銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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時系列的に50話の実習に行く前の話です。


幕間(給与について/ストレス解消について)

**給料の章**

 

 騎士とは他の国では戦力の花形と言われているが、魔獣はびこるフレメヴィーラ王国では魔獣から民を守る盾、魔獣を民から遠ざける刃となる職業である。

 

 そう、職業なのだ。つまり、何が言いたいかと言うと──

 

『給料日だぁー!』

 

 ライヒアラ騎操士学園の工房からものすごい咆哮が聞こえる。工房のすぐ近くに建てられている鍛冶科の教室の窓から鍛冶科の教官が何事かと顔を覗かせるが、規則正しく並びながら巾着のような何かを受け取っている銀鳳騎士団の団員の姿を見ると、自身もそろそろ給料日だということを思い出したのかニヤニヤしながら授業に戻っていった。

 

「今月は魔獣と戦っていないから少なそうだね」

 

「その代わりシルエットギアや高等部騎士科への教導手当てってことで少し増やしてますよ」

 

 ディートリヒの言葉にエルがほくほく顔で答えるが、机に突っ伏したアルが周囲に瘴気のような淀んだ空気を撒き散らしながら『疲れた』と呟いた。それを見たエドガーがエルになにかあったのか聞くと、エルは一言『久しぶりに給料の計算をして疲れたんですよ』と答えた。

 

「え、これアルフォンスが計算したのか?」

 

「はい。ちなみにデュフォールに出張してる時以外、全てアルが給料計算とかの雑務をしてましたよ」

 

「兄さん、何かと言うとすぐ逃げますからね。そろそろ僕も出るとこ出ても良いんですよ」

 

 指で電話を耳にくっつけるジェスチャーをしながら脅すアルだが、この世界に労基やオー人○などないので、エルはどこ吹く風で聞き流す。そんな漫才をしているとエドガーが少し考えながらディートリヒやヘルヴィと話し合いながら『そんなに大変なら給料だけでも手伝えないか?』と聞くと、アルは首を横に振った。

 

「お金のことなので申し訳ありませんが、今は1人で作業したいんです」

 

「そうはいうが、手分けしたほうが早く済むんじゃないか?」

 

「んー、ヘルヴィさんが居る前で言うのもなんですが……。金貨1枚でも失くしたら最悪下着まで脱いで捜索する羽目になるので、人が増えるとその分ややこしくなるんですよね」

 

 アルの思いがけない行動に全ての団員が目を剥きながらアルを凝視する。とはいうものの、給料を預かるということはそういうことである。たとえ金貨1枚でも紛失した場合、アルの給料から天引きされるので増員するとそれだけ紛失するリスクが高くなるのだ。

 

「でも、それだけ疲れる? 普通に数えていくだけでしょ?」

 

「あー、団員が増えたら中隊長の皆さんと分業する可能性もあるので話しておきましょうか」

 

「……僕だけ聞かなかった事にしていいかい?」

 

 やる気を感じられないディートリヒを見たエドガーとヘルヴィが無言でディートリヒの肩を掴んで机に無理矢理座らせてから自分達も座ると、それを見たアルが口を開いた。

 

「給料の計算は2日ぐらい前からやるんですよ」

 

***

 

 給料日から2日前。アルはライヒアラ騎操士学園の校門で馬車に座る恰幅の良い男と握手をしていた。

 

「今月もよろしくお願いします」

 

「はい。アルフォンス殿が戻られたようで安心しましたよ。団長閣下は……その……」

 

 若干言い辛そうにしている男にアルは苦笑しながら『また、ポカやらかしたな』と確信する。エルはロボの事に関しては超一流のそれだが、騎士団運営に関する雑務に関しては現在修行中だ。

 アルも修行中の身だが、少なくとも大半の授業をボイコットしていたエルよりは雑務に関しての知識があるので、男は雑務についてはエルよりアルを信頼していたりする。

 

「それでは馬車を中へ。既に皆様お集まりなので」

 

「わかりました」

 

 男が手綱を叩いて馬車を学園の中へ入れる。そのままあまり使っていない来客用の廊下近くに馬車を止めると、アルは近くの茂みに隠していたモートルビートに搭乗して馬車の中に積まれている木箱を1個担いでから男と共に学園の中へ入る。

 来客用の廊下を歩いて少しした所にある部屋にアルが入室すると数人の男が待っており、アルは男達の中心に置かれているテーブルの上に木箱をそっと置くと全員に向かって礼をした。

 

「本日はご足労いただきありがとうございます」

 

「こちらこそ。それでは早速確認いたしましょう」

 

 部屋の中に居た男が手に持った釘抜きのような工具で木箱の蓋を開けると黄金に輝く金貨が彼らの顔を照らす。そう、これは銀鳳騎士団の全団員がもらう予定の給与である。

 先ほど木箱を運んできた王家御用達の商人である『パリス・ルゴン』が今回運び込んだ木箱が書かれた紙をアルに渡し、アルがそれを確認してサインをする。

 

「金貨1箱分、今回は大が1つですね。確かに受領しました」

 

「それでは、鑑定致します」

 

 アルが紙にサインしたことを確認した部屋に居た男達、商人ギルドから派遣してもらったギルド公認の両替商達がそれぞれはこの中から金貨を1枚取り出すと自前で持ってきた天秤に金貨や重しを乗せる。

 

 なぜ金貨が木箱で管理されているかと言うと、これはアルも知らなかったことだが大量の貨幣を管理しやすくするためらしい。規則正しく詰め込まれた金貨は少しちょろまかすとその分のかさが減るので盗まれたことも確認しやすく、袋に比べると堅牢なので重宝するらしい。

 

 そして、金の含有量が低い金貨や刻印が入っていない金貨が混ざっていないか確認するために数人の両替商で数枚ほど確認してからようやくアルが給与の計算を始めるのだ。それでも含有量の低い悪貨が混ざってしまうのは防げないのだが、これ以上検査に時間とコストをかけられないので検査を行う人員は数人の両替商のみにし、確かめる金貨も箱の中から数十枚だけに留めていたりする。

 

「問題ないです。金貨にも造幣所の刻印が刻まれてますね」

 

「こちらも問題ないです。国が制定してる含有量圏内ですね」

 

「承知しました。それでは皆様、本日はお疲れ様でした」

 

 パリスや両替商達が退室すると、アルは机の上に用意していた巾着と各団員の今月の活動表のような物を取り出し、アルは服の中に金貨が入らないように下着一枚の姿になる。そして、誰も居ないことを良いことに少しだけ除霊かつ元気の出るらしい奇行(びっくりするほどユートピア)をすると、妙にすっきりした顔で黙々と給料を巾着に入れていった。やばいと思ったが、本当に元気が出るのか好奇心を抑え切れなかったので仕方がなかったのである。

 ちなみにアルは露出の気はないので、しっかり下着をはいた状態だということをここに記しておく。

 

 入れていく最中でも造幣所の刻印が刻まれていることを確認していき、団員全ての給料が巾着に納まる頃には既に日がとっぷり沈んでいた。

 

「あー、づかれだ」

 

 アルは凝り固まった肩をほぐしながら巾着を全て木箱の中に移し、それを持って騎操士学園の工房に急ぐ。もう既に業務が終わったのかダーヴィドも居ない静かな工房の中をアルは木箱を両手に持ちながら進み、パッチワークの操縦席の裏側に給与の入った木箱を隠した。エルとは違って操縦席をアルぴったりの仕様にしてもらっているパッチワークは、座席の後ろ側が割りと隙間がある。それこそエムリスクラスの大男を入れても大丈夫なぐらいなので、給与の入った木箱は難なく納まるのだ。

 

 盗難に関しても、別の騎士団である藍鷹騎士団に給与の管理をしてもらうのも違う気がするし、かといって家に持ち帰るのも管理と言って良いのかわからないので、アルはパッチワークという相棒の操縦席の後ろと言うどう考えても重要な物を隠さないと思われがちな所に重要な物を隠した。

 

「ライヒアラに貸し金庫とか本当にないのかなぁ」

 

 胸部装甲を閉じて一段落したアルは伸びをしながら、商業ギルドで聞いても『カンカネンならいざしらず、ライヒアラみたいな学生街にないですよ』と世間知らずを見るような目で聞き返してきた職員への愚痴を吐く。そして、給与についての業務を終えたアルは家路につくのであった。

 

***

 

「とまぁ、こんな具合の流れです」

 

「本当に下着1枚とか馬鹿かね?」

 

「いやいや待て待て待ってください。何かあったら僕の給料が消えるので色々対策するのは当然ですよ。ただ、良い考えが浮かばなかったんで手っ取り早く下着1枚になっただけです」

 

 給与の隠し場所と奇行を省いた全工程を話したアルに、ディートリヒは率直な感想を言う。給与の計算をパンツ1枚で行う馬鹿なぞ聞いたことがないという意見にアルは反抗するが、エドガーとヘルヴィの『可哀想なものを見る視線』にアルは心に浅い傷を負った。

 

「まぁ、それだけ僕はお金の力を恐れてるわけです。給与未払いで騎士団が壊滅とか笑い話にもなりませんよ」

 

「言おうとしてることは分かるけど、風邪ひかないようにね?」

 

「この子は馬鹿だから大丈夫です」

 

 突然やってきたエルが失礼なことを言ってきたので、アルは無言で板に『エルと風呂に入る権利。金貨1枚から』という文字を書いてアディに見せる……前にエルに叩き割られる。

 

「なにさらっと兄を売ろうとしてるんですか! この13番目!」

 

「昔、忘年会で散々ヘルメット持ちながら一発芸やってたじゃないですか。今度は手錠かけて風呂に入るあのシーンしましょうよ」

 

 流石に自身が競りに出されることに危うさを感じたのか、珍しく狼狽えながらアルをガクガクと揺するエルに団員全員が不思議に思いながら本日は解散となった。

 その帰り、バトソンと共にテルモネン家に赴いたエル達は、バトソンの父親から青銅で出来たサロドレアの像をエルは2つ、アルは1つ受け取って先ほど受け取ったばかりの給与から金貨を数枚取り出して支払った。

 

「兄さん、そんなに豪遊しても今度は貸さないですからね」

 

「大丈夫ですって。ウヘヘ」

 

 エルがサロドレアの像を頬ずりしながらだらしのない顔で返事をするが、次の給料が支払われる数日前からエルが、『像を手入れする品物や像に付属させる小物などで生活費を溶かした顔』をしながら工房に佇んでいるのをアルは見逃さなかった。

 

 

**ストレス解消の章**

 

 中等部最後の年が始まって少し経った頃、アルは学園の廊下を不機嫌そうに歩いていた。周囲の学生達がその空気に充てられて散っていく中、アルはぼそりと『ムシャクシャする』と呟きながら最近では心のオアシスと化している工房へ足を運ぶ。

 

 アルがここまでムシャクシャしている理由は最近入学してきた中等部の貴族の子弟達にあった。彼らは入学してからというもの毎日といっていいぐらいアルが普段生息している高等部の教官達の詰所の扉を叩き、とある言葉から会話を始める。

 

 それは、『どうすれば銀鳳騎士団に入れますか』という騎士団の入団条件を問う言葉だった。中には『自分は○○家という家の生まれで』から始まる自己PRというかほぼ家系PRをする学生も居るので、それが余計にアルをイライラさせていたりする。

 

「えー、まだそんなこと言われてるんですか」

 

「えぇ、工房に居る時は声かけてこないんですがねぇ」

 

「そりゃおめぇ、高等部の貴族様が目を光らせてるしな。だが見てみろ」

 

 工房の机で項垂れているアルの隣で水分補給をしているダーヴィドが気まずそうに後ろを振り返るように言う。嫌な予感がしたアルがすぐに後ろを振り返ると、背格好からして中等部と推測される貴族やその従者が『僕達、ただの通りかがりですよ?』といった風を装って工房の中を見てくる。

 しかし、その自然体と思われる仕草はただの通りすがりにしては同じ顔が何度も見えるという、とある藍鷹騎士団の団員が見たら冷徹な目で『密偵舐めてるんですか?』と言われそうなほどお粗末なものだった。

 

「中等部にも拠点の増築お願いしますか?」

 

「いえ、さすがに年齢的に幼すぎますね。貴族の武器を所構わず振り回す子が多いので不和が起きますよ」

 

「いや、大人みたいなこと言ってるけどエル君達も中等部だからね?」

 

 えらく中等部について大人視線で分析するエルに休憩に来たヘルヴィが突っ込むと、椅子に座りながら『たしかに邪魔ね』と扉の先を一睨みする。

 

 高等部の貴族に関しては砦の増築という嫌でも連帯感を教え込まされる環境によって、『まぁ技術学べるし、共に頑張ろう』や『外部からの要因でこの環境崩されるのは勘弁してほしいから、中等部に睨み利かせようぜ』といった具合になんとなく上手くいっていることがノーラ経由で分かっているのだが、中等部がここまでガツガツしているのはまったくの想定外だった。

 

「大方背が小さいから話しやすそうとか、押せばなんとかしてくれそうだと思ったんだろう? なんせ、我らが副団長殿は押しに弱いからな」

 

「ディーさん」

 

 暗に『ヘタレ』と言われていると思ったアルは、無表情で座っているディーの顔を覗き込む。両者の距離は互いの息がかかるところまで接近し、工房と言う薄暗い所ということもあってかアルの瞳孔が開く。

 

「じゃあディーさんが対応しますか? やれアーノス家だとかモレギレット家だとか偉いのかも分からない家名聞かされて、自分はシルエットナイトに乗ったことがないですが僕のセンスがあれば新型も乗りこなして見せますと根拠のないこと言われたりとか、親の言っていることを真似しているだけなのかしりませんが……うちの妹はいかがとか、うちの領の騎士団に来ないかとか結構ヤバそうな誘いの数々を対応しますか? た・い・お・う・し・ま・す・か?」

 

「……すまない、失言だった」

 

 工房の中と外で主に女子で構成された集団が出来ていることを全力で見なかったことにしながらディートリヒはアルに謝罪すると、アルは『ふんっ』とふてくされたポーズをとる。その様子にエドガーは、『ここまでひどいと陛下にお伝えすべきでは?』と提案し、それを聞いたエルが会議室に向かって歩き出した。

 

「ムシャクシャするー。エドガー先輩、筋トレしましょ。筋トレー」

 

「朝に一緒にしただろ。やりすぎると逆効果だとどこかで書いてたぞ」

 

「じゃあヘルヴィさん、フルコントロールの練習しましょー」

 

「まだ人で居たいから却下。それにツェンドリンブルはフルコントロールなしでも動かせるようにするって約束でしょ」

 

 なんとかムシャクシャをすっきりさせたいとアルが手当たり次第に解消法を提案するが、エドガーは心配するように却下され、ヘルヴィには巻き込まれたくなさそうな表情で却下される。すると、エルが上質な紙と製図を行うための大きな紙を抱えて机に戻ってくる。

 

「ムシャクシャした時には製図が一番です! 装備の設計しましょう」

 

「それ、トイボックスに積みたいだけじゃないですか?」

 

 笑顔でアルに大きな紙を押し付けるエルに、アルは不機嫌そうに答える。カルディトーレ仕様に変更すると共に魔力転換炉(エーテルリアクタ)を2個に増やすという大手術を終えたトイボックス。現在エルは、その潤沢な魔力を使って思いつく限りの装備を開発しては実験を行っている真っ最中である。

 その実験の中には某アニメの有線式の射撃兵器もどきや液体金属でなんやかんやするヒートでエンドな物もあったが、さすがに魔力や耐久性が足りなくて断念したりと失敗作が多いが、たまに有用な装備が出来上がることもあるのでダーヴィド達はエルの行動を『容認』してくれている。

 

「ていうか、失敗作を何とかしてくださいよ。倉庫の一部占拠してますよ」

 

「いえいえ、あれはいつか完成させますよ」

 

 堂々と『積みプラモにする』と宣言したエルに、アルは『装備より操縦席どうにかした方が良いんじゃないですかね』と文句を言いながら製図を開始する。

 エルのトイボックスの操縦席はパッチワークと違い、シートも鐙も詰め物によってエルが操縦しやすいように調整されている。仮にも騎士団長の機体がそのような急場しのぎのようなおざなりの操縦席は流石にヤバイだろうということでダーヴィドもエルに進言したのだが、返って来るのは『これが到達点ではないので、まだ急造で良いです』の一点張りだった。

 

(式典の時はパッチワークにしないと誤解受けそうで怖いなぁ)

 

『早く兄の満足する専用機できないかなぁ』と諦めにも似た考えを浮かべながらアルは大きな紙に大きなハンマーの図面を描く。敵などの叩きつけるヘッド部分とは逆の方向に魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)のようなものが取り付けられており、柄の部分にはナニカをはめ込むような空洞が描かれている。それを一通り見たエルは、『ジェットハンマーですね?』と答えるとアルは正解と言わんばかりに指を鳴らした。

 

「そうです。クリスタルプレートをマガジンにしてスイッチを入れることでマギウスジェットスラスタで加速させて破砕力を上げるんです」

 

 アルが設計したのは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の加速力を用いたハンマーである。通常時は普通のハンマーとして使用し、一押しが足りない時や堅い装甲を破砕する時などにハンマーに付いているスイッチを押すことで魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を起動し、十分な加速と質量で共に相手を破砕する鈍器好きにはたまらない一品である。

 

「でも、僕やアルは当然としてこの騎士団にハンマー使う人居なくないですか?」

 

「最悪、公爵にぶん投げてモルテン団長に使ってもらおうかと」

 

 銀鳳騎士団の団員が扱う獲物は様々だが、棍棒はあってもハンマーを得物にする団員は居なかった。なので、アルはもしもの時はカザドシュ砦に居るモルテン騎士団長が駆るハイマウォートの装備にしてもらおうとダーヴィドに開発の許可をもらおうと製図した設計書を見せるが、一目見たダーヴィドは『却下』と短い判決を下した。

 

「うちの団員が使うものなら作るが、使わない物作るのはナイトスミスとして作るわけにはいかねぇよ」

 

「ちぇー、じゃあこの設計図は公爵に送ろうかなぁ。でも実験してないしなぁ」

 

 確かに団員が扱えない物を銀鳳騎士団の資材で作るのはナンセンスだ。アルもダーヴィドの言っていることは理解しているので、設計図を広げながらもったいなさそうに送る算段を練っていると、第2中隊に所属している団員がその設計図を摘み上げると自分を指さしながらアルに話しかけた。

 

「副団長、じゃあ俺が使えるか試すよ」

 

「あれ、お前斧がメインウェポンじゃなかったっけ」

 

「系統としてはポールウェポンだし同じもんだろ」

 

 同じ第2中隊の団員と談笑しながらダーヴィドに『魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を付けた槌を斧に変えた装備』に変えるように頼むと、ダーヴィドは『なら良いか』と了承する。こうして新たな概念の武器の開発という長く苦しい戦いが始まるかに見えた。

 しかし、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)についてはエル達が本気を出せばものの数日でスクリプトが出来るので、後はそれを組み上げるだけで完成し、他の機構も既にナンブや試作魔導兵装(シルエットアームズ)でよく使用している機構なので、武器が出来上がるのにそんなに時間はかからなかった。

 

「よーし、試すぞー」

 

「試すぞー!」

 

 アルと団員が腕を振り上げながら演習場で叫ぶ。彼らの後ろで駐機状態を取っているカルディトーレのサブアームには今回作り上げた『噴射式戦斧(ジェットアックス)』が取り付けられている。刃の反対側に魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を積み込むという異様なデザインにダーヴィドは最初『ゲテモノ』と呼んでいたのだが、次第に目が慣れてきたのか『まぁ、装飾と思えば悪くないんじゃないか?』と評価を改めていたりする。

 

「やれやれ、隊長である私を小間使いみたいにするなんて酷い部下だよ」

 

「でもディータイチョは嫌って言いながらもやってくれる所が俺好きですよ」

 

「ディータイチョいぇーい!」

 

「やめないか!」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)クラスの大きな金属鎧を演習場の中央に配置したグゥエールの前で騎操士(ナイトランナー)のディートリヒを弄りながらアルと団員はカルディトーレに搭乗する。ちなみに先ほどの金属鎧は鍛冶科が幻晶甲冑(シルエットギア)に慣れるための実習で作ったは良いが、処分に困っていた所をアルが魔導兵装(シルエットアームズ)の的として貰い受けた物で、名前を『鉄人』という。

 

「さぁ、先輩! さっそく斧をぶち込んでみましょう!」

 

「よしきた!」

 

 サブアームに固定されていた噴射式戦斧(ジェットアックス)を手に取ったカルディトーレが持ち具合を確かめるように数度振ってから上段に構える。そして鉄人に狙いを定めて間合いを測ると、団員の気合の入った声と共にカルディトーレが噴射式戦斧(ジェットアックス)の柄に増設されたボタンを押しながら鉄人に向かって噴射式戦斧(ジェットアックス)を振り下ろした。

 刃の反対に取り付けられた魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)が炎の尾を引きながら噴射式戦斧(ジェットアックス)を加速させ、甲高い音と共に鉄人を頭から真っ二つに両断した。

 

(電光斧って名付けたい)

 

 多少昭和感が残る名前を思い浮かべたアルだったが、頭から正中線に沿って断ち割られた鉄人が幻晶騎士(シルエットナイト)に見えてしまったのか、カルディトーレに乗っている団員をはじめ、ほとんどの団員が『副団長、これは止めとこう』とこれ以上の開発を止めるように頬を引きつらせながら進言する。曰く、噴射式戦斧(ジェットアックス)の威力は確かに凄まじいが、ハンマーとは違い刃があるので団体で魔獣に挑む際の事故が生まれる原因にもなると判断したらしい。

 その有無を言わさないほどの圧力にアルも首を縦に振るしかなかったが、一応実験は成功したので設計書は一応藍鷹騎士団経由でカザドシュ砦に送るようにアルはうきうきしながら手配する。

 

 半月後、藍鷹騎士団経由でモルテンからの感謝の言葉や設計図を基に製作されたハンマーの感想が書かれた手紙と、クヌートから『今度は何が狙いだ』という一文だけが書かれた紙がアルに届けられたのは言うまでもなかった。

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