銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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幕間(騎士団の始動と1つの別れ)

 銀鳳騎士団が朱兎騎士団からカルダトアを受領して数ヶ月。銀鳳騎士団はブレーキが存在しない騎士団長を筆頭に様々な開発を行っていた。

 

「人馬型の内部はおおむね完成ですね」

 

「ああ、こいつがあると作業も格段に速くなってな。笑いが止まらねぇよ」

 

 進捗確認として工房を見回っていたエル。その横でダーヴィドは機嫌良さそうに自分が搭乗している幻晶甲冑(シルエットギア)のような物を軽く叩いた。それは、幻晶甲冑(シルエットギア)を基に銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊が装甲を取り外したり、鉄柵を追加したりと色々手を加えた作業用装備、『モートリフト』だった。

 綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の膂力で部品や資材の運搬をスムーズに行え、さらに五指を備えているので魔導トーチといった別の作業機械も扱える汎用性などに魅力を感じ、忙しい業務後や休日中にクラブ活動の一環としてクレーンをつけたり簡易的な炉をつけたりと装備の実験や検討をしている愛好家集団も居るらしい。

 

「次はオプションワークスの……フレキシブルコートだったか? カルダトアベースのテレスターレに銀色坊主達の作ったスクリプトはぶち込んでおいた。実物の方は資材の切り出しが終わった所だな」

 

「そうなると完成は見習い騎士の方々が来る頃合ですかね?」

 

「ふっ……すまねぇ。そうだな。馬公の設計が終わったら隊を2つに分けるつもりだが良いか?」

 

 見習い騎士の狼狽えそうな顔を想像して吹き出しかけるダーヴィドの提案に、『良いですよ』と了承したエルが工房のとある区画で立ち止まる。エルの目の前には緑色をベースにした新生ラーパラドスが立っていた。

 足首から膝にかけて大きな空洞がある異様な脚部の上には、ブロック状の追加装甲が各所に貼られた腰や胴体が接続されている。唯一残されたトゲが目立つ肩には、展開するとカギ爪になる追加装備(オプションワークス)が取り付けられた腕がくっついており、頭部は外付け式の頭部兵装はもちろん装備しており、さらに上下に開閉するバイザーもついでに取り付けられている。

 

「銀色坊主、これ動くのかね?」

 

「アルは重武装や重装甲を無理やり動かすのが好きですからね。本当は法撃一辺倒にしたかったみたいですけど……無理やりパージする機能やオプションワークスをくっつけさせました。重量に関しては設計中に僕やアルが常に計算してるので少なくとも、歩けないとか走れないという心配は無用です」

 

 『それに解決策もありますしね』と笑うエルに、ダーヴィドはテレスターレや人馬型を提案された時と同等の『嫌な予感』がよぎるが、今説明されても対処できないので『忙しいんだから迷惑かけんじゃねぇぞ』と軽く釘を刺しておくことにした。

 

「……で、こいつの主人は今どうしてんだ? こいつの名前発表するって言ってそのままなんだが」

 

「ああ、バトソンの実家に行ってます。後、名前については色々葛藤してるらしいのでしばらくお待ちを」

 

「なんでぇ、鍛冶師ならここに腕の良いやつがいるってぇのによ」

 

 自身の腕を叩きながら若干残念そうにするダーヴィドに、エルは何かを言いかけようとするがとっさに手で覆う。その行動に不審に思ったダーヴィドだが、タイミング良く人馬型の設計班から呼ばれたのでそちらのほうに歩いていった。

 

(危ない危ない……さて、『アレ』の準備しないと)

 

 ネタバレをしそうになったエルが冷や汗をかきながら息を吐くと、自分にとってもアルにとっても重要なピースの1つを作るためにルンルン気分で会議室を目指した。

 

***

 

「親父さん、ほんと助かりました」

 

「アル坊には贔屓にしてもらってるからな。それに俺だけじゃなく他の鍛冶師にも仕事を回してもらったし、こちらこそ助かった」

 

 バトソンの実家である鍛冶屋では、バトソンの父親とアルが固い握手を交わしていた。鍛冶屋の前にはモートリフトに乗ったバトソンが大量の剣と槌を荷車に納めている。

 話を遡ること2週間ぐらい前、アルはバトソンの父親を通じてライヒアラの鍛冶師ギルドに大量の剣と槌を依頼した。最初は冗談かと思った鍛冶師も居たのだが、理由を話した後に一括で代金を支払うことで鍛冶師ギルドはその依頼を快諾する。

 その後バトソンの父親を主体に各鍛冶屋が頼まれた物品の量産を開始し、本日めでたく納品の流れとなったのだ。

 

「はい、確かに」

 

「おう、俺達も良い仕事させてもらったぜ。……そういえば、この前エル坊が店に来てシルエットナイトの模型作ってほしいって図面大量に寄越して来たんだがよ」

 

「あー……、模型でデザインを説明したりするので。あ、その図面は念のためですが、家族にも見せないでください」

 

 この前のモックの話を思い出しながらアルは図面の取り扱いについて注意をする。情報の取り扱い方として結構グレーな事をしているのだが、銀鳳騎士団は現在人手不足なので苦肉の策なのだろうとアルは推測するが、エルがそこまで考えているのかちょっと怪しかった。

 

「では、失礼します」

 

「また包丁とか研ぎに来いよー」

 

 バトソンが荷車を動かすと、アルはそれを追いながらテルモネン家を後にする。次の行き先は綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の編み方でお世話になった服飾科の先輩の親が経営している服飾店だった。

 

「こんにちは」

 

「あらあら、いらっしゃい」

 

 アルが来店するとスタイルの良い長身の女主人と件の先輩がアルを出迎えた。奥の応接室に通され、紅茶を共に折りたたまれた大量の上着が台車に詰まれて運ばれてきた。

 

「デザインは学園のと同じ物よね?」

 

「はい、長袖にして各々でこちらに持ってきてカスタマイズする感じで。費用は騎士団が持つので」

 

 紅茶を飲みながらアルは出てきた上着を見てにこやかに笑う。

 こちらも2週間ほど前にこちらの店を通じて服飾ギルドに依頼をした物で、本日納品予定の一品である。

 

「で、アル君はこれね」

 

 アルは服飾科の先輩から1着の上着を渡される。それはエドガー達が着ている服と同じようなデザインだが、胸元に銀鳳騎士団のエンブレムが入っているちょっと特別な上着だった。

 アルは上着に袖を通し、丈や稼動域をチェックする。問題がないことを確認すると最後に姿見で己の姿を確認し、どこからどう見ても銀鳳騎士団の所属であることが確認で着たアルは満足そうに頷いた。

 

「うん、ぴったりね。騎士団長君や中等部の皆の分は各々で依頼してもらうって事で良いのよね?」

 

「はい。実働部隊は高等部の方達なので、とりあえずはその分だけ注文しました。兄さん達のは後で勝手にやってもらうことにします。あ、その場合の請求も騎士団の方に回して下さい」

 

 そう、この受注した物品達は全て銀鳳騎士団で使用する装備だった。

 服のデザインセンスなんていう物はアルには搭載されていないので、今回注文した上着は騎士科のデザインをパク……リスペクトし、数も高等部の卒業生に行き渡るだけの量に限定した。

 剣や槌もデザインセンスがないため、剣の柄や槌の側面に鳳が翼を広げているようなデザインに注文し、ひたすら丈夫になるように鍛造品にするようにお願いした以外は鍛冶師達に全て任せていたりする。

 

「それでは失礼します」

 

「またお願いね」

 

「ええ、先輩もそろそろ卒業ですね。お先におめでとうございますと言っておきます」

 

 バトソンと共に上着の山を抱えながらアルは店を出ると、店の側に停めている荷車の中に先ほどの上着を慎重に積んでいく。

 無事に積み込み終わった荷車はライヒアラ騎操士学園に向けて進み、その後は高等部の教官達に協力してもらって人目につかない倉庫にその荷車を保管してもらった。

 

***

 

「節度を持ってください! せつどぉ!」

 

「この光景も見納めかぁ」

 

 エルがステファニアに撫で繰り回され、アディが自分のことを盛大に棚に上げている頃。

 大きなトランクを持ったアルは先日の荷車を曳いたバトソンと共に工房に赴いていた。工房の中には中等部から騎士団入りした騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊が腰に剣を佩かせた新生ラーパラドスの前に集まっていた。

 

「お、来た来た」

 

「副団長! いつでも動かせるよ!」

 

 その言葉に手を上げることで返事をしたアルは、トランクからアガートラームを取り出して装着する。

 そのまま魔法でラーパラドスの操縦席に乗り込んだアルは、操縦桿から伸びている長い銀線神経(シルバーナーヴ)をアガートラームに巻きつけると、操縦席から降りながエルからの合図を待った。

 しばらくすると、工房の入り口からエルの声が響いてくる。

 

「皆様! 本日銀鳳騎士団の団員が卒業いたしました。これより、任命式を執り行います」

 

 その声に反応して荷車から自分の上着を取り出したアルは、上着を羽織ながら魔法術式(スクリプト)をラーパラドスに送る。すると、入り口に向かって歩くアルに合わせてラーパラドスがまるで主人に付き従う騎士のようについていく。

 そのなんともいえない厳かな雰囲気に騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊は気を引き締めながら荷車を曳いてラーパラドスに続いて工房から出て行った。

 

 工房の外には既に高等部3年で騎士団入りした面々が並んでおり、その周囲を教官や他の卒業生が見守っていた。これが全学生参加型の卒業式なら迷惑極まりない催しになるのだが、ライヒアラは基本的に卒業式の日は他の学生は軒並みお休みなので、エル達は安心して任命式を執り行ったのである。

 

 ちなみにアルがそのことを申請すると、教官のほとんどが『学園に箔が付く』とノリノリで準備や生徒への隠蔽工作を手伝ってくれたのは卒業生には内緒である。

 

 工房から出てきたアルはエルの横に立つと、アガートラームを付けた腕を横に振るう。

 すると、ラーパラドスの腰に佩かせた剣を引き抜き、左手は鞘に残してながら右手の剣を頭部の前へ持っていく。剣に祈るような格好をとったラーパラドスがぴたりと動きを止める。

 その行動に全員が圧倒されるが、エルは大きな紙を持ちながら『これより銀鳳騎士団の編成を発表します!』と宣誓した。

 

「第1中隊! 中隊長、エドガー・C・ブランシュ! 前へ!」

 

「はっ!」

 

 名前を呼ばれたエドガーが列から離れてエルの前に立つ。アルは荷車から剣と上着を取り出すとエルに渡し、エルは受け取った物をエドガーに贈る。

 

「エドガー先輩、堅牢な守りを期待しています」

 

「習った方法で受け取っても?」

 

「時間無いので普通に受け取ってください」

 

 『自分が主君ではないので』と、そこらへんの礼儀はすっ飛ばして進行しようとするエルにエドガーは苦笑いを浮かべながら装備を受け取って列に戻っていく。その後は第1中隊の面々が次々と呼ばれ、やがて『以上が第1中隊です』という声に周囲から拍手が起こる。

 

「次に第2中隊! 中隊長、ディートリヒ・クーニッツ! 前へ!」

 

「はっ!」

 

 エドガーに比べて幾分か精彩に欠ける動きでディートリヒはエルの前に立った。剣と上着を受け取ったディートリヒは礼をして列に戻ろうとするが、その前にアルが声をかけてきた。

 

「ディー先輩。約束覚えてますか?」

 

 トランクから封筒を取り出したアルは、ディートリヒに近づきながら中身を取り出してディートリヒに見えやすいように広げた。それを見たディートリヒは懐かしそうな顔をしながらエドガーを呼び、自分の持っている物を全て押し付けるように預けて両手を自由にする。

 

「……ああ、約束だからね。ありがたく頂戴するよ」

 

 戦う者として死に掛けていた時の自分を思い出させる紙を両手で受け取る。そこには以前までの傲慢な男の姿はなく、1人の覚悟を決めた騎士の姿があった。

 

「銀鳳騎士団の切り込み役。よろしくお願いします」

 

「任された! もうあの時の私ではないことを剣で証明して見せよう!」

 

 叫ぶように誓うディートリヒに、アルは笑いながらエルの隣に戻っていく。ディートリヒが列に戻ったのを確認したエルは第2中隊に編成される騎操士(ナイトランナー)の名前を呼び上げていった。

 次々と呼ばれる第2中隊所属の騎操士(ナイトランナー)に、マティアスを含めた戦闘技能教官が苦笑いを浮かべる。

 彼らは俗に言う『脳筋』で、とにかく前線に突っ込む性質の者がほとんどだった。さらに戦い方も『理由は不明だが、無手の方が戦績が良いかも?』という独特な者や、特定の武器に思い入れがありすぎる者など一癖も二癖もあるメンバーが全て第2中隊に入っていたのだ。教官達は『大丈夫か? この中隊』と早くも不安になってきていたが、ともあれ第2中隊の編成終了の宣誓に教官達は手を叩いた。

 

「続けて第3中隊! 中隊長、ヘルヴィ・オーバーリ! 前へ!」

 

「はっ!」

 

 自信ありげな歩みでエルの前に立ったヘルヴィは、エルから剣と上着を受け取る。

 

「第1、第2中隊のサポートをよろしくお願いします」

 

「任せて」

 

 エルの言葉に自分の中隊の立ち位置や、求められる役割を察したヘルヴィは強く頷くと列に戻っていく。その後続く第3中隊の構成員だが、テレスターレの稼動試験に精力的に動いていたり、なにかとエルやアルに提案をしていた積極性がある男性騎操士(ナイトランナー)、そして数が少ない女性騎操士(ナイトランナー)全てが第3中隊のメンバーとして編成されていき、第3中隊の編成は拍手で締めくくられた。

 

「最後にナイトスミス隊! 隊長、ダーヴィド・ヘプケン! 前へ!」

 

「おうっ!」

 

 ノシノシと列を掻き分けながら進むダーヴィド。たまに『親方の名前久しぶりに聞いた』と騒ぐ騎操鍛冶師(ナイトスミス)を睨みつけながらエルの前に立つ。

 

「やっぱり親方達の装備は剣よりこれですね」

 

 アルは荷車から槌と上着を取り出すとエルに渡す。それを見たダーヴィドは『分かってんじゃねぇか』と笑いながらも恭しく装備を受け取ってから列に戻っていった。

 そして騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊に編成される騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の名前が上がっていく。全員テレスターレと言う新型機を作り上げた猛者達である。必ずや人馬型や、自分達の思い描く新しい概念の機体を作り上げてくれるだろうとエル達は期待していた。

 

「これにて銀鳳騎士団の任命式を終わります!」

 

 エルの宣誓にもう一度大きな拍手が騎士団を包み込んだ。

 

***

 

 任命式が終わり、ラーパラドスを工房に戻そうとしたアルをエルが呼び止めた。何かと思ってエルの方を振り向くと、エルの横にはセラーティ家の令嬢であるステファニアが立っていた。

 

「アル、彼女を馬車までエスコートしてください」

 

「……見てたんですか?」

 

「ええ、キッド達やエル君が招待してくれたから」

 

 『格好良かったわよ』とウィンクするステファニアに気恥ずかしそうに頭を掻いたアルは、『御手をどうぞ』と最後まで格好をつけるようにステファニアと共に馬車に向かって歩いていく。

 

「アオハルですねぇ」

 

「エル、後でアルに殴られても知らないぞ」

 

 弄るネタを見つけたかのようにニヤニヤと笑うエルの横でキッドがそれとなく注意するが、エルがその注意を聞くことはなかった。

 

***

 

「ねぇ、この前の話覚えてる?」

 

「忘れました」

 

 アルの即答にステファニアは頬を膨らませながら抗議するが、アルにとってあれは口をバナナの皮で滑り散らかした結果で、今すぐ虹色のナノマシンを展開して砂に分解してしまいたい代物である。アルの表情から本当にこれ以上は話したくないことを感じ取ったのか、ステファニアはアルと手を離してそのままアルの頭部を撫で始めた。

 

「うん、私も忘れた。……アル君が選んだ道だもの。しっかり勤めを果たしてね」

 

「はい」

 

 アルの返事にステファニアは黙って馬車へ乗り込む。扉が閉じられ、馬へ鞭が入れられると馬車はライヒアラ騎操士学園をゆっくりと離れていく。

 ステファニアの言った言葉を近くで聞いた者が居るならば、アルに向けた応援のように感じるだろう。しかし、アルには『私を蹴ったんだからちゃんと勤めを果たせ』と、応援と言うには生易しいぐらいの発破をかけられたように感じた。

 

「さて、来年から色々忙しくなりますね。……まぁ働いた分だけ給料出るからホワイトホワイト」

 

 工房に向かう道中でアルは若干ブラックなことを言い出すが、春から授業が始まり、人馬型の開発もいくらか目途が立つ頃合いである。控えめに言って修羅場なので、アルは早い内にエルを説得して有給休暇というシステムを作ってもらおうと心に決める。

 

(銀鳳騎士団はアットホームで若い層が大活躍する職場です。福利厚生も万全なので、後はやる気さえあればどんどんステップアップできます)

 

 どこかで聞いたことのあるような求人広告を頭に浮かべ、アルは工房のそばで待機しているラーパラドスに乗り込んだ。そして、春という出会いと別れの季節にあてられたのか、少しだけ心に開いた穴に気づかない振りをしながら工房に機体を置くためにゆっくりと鐙に力を込めたのだった。




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