銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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48話

 朝と夜で別のプロジェクトの試験を行うというあまり体験したくない経験を積んだ次の日。アルと第1工房の面々はデュフォールの郊外で新型制式量産機『カルディトーレ』の最終調整を行っていた。

 

 本日は『シナリオ試験』という実際の動きに似た一連の動作を行ってバグを見つける試験なので、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の一部はカルディトーレの全身に張り付きながら綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の状態や装甲の固定具合など、ハード側の不備がないように目を光らせている。その傍らでようやく導入されたモートルビートが資材を運んだり、昇降する騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の足場になったりと忙しなく動いていた。

 

「この項目の観点ってなんですか?」

 

「これは戦闘中に武器を拾って構えれるかの試験ですね。今まで出来ていた物がちゃんと出来ているか確認しています」

 

「なるほど、了解です」

 

 昨日のテストを行ったテストランナーはすでにカルディトーレの操縦席に座り、時折胸部装甲の上でしゃがんでいるアルにチェックの意味を問いながら操縦桿やボタンに軽く触りつつイメージを膨らませていく。

 

 全体的な作業の手早さにガイスカも機嫌良さそうに頷いているとモートルビートに乗ったデシレアが近づいてきた。

 

「半信半疑だったけど、本当にシルエットギアがあると作業が楽ね」

 

「ふん! 己の力で作り上げずに何がナイトスミスか!」

 

 デシレアが嬉しそうにモートルビートの腕を動かすが、それを見たガイスカがそっぽを向きながら文句を言う。だが、力強く動く幻晶甲冑(シルエットギア)の姿にちらちらと視線がそちらに向くガイスカ。その光景に『使うのも時間の問題かな』としたり顔で話を続けた。

 

「あの子が来てからね。こんなに色々代わったの」

 

「今までは新技術といっても素材や組み方がほとんどじゃからな。しかもそのほとんどが使い物にならんような物ばかりじゃったわい」

 

 デシレアは工房に勤め出してからの思い出を振り返る。

 『この新緩衝材を使えば幻晶騎士(シルエットナイト)の部材強度の底上げができる』とラボの扉を叩いたライヒアラ出身の騎操鍛冶師(ナイトスミス)の対応をした覚えがあった。調査の結果、それはとある希少で獰猛な魔獣の外皮が使われていることが分かってラボから叩きだした覚えがある。

 

 またある時はとある貴族が『私のカルダトアの腕が何もしていないのに動かなくなった!』と抗議しに来たこともあった。よく見たら関節の隙間に岩が挟まっていたことので、腹いせに大量の調査報告を書いて丁重にお帰りいただいたこともあった。

 

「そうだね。楽しいこともあったけどほとんどそんなのばっかりだったし。この開発に携われてあの子に感謝してるんだよね。爺ちゃんは知らないけど」

 

「ふん!」

 

 挑発気味に後ろの部分を強調して話すデシレアに、もう一度大きく鼻を鳴らしながらアルの方をちらりと見たガイスカは『ま、手腕は悪くない』と判断を下す。相変わらずの頑固さにデシレアは『はいはい』と適当にあしらっていると、立ち上がったカルディトーレの胸部装甲からアルが手を大きく広げながら地面に飛び降りる。そのまま魔法を器用に使って地面に着地すると、アルは大声で『シナリオ試験1から始めますよ』と叫んだ。第1工房のメンバーにとって最後の山場が始まろうとしていた。

 

「作業員全員に確認完了しました。これにてケース1の工程が全て完了しました」

 

「了解です」

 

「ケース2も作業員の確認取りました。完了です」

 

「はいはい」

 

「サブアームが続けて動きましたが、テストランナーの誤操作という証言があったため、完了にしました」

 

「了解です」

 

 作業が始まって数時間、太陽は既に真上なのにも関わらず騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は昼休憩もせずに試験に没頭していた。それを取りまとめるアルも例外ではなく、騎操鍛冶師(ナイトスミス)構文師(パーサー)達の報告を一つ一つ聞いては手元の報告書に記している。

 

(ちゃんとしたエビデンスとりたい)

 

 そんなアルの心境はひたすら『楽してぇ』という気持ちで一杯だった。エビデンス、『実際にその試験を行っているという証跡』を残したいのだが、ガイスカ曰く写真は高価かつ撮影と現像に時間がかかるという『魂が抜かれる時代の遺物』クラスの物なので使いづらく、映像も写真以上に時間が取られて満足な映像が取れないという理由でアルはひたすら作業員の証言をまとめて管理していた。

 

 とりあえず現状はこれで我慢してもらうしかないので、ひたすら作業員の言葉を聞きながら文字を書くこと数時間。歩いたり走ったりしていたカルディトーレは、それだけでは飽き足らずに攻撃や防御、法撃といった戦闘でよく使う動作を試験していき、突発的にアルが指示した『カルディトーレの掌にアルを乗せて手を上下させる』という謎の試験をもこなしていった。

 この時、アルは『籠手の中に連射型の魔導兵装(シルエットアームズ)を入れても恰好良さそうですね』とろくでもないことを思いつくのだが、周囲に誰もいなかった為止める人物はいなかった。

 

 そして周囲はすっかり夕焼けに染まる頃、ガイスカが報告書を真剣な面持ちで読んでいく。その様子を作業を終えた第1工房の面々がその様子を静かに見守っている。もし、これで不備があったら試験は翌日に延びるので騎操鍛冶師(ナイトスミス)達も気が気ではないのだ。

 

「ふむ、分かった」

 

「僕のチェックは完了しているので後はガイスカさん次第です」

 

 横にいるアルに声をかけられたガイスカは頷くと騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の方を向いて『これにてカルディトーレの開発は終了とする』と宣言した。

 

 アルがラボに来てから数か月、テレスターレという土台にダーシュという骨組みを経て制式量産機のカルディトーレという作品が出来上がった。しかも現在の制式量産機であるカルダトアができてから優に100年は経っている。そんな大それた機体を作ってしまった衝撃に耐えられる鍛冶師は居なかった。

 

『うおぉぉ!』

 

 平原に作業員の雄叫びが轟く。既に夜に差し掛かっているので魔獣が出て来る可能性も考えたら、そろそろ撤収しなければいけないのだが、喜んでいる作業員達の勢いが凄まじくなかなか撤収作業が進まなかった。

 よく見ればデシレアも騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の輪に入って騒いでいるので、アルは『しょうがないな』と呟きながら1人で撤収準備を進める。

 

「やはり若い奴らは元気が有り余っとるな」

 

「このままハンマー持たせてれば決闘級も仕留めそうですね」

 

 本当にやりかねない熱狂さにガイスカは思わず吹き出す。制式量産機の開発には流石のガイスカも興奮しているのか、普段のガイスカが行うはずがない行動にアルは少し驚く。

 

「なぁ、若造……いや、アルフォンス殿」

 

「……はい」

 

 さらにガイスカが普段なら絶対言わない様なセリフの上位に入る言葉がアルの耳に飛んでくるが、アルは何とか平静を装うことに成功した。試験の最終確認をしているかのような眼差しではなく、『同僚に真面目なことを話すような表情』でガイスカは続きを話した。

 

「おぬしが来てくれたおかげで作業がスムーズに行えた。もちろんラボの力量によるものが大きいが、シルエットギアにオプションワークス、テストに至るまでおぬしが居らねば解析にもう少し時間がかかったじゃろう。改めて礼を言わせてもらう」

 

 それは初めて聞いたガイスカの素直な言葉だった。その言葉を真摯に受け取ったアルは『こちらこそ良い経験になりました』と返礼する。2人がそのようなやり取りをしている間にすっかり落ち着きを取り戻したデシレア含む作業員はカルディトーレを動かしながら撤収準備に入っていた。

 

「とりあえず帰りましょうか」

 

 沈んでいく夕陽を背にアルとガイスカは並んでデュフォールに戻っていった。

 

***

 

「それでは、カルディトーレ開発を祝して乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 デュフォールに存在する酒場は系列店である。というのも今回のような『祝い事』をする上で人数が入りきらないという苦情に店側が対応したのが、『系列化することでの店の巨大化と収益の均等化』である。

 

 店側は入りきらない客を道を挟んだ別の系列店にお願いすることでその道全体を1つの宴会場にすることができ、個人店舗では捌ききれないオーダーも複数の店舗が連携することで対応することができる。さらに収益も山分けできるので店にとっても客にとっても良いことずくめな知恵であった。

 ちなみにその系列店の親は『某宿屋』であり、店長は悪い顔で『酒場ほど情報が集まりやすい所はねぇ』とアルに熱弁していた気がする。

 

 腸詰を食べながらそのような情報をふと思い出したアルは周囲を気にしだす。しかし、よくよく考えればそんな『密偵集団の実情』を思い出したが最後、二度と銀鳳騎士団に戻れないと悟ったアルは『煩悩退散!』と記憶をデリートするためにテーブルに強く頭を叩きつけた。ちょうどその時、『どこかの宿屋』で大きなクシャミをした男が居たのだが、アルとは多分無関係である。

 

「うわ、アルフォンス殿どうかしましたか?」

 

「いいえ、ちょっとふわふわしただけです」

 

 額から少し血を垂らしたアルがにこやかに笑うが、どう見ても怖い状況に騎操鍛冶師(ナイトスミス)が引く。そんな宴会の最中、ガイスカがデシレアを伴って機嫌よくアルの隣に座ってきたので、アルは近くのタオルで顔をぬぐうと果実水入りのカップを持って乾杯する。

 

「乾杯。お疲れ様です」

 

「お疲れ様ー。アルフォンスが手伝ってくれたから早い内に形になって良かったよ。良ければラボに就職する?」

 

 酔い気味のデシレアがアルに絡んでくるが、『兄さんが心配するのでダメです』と断るとデシレアは『ブラコンー』と口を尖らせながら別の席へ絡みに行く。その様子にガイスカはため息をつきながら『すまんな』と謝るとちびちびとエールを呑みながら語りかけてきた。

 

「だが、デシレアが言っていることも事実じゃ。今後、間違いなくシルエットナイトの進化は進むじゃろう。おぬしさえ良ければ、成人後に雇ってもらえるように局長に掛け合うぞ?」

 

「あれ、なんで僕このまま居なくなる流れになってるんですか?」

 

 アルの疑問に満ちた声が酒場を駆け、その声を聴いた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の動きがぴたりと止まった。間近でそれを聞いていたガイスカは、『陛下の命令は制式量産機の開発の手伝いじゃろ?』と問うと、アルは肯定する。

 

「確かに陛下が仰ったのは制式量産機開発の手伝いですが、開発ではい終わりはないでしょ」

 

 『開発完了がゴールではない。国内の騎士に運用法や整備法を指南して初めて開発完了といえるのではないか』とアルが言い切ると果実水を一息に飲み込んだ。だが、アルの言っていることに少し疑問を持ったガイスカはその疑問を口にする。

 

「ちょっと待て若造。おぬし何時まで居る気なんだ?」

 

「いえ、ですから国内全てにカルディトーレを納品するまではプロジェクトでしょ」

 

 ガイスカは頭を抱える。フレメヴィーラ王国全土にカルディトーレを納品するとしたら下手すると数年はかかる。それまで未成年をここに置いておくのはどう考えても外観が悪い。だが、アルの知識やアイデアは今後の作業の助けになることも事実なので、少し悩んだガイスカは折衷案を出すことにした。

 

「普及させるのはわし達に任せるが良い。だが、肝心の運用法や整備法の手引書作成をおぬしに手伝ってもらいたい。……そうじゃな。たしかカルディトーレを最初に渡すのが銀鳳騎士団じゃから、その時に帰ると良い」

 

 その提案に『銀鳳騎士団が来るんだ』と呟いたアルが突然何かを思い出したかのように手を叩く。その行動に不審に思ったガイスカが問いかけると、『最近報告会聞いてなかったんですが、トレーナー計画どうなりましたっけ?』とアルがガイスカに訊ねた。

 

「ああ、あれはカルディトーレのオプションワークス運用機能も追加する予定らしい」

 

「おー、それは素晴らしいですね。学園の皆も喜びます」

 

 トレーナー計画の素体として選ばれた『カルダトア・ダーシュ』は呼称を『カルディトーレ・トレーナー』と改められた。外見もカルディトーレに似せて作られているが、運用予定は実習機なので胸部付近の強化は忘れずに施されている。

 また、最初にアルが提示した通り、『腹部の操縦席の内容が従来の操縦席にも反映される仕様』は仕様どおり、例えば操縦桿と鐙を腹部操縦席の騎操士(ナイトランナー)が動かした場合は胸部操縦席の操縦桿や鐙も動く形で組み込まれている。

 

 既に仕様に沿った出来になっているのだが、第4工房はさらにカルディトーレの追加装備(オプションワークス)運用能力も反映することに決めたらしく、定例会で期間の引き延ばしと工員の増員を要求したらしい。

 

「工員は暇になった第2を回すし工期も問題ないが……。実際に運用してみたら思いの外かなり使い勝手が良いらしくてな」

 

 しどろもどろになったガイスカが言うには、『自分達の母校にも贈りたい』という意見が多いらしい。たしかに先ほどのような仕様の『新型制式量産機の練習が出来る機体』は、学園側としてはよだれをたらしながら欲しい一品だろう。だが、ダーシュはアルヴァンズの人数分と予備機の15機ほどしかない。

 1機は既に保存処理を済ませて記念として王家に納めているので、残り14機をどう振り分けるのか。それをライヒアラ含めた学園の卒業生が議論しているらしい。

 

「おぬしがライヒアラ在籍だから優遇されるらしくてな。予備も考えれば4機で十分じゃろう?」

 

「そうですね。学園ってフレメヴィーラでいくつあるか分からないので全部に渡すのは厳しいでしょうね」

 

 フレメヴィーラ王国で最大規模の学園はライヒアラなのだが、有力貴族の領内などにも学園は存在している。その辺の知識に疎いアルは適当に振り分けるように頼むとガイスカは『おぬしは本当に作るのみじゃのぅ』と呆れる。

 

「では、手引書が出来るまでお世話になります」

 

「うむ」

 

 いつの間にかアルの目の前に置かれている果実水入りの木杯を手に取り、ガイスカと乾杯をしたアルは一気に果実水を喉の奥に流し込んでいく。こうして新型制式量産機の完成を祝した宴は日付を越えた辺りまで続いた。

 

***

 

 その後。

 

「ここの整備手順ってどうなってましたっけ?」

 

「資料庫から持ってきます」

 

 アルやカルディトーレを作成した面々は手引書作成に奮戦し。

 

「大変だ! アルフォンス殿がまたパッチワークで遠乗りに出てるぞ!」

 

「今すぐ連れ戻せ!」

 

 いつの間にか年が過ぎて雪解けの季節になっていた。

 第1工房の火が落ちて久しく、工房の中はすっかり冷え切っていた。そんな工房の奥にある資料や製図用の机が大量に並べられている区画では騎操鍛冶師(ナイトスミス)構文師(パーサー)といった第1工房のメンバーが倒れこんでいた。どの角度から見ても事情を知らない人間からすれば立派な犯罪現場のような場所で唯一立っている老人が両手に紙束を持ちながら涙を流している。

 

「やっと……やっと出来た」

 

「長かったですね。所々手順が古かったり、口伝みたいに書面に残せない手順もありましたからね」

 

「おぬしの脱走が無ければもうちっと速く終わったんじゃがな?」

 

 ガイスカの隣で倒れていたアルが『うぐっ』と痛い所を突かれていると、工房の外からラボの局長であるオルヴァーが紙袋を数個抱えながら入ってくる。

 

「やぁやぁ、お疲れさま」

 

「おや、局長殿。陣中見舞いにしては遅かったですね。この通り、出来ていますよ」

 

 普段のガイスカと比較するとキレのない悪態をつきながら手引書を掲げるガイスカに、それほど疲弊した作業だったこと想像できたオルヴァーは苦笑いをしながら作業員に紙袋の中から魔法術式(スクリプト)焼きを手渡していく。

 

「そういえば、アルフォンス君は結局年越しも帰らなくて良かったのかい?」

 

「ええ、プロジェクトをそっちのけで休み取るとか言語道断ですし」

 

「こう言って聞かんのです」

 

 近場の資材に腰掛けながら魔法術式(スクリプト)焼きをもふもふと頬張るアルにオルヴァーがライヒアラに帰らなかったことを問いかけたが、ガイスカは首を振りながらアルに対して呆れていた。

 アルは『プロジェクト放り出して休み取るとか、逆に仕事気になって休めない』とライヒアラに帰ることを拒否。さらにガイスカやデシレアが『自分達の家で新年会でもどうか?』と提案してきたが、『やることがある』とその提案をやんわりと拒否した。

 

 なので、年末年始にアルが行ったことは少しでもスムーズに引き継げるように資料を用意したり、藍鷹騎士団が作成したシャドウラートを見て『シャドウラートを運搬できるプラットフォーム』を目指した幻晶騎士(シルエットナイト)の新型装備の設計書を起こしたりしていた。

 

 藍鷹騎士団の事を伏せて『引継ぎ資料を作ってました』と言うアルに、オルヴァーは『なんという仕事人間』という言葉を紡ぎながら頭を抱え、ガイスカは『若いうちにそれか』と同じく頭を抱えた。

 

「……まぁ、君のおかげで色々助かったのも事実だからこれ以上は言わないでおくよ。それより、銀鳳騎士団のナイトスミス達がライヒアラを出立したらしい」

 

「本当ですか!?」

 

 アルは嬉しそうな声をあげ、オルヴァーから渡された手紙をひったくりながら中身を見る。それは懐かしいエルの筆跡で書かれており、定型文のような挨拶からアルが迷惑をかけていないかの確認が書かれていた。

 そのことに『人のこと言えないじゃないか』と多少腹がたったアルが読み進めると、新型制式量産機が完成したとの報告を聞いたので、早速ダーヴィド達、騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の分隊と第1と第2中隊、それだけでは銀鳳騎士団に配備予定の新型量産機を全て移動できないので、応援としてライヒアラの教員達がデュフォールに出立したことが書かれていた。

 

「ふむふむ。では銀鳳騎士団へカルディトーレを受け渡して、騎士団が帰還するときに僕も帰る流れですかね?」

 

「話が早くて助かるよ」

 

 手紙をオルヴァーに返したアルはライヒアラからデュフォールまでの距離を計算し始めた。手紙を贈ったと同時に出立したと仮定し、その間に出来ることを考えたアルは腰を落ち着けていた資材から大きく跳躍した。

 

「とりあえず、何しましょう?」

 

「……とりあえずもクソもないわ。休め」

 

 『まだ何かやる気か』と盛大にため息をついたガイスカは、アルを無理矢理休ませることにした。その言葉が聞こえたと同時に絶望に染まったアルの顔を見たオルヴァーは、『兄弟共に幻晶騎士(シルエットナイト)作り = 趣味なんだなぁ』と再確認した。

 

***

 

 数日後、デュフォールに10台ぐらいの馬車と純白の幻晶騎士(シルエットナイト)『アールカンバー』と紅の幻晶騎士(シルエットナイト)『グゥエール』がたどり着いた。デュフォールの駐機場に案内されたアールカンバーから降りてきたエドガーがオルヴァーやガイスカにノータイムで謝罪する。

 

「本っ当にご迷惑をおかけしました!」

 

「失礼すぎません? 僕ちゃんと働きましたよ?」

 

「うん、君の事は手紙で逐一報告があったからね。年末年始も新年会をほっぽって仕事してたんだって?」

 

 うろたえるアルの後ろで周囲を物珍しそうに見渡しながらディートリヒが胸元のポケットから1枚の紙を取り出した。アルの目の前でそれを広げると笑っているエルのような似顔絵が2つほど描かれており、その上に『後2回』というおどろおどろしい文字が書かれていた。

 

(oh……仏陀フェイス)

 

「わk……アルフォンス。早く荷物纏めて来い」

 

「へぇい」

 

 その意味に気づいたアルが軽く頭を抱えるが、ガイスカがアルを追い払うように杖を振る。気だるげな声を出しながらアルは駆け足で宿屋の方に向かったことを確認すると、ガイスカは騎士団の方に向き直る。

 

「エルネスティ騎士団長に伝えて欲しい。副団長のおかげでかなり早く開発することが出来た。今後、仕立て直しはこちらに任せて欲しいとな」

 

「承知しました」

 

 礼をしながら返答するエドガーの後ろで馬車から出た騎操鍛冶師(ナイトスミス)達がデュフォール側の案内でカルディトーレと対面する。サブアームや綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)といったライヒアラ組にとって慣れ親しんだ物が見かけられるが、見知らぬ物も多々あったのでそれを質問しながら整備法を学んでいく。

 

「デシレアさんよぉ。このキャパシティフレームは防御効率はどんなもんなんだ?」

 

「デシレアで良いよ。装甲の防御力はカルダトアより少し上かな。だけど、キャパシティフレーム自体が剥がれるとマナ・プールも減るから整備するときは扱いは慎重にして欲しい所だね。間違ってもどこかにぶつけるのは駄目だからね」

 

 手引書作成中に何度もアルやガイスカに練習させられた甲斐もあってか、デシレアは淀みなく質問に答える。カルディトーレの運用法は帰りながらアルに説明してもらうことにしたダーヴィドは、デシレアの話している整備方法をメモを取りながら頭に叩き込んでいく。

 本当なら数日泊り込みで覚えたい所だが、ツェンドルグの1人乗り化や荷馬車(キャリッジ)の改造など、ラボ以上に修羅場の中、合間を縫ってデュフォールに来ているので真剣な面持ちで銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊が話しに聞き入っている。

 

 そんな騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊を差し置き、第1中隊と第2中隊は自身の乗機になるカルディトーレを受領し、操縦席に乗り込んでいた。

 

「これが俺達の機体か。せっかくだし中隊ごとでカラーリング決めようぜ」

 

「ディータイチョのグゥエールが紅だし、紅に染めるか?」

 

「じゃあ俺達は白……いや、まずは隊長に相談してからだな」

 

 上官の命令に忠実な第1中隊と自由奔放な第2中隊がカラーリングについて話しているが、その場に中隊長達は居なかった。彼らはライヒアラ騎操士学園の教官達と共に途中で合流したアルの先導でカルディトーレ・トレーナーの下へ来ていた。周囲には第2工房と第4工房の作業員が立っており、アルに向かって腕で大きな丸を作っている。

 

「すみません。お待たせしました」

 

「いえいえ、長距離行軍の準備は終わっていますよ」

 

「せっかくなので、教官の方々に変更点を見せても?」

 

 第4工房の工房長が、『良いですよ』と自身ありげに答える。それを聞いたアルが教官達の中から幻晶騎士(シルエットナイト)応用学の主教官を指名し、胸部の操縦席に座るようにお願いする。その後、自身が腹部の操縦席に乗ると操縦席に備え付けられた伝声管に『歩きます』と伝えた。これは、幻晶騎士(シルエットナイト)の拡声器と胸部の操縦席に繋がっており、授業をスムーズに行えるように騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が新たに追加した機能である。

 

「おぉ……操縦桿が勝手に動いて……鐙も」

 

「このように操縦席の動きが連動してるんです。では、教官の方で動かしてみてください」

 

 一旦立ち止まったカルディトーレ・トレーナーが再度教官の操縦によって動き出す。アルは腹部の操縦席で操縦桿の動きを見ていたが、唐突に操縦桿のボタンを押し込んだ。すると、歩いていたカルディトーレ・トレーナーが直立状態に戻り、そのまま機能が停止した。胸部の操縦席では教官が操縦桿を動かしながら首をひねっている。

 

「どういうことだ? 動かない」

 

「ええ、これはこの機体のセーフティです。緊急時には直立で停止するモードとメインの操縦系統を腹部の操縦席に集中させるモードがあるので、適宜使い分けることも可能です」

 

 『このように』と腕を動かしながら話すアルに教官達は納得する。新入生が幻晶騎士(シルエットナイト)に乗りながらパニックを起こせば辺りは阿鼻叫喚の騒ぎになる。それを未然に防ぐのがこのシステムだ。

 これで仮に生徒がパニックを起こして辺りを歩き回ろうとしても、教官役が操縦系統を掌握したり強制的に停止させれば周囲の安全も確保しつつ生徒を救える。教官達は一層カルディトーレ・トレーナーに注目した所で、アルは地面に降りると『そんな素晴らしい機体を今ならなんと4機も学園に贈呈されます』とどこかの商店の煽り文句のようなことを言ってくる。

 

「しかし、本当に良いのかね?」

 

「これは陛下やラボの局長も了承済みです。元々カルディトーレのプロトタイプであるカルダトア・ダーシュから改造しているので、倉庫で埃を被るよりはずっと良いとのことです。贈呈数については、僕が提案者なので、皆さんがおまけしてくれました」

 

 笑いながら軽く言うアルだが、所々に『陛下』や『提案者』と言った単語が散りばめられているので、それぞれの単語の破壊力に卒倒しかける教官達。ちなみにエドガーとディートリヒは『あー、いつものね』と言った具合で話を聞きながらカルディトーレ・トレーナーを持って帰る算段を立てている。

 

 その後教官達もようやく正気に戻り、カルディトーレ・トレーナーと共に第4工房を出ると、既に日が暮れていた。本来なら夜間の行軍は危険度が跳ね上がるためにデュフォールで一泊するのが正解なのだが、『こうしている間にも騎士団長が何してるかわからん』というダーヴィドの妙に説得力のある一言に教官達も首を縦に振るしかなかった。

 

 ***

 

「それでは、お世話になりました」

 

「ええ、また何かあればよろしくお願いします」

 

 オルヴァーやお世話になった面々に握手をし、アルはパッチワークに乗り込んだ。周囲には受領を果たしたカルディトーレやカルディトーレ・トレーナーが列を成しており、馬車も先ほどライヒアラに向けて歩き出していた。

 

「アル。俺達も行くぞ」

 

「了解」

 

 エドガーに促されたアルはそっと操縦桿を操作してパッチワークをライヒアラのほうに向かわせる。鐙を押し込んでパッチワークを歩かせる中、アルは来た当初の事を順番に思い出していた。

 

(スクリプトの講習に新型機、トレーナー計画。出来ないことも沢山あったけど楽しかったな)

 

 今後は追加装備(オプションワークス)幻晶騎士(シルエットナイト)も様々な進化を見せるだろう。その生まれのほとんどは銀鳳騎士団かもしれないが、そんな原石を立派な量産型に仕立て上げるプロフェッショナル達の仕事ぶりを目の当たりにし、アルは大きく感銘を受けるのだった。




これにてシルエットナイトラボラトリ辺終了です。

ナイツマ小説版10巻9月30日発売ですってよ奥さん!
これは買うっきゃナイツ!
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