いまだ混乱の渦中であるカザドシュ砦の片隅を見つからないようにエルとモートルビートに搭乗したアルが走っていた。行き先はもちろん、無人かつ
法弾が彼らの頭の真上を飛んでいったり近くに着弾する中、なんとか工房に到達した2人は工房近くの草むらに到達する。その後も襲撃犯に鉢合わせしないように慎重に工房の外壁に背中をくっつけながら入り口に到達したエルは、一足先に工房の中を見ると顔を顰めながら後ろに続いているであろうアルにハンドサインで『止まれ』と指示を出した。
「まだそこら辺に襲撃犯の残党が居るかもしれません。周囲の警戒をお願いします」
「そういって兄さん勝手に乗り込むつもりじゃ「いいですね?」」
アルの文句を無理矢理中断させたエルは、入り口をするりと通ると工房に侵入した。そこには無理矢理にでもアルを見張りに立たせた理由がそこら中に散乱していた。
それは、カザドシュ砦を拠点としている朱兎騎士団員の骸だった。
頭や胸からクロスボウの
「来させなくて正解でしたね」
エルは独り言を言いながら軽くその場を見渡す。
『
結果的にその行動が騎士団を救ったのだが、グゥエールというベヘモスに対しは障子紙ほどしかないが、一応
そんな彼にこの光景を見せたが最後。恐らく彼は、今もなお暴れている
エルとしてもそんな弟の姿を見たくもなければ、今も砦から逃げようとしている襲撃犯をなんとかしたいのに安易に突っ込もうとする弟をなだめるという無駄な事はしたくないので、先ほどの判断は正解だったと内心考えながら元来た道を戻る。
「用意周到ですね……全部破壊されていました」
「では自室に戻って荷物取ってから、なるべく高い所に一旦避難しましょうか」
「荷物といえば、今は無風なのでアルのリーコンも動かせるんじゃないですか? 法撃の爆発に巻きこまれなければ、逃亡先も突き止めれるかもしれませんからやってみる価値はあります」
今後の予定を話し合いながらアルはモートルビートの腕でエルを横抱きにすると、腰に備え付けられたワイヤーアンカーを動かす。ライヒアラではアンカーが刺さった石材をその都度交換しなければならないという理由で建築科から苦情が来て自粛していたが、今回は非情なので致し方ない犠牲だとアルは心の中で言い訳をしながらワイヤーを巻き上げると自室の窓付近に辿り着いた。
「兄さん、狭いけど中に入って」
「……致し方ないですね」
一旦アルはモートルビートの前面装甲を開いてエルを中に押し込む。
「痛い痛い痛い! や、やめ……ヤメロォ!」
しかし、いくら初期のモートルビートより空間があるタイプでも、ぬいぐるみでもない生の人間を完全に収納する事はできず、前面装甲が半分以上閉まりきっていない状態という不恰好な形でアルはモートルビート全体に
中のエルに一声かけてからアルは壁を強く蹴る。固定されたアンカーによってワイヤーが振り子のようにモートルビートを元に位置に戻すが、そこでアルがもう一度壁を強く蹴る。
「いーち」
壁を蹴るごとに徐々に振り子運動の速度が増していく。
「にぃーの」
速度が十分だと判断したアルは、振り子が戻るタイミングでアンカーを外す。自室の窓ガラスに向かってモートルビートが飛び込むが、アルは激突する前にモートルビートの取っ手から手を離してエルを強く抱きしめると
「さんっ!」
硝子が割れる音とその周囲の建材が破壊される音が自室に響き、モートルビートが部屋に着地する。
「うわ、肩ひしゃげてる」
「大きいから仕方ないですよ。それより兄さんはリーコンをお願いします」
前面装甲を開いてエルを排出すると、アルは荷物の入った袋の中からブロードソードとタネガシマを取り出してモートルビートの背中にマウントする。
「固定……よし」
「兄さんがよしって言ったからとにかくよし!」
「おいっ!」
リーコンを持ちながら指差し確認をしていたエルがアルのずさんな確認に文句を言うが、聞こえなかった振りをしたアルが再びエルを抱き抱えると固定した装備がつっかえないように慎重に外に出る。
「とりあえずあの塔に行きます」
「分かりました」
エルがモートルビートの腕をしっかり掴んだ事を確認したアルはその場を大きく跳躍する。無駄な魔力を使わないようにアンカーを砦の外壁に突き刺し、振り子運動とワイヤーの伸縮を用いてグングンと移動速度を上げていく。やがて砦の外壁に備え付けられている塔の一角に差し掛かると、アルが方向調整とブレーキを兼ねた
「ふんっ!」
アルはタネガシマを手に持ちながらモートルビートの足裏からスパイクを出して強く踏みしめる。そこからさらに腰のワイヤーアンカーを2本突き刺してモートルビートを完全の固定した。
「兄さん、固定完了」
アガートラームを装着したエルがリーコンを空に上げる準備をしながら、その横に居るタネガシマをいつでも撃てるように
「アル、今撃たないでくださいよ。僕らが法撃で吹き飛びます」
「分かってます。砦から出たときを狙います」
アルがタネガシマを持った理由、それはテレスターレを狙撃する為である。タネガシマは実験段階で少なく見積もっても
しかし、もちろんアルは『白い死神』や『ホワイトフェザー』のような歴戦のスナイパーではない。この狙撃の主な理由は別にあった。
ここ数十分の戦闘を観察し、彼らは『テレスターレが法撃を撃ち過ぎている』ことに気付く。それに加えて戦闘行為というものは続ければ続けるだけ魔力を使用するので、襲撃犯は仮にここを突破出来た場合、『追っ手に追われながら逃げる為の
そんなただでさえ綱渡りの状況で後ろから法撃されるような事態が起こった場合、その法撃の範囲から何とか逃れようと襲撃犯達のペースが嫌でも早まるのではないかとエルは考えた。
仮にペースを乱せた場合、こちらの追跡やテレスターレの捕獲も容易になるという仮定の話が多いが、やってみて損はない作戦である。
「狙えるなら指揮官を狙いたいところですが、シルエットナイトに乗っているという確証が無いので適当に撃ちますね」
「駄目で元々です。『後ろから狙っているぞー』って脅すのが目的なので。……本当は僕だってこのお祭りに参加したかったんですけどねぇ。ロボが無い状態で参加は無作法というものですので我慢してます」
心底残念そうな表情をしているエルに、アルは『襲撃犯が乗っている
「リーコンの映像来ました」
「了解。
エルがアガートラームの端子をモートルビートの兜の側面に開けられた小さい穴に差し込む事で、兜内部にくっついている小さい
「アル、一生のお願いです。モートルビート貸して下さい。500円あげますから」
「10歳そこらで言う一生のお願いは何度も使うフラグなので嫌です。それに僕を動かしたかったら量産機のプラモを3箱ぐらい持ってきてください」
外の景色とリーコンに映っている景色を見ながら
そんな時、アルはエルに急いでリーコンを戻すように指示をする。
「どうかしましたか?」
「道の向こうで何かが動いたような……確認するので倍率上げてください」
アルの言葉に敵側の増援を予想したエルが急いでリーコンを戻すが、突如大きな声と共に金属と金属が打ち合う轟音が2人の鼓膜を震わせた。
エルが塔から身を乗り出すと、襲撃犯が乗ってきたと思われるカルダトアが1機の
「ハイマウォートです! 騎士団長機が到着しました」
「これで形勢逆転ですね。こっちで勝手に倍率を上げましたから上げてください」
エルは急いでリーコンを上げると手際よく
「アールカンバーがどうかしましたか?」
「多分ですがアールカンバーとあの形は……テレスターレ……いや、グゥエールですかね? ともかく2機のシルエットナイトが馬車と共にこちらに向かってます」
「こっちは今戦闘中です……え?」
ライヒアラ学生の突然の登場にエル達が混乱するが、どうしようか辺りを見渡したエルが『ハイマウォートのハンマーを盾で受け止め、さらに拮抗しているテレスターレ』の姿が見えた。
「アル! 狙撃準備!」
「うぇ!? はい!」
リーコンからの映像が突然切れた事で軽く驚いたアルはエルの言葉の通りに
「真ん中のやつを狙います」
宣言してから慎重に狙いを定める。息を大きく吸い、吐き出しながら狙う部分を決める。頭や脚を狙えば運がよければ転倒するだろうが、予想以上に激しく動いているので早々に諦めたアルはあまり動いていない胴体に狙いを絞る。
タネガシマの引き金が引かれる。
複数の爆発音が響いた後に砦の建材が地面に落下していく音と重いもの──法弾が着弾したテレスターレのサブアームが片方落ちる音がエル達の耳に届いた。
「逃げていきますね」
「サブアームがやられたからか、走る速度が気持ち上がってますね。グッジョブです」
「たまたま後ろに法弾飛ばしたから当たったんでまぐれですよ」
『自分が思った成果ではなかった』ことにアルは素直に喜べないまま、アルは法撃の反動を抑える為に固定していたスパイクやらワイヤーアンカーやらを収納し、タネガシマを再び背中にマウントする。その様子に軽くため息をついたエルはアガートラームの端子を引っ張ってモートルビートの兜についている穴に再び端子を差し込む。
「ほら、変にこじれた謙遜してないで逃げた先を追って下さい」
『分かってますよ』と口を尖らせ、アルはリーコンでテレスターレの姿を捉える。しかし、彼らは先ほどの急速な事態の流れにとある事をすっかり忘れていた。
「あ……」
アルの呆気に取られたような声がエルの耳に届く。何事かとモートルビートの兜が向いている先を目を細めながら眺めていると、道の奥の方で法弾らしき光がチカリと見えた。
「ちょっ、法弾が飛んでますよ! 一体なにが起こってるんですか!」
「忘れてた! あっちにアールカンバーっぽい機体が居たんだった! 現在、テレスターレがアールカンバーっぽい機体とグゥエールっぽい機体に法撃してます! って頭部兵装も……あ、こっちに馬車がすごい勢いで向かってきてます」
アルの報告にエルの顔は真っ青になる。砦は絶賛リアルロボット大戦の真っ只中である。そんな中に馬車など突っ込んだが最後、木っ端微塵になるという当たり前の考えにエルは早口で叫んだ。
「アル、撤収します。馬車まで運んでください」
リーコンを急いで回収したエルは、モートルビートの腕の中に飛び込んだ。少し前面装甲にぶつけたが、エルは我慢しながら早く出発する様に急かす。
「飛びます」
アルは腕の中のエルを潰さない程度にモートルビートの腕を操作すると、そのまま当から大きく跳躍。向かってくる馬車の位置からはるか前方に向かって
ぐんぐんと馬車との距離を詰めていく中、アルは逆側に
「兄さん、着地任せた」
「了解」
モートルビートの腕の中、エルは
「親方!」
「ぺっぺっ! いきなりなんだってんだって銀色坊主達じゃねぇか! 一体全体どうなってる! テレスターレがいきなり俺達を襲ってきやがったんだ!」
エルに掴みかかりながら唾を飛ばして事情を聞こうとするダーヴィドをなんとか落ち着かせようと『僕もよく分からないのですが』という前置きをしてエルが今まで起こった事をダーヴィドに話す。
テレスターレを奪われたかもしれないという段階の話からダーヴィドの顔は真っ赤になり、何も持っていない方の手が握りすぎて真っ青になっていた。
「するってぇとなにか? 賊の目的は俺達が汗水流して作った新型だってのか?」
「襲った理由に関してもそう考えるのが妥当かと」
「親方。アールカンバーっぽい機体とグゥエール? テレスターレ? っぽい機体がテレスターレに法撃されてましたが?」
アルの問いに『いっけねぇ!』と叫びながら馬車の周りをうろうろしながら視線を彷徨わせる。
「エドガーとディーがそのテレスターレを抑えてる。キッドとアディもそれを手伝う為に飛び出してよぉ。マズイ……マズイが今の砦に助けを求めたらこっちが危ねぇし」
「2人が? なんとうらやまげふんげふん。危険ですね! 今すぐ助けに行きましょう」
いかにも『楽しそう』な表情を抑えきれていないエルがうずうずしながらダーヴィドを見るが、途端に『機体が無いんでした』と一気にテンションが急降下した。だが、馬車に積まれた布がかかっている蒼いモートルビートを見た瞬間、エルのテンションがまた爆上がりする。
「これ……もしかして僕のモートルビートですか!?」
「あ? ああ、キッドとアディが狭いのに無理矢理詰め込んできたんだ」
「うふふふふ。そうですかそうですか」
言うが早いかエルはモートルビートに乗り込むと『アル、後はお願いします』という言葉を残して颯爽と砦に戻ってしまった。取り残されたのはダーヴィドと御者役の鍛冶科の生徒、それと腕と腰のワイヤーアンカーを出したり引っ込めたりしながらリーコンの望遠鏡部分をタネガシマにくっつけているアルだった。
「で、後頼むって言われてたぞ。銀色小僧」
「とりあえず親方は向こうの道をずっと行ったところに『ダリエ村』という村があります。魔獣被害にあったばかりなので騎士団の中隊がそこに待機しているはずです。ひとまずそこに避難を」
道を真っ直ぐ指差したアルは、親方の了承の返事を待たずにスタスタと先ほどまで親方が通っていた道を歩き出す。
「僕は行きます」
『行くってどこにだよ』とダーヴィド聞く前に、アルを乗せたモートルビートは
「とりあえず言われたとおりに逃げるぞ」
「うっす!」
胸に秘める『即断即決を良しとする』フレメヴィーラ魂に従い、ダーヴィドは御者から手綱を奪うと先ほど指示されたダリエ村に行く進路をとった。
***
「ほーら! ほぅら! 言ったじゃないですか! 奪われるかもって!」
森の中、ワイヤーアンカーと
その声の主は先ほどダーヴィドと別れたアルだ。リーコンでの追跡は中断されたが、中断される前に見えた『逃げた方向』を頼りに現在、一直線に向かっている最中である。
「馬鹿兄! シルエットナイト馬鹿! えーっと……頭マギウスエンジン!」
意味の分からない罵倒をしながら森の中を駆け抜けていくアルの横で突如、閃光が走った。その光に驚いて樹木にぶつかったアルだが、痛む腰をさすりつつ地面に降りて草むらを掻き分けながら進むと、グゥエールと思わしき紅の
「誰か居る?」
草むらから出ずに様子を見ていたアルはグゥエールの胸部装甲にへばりつく人影を見つける。ぼやりとしか見えないので、タネガシマを構えながら望遠鏡部分の
(間違ってたら謝ろう)
そう思いながら端子を外してタネガシマをそっと置いたアルは、クラウチングスタートの構えを取る。
(さん……)
──モートルビートの脚に力を込める。
(にぃー……)
──
(いち……)
草むらから一気に飛び出したモートルビートは、直立不動の姿勢を取りながら
***
グゥエールに倒された銅牙騎士団員は自らの幸運に打ち震えていた。
新型機を奪い、砦から脱した。そこまでは良い。だが、学生と思われる新型と同系統の
事前に準備していた閃光玉がなければ今頃は脱力したようにその場に佇んでいる紅い
(そういえば、こいつ……知らない武装があったな)
団員は先ほどの戦闘を思い返す。風の刃らしきシルエットアームズにやられて仰向けに地に伏した時、逃げる騎士団長を狙ってこの紅い
間者から聞いた新型の仕様にはない機能だと理解した団員の行動は早かった。団員は素早くテレスターレから脱出すると、いまだに微動だにしていないグゥエールの胸部装甲にしがみつく。
(奪っちまえばこっちのもんだ)
長年フレメヴィーラに潜伏していた団員は、現在の制式量産機であるカルダトアの仕様は頭に入っていた。もちろん外部から操縦席に入る為のレバーの存在も知っているので、彼はそれらの知識をフルに活用してグゥエールを奪おうと画策していた。
(よし、発見。後は……)
装甲の隙間に差し入れた手からレバーの感触が返ってきた時、彼は普段は全くといって良いほど信じていない神に感謝していた。
──だが
「アルフォンスロケットォ!」
突然の叫び声に振り返った団員が最後に見た物は、『直立不動でこちらにかっとんで来る鎧』だった。
***
ゴスンという音と『ごぶぇ』という嗚咽交じりの声に、今まで
そこには、大鎧を着込んだ銀髪の少女のような少年がいつか見たあの光景のように立っていた。
「ディー先輩、お久しぶりです」
「アルフォンス! おまっ、どうしてここに!」
「奪われたテレスターレを取り戻しに。あ、でも先輩。不用意に胸部装甲を開けようとしちゃだめですよ」
『こんな人がへばりついていました』と片手で口と鼻から何か漏れている気絶した男を掲げるアルにすっかり脱力したディートリヒ。そんな様子を見ながら周囲を見渡したアルは口を開いた。
「で、残りのテレスターレはどこですか?」
「へ? あ、残りか。向こうに逃げて行ったよ。今エドガーが追跡しているが、グゥエールのホロモニターがこんなでね」
アルが跳ね上げられた胸部装甲の内側、正面の
「すぐには無理だ。……アルフォンス! 頼みがある」
「分かっています。エドガー先輩の手助けですね……っとその前に」
片手で持っている男の存在を思い出したアルは手ごろな木の前に立つ。片腕のワイヤーアンカーのワイヤー部分を引きちぎって男を木にぐるぐる巻きにする。胴体に始まり、足を大の字に開いて左右を経由しながら縛りつけ、最後に後ろ手に組んだ両手の親指同士を倒れているテレスターレから拝借した
(えーっと、映画とかで見た拘束法ってこんなのでしたっけ? まぁいいや)
蓑虫のような姿に変わり果てた男を見ながら、その出来栄えに数度頷いたアルは続いてテレスターレの胴体の装甲を引き剥がす。メキメキという装甲がはがれる音と共に
「アルフォンス? いきなりテレスターレを壊してどうしたんだ?」
「いえ、僕の持っているクリスタルプレートは使ってしまったので代用品を調達しようかと」
テレスターレの
アルはその魔力を貯蓄した
いつも使う
「よし、準備完了。ではディー先輩、行ってきます」
「ああ、気をつけるんだぞ。直ったらすぐに向かう!」
アルは頷くと森に入り、ワイヤーアンカーを使用した高速移動に入る。
もう見えなくなってしまったアルの姿から視線を外したディートリヒは胸部装甲を半開きの状態にして計器を触り、たまに木に縛り付けられている男の様子を見ながら作業を行う。
「急げ…急げ!」
逸る気持ちをあざ笑うかのように
***
ディートリヒと分かれて数分ほどアルは木々の間を移動していたが、道を走った方が見えやすいと判断し、踏み固められた道を
「法撃っ!」
緩やかな曲がり道の向こうで大きな爆音が響く。アルは擬似ホバーを停止してこっそりと先を覗くと、サブアームを1本喪失したテレスターレが剣を振り上げながら倒れているアールカンバーに向かっていくという絶体絶命の場面に遭遇した。
素早く兜の穴に
アルのこわばる腕とは逆に、機械の腕で保持されているタネガシマは少しの揺れも出さないままテレスターレの進路に狙いを定める。
「あんたはよく戦ったよ。学生さん」
女性の声が高々に響くが、アルは冷静さを取り戻す為に深い深呼吸をする。その間にも1歩、2歩とアールカンバーにテレスターレが振る剣の間合いが近づいていく。
(後1歩!)
モートルビートに増設している
そして雲に隠れていた月が分け隔てなく周囲を明るく照らした時、タネガシマが狙いである『テレスターレの頭部』を捉えた。
しかし、
「そこかい!」
突然の法撃に周囲を見渡したテレスターレがものすごい勢いで真後ろに吹き飛んでいく薄緑の鎧を見つけ、
「トランドオーケスが……」
迫ってくる炎弾とは別の物を見つめながらアルは呟く。そこには『盾に剣と杖がクロスされているエンブレム』があった。
「返してください」
モートルビートの手を前に出しながら言ったその一言と共に森の一部で爆発音が響いた。