銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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それが、これが今週最後の投稿となります。


30話

親方とエルが板状結晶筋肉(クリスタルプレート)をリクエストしてから数日後。

天井の修理が終わって片付けをしていたアルに、痩せ気味でいかにも『研究一筋』という印象の男が声をかけてくる。

 

「すまない。錬金科の者だが、あの暑苦しいヒゲ……ダーヴィドの奴はいるか? 居なければ……お前と同じぐらいの小ささのエルネスティというやつでも良いのだが?」

 

「ああ、はい。親方ならあっちに居ますよ」

 

「すまないがその荷車も誰かと協力して工房に入れてくれないか? ダーヴィドの頼まれ物だ」

 

了承したアルが幻晶甲冑(シルエットギア)を纏うと荷車を引きながらダーヴィドの下へ引いていく。

その様子に男は驚くが、ダーヴィドの姿を見るとアルを押しのけるや否や男が作ったという板状結晶筋肉(クリスタルプレート)がどのように素晴らしいものかという説明を始める。

 

「うるっせえっ!」

 

「ほぼぉ!」

 

その説明が5分ぐらい続いた時、堪忍袋の緒が切れた親方の拳が男に突き刺さる。そのままダーヴィドの指示で板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が運び込まれ、テレスターレのお色直しが始まった。

 

「親方、あの人誰です?」

 

「ああ、あいつはラッセ・カイヴァントっつー錬金科の同期だ。いけすかねぇ野郎だが、このクリスタルプレートみたいに仕事に関しては良い腕してるやつさ」

 

そんなことを言いながら途中で『ロボの気配』を嗅ぎ付けたエルと愉快な仲間達まで参加し、テレスターレの改造は急ピッチで行われていく。

 

***

 

 

「着膨れてかっこ悪い」

 

「アディ! アディには追加装甲や重装型のかっこよさが分からないんですか!」

 

「然り! 然り!」

 

アディの開口一番の感想にアルが文句を言い、エルがそれに便乗する。

目の前には外装を一旦全て取り払い、件の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を配置後に再び外装を着せたテレスターレが佇んでいた。

 

「ま、まぁ着膨れたが……操作性も見ておかねぇとな。ヘルヴィ、たのむ」

 

ダーヴィドがそう言うとヘルヴィが乗り込んで火を入れる。そのまま一歩目を踏み出そうとするが、まるで亀のようにその一歩目が遅かった。

 

「おっそ!」

 

「親方~。重過ぎてマトモに動かないんだけど~」

 

なんとか剣を持つことに成功したテレスターレは剣を振りぬこうとするが、着膨れたせいで挙動がぎこちなかった。もしこの状態でアールカンバーに対峙した場合、恐らくテレスターレは指先一つでダウンさせられたことだろう。

 

「だー! 今度は痩せさせねぇといけねぇのか!」

 

ダーヴィドの叫びに設計班のげんなりした返事が続く。

今度は減量のために着込んでいた板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を全て背部に集中させることで大幅な減量に成功したのだが……話はそう上手くはいかなかった。

 

「ちょっとー! バックウェポン撤去したら新型の意味ないじゃない!」

 

テストを行っていたヘルヴィがテレスターレを降りながら文句を言う。

そう、板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を背部に集中させたために肝心の背面武装(バックウェポン)も撤去してしまっていた。設計者が『これで近接が強くなれば問題ない!』と息巻いていたが、その後ろで駐機状態を取っていたテレスターレが()()()転んだ。

 

「ぬぉわっ! 重心が後ろに来て駐機状態もままならないじゃないか! こんなので近接戦闘なんて考えたくないんだが!?」

 

「情けない、情けないなダーヴィド! 私がわざわざクリスタルプレートを用意してやったと言うのにこのザマか!」

 

「ぬわぁぁぁぁ! 次から次へとなんて我が侭な奴なんだ! ちったぁ素直になれぇ!」

 

度重なる問題と殴られないようにわざわざ距離を離して煽ってくるラッセに、ダーヴィドは咆哮を上げた。

結局、外装の再設計を行うという流れになり、設計班が再度のミーティングを行うということでこの場が解散になった。

 

「ラッセ先輩。少しよろしいですか?」

 

「ああ、さっきクリスタルプレートを運んでくれた……これでも忙しいのだがね?」

 

ダーヴィドが苦戦していた姿にご満悦のラッセにアルが声をかける。

 

「今、シルエットナイトのマナ・プール以外の魔力を使ってシルエットアームズが使えないか試してるんですが、率直な意見を聞きたいんです」

 

「私は魔術科ではないんだが?」

 

『それでも』となおも食い下がるアルにとうとうラッセも根負けし、幻晶甲冑(シルエットギア)を纏いなおしたアルと共にミーティングを行っているダーヴィドの所へ足を運ぶ。

 

「──で、なんでラッセの野郎と一緒に居るんだ?」

 

「いやぁ、この前の実験の意見を聞きたくて。やるときは親方とかエドガーさんの前って約束したので」

 

つい口に出てしまったことなのだがなかったことにも出来ないので、ダーヴィドは『ミーティングの邪魔はするなよ』とアルの方を時たま見ながらミーティングの続きをする。

 

「で、ここに来るまでの話を聞く限りだとクリスタルティシューを魔力源にするらしいじゃないか」

 

「はい、魔力を貯めたクリスタルティシューを魔力源にしてシルエットナイトのマナ・プールとは別口の魔力でシルエットアームズを動かせるかなと」

 

アルは先日と同じ準備をするが、今回刻んだ紋章術式(エンブレム・グラフ)は先日のように火柱が上がるものではなく、リーコンで使用される小さな火が魔力を流している間だけ出るタイプを選んだ。わざわざダーヴィドに持って行き、確認を取ってもらうとアルは早速自分の幻晶甲冑(シルエットギア)綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)を使って紋章術式(エンブレム・グラフ)を起動させる。

 

「ほう……中々面白いことをするな。だが……2つほど見落としがある」

 

『借りるぞ』とミーティングルームから小さい黒板を持ってくるラッセ。そのままカツカツとアルの作った実験装置の絵を描くと、『まずは』と言いながら綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の部分に○を描く。

 

「クリスタルティシューはお前の言うとおり魔力を貯蓄するが、徐々に魔力がエーテルに還元される。まぁ1時間当たりの還元量は微々たる物だがそこは注意が必要だ」

 

『これは錬金科ぐらいしか知らないことだがね』と締めくくると、次にラッセは紋章術式(エンブレム・グラフ)の部分に○を入れる。

 

「次にこの状態ではいきなり魔力が足りなくて法撃が出来ないのではないか?」

 

「なるほど。ではマナ・プールのように確認できる物もあった方が良いですね」

 

「あ、最後にこれだけは言わせてくれ。ダーヴィド!」

 

ラッセは説明に一区切りつけるとミーティング中のダーヴィドを呼ぶ。『邪魔すんなつったよなぁ』と怒り心頭のダーヴィドにラッセは物怖じせずに口を開いた。

 

「ダーヴィド、こいつは人のことを信頼し過ぎている! アルフォンスと言ったか? もし、俺がこれを自分の名前で発表するとは思わなかったのか?」

 

「えーっと……親方のご友人なので大丈夫かな『誰が友人だ!!』」

 

アルの返答に揃って抗議する2人だが、ラッセは照れ隠しに咳払いをすると話を続ける。

 

「ここの連中を信用するなとは言わんが、少しは研究を隠せ。いつか大変なことになるぞ」

 

指を突きつけながら語気を荒げて言うラッセにアルは前世の情報漏えいについて思い出した。

たしかにここ最近のアルは暇な人物が居れば実験を見てもらったり、成果を話したりとまるで『プラモが出来た時に見境無しに見せびらかす子供』のような振る舞いをしていた。

 

しかし、現在行っている事は兵器開発である。それもヘルヴィやダーヴィド、ラッセの話しぶりからするにフレメヴィーラでは一般的ではないレベルの技術である。

 

(調子に……乗り過ぎていたみたいですね。今度から見せる人は厳選しないと……)

 

足元をすくわれないようにもう一度、気を引き締め直した方が良いのだろうと頬を叩いたアルはラッセに向かい合うと礼を言う。

 

「ラッセ先輩、ありがとうございます」

 

『分かれば良いんだ』とラッセは早く自分の研究に戻りたいのか、足早に錬金科に戻っていく。

すると、ミーティングが終わったのか設計班から親方を呼ぶ声が聞こえる。

 

「うし! じゃあ最初に決めたとおり外装を設計している間にテレスターレを複数作ってテストする流れで行くぞ! 全員集めてくれ!」

 

「あ、アヴリルの野郎が街で呑んで来るって言ってたような……」

 

「僕帰るんでついでに呼んでたって伝えときますよ」

 

ミーティング班の班員が『頼むわ』と伝言をアルに頼む。それを聞いたアルは荷物を持ちながら工房を出る。外は既に薄暗くなっていた。

 

「えーっと、酒場酒場っと」

 

工房に入り浸っていたアルは学生達が行くような安くて量が多い酒屋を結構知っている。だが、肝心の『アヴリル』と呼ばれる制作班の生徒が見当たらない。

とうとう知っている店のストックも半ばを切った時、とある酒場の扉を開けると人とぶつかってしまう。

 

「おっと、気をつけな。お嬢ちゃん」

 

片目に傷が走っている赤毛の女性がたしなめながらアルの手を取って引き上げる。

 

「ごめんなさいお姉さん」

 

「……ん、分かればいいんだよ。さて、河岸を変えるよ!」

 

機嫌良さげに着ているローブをはためかせながら『へいっ!』と返事をする男達と共に店を出る女性にアルは一種のかっこよさを見出していた。

すると、店前の騒動に気付いたのかジョッキを片手に探していた生徒であるアヴリルが話しかけてきた。

 

「よう、ちみっこ。お前まだ酒飲めねぇだろ。どした?」

 

「アヴリルさんを探してたんですよ。親方からの召集です」

 

「おっと、いけねぇ。もう決まったのか」

 

ジョッキの中の酒を一気に飲み干したアヴリルは金を店主に渡し、『ごっそさ~ん』という声と共にアルと店を出る。

 

「んじゃ、知らない大人に声かけられても逃げるんだぞ~」

 

「分かってますよ。それじゃあおやすみなさい」

 

アルは家に向かって歩き出すのを見届けたアヴリルは、酔っ払ってニヤついていた口元に手を当てると一瞬で表情を変える。

 

「ほんとに分かってるのかねぇ……」

 

そのまま学園に向かって機嫌良さげに歩くアヴリルだが、その直後に先ほどの店から同じくローブの女性と男性が出てくる。

その女性は共に出てきた特長のなさそうな男性から何か囁かれると、アヴリルが通った道を追跡するように街中に消えていった。

 

***

 

 

立ち上がったシルエットナイト達、『テレスターレ1号機』と『テレスターレ2号機』が身体を起こして異常がないか要所を確認すると、工房の開けた場所で両足に力を込めてとあるポーズをする。

『ダブル・バイセップス』、人間で言う上腕二頭筋を強調するポーズをキメた1号機の後ろで、2号機が横向きになって胸の筋肉を強調するポーズである『モスト・マスキュラー』を行っている。

 

2機がボディビル大会をしている側ではテスト項目を確認している人員が『ナイス・クリスタルティシュー!』や『二頭が良いね! オーヴィニエ!』と囃し立てており、さらに天井から腰にくっつけたワイヤーアンカーを使用してブランコのように揺れている幻晶甲冑(シルエットギア)が『肩に決闘級魔獣乗せてんのかーい!』と意味不明なことを叫んでいる。

 

「なぁ、何をトチ狂ってあんなテストをしているだっけか」

 

「エドガーが一番よく知ってるでしょ? テスト項目作成を手伝ったんだから」

 

水を受け取るヘルヴィの言葉に数日前にエルが頼んできたことを思い出したエドガーが嫌な顔をした。

 

***

 

 

それは、アルがまさかの不祥事を起こして工房の屋根を修理している真っ只中の頃だった。

 

「エドガー先輩、ちょっと脱いでもらってもいいですか?」

 

エルの言葉に工房の空気が凍った。

エルやアルの前世の言葉で『ざわついていた場が一斉に静かになるのは幽霊が通るから』という言葉がある。この状態はさながら、幽霊の参勤交代をいうべき異様な沈黙だった。

 

「エルネスティ、なんて言ったんだ?」

 

たっぷり数十秒の沈黙の後、聞かれた本人であるエドガーは乾いた口中を唾液で潤してから問いかける。

 

「だからエドガー先輩の筋肉を見たいのでちょっと脱いでもらってもいいですかと」

 

『したにぃーしたにぃー』

 

参勤交代のお触れの声が聞こえる。フレメヴィーラは今はお盆だろうか……。

 

先ほどのような静寂が工房中を包み込んでいたが、ワイヤーの音と共に聞こえる鈴の音のような声が静寂を打ち破る。

 

「兄さん、言葉が足りないですよ」

 

幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったアルが、物資を肩に担ぎながら天井からワイヤーを伸ばして地面に降りてきたのだ。アルの指摘を受けて口元に指を当てて話す事を推敲したエルが口を開いた。

 

「あー、すみません。実は模擬試合で致命的欠点が見つかったので、この際だから他にないか徹底的に洗い出そうとしたんです」

 

エルの言葉にエドガーが苦い顔をして頷く。反省会で行ったヘルヴィへの慰めから、まさかの返り討ちの惨事を思い出したのだろう。その様子を気にせずにエルの説明が続く。

 

「なので普段使いづらい筋肉の部分を重点的に稼働させた場合の出力や磨耗率もテストに入れようとして、実際にどこの筋肉が動くかなってエドガー先輩に声をかけたんです」

 

「ちょっと待て。なんでそこで俺なんだ? 筋肉の動き方ならお前達で見合って確認すればいいだろう?」

 

その言葉に2人は先ほどまでの笑顔からすとんと顔の表情を失う。それを見たエドガーは自分の失言に気付いたが呪詛を吐きそうなアルが語りかける。

 

「僕達……そんな筋肉ないです。欲しかったのに……ないんです」

 

幻晶甲冑(シルエットギア)から降りたアルは、おもむろに上半身の服を脱いで上半身裸になる。その奇行に、またもや工房中がぎょっとするが、もちろんアルは露出狂の気はない。

 

約1名鼻血を出しながら近づいてくる幼馴染(アディ)を華麗なステップで回避すると、アルはそのまま鍛冶科の生徒と共にアルの奇行を眺めていたヘルヴィに近づく。

そのままアルは、脚を前に出してから腕を下げ、お腹の前で両拳を合わせる。やや前かがみ気味の姿勢でヘルヴィを見つめながら腕と胸の筋肉に力を込めて緊張状態にする。

 

この一連の動作により、『もっとも逞しい』と言う意味のポーズ、『モストマスキュラー』が完成に至った。

 

「ヘルヴィ先輩。感想をどうぞ」

 

だがヘルヴィは何も言わない。いや、言えないのだ。

 

改めてヘルヴィは目の前の自称少年を見る。

筋肉ではなく子供特有の『ぷにぷにぼでー』が彼の体を包み込んでいる。

ぶっちゃけると全く筋肉が隆起しておらず、ただ「筋肉に憧れた子供がポーズを取っている」だけであった。

 

余計な言葉は彼を一層悲しませてしまう。彼女はそう悟るとお昼に余った焼き菓子をアルの手に握らせて慈母のような表情でアルの頭を撫でる。

 

ひとしきりアルを撫で終えたヘルヴィは無言で工房から去っていく。

それを見送ったアルはもらった焼き菓子をもすもすと頬彫りながらエドガーの前に帰ってくる。

 

「やりました……。やったんですよ! 必死に! その結果がこれなんですよ! 筋トレして、たんぱく質をしっかり摂取して、今はこうしてシルエットギアを纏いながら天井の修理をしてる。これ以上、何をどうしろって言うんです! 何をやれって言うんですか!!」

 

「悪かった! 俺が悪かった!」

 

真面目で堅物で知られるエドガー・C・ブランシュ、まさかの男泣きである。その後、エドガーは実際にテストで使うポーズをとっていたが、工房のど真ん中でボディビル大会をするという精神力がガリガリと削られる作業にエドガーは、その記憶を脳内のタンスの奥にそっと仕舞って中身が出ないように封印していた。

 

ちなみにディートリヒは最初の『脱いでくれません?』で脱兎のごとく逃げ出し、協力してくれた人物はダーヴィドのみだったが、『ドワーフ族なので筋肉の付き方がよく分からなかった』とエルが残念がっていた。

 

***

 

 

「嫌なことを思い出させないでくれ。『エドガー先輩がやらないならヘルヴィ先輩にやってもらって僕かアルが衛兵のお世話になります』と脅されたんだから」

 

「あの子達、なんでそんなに覚悟決まってるの!?」

 

ヘルヴィがエル達のガンギマリぶりに突っ込んでいると、テストの鑑賞を終えたアルが降りてくる。

そのままダーヴィドの方に足を向けると、ダーヴィドはあらかじめラッセに頼んでいた小さな板状結晶筋肉(クリスタルプレート)1枚と銀線神経(シルバーナーヴ)をアルに手渡す。

 

「ほれ、天井修理のお駄賃だ」

 

「わーい」

 

アルは喜びながら工房を飛び出すと、幻晶甲冑(シルエットギア)──『モートルビート』と新しく命名された物の新装備を試しているエル達の下へ走り出す。

 

「兄さ~ん」

 

魂が鎧に定着した存在のような間延びした声を出しながらガシャガシャと足音を立てて広場にアルが入ってきた。

 

「お、クリスタルプレートもらってきましたね」

 

「はい! 兄さんのも仕上がりましたね」

 

アルの視線に気付いたエルは、幻晶甲冑(シルエットギア)の専用の装備である『携行型大型弩砲(スコルビウス)』を掲げる。マガジンや結晶筋肉(クリスタルティシュー)を用いた弦によって『連射できる攻城兵器』と化したその凶悪な代物にアルは満足げに頷く。

 

「でもこれなにに使うの?」

 

「攻城戦に使うんじゃないです? ほら、城壁に撃つとか。後、装甲が堅い魔獣に使うとか」

 

「……そ、そうです! よく分かりましたね!」

 

「ウソ付け! 絶対用途考えてなかっただろ!」

 

キッドの追及にエルは口笛を吹きながらごまかしていると、バトソンが荷台を引いてやってくる。

それは銃杖(ガンライクロッド)幻晶甲冑(シルエットギア)用に大きくしたような物だが、エルとアルはその形状に『火縄銃』のような印象を受けた。

 

「それじゃあ、準備に入ります」

 

「じゃあクリスタルプレートに魔力込めておきますね」

 

まずアルは銃杖(ガンライクロッド)の固定具に持って来た銀線神経(シルバーナーヴ)を挟んで固定する。引き金を引き、挟んである銀線神経(シルバーナーヴ)銃杖(ガンライクロッド)内部に埋め込んである銀線神経(シルバーナーヴ)と接触することを確認すると、今度は埋め込んである銀線神経(シルバーナーヴ)の上に鉄の蓋を被せる。

もう一度引き金を引き、鉄の蓋によって銀線神経(シルバーナーヴ)同士が接触しないことを確認すると、準備が終わった安堵のためか息を吐く。

 

「アルー、火蓋の調子どうですか?」

 

「大丈夫です。繋いでください」

 

アルが片膝をついている間にエルが銃杖(ガンライクロッド)の固定具に挟んである銀線神経(シルバーナーヴ)の逆側に板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を結び、合図を送る。

 

合図を聞いたアルは手順を確認しながら銃杖(ガンライクロッド)の発射準備に入る。

 

「まずは火蓋を開く」

 

銃杖(ガンライクロッド)に埋め込んでいる銀線神経(シルバーナーヴ)の上に被せてあった鉄の蓋を外す。

 

「構え……」

 

深く息を吐きながらアルは銃眼の部分を睨み、目標である丸太を狙う。

 

「……発射!」

 

そのまま引き金を引くと、固定具に挟んである銀線神経(シルバーナーヴ)銃杖(ガンライクロッド)内の銀線神経(シルバーナーヴ)に接触し、板状結晶筋肉(クリスタルプレート)内の魔力が通る経路が出来上がる。

 

魔力は銀線神経(シルバーナーヴ)の先にある紋章術式(エンブレム・グラフ)と触媒結晶に反応し、紋章術式(エンブレム・グラフ)の命令である戦術級魔法(オーバード・スペル)銃杖(ガンライクロッド)から発射される。

 

橙色の巨大な炎弾が丸太をへし折り、後ろの土壁に着弾する。土壁が爆発音と共に崩れ落ちると、アルは幻晶甲冑(シルエットギア)の兜を外して息を吐く。

 

「ふー……」

 

キッド達があまりの威力に言葉を失っている中、エルが手を叩きながらアルの方に近づいていく。

 

「中々の威力ですね」

 

「ええ、でも連発は出来ないですね。ほら、さっきのでクリスタルプレート内の魔力全部なくなってる」

 

アルはもう一度引き金を引くが、銃杖(ガンライクロッド)は炎弾など出ずに沈黙したままだった。

 

「あとはこの火縄形式をもっと洗練しないとダメですね。せめてマガジン形式で撃てるような……」

 

「アル、それは間に合いますか?」

 

エルは相変わらずニコニコとした表情でアルを見るが、それが逆にアルには恐ろしく思えた。

間に合うとは、テレスターレの完成に間に合うかという意味である。現在急ピッチで外装や残りのテストを行っているので、開発段階としては終盤なのである。

そこに新しい武器を積むといった人的余裕も時間的余裕も存在しなかった。

 

「間に合いません……すみません」

 

「ええ、分かってました。同じ理由でリーコンも今からじゃ遅すぎますね。せめてファイアコントロールシステムと同じ時期に組み込みをしてたら間に合ったんですが」

 

ニコニコと表情を変えずに話すエル。その圧にキッド達はお互いを抱きあって震えている中、アルはとうとう音を上げる。

 

「怒ってます?」

 

「んー、残念といえば残念ですが。……もし『間に合わない』ではなく『間に合わせます』って言ってたらキレてましたね。僕との約束を忘れたのかーって」

 

『一歩前進です』とエルはアルの頭をぽんぽんと叩く。だが、次の瞬間エルは握り拳を作ってアルの頭をガンガンと叩いた。

 

「兄さん、痛いです」

 

「でも、テレスターレにアルの考えたリーコンやこの武器が欲しかったのは事実なので、ちょっと罰を与えています」

 

アルが痛みに耐えること数分、ひとしきり叩いたエルは、アルの持っている銃杖(ガンライクロッド)を指差した。

 

「それの名前は決まってるんですか?」

 

「ええ……『タネガシマ』。これがこの子の名前です」

 

アルはタネガシマを肩に担いでにこやかに笑った。




以上でGW連続投稿は終了となります。
次話から1週間に1話という通常投稿に戻ります。

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