高等部の面々が
「さて、初回はどうなるかなっと」
軽い工作が上手くいったことにわずかな達成感を覚えたアルはそのまま意識を集中させる。
最初に行うのは『眼球水晶に写った景色を
教科書にも載っている当たり前の実験だが、
「眼球水晶はここ……続いて出力の仕方を変えて……転写っ!」
アルの掛け声と共に魔力と
……出力する映像のサイズが大き過ぎて
「ぶっふぉww」
突然のことにアルが思わず吹き出すと、その声を聞きつけて周囲の騎士科の人が集まってくる。
すると当然
「エドガー先輩ww半分ww」
「腹いてぇww」
「どうしたんだ皆」
さらに自分の名前を聞きつけた当の本人もアルの方に向かってくる。エドガーが
「お前達、随分楽しそうだな」
その後、アル達は無茶苦茶怒られた。が、『実験してただけ』と開き直ったアルは頭を下げながら
当然、
「さって、次の検証に移りますか」
次にアルが行うのは、景色を出力した
これはデジタルで絵を書く場合に用いる『レイヤー』という機能を参考にしたもので、簡単に言えば
先ほどと同じようにアルは
それは大きな○印だった。周囲も黒く、先ほどの景色がまったくといっていいほど映ってないことにアルは原因を探る。
「透過してないんだな。たしか景色の出力のページに透過度を下げるのがあったような……」
教科書をパラパラとめくりながら
今度は
──修正──修正──修正
先ほどまで上手くいかなかった部分が潰れ、また別の部分が失敗することの繰り返し。
(ああ、懐かしいなぁ)
プログラマーは調査と検証が主な仕事と
何度やっても次に進まない問題に増える課題、そして過ぎていく時間に段々アルのストレスが溜まっていく。
そんな誰も近づかないような雰囲気を醸し出しているアルの後ろからアディが近づいてくる。
「アル君、もう終わろ?」
「…………」
周囲がハンドサインのようなもので何度も『そこから避難しろ』と警告してくるが、アディは続けてアルに呼びかける。
「もう日が暮れるからもう帰ろ?」
「…………」
それでもアルは検証を続ける。
無視しているのではない。彼は自分の世界に入ってしまっているのだ。
(少しでも進めないと)
アルの胸中ではそんな焦りに似た気持ちで満たされていた。
今日苦労して明日を楽にするためにアルは必死で
「あーるくん、お返事は?」
「……あ、アディ。居たんですね」
「ひっどーい!」
ここまでやってようやくアルがアディに反応を返しながら帰り支度を始める。
だが、兄であるエルネスティただ1人がアルの様子──特に彼の顔を注意深く観察して不機嫌そうに顔をしかめていた。
***
その日の夜、夕食を早めに済ませたアルは片付けもそこそこに自室で報告書を書き上げていた。
「ふぅ、これで良し」
インクを乾かした紙を机のサイドチェストに納める。そこには既に報告書の束がみっちり詰まっており、アルはそれを見ながら送り時をどうするか思案していた。
だが、これからのことを思い出すとアルはアガートラームを手に取るとあぐらを組んで床に座る。
「少しでも先に進めないと……」
「アルー、あーそびましょー」
そんな時、愉快そうな声でエルが入室してくる。
手には紙とペンが握られており、恐らく恒例のエチェバルリア会議という名の『ぼくのかんがえたロボットのネタだし』をしたいのだろう。
だがアルは暗い表情のままエルを睨む。
「何いってるんですか。早く画面に記号転写させないと今後の作業に遅れが出るんですから邪魔しないでください」
アルの言葉に『やっぱり』と小さくこぼしたエルはアルが書いていた紙をひったくってびりびりに破り捨てる。
それをみたアルは自分の努力の結晶が無惨に捨てられ怒りに震えるが、エルはさらに口を開いた。
「アル、今日僕が頼んだのは『既に記号を転写する実験があるか聞いて来ること』です。それがなんで景色と記号を出力する話になってるんですか?」
「ですが! 結果も調査も早い方が……」
突然の説教にアルはしどろもどろに答える。そんな返答にエルは手を頭に当てて呆れる。
もちろんアルが言っていることは半分は合っている。開発をする上で大事なのは『出来た』という結果に早く辿り着くことだ。
その為にプログラマーなどをたくさん雇ったり、スキルのある人物を上に添えてコミュニケーションを密にするなど様々な対策を企業は行っている。
だが、エルは首を横に振ってアルの意見を否定する。
「アル、事故死の次は過労死でこの世を去りたいのですか?」
エルはアルの姿を改めて見る。表情が曇り、生気のない目をこちらに向けている。まさに前世のプログラマーといった風貌だった。
エルはこのような目をしている同僚を何度も見てきた。いや、自分もその1人だった。
そして、それらが行き着く先の一部は……過労死だった。
「過労死とか大げさですよ」
「大げさじゃないよ。それに鞍馬、君がいつもやってた『明日楽するために苦労する』って作業。次の日楽してたり早く帰ってる所見たことないよ」
急に口調を変えたエルがアルを諭す。思い出すのは終電間近まで残って明日やる予定のものを『楽をするため』と疲弊した顔で片付けた次の日、同じことを言いながら終電間近まで残ってやる新人時代の後輩の姿だった。
倉田と組んだ時にはそんな悪癖は無くなったが、やはり三つ子の魂は百までと言ったことわざがあるとおり、癖というものは中々抜けないのだろうと今日の広場での一件を思い出したエルは呆れる。
「アル。あなたがやってくれている仕事はとても助かってます。だけどそこまでして頑張らなくてもいいんです。アルが居なくなるのは……嫌です」
「兄さん……」
「ということで遊びましょう! 実は先ほど考えてたことがあるんですよ!」
良い話? そんな物はとうに消えうせた。一瞬で空気が反転した自室でエルが紙を広げて猛烈な勢いで何かを書き込む。
それに釣られてアルも先ほどまでの鬱蒼とした表情を何処かへ放り投げてエルとの遊びに興じていった。
「兄さん、こう……エアバレットの圧力で物理弾の速度上げていくムカデ砲とかどうです?」
「ふふふ、やりますね。じゃあこっちは魔法を投射せずに維持しながら振るう剣とかどうです?」
「魔力ドカ食いしそうですね!」
ノリノリで自分の妄想武器を披露していく2人。そんな彼らもやがて眠気が限界に来たのか書いていた紙をサイドチェストに適当に突っ込むとベッドに潜り込むとそのまま寝息を立て始めた。
***
「むぅ、上手くいかないなぁ」
アルが暗黒面に落ちかけて2日、今日も
エドガー達も既に
「はい、アル君今日はここまでです!」
アルがもうちょっとやろうと意識を集中させていた時、ドクターストップならぬアディストップがかかる。
それを聞いたアルは一昨日と違い、快く返事すると帰り支度を始める。
部材の片付けは待機していたディートリヒがさっさと持って行き、カバンを持ち直したアルはアディと共にエル達が待っている校門へ歩を進める。
ノルマという呪縛から解き放たれたアル。
作業をアディによって時間きっかりに終わらせ、その後は友人と遊びに行く。夜には兄と今日行った試験結果を伝え、次の日の検証に繋げる会話をして床に就く。
変わったことはその程度のことだが、一昨日のなにやら危うい雰囲気を出していた頃よりも血色が良くなったことにエルはひとまず安堵した。
そしてそんな生活を続けて早3日、例の暗黒面から5日たった頃、ようやく景色の真ん中に小さい○印を出力することに成功したアルの元に、2つの朗報が届く。
1つは検証が完了した出力の
これにはアルも飛び上がったが、次の嬉しい出来事をエルから聞いた時、アルはあらん限りの魔力を使ってバトソンの下へ吹き飛んでいった。
「バトっさん! ついに完成したって本当ですか!」
広場の一角に布をかけられたなにかが鎮座している。アルが地面を削りながら来た事に少し驚いたが、長年の経験から軽く流したバトソンは片腕を上げながら答える。
「おう! 注文どおり前面装甲の隙間もしっかり空けて展開式の兜もつけておいたぜ」
バトソンが勢い良く布を取り去ると、そこには白く塗装された1体の
アルが早速
「うんうん、ちゃんと注文どおりのフルフェイスですね」
本来は顔面を露出している兜なのだが、アルはバトソンに頼み込んで顔全体を金属で保護し、目の部分を
さらにこのヘルメットだが、騎士が使うようなものではなく、どちらかというと蛙のような見た目をしている。だが、そのカエルの目のように上に盛り上がっている部分にもアルの提案したとある機構が組み込まれている。
バトソンに先導され
「じゃ、魔力ランプ起動!」
アルはヘルメットに魔力を流すと盛り上がった部分に仕込まれた魔力ランプが動き出し、工房内を明るくする。
強力な照明ではないが、暗闇の探索や警戒に使えそうなことを確認したアルは満足げに頷いた。
「流石バトっさん。良い仕事です」
「喜んでもらえて良かったよ。ところでそいつって名前なんかあるのか?」
「んー、カエルだからサ○ージ? ゲコ○? 蛙と言ったら鐘は鳴る……晩鐘は汝の名を指し示した……アズライール」
どんどん変な名前が聞こえてくるのでバトソンは急いでアルをとめる。
結局、エルに任せようという話になり、無事にエルと合流したアルはそのままキッド達と遊びという名の訓練にやっと参加する事ができた。
その後、やっと自分の機体を手に入れることが出来たアルが何度も訓練と模擬戦のおねだりをした結果、エル達も帰るのが遅くなりセレスティナに怒られる。
しかし怒られてもアルの顔は終始笑顔だったので、エルはアルのことを少し不気味に思ってしまったがなんとか心の奥底に仕舞いこんだ。