されたのだろう。2人は上着を脱いで走りこむために工房を飛び出した。

 

「男って馬鹿よねー」

 

「その馬鹿に付き合うのが男の醍醐味ですよ。それにそんな馬鹿を背中からそっと押したり出迎えるのがいい女の条件って聞いたことありますよ」

 

「アル君って性別どっちだっけ?」

 

『青春ですねー』と心を弾ませて講習の片付けをし始めるアルにヘルヴィの呟きは聞こえなかった。

 

 

***

 

そんな感じで始まった講習だが、最初は優しかった内容も日を追うごとに難しくなっていく。

そして、エルが自由気ままに幻晶甲冑(シルエットギア)に搭乗してヒャッハーしてるせいか、アルのロボ欠乏症も日を追うごとに酷くなっていく。

 

 

─講習を開始して2日目─

 

「アル君、ここってなんで似たようなのが2つあるの?」

 

「……これは腕という設計図を基に右腕用の処理と左腕用の処理で分けてるんです」

 

 

─講習を開始して3日目─

 

「『春はあげぽよ』で有名な清少納言というギャルが枕草子を──」

 

「君は誰のことを言ってるんだい?」

 

 

─講習を開始して4日目─

 

「漢字テストですよおらぁ! エドガー先輩! 高等部なら読めますよねこのくらい!」

 

「……すまん、なんて書いてあるんだ?」

 

吐露光賦流津(トロピカルフルーツ)だぁ!」

 

「アル君、言葉遣い悪くしようと頑張ってるけど丁寧語抜けてないわよー」

 

 

─講習を開始して5日目─

 

「講師が逃げたわよ! 追えー!」

 

「離せー! 僕に! 僕にロボを操縦させてくれえ!」

 

 

なおこのようなことを仕出かしていたが、仕出かした後は素直に講習に戻って真面目に教鞭をとっていたので、アルはこの講習を行う講師役を続けることになった。

それを聞かされた時、アルは『もっと不真面目にすれば良かった』と静かに涙を流したのはそれを宣告した兄だけしか知らない。

 

***

 

講習が開始して6日。エルが新型機を開発しようと宣言してもう少しで半月がたとうとしていた。

そして、今日は待ちに待った実機搭乗の日である。

いつもの工房を離れ、中等部が幻晶甲冑(シルエットギア)の製造を行っている広場では騎操士(ナイトランナー)が勢ぞろいし、正面のアルに注視している。

 

「はい、では皆さんにはこれからシルエットギアに乗ってもらいます」

 

アルが手を叩くと幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったキッドが幻晶甲冑(シルエットギア)が満載された台車を引っ張ってくる。

ちなみにエルは新装備を開発すると気持ち悪い笑い方をしながらアディに抱きつかれてアルの方をちらちら見ながら設計図を描いている。

 

「はい、ではまずは僕が装着してみるのでその後は皆さんがやってみてください」

 

(あれは多分早く動かしたいんだろうな)

 

(目が血走ってないかい?)

 

現在アルの目は血走っており、若干瞳孔も開きかけている。講師役のそんな姿に引いた騎操士(ナイトランナー)を尻目にアルは早速とばかりに幻晶甲冑(シルエットギア)に頬ずりする。

 

「まずは愛でてください。今日の体調や油の差し具合を頬ずりすることで確認するんです」

 

「真面目にやってくれないかね」

 

「いいえ! アルの言ってることは正しいです!」

 

機体に頬ずりするなんて常識を身につけていないディートリヒがアルの奇行を咎めるが、アルの行動にエルが同調する。

 

「ええ、頬ずりしたり軽く叩くことで異常を見つけ! さらにそれを直すことで機体と一体になる感覚を磨く! そうっ、これは人馬一体ならぬ人機一体の極地に至るための一歩!」

 

「さらに人機一体は人間に限りなく近い操作を行うことで機体に負荷なく、そして素早く敵を屠れます! そうっ、あの日本と米国のハイブリットである不知○弐型のようにぃ!」

 

「アル君達ってシルエットナイトの事になると早口になるよね」

 

「いつものエチェバルリア語も出てるし……ストレス溜まってたんだなぁ」

 

蛙の輪唱のようにエルの持論がアルの持論を呼ぶ。ペラペラと話しているがよく舌を噛まないものだと周りが感心していると話し終ったのか『YEAH!』と歓喜の声を上げながら両手を水平にしたタッチを交互に行う──俗に言う『ピシガシグッグッ』を行う。

 

「というわけでキリキリ搭乗お願いします」

 

アルの言葉にエドガー、ディートリヒ、ヘルヴィはアルの搭乗している姿を真似て幻晶甲冑(シルエットギア)に身体を固定する。

その姿をキッドが見て回って異常がないことを確認するとアルに合図を出した。

 

「では腹筋を動かすような感じで前面装甲を閉じてください」

 

「あんまり勢いよく閉めると服とか肉が挟みこまれるから気をつけてくださいー。あれすっげー痛いんで」

 

アルの指示に続くように腕のあたりをさすったキッドが自身の失敗談を話す。それを聞いたエドガー達がゆっくりと装甲を閉めるが、突如ヘルヴィが激しく咳き込んだ。

装甲は完全には閉じられておらず、幻晶甲冑(シルエットギア)の異常かヘルヴィの体調不良か分からなかったのでひとまずアルは外部から銀線神経(シルバーナーヴ)を握ってヘルヴィを強制排出させる。

 

「ヘルヴィ先輩! 大丈夫ですか!」

 

「ええ……ちょっとね……胸がね

 

ボソリと呟く言葉を耳聡く聞いたアルが『ああー』と納得した表情をする。この幻晶甲冑(シルエットギア)は思いのほか内部構造がみっちりしているので空洞がない。少しサイズ調整をした所でヘルヴィが着込めるような隙間は出来ないのだ。

一応どこが詰まっているのかもう一度着込んでもらってゆっくりと正面装甲を閉じてもらう。

ここまで来るとなにが原因か待機していた騎操士(ナイトランナー)達も薄っすらと気付きだす。

好色的な目で見た男性は、次の瞬間女性の騎操士(ナイトランナー)とどこからともなく飛んできた金槌によって制裁を加えられ、その光景を見た残りは皆悟りを開いた表情で自分の出番を待っている。

アディを含んだ一部の女性はヘルヴィの様子と自身の一部を見て絶望の目をしていた。

 

「バトっさん、前面装甲の蝶つがいの部分をもうちょっと大きくしてください」

 

「それだと少し大型になるよ?」

 

「構いません。この訓練機に必要なのはスマートさより誰でも乗れる汎用性です」

 

アルの言葉にバトソンはエルの描いた設計図を修正する。結局ヘルヴィの搭乗訓練は後回しになったが、その他は何のトラブルもなく訓練は進んでいく。

 

「そうです。ほい、1歩! もう片方も!」

 

アルは銀線神経(シルバーナーヴ)を片手にエドガーが乗っている幻晶甲冑(シルエットギア)に命令を送り込む。中々面倒だがこうでもしないと変な動作をしそうで怖いのでアルは付きっ切りで操作を行う。

だが、銀線神経(シルバーナーヴ)を引っ張り出して、握って、また別の人の幻晶甲冑(シルエットギア)銀線神経(シルバーナーヴ)を握るという何の変哲もない面倒くさい作業に段々とイライラしてくる。

 

「アルー、ちょっとこれ見てくださいよ」

 

「兄さんも手伝ってよ。そんなの描いてないで」

 

エルが描いた設計図を持ってくるが、そんな余裕のないアルが額にしわを寄せる。しかし見ないわけにも行かないので設計図を見ると、小型の鏃と小さな筒に繋がれた銀線神経(シルバーナーヴ)のイラストが目に入った。

 

「機動性の確保のためのワイヤーアンカーの試作です。まだ作成には入ってませんが、結構良さげでしょ?」

 

「魔力を送ってシルバーナーヴを伸縮させ……て……あ、そうだ」

 

突如何か思いついたアルが、先ほどの反省点からサイズ調整しなおしているバトソンに声をかける。

 

「バトっさん、ちょっとお話聞いてもらっても良いですか?」

 

「んー? まぁ、シルエットギアは俺じゃなくても作れるから良いけどもうちょっと鍛冶師労わってくれよ」

 

少し不機嫌なバトソンに軽く謝るとアルは思いついた機能の概要と簡単なスケッチを書き出す。それに興味を示したのかエルが覗き込むと手から前腕を保護する篭手のようなイラストが目に飛び込んできた。

 

「アル、それなんですか?」

 

「メインフレームは銀で……あ、兄さん。いえね? ちょっと神様の王になってみようかと思いまして」

 

その言葉にエルとバトソンは本気でアルの頭を心配した。

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