銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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25話

昼間のライヒアラ学園街、広場や道は昼食を買いに外に出る人で賑わっている。

 

「~♪」

 

自宅の窓からその光景を見ながらアルは数枚の紙に小さな板と筒のような物を線で繋いでいるイラストを書き込んでいた。

 

「この前の耐久試験の結果から全部のシルエットギアをフルフェイスにするみたいですし、成果はありましたね」

 

上機嫌でイラストを書き終えたアルはベッドに横になる。

耐久試験と称した兄弟喧嘩の事故から4日。既に魔法の暴発による身体の痛みは引き、本来ならとっくにアルは学園で授業を受けているはずだった。

 

「いやー、見事に失敗しましたねぇ」

 

どこか他人事のように呟くアル。彼の目は現在真っ赤に充血しており、じんわりとした熱と痛みを彼の脳に送り込んでいる。

別にアルは中学生特有の病気を発症したわけでも爆発系魔法に信仰を覚えたわけでもない。

 

彼がこうなったのは自宅療養があまりにも暇だったため、突発的に思いついた『眼球水晶でのズーム機能』をつい自分で試してしまい、見事に『イイッ↑タイ↓メガァァァ↑』と失敗してしまったからである。

その結果、引き続きアルは目が治るまでベッドの住人になっている。

 

「んー、暇ですねぇ」

 

アルは指を折りながらやったことを数えながら自身の学び舎であるライヒアラ騎操士学園を見つめる。

今頃は兄であるエルネスティがあそこで暇な授業でも受けているのだろうか。

 

「ま、いっか。……寝よ寝よ」

 

暇な時間を浪費するのもあれなので、アルは『寝る子は育つ』と自身に言い聞かせながらベッドに潜り込むと数秒で夢の世界に旅立った。

 

***

 

 

「エルネスティ、アルフォンスの様子はどうだ?」

 

昼休みが終了するとエルは勝手知ったる工房に潜り込み、そこに居たエドガーと話し込んでいた。当然今は授業中だが、エチェバルリア兄弟に毒されつつあるエドガーは『いつもの自主学習中か』と勝手に納得して会話を続行する。

 

「本当なら昨日あたりにでも復帰できたんですが…昨日ちょっと実験に失敗したので多分もうちょっと療養期間が延びますね」

 

「何をしたんだあいつは……」

 

呆れたエドガーにエルは事の顛末を話す。

幻晶騎士(シルエットナイト)を運用する魔法術式(スクリプト)は身体強化の魔法術式(スクリプト)に良く似ている。なので幻晶甲冑(シルエットギア)で使用した魔法術式(スクリプト)のようにたまに身体強化として転用が可能な部分が存在する。

 

アルは過去に行った目を強化する身体強化の魔法術式(スクリプト)をさらに強力にして『目の機能を一時的に数倍に上げることによってズームが出来るのではないか』という結構危ない発想に至った。

まぁその代償は高く、医者でもない者が目なんて繊細な器官に過剰な強化を行ったので、現在アルは眼精疲労や充血といった症状に襲われている。

そもそも普通の強化でもたまに痛んでいたから封印していたはずなのだが、長く使用しなかったせいで封印理由をポカンと忘れてしまうあたり、アルの残念具合が伺える。

 

「何故いきなり自分を使って人体実験なんてことになったんだあいつは」

 

「本人は『ヤバイと思ったが、知的探究心を抑えられなかった』って言ってましたね。まったく、あの子は僕と違って一旦火が着くと止まりにくいんですよね。困ったものです」

 

その時、エルの言葉を近くで聞いていた者は全員『お前もな』というツッコミを心の中でするが、エルには当然届かない。

 

「で……だ。そのズームとかいうのはなんだ?」

 

「双眼鏡のような機能ですね。まだ草案もまとめてないので説明できませんが出来たら話しますよ」

 

そんな適当なことを言いながらエルは持って来たトランクから紙束を取り出す。

紙には表が描かれており、素人目になにに使うのかエドガーには見当もつかなかった。

 

「エル。それはなにに使うんだ?」

 

その声に反応したエルは、紙に本日の日付と自分の名前を書き込みながら答える。

 

「これは昨日アルと一緒に作ったテストを行うための紙です。この前のスクリプトをいきなりトランドオーケスに積むのはやっぱり怖いですからね。念のために異常がないか最後の確認ぐらいしないと」

 

それを聞いてエドガーは怪我人のアルまで引っ張り出したエルの行動に引くが、エルが『むしろノリノリで乱入してきました』と話すと『お前達兄弟はおかしい』とげんなりした様子で自分の訓練に戻っていった。

 

***

 

「ケース1……OK。ケース2もOK。……ケース3は前提条件が違うので実施せず……っと」

 

幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦席でエルは何かの操作をしつつ、紙に○や×などの記号をつけていく。

彼の眼前にある幻像投影機(ホロモニター)には照準が出力され、縦横無尽に動き回っている。そんな動きを見ながらエルは紙に書かれた項目の横に○や×といった記号を書き加えていく。

 

ペラリ─ペラリ─

 

エルが紙束をめくる音が操縦席を支配し、エルの作業が順調であることがうかがえる。

そしてエルがテストを開始して1時間、エルが持っていた紙束のすべての項目に記号が書かれ、どの項目に異常があるのか丸分かりの状態になった。

 

「さて、修正しないと」

 

ここからさらにエルが作業を開始する。異常があった部分を確認し、修正していくのだ。

 

「あー、ここが間違えてるんですね。修正してっと……これじゃアルのことも笑えませんね」

 

自分でも驚くほどの初歩的な間違いにエルは思わず吹き出す。思い出されるのは兄弟喧嘩の折に自分に追いつこうと様々な手段を用い、最終的に自滅してしまった愚弟の姿。

 

(思えばあの魔法って分類的にはハイスペルになるんですかね?)

 

幼少の頃にプライ○アーマーの魔法術式(スクリプト)を見せてもらった記憶があるが、なにぶん子供の頃なのであまり詳しくは覚えていない。エルは記憶の片隅の中から大気圧壁(ハイプレッシャーウォール)というハイスペルの魔法を元ネタにしているという情報を掘り返してくるが、それを飛ばすとなるとやはりハイスペルということになるので、たとえあの攻撃が成功してもアルの反則負けは確定していた。

 

「あの子は本当に……仕方がないですね」

 

前世では自分の初の弟子であり、信頼における部下でもある同好の士。現在は弟子でも部下でもなくなったが、弟にクラスチェンジした同好の士にエルは嬉しそうに文句を言った。

 

そうしている間にも作業は進み、もう1回最初からテストをしなおして異常があった部分と正常だった部分が全て『異常なし』という判定をエルが下していると、圧縮空気が抜ける音と共に外部からの操作で胸部装甲が開かれる。

 

「エルくーん、もうすぐ暗くなるからかえろー」

 

「はーい」

 

外からエルのことを覗いて来る大鎧(アディ)に促され、エルは紙束を持って外に出て行く。

幻晶騎士(シルエットナイト)から降りたエルは、真っ先に紙束を持ってダーヴィドの所まで足を運んだ。

 

「おう、銀色坊主。例の何とかテストとやらはどうだった?」

 

「単体テストですね。異常もあったんですが全て直しました。そちらはどうですか?」

 

「おう! ちぃっと苦戦したがなんとかな。ちょっと見t「見ます!」ウォッ!? ちょ、待て! 坊主はええ!」

 

ダーヴィドの発現を食い気味で答えたエルは、そのまま大気圧縮推進(エアロ・スラスト)を使って肝心のダーヴィドよりも先に件の幻晶騎士(シルエットナイト)である『トランドオーケス』の前に辿り着いた。

エルの目にまず飛び込んできたのはトランドオーケスの背中に取り付けられた無骨な腕である。

先端には万力のような物が取り付けられており、そこにシルエットアームズの杖の部分を挟み込んで保持することが伺える。

すると、エルの声を聞きつけたのかトランドオーケスの胸部装甲が開き、中からヘルヴィが顔を覗かせる。

 

「あ、エル君。ちょうど良いところに来たわね。操縦席も変わってるから見て「見ます!」あ、はい」

 

ヘルヴィの言葉にエルはまたもや食い気味に発言し、大気圧縮推進(エアロ・スラスト)で一気に操縦席まで駆け上がる。

操縦席から外に出たヘルヴィと入れ替わる形で操縦席に収まったエルは辺りを見渡す。

何も変化がなさそうな操縦席のレイアウトだが、エルの鋭敏なロボセンサーは操縦桿が怪しいと激しく喚く。

 

「おぉ……操縦桿にボタンがつけられてる」

 

操縦桿には新しくボタンが増設されていた。恐らくこれで法撃を行うのだろうと察したエルのテンションという名の鯉は龍門を超え、やがて龍へと変じて天まで上る。

 

「よし! 早速続きを「はい、おしまーい!」」

 

エルがなにやら作業をしようとした矢先に幻晶甲冑(シルエットギア)の頭部がエルの視界を占領する。

先の耐久試験からアップデートが入ることで取り替えられたフルフェイスの兜からは表情は見えないが、恐らく中身は少し立腹しているであろうアディの声色に大人しくエルはトランドオーケスから降りた。

 

「あ、クリスタルティシューの調子はどうですか?」

 

「あっちはもう少し待ってくれ。腕は出来たんだが足が上手くいかねぇんだ。なんせ、歩かせるための部位だから気難しくてな」

 

ダーヴィドの発言にエルは頷く。人間にも言えることだが、足の筋肉は腕の筋肉よりも膨大である。

なので、それを固定が外れないようにするのは並大抵の仕事ではない。

 

エルはその苦労も当然分かっている。さらにここで無理をして親方達が負傷したり倒れられた日には、『無茶をするな』と釘を刺した相手(アル)に屈伸運動付きの煽りを受けそうなので、エルはダーヴィド達に『無理しないでください』と軽く念押しをして幼馴染達と帰宅準備に入った。

 

***

 

「……で、なんですかこれは」

 

自室に戻ってきたエルの目には床に腰を落ち着けて2つの紙の塔をこさえているアルの姿だった。

 

「いえ、報告書が溜まってきたのでダンシャリというか……選別しようと思いまして」

 

帰ってきたエルの姿を見たアルは手元の紙を片方の紙の塔の上に置きながら答える。

エルは選別中の束から1枚手にとってまじまじと見る。そこには筒のような物と幻像投影機(ホロモニター)らしきものを線で繋いだ設計図が描かれていた。

 

「これ、僕見たことないんですが。僕が居ない間にどれだけ書いたんですか」

 

「えーっと、ここからここまで書きました」

 

アルは5cmはあるだろう選別中の束から一気に半分ぐらい抜き取った。

その量を見た時、『こいつは暇な時間を与えたらなにするかわからない』と何処かの公爵と侯爵が聞いたら『お前もだよ!』とキレられそうなことを思いながらエルは抜き取った紙を改めて検分する。

 

「へー、望遠鏡の後ろに眼球水晶をつける形にしたんですね」

 

「ええ、スクリプトで出来ないのならローカルな物にしてみようと思いまして」

 

アルは未だに赤い目を閉じながら答える。ズーム機能を諦め切れなかったアルは『眼球水晶を目に見立てる事』でズーム機能が出来ないか考えた。

その結果が望遠鏡をのぞいた状態にした眼球水晶を銀線神経(シルバーナーヴ)で繋いで幻像投影機(ホロモニター)で出力する方式である。ちなみに望遠鏡のつまみは手動なので、実際に組み込む場合はそこらへんもネックになるだろうとアルは説明する。

 

「これはアルにぴったりの装備ですね。えーっと……次は」

 

アルが次に見つけたのはゴテゴテした気球と幻像投影機(ホロモニター)らしき板を線で繋いでいるイラストだった。板の前には人間が座っていることを考えると幻晶騎士(シルエットナイト)の装備だろうかとエルは疑問に思う。

 

「ああ、それはベヘモスの時に兄さんが僕をリコン代わりにしたことを思い出したので書いてみたんです」

 

エルの視線に気付いたアルが装備の詳細を説明する。

何でも先ほどの望遠鏡付きの眼球水晶を上下左右に動かせるようにした機構と気球を合体させることで空中から魔獣の動向や各小隊の位置をモニターするような代物らしい。

気球の火も魔力ランプのように紋章術式(エンブレム・グラフ)を使うことで上下の動きを可能にし、銀線神経(シルバーナーヴ)を繋いでいるのでどこかに行く心配はない。欠点として風に流されることや安定した視点の確保は絶望的というものが挙げられるが、小隊同士の連携や魔獣の早期発見には役に立つだろう。

 

「セラーティ侯爵には報告の時にかなり迷惑をおかけしたのでこれをお詫び代わりにしようかと……ほら、セラーティ領ってボキューズに隣接してるので魔獣の発見とか部隊の連携とか大事ですし」

 

しどろもどろに話すアルに少しため息をついたエルはそれらの設計図をアルに手渡す。

 

「そこらへんはアルに任せます。それより、テストは終わったのでいよいよトランドオーケスへの実装に入ります」

 

「はい、明日には治ると思うので実装の補助は任せてください」

 

宣言された言葉に居住まいを正したアルが力強く返事をする。その返事ににっこりとエルが笑うとさらに何かを言おうと口を開く。

 

「後、僕がバトソンに頼んだシルエットギアの装備もそろそろ出来上がるので明日以降はそれのテストにかかりきりになると思います。ストランドタイプの配置も残りは脚部のみになったので完成は目前です。全てが出来上がった時に行うテストはアルが担当してください」

 

「承知しました」

 

「さ、明日は朝の礼儀作法が終わったら全てサボ、ゲフンゲフン……自主学習なので明日中に実装とテストを行いますよ」

 

少しなにかが漏れたエルはすぐに訂正すると寝るためにベッドに潜り込みやがて穏やかな寝息を立て始める。エルが寝息を立て始めて数分後、現在の作業がひと段落したアルは紙の塔を邪魔にならない部屋の隅に崩さないように注意しながら運び込む。

作業が終わるとアルは凝り固まった筋肉をほぐしながら兄に習って自分のベッドに潜り込んだ。

 

***

 

次の日、宣言どおり礼儀作法の授業以外は工房に入り浸った2人はトランドオーケスの魔導演算機(マギウスエンジン)に今まで自分達が作った魔法術式(スクリプト)を書き込み、ダーヴィドと連携しながら操縦系統の調整を行うことで火器管制システム(ファイアコントロールシステム)の根幹である『頭部と連動してサブアームと照準を動かす』機能と『ボタンを押すことでサブアームの先に固定されたシルエットアームズに魔力を流す』機能が出来上がった。

 

「じゃあ僕はシルエットギアに行きます。そちらは任せましたよ」

 

「ええ、そちらも任せました」

 

片手同士でタッチを行いながらエルは工房の外へ、アルはトランドオーケスの前へ行こうと一歩を踏み出す。

 

「はい、夕方だから帰ろうねー」

 

「アルも帰ろうなー」

 

だが時刻は既に帰宅時間を越えているので、2人はオルター兄妹に確保されて無理矢理家路に着かされた。




某ゲームで盾キャラが新たに狙撃属性が付与され、思わず叫んでしまいました。
『ぼくはわるくない』
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