銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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23話

高等部の面々が魔導演算機(マギウスエンジン)のおかげで動かしやすくなった幻晶甲冑(シルエットギア)に浮かれながら、操縦する順番を決めていたり、後片付けの担当を話し合っている最中、アルは魔導演算機(マギウスエンジン)の他に持ってきた『眼球水晶と幻像投影機(ホロモニター)の断片』という2つの部材を銀線神経(シルバーナーヴ)で繋ぎ、さらにそれらを右腕に装着したアガートラームに巻きつける。

 

「さて、初回はどうなるかなっと」

 

軽い工作が上手くいったことにわずかな達成感を覚えたアルはそのまま意識を集中させる。

最初に行うのは『眼球水晶に写った景色を幻像投影機(ホロモニター)に出力する』ことである。

教科書にも載っている当たり前の実験だが、魔導演算機(マギウスエンジン)に関しては門外漢なアルはまずはそこから試していこうと決めていた。

 

「眼球水晶はここ……続いて出力の仕方を変えて……転写っ!」

 

アルの掛け声と共に魔力と魔法術式(スクリプト)が眼球水晶等の部材と銀線神経(シルバーナーヴ)に駆け回り、幻像投影機(ホロモニター)に眼球水晶から出力された景色──エドガーが幻晶甲冑(シルエットギア)を装着している姿が映し出され、初回の実験は成功した。

……出力する映像のサイズが大き過ぎて幻像投影機(ホロモニター)にエドガーが綺麗に半分割になって映っていることを除けば。

 

「ぶっふぉww」

 

突然のことにアルが思わず吹き出すと、その声を聞きつけて周囲の騎士科の人が集まってくる。

すると当然幻像投影機(ホロモニター)にも目が入るわけで。

 

「エドガー先輩ww半分ww」

 

「腹いてぇww」

 

「どうしたんだ皆」

 

さらに自分の名前を聞きつけた当の本人もアルの方に向かってくる。エドガーが幻像投影機(ホロモニター)を見ると自分が先ほど立っていた場所が半分だけ出力されている光景が目に映り、それを見たと思われる全員が笑っているこの状況にエドガーはなんとなく察しが付いて段々と笑みを深くする。

 

「お前達、随分楽しそうだな」

 

その後、アル達は無茶苦茶怒られた。が、『実験してただけ』と開き直ったアルは頭を下げながら魔法術式(スクリプト)を組んでは出力位置の調整やサイズの調整を行い、エドガーのお説教が終わる頃には完全な形で眼球水晶の景色を幻像投影機(ホロモニター)に出力する事が出来た。

 

当然、魔法術式(スクリプト)を送るたびに幻像投影機(ホロモニター)がちょこちょこ動いていたのでエドガーにはもろバレだった。2度目の雷がアルに直撃したことは言うまでもない。

 

「さって、次の検証に移りますか」

 

雷が落ちた痕(タンコブ)をさすりながらアルは、先ほどの結果を紙に書く傍らで新しい魔法術式(スクリプト)を頭で描く。

 

次にアルが行うのは、景色を出力した幻像投影機(ホロモニター)に○印を上から転写する検証である。

これはデジタルで絵を書く場合に用いる『レイヤー』という機能を参考にしたもので、簡単に言えば幻像投影機(ホロモニター)に出力された景色の前に○印以外は全て透明な板を置くようなイメージで景色と○印を同時に転写させる検証である。

 

先ほどと同じようにアルは幻像投影機(ホロモニター)になにかが出力される。

それは大きな○印だった。周囲も黒く、先ほどの景色がまったくといっていいほど映ってないことにアルは原因を探る。

 

「透過してないんだな。たしか景色の出力のページに透過度を下げるのがあったような……」

 

教科書をパラパラとめくりながら魔法術式(スクリプト)を修正して再度動かす。

今度は幻像投影機(ホロモニター)の端に景色が映ったが、○印が大きいままなので再度修正する。

 

──修正──修正──修正

 

先ほどまで上手くいかなかった部分が潰れ、また別の部分が失敗することの繰り返し。

 

(ああ、懐かしいなぁ)

 

プログラマーは調査と検証が主な仕事と倉田(エル)が言っていたのはいつのことだったか。そんな懐かしい記憶と共に検証は進んでいくが、こなした量に対して成果は芳しくなかった。

何度やっても次に進まない問題に増える課題、そして過ぎていく時間に段々アルのストレスが溜まっていく。

 

そんな誰も近づかないような雰囲気を醸し出しているアルの後ろからアディが近づいてくる。

 

「アル君、もう終わろ?」

 

「…………」

 

周囲がハンドサインのようなもので何度も『そこから避難しろ』と警告してくるが、アディは続けてアルに呼びかける。

 

「もう日が暮れるからもう帰ろ?」

 

「…………」

 

それでもアルは検証を続ける。

無視しているのではない。彼は自分の世界に入ってしまっているのだ。

 

(少しでも進めないと)

 

アルの胸中ではそんな焦りに似た気持ちで満たされていた。

今日苦労して明日を楽にするためにアルは必死で魔法術式(スクリプト)を紡ぐが、突然アルの視界が暗闇に染まった。

 

「あーるくん、お返事は?」

 

「……あ、アディ。居たんですね」

 

「ひっどーい!」

 

ここまでやってようやくアルがアディに反応を返しながら帰り支度を始める。

だが、兄であるエルネスティただ1人がアルの様子──特に彼の顔を注意深く観察して不機嫌そうに顔をしかめていた。

 

 

***

 

その日の夜、夕食を早めに済ませたアルは片付けもそこそこに自室で報告書を書き上げていた。

 

「ふぅ、これで良し」

 

インクを乾かした紙を机のサイドチェストに納める。そこには既に報告書の束がみっちり詰まっており、アルはそれを見ながら送り時をどうするか思案していた。

だが、これからのことを思い出すとアルはアガートラームを手に取るとあぐらを組んで床に座る。

 

「少しでも先に進めないと……」

 

魔法術式(スクリプト)を組みながら紙に書く。アルの表情は家族と居た時と打って変わって暗いものになっていく。

 

「アルー、あーそびましょー」

 

そんな時、愉快そうな声でエルが入室してくる。

手には紙とペンが握られており、恐らく恒例のエチェバルリア会議という名の『ぼくのかんがえたロボットのネタだし』をしたいのだろう。

だがアルは暗い表情のままエルを睨む。

 

「何いってるんですか。早く画面に記号転写させないと今後の作業に遅れが出るんですから邪魔しないでください」

 

アルの言葉に『やっぱり』と小さくこぼしたエルはアルが書いていた紙をひったくってびりびりに破り捨てる。

それをみたアルは自分の努力の結晶が無惨に捨てられ怒りに震えるが、エルはさらに口を開いた。

 

「アル、今日僕が頼んだのは『既に記号を転写する実験があるか聞いて来ること』です。それがなんで景色と記号を出力する話になってるんですか?」

 

「ですが! 結果も調査も早い方が……」

 

突然の説教にアルはしどろもどろに答える。そんな返答にエルは手を頭に当てて呆れる。

もちろんアルが言っていることは半分は合っている。開発をする上で大事なのは『出来た』という結果に早く辿り着くことだ。

その為にプログラマーなどをたくさん雇ったり、スキルのある人物を上に添えてコミュニケーションを密にするなど様々な対策を企業は行っている。

 

だが、エルは首を横に振ってアルの意見を否定する。

 

「アル、事故死の次は過労死でこの世を去りたいのですか?」

 

エルはアルの姿を改めて見る。表情が曇り、生気のない目をこちらに向けている。まさに前世のプログラマーといった風貌だった。

エルはこのような目をしている同僚を何度も見てきた。いや、自分もその1人だった。

そして、それらが行き着く先の一部は……過労死だった。

 

「過労死とか大げさですよ」

 

「大げさじゃないよ。それに鞍馬、君がいつもやってた『明日楽するために苦労する』って作業。次の日楽してたり早く帰ってる所見たことないよ」

 

急に口調を変えたエルがアルを諭す。思い出すのは終電間近まで残って明日やる予定のものを『楽をするため』と疲弊した顔で片付けた次の日、同じことを言いながら終電間近まで残ってやる新人時代の後輩の姿だった。

倉田と組んだ時にはそんな悪癖は無くなったが、やはり三つ子の魂は百までと言ったことわざがあるとおり、癖というものは中々抜けないのだろうと今日の広場での一件を思い出したエルは呆れる。

 

「アル。あなたがやってくれている仕事はとても助かってます。だけどそこまでして頑張らなくてもいいんです。アルが居なくなるのは……嫌です」

 

「兄さん……」

 

「ということで遊びましょう! 実は先ほど考えてたことがあるんですよ!」

 

良い話? そんな物はとうに消えうせた。一瞬で空気が反転した自室でエルが紙を広げて猛烈な勢いで何かを書き込む。

それに釣られてアルも先ほどまでの鬱蒼とした表情を何処かへ放り投げてエルとの遊びに興じていった。

 

「兄さん、こう……エアバレットの圧力で物理弾の速度上げていくムカデ砲とかどうです?」

 

「ふふふ、やりますね。じゃあこっちは魔法を投射せずに維持しながら振るう剣とかどうです?」

 

「魔力ドカ食いしそうですね!」

 

ノリノリで自分の妄想武器を披露していく2人。そんな彼らもやがて眠気が限界に来たのか書いていた紙をサイドチェストに適当に突っ込むとベッドに潜り込むとそのまま寝息を立て始めた。

 

 

***

 

「むぅ、上手くいかないなぁ」

 

アルが暗黒面に落ちかけて2日、今日も幻晶甲冑(シルエットギア)の講習を行っている片手間で検証を行うが、状況は芳しくない。

エドガー達も既に幻晶甲冑(シルエットギア)や持ってきた魔導演算機(マギウスエンジン)を片付け始めていた。

 

「はい、アル君今日はここまでです!」

 

アルがもうちょっとやろうと意識を集中させていた時、ドクターストップならぬアディストップがかかる。

それを聞いたアルは一昨日と違い、快く返事すると帰り支度を始める。

部材の片付けは待機していたディートリヒがさっさと持って行き、カバンを持ち直したアルはアディと共にエル達が待っている校門へ歩を進める。

 

ノルマという呪縛から解き放たれたアル。

作業をアディによって時間きっかりに終わらせ、その後は友人と遊びに行く。夜には兄と今日行った試験結果を伝え、次の日の検証に繋げる会話をして床に就く。

変わったことはその程度のことだが、一昨日のなにやら危うい雰囲気を出していた頃よりも血色が良くなったことにエルはひとまず安堵した。

 

そしてそんな生活を続けて早3日、例の暗黒面から5日たった頃、ようやく景色の真ん中に小さい○印を出力することに成功したアルの元に、2つの朗報が届く。

 

1つは検証が完了した出力の魔法術式(スクリプト)を騎士科が保有している予備の幻晶騎士(シルエットナイト)にぶちこんで本当に異常がないかの調査とさらにそこから○印──照準を動かす魔法術式(スクリプト)をエルと一緒に幻晶騎士(シルエットナイト)に乗りながら行う許可を取ったこと。

これにはアルも飛び上がったが、次の嬉しい出来事をエルから聞いた時、アルはあらん限りの魔力を使ってバトソンの下へ吹き飛んでいった。

 

「バトっさん! ついに完成したって本当ですか!」

 

広場の一角に布をかけられたなにかが鎮座している。アルが地面を削りながら来た事に少し驚いたが、長年の経験から軽く流したバトソンは片腕を上げながら答える。

 

「おう! 注文どおり前面装甲の隙間もしっかり空けて展開式の兜もつけておいたぜ」

 

バトソンが勢い良く布を取り去ると、そこには白く塗装された1体の幻晶甲冑(シルエットギア)が前面装甲を開いて搭乗者を待っていた。

アルが早速幻晶甲冑(シルエットギア)に身体を固定して前面装甲を閉めると、それに連動して上からフルフェイスヘルメットのような兜が降りてきてアルの顔にすぽりとはまる。

 

「うんうん、ちゃんと注文どおりのフルフェイスですね」

 

本来は顔面を露出している兜なのだが、アルはバトソンに頼み込んで顔全体を金属で保護し、目の部分を面覆い(バイザー)で覆ったフルフェイス型にしてもらったのである。

さらにこのヘルメットだが、騎士が使うようなものではなく、どちらかというと蛙のような見た目をしている。だが、そのカエルの目のように上に盛り上がっている部分にもアルの提案したとある機構が組み込まれている。

 

バトソンに先導され幻晶甲冑(シルエットギア)に乗ったアルは、小型の工房に案内される。普段は幻晶甲冑(シルエットギア)作りで活気溢れる場所だが、今回は先ほど言った昨日のテストのために少し照明を落としてもらっている。

 

「じゃ、魔力ランプ起動!」

 

アルはヘルメットに魔力を流すと盛り上がった部分に仕込まれた魔力ランプが動き出し、工房内を明るくする。

強力な照明ではないが、暗闇の探索や警戒に使えそうなことを確認したアルは満足げに頷いた。

 

「流石バトっさん。良い仕事です」

 

「喜んでもらえて良かったよ。ところでそいつって名前なんかあるのか?」

 

「んー、カエルだからサ○ージ? ゲコ○? 蛙と言ったら鐘は鳴る……晩鐘は汝の名を指し示した……アズライール」

 

どんどん変な名前が聞こえてくるのでバトソンは急いでアルをとめる。

結局、エルに任せようという話になり、無事にエルと合流したアルはそのままキッド達と遊びという名の訓練にやっと参加する事ができた。

 

その後、やっと自分の機体を手に入れることが出来たアルが何度も訓練と模擬戦のおねだりをした結果、エル達も帰るのが遅くなりセレスティナに怒られる。

しかし怒られてもアルの顔は終始笑顔だったので、エルはアルのことを少し不気味に思ってしまったがなんとか心の奥底に仕舞いこんだ。

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