銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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34話

 ライヒアラ騎操士学園の学生がライヒアラに帰ってしばらくたった。

 

「僕達がライヒアラを出て1週間ぐらいですね」

 

「親方やキッド達、元気ですかね」

 

 エルが少し懐かしそうな顔をしながら窓の外を見る。少しやつれたアルがその言葉に高等部の学生達や幼馴染ーズの動向を気にしながら紙に製図をしていた。

 

 ちょうどその時、全身をテレスターレ仕様に改修を施し、さらに頭部にも追加の改造を行ったグゥエールをクヌートに届けるためにライヒアラを出立した親方や幼馴染ーズといった輸送隊一向は揃って大きなクシャミをしていた。

 そして、『エル君達が私を呼んでる気がする!』と変な電波を感知したアディが馬車の手綱を素早くひったくると、そのまま西フレメヴィーラ街道を爆進しだしたのだが、エル達はそんな事態になっていることなぞ知らずに充実した砦生活を送っていた。

 

「今回も多少被害が出たみたいですね」

 

 エルが所々に削り取られたような傷を負ったカルダトアが工房に入っていく所を観察しながら呟く。

 

「シェイカーワームの時とカイザル村の損傷機は直ってましたからそろそろ直った機体を別の格納庫に移すんじゃないですかね」

 

 砦に入った時から数えると通算5機目になる損傷機をじっくりねっとり見届けているエルに、アルは紙に書いていた物を束ねて片手に持ってドアを開く。

 

「さ、今日も張り切って頑張りましょう」

 

 テレスターレの処遇を聞いた次の日から彼らはテレスターレに関する資料などを作っては公爵に説明する毎日を送っていた。

 

 質問があればそれに対する内容を纏めた資料を作成し、さらに読み直しで自身が見つけた不備部分を補足する資料を作っては次の日に説明を行うような事を数日続け、昨日やっと引継ぎが完了したのだ。

 

 だが、エル達はそれだけでは飽き足らずに『魔力転換炉(エーテルリアクタ)の秘術と同価値になりえる幻晶騎士(シルエットナイト)』の前情報として、未だ構想段階から出ていない初期設計の設計図を1から引いて本日クヌートにその説明を行うつもりでいた。

 

「もう馬の脚書き直すのやですー」

 

「スクリプトに起こすのやばそうですねー。……あ、馬じゃなくてクモ足とかどうです?」

 

「クモ苦手なんでマジマジと見たくないですよ」

 

 クヌートの部屋まで歩きながらアルは肩甲骨に張り付いた筋肉をはがすように資料を持っていない腕をグルグルと振り回しながら嫌な顔をする。クモのような4脚はアルにとっては大好物だが、そのために虫のクモを見ながら魔法術式(スクリプト)を組むのはアルにとっては苦行なのである。

 

***

 

「ほ、本当にこれを作るつもりなのか?」

 

「ええ、それこそが陛下に秘術を教えていただく対価としてふさわしいものだと自負しています」

 

 無事にクヌートの部屋に着いたエルとアルが、『時間が来たのか』と若干嫌そうな顔をしたクヌートをなだめながらさっそく紙束を机に置いて説明をしようとした矢先、クヌートが震えた声でエルに尋ねた。

 

 それは、馬の下半身にカルダトアの上半身をくっつけたような──御伽噺や劇場でも聞いたことが無い奇怪な化け物だった。だがそれをなんともないかのごとく流したエルは、黒板の組み立てが終わったアルと入れ替わる形でカツカツと何かを書くが、それにクヌートはストップをかける。

 

「初期設計はいい。お前達、来年にはテレスターレを製造した鍛冶師やテストランナーがいなくなる事を忘れていないか?」

 

「「……あ」」

 

 すっかりその事を忘れていた2人は気の抜けた声を出すと、クヌートは頭を抱えながら続ける。

 

「また現在の下級生に私のように新しい常識を叩き込むのも限度があろう。期限などないのだから、もう少しゆっくり設計して卒業後に製造しても良いのではないか?」

 

「そうですね。脚部が一番コストかかるのでじっくりと腰を据えねば」

 

 クヌートの言葉にエルは同調する。幻晶騎士(シルエットナイト)に限らず、何かを開発するにはコストが必要になる。例えば新商品を開発するのに開発スタッフの人件費や素材費、宣伝費など多岐に渡る作業で使用される金銭がコストとなるように、幻晶騎士(シルエットナイト)開発にも様々な費用が存在する。

 

 その中で一番コストが高い作業は『検証作業』である。テレスターレの試験項目でも分かるように、とにかく時間がとてつもなくかかるのでその間の人件費も馬鹿にならない。

 

 もし、これがテレスターレのような人型であったらエル達が行ったように変更部分のみの試験を行ったり、カルダトアやそれよりも古い機体で既に実施された試験を流用したり、場合によっては試験を省く事によって工期やコストを大幅に下げる事ができた筈である。

 だが、これは馬の脚である。胴体の部分はカルダトアの流用なので一旦おいておくにしても、完全新規の脚部に先ほどの小細工は通用しない。

 

「例えば現在の鍛冶科3年を1チームにした兄さんの機体専属チームを作って、学園で設計してラボで実験するのはどうですか?」

 

「バカモノ、彼らはテレスターレ開発になくてはならん人材だ。それにテレスターレに関しては陛下から全権を任せてもらってはいるが、エルネスティの新型機を勝手に裁量してみろ。私の首が飛ぶ」

 

 呆れるクヌートにアルは何かないかと脳をフル回転させるが、大して良い成果は出ないで悶々としていると、突如ドアが勢いよく開かれた。

 

「お話中、失礼します!」

 

 ドアを開いたのはモルテンであった。明らかに礼儀を失するような行動なのだが、クヌートはそれほど火急な用件だと読み取るとエルとアルに目配せしながら要件を尋ねた。

 

「ダリエ村より赤い狼煙を1本確認。おそらく決闘級以上の複数の魔獣がダリエ村に襲撃したと推測されます」

 

 つい先日と同じような報告にクヌートがとった対応は、先日と変わらない騎士団1個中隊による迅速な救援であった。

 

「そうなると思い、既に準備を進めております。編成が完了次第、出撃させるようにします」

 

「うむ」

 

 予想していた通りのクヌートの対応に、モルテンは敬礼を返すと扉を開けて荒い足音を立てながら部屋を飛び出していった。

 

「私は砦の指揮につくがお前達は……来い」

 

「あ、それなら僕の装備がお役に立つかもしれません」

 

 アルの言葉に少し考えたクヌートだが、2人の動向に目を光らせるという名目で許可を出すとエルとアルは揃って自室に戻っていった。

 

***

 

 部屋に戻って素早く荷物とモートルビートを回収したエル達は、『司令室』と書かれた部屋に入室する。そのまま袋の中からリーコンと銀線神経(シルバーナーヴ)を取り出したアルはリーコンとモートルビートを銀線神経(シルバーナーヴ)で繋ぎ、魔力を通して試運転をし始める。

 

「ふむ。準備はそんなにかからないのだな」

 

「はい、浮かばせるだけなら魔力通すだけでいけますが、ホロモニターに映すのは専用のスクリプトが必要です」

 

 全ての準備を整えたアルが説明しながら窓を開けてそこからリーコンを空に旅立たせる。リーコンはふわふわと高度を上げていき、アルが器用に銀線神経(シルバーナーヴ)を引っ張ったり動かしてなんとかダリエ村の方角へリーコンの望遠鏡部分を向ける。

 

「方向転換とかできないのか?」

 

「テレスターレの最終調整が始まった時なので……アルには開発を止めてもらってテレスターレの方に回ってもらってたんです」

 

 エルが幻像投影機(ホロモニター)を取り出そうと真空斬撃(ソニックブレード)でアルのモートルビートの兜を切断しながら説明する。凍ったバターを冷えた包丁で切るような重い感触を感じながらモートルビートの兜を割ると、エルは兜の内側に接続されている小さな幻像投影機(ホロモニター)を取り出して机の上に置いた。

 

「これを3人で見るのはきついですね」

 

「……待っていなさい」

 

 クヌートが備え付けられている伝声管でなにやら命令する。

 その後ろで『これ、直せるんです?』とモートルビートを挟んでエルとアルがヒソヒソとやっていたが、やがてモルテンが数人の騎士と共に幻像投影機(ホロモニター)を持って入室してきた。

 そのまま、いざという時の増援の編成まで行って割かし手持ち無沙汰になったモルテンも参加する形でリーコンの実演が再開されることとなった。

 

「映ったが……ずれてるな」

 

「大丈夫です。ほいっと」

 

 アルが奇妙な掛け声をかけながら慣れたように魔法術式(スクリプト)を組みなおすと、幻像投影機(ホロモニター)の中心にダリエ村の全体が出力される。

 

「もっと拡大できないのか?」

 

「望遠鏡のつまみを調整しなければいけないので、もう1回リーコン戻さないと駄目ですね」

 

 『うぅむ』と歯がゆそうに幻像投影機(ホロモニター)を睨むクヌートだが、突如何かに気付いたモルテンが幻像投影機(ホロモニター)のとある一点を指差した。

 

「閣下!」

 

 クヌートはモルテンの指先を見つめると、そこには少し小さいが石造りの建物が映っていた。それは、普段は食糧などを蓄える為の倉庫だが、今回のような魔獣の襲撃の際には村人たちが立てこもる場所となる強固な造りの砦だった。……だったはずである。

 

 小型の魔獣程度ならびくともしなさそうな石壁や砦の一部が決闘級魔獣によって無惨な姿に変わり果てている。そして堅い殻の内側の美味しそうな物にありつこうと決闘級魔獣の一種である『鎧熊』は口を開けながら砦に開いた穴に向かおうとしていた。

 

「畜生めがっ!」

 

 口から炎すら吐きそうな形相でクヌートが椅子から立ち上がると先ほどとは異なる伝声管を引っ掴んで声高に叫んだ。

 

「狼煙の用意をしろ! 文面は『村』と『砦』と『危機』! 後は短文で『しよくじ』と送れ!」

 

「りょ、了解」

 

 伝声管の向こうから動揺したような声が聞こえると、クヌートは机をがたがたと動かして伝声管の側に寄せる。

 

「モルテン、エルネスティ。ホロモニターをこっちへ。アルフォンスはリーコンとやらの調整を頼む」

 

 伝声管から燻した様な臭いを感じながらクヌートは指示を出す。先ほどの会話からクヌートがやろうとしていることが分かった3人は、一斉に動き出した。

 エルとモルテンが幻像投影機(ホロモニター)を運ぶ傍らでアルは一度リーコンを回収して望遠鏡のつまみを調整するが、タイミングが悪い事に強い風が吹き出した。

 

「閣下! 風が出てきたのでリーコンは無理です」

 

「……流されるのか」

 

 リーコンは大部分が気球で構成されている分、風に弱い。微風でも視点がずれ、強風ともなると明後日の方角に飛んでいくことも十分にありえるのだ。

 エルがこの状況をなんとかしようと頭を捻っていると、突如アルがリーコンの望遠鏡部分を取り外し始めた。

 

「兄さん、ウィンチェスター貸して」

 

 アルに言われるがままエルがウィンチェスターを渡すと、アルはウィンチェスターにリーコンの望遠鏡をくっつけて銀線神経(シルバーナーヴ)でぐるぐる巻きにした。突然自分の開発した機材を解体し始めたことに呆気に摂られたクヌートやモルテンをそのままに、アルはウィンチェスターを持ったまま開いた窓から飛び出すと圧縮大気推進(エアロスラスト)を使って司令室から姿を消す。

 

「お邪魔します」

 

「うわ! なんだお前は!」

 

「君はライヒアラから来た子供じゃないか!」

 

 伝声管からなにやら慌てた声が聞こえてくる。おそらくカザドシュ砦の狼煙台にアルが外から入ったのだろうとクヌートは『私の指示だ』と適当な事を言う。

 

「アルフォンス、そこから村と中隊の様子が見えるか?」

 

「やってみます」

 

 アルがウィンチェスターを使って望遠鏡内部の眼球水晶が見た風景を司令室の幻像投影機(ホロモニター)に出力する。すると、先ほどよりも鮮明な村の様子が映し出された。

 

「鎧熊に鈍竜に……決闘級魔獣が少なく見積もっても10体は居るぞ」

 

「中級魔獣も居ますね」

 

「狼煙は風が強いから使えんな……」

 

 クヌートは情報の伝達が出来ない事を悟ると椅子に深く座りなおした。現在のリーコンの性能はこの程度だが、もし研究が進んで情報の伝達が出来るとすると──。

 

(すさまじい事になるかもしれん)

 

「む? 中隊が速度を上げながら武器を持ち替えましたぞ」

 

「最初の狼煙が伝わったみたいですね」

 

 食い入るように幻像投影機(ホロモニター)を見つめるモルテンとエルを見ながらクヌートはこの風景を映している銀髪の少年を思い浮かべていた。

 

 

***

 

 カルダトア9機とカルディアリアが1機で編成された中隊がダリエ村へ続く道を凄まじい速度で走っていた。──というのも先ほどカザドシュ砦から上がった狼煙の内容に中隊長が不穏な気配を感じ、幻晶騎士(シルエットナイト)の行軍速度を駆け足からそれよりも速く移動する『襲歩』に変えたからである。

 

「『村』に『砦』に『危機』……後は『しよく』しか分からなかったが碌な事じゃない。全員、陣形を楔形に! 一気に村の砦まで駆け抜けるぞ」

 

 『応っ!』という声と共に自らも乗機であるカルディアリアを操作し、槍を突き出しながら魔導兵装(シルエットアームズ)を構えるという防御を捨てた攻撃態勢に移行させる。雷鳴のような足音を立てながら中隊は行軍速度を落とさずにダリエ村の入り口になだれ込んだ。

 

 しかし、そこには昨日まで脈々と受け継がれてきた人の営みの形跡が一切なく、侵略者である魔獣達が屯する楽園と化していた。

 

突撃(チャージ)!」

 

 何も聞かされていなかったらその惨状に思わず足を止めていたかもしれなかったが、事前に狼煙で情報が伝わっていた事もあってカルディアリアの号令に従って速度を落とすことなく村の砦に向かって中隊は突き進む。

 

 禊のような陣形で進路上に居る最低限の魔獣を屠りながら進むと、先ほどクヌート達が見た鎧熊が未だに砦の中に口を突っ込んでいる姿が陣形の最前線で戦うカルディアリアの幻像投影機(ホロモニター)に映った。

 

「うおぉっ!」

 

 渾身の掛け声と共に陣形から突出したカルディアリアが槍を突き出すと、その声に反応した鎧熊の顔面に槍が深めに突き刺さる。そのままカルディアリアが鎧熊と情熱的な衝突を果たしてすっ転ぶが、憎き魔獣を1匹屠った事で士気がさらに高まった中隊が崩れた壁とカルディアリアを守る為に陣形を変更する。

 

 その後かなりの被害を被ったが、中隊規模以上の魔獣相手に騎士団側は死者を出さずにダリエ村の守護という目的を完遂したのだった。

 

***

 

「昨日の戦いはすごかったですね」

 

「3機が中破、2機が大破。他は小破ですがあの戦いは思わず手に汗握る戦いでしたよ」

 

 ダリエ村の戦いが終わって翌日、エルとアルは砦内の自室で昨日にエルが割ったモートルビートの兜部分を修理していた。工房から魔導トーチを貸してもらい、兜を器用に溶接するアルの横で昨日の戦いで騎士団が被った被害について話しながらエルが兜と胴体部分の接続を行う。バトソンが居ないので修理に丸1日かかった上、地砕蚯蚓(シェイカーワーム)に齧られた脚部の損傷も修理できていないが、自分でロボの修理を行うというワクワク感に2人は時間を忘れて楽しんでいた。

 

 しかしエルは言葉では言わないが、『昨日の戦闘で、もしアルの装備が幻晶騎士(シルエットナイト)に転用出来ていれば』というたらればを空想する。今回の戦いで分かったのは村の中のような遮蔽物から奇襲してくる魔獣や居た事や数に物を言わせて突撃を仕掛けてくる中級の魔獣が多数居た事である。

 

 リーコンが仮に使えればそのようなアンブッシュを多少なりとも減らせることができる。数に対しても機体の魔力を使わない試作魔導兵装(シルエットアームズ)や頭部兵装のような連射装備があればばら撒く事でなんとか対抗できるだろう。

 

(やはり機体だけではいけませんね。装備も充実させないと)

 

「……さん。……兄さん」

 

 エルの頭には先ほどクヌートに報告した人馬型の幻晶騎士(シルエットナイト)を用いた装備の想像に没頭していると、アルが呼んでいるような感じがしたので前を向くと兜の修理が終わって遮光用の兜を取ったアルがむくれていた。

 

「すみません。例の馬の装備について考えてました」

 

「もー。リーコンの話なんですが、気球ではなくて伸縮できる銀製の棒とかよくないです?」

 

 アルが言っているのはリーコンを風で飛ばされない対策である。確かに棒の先にリーコンを固定すれば変な方向に飛ばないだろう。さらに棒とリーコンを固定する部分を上下左右にある程度動く形にしてやれば運用に支障は出ないはずだ。

 

「でも棒って伸ばせば伸ばすほどバランス悪くなりますよ? まだ時間はありますしじっくり考えましょう」

 

「そうですね。消費魔力とかももうちょっと抑えれるはずですし……あ、カルダトアが戻ってきた」

 

「現状の報告とかじゃないですか? 大破したカルダトアの回収で護衛も必要ですから」

 

 リーコンの今後の事を考えていたアルの耳に重々しい足音が聞こえてくる。アルが窓の外を見ると2機の凄まじい損傷を負ったカルダトアが砦に帰還し、工房に向かって足を進ませていた。

 

「よっし、モートルビートも綺麗になりましたね。思えばアルの心配性で持って来た物ですが、これがあって助かりましたね」

 

 地砕蚯蚓(シェイカーワーム)での戦いやその後の搬送、リーコンの実演では使えなかったもののそれ以外では結構モートルビートの出番があったのでエルは満足しながら頬ずりしていた。

 

「兄さん、それ僕のなんですから頬ずりしないでくださいよ。それになにがあるか分からないじゃないですか。もしかしたらこの瞬間にもベヘモスみたいな魔獣がここに襲撃とか、地中からこの前のヌシが砦をずどーんとかあるかもしれないじゃないですか!」

 

「ハハハ、事実は小説より奇なりーって言いますけど流石に……」

 

 エルが笑いながらアルと共にカルダトアの帰還シーンを目に焼き付けようとしたが、突然の爆発音に2人は耳を塞ぐ。

 状況が理解できないまま2人は窓から離れずに居ると、工房からカルダトアと2人にとって馴染み深い機体である『テレスターレ』が出てきた。

 

 その事態にさらに頭が混乱して微動だに出来ない2人だったが、突如テレスターレのサブアームが砦の方に向けられたことで我に返った2人は窓側から全力疾走で逃げ出した。

 

「アールピィジィィ!」

 

 なにやらよく分からない言葉を発したアルが飛び込むようにモートルビートに乗り込むとエルを抱え込んで窓から背を向ける。その直後に砦中が激しく揺れ、本棚などの部屋中の物が暴れ回るがモートルビートのおかげでエル達に怪我はなかった。

 

「まずはここを離れましょう。……あ、アル。しばらく『やったか!』とかフラグ立てるの禁止で」

 

「理不尽な!」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)同士の激しい剣戟の音や法撃の音と思われる爆発音が響き渡る中、エルは『アルの一級フラグ建築士』と罵声を浴びせながらアルと共に部屋から出て行く。

 

「兄さん、この場合って都合よく試作機の1機が残ってる流れですけど……」

 

「いや、工房に行くの前提で話さないでくださいよ……行きますけど」

 

 アルの言葉にエルは思わずこけかけるが、ロボ狂いの兄の思考をトレースすることなぞたやすい事なので走る足を速めながら目でエルに続きを促す。

 

「まぁ、もし残ってたら乗るのは……」

 

「「僕ですね」」

 

 ピタリと両者の動きは止まる。お互いに目が笑ってない笑顔をしているが、お互いに手を出さない。彼らは人間なのでまずは話し合いからしようとするが、砦の揺れにそんな場合ではないとエル達は正気に戻って走り出した。

 

「まぁ、都合よくあったらじゃんけんで決めましょ」

 

「そうですね」

 

 外へ出る扉を目指しながら問題が解決した2人だったが、実は2人共『機体があったらまずアル「兄さん」をねじ伏せよう』と内心決意していた。




とある方から支援絵をいただきました。
性別詐称?性別:エチェバルリア(別名:秀吉)なのでへーきへーき

【挿絵表示】

ありがとうございました。
絵がかけたらなぁ・・・

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