銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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銀鳳騎士団編 新型量産機の章
45話


 荷馬車(キャリッジ)の取っ手をサブアームで掴んだパッチワークが再び演習場の中央に戻ってくる。ちょうどその時、数機のカルダトアが大きな幻像投影機(ホロモニター)を演習場に運び込み、賓客席の正面に置いた。

 

「それではアルフォンス・エチェバルリアの開発した試作シルエットアームズについて説明させていただきます」

 

 拡声器からそのような宣言したアルはパッチワークから降りる準備を行う。操縦席の後ろからアガートラームを取り出して装備すると、先ほど飛ばしたものと形状の異なるリーコンを取り出す。最後に、操縦桿に繋いだ銀線神経(シルバーナーヴ)の束を持ったアルはパッチワークの胸部装甲を開き、そのまま飛び降りながら賓客席の前に立った。

 

「試作シルエットアームズの前にシルエットナイトの装備について説明させていただきます。こちらは『リーコン』という偵察装備です。このように魔力を流すことによってエンブレム・グラフが起動し、魔法によって熱せられた暖かい空気が上の袋に貯まっていって宙に浮きます。なお、この袋は燃えにくい素材である『火蜥蜴』の外皮を乾燥させた物を使用しました」

 

 説明しながら自らの魔力を用いてリーコンを浮かび上がらせたアルは、リーコンの位置を調整しながら数枚の銀版をリーコンを繋いでいる銀線神経(シルバーナーヴ)に絡ませて賓客席の前に設置された幻像投影機(ホロモニター)銀線神経(シルバーナーヴ)を接続させる。

 

「先ほどの銀板にはリーコンに備え付けてある望遠鏡の景色をこちらのホロモニターに映し出すスクリプトが刻まれています。……このように上空から遠くの景色を映すことが出来るので、偵察や部隊の現在地の確認が期待できます」

 

 幻像投影機(ホロモニター)には演習場の隣にある山の山頂で木人形を数体抱えているカルディアリアとそれを護衛する2機のカルダトアが映っていた。上空から偵察することの意味を知った貴族達は『なるほど』とアルの言葉に納得するような姿勢をとるが、ディクスゴード公爵が手をあげると『部隊との連絡は狼煙を上げるしかないのではないか』とカザドシュ砦で実際に起こったことをアルに聞いて来た。

 

「はい。前回までは狼煙で部隊との連携を取っていたのですが、今回ご紹介するのは魔導ランプによる光での通信です」

 

 アルはリーコンから伸びている『2本目』の銀線神経(シルバーナーヴ)に魔力を送ると、リーコンに接続されている魔導ランプが淡く光り始めた。一定の周期で点灯と消灯を繰り返しているリーコンの光が見えたのか、山頂に居る2機のカルダトアが装備している魔導兵装(シルエットアームズ)を上に掲げて法弾を放った。

 

「光による通信なので『アンシブル』……と名付けたい所ですが、陛下のお名前と似ているので『リーコン・アシブル』と命名しました」

 

 アルの茶目っ気を出した説明に賓客席が沸く。元ネタは『とあるSFに登場する超光速通信技術』や『別艦橋などのサーバーにあらかじめ用意した設定ファイルに従った設定を自動的に実行するソフト』なのだが、それに気づいたのは話を聞いていた兄しか居なかった。

 

「この装備の欠点は風などで見る場所がブレてしまうことや、霧などで光が見えないといったものですが、現時点でも十分な戦力になると確信しています!」

 

 アルが装備の有用性を言い終わると賓客席から拍手が聞こえる。その中にはオルヴァーに肩を思いっきり掴まれている枯れ木の様な風貌のドワーフ族、『ガイスカ・ヨーハンソン』の姿もあった。その形相にアルは『この後が怖いな』と恐怖心を覚えながらアガートラームに繋いでいるリーコン側の銀線神経(シルバーナーヴ)を外し、パッチワークの操縦席から伸びる銀線神経(シルバーナーヴ)と繋ぎ合わせてから次の説明に入った。

 

「それでは試作シルエットアームズの説明に入ります。こちらはベヘモスのような超大型の魔獣に対して目や口と言った有効な部位を狙撃するタイプになります」

 

 その説明に大半の貴族は『そんなこと出来るわけがないだろう』と懐疑的な意見を口にする。

 だが、アルは『魔導兵装(シルエットアームズ)にもリーコンと同じように望遠鏡が接続されています』という説明と共に何も映っていない方の幻像投影機(ホロモニター)銀線神経(シルバーナーヴ)を接続し、魔導兵装(シルエットアームズ)のスコープが見ている景色を映す。魔導兵装(シルエットアームズ)の銃身が地面に向いているので地面しか映っていないが、それが逆に賓客席の空気を期待感に変えていった。

 山頂のカルディアリアが持っていた木人形を等間隔に設置し、一団が山頂から降りていく様子をリーコンが映し出すと、アルはパッチワークに再度搭乗する。

 

「今からあの山の山頂に設置されている木人形を破壊します」

 

 アルの宣誓と共に試作魔導兵装(シルエットアームズ)を構えるパッチワーク。そのスコープには件の木人形がまるで眼前に存在しているかのように映し出されていた。

 数拍程の間を開けてからアルが操縦桿のボタンを押すと、1本の炎の槍が魔導兵装(シルエットアームズ)から放たれた。炎の槍は空気中のエーテルに溶けることなく山頂に向かって飛翔し、やがて山頂に設置された1つの木人形に突き刺さり、木人形を炭へ変えた。

 

「まずは1本。次はその横を狙います」

 

 次に狙う的を宣言したアルは再び先ほどの動作を繰り返して炎の槍を魔導兵装(シルエットアームズ)から放った。まるで先ほどの焼き直しのように炎の槍は飛んでいき、宣言通り炭になった物体の横の木人形に法弾が突き刺さる。この後も同じように法弾を放っていき、やがて全ての目標が炭になった頃合でパッチワークはやっと試作魔導兵装(シルエットアームズ)を降ろした。

 

「あやつを模擬戦に無理やり参加させなくて良かった」

 

「こころなしか威力も上がってるように見えるので、死人が出なくて良かったですね」

 

 賓客席でアンブロシウスとオルヴァーが試作魔導兵装(シルエットアームズ)の威力にため息を混じらせながら感想を言い合う最中、賓客席に設置された柵に掴みながらガイスカが手を上げた。

 

「そ、そのようなシルエットアームズを使用した場合、マナ・プールがすぐに無くなるのではないか? ナイトランナーを無駄に危険に晒すようなシルエットアームズは認めんぞ!」

 

 ガイスカの意見に賓客席の貴族達は同調しながらパッチワークを見る。すると、パッチワークから返ってきた言葉は至極単純なものだった。

 

「あ、すみません。これ法撃撃つたびにシルエットナイトから魔力を供給してません」

 

「……は?」

 

 ガイスカの呆気に取られたような声が賓客席に響くが、貴族達もパッチワークから聞こえてきた内容に『こいつ大丈夫か?』という視線を向ける。

 アンブロシウスやヨアキムのような王族や貴族は、民草を守るために騎士課程を修めているのが通例である。当然、幻晶騎士(シルエットナイト)のことも一般人よりかは熟知しており、魔導兵装(シルエットアームズ)の概要も知っている。しかし、騎操士(ナイトランナー)である銀髪の少年が言った内容はその常識からかけ離れたものだった。

 

 少し期待していた反応とは違う反応に、アルは不思議に思いながらパッチワークを賓客席に向けて歩かせる。

 

「あのー、もしよろしければ確認してみます?」

 

「おほんっ! それではわしが試しに……えぇい! クヌート! 離せぇ!」

 

「陛下! アルフォンスは陛下に言っておりません!」

 

 新しいおもちゃを試せると咆哮を上げる猛獣(アンブロシウス)とそれを必死に抑える猛獣使い(クヌート)の攻防を見ないようにしたアルは胸部装甲を開きながらパッチワークの手を賓客席の柵につける。そのまま操縦席を出たアルは呆気に取られたままのガイスカを持ち上げるとパッチワークの中に戻っていった。

 

「いやー、アガートラーム装備してて良かったです。それでは説明致します。これらの試作シルエットアームズはクリスタルプレートに貯められた魔力を用いて法撃を行っています」

 

「なぜだ? シルエットナイトの魔力を使用すれば良い話ではないか」

 

 パッチワークから漏れるガイスカの声に貴族達は頷く。しかし、操縦席の中でアルは頬を掻きながら『理由は色々あるのですが』と言いながら悩むが、やがてはにかみながら続きを話した。

 

「それだと魔力が切れたシルエットナイトがやられちゃうじゃないですか。少しでも戦力になるように。……じゃないですね。少しでも生き残れる確率を上げる為に考えた結果がこれです」

 

 その言葉にガイスカはアルフォンスの作った作品のコンセプトが分かった気がした。『もちろん、趣味という意味合いも強いんですがね』と言いながら、照れ隠しに試作魔導兵装(シルエットアームズ)を空に向けて法撃し、魔力貯蓄量(マナ・プール)が減っていないことをアピールする少年を孫を見るような目で見ながらガイスカは騎操鍛冶師(ナイトスミス)を志した時の『想い』を思い出した。

 

 それは、ただの偶然だったのかもしれない。

 だが、エルネスティが叩く事によって『余分な物』が取り除かれ、さらにアルフォンスが『焼き入れる』ことによってガイスカは生まれ変わった。否、研鑽した技や年月をそのままに昇華したのである。

 

「ふふっ、まだまだ負けんぞ。若造め」

 

「ええ、協力してたくさんシルエットナイトを作りましょう」

 

 鍛え上げられた鋼のような光沢のある瞳でアルを見つめるガイスカに、アルは笑顔で答えながら賓客席までパッチワークを歩かせ、胸部装甲を開く。そして、ガイスカを降ろして最後の魔導兵装(シルエットアームズ)の説明に入ろうとした時、アンブロシウスから声がかかった。

 

「のぅ、アルフォンス。エムリスやガイスカは乗せてわしは乗せてくれんのか?」

 

「え、いや。ディクスゴード公爵はなんと?」

 

 どこかの酔っ払いのような台詞にアルはクヌートに助けを求めるが、クヌートとついでに横にいるヨアキムは静かに首を左右に振る。どうやらアンブロシウスの好奇心の方が勝ったようだ。

 

「承知しました。ではついでなので試作シルエットアームズを実際に使用していただきましょう」

 

 その言葉に気を良くしたアンブロシウスは意気揚々とパッチワークに乗り込み、アルはそれに続く形で操縦席に座る。そのまま胸部装甲を閉め、演習場の中央に進んだパッチワークは荷馬車(キャリッジ)の中から試作魔導兵装(シルエットアームズ)『ナンブ』を取り出した。

 

「それも外部からの魔力で法撃が可能か?」

 

「はい、こちらは頭部兵装の術式を応用した連射式のシルエットアームズです。それでは近衛の方、よろしくお願いします」

 

 アルが声高に言うと、数機のカルダトアが手に厚さ数ミリの鉄板を持って演習場に入ってきた。重厚な足音を立てながらカルダトアは鉄板を地面に設置し、それを確認したアルは操縦桿を動かしてパッチワークにナンブを構えさせる。

 

「それでは陛下、こちらのボタンを押してください。押している間は法弾が出ますので」

 

「うむ……ぬぅっ!」

 

 操縦桿を譲られたアンブロシウスは早速ボタンを押し込むと、たった数秒しか押していないのに数発の法弾が連続で放たれ、アンブロシウスは思わずボタンから手を離してしまう。その様子にアルは『ナンブのテストをしてもらったときのエドガーの反応』を思い出すが、寸での所で笑いを耐えていた。

 

 そんな光景が操縦席で繰り広げられていることなど知らず、賓客席では先ほどの狙撃型魔導兵装(シルエットアームズ)と今回の連射型魔導兵装(シルエットアームズ)について議論が繰り広げられていた。

 

「私の領地は大型が多くてな……先ほどの強力なシルエットアームズが欲しいな」

 

「私の所は小型魔獣の群れが厄介でしてな。連射式の方が欲しいですね」

 

「クリスタルプレートとやらに魔力を込めれば撃てるのですから、砦に設置するのも良いかもしれませんね。ガイスカ殿、クリスタルプレートの改良とかはできないですかね?」

 

 ガイスカは貴族達の質問や言葉に耳を傾けながら銀鳳騎士団からもたらされた追加装備(オプションワークス)や、現在アルがお披露目している武装、そして過去にアルが開発した頭部兵装について考えていた。

 

 多くの攻撃手段を持つにする機体。それがこれからの時代に必要な幻晶騎士(シルエットナイト)の姿である。しかし、今までは魔力的にそれは厳しい物と考えられており、その結果として頭部兵装も切り捨てざるを得なかった。

 しかし、アルが先ほどから発表している板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を用いた外部からの魔力供給は理に叶っているアイデアだった。

 

(オプションワークスはともかく……こちらはまだ作りが甘いと見えるがな)

 

 ガイスカは、パッチワークが法弾が出ていないナンブの引き金を何度も引いているのに気づいた。魔力貯蓄量(マナ・プール)のように魔力の残量が可視化出来ているのなら、そのような行動は取らない。つまり、『外部魔力の可視化はまだ出来ていない』のである。

 戦闘において突然法弾が撃てなくなるのは致命的なので、ガイスカはこれから作る制式量産機の装備に導入するか迷っていた。

 

「ふぅ、年甲斐もなくはしゃいでしまったわ。アルフォンス、大儀であった」

 

「感謝の極みっ!」

 

 ガイスカが装備について考えていると、パッチワークが賓客席に戻ってきた。アンブロシウスが上機嫌でパッチワークから降りると、胃の辺りを押さえながらアルが返事を返す様子に隣のオルヴァーが苦笑いを浮かべていた。

 

「以上をもってアルフォンス・エチェバルリアの発表は終了とし、これにてラボと銀鳳騎士団の新型機の報告会は終了とする!」

 

 手に持った杖をカツンッと叩きながらアンブロシウスが力強く宣言し、貴族達は席を立ちながらぞろぞろと退室していった。銀鳳騎士団の方も既に撤収準備が済んでいるらしく、エル達がもう一度アンブロシウスに向かって礼をすると演習場から出て行った。

 

「わk……アルフォンス殿? 騎士団が出て行ったが?」

 

 若造と言い掛けたガイスカがパッチワークの胸部装甲に座っているアルに声をかけるとが、アルは『あれ、聞いてませんか?』とガイスカに聞き返す。

 

「僕、これからデュフォールのラボで制式量産機のお手伝いをしにいく予定ですよ」

 

 その突拍子のない返答にガイスカは目を閉じ、深く深呼吸をする。数秒後、落ち着いたガイスカは聞き返したがアルの返答は変わらなかった。

 

***

 

 近衛騎士団が管理しているとある工房。そこでは模擬戦で使用されたカルダトア・ダーシュの修理が行われていた。

 

「損耗率ではこちらが負けていたな」

 

「ああ、俺はしばらく馬は見たくない」

 

「ゼルクスは良いだろ。俺なんて引きずられた挙句、投げ飛ばされたんだぞ」

 

 人馬型と対峙したゼルクスが額に手を置きながら項垂れているが、それを横に座っているユンフがため息交じりで物申した。だが、話はそこから『次はどうすれば良いか』という話題に瞬時に切り替わる辺り、流石精鋭と謳われた騎操士(ナイトランナー)の集団『アルヴァンズ』である。

 

 そんなアルヴァンズの反省会の横でガイスカがオルヴァーに向かって何かを叫んでいた。

 

「ですから、私はてっきり成人したナイトスミスやらが研修に来ると思っておったんです! ですがこのわかぞ……アルフォンス殿はまだ中等部も卒業しておらんじゃないですか!」

 

「ああ、うん。でも彼は頭部兵装の時もカンカネンに出張してたし、なによりあちらの騎士団長が指名してるので……。ほら、これが手紙です」

 

 ガイスカはアルを指差しながら抗議するが、オルヴァーはエルから送られた手紙を差し出しながらそれを受け流す。ガイスカも事前に銀鳳騎士団から研修という名目で1人がラボに同行するという話はオルヴァーから聞いていた。

 だが、来たのは銀鳳騎士団の副団長であり、成人もしていない少年だった。

 

「ガイスカ君、ちょっと考えてみよう。テレスターレの技術を持ち、それを作った経緯を説明できるかつ、騎士団長と比べて比較的行動しやすい人材なんて彼しかいないはずだよ。それに彼は頭部兵装を作った人物だ。……ここまで言えば分かるね?」

 

 オルヴァーの言葉にガイスカは素直に頷く。アルが居れば制式量産機開発で行う予定のサブアームの手直しの工数が削減されるのだ。それに、先日オルヴァーが他の工房の構文師(パーサー)長達とライヒアラに赴いた後、構文師(パーサー)長達の書く魔法術式(スクリプト)が変わったという報告を工房長同士の報告会で聞いた覚えがある。

 

 ただ、それを理解できる構文師(パーサー)が少ない為に『魔法術式(スクリプト)の量が減り、従来と同等の動きが出来るようになった。しかし、どうやって動いているのか分からない』というエルやアルが聞いたら『あー、あるある』と賛同するような事態が起きていた。

 

「分かりますが、成人していない者を出張なんて親が心配するのでは?」

 

「その点は心配ないです。説得済みです」

 

 ガイスカの言葉を遮るようにアルはにこやかに答える。だが、一瞬真顔で『いつか手錠はめて風呂に沈めてやる』と呟いたことを近くで聞いていたオルヴァーは聞かなかったことにした。なぜアルがこのように恨み言を呟いているのかというと、話は陛下からの召喚状が届いた日の夜まで遡る。

 

***

 

「……ですから可変系は危ないです! その危険度に見合う利点も無いですね」

 

「地上で変形して運用するようにすれば良いのでは?」

 

「ロマンはありますが、陛下や貴族の方に説得する利点が無いですね。……それにアルのことですから空中で変形するでしょ。乙女座じゃない癖に」

 

「はい! ったぁぁい! アタマガァァ!」

 

 アルが元気良く返事した瞬間にエルの手刀がアルの頭を捉える。日課であるドキッ(略)の議題である『可変型幻晶騎士(シルエットナイト)の運用法』を熱弁するアルだったが、エルは難色を示していた。もちろん、エルも可変機は好きだし、『背中の機首と主翼を備えた追加装備(オプションワークス)をつけ、膝を折り畳むように変形する幻晶騎士(シルエットナイト)』の図案をアルと描いた覚えもある。

 

 だが、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を用いて時速数十キロで動いている機体が変形する際、バランスを崩してしまえばたちまち地面の染みになる恐れがあり、非常に危険である。『流れ星事件』を引き起こした身として、空中での事故をなるべく排しようとエルは可変機の運用を厳しく精査していた。

 

 結局、『脱出案』から始まり、脱出案が『パラシュートの話』になったり、『幻晶騎士(シルエットナイト)追加装備(オプションワークス)としてパラシュートを付けて輝く』など話が次々と脱線していくのだが、2人にとってはいつものことであった。

 

「ふー、今日も議論しましたね」

 

「そうですねー……あ、忘れてた」

 

 そろそろ寝ようと寝床に潜り込むアルにエルは机から1枚の手紙、アンブロシウスから送られた召喚状を見せる。なにごとかとアルが召喚状を見ると下の部分に『制式量産機開発に向け、銀鳳騎士団員にデュフォールでの技術支援を命ずる』と書かれていた。

 

「……なるほど。で、誰が行くんですか?」

 

「いや、もう決まってるでしょ」

 

 召喚状から顔を上げたアルの目の前にはエルの指があった。つまりそういうことである。アルは、エルの指を見た瞬間『やっぱりかぁ』という諦めの気持ちと『誰かこの指へし折ってくれないかな』という淡い希望が同居していたのだが、淡い希望の方を隠しながら反論する。

 

「え、やです。頭部兵装でもカンカネンに行ったんですから。親方とかバトソンとか居るでしょ」

 

「親方はお披露目会が終わったら一気に忙しくなりますよ。バトソンだってそれに着いて行く形で忙しくなりますし。……アル! これは君にしか頼めないことなんです! 聞き分けてください」

 

「そうやって面倒なことを僕に押し付けるの止めてください! 僕は行きませんからね!」

 

 両者ぐぬぬと言い合いながら相手の目を睨み続ける。

 しかし数分ほどにらみ合った結果、アルは息を吐くと『分かりました』と話を了承する。決してエルの話に流されたわけではない。『制式量産機への技術支援』という命令を遂行できる銀鳳騎士団内の人材を脳内検索かけてみたが、該当者があまり居なかったのだ。

 

 魔法術式(スクリプト)やサブアームを含めた全機能への理解、作成した経緯や変更点、シルエットギアの取り扱い等、様々なことを網羅している人物は恐らくエルとアルとダーヴィドだけしか居ないだろう。しかし、ダーヴィドを主とした騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊は先ほどエルも言った通り、このお披露目会が終わった後すぐに次のタスクに入らないといけないほど多忙である。ならば当然エルかアルの2人になるのだが、騎士団の顔を向かわせるわけには行かないので消去法で自分が適任だと悟ったのだ。

 

「やだぁ! やだぁ! 兄さんと一緒にツェンドルグの1人乗りに向けた改造したいよぅ」

 

「悪いなアルフォンス。この改造計画、君の分入ってないんだ!」

 

 ドヤ顔で言ったエルは、鼻歌で『尖った髪形をしている子供が自慢話をしているようなBGM』を歌いながらアルと階下へ降りる。

 その後、既にカンカネンへ出張しているというありがたくも無い経歴があるため、とんとん拍子で出張の許可や先方への連絡を含めた準備が進められていったのである。

 

***

 

「……というわけで僕がここに来ました。これから数ヶ月お世話になります」

 

 そう締めくくりながらアルはオルヴァー達にお辞儀をして荷馬車(キャリッジ)に向かう。普通の騎士団と違ってどこか緩い印象を受けたオルヴァーは隣で『年端も行かない子供を出張なんて』と少し怒っているガイスカの肩に手を置いて『発案者が子供だから仕方ないよ』と宥める。

 

「まぁ、出張が決まった物は仕方ないのでせっかくラボで量産機作るんですからこんな物を」

 

「……ちょっと待ってください。その紙束「ふおぉ! なんじゃこの設計図は!」」

 

 アルが大量の紙束を持って2人の所へ戻ってくると、『カチッ』というガイスカの技術者スイッチが入る音がオルヴァーの耳に届いた。テンションを上げながら設計図や装備の概要を話すアルとガイスカの声に釣られ、修理が終わって暇な騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が次々とアル達の会話に参加していく。

 

「へぇ、操縦席が2つか」

 

「えぇ、従来の操縦席とエーテルリアクタが収まっている腹部辺りに詰め込みます。エーテルリアクタを後ろに押し込むのでちょっと外見が大きくなりますがバランスは取れるかと」

 

 とある騎操鍛冶師(ナイトスミス)が『トレーナー計画』と紙の上に書かれている設計図を手に持ちながら感想を言うと、アルはハキハキとした口調で答える。その設計図にはテレスターレが描かれていたのだが、腹部の魔力転換炉(エーテルリアクタ)の位置が少し背中側に移動しており、開いたスペースに操縦席が1つ増設されていた。

 

 『トレーナー計画』。それはライヒアラ騎操士学園の慢性的な幻晶騎士(シルエットナイト)不足を緩和させるために作成した計画である。このテレスターレは腹部の操縦席に熟練した騎操士(ナイトランナー)を搭乗させ、従来の操縦席には新米の騎操士(ナイトランナー)を乗せることによって実際の操縦を経験させることを念頭に設計された物である。

 さらに腹部の操縦席で行った操縦内容は全て胸部の操縦席にも反映され、新米騎操士(ナイトランナー)は操縦法の基礎を学ぶことが出来る。

 

「学園から新型機を教材にしたいと言われたのでちょっとこれ作りたいんですが」

 

「……他の工房に掛け合ってみよう。で、こっちは?」

 

「リーコンの改修版と先ほどお見せしたクリスタルプレートを運用する後方支援機です」

 

 ガイスカが頬をひくつかせながら次の設計図をアルに確認させる。そこには伸び縮みする銀の棒の先にリーコンの望遠鏡部分と大きな魔導ランプがくっついてあった。改修版と言われたそれは、リーコン自身が風に飛ばされない命綱の役割を果たしている銀線神経(シルバーナーヴ)を銀製の筒にすることで風の影響を受けにくくする改造品だった。さらに、伸び縮みさせることで気球部分を排し、代わりに大出力の魔導ランプを取り付けることによって天候関係なく信号を送れるのではないかとアルは説明する。

 

(アイデアは良いが、検証送りだな)

 

 ガイスカは内容を精査しながら結論を記憶に記して次の設計図を見る。

 パッチワークの腰にあるポーチと同様の物を腰に巻いた異様に足回りががっしりしたテレスターレ。だが、サブアームは従来の物と比べて強靭な物に変わっていた。サブアームの『握り』も手のようなものではなくカギ爪のようなものになっており、何か大きい物を掴むのだろうと思わせる作りだった。

 

 さらに人で言う股間の部分も折りたたみ式のクレーンが備え付けられており、そこには『オプションで着脱可能』という文字が付け加えられている。

 

「若造、これは?」

 

「ええ、中破や大破したシルエットナイトを回収するシルエットナイトです。強靭なサブアームによって損傷したシルエットナイトの肩を掴んで運搬したり、股間のクレーンパーツで馬車に運び込んだりとスムーズな回収作業を念頭に設計しました。もちろん先ほど紅のシルエットナイトに行ったようにクリスタルプレートを用いての迅速な魔力供給も可能かと」

 

 ニコニコと答えるアルの前でつい『若造』と言ってしまったが、ガイスカはそれを気にすることなく、アルによってもたらされた設計図の内容を実践した場合のコストや人員を指折りで計算し、オルヴァーに耳元で『とりあえず会議が必要です』と告げる。今まで工房同士の協力があまり無かったのでガイスカの言葉に驚いたオルヴァーは『良い傾向だ』と手紙を書くべく工房を後にした。

 

 それを見送ったガイスカは近くの椅子に腰掛けながら『引退はもう少し先にするか』という言葉を漏らすが、興奮が止まない騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に聞こえるはずも無かった。

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