銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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銀鳳騎士団編 中等部最高学年の章
49話


 デュフォールを発った銀鳳騎士団とライヒアラ騎操士学園の教官一行は、数日かけて自身の拠点であるライヒアラへ帰還した。

 行きは幻晶騎士(シルエットナイト)が2機だったことに対し、帰りは幻晶騎士(シルエットナイト)が2個中隊あまり……しかも、アンブロシウスがお触れを出したばかりである件の新型制式量産機という事実に、学生のみならずライヒアラ全体が沸き上がった。おそらく、数日はお祭り騒ぎだろうと道行く人々の反応を見ながら全員はライヒアラ騎操士学園の門をくぐる。

 

「うぼぁー、疲れた。あ、トレーナーの方は校庭に出しておいてください。カルディトーレの方は工房で整備をお願いします」

 

 パッチワークから降りたアルは心底疲れたような声を出しながら腰を捻ると、バキボキッという齢10代前半が出してはいけない音が聞こえてくる。その音を聞こえなかったふりをした教官達と共にアルはカルディトーレが工房へ進む足音をBGMに学長室の扉の前まで足を運んだ。

 

「ラウリ校長、アルフォンスです。帰還の挨拶と報告に参りました」

 

「む、アルか。入りなさい」

 

 ノックの後に続く挨拶にラウリは入室を許可すると、アルと数人の教官が入ってくる。全員が学長室に入ると、アルが騎士の礼をしながら『アルフォンス・エチェバルリア、デュフォールより帰還しました。長期間学園を開けていたことを含め、ご迷惑をおかけしました』と謝罪する。

 

「事前にエル……騎士団長から話が来たから構わん。詳しい報告を聞こう。アルフォンス教官以外は通常の業務に戻って欲しい」

 

「承知しました」

 

 ラウリの指示にぞろぞろと教官達が退出し、残ったのはラウリとアルのみとなった。そして、少しばかり肩の力を抜いたラウリが机の中から酒瓶とグラスを取り出す。

 

「お祖父様、学園ですよ?」

 

「少しばかり良かろう。それに、酒の力を借りねばお前達のしでかしたことを飲み下せんわい」

 

 『陛下の相談役だった頃もやっておったしな』と言いながらラウリがアルに手で座るように指示しながら自身もソファにどっかりと座り込む。アルも酒の匂いが部屋に充満することを避けるために窓を開けた後にソファに身を沈めた。

 

「……さて、アルがデュフォールに行ったのは新型機の開発を手伝うためと認識しておるが、合っておるか?」

 

「はい、合ってます。その結果、新型制式量産機のカルディトーレの開発が完了しました」

 

 ラウリとアルの会話が一旦途切れる。まずは軽いジャブの打ち合いである。

 

 長い沈黙を経て、ラウリは懐から数枚の紙を取り出してアルに見せる。そこにはデュフォールでアルが着手したプロジェクトのリストや、銀鳳騎士団が受領した幻晶騎士(シルエットナイト)の種類と数。そして学園に贈呈される新型、カルディトーレ・トレーナーの数が記されていた。アルの筆跡ではないので、恐らくガイスカやオルヴァーが書いて送ったのだろう。

 

 そんなことを考えていたアルの前でラウリがカルディトーレ・トレーナーの数を指差しながら問いかけた。

 

「なんで制式量産機の他に教導機なんて物を作っておるのかのぅ?」

 

「学園が保有しているシルエットナイトではテレスターレ型の実地訓練には不足と考えて作りました」

 

 アルが発した返事の威力に思わずラウリは酒の入ったグラスを大きく傾ける。たしかにテレスターレ型は従来の幻晶騎士(シルエットナイト)と異なる操縦技量が必要になることは銀鳳騎士団を通じて報告を受けている。しかし、『足りないから作りました』とあまりにも軽過ぎる対応に、ラウリは頭を抑えながら唸る。

 

「また、テレスターレの操縦とカルディトーレの操縦はかなり異なります。なので、テレスターレで訓練するより専用の練習機を作った方が学生のためになると思ったのも理由ですね」

 

「しかし、せいぜい1機ぐらいだと思ったが4機とは……全員納得した上かの?」

 

 『新型機の練習が出来る機体』という素晴らしい性能を誇るカルディトーレ・トレーナーの配備数に裏があるのではないかとラウリが疑うが、『発案者権限でいただきました』とアルが笑顔で言った。

 

 そんな孫の姿にラウリはまたしてもグラスを大きく傾け、新たに酒瓶から液体を空になったグラスに注ぐ。もはや自棄酒である。

 

「贈呈されたものは仕方がないが、今度から学校に何かする時はわしにも報告してくれ。……いや、報告はしてくれたが、贈呈される数とか細かい数字の場合は必ず報告してくれ」

 

「承知しました」

 

 現在のアルは銀鳳騎士団の副団長と共に学園の教官なので、報告すべき上司が2人居る。なのでエルと各自の進捗を手紙を通して報告し、さらにその手紙をラウリにも見せるように手紙で念を押していたりする。

 

 だが、カルディトーレ・トレーナーを作るに至った経緯や、贈呈されるということは報告書に書かれていなかったので、ラウリにとって『突然帰ってきた孫が新型制式量産機の練習機を4機も引っさげてきた』という脳の処理が追いつかない事態に陥ったのである。

 そして、報告を求めたら先ほどの通り、『実地訓練に不足を感じたから作った』や『発案者だから4機も都合してもらった』という結構アレな回答にとうとうラウリは匙を投げた。

 

「頼むぞ……ところで、アルはもうすぐ3年生じゃが、授業には出るのか?」

 

「ええ、礼儀作法や書き取り、戦闘技能にはたまにモデルや教官として出席してますよ」

 

 『お前らまだ居座るの?』と聞こえそうなラウリの言葉に、アルは指折りながら出席したい授業を言っていく。騎士団を運営するためには礼儀や計算は必要不可欠である。そして、戦闘技能は他人に教える練習にもなるので、これもアルにとっては必須ともいえる授業だった。

 

「実はな……シルエットギアを使わせて欲しいと各科から要望が来ておってな。アルだけでは手が回らぬと思ってエルにも話したが、最終的に銀鳳騎士団が指導する話になったんじゃ」

 

「それでは、日程の調整とかで僕の業務が増えるという感じですか?」

 

「いや、シルエットギアはアルを除いた銀鳳騎士団の団員に任せて欲しいとのことじゃ。アルは自分の担当科目の教官と連携を密にして欲しい」

 

「承知しました」

 

 アルが返事をすると、言いたいことを言ったのかラウリは『わしからは以上じゃ。土産話は家に帰ってから楽しみにしとるぞ』と笑いかけられる。その笑顔にアルも笑顔で返し、退室の礼をしてからアルは学長室を後にした。

 

***

 

「アル、長期の単身赴任ご苦労様です」

 

「おーつかれさまでーす」

 

 ラウリへの報告が終わったアルが工房へ入ると、ツェンドルグ改造の陣頭指揮を執っていたエルと出くわした。どこから調達してきたのか『黄色と黒のストライプ柄に塗られた鉄帽』を被ったエルが気軽に挨拶してきたので、アルも間延びした挨拶を返す。

 

 しかし、その瞬間エルがアルの肩を潰すような力を込めながらにじり寄ってきた。表情が終始笑顔なのが、アルの恐怖心をさらに煽る。

 

「毎回怒るのも面倒なので仏陀システムを実装してみたのですが、いかがですか?」

 

「分かってます。分かってます」

 

 自分の肩からエルの手を無理やり剥がしたアルは、なにか兄の気を逸らす物がないか周囲を見渡す。すると、奥の方でツェンドルグの装備である荷馬車(キャリッジ)の試験を行っていた。だが、アルにとって荷馬車(キャリッジ)とは金属と木製のパーツで構成されており、幌がかぶせられていた物だったはずである。しかし、目の前にある荷馬車(キャリッジ)はフレームや外装に至るまですべて金属で構成されており、幌だった部分も堅牢な金属の扉がついていた。

 

「兄さん、あれは何ですか?」

 

「ん? ああ、戦闘用のキャリッジですよ」

 

 エルは何気なく答えていると、試験を行っていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)銀線神経(シルバーナーヴ)板状結晶筋肉(クリスタルプレート)をつなぐ。するとぴったりと閉じていた金属の扉が左右に開き、中からテレスターレが飛び出してきた。

 

「成功ですね」

 

「うーん、僕もあれ欲しいですね」

 

 その様子に『敵からの攻撃から幻晶騎士(シルエットナイト)を守るための装備』と理解したアルは、エルに装備のおねだりをする。しかし、エルは『焦らない焦らない』とその提案をやんわり拒否し、工房の片隅から大きめの紙を持ってくる。

 

「これは僕の書いたキャリッジです。コンセプトはベヘモスでも倒せる火力です」

 

「うわ、なんですかこの重装備」

 

 フレキシブルコートに設計段階だがカタログスペック上ではアルの作成した狙撃型の試作品よりも高出力の魔導兵装(シルエットアームズ)、最後に展開すると左右の敵を切り刻むことができそうな大きな剣。ツェンドルグの2頭立てでも贅沢だというのに、さらなる増し増しを望む兄。そんな兄を見て少しげんなりしたアルは、『魔導兵装(シルエットアームズ)関係ですね?』と問うと、エルは『流石ですね』と答えた。

 

「いや、ここだけ設計段階で残すのは逆に気持ち悪いでしょ」

 

「まぁまぁ、アルにはこのキャリッジの主砲を作ってほしいんですよ。試作品のあれを乗せても良いのですが、どうせならもうちょっと火力欲しいじゃないですか?」

 

「一応アレ、決闘級も当たり所次第で即死級なんですが」

 

 デュフォールで遠乗り(脱走ともいう)を行った際、たまたま近くに決闘級と戦っていた幻晶騎士(シルエットナイト)の集団と遭遇することがあった。援護射撃と言い訳しながら魔獣の腹部を狙って法撃を放った結果、法撃は腹部で止まるはずが突き抜けてしまい、魔獣を絶命させてしまったのだ。

 そんな経験から、これ以上強化しても小回りが利く代物にならないとエルを説得するが、エルは『アルの荷馬車(キャリッジ)も用意しますから!』と聞く耳を持たない。そもそも騎士団の装備を個人用にして良いのかと普通の騎士団なら抗議されることだが、銀鳳騎士団は『普通』の範疇を超えている存在なので、誰も気にする者はいなかった。

 

「分かりました。僕もいい加減あの試作品を完品にしたかったですし、やりますよ。……あ、兄さん。後お願いがあるんですが」

 

「ええ、良いですよ。アルの作る物はたまーに変な物が混じりますが、色々面白いので「エーテルリアクタをキャリッジに付けたいのですg」……あ"ぁ”っ?」

 

 工房中にドスのきいた、割と大きい声が響いた。声の出所はアルの話を笑顔で聞いていたエルである。

 しかし、先ほどまで笑顔だったエルは、アルを親の仇のように睨みつけながら先ほどの声を聞いて動きを止めたアルの胸ぐらを軽く掴んでいる。その光景は誰が見ても一触即発の空気だったが、中隊長達や騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の隊長であるダーヴィドでさえも軽々と入り込めない程の圧力をエルから感じ取っていた。

 

「君は……シルエットナイトが好きじゃないんですか? この前もシルエットナイトの動力源を砦にくっつけるとか変なこと言ってましたよね? それにキャリッジにエーテルリアクタなんて無用の長物でしょ? なんでつけるのか理由を言いなさい。ハリー! ハリーッ! ハリィ!」

 

 仏陀フェイスが瞬く間に2つ消し飛び、ブチギレながらアルを激しく揺するエル。アルにとっては数分に思えるほどの数秒が経過した後、やっと手を放したエルはいまだに興奮冷めぬという感じでアルのことを見下している。

 

「ゲフン……あー、酷い目にあった。っとエーテルリアクタをつける理由ですね。1つ目の理由はパッチワークの大きさです」

 

 アルの説明に、エルはパッチワークの全容を見る。テレスターレや先ほど運ばれてきたカルディトーレよりも一回りほど大きい姿に、エルは『大きくなるのか』と結論付けた。ツェンドルグでもあったが、魔力転換炉(エーテルリアクタ)は値段も高価だが、積み込むスペースも膨大である。さらに機体バランスやらも考えると、複数搭載した機体が大きくなるのも当たり前のことだった。

 

 エルの答えに、アルは『正解です』と指をぱちんと打ち鳴らした。

 

「パッチワークはもう大きさ的にも限界です。実験と称してどこまで連結して出力上げれるか試してみたい所ですが、パッチワークが『犠牲はツキモノデース』になるのも嫌なので、キャリッジにエーテルリアクタを付けることにしました」

 

「キャリッジに武装でも積み込むのですか?」

 

「ええ、とりあえずラフですが書きますね」

 

 そう言うとアルが大きめの紙を広げてその上にペンを走らせる。しっかりした製図の技法で描かれていないためか、ところどころの大きさが異なっている荷馬車(キャリッジ)を紙の真ん中に描き、その横に矢印を引きながら各パーツをこれまた形が最低限分かるような出来で書きだす。

 

「アル、エーテルリアクタを設置する理由ってこの内容だと装甲の強化しか使ってないのですが」

 

「これから武装描きますよ。エーテルリアクタを入れた主な理由は、これとクリスタルプレートの充電装置なんですよね」

 

 大きな紙の端っこに魔導兵装(シルエットアームズ)の設計図のような物を描きだしながら、アルは今回の改造をパッチワークにではなく、荷馬車(キャリッジ)に施す理由を話し出した。

 

 アルの作り出した魔導兵装(シルエットアームズ)は、カルディトーレが使用しているラボが作成した板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を用いることで放てる法弾の量が増えた。しかし、放てる量が増えたということは貯蓄される魔力が増えたということなので、結果的にパッチワークの2つもある魔力転換炉(エーテルリアクタ)の生み出す魔力よりパッチワークや魔導兵装(シルエットアームズ)が消費する魔力が増えると計算上分かったのである。

 

 幸い、減り幅は微々たるものなので直ちに影響はないが、不安を感じたら改造するのがエンジニアの性質である。だが、パッチワークの図体的に本体の改造を早々に諦めたアルは、魔力転換炉(エーテルリアクタ)荷馬車(キャリッジ)にくっつけようと考えたのであった。

 

「まぁ、理由はわかりました。……で、肝心のシルエットアームズがそれですか?」

 

「はい、ナンブを高火力にした物です」

 

 『ナンブ』。アルが開発した中で高い連射能力を有するが、手やサブアームに持つタイプの魔導兵装(シルエットアームズ)を馬車にわざわざ乗せる必要があるのかと疑問を持ったエルが設計書を覗き込む。すると、エルが今まで考えていたマシンガンのようなタイプではなく、どちらかというと要塞に設置されている重機関砲のようなしっかりとした台座が下についた大型の魔導兵装(シルエットアームズ)荷馬車(キャリッジ)に設置するらしい。

 

「装甲車のような感じですか?」

 

「いいえ、これはタチャンカを基にしました」

 

 アルの返事に兵器について疎かったエルは思わず聞き返す。

 

 『タチャンカ』

 ロシア辺りで開発された馬車で、後部に機関砲が搭載された兵器である。第1次世界大戦中は機動力 + 火力のこの装備が大活躍したという記録も残っている。それを偶然ネットの海を彷徨っていたアルの脳裏にこびりつき、後は御覧の有様である。

 

「まったく……今回はネタ兵器にならないと思いますが、そこらへん気を付けてくださいよ。何かあったら止めますからね」

 

「えー、オルヴェシウス砦の上から爆発する石臼を転がそうとしただけじゃないですかー」

 

「他にも色々変なの思いついたのは忘れてませんからね」

 

 『今回は』という単語を特に強調したエルに、数十年ほど後に『成功作も多かったが、それよりも設計段階で様々な人物に止められた作品が多い人物』として本に取り上げられる少年は、どこ吹く風のように吹けてもいない口笛を吹いていた。そんな中、やっと近づけると判断したダーヴィドはエル達に近づく。

 

「とりあえず、作業開始すっぞ」

 

「はい、まずはアルのキャリッジから試作します。見た目的にはあれですが、性能として考えるなら遊撃に使えそうですし」

 

「了解だ」

 

 班員を編成すべく、ダーヴィドはノシノシと工房の奥へ歩いていく。

 その姿を目で追いながら、エルは『量産できる性能なら良いですね』とアルに声をかける。先ほどは、言うなれば『ロボ好きの前でロボプラモの武器やパーツを戦車や城のプラモにくっつける』に近しい暴挙を聞いたせいで『少しばかり』興奮したが、よく考えれば『ロボを華やかせるサポートメカ』だと気づいたのだ。

 

「そうですねー。あ、もちろん兄さんのに取り付けるシルエットアームズは任せてください」

 

「頼みましたよ」

 

 いつもの調子で2人はハイタッチを交わす。こうしてアルはデュフォールで行われてきた非日常から銀鳳騎士団でいつも行われている日常へ帰ってきたのだった。

 

***

 

 アルがライヒアラに帰ってきて1ヵ月後、彼の学び舎であるライヒアラ騎操士学園は再び卒業シーズンを迎えていた。既に全学年のカリキュラムも全過程修了し、成績が悪かった者への対応も無事終わったある日の休日。

 

「づかれだ……」

 

「かなりの盛況だったからな。無理もない」

 

 銀鳳騎士団の拠点である工房では、中隊長達が疲労困憊の様子で机にうつ伏せになり、アルも同じ様子で工房の床に倒れこんでいた。工房の外からは夕焼けが入り込み、倒れているアルの全身を照らす。アル達がこのような状況になっているのは、主にアル自身のせいでもあった。

 カルディトーレやカルディトーレ・トレーナーの存在は瞬く間に学生全体に周知された。そこで異議を申し立てたのは今年卒業する騎士科の生徒達であった。要約すると『少しでも良いから今後乗るであろう新型制式量産機の操縦をしてみたい』とのことだったので、アルが高等部の教官達に話をつけ、休日にカルディトーレ・トレーナーの訓練と称した試乗会を開催したのだ。

 

 もちろん卒業予定の騎士科の学生は喜びながらカルディトーレ・トレーナーを乗り回し、この試乗会は大成功……かに見えた。

 

「今度から卒業予定者だけにしましょ。あと、機体乗ってくるのも禁止で」

 

「異議なしです」

 

 ヘルヴィの声にアルも同意する。

 試乗会も終わりを迎えた頃、こともあろうか我等が騎士団長がツェンドルグの後継機『ツェンドリンブル』と試作が済んだアル専用荷馬車(キャリッジ)の『フォートレス』に積み込んだカルディトーレを試乗会に持ち込んだのである。もちろん、新型制式量産機を見た全員が盛り上がったのは言うまでもないが、現場が一際混乱したのは言うまでもない。

 

 エルによれば『テストの帰り』とのことだったが、押し寄せる質問の対応が一苦労だったので、二度とこんなことはしないで欲しいとエルに釘を刺したアルであった。

 

 また、『暇だった!』とライヒアラ騎操士学園の教官が試乗会に乱入して学生達の誘導を無償で行ってくれてはいたが、チラチラとカルディトーレ・トレーナーの方に視線を向けて『乗りたいな』と呟いていたことをアルは見逃さなかった。

 

 結局、卒業予定者と教官、祭りの会場を間違えたロボキチ(エルネスティ)を全て捌いたアルは試乗会の片付けを終え、工房にたどり着いた瞬間にエネルギーが枯渇して床に倒れこんで今に至る。

 

「あー、やっぱり」

 

「ほら、エルが行こうって言うから……」

 

 アルが床の冷たさを味わっていると、工房の入り口から大きい馬蹄のような音と共に数機のツェンドルグ型が入ってくる。そのままアルの傍まで歩いていって駐機状態になると、中からエル達が降りてきてアルの周囲を取り囲む。そのまま微動だにしないアルの耳元でしゃがんだエルが『フォートレスの運用テストしましょう』と言うと息を吹き返したアルがむくりと起き上がる。その様子にキッドは『兄貴に似て現金だなぁ』と呆れ、アディは『そこも可愛い』と相変わらずの反応を示していた。

 

「それじゃあ、パッチワークは……お色直し予定ですし。カルディトーレ借りていきましょうか」

 

「うぃーっす」

 

 アルはダーヴィドのほうに歩き出しながら横目でパッチワークを見た。簡単に動かせないような措置を取られ、そこら中にキャットウォークなどの足場が組まれた相棒にわずかな寂しさを感じるが、これも必要なことなのだと頭の中で自分を宥める。

 

 パッチワークはエルの乗機であるトイボックスと共にカルディトーレで使用された新技術である『キャパシティフレーム』に換装する予定である。そのためエルがこうやってツェンドリンブルに乗ってアーキッド兄妹と共に遊び回っているのだが、『こそこそと変なことをされるよりは良い』とのことで銀鳳騎士団の重鎮は意見を一致させてエル達を放置している。

 

「搭乗完了、出してください」

 

「トーイングアンカー接続完了。出ます」

 

 ダーヴィドの許可を得たアルがカルディトーレに乗り込み、フォートレスの荷台へ乗り込む。

 そして、アルがフォートレスに備え付けられた大型の魔導兵装(シルエットアームズ)の取っ手を握りながら法撃をぶっ放さないようにセーフティを確認しながらエルに呼びかけると、ちょうどフォートレスとツェンドリンブルの接続が完了したエルが返事をする。

 

 やがてツェンドリンブルが脚部に力を込めるとフォートレスも動き出し、彼らはライヒアラの外に向けて移動していった。

 

「ああやって後ろで魔獣に攻撃するのか。こうして形にしてみたら様になってるよなぁ」

 

「ほら、私達も追いかけよ? 外に出たらエル君のことだから走り回るよ」

 

 フォートレスの銃座でアルが魔導兵装(シルエットアームズ)を左右上下に移動させて異常がないか確認している姿を見てキッドが感想を漏らすが、アディは早く行こうとキッドを囃し立てた。

 

「城門通過ー。これより全力機動に入りますが、その前にリーコンで周囲の状況を確認してください」

 

「了解」

 

 アルはフォートレスに備え付けられている幻晶騎士(シルエットナイト)の指先でやっと押せるボタンを押すと、フォートレスの前方の装甲が稼動し、中から単眼鏡がくっついた銀の棒が姿を現す。そのまま銀の棒は天高くに延びていき、ライヒアラの城壁を超えた当たりで停止した。

 

「カルディトーレのジャックは……篭手に……あった」

 

 銀の棒が完全に停止したことを確認したアルが操縦桿を動かすと、カルディトーレの指先がフォートレスに備え付けられている銀線神経(シルバーナーヴ)を器用につまんで自身の篭手にある小さな穴に銀線神経(シルバーナーヴ)の先の端子を接続する。すると、カルディトーレの魔導演算機(マギウスエンジン)に仕込まれている追加装備(オプションワークス)用の魔法術式(スクリプト)が動き出し、カルディトーレの幻像投影機(ホロモニター)の隅に上まで上がった単眼鏡が見ている景色が映し出された。

 

 そう、これは風に流されるという欠点を解消したリーコンである。まだ改善点も残されている代物だが十分に稼動できているので、その結果にカルディトーレの操縦席に居るアルは満足げだった。

 

「周辺に誰も居ませんね。馬車も確認できません」

 

「了解。それではキッド、アディ。行きますよ」

 

「おう」

 

「ツェンちゃん行くよ!」

 

 周囲の安全を確認し、リーコンを仕舞い込んだフォートレスの左右に2機のツェンドリンブルが並ぶ。それぞれから力強い返事が聞こえたので、嫌な予感がしたアルが『お手柔らかに』と言った瞬間だった。

 

 周囲の景色が飛ぶように流れ、続けてがくがくと揺れる振動にアルは絶叫する。ツェンドリンブルが持ち前の脚力をフルに活かして街道を駆け抜けたのだ。もちろん、ツェンドリンブルやフォートレスのような荷馬車(キャリッジ)にも『安全性を考えて設定したリミッター』は存在している。だが、ここに居るのは『ツェンドリンブルのリミッターを作った人物』である。ちょちょいといった具合に気軽にリミッターを解除したエルは機嫌良さげに周囲の景色やツェンドリンブルの状況を見るという離れ業を行いながら街道を爆進していた。

 

「クリスタルプレート充電装置停止……全ての魔力をハードスキンに回して……」

 

 そんな中、アルは未だカルディトーレの篭手に繋いでいる銀線神経(シルバーナーヴ)を介してフォートレスの操作を行っていた。追従しているキッド達の速度から見るに、事前に聞かされていたリミッターを外していると想像がついたので、フォートレスが自壊しないように必死になりながら操作を続ける。

 

「にいさーん! これもチェック観点の一つですよねー!」

 

「そうでーす! ついでなのでやっちゃいましょうー!」

 

 拡声器越しに会話のやり取りが行われる。

 幻晶騎士(シルエットナイト)はリミッターを外して魔力をかなり食らうような行動を取っても即座に自壊しないように作られている。だが、本当にリミッターを越えても自壊しないかテストを行う必要があるのだ。

 ちなみにこのテストには熟練の騎操士(ナイトランナー)がテストに携わるのだが、銀鳳騎士団で一番この機体について知っているのは間違いなくエルなので、問題はない。

 

 ともかく、リミッターを越えた上でぎりぎりまで魔力を使うテストの為に現在走っているのだが、それに付き合わされたアルはたまったものではなかった。必死に魔法術式(スクリプト)を動かしながら拡声器に向かってツェンドリンブルの状況を確認し、テストが終わったのかやっとツェンドリンブルが停止した時には既にアルの意識はヴァルハラに向かって旅立とうとしていた。

 

「あちゃー、さすがに人乗せた状態でのリミッター外した走行は無茶しすぎましたね」

 

「アル君怒るよ、きっと」

 

 呆れるアディの横でエルがやりすぎたと反省する。

 その後、魔導兵装(シルエットアームズ)の試射もせずに帰ったことでアルの機嫌が悪くなり、後日にフォートレスに取り付けられた魔導兵装(シルエットアームズ)の試射を行われた。その結果、高威力かつ高連射の法弾がフレメヴィーラ周辺の地面を耕し過ぎてフレメヴィーラを管理する貴族やギルドにこっ酷く叱られるのだが、それはまた別のお話である。




UAも9万を突破しました。
今後も続けて生きますので、変わらぬ応援よろしくお願いします。
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