銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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51話

 学生側のキャンプから篝火の光が煌々と光っている中、待機任務を代わって貰ったアルはクロケの森の中を歩いていた。

 

「藍色の布……これですね」

 

 手にノーラから渡された紙を持ちながら幹に藍色の布が巻かれた木に寄りかかる。そこでしばらく待っていると足音とともに1人の女性が姿を現した。

 

「お待たせしました。エチェバルリア副団長」

 

「いえ、今来たところです。本日はありがとうございます」

 

 まるで逢引のような口ぶりでアルは返答するが、アルの目はノーラが持っている袋に注目していた。それを察したノーラがしゃがみこんでから袋の中を1個ずつ取り出していく。

 

 まず取り出されたのはピンポン玉を連想させるほどの小さな丸い入れ物だった。触るとツルッとした感触、指で軽く叩くと硬い感触が返ってくるのでアルは『陶器製ですか?』とノーラに問いかける。

 

「はい。他の国は詳しくは言えませんが、藍鷹騎士団では陶器製を使用しています」

 

 そう言いながらノーラは次にガラスの容器に入った粉末を取り出す。夜中なので色はあまり分からないがなんとなく白っぽい粉をアルは不思議そうに見つめていると、ノーラはその粉を先ほどの入れ物に入れ始めた。入れ物に半分ほど粉を入れると、ノーラは袋の中から別の粉を取り出した。

 

「これは少しの衝撃で爆発するので慎重に作業してください。これの保存時は革などで包んでください」

 

「あー、まぁ足りなくなったらそれ自体を発注するので。流石の僕もそんな物を1から作るとか危なくて出来ません」

 

「……閃光玉の保存も同じようにしてください。これで完成です」

 

 アルが『そんな物』と言ったのは、俗に言う『閃光手榴弾』のような物であった。アルがこの道具の存在を知ったのは、テレスターレが奪われた事件の後にディートリヒが行った雑談に起因する。

 テレスターレを奪った賊が懐から小さな玉を投擲し、それが面覆い(バイザー)に当たった瞬間に破裂。凄まじい閃光の後に幻像投影機(ホロモニター)が焼け付いたといった内容にアルは閃光系のアイテムに興味を持ったのである。

 

 だが、市場や鍛冶師に聞いても知らないとのことだったので、餅は餅屋とデュフォールで藍鷹騎士団のお世話になった際にそれとなく聞くと『実物がない』と言われ、本日ようやく現物を拝めるということになったのだ。

 

 ノーラから作り方の説明を受けたアルは出来立てほやほやの玉を投げて良いかと問うが、ノーラは『これを目の前に掲げてから投げてください』と魔導トーチの溶接で顔面を保護する遮光マスクのような物をアルに手渡す。

 

「では、いきます」

 

「どうぞ」

 

 ノーラもマスクをかぶったことを確認したアルは、『閃光玉』と呼称した玉を森の奥へ投擲した。玉はアルの手から離れ、1本の樹木にぶつかる。陶器が割れる特有の破砕音が小さく聞こえると共に凄まじい閃光が周囲を照らした。

 

「おぉー」

 

「これによってシルエットナイトや敵の目を潰します。瞬間的なものなので時間が経てば回復しますが、事故で目が見えなくなることもあるので、再三言いますが取り扱いには注意してください」

 

 淡々と注意点を言ったノーラが地面に置かれた原材料を慎重に袋に戻し、それをいつの間にかノーラの後ろに居たシャドウラートに手渡す。以前デュフォールで試験したときよりも隠密性を上げたシャドウラートの性能にアルは目を剥くが、シャドウラートは気にせずに闇の中へ消えていった。

 

「作り方は以上ですが、今後必要であれば私を通じて調達してください。原材料は普通の市場でも調達可能な物なので個数を指定していただければお作りします。……決してご自身でやろうとはしないように」

 

「それはやれという振りですか?」

 

 アルが笑いながら言うと、『失礼します』という若干怒ったような声を出したノーラがアルの頬を引っ張った。どうやら本当に危険なものだと分かってもらいたかったらしく、アルが『わふぁりました』と言うまでその手は離れなかった。

 そして、当初渡す予定だった閃光玉も『演習が終わってから再度講習を行うまで没収』と、ノーラが閃光玉を持った手をアルの手が届かないところまで上げてしまう。どうやら新装備の知識にふざけ過ぎたとアルは頭を掻きながらノーラの意見を素直に聞いた。

 

 その後、特に何もおきることもなく2人は怪しまれないように時間を置きながら解散し、アルが駐屯所の見張りに戻ったのは辺りがすっかり静寂に包まれた時であった。

 

「アルフォンス、遅いぞ。悪だくみもいいが、副団長なんだから時間厳守だ」

 

「すみません」

 

 エドガーは『悪だくみ』の事についてはそれ以上言及せずに首で配置に着くように促すと、アルはフォートレスから緑色のモートルビートを装着して見張りに参加する。

 しかし、夜の見張りというものはやはり退屈なものらしく、最初は真剣に周囲を見張っていたアルも徐々に気疲れしてきたので、気分転換に隣で立っているエドガーに話しかけた。

 

「そういえばエドガーさん。カルディトーレはいかがですか?」

 

「まだ戦闘を行っていないが、操縦の癖がないから動かしやすい。だが、アールカンバーほどじゃないな。アイツは……俺が動かしたいと思った通りに動いてくれるんだが、カルディトーレはたまにイメージと違った挙動をしてな」

 

「アールカンバーはエドガーさん専用にカスタマイズされてますからね」

 

 アルは、エドガーの感想からアールカンバーへのもはや愛情に近い信頼を読み取り、『旧型に負けたかぁ』と微妙な顔をする。

 アールカンバーはサロドレア──旧型の改造機である。つまり、エドガーは最終的にはアールカンバーからカルディトーレに乗り換える必要があるのだ。だが、そのカルディトーレの操作性に不満が残るのは副団長のアルとしても看過できない事態だった。

 

「アールカンバーのように親方に調整してもらうさ」

 

 そういうエドガーの表情は少しの寂しさが見え隠れしていた。エドガーもアールカンバーからカルディトーレに乗り換えなければならないことは分かっているが、高等部からカザドシュ砦の頃まで乗っていた機体である。『頭では分かっているが──』というエドガーの反応に、アルは何とかできないかと頭を掻きながら悩み、やがてとあることを思いついた。

 

「それでは、アールカンバーを生まれ変わらせましょう」

 

「……いや、何を言ってるのかわからないのだが」

 

 唐突に提案される内容にエドガーは頭に疑問符を数個ほど浮かべるが、アルはモートルビートの指で地面に『アールカンバー』と『カルディトーレ』と書くとアールカンバーの方から矢印を2本カルディトーレの方に持っていく。

 

「エーテルリアクタと操縦席……ついでにマギウスエンジンもアールカンバーから移し替えて、外装もアールカンバーに似せてあげれば……ほら、2代目アールカンバーの出来上がりです」

 

「そう言われればそうだな」

 

 心臓部や操縦席はアールカンバーから、外装や操作性はなるべくアールカンバーに似せるという改造プランをあらかた説明し終わり、『これはもう改造ではなく、生まれ変わりと言えるんじゃないですか?』と問いかけるアル。すると、どうやらアールカンバーを新たな姿に変えることに納得したエドガーは顔を綻ばせた。

 

「帰ったら親方に言ってみよう。……余計な仕事増やしそうで怖いがな」

 

「エドガー先輩はワガママ言わないので、次の日の天気の心配されそうですがね」

 

 そんな会話を続けながら時折外の様子をチラチラと見るアルに、エドガーは何事か問いかけたが『何か気になる』と要領を得ない説明をしながら何もない空間を指さす。エドガーはその周辺を注意深く見るが、異常がないので『幽霊でも居るんじゃないか?』と茶化しながら見張りを続けた。

 

「ちょ、僕そういうの苦手なんですから止めて下さいよ」

 

 ちなみにアルは某漫画に出てくる元地元出身の亡霊集団のせいでホラー系は苦手なので、あまり眠れなかったことをここに記述しておく。

 

***

 

 クロケの森に日差しが差し込む。入口の見張りが免除されている中等部の学生を中心に朝食や点呼、今日行われる演習の準備といった事前に決められている予定に沿った行動が行われていく。目元に大きな隈をこさえたアルは、その様子を大きい黒パンの切れ端が口から半分ほど出ている状態で懐かしそうに見ていた。

 

にゃふふぁひぃふぇふへ(なつかしいですね)

 

「エチェバルリア教官、食べるか話すかどちらかにしてください」

 

 隣に立つ教官にたしなめられたアルはそのまま何も話さなくなり、無言で黒パンをモサモサと硬そうに咀嚼する。その光景に『食べるのか……』と昔に見たようなリアクションを教官がするが、アルの名前を呼ぶ声に2人は声のする方向を向いた。

 

「あー、居た居た……」

 

「なにか問題でも発生したのですか? まだ集合の時間には早いと思いますが」

 

 声の主は、今回の演習の代表者である中等部の教官だった。息を切らせながら走ってくる様子に緊急事態を想像した2人だが、どうやらアルの装備であるリーコンを使いたいらしい。

 しかし、クロケの森はベースキャンプ周辺は多少開けた場所が存在するが、基本的にうっそうとした森林地帯である。そんな中をいくら高所から偵察できるとリーコンを飛ばしても魔獣の動きや様子をうかがうことが困難だとアルは難色を示す。

 

「ええ、分かっております。しかし、森自体の様子や師団級といった図体の大きい魔獣の確認ができるのではないでしょうか?」

 

「ああ、なるほど。それならついでに目が多くあった方が良いですね。銀鳳騎士団の皆も呼んでくるので少し待っていてください」

 

 理由を聞いたアルが『お安い御用』とその場を離れ、数十分後に銀鳳騎士団の面々をフォートレスに乗せたパッチワークが学生たちのベースキャンプ近くで足を止めた。そのままフォートレスに備え付けられたリーコンを上まで伸ばして偵察の準備を行っている傍らで、フォートレスに格納されている数機の幻晶甲冑(シルエットギア)に搭乗したエドガー達が幻晶騎士(シルエットナイト)に載せるにはいささか小さいサイズの幻像投影機(ホロモニター)をリーコンが格納されている前方のハッチから運び出してくる。

 

「これをこうして……こうだ!」

 

 へんてこな掛け声と共にアルが幻像投影機(ホロモニター)とリーコンを支える銀製の棒の間に銀線神経(シルバーナーヴ)を繋ぐ。すると、リーコンからの映像が幻像投影機(ホロモニター)に映し出され、教官やエドガー達が上空からの森の様子を一心不乱に見つめて異常を探そうとした。しかし、教官達が最初に抱いた感想は『いたって普通の森』だった。

 

「どこにも異常はないですな」

 

「そうですな。これならばプランを変えずに済みそうです」

 

 平和そのものな森の様子に安堵する教官達。だが対する銀鳳騎士団側は、実際にベヘモスと対峙した経験からより一層注意深く森の様子を探る。すると、大きな鳥が飛び去っていくのをリーコンが捉え、同時に警報音のような鳴き声がベースキャンプまで届いてくる。

 

「リンギンバードか……。アルフォンス、先ほどあいつらが飛び去った地点を拡大してくれるか?」

 

「少し待ってください」

 

 大きな鳥の正体と特徴を思い出したエドガーは素早くアルに指示を送ると、アルは身体強化を用いてリーコンがくっついている棒をするすると登っていく。ガントレットの形状をしているアガートラームを時折見ながら『動きが疎外されないし、作って良かったな』と思いつつ、アルは単眼鏡のつまみを調整してエドガーに合図を送る。

 

「スタッカートリザードの集団ですね。これが学生とぶつかると危険かと」

 

 リーコンの映像を拡大した結果、森の切れ間から風蜥蜴(スタッカートリザード)の集団が姿を現した。風蜥蜴(スタッカートリザード)といえば首が華奢なことが特徴的なトカゲではあるが、問題は数にあった。

 

 1体ならば素早い動きさえ気をつけていれば騎士科の学生でも簡単に倒すことが出来る小型の魔獣である。しかしそれが大群や別の魔獣が混ざっている場合、下手すると騎士団でも幻晶騎士(シルエットナイト)がないと対処に手を焼かされる存在になる。

 魔獣特有のスタミナや脚力を用いて戦場をかき乱し、戦闘による疲弊から一瞬でも隙を晒すと集団で取り囲んで攻撃され、それに対応しようとすると別の魔獣や別働隊の風蜥蜴(スタッカートリザード)に攻撃されるといった憎たらしい戦法を取ってくるので、初等部でも真っ先に扱われる教材として有名な魔獣である。

 

 そのような厄介な魔中の集団が演習を想定しているエリアから少し離れた地点に居るので、演習を実施するかという協議が行われるが、『このような魔獣の群れで演習が中止になるのはこれから騎士になる学生にとって不本意ではないか』という意見の基、演習が決行されることになった。

 

 だが、中等部の全員がまとまった状態で森に入り、演習中に対処不可能な状況に陥った場合は上空に炎系統の魔法を信号代わりに放つことにするなど、いざという時に備えたプランを教官や騎士団で共有する。

 

 その後、演習の準備を行うためにアルを除いた教官達はベースキャンプの方へと戻り、銀鳳騎士団の面々はその場に取り残される。

 

「では皆さん。シルエットナイトをいつでも動かせるように暖気にかかってください。今日の訓練も駐機場で行いましょう」

 

「了解した。各自、暖機が終わったら駐機場の中央へ集合。短剣を抜き忘れるなよ」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)は暖機運転として事前に魔力を結晶筋肉(クリスタルティシュー)に貯蓄した状態で再起動した場合、何もせずに起動するよりも早く行動に移れるという今回のような展開速度が要の任務にはぴったりの小ネタが存在する。それを理解した団員達が返事をしながら銀鳳騎士団の駐屯地まで駆け足で戻っていった。

 

「エドガー先輩」

 

「なんだ? ……うわっ」

 

 自分も駐屯地に戻ろうと足を踏み出したエドガーにアルが声をかけると、突如アルがエドガーの肩まで上ってそこに腰を下ろした。突然の肩車の体勢に目を白黒させていたエドガーだが、われに返った後に不機嫌になりながらもアルに理由を聞く。

 

「アルフォンス、ふざけているなら怒るぞ」

 

「いえいえ……エドガーさん、シルエットナイトの管理は徹底してください」

 

 ぼそりと呟かれるアルの言葉にエドガーの動きが止まる。慌てて周囲を見渡すが、学生達はこちらに気づくことなくそれぞれの役割を決めたり、武器を点検したりと慌しくしている。

 

「アルフォンス、機体を盗もうとしている奴が居るのか?」

 

 カザドシュ砦の件を思い出したエドガーは学生達の行動をつぶさに観察するが、アルは『盗もうとしている人は多分居ません』と告げる。ここには藍鷹騎士団の密偵も複数混じっているので、なにかしらのアクションをする学生が居た場合は即座に彼らが感付く筈である。ただ、それもあまり過信しすぎないために『多分』という言葉をつけたが、その言葉が余計にエドガーを不安にさせる。

 

「あー、僕が言いたかったのは今期の学生は貴族の方が大勢いらっしゃるので、僕達にやってくれたように乗せてあげるとかそういうのは無しでお願いしますということです。盗まれるとかは考えてませんでした」

 

 1回乗せたが最後、『僕の家の方が偉い』と臨時的な試乗会が開催されそうなので、アルはそのことを説明するとエドガーは深いため息を吐いた。

 

「アルフォンス。お前はたまに言葉が足りないぞ」

 

 エドガーの文句にアルは『善処しまーす』と明らかに改善する気がない返事をしたので、エドガーはもう一度深いため息を吐くと『たかーい』と普段とは異なる視界の高さを堪能しているアルを肩に乗せつつ駐屯地へと歩き出した。

 

***

 

 やることなすこと全てが常識を吹き飛ばすほどの威力があるのではないかと王族や一部の貴族から怪しまれている銀鳳騎士団だが、訓練の内容は他の騎士団とさほど変わりなかった。

 まず、幻晶甲冑(シルエットギア)で歌いながら(日によって民謡や校歌など選曲が異なる)ランニングをし、各自の得意な武器で素振りを行う。その後小休止を経て魔獣や人間との多対一を想定した模擬戦を行うのである。

 

 対戦はくじ引きで選出され、今回の模擬戦ではエドガー対アルと第1中隊の堅実な仲間達という組み合わせに決まった。

 

「副団長! エドガー隊長はヘルヴィ隊長と買い物に行ったという報告があります!」

 

「しゃっおらぁ!」

 

 木製の槍を持ったアルの下心がありそうな鋭い突きがエドガーの盾に当たるが、盾の傾斜を利用されて逸らされる。そして、アルの速度を利用したエドガーのカウンターがアルの眼前まで迫るが、対するアルはそれを槍を手放しながら自身が回ることで回避する。

 

「皆ー! 囲め! 囲め!」

 

 カウンターに失敗したエドガーが第1中隊の声に反応し、囲まれないように距離を取ろうとする。そんな中、アルはあろうことか自身に装備している木製の槍をエドガーに目掛けて投擲した。強化魔法を一切使っていないので、ひょろひょろと飛んでいく木の槍だが、自分のメイン武器を投げるという非常識な戦い方に槍を盾で打ち払ったエドガーが驚愕の声を上げる。

 

「アルフォンス、自分の武器を投げるなんて騎士の戦い方じゃないぞ!」

 

「何を言うんですか! 僕にはまだ武器がありますよ!」

 

 そう言いながら背負っていた盾を両手で保持しながら突っ込んでいくアル。

 

 エルやアルの戦闘スタイルはディートリヒのように手数で押したり、エドガーのように防御に重きにおいたものとはまったく異なる『速度』に特化した物だ。そこに魔法という最大のアドバンテージで相手を圧殺するのがエルだが、エルと比べて魔法の構築が遅いアルはその場の物を有効活用する戦闘方法を取り入れることにした。

 手に持った武器を投げようとも手元に武器があればそれに入れ替え、道端に武器があればそれを手にする。これが銀鳳騎士団の訓練でエドガーやディートリヒなどの特定の分野では無類の強さを持っている相手や、へルヴィやオルター兄妹といったオールマィティな強さを誇る相手に勝ったり負けたりしながら身に付けたアルの戦い方である。ちなみにエルは『汎用人型決戦兵器扱い』になっているので、アルの中では参考にならないものとして処理されている。

 

「諸君! エドガーさんはヘルヴィさんに甘味をもらったことがあるぞ!」

 

「だからお前達なんでそんなこと知って……あっ」

 

 盾でエドガーの盾をはじいたり、はたまた盾を持ってエドガーをぶっ叩きながら第1中隊全員に聞こえるように宣言するアル。

 その口からもたらされる真実にエドガーは思わず反論するが、自ら墓穴を掘ったエドガーが口を噤むがもう遅かった。嫉妬の心はなんとやらといった調子で第1中隊の攻撃が苛烈さを増していき、さらにはアルの足払いや手に持っている武器を狙った投石といった攻撃も飛んでくる。その嫌がらせとも取れる攻撃の数々に、『こいつ本当に騎士か?』と先ほどと同じような感想を頭に浮かべるが、その直後にクロケの森からファイアーボールの魔法が数発上がった。

 

「っ! 全員騎乗!」

 

「僕はモートルビートで先に行きます」

 

 魔法が上がった後の銀鳳騎士団の行動は早かった。持っている盾を放り投げたアルはフォートレスに置いている自身のモートルビートに搭乗するとワイヤーアンカーを伸ばしながら森の奥へ消えていく。アルのパッチワークは重量級の幻晶騎士(シルエットナイト)である。全力行軍でも中隊についていけるか怪しく、今回のような入り組んだ森の中では魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)によるホバー走行を満足に活かせない為、あえてモートルビートで先行することにしたのだ。

 

 アルが出発して数分後、暖機運転の効果もあってか駐機場のカルディトーレが全て直立して正面の角を生やしたカルディトーレのほうに向き直る。

 

「よし、これより学生達の救助を行う。第1中隊、前進!」

 

 エドガーの号令に大きな返事を返した中隊は剣を抜き、背中のフレキシブルコートを展開しながら森の中へ突入していった。

 

***

 

(こんなはずではなかった)

 

 中等部1年のフロイドは今日に入ってから何回も思った言葉が頭の中によぎる。

 フロイドはとある貴族の五男坊である。五男坊にもなるとスペアという存在意義は無に等しく、なにかしらの行動をしなければいきなり家から放り出されるぐらい危ない立ち位置であった。

 そんなある日、年に数回しか合わない父親に呼び出されたフロイドは急遽ライヒアラ騎操士学園へ行くように指示を受けた。

 

 なんでも国王陛下肝いりの騎士団が新型幻晶騎士(シルエットナイト)を作ったらしく、『可能であれば勧誘、無理であれば内部に入り込んで情報を収集しろ』と説明を聞いたフロイドは言われるまま入学し、騎士科のカリキュラムを実直にこなしながらここに居る。

 

「なんだ。結局物見遊山ではないか、つまらんな」

 

「仕方ありませんよ。師団級の魔獣がここを通ってから日はそんなに経っておりません」

 

 今も横で同級生の貴族が鼻息を荒くしながら家宝の宝剣とやらを振り回し、その行動を従者にたしなめられている。周囲を見れば、同じような貴族出身の学生も同じようにつまらなさそうにしながら杖や剣を弄っているが、教官達はその様子を危なっかしそうな目で見ていても決して注意はしなかった。

 

(勘弁してくれ)

 

 彼らは教官だが貴族ではないのがほとんどだ。そんな教官達に貴族の相手は分が悪いのだろう。

 そんな教官達の思いを無視しながら大声で行われる貴族達のマウント取りを聞き続けていると、前方から悲鳴が上がる。

 

「魔獣だ!」

 

「ふん、やっと来たか! マーティン家に伝わる宝剣の錆となるが良い!」

 

「待て! 抜け駆けは許さんぞ! 魔獣はサーミス家が頂く!」

 

「落ち着きなさい! 陣形を整えてください!」

 

 教官や中等部の上級生の声を無視した貴族の子弟達は我先に前線に突撃し、フロイドもその波に抗えずに『こんなはずではなかった』と小さく口にしながら前線に引きずり出された。

 だが前線にたどり着いたフロイド達を待っているのは、『風蜥蜴(スタッカートリザード)の波』だった。

 

「う、うわぁぁ!」

 

「盾を持っている学生は前進! 下級生を守れ!」

 

 フロイド達の悲鳴を皮切りに魔獣の群れとの戦闘が始まる。

 腰を抜かした下級生を見た教官が素早く指示を下し、それを聞いた上級生が金属製の盾を手に下級生を守る壁を素早く形成する。風蜥蜴(スタッカートリザード)の身体が金属の盾とぶつかり、けたたましい音を周囲に響かせる中で杖を引き抜いた学生は魔法の準備を行い、残った学生が勇んで飛び込んでいった貴族の子弟達の救出活動を行う。

 

「踏ん張れ! 俺達が崩されたら負けだぞ!」

 

 前線で壁を形成している学生達がお互いを励ましながら魔獣と力比べをしていると彼らの上を様々な魔法が飛び越え、風蜥蜴(スタッカートリザード)達を()()()()()に変えていく。

 だが、風蜥蜴(スタッカートリザード)は目に見えてその数を増やし、ついには盾で形成された壁が破られてしまった。

 

 もはや乱戦となった戦場でそれぞれが武器を手に風蜥蜴(スタッカートリザード)と激しい攻防を行っている中、フロイド達の前に数匹の風蜥蜴(スタッカートリザード)が姿を現した。

 

「ひぃっ!」

 

 歯をむき出ししながらフロイドと貴族達に威嚇をする風蜥蜴(スタッカートリザード)にフロイド達は短く悲鳴を上げながら腰を抜かす。その様子に風蜥蜴(スタッカートリザード)は『抵抗しない餌』だと思ったのか、ノシノシとフロイド達との距離を詰めていく。

 

「おい、貴様! 俺を守れ!」

 

「そうだ! 五男坊が俺たちを守れるんだ! 本望だろう!」

 

 そう言いながら貴族の1人がフロイドの腰を蹴り、まるで差し出すかのようにフロイドを移動させた。その時、1人の教官がフロイドを守ろうと火炎弾丸(ファイアトーチ)の準備をしていたが、横から飛びついてきた風蜥蜴(スタッカートリザード)を迎撃するために火炎弾丸(ファイアトーチ)を使用してしまう。

 

(こんなはずではなかった)

 

 眼前に見える牙にフロイドがもう助からないと絶望する。その時だった。

 

「アァァルフォンスロケットォォォ!」

 

 緑色のナニカがものすごい勢いでフロイドを生肉に変えようとしていた風蜥蜴(スタッカートリザード)に突っ込んできたのである。風蜥蜴(スタッカートリザード)は突然の飛来物に備えることが出来ずにもんどりうちながら近くの樹木に激突し、そのまま動かなくなった。

 呆気に取られたフロイドの前に緑の鎧を着込んだ人物が周囲の風蜥蜴(スタッカートリザード)に雷で形成された槍を丁寧に撃ち込みながら朗らかに話しかけてきた。

 

「すみません。武器貸してください」

 

「……は?」

 

 フロイドには一瞬だけ周囲の空気が死んだような気がした。




パーヴェルツィーク王国の王女様・・・良いですね
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