銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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銀鳳の副団長をご覧いただきありがとうございます。マジックテープ財布です。

本日はこの銀鳳の副団長という二次創作物を書く前に考えていた2つの設定を供養という名目でダイジェスト感覚で肉付けして投稿させていただきます。


総話数 100話記念幕間(本作品前に考えていた設定)

***主人公が女性だった案***

 

 とある横断歩道でプログラマーの倉田翼は交通事故によって命を落とした。本来ならば加害者のドライバーが緊急停止し、この交通事故は幕を閉じるはずだった。しかし、その交通事故の被害者は倉田1人だけでは留まらなかったのである。

 加害者である車のドライバーは既に事切れた倉田を見るや否や、俗に言うひき逃げと言うものを行おうとアクセルを踏みこんだ。雨なので数度タイヤを空転させながらもアクセルによって車がグングンと速度を上げ、次の交差点が赤信号にも拘らず車は横断歩道に侵入する。

 

 そして、もう1人の被害者が生まれた。

 

***

 

『えー、僕を迎えに来て事故とか嘘やん……』

 

『だってお兄を心配した店長が傘持ってたらなって言うてたし。ていうか、この話なんべん話すん?』

 

 セッテルンド大陸の東に位置するフレメヴィーラ王国。その王国にあるフレメヴィーラのとある邸宅では2人の子供が話していた。

 セミロングの紫銀の髪を靡かせ、整った容姿を持つ子供。名をエルネスティ・エチェバルリアと言う。街中では女の子とよく間違われているが、彼はれっきとした男の子である。

 そして、もう片方の子供は金色に輝く長髪を揺らす先ほどの子供よりも少し背の高い女の子。名をアイリス・エチェバルリアと言い、背が高いことで姉と見られがちだがこちらが妹である。

 

 2人は慣れ親しんだ日本語の内の関西の辺りで使用される方言で会話をしているが、2人共とっくにセッテルンド大陸の公用語はマスターしている。ただ、エルが未だに自分のせいでアイリスが死んだと思っているので、アイリスもついついそれに乗っかってしまって今に至る。

 

 アイリスは前世、『倉田春』という名前でとある模型店の店員をしていた。その名前から察するとおり、エル──翼の妹でもあり、妹が店員をしている店ということで色々融通を利かせてもらっていたので翼もその模型店を特に贔屓にしていた。

 そして、死ぬ間際も予約していた限定プラモを受け取りにその店に行こうとしていた際に事故にあった。

 また、雨模様を窓から見た模型店の店長が『どうせ、別の店で大荷物こさえてるだろうし、迎えに行ってあげな』と2本の傘を持って春を送り出す。この雨の中でプラモデルの袋に四苦八苦している兄を想像して笑いながら横断歩道を歩く春だったが、そこで意識が途絶えた。

 どう話を聞いても悪いのは車なのだが、人間はそこまで都合良くは出来ていない。ほんの少しの自責の念が今もエルの中に渦巻いていたのだ。

 

『だからー、別に謝らんでもええんやって。私としてはあのメガネがこんな可愛ええ子になっておもろいし』

 

『容姿は関係ないやろ!』

 

 一通りアイリスがからかった後、エルはセッテルンド大陸の公用語に戻し、『幻晶騎士(シルエットナイト)を作って乗ってハッピー!』という漠然とした自身の目標を語る。対するアイリスはベッドに向かって淑女としては落第レベルの寝転がり方をしながら『適度に第二の人生を楽しむ』とお気楽に語った。

 

***

 

 そして、彼らが幼馴染兼弟子のアーキッドとアデルトルートに出会い、やがてエルがフレメヴィーラ騎操士学園に入学する。

 エルが居ない時間、アイリスは近所の子供と遊んだり、大好きな本を読んでいたりして時間をつぶしていたが、どこかつまらなさそうな様子が見え隠れしていた。そんなアイリスに、彼女の父であるマティアスと祖父のラウリは頻繁に弁当を忘れるようになる。

 

「2人に届けてあげて」

 

「分かりました。お母さん」

 

 そう言いながら彼女はルンルン気分でフレメヴィーラ騎操士学園に赴き、門の前で衛兵に連れられながら2人に弁当を届ける。その後、学園の図書館に案内してもらったり、エルが居そうな鍛冶場に連れて行ってもらってエルと共に見学や高等部のナイトランナーと交友したりと中々良い経験をさせてもらっていた。

 

 ただ、その日はいつもとは違っていた。いつものように弁当を届け終わった後、図書館で本を読もうと付いて来ていた衛兵に行き先を告げていると庭の方が騒々しくなった。

 

「なにかあるんですか? お祭りとか」

 

「いや、特には何も……君! なにかあったのかね?」

 

 衛兵も特に何もイベントがないと記憶していたので道行く生徒に事情を聞くと、どうやら決闘が行われると聞き、衛兵は『面倒だな』と少しだけうっとおしそうにこぼした。

 その口ぶりにアイリスが事情を聞くと、決闘は衛兵でも安易に仲裁は出来ないので聞いてしまった以上は医務室の準備やら、本当に命の危険があったときに介入できるように周囲の衛兵をかき集めるといった対策が必要なのでその手間が面倒くさい突発的なイベントだということを教えてくれた。

 

「ごめん。そういうわけだから僕と離れないで」

 

「はーい」

 

 いざと言うとき介入するためなのか笛を数度、同じような調子で吹いてから衛兵はアイリスの手を引いて庭に進む。途中、同じ調子の笛の音や他の衛兵が続々と集まる中、アイリスが庭にたどり着いた時には既に庭の一画には人だかりが出来ている。それを見た衛兵はアイリスの手を引きながら割って入りやすいようにと円陣を掻き分け、円陣の最全席を陣取った。

 それについてきたアイリスも必然的に現在の決闘の様子が一望できる位置に居り、決闘を行っているのが幼馴染のキッドと、最近キッドやアディと一緒に居るとよく絡んでくる彼らの腹違いの兄であるバルトサールだということを知った。

 彼らは木剣で戦っているが、バルトサールが胸元からなにか光る物を動かした瞬間にキッドの動きが止まり、それをいいことにバルトサールがキッドを打ちのめしていく。

 

「止めないんですか?」

 

「……決闘が無くなれば偉い貴族が幅を利かせるようになる。……それに学園関係者だからね。決闘の事を知ってるから止めることが出来ないんだ」

 

 衛兵の口惜しそうな表情を見たアイリスは衛兵の手を掴んでいた右手をいきなり離すと一歩前に出た。

 

「分かりました。じゃあ、外部の人間である私が行けばいいんですね」

 

 そう言うや否やアイリスは衛兵の腰に挿している杖を引き抜き、衛兵の静止の声を聞かずに飛び出した。ちょうど木剣をキッドの顔面に向けて打ち据えようとしたバルトサールとキッドの間に入り、外装硬化(ハードスキン)を自身の身体に施す。ガツンという小気味の良い音と共にアイリスは膝を折るが、それでもバルトサールを威圧するように睨み付ける。

 

「な、なんだ貴様! 神聖な決闘に……わ、分かったぞキッド! お前の差し金だな? そうだろ!」

 

「アイリス……なんで……」

 

 突然の乱入者にバルトサールは焦り、庇われたキッドは声を震わせながら困惑した表情をする。だが、周囲の見物人はひそひそと『不可抗力とはいえ、女の子を殴った』とどちらかといえばバルトサールを非難する声が大きく、それがバルトサールをさらに焦らせる。

 

「失礼」

 

「突然なんだね!」

 

 額から血を流しながらも焦っているバルトサールに近づくと胸元のポケットを弄る。当然、バルトサールも抗議するが、アイリスは知ったこっちゃないと無視をし、やがて1つのヘアピンを取り出した。それを空に掲げながら『間違いない』と呟いたアイリスはそのヘアピンをバルトサールに見せ付ける。

 

「随分少女趣味なヘアピンですね。ですが、あなたには似合いませんよ?」

 

「お、落し物だ! 届けようとしていたんだ!」

 

「決闘を拝見しておりましたが、ずっとそれを気にしていた様子でしたよ? ならば決闘より先に届けるのが自然では? それに、これは私の友人……そこのアーキッドの妹の物とよく似ております」

 

「そ、空似だ!」

 

 ヘアピンをバルトサールに見せつけながらアイリスはチクチクとねちっこく言葉のナイフを刺して行く。バルトサールも苦し紛れな言い訳をしているが、その反応を見た周囲の生徒達は口々に『バルトサールが汚い手を使用したのではないか』と囃し立てる。最初は少人数だったバルトサールに否定的な意見は油を火をくべたように一瞬で広がっていく。その勢いにバルトサールは『違う!』と何度声を上げようと既に形成されてしまった空気感を霧散させるのには説得力が足りなかった。

 そんな問答をしていると、エルがアディを横抱きにしながら円陣の内部へと飛び込んでくる。

 

「あ、アディー!」

 

「ぎゃー! アイリスちゃん! 血が出てる!」

 

 パタパタと人懐っこい笑顔を浮かべながらアディに近づくアイリスだが、額から血が流れているので思わずアディが叫ぶ。また無茶をしたのだろうと、呆れたエルが自身のポケットからハンカチを取り出してアイリスの額から流れる血を拭っていると、そこでようやく再起動を果たした衛兵が解散を宣言しようとする。

 しかし、アイリスは『待ってください』と言いながらアディの髪にあるもう片方の髪飾りを手に取るとバルトサールに向かってゆっくりと歩き出した。

 

「さて……空似ですか? それとも同じでしょうか?」

 

 2つの髪飾りを周囲に見せびらかし、近くに居た衛兵にも確認してもらう。もはや、バルトサールの施した工作は白日の元に晒された。口々に『卑怯者』や『生徒会長の弟のくせに』と話し込む声が響く中、木剣を力強く握り締めたバルトサールは一言、『ふざけるな』と言いながら吶喊して来た。

 しかし、なぜか狙いはキッドではなくアイリスに向けられ、それに気付いたキッドがアイリスを庇おうと走り出す。

 

「このやろっ」

 

 すんでの所で間に合わないと悟ったキッドは口惜しげに叫ぶが、アイリスは衛兵に返そうとしていた杖を再び強く握ると、外装硬化(ハードスキン)を自身の腕に施して木剣を真正面から受け止めた。

 

「決闘するなら正々堂々とやれ!」

 

 木剣を弾きながら握り拳を作り、アイリスは語気を荒げながらその拳をバルトサールの頭部に向かって振り下ろす。その拳によって地面に何度もバウンドしたバルトサールを興味が失せたような冷ややかな表情で見下ろし、やがてアイリスは元の人懐っこい表情に戻るとエル達の下へ帰る──前に衛兵に捕まった。

 

「うん、とりあえず事情聴取からね」

 

「体が勝手に動いてました!」

 

「なお悪いわ!」

 

 その後、しでかしたことがバレたアイリスは家族にこっぴどく叱られるが、バルトサールの姉であるステファニアから『今回のことは元から大事にする気はない』というありがたい言葉を頂いたのでアイリスは1年後、比較的平穏にフレメヴィーラ騎操士学園の経理科へ入学する。

 

 ──ただ

 

「あれが"鉄拳"のアイリス・エチェバルリアか」

 

「なんでも拳1つで上級生を殴り倒したらしいぞ。額の傷はそのときの名残だとか」

 

「ひえっ、こええ」

 

 なぜか『鉄拳』の二つ名を賜り、さらにエルの新型機開発も重なることで『エチェバルリアのやべーやつら』という認識により同学年の友達が出来なかったとか。

 

***

 

「で、なんで私も銀鳳騎士団に入団するの?」

 

「えーっと、うちの騎士団って経理担当するの居なくて……」

 

「雇えよ!」

 

 中等部に進学したと言うところでアイリスは銀鳳騎士団の本拠地であるライヒアラ騎操士学園の工房に呼び出されていた。最初はここ最近はアイリスと接点がなかったのに何で呼び出されたのか分からず、とりあえず仲の良かったヘルヴィや女性騎操鍛冶師(ナイトスミス)とガールズトークを楽しんでいたアイリスだったが、エルからの説明に軽くキレる。

 なんでもこの騎士団。幻晶騎士(シルエットナイト)を整備する資材や出撃にかかる費用。給金といった騎士団運営に関わることは全て外部に委託しているらしく、それを知ったアンブロシウスが『そういった人材を入れるように』と釘を刺したらしい。そこで経理兼紋章官として経理科のアイリスをスカウトすることになったのである。

 

「とりあえず、直近の目録です。お小遣い上げるのでちょっと……お願いします」

 

「…………ファーラビットとキャットネイルフィッシュの特大ぬいぐるみ、後最近発売された香水で手を打ちます」

 

 数分の沈黙の末、小遣いになるならばとアイリスは渋々承諾する。作業場は工房のためか扉に近い場所に机が宛がわれ、そこに陣取ったアイリスは凄まじい速度で書類を捌き出した。

 

「やっぱ銀色坊主の身内はどこかおかしいぜ。あの量の資料見ただけで鳥肌がでらぁ」

 

「あの子、魔法とかはからっきしですが計算が得意ですからね」

 

 ダーヴィドの呟きにエルはさも当然のように返す。

 アイリス──前世の倉田春はプラモ屋の店員だったが、そのプラモ屋の帳簿や仕入れも任されていた。在庫を死蔵させず、来店する客のニーズに合わせた仕入れ。時には廃業するプラモ屋に赴いて希少な在庫を売ってもらえるように交渉するなどといったことも行っていたので、こういう計算ごとは慣れっこであった。

 エルもそのことを把握しており、『出自が分からない人を入れるぐらいならアイリスを入れる』とキッドとアディにぼやくほど、エルはアイリスの持つスキルを当てにしていたりする。

 

 こうして目録を見ながら収支表をつけるバイトを行っていったアイリスだったが、気付けばなし崩しに学生の身で銀鳳騎士団入りを果たす。ただ、それを認識するのは彼女が卒業し、遠く離れたクシェペルカの地へ赴くことを知った時だった。

 

***

 

 剣を機体各所に取り付けた変態──もとい、騎士と引き分けたディートリヒは帰還早々医務室にぶち込まれた。グゥエラリンデが修理中なのでしばらくは英気を養おうとここしばらくの疲労も手伝って早々に眠りについていたが、アイリスが泣きながら医務室に突撃をかましてきたので思わず面を食らっていた。

 

「驚いたね。君は……僕のことが嫌いだと思っていたんだが?」

 

「最初は……嫌いでした」

 

 涙声のアイリスはまるで堤が切れたかのように饒舌に自身の思いを口にする。

 アイリスの入学前、その気分屋で何事も斜に受け止めてしまうほどのひねくれ具合にアイリスはディートリヒとは数歩ほど身を引いていた。それは言い逃れようのない事実である。

 だが、経理として銀鳳騎士団入りしたアイリスは再びディートリヒと出会い、会話を繰り返すごとに学園に居た頃の彼の印象とはかけ離れていくことが分かった。どちらかというと軽薄そうな見た目に反して己の中にある意思はしっかりしており、中隊という部下を率いる立場からか修練に励む姿がどこか眩しかった。

 そこからだろうか。アイリスの目線がいつの間にかディートリヒを追いかけていたのは。

 

「今は……逆です。ですが……私がこの気持ちを伝えても迷惑だと思ったんです」

 

「いつも見られている気がしたのは君だったのか」

 

 どうやらディートリヒも気になっていたようなので、アイリスが再び『すみません』と謝罪しながら話を続ける。

 ディートリヒが視線に気付けばすぐに別の方向を向くが、気がつかないと延々と見てしまう状況にヘルヴィをはじめとした女性団員が騒ぎ出すが、『自分が好きなのは騎士として高みを目指す。エルネスティという目標を追いかけるディートリヒだ』という心が邪魔をして中々その気持ちを彼に伝えることが出来なかった。

 ディートリヒが戦場に出ている間も彼の向上心に余計な重荷を背負わせたくないという気持ちと戦場ゆえにいつディートリヒが命を落とすかという恐怖に脅えながらアイリスは過ごしていたが、本日ディートリヒが医務室送りとなったとエルから聞かされたアイリスはエルの二の句も聞かずに飛び出したのだ。

 

「やはり、私もまだ未熟だな。婦女子の気持ちすら察せられないとは」

 

「あっ」

 

 ここまで内情を吐露したアイリスはもはや言い逃れが出来なかった。ディートリヒに抱き寄せられ、その美しい金の長髪に沿って指を入れられたアイリスは涙を流しながらもディートリヒの腰へ手を恐る恐るまわし、震える声で自身が後ろに居て──重石になっても良いのか問う。

 

「何を言ってるんだい。私はあの脳筋達を背負ってるんだよ? あの馬鹿達に比べたら君なんて紙だよ」

 

 そう言いながらディートリヒはアイリスの前髪を上に持ち上げるが、一気に感情が冷めたような表情をしながら『まぁ、ここではまずかろう』と医務室のドアを睨む。すると、観念したのかエルや他の中隊長達を含めた十数人がどやどやと医務室に入ってきたことで、アイリスは一瞬ほうけた顔をする。

 

「アイリス、いったん離れたほうがいいと思うよ」

 

「え……あ!」

 

 既にディートリヒは既にアイリスから手を離しており、今はアイリスがディートリヒに抱きついている状態だった。そのことをようやく知覚したアイリスは顔を真っ赤に染めながら弾かれたかのようにその場を離れ、未だ湯を浴びせられたかのように熱を帯びる顔を隠すかのようにカーテンに隠れるとそのままぐるぐると自身と共にカーテンを巻き始めた。

 

「ディーさん。ああいう子ですが、よろしくお願いします。ですが、今は戦時中なのでそういうのは帰還してからにしてください」

 

「君が義兄とか恐怖でしかないんだが、了解したよ。なんにせよ、生き残るための活力が湧いてきたよ。……エドガーも覚悟を決めたほうが良いと思うんだがね」

 

「わ、分かってる」

 

 ヘルヴィの笑顔が顔面に突き刺さる感覚を覚えながらエドガーはディートリヒの助言ともいえない言葉に首を縦に振るしかなかった。

 

***

 

 その後、長かった大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)がようやく終結したことで銀鳳騎士団はフレメヴィーラへと帰還を果たしたが、アイリスとディートリヒの婚約はひとまず両親への顔見せのみから進展しなかった。

 ──というのも、先立っての大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)において並々ならぬ経験を経た銀鳳騎士団は一介のエース部隊と進化を遂げていた。そのため、彼らを引き抜くために連日貴族達がオルヴェシウス砦に押し寄せ、アイリスもディートリヒもその対応に追われていたのだ。

 その間もエルは最新型の空飛ぶ幻晶騎士(シルエットナイト)を作製し、それらを指揮しながらフレメヴィーラ王国が生まれる原因、ボキューズ大森海の調査へ向かってしまった。流石に兄を放置して結婚式は出来ないと判断したアイリスはしばらく貴族の相手をしながらディートリヒに会えない日々を過ごしていたが、帰還したダーヴィド達からエルがボキューズ大森海に墜落したことを聞く。

 

「アイリス!」

 

「ディーさん、離して下さい。ちょっと行く所があります」

 

 悲しみに暮れているであろうアイリスを抱きしめようとしたディートリヒだったが、突然の力強い声に思わずディートリヒはアイリスから手を離す。アイリスは傍らに居たダーヴィドを拉致し、紙とペンをひっつかむとそのままカンカネン行きの乗合馬車まで全速力で走った。

 

「ダーさん。兄が落ちた場所とそこまでの日数。後、消費した資材とか諸々覚えている限り話してください」

 

「お、おう……」

 

 乗合馬車ゆえに小声で話しながらアイリスはダーヴィドの報告を計算式に落とし込み、カンカネンに到着する頃にはおおよその消費する物資や必要であろう戦力を導き出す。そのまま個人的な付き合いのあるセラーティ家の別宅へ足を向けたアイリスは、執事やちょうど仕事で別宅に居たヨアキムに突然の訪問を詫びながらも今回、ボキューズで起こったことについて軽く事情説明とリオタムスに謁見する許可を取って欲しいと頼み込んだ。

 

「事が事ゆえに問題ない。行くぞ」

 

「承知しました」

 

 その頼みを聞いたヨアキムは事の重大さから書いていた資料を放置し、アイリスとダーヴィドに一言話してから執事と共に外出の準備に入る。そして馬車の中で詳しい説明をダーヴィドから聞き、幻晶騎士(シルエットナイト)を溶かす酸を生み出す魔獣の事を聞くや否や、『それがフレメヴィーラ王国に来ることはありえるか?』と問いかけた。

 

「魔獣には生息域がありますが、遠い未来でその生息域が変わるかもしれませんね」

 

「アイリスの話している通り、絶対はないな……です」

 

 アイリスとダーヴィドの話にヨアキムは『そうか』と話した所でシュレベール城へたどり着いた一行はそのまま兵士に事情を話して小さな会議室へと通される。

 しばらくしてリオタムスとなぜかアンブロシウスが会議室に姿を現し、事の次第を聞いた2人は『まさか奴が』とエルの行方不明に驚愕を露にする。だが、そこにアイリスが『第2次調査をする必要があります』という爆弾を投げ込んだ。

 

「お主……誰からそれを」

 

「いえ、あの広大なボキューズ大森海をただ1回の調査で終了するのはあまりにも無謀です。なので、第2次調査を行う構想も既に存在しているかと考えていました。ただ、先の結果で並の貴族の方々は二の足を踏むでしょうがね」

 

「鳳の妹もまた鳳か」

 

 アイリスの考えにアンブロシウスは感心すると全員に着席するように促す。たしかに今回の調査は成功かと問われれば首を傾げる被害が出たが、ダーヴィドのいう『酸を生み出す魔獣』の存在を知れたことは黄金にも値する成果だった。そうなると次はそんな危険な魔獣がフレメヴィーラ王国に押し寄せてくる未来があるのかと言う疑問を調査するためにボキューズに赴かねばならないが、そのための物資をどうするかと言う話となった際、アイリスはカンカネンに赴くまでに導き出した物資の消費量を書いた紙を差し出した。

 

「計算が甘い部分がありますが、おおよその物資はこの通りです」

 

「大儀である。さっそく第2次調査の編成計画を修正するとしよう。……セラーティ侯爵。期待して良いか?」

 

「はっ、こちらも準備を進めておきます」

 

「お願いします」

 

 アイリスは頭を下げながらダーヴィドと共にカンカネンを去る。その時、紅の機体が馬車を横切ったのだが、夜通し計算したために就寝に入ったアイリスやダーヴィドはカンカネンに急ぐその紅の機体に気づくことはなかった。

 

***

 

「だから! なんで! 突っ走るん! ですか!」

 

「すまない! ほんとすまない!」

 

 ぽかぽかとディートリヒの胸を叩きながらアイリスは涙目でディートリヒを睨む。王族や有力貴族の支援を取り付けたは良いが、その間にディートリヒはシュレベール城に殴り込みをして半ば謀反の宣言のようなことをしでかしていた。そのことを聞いたアイリスは素早く計画の繰上げを上申するためにカンカネンの乗合馬車でシュレベール城へ急行中、同じくオルヴェシウス砦に急行していたアンブロシウスと合流。馬車を途中下車すると、ジルバティーガに乗せてもらいながらオルヴェシウス砦にある工房へ案内する。機体から降りると共に持ち前の鉄拳にてディートリヒを殴り倒すとそのまま馬乗りになって今に至る。

 

「……あやつの献身を無駄にする気か。あやつはおぬし達より数倍上手く立ち回っておったぞ」

 

「返す言葉もございません。ダーヴィド隊長の言葉を失念しておりました」

 

 床の冷たさによって頭が冷えたディートリヒは自身の無鉄砲ぶりに深く反省する。そして、アンブロシウスのありがたい講義を聞いた後、銀鳳騎士団の面々はボキューズ大森海の調査という名目で消えた騎士団長を捜索するべく数ヶ月の準備に入った。

 そして出発の日……なのだが。アイリスの姿はどこにもなく、代わりに第2中隊の円陣に見慣れない1人の騎士が居た。

 

「良いのかい? アイリスちゃん」

 

「ディー隊長が行くなら私も行きますよ」

 

「ノンノン ディータイチョ」

 

「ディータイチョ!」

 

「完璧! こんな良い子の献身を無視するクソ野朗がいるらしい」

 

『ぶっころだな』

 

 第2中隊の心が一つになる瞬間を目の当たりにしながらディートリヒは今後のことに深くため息をつく。本来ならば危険性があるゆえにアイリスを連れて行くことは叶わないのだが、それを言うとアイリスは『騎士として行きます』と準備期間中に幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦法を気合で覚えてきたのだ。

 そのひた向きさにエルの後姿を幻視した中隊長達は実働部隊への入隊を認め、彼女を第2中隊へと編入することにした。

 

 その後、機体を大破させたアイリスはエルの乗ってきたカササギがイカルガと合体した『マガツイカルガ』の発想から、ヘイローコートを接続させたカルディトーレの上半身をグゥエラリンデと合体させた『グゥエラリンデ・ジーク』を生み出して戦闘に貢献するのだが、それはまた別のお話である。

 

 

***転生先がオラシオルートだった案***

 

 転生。死した者が輪廻の輪に沿って再び生まれ変わることを指すが、同時期に死んだ者が同時期に生まれ変わるという確証は存在しない。今日、この世を去った倉田翼と鞍馬翼の両名の魂はそのままセッテルンド大陸へと迷い込み、1つは当てもなくその場をさ迷い、1つはセッテルンド大陸の西側に飛び去っていった。

 

***

 

 俺が生まれ育った所は碌でもない所だった。何を計算しているのか分からない紙束に何を証明しているかも分からない論争。挙句の果てにはただ自身の意見で相手を打ち負かせたいがために言い争いをする始末。

 苔むした老人が威張り散らしながら一族の悲願などとのたまうが、俺からしてみればその悲願も抽象的で今にも消えてしまいそうなほど希薄で──窒息しそうなぐらい退屈だった。

 

「兄ちゃん、忘れ物ない?」

 

「あるわけないだろう。こんな所に物を溜め込むのは頭の固まった爺共と……お前ぐらいだ」

 

 だが、この場所は俺──『オラシオ・コジャーソ』に夢を魅せ、夢を安心して語れる同士を与えてくれた。今も俺の後ろを歩く髪を7対3に分けた眼鏡の男、『アルデニア・コジャーソ』は俺の弟であると同時に俺が話した空の果てへ行く夢を馬鹿にしなかった唯一の同士だ。

 

 ただ、今にして思えばアルデニア──アルは俺がガキの頃からおかしなヤツだった。空の果ては存在するのかという俺の問いに対して『あります』と妙に確信めいた返事をし、爺共から教わった純エーテル作用論を陸上を歩く幻晶騎士(シルエットナイト)に反映させるという頭がおかしい事を考え、挙句の果てにはそれに乗りたいとよく俺に話していた。

 最初は初めて同士に会えたことに喜んだが、アルがあまりにも話が通じないので俺は無視を決め込んでいた。だが、アルが夢を叶える為の努力を惜しまない奴だと分かると徐々に話す数も増えていった。

 

 そして年月は過ぎ、俺は空の果てを目指すべく、アルは騎士になるためにとある学園の門を叩いた。ただ、アルは騎士科の授業を受けながら暇が出来たら鍛冶科の授業にも参加し、休みの日までも学園に足を運んでは修練に明け暮れていた。その勤勉さに舌を巻いたのか、『なぜそこまでして修練を行う』と聞いた教官や上級生にアルは俺に聞かせたことを話すと突然手をひっくり返され、挙句の果てには『地頭が良いだけの狂人』扱いを受けていた。

 

 なぜ知ってるかって? 俺も同じ扱いを受けたからさ。『コジャーソ兄弟の頭には雲が詰まっている』なんだとさ。笑えるだろ? 

 そんな学園に嫌気が差したが、なんとか我慢した俺は卒業と同時にこの国をおさらばしようとした時、アルが訪ねてきたんだ。

 

「なぁ、本当にここで騎士をやらなくてもいいのか? その夢さえ押さえ込めば俺に付いて来るよりも将来安泰だろう?」

 

 いつまでも俺の後ろを付いてくるアルに俺は自分でも驚くほど冷徹な声で思ってもないことを聞く。だが、アルは首を横に振ると『こんな息の詰まるところより、兄ちゃんと一緒の方が面白そう』と言い出した。

 

 その言葉に俺は自然と笑みが零れそうになったが、口元に指を食い込ませて笑わないように勤めてから『好きにしろ』と応えた。それでも少しだけ上ずった声で返してしまったがバレてないだろうか。

 仕方ないじゃないか。同士に平穏よりもお前と付いていったほうが楽しそうだと全てを投げ出して付いて来てくれるんだ。ニヤついても仕方ないじゃないか。そんな嬉しいことを言ってくれた弟に礼と言うわけではないが、何があっても裏切れないという決意を込めながら俺達は流浪の旅にでた。

 

 流浪の旅といっても安穏とはしていられない。夜盗に襲われたり、金欠で苦しみながらも旅を続けること数年。俺達はジャロウデクという国に立っていた。

 この国はクシェペルカと並ぶほどの大国で、俺達のもたらした純エーテル作用論がバルドメロとかいう国王の目に止まった結果、俺はいきなり新型兵器の開発工房長に任命されることになった。

 

「……とはいってもどうしたもんかねぇ」

 

「メンバーは僕と兄ちゃん、設計が出来たら他の所から人を回すって言ってたけど……怪しくない?」

 

 だが、そう話は上手くなかった。だだっ広い工房には俺とアルの他に人員は居ないし、この工房の立地も工房が立ち並ぶ区画からかなり離れている。あのバルドメロとかいうおっさんの言う『期待』の度合いが透けて見えるほどの待遇に俺はため息を吐いた。

 

 アルが怪しいと言いながらしきりに国から出ようと提案してくるが、流浪の旅の中で既に俺が考えた空を往く手段。『飛空船(レビテートシップ)』の設計は済ませている。それに俺達も路銀も既に底を尽いているからここからの移動は文字通り命がけになる。ならば取れる道はただ一つだ。

 

「いや、ここで良い。あの国王様の度肝を抜いてやろう。……アル、すまないが手伝ってくれ」

 

「報酬は道すがら聞いた兄ちゃんのエーテリックレビテータで良いよ。あの口ぶりなら小さく出来るんでしょ?」

 

 我が弟ながら図々しく強請ってくるが、俺はアルが差し出してきた手を取ることにした。そして、設計は手直しするだけだったのでものの1ヶ月もしない内に終わり、後は増員でやって来た数十名の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達と共に完成品を手がけるのみとなった。設計書を片手に追加増員の要請に行った時のあのおっさんのうろたえた顔は今になっても腹筋に来てしまうほど滑稽だった。

 

「兄ちゃん! 今日、鍛錬所で剣ジャラジャラつけた可笑しなやつ見つけた!」

 

「アル、それは変態だから余り近づくなよ」

 

 ただ、アルを飛空船(レビテートシップ)の建造作業から外した途端、ガキのようにあちこちを散策しては厄介ごとを起こしてくるのが頭痛の種だった。

 さっきも俺が忠告したのにも拘らず、明後日にはその剣をジャラジャラつけた変態と『マブダチになったー』と肩を組み合いながら鍛錬に出かけ、その後にどこからどう見て地位が高い人間にしか見えない老練の男が『うちの愚息が失礼をした』と謝りに来た。

 人付き合いが壊滅的な俺は『あー、はい』としか言えなかったが、『また鍛錬しようぜー』と手を振るアルに俺はただ拳を頭に叩きつけることしかできなかった。──俺の安寧を返して欲しい。

 

「兄ちゃん! 新しいシルエットナイトが出来たんだってさ! 行こうぜ!」

 

「ちょっと待て! 俺はレビテートシップの設計資料の複写を……アル! 離せ!」

 

 またある時はジャロウデク王国の新型幻晶騎士(シルエットナイト)のお披露目に連行され、その幻晶騎士(シルエットナイト)が抱える慢性的な魔力不足の問題をあろうことかうちの秘術や飛空船(レビテートシップ)を作るために開発した技術を用いて解消させようとするといった無茶苦茶をやりだした。結果的に幻晶騎士(シルエットナイト)の問題は解消され、王族からの俺やアルの評価もかなり高まったのだが、もう少し考えて動いて欲しかった。

 

「アル、お前もう変なことするなよ! 絶対するなよ!」

 

「兄ちゃん! 報酬の小型化したあれ作ってよ! 後、レビテートシップを動かすブローエンジンも小型化したらシルエットナイトも空中で動くよ!」

 

「あ"あ”ぁ”ぁ”、こいつ聞いてねぇ!」

 

 止まる事を一切知らないのか矢継ぎ早に新しいことに取り組むアルに引っ張られるが、次第にその行動に段々順応し始めた頃。ようやく飛空船(レビテートシップ)の栄えある1号機が完成した。式典では王族が目を向きながら俺の作品を見ているが、俺はまだ満足していなかった。

 今回はクライアントの意見を尊重して幻晶騎士(シルエットナイト)とか言う鈍重な置物……アルに言ったら数週間は口を利いてくれなさそうな文句だが、それを積み込むせいで高度や速度が余り期待できないが、行く行くは飛空船(レビテートシップ)に戦闘能力を持たせて空を掌握してやると俺は誓いを新たにする。

 

 ただ、その横でアルが『じゃ、僕の幻晶騎士(シルエットナイト)作りも手伝ってね』という声に俺は急に現実に引き戻された。その後、新型幻晶騎士(シルエットナイト)飛空船(レビテートシップ)という2つの武器を手に入れたジャロウデク軍はかねてより計画にあった西方を統一するための大戦を始めるらしく、飛空船(レビテートシップ)の量産を王族から指示される。

 幸いにもアルと協力して作った手引書や設計図があるのでかなり暇は出来るのだが、その暇を容赦なくアルの作ろうとしている幻晶騎士(シルエットナイト)が奪い取っていく。

 

「なぁ、これはもはや……シルエットナイトじゃないだろ」

 

 ベースであるジャロウデク王国の新型制式量産機であるティラントーに覆い被さるように俺が作った小型──といっても飛空船(レビテートシップ)よりは小型なだけで、幻晶騎士(シルエットナイト)以上のでかさを持つ源素浮揚器(エーテリックレビテータ)や追加の魔力転換炉(エーテルリアクタ)、推進用の起風装置(ブローエンジン)を複数内蔵した巨大な外部パーツがくっついた、西方では伝説の存在となった魔獣のような出で立ちに俺が呆れる。

 その横でアルは『いやぁ、大きいですなぁ』と他人事のように言い、周囲の騎操鍛冶師(ナイトスミス)も『お前の弟だろ。なんとかしろよ』と目で訴えかけてくるが、俺が知ったこっちゃねぇし俺は悪くねぇ。

 

「これ、飛べるのか?」

 

「この前試してみたら飛べたけど? 今度のレビテートシップの試験運転で見せるよ」

 

 俺の知らない間に既に飛行試験を済ませたらしく、自身ありげに言うアルに俺はただ『好きにしてくれ』としか言えなかった。

 そして、アルは数日後に行われた数隻の飛空船(レビテートシップ)による試験飛行の現場に幻晶騎士(シルエットナイト)を持ち込んで殴りこんできた。空を悠々と飛ぶ飛空船(レビテートシップ)の艦橋で自身の作品の力強さを実感していた俺の横を起風装置(ブローエンジン)の音と共に突き進む1機の幻晶騎士(シルエットナイト)が併走し、律儀に挨拶をしながら通り過ぎる。だが、しばらく先行した奴の機体が急に戻ってくると、理由も言わずに飛空船(レビテートシップ)の上部甲板に降り立ち、動かなくなった。

 

「兄ちゃんごめん。ちょっと休憩させて……魔力が尽きかけてる」

 

「おまっ! 降りろ! 遅くなるだろ!」

 

「だからごめんって」

 

 そこからしばらく空を飛んでは俺の居る飛空船(レビテートシップ)の上で休む幻晶騎士(シルエットナイト)に、第1王子から『あの幻晶騎士(シルエットナイト)はもうちょっと練り直してから紹介してくれ』と言われたが、アルを連れて来てあの幻晶騎士(シルエットナイト)にかけた装備の概要を話すと青ざめながら『専用機にするからもう作るな』と命令を受けた。──言われなくても作る気もないさ。

 

 そんなこんなで我が開発工房も中々大所帯になってきたので、量産といった面倒くさいことは部下に任せて俺はそろそろ自身の野望──空の果てを目指す一助である戦闘能力を持ったレビテートシップの設計を始めることにした。

 

「……というわけでアルも手伝え。ブローエンジンの改造もしてやるから」

 

「あーい」

 

 飴をチラつかせてアルを従わせることに成功した俺は早速この飛空船(レビテートシップ)の設計を行うことにするが、この設計時にいくつかの問題点に直面することになった。

 

「兄ちゃん。これ、推進装置が貧弱すぎるんじゃない?」

 

「ああ、魔力も足りないだろうな。お前の機体のようにエーテルリアクタを纏めれば何とかなるだろうが……この時期に用意するのは難しいな」

 

 俺が言った言葉にアルも同じ気持ちなのか頷くのみだった。この戦闘用飛空船(レビテートシップ)、『ヴィーヴィル』と名づけたこれは、今後増え続けていくであろう全ての飛空船(レビテートシップ)を超越する存在とするために設計している。そのためには今のような起風装置(ブローエンジン)を用いるのは愚策だ。

 アルの幻晶騎士(シルエットナイト)を参考に魔力転換炉(エーテルリアクタ)を複数積み込み、その魔力で強力な風魔法を発現させて無理やり飛ばせないかと考えたが、戦支度をしているクライアントに魔力転換炉(エーテルリアクタ)を強請って契約を打ち切られるのは不味い。

 

「作れるところまで作って後は戦後にでも考えるか」

 

「賛成~」

 

 ひとまず、作れるだけ作後は無駄に余っているここの奥にでも仕舞いこんでおこう。なぁに、戦後には俺の飛空船(レビテートシップ)の需要も上がるだろうし、十分時間が取れる。俺はアルの機体の起風装置(ブローエンジン)を改造しながらそう言い聞かせた。

 だが、何事もイレギュラーがあるものだと分かったのは戦争が始まって半年以上経った時だった。

 

「は? 打ち落とされた?」

 

「えー、地上から投槍って……どんだけ低空飛んでたんですか」

 

 フォンタニエとかいう城下町を脱し、ミシリエに匿われていたクシェペルカの王族を殲滅しようとしたクリストバル王子の部隊が壊滅的な被害にあったと聞いて俺達は生き残りに面会に行った。

 しかしながら奴らの口から出てきたのは『真正面から固まって突っ込んだらやられた』という毒にもクスリにもならない報告だった。もうちょっと高度を上げたり飛空船(レビテートシップ)の布陣を分散させたりと工夫しろと鍛冶師である俺でさえも考え付くような運用方法を実行しない騎士達に、俺だけではなく、アルもため息を吐いていた。

 

 だが、一応クライアントなので高度さえ取ればバリスタや幻晶騎士(シルエットナイト)が当てずっぽうで投げる槍の範囲内に逃げれることを助言して俺達はさっさと工房に戻ろうとしたが、奴らは最後に『背中から火を噴きながら空を飛ぶ幻晶騎士(シルエットナイト)』、『柄から火を吹く槍』という興味深いことを俺達に言ってきた。

 

「どうやらお前以外に馬鹿が居たようだな」

 

「意外に早く見つかりましたね。あのレビテートシップを作る鍵が」

 

 帰り道、俺はアルとその空を飛ぶ幻晶騎士(シルエットナイト)の話で盛り上がった。アルの幻晶騎士(シルエットナイト)は安全性を考えて風を噴出させて推進させるが、件の幻晶騎士(シルエットナイト)は恐らく爆炎系統の物を用いている。たしかにそれならば起風装置(ブローエンジン)よりも遥かに高性能な推進器になり得るが、同時に丹精込めて調整しなければ自爆する危険性が極めて高い危険物に成り下がる。

 

「兄ちゃん。その敵だけどさ……空を駆ける方法が1つしかないなら……潰しちゃえば良いじゃん」

 

 俺はその時、初めて弟が張り切る姿を見た。俺の、そして一族が長年かけて積み重ねてきた理論を気が狂っている方法1つで崩した敵を前に、気を落とすどころかどう切り崩すべきか必死に考えている。そんな意気込みを見せる弟の姿を見た時、俺は元気付けられた気がした。

 

「そうだな。空は俺達の物だ。早速で悪いが、手伝ってもらうぞ」

 

「あいさー」

 

 こうして俺達の新たなる開発の日々は始まった。

 残存する飛空船(レビテートシップ)にはクシェペルカが使用していた法撃だけしか出来ない案山子の真似をさせたティラントーを乗せて火力を出し、ミシリエで被害が大きかったとされる船底に金属版を新たに貼り付けた。速度は遅くなるというリスクが生まれたが、その分防御力と火力は上がるだろう。

 しかし、飛空船(レビテートシップ)の強化はこれで打ち止めだ。ここから先はあの問題児の建造に全てを注ぐ。少し調整に苦労したが、爆炎系統の術式に変えた推進器は完成した。起風装置(ブローエンジン)を比べると遥かに高出力名その出来に思わずにやけてしまうが、この笑みはあのトチ狂った幻晶騎士(シルエットナイト)を屠るまで取っておくことにしよう。

 

「推進器は出来た。後は組み立てるだけだな」

 

 俺の前には信じられない物を見るような部下達が見えるが、俺だってこんなに早くヴィーヴィルを完成させるとは思わなかったよ。だが、カタリーナ様からの王命が出ているし、時間的猶予もないので俺は部下達にさっさと仕事をするように指示した。その甲斐あってかヴィーヴィルはようやくこの狭い工房から大空へ飛翔する。

 そして、十分な試験を行った末にヴィーヴィルは戦線に投入されることになった。だが、ヴィーヴィルと共に1機の異形な幻晶騎士(シルエットナイト)──アルの乗機もいつの間にか構成にねじ込まれていた。

 

 空高く舞うヴィーヴィルとそれに付き従う子竜を見ながら俺は似合わない神頼みをする。叶うならば例え鬼神を倒せなくても良い。願わくば……俺から同士を奪わないでくれ。




二次主人公が女の子だった場合
 最初は男女で悩んでいたのですが、既に女の子の作品が多かったので男の子に変わりました。見た目的にアル君は男の娘になっちゃいましたが、モーマンタイ。
 設定的にはロボには関わらずに計算が出来るので騎士団入りする設定となっていました。
 ただ、それを行うとせっかくのナイツマ成分であるロボが無いのも話を膨らませにくいと感じてボツとなりました。後、ディーさんヒーローにすると主人公成分が多すぎて・・・ね?
 アイリスちゃんのモデルとしては某艦隊をこれくしょんするゲームの『He○ena』を金髪にした感じですね。エル君の身長を吸ったのか、身長も高めです。
 "鉄拳"だし・・・ゴリr(ここから先は血で見えない

オラシオルートに行っていた場合
 こちらは一風代わってウェスタン・グランドストームでは敵だったオラシオ・コジャーソの弟として転生した場合ですね。レビテートシップキチのオラシオと共に居たせいか、ロボキチ成分が少しだけ抜けています。
 ですが、灰色の少年時代をすごしたせいなのか、はたまたオラシオに懐いているのか少しだけ言動が幼いです。オラシオも昔からこの同士に支えられていたのか、少しだけ狂気が薄れている感じです。
 モデルはオラシオを7:3分けにした感じ。乗機はペーネ○ペーのようなどこか怪獣みたいなイメージの大型な機体と考えていました。

 こちらをボツとした理由として、オラシオ今後出るのかなぁと思い、捕まるべきかなぁ?でも、上手いこと銀鳳騎士団入りするかなぁ?と疑問に思ったからです。
 いくら同郷でも流石にすぐに銀鳳騎士団入りは出来ないですし、最悪殺されると思ったのでボツとなりました。
 まぁ、そう思ったら再度出たよ! ハ○ウェイも公開するよ! ってことでちょっと惜しいと思った設定でした。

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