銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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しかし、まずいな。興が乗っちゃったぞ。
よし、ついでに29話を上げてしまおう。


29話

黒歴史を自ら掘り起こした結果、恥ずかしさのあまり夜通し悶絶していたアルだが、次の日には元に戻っていた。

 

「魔力切れ対策に板状のクリスタルティシューねぇ」

 

「アディも中々僕のことを分かってきたみたいですよ」

 

エルは鼻歌交じりで廊下をスキップするが、逆にアルは思案顔でそれに付いて行く。おもちゃ──もとい幻晶甲冑(シルエットギア)の装備開発のために広場に向かうエルと分かれたアルがいつもの工房に着くと、ダーヴィドとの挨拶をそこそこに昨日の戦闘データを見せてくれるように頼み込んだ。

 

「それなら今はヘルヴィが見てるぞ」

 

「ありがとうございます! 行って来ます!」

 

アルはそのまま工房の一角、会議室と呼ばれる場所に足を運ぶ。そこにはヘルヴィが数枚の紙を少し残念そうな表情で見ていた。

 

「ヘルヴィ先輩。反省会しましょう」

 

「アル君……ごめんね。せっかくテストもしてくれたのに負けちゃって」

 

「いえいえ、こちらこそテスト項目が荒くてすみません。それより僕にもデータ見せてください」

 

まだ昨日の敗北を若干引き摺っているヘルヴィの謝罪にアルは両手を振りながら否定する。そのままヘルヴィから数枚の紙を受け取ったアルはとある項目を探す。

 

(動き……損傷部分……あった!)

 

アルが探していたのは『撃った法弾の数』であった。

あの模擬戦の最中、近接戦闘の途中で法撃を放つ戦法に騎操士(ナイトランナー)やマティアスが驚いていた。つまり、『一般的な幻晶騎士(シルエットナイト)の動きではない』のである。

エルの直接制御(フルコントロール)の弊害として結晶筋肉(クリスタルティシュー)の脆弱性が見つかった。今回のことも『常識外のことを行ったから見つかった問題』だとアルは推測した。

 

「ヘルヴィ先輩。法撃の回数が多いようですが、そんなにバックウェポン使いやすかったですか?」

 

「うん! 展開して狙えば撃てるもの! ……もしかして撃ち過ぎ?」

 

食い気味に肯定するヘルヴィが法撃の数を気にしているアルにおずおずと聞いてくる。確かに昨日の模擬戦でトランドオーケスは多くの法撃を放っていた。それが魔力貯蓄量(マナ・プール)を余分に食って魔力切れへの時間を早めたのだろう。

 

「そうですね。今まで先輩方が行っていた模擬戦全部は見ていませんが、昨日の法撃は撃ち過ぎだと思います」

 

アルの返事にしゅんと落ち込むヘルヴィ。それをなだめながらアルはとある事を考える。

 

「先輩。法撃ってシルエットナイトのマナ・プールから魔力送ってるんですよね?」

 

「そうよ? 基礎学でも教えてくれたでしょ?」

 

アルほどの幻晶騎士(シルエットナイト)ガチ勢なら知ってて当然のことを聞いてきて不思議に思ったヘルヴィが返答する。だが、アルは次の瞬間に爆弾をパスしてきた。

 

「じゃあシルエットナイト以外のところから魔力を送ればシルエットナイトをもっと動かせるんじゃないです?」

 

「え……。まぁ理論上はそうだけど……どうやって?」

 

「それがまだ思いつかないんですよねぇ」

 

アルは腕を組みながら考え込むが、ヘルヴィは『それが出来た場合、幻晶騎士(シルエットナイト)を用いた戦術が全てひっくり返る』という結論に至って身震いする。なにせ、燃料の心配をすることなくぶっ放せるのだ。実践なら遠距離から安全に法弾を浴びせるだけで魔獣を殲滅できるため、騎士の損耗率がかなり低くなるのは火を見るより明らかだ。

 

「ありがとうございます。ちょっとシルエットアームズの改良という線で考えてみます」

 

「無茶しないでね」

 

『あい~』と気だるい返事をしながらふらふらと会議室を出るアルに、少しの期待とまた無理をしないかという心配をごちゃ混ぜにしながらヘルヴィは手を振った。

 

***

 

 

「というわけでなにか良い案ありません?」

 

「いきなり湧いて来て何言ってるんですか」

 

広場で弩のようなものを撃っていたエルが呆れ顔で答える。周囲にはキッド、アディ、バトソンといった幼馴染ーズが勢ぞろいしていた。

 

「シルエットアームズっていったらシルエットナイトよりも拡張性がないものだよ?」

 

「魔力を通して既に刻まれている通りの魔法を放つだけですからね」

 

エルやバトソンの言うとおり、魔導兵装(シルエットアームズ)の概要は『幻晶騎士(シルエットナイト)から魔力を送り、その魔力を使って紋章術式(エンブレム・グラフ)通りの魔法を放つ』という単純な物だ。すでに簡略化の極みにある物を変えるのは生半可なことではない。

 

「シルエットアームズってようは遠距離の武器だろ? じゃあ似たようなもので参考になりそうな物を想像してみようぜ」

 

「いいわね。じゃあ弓矢はどう?」

 

「これのように弩とかもありますよ」

 

「後は投石とか?」

 

連想ゲームをキッドが提案し、各々が遠距離武器の名前を言っていく。しかし、どれもピンとこないアルは腕を組んで悩むが、突如『カキンッ』という音が鼓膜に響いた。

 

「兄さん、それってマガジン?」

 

「ええ、中に矢が入ってます」

 

エルが箱状の物を弩から取り外すと地面に置いてある新しい箱と交換する。『カキリッ』という歯車が噛み合った音と共に弩の弦が引き絞られ、矢が再び撃ち放たれた。

 

(マガジン……銃……魔法を銃弾に例えると……)

 

アルの中でピースがどんどんはまっていく。ふと、壁に立てかけてあるウィンチェスターがアルの視界に入った。

魔法を銃弾に見立て、銃を参考にエル達は銃杖(ガンライクロッド)を作った。今度は銃杖(ガンライクロッド)を参考に魔導兵装(シルエットアームズ)を作れるようにアルはさらに発想を飛躍させる。

 

「兄さん、魔力をマガジンにするって出来るんですかね?」

 

アルの一言にエルが手を止めて考え込む。数分悩んだ末にエルは目を輝かせてアルの手を握った。エルは幻晶甲冑(シルエットギア)を纏っていたため、手が痛かったがアルは何とか我慢する。

 

「行けます! さっき言った板状のクリスタルティシュー……クリスタルプレートを使えば行けます!」

 

板状結晶筋肉(クリスタルプレート)、アディの案を基にエルとダーヴィドが錬金科に掛け合って現在製作中の結晶筋肉(クリスタルティシュー)を板状にした物……らしい。ちなみに『らしい』というのは、それが決まった反省会の席にアルはおらず、ステファニアの部屋で黒歴史を放出していたので知るよしもなかったためである。

 

「あー、でもそれが出来るまで実験できませんね」

 

しゅんとするアルに、エルはそっと耳元で『火縄』という単語を呟いた。

銃と火縄。アルの脳内には戦国時代では金食い虫と言われていた武器、『火縄銃』がアウトプットされる。

 

「バトっさん、シルバーナーヴと魔力ランプ持ってきてください。アディ、ちょっとシルエットギア持ってきて下さい」

 

「お、おう」

 

「分かったー」

 

突如アルが指示をだす。それに驚いたバトソンが走って広場に増築した仮設工房に戻っていき、アディがそれに続く。しばらくすると手ぶらのバトソンと頼まれていた物を両腕で抱え込んだ幻晶甲冑(シルエットギア)が戻ってくる。

 

「アル君これでいいよね?」

 

「はい、ありがとうございます。あ、動かさずに魔力をクリスタルティシューに送り込んでもらえます?」

 

アルが持って来た物を受け取りながらアディに指示を出す。エルとキッドはその光景を興味深げに見ていた。

アルはまず銀線神経(シルバーナーヴ)を2本ほど手に取ると、1本をランプにくっつけ、もう1本をアディの幻晶甲冑(シルエットギア)の装甲を開き、中に詰まっている綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)に括りつける。

 

「なにしてるんだ?」

 

「クリスタルティシューに残っている魔力を使ってランプが光るかの実験です」

 

結晶筋肉(クリスタルティシュー)の本質は『魔力転換炉(エーテルリアクタ)などで出来た魔力の貯蓄』である。今回アルが試そうとした実験は現代風にいうと『電池に繋いだ配線と豆電球に繋いだ配線を繋いだら光るか?』という物だった。

これが光れば、『結晶筋肉(クリスタルティシュー)板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を魔力源にして紋章術式(エンブレム・グラフ)が動かせる』ということになるので、両者を繋ぐ銀線神経(シルバーナーヴ)を火縄として魔法を放てるのではないかとアルは考えた。

 

アディにこれ以上の魔力を送らないように頼み、アルは恐る恐ると銀線神経(シルバーナーヴ)同士をくっ付ける。

 

「アル、ランプ光ったぞ!」

 

キッドの声にアルがランプのほうを見ると、ランプがほのかな明かりを灯していた。慌ててアディの方を向くと、アディは『魔力流してないよー』と大声を上げる。

 

成功を確信したアルはエルの方に歩み寄ると手を上げる。

 

「兄さん、成功です」

 

「じゃあ僕はテレスターレの本体をなんとかします。アルはシルエットアームズの方をなんとかしてください」

 

頷いたエルは同じように手を上げ、お互いは上げた手をはたき合う。『パシッ』という乾いた音が広場に鳴り響いた。

 

「りょーかい!」

 

アルは笑って答え、2人はそのまま目的地に歩き始めた。

 

「お前ら、格好付けるのは良いけどちゃんと片付けろよ」

 

「「……はーい」」

 

バトソンの怒り混じりの文句に素直に従って後片付けを始める最後まで格好の付けられない兄弟にキッドとアディは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「あ、そうだ。いつまでも、『幻晶甲冑』じゃ寂しいですからジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ──」

 

「そこらへんは兄さんに任せますよ」

 

「薄情者ー!」

 

命名に突っ込んで欲しかったのか、片づけが終わるや否やさっさと歩いていってしまうアルにエルはぶーたれる。しかし、アルの頭の中には先ほどの実験で分かったこと、そして次に作るべき物の設計図を頭の中でくみ上げていた。

 

***

 

 

「……で、こっちに戻ってきたわけか」

 

「はい、工房の一角お借りしても?」

 

アルは手ぶらで工房に戻るとダーヴィドに先ほどの実験の概要と結果を話す。最初、何のことを話しているのか分からなかったダーヴィドだが、『魔導兵装(シルエットアームズ)が機体のマナを食わずに発射できるかもしれない』という一言に興味を持った。

 

「欲しいもんはなんだ?」

 

「エンブレム・グラフを刻む道具と銀板、後はディー先輩とグゥエールをお借りします」

 

「おぉーい! ディーこっち来い!」

 

その内容にダーヴィドは疑問を持たずにディートリヒを呼ぶ。すると1機の幻晶甲冑(シルエットギア)の足音と共にディートリヒがアルの側で停止した。

 

「なんだい親方。アルフォンスと一緒に秘密のおしゃべりかい?」

 

幻晶甲冑(シルエットギア)の兜を引き上げながらディートリヒが相変わらずの軽口をたたくが、ダーヴィドはニヤリと笑うと壊れすぎてもはや粗大ゴミのような有様になっているグゥエールを親指で指し示す。

 

「ああ、その秘密をお前にも共有しようと思ってな! グゥエールの件だが……」

 

「おおっ! やっと直してくれるのかい?」

 

「早とちりすんじゃねぇ! 少し銀色小僧の実験に付き合ってやれ」

 

急上昇していたディートリヒのテンションが一気に下がる。それでもなんとか了承を取り付けるとディートリヒと共に機材を持ってグゥエールの側に近づいた。

 

「で、なにをするんだい?」

 

「実は──」

 

カクカクシカジカ、シカクイムー○とディートリヒに先ほどの話を伝達するアル。話を聞くにつれ、ディートリヒの目は懐疑的なものへと変わっていった。

 

「いや……話は分かるが……どうやって? そもそも、出来るのかい?」

 

「シルエットギアのクリスタルティシューに内蔵されている魔力でランプがついたので大丈夫かと」

 

淡々と準備を続けるアルに幻晶甲冑(シルエットギア)から降りたディートリヒは観念して寝転がっているグゥエールに乗り込むと魔力転換炉(エーテルリアクタ)に火を入れる。幻晶騎士(シルエットナイト)の部材の中で一番頑強な魔力転換炉(エーテルリアクタ)は正常な呼吸音を響かせると、断絶していない銀線神経(シルバーナーヴ)を通して半ばへし折れた四肢に行き渡り、申し訳ない程度に残っている結晶筋肉(クリスタルティシュー)へと魔力を送る。

 

「これでいいのかい?」

 

「ええ、このまま数分待機してください」

 

アルはディートリヒと目を合わすことなく答える。彼はミノと槌を使って一心不乱に紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻んでいる。

やがて紋章術式(エンブレム・グラフ)が出来上がるとアルはそれに銀線神経(シルバーナーヴ)を巻きつける。そして、既に装着してあるアガートラームに魔力を込め、自身に身体強化を施すとグゥエールのまだ無事な結晶筋肉(クリスタルティシュー)を一部分だけ引きちぎった。

 

「ちょっ、おまっ! 何してるんだ!」

 

「エーテルリアクタと完全に分離したものじゃないと意味ないじゃないですか」

 

『親方が綺麗に直してくれますよ』と他人事のように話しながら結晶筋肉(クリスタルティシュー)銀線神経(シルバーナーヴ)をくっつけると紋章術式(エンブレム・グラフ)からすさまじい勢いの火柱が立った。

 

「うおぉぉぉ!? 銀色小僧おめぇなにやってんだ!」

 

「あばばばば!?」

 

混乱したアルが何とか正気に戻って銀線神経(シルバーナーヴ)結晶筋肉(クリスタルティシュー)から離すと火柱が収まる。天井にまで火柱が到達していたのか、天井が少し焼け焦げていた。

 

「銀色小僧ー! ディー! 大丈夫か!」

 

血相を変えたダーヴィドはドスドスとグゥエールが横たわっている区画に走ってくる。2人の無事を確認して一旦息を吐くダーヴィドだが、次の瞬間鬼のような顔つきに変わるとアルの頭目掛けてゲンコツを落とした。

 

「イイッ↑タイ↓アタマガァァァ↑」

 

「そんなもんで済んだことをありがたく思いやがれ! 銀色坊主といいおめぇといい……ちったぁこっちの身にもなれ!」

 

「あ"い……」

 

涙目で反省するアルにダーヴィドはちらりと紋章術式(エンブレム・グラフ)を見やると『出来たのか?』とアルに確認してくる。

 

「ええ、クリスタルティシューはエーテルリアクタから離しても魔力が貯蓄される事が分かりました。あとは魔力をオンオフすることが出来たら新型のシルエットアームズは出来ると思います」

 

「事故に見合う成果は出ているわけか……銀色小僧、くれぐれもあぶねぇ実験する時は俺とかエドガーに一声かけてみている前でやれよ? ディーの野郎じゃ心配だ」

 

「……私も信用してくれても良いんじゃないか?」

 

「さっき見てるだけだったじゃねぇか! 銀色小僧、錬金科に新しくクリスタルプレート頼んでやるからそれが出来るまでシルエットギアであれをなんとかしておけ」

 

ダーヴィドが焼け焦げた天井を指差す。普通なら建築科に頼んでも装備や建造材やらで時間がかかる天井だが、建築科の同期の話を聞いたダーヴィドはアルに天井の修繕を命じる。

『明日からで良いぞー』と言いながらディートリヒと共に戻っていくダーヴィドを見送りながら、アルは頭を掻く。

 

(後はオンオフの仕方……火縄銃を参考にして引き金を引くと共に銀製の何かを導線にしてエンブレム・グラフに流せれば……)

 

その頭には新しい魔導兵装(シルエットアームズ)の形が徐々に組みあがっていた。




エルネスティ→機体を作る
アルフォンス→それにつける武器とか細々した物を作る

個人的には上記のイメージ
なお、どちらも貴族の方の胃を破壊する模様

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