銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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53話

 クロケの森に設営されているベースキャンプの近隣に独特の吸気音と車輪の音が響いた。その音を聞いた教官や学生は新たな魔獣の襲来に備えて各々が武器を片手にクロケの森に入るための入り口に向かうと、銀鳳騎士団の副団長機であるパッチワークが、金属で出来た荷馬車──『フォートレス』がリーコンを上空に上げながら荷台の方をクロケの森に向けて停止していた。

 

「ああ、皆さんお揃いで。案の定、スタッカートリザードが向かってきてますので、これよりクロケの森に入るのは無しでお願いします」

 

「アルフォンス教官、これは?」

 

 物騒な注意をしながらフォートレスに魔法術式(スクリプト)を送ると、フォートレスの後部にある荷台を塞いでいる蓋が開いて中から『荷馬車に固定された大型の魔導兵装(シルエットアームズ)』が姿を現した。魔導兵装(シルエットアームズ)には銀線神経(シルバーナーヴ)が接続されており、教官がその全容を見ようとフォートレスの後部に回ると、その先には魔力転換炉(エーテルリアクタ)が1基積み込まれていた。

 

「高出力の法弾をすごい勢いで放つことができるシルエットアームズです。まぁ、この運用は半分間違ってるんですがね」

 

 装備のことを聞かれたと勘違いしたアルは装備の概要を話ながらフォートレスの荷台に乗り、魔導兵装(シルエットアームズ)を掴んだパッチワークが上下左右に魔導兵装(シルエットアームズ)の穂先を向けて動作確認をする。その間に正気を取り戻した教官が、『違う! 武器のことじゃない!』と思わず言おうとするが、その前に凄まじい数の法弾がクロケの森目掛けて放たれた。

 

「よし、これなら小型魔獣なら何とかなりそうですね」

 

「やり過ぎです!」

 

 軽く10は利かない数の法弾を1秒のうちに吐き出した魔導兵装(シルエットアームズ)と森の様子を見ながらアルが納得していると、教官からの突込みが上がった。確かに小型魔獣なら肉片に出来るだろうが、クロケの森へ至る道がぐちゃぐちゃになってしまう。そうなれば次年からの実習はほぼ不可能になるので、もう少し自重した方法はないかアルに聞いた教官だが、アルはこれを一蹴した。

 

「次年よりも今期の学生ですよ。すでに僕達は出血しているので、ベースキャンプまで来られたらなりふり構ってられないです」

 

「すみません。言質とか言われたから身構えてしまいました」

 

「あー……。こちらこそ言葉が過ぎました。申し訳ありません」

 

 新たな装備をお披露目したい気持ちが気づかない内に外に出てしまっていたことにアルは、『今は非常時!』と強く反省しながら謝罪する。その間にも続々と集まってきた学生や教官が驚きの声を上げている様子に、アルは少し考えるとパッチワークから一旦降りて数人の上級生と教官を呼んでフォートレスの荷台の奥に案内する。

 

「数は少ないですが、シルエットギアです。戦闘向きではないモートリフトで申し訳ないんですが、これを使用してベースキャンプに魔獣が入らないように陣形を整えてください」

 

「これは銀鳳騎士団の備品だと思うのですが、使用しても良いのですか?」

 

 突然の指示に驚いた教官が恐る恐る聞くが、アルは『非常事態なので』と言ってからパッチワークに戻ると、教官や学生はこれ以上言及するのは時間の無駄だと察して幻晶甲冑(シルエットギア)に搭乗する。

 その後、幻晶甲冑(シルエットギア)を纏った集団はベースキャンプから調達した大盾や肉厚の剣を装備しながらフォートレスで占領されたベースキャンプの入り口の隙間を埋めるように壁を形成していく。

 

「教官や学生の皆さんは出来る限り放物線を描く形で魔法を放つようにお願いします! あと、着弾が分かりやすいように苦手な人も炎系統魔法を放つようにご協力お願いします」

 

 即席で作られた木製の台の上に立った教官や学生が首を上下に振ることを確認しているアルの耳に、『魔獣の声が聞こえる』という学生の一声が聞こえた。パッチワークスの首と魔導兵装(シルエットアームズ)の穂先を森の入り口に向け、ボタンに手をかけながらじっと待っていると、魔獣の声が装甲で覆われた幻晶騎士(シルエットナイト)の中に居ても聞こえるぐらい大きくなってくる。

 それでもまだ有効打になりえるほどの距離に至っていないので、おそらく後ろで慌てているであろう学生を宥めるように『まだです』と連呼しながらその時を待つ。

 

「距離よし! 法撃開始!」

 

 ようやく魔獣──風蜥蜴(スタッカートリザード)の大群の一番前が姿を現した時、アルは大きな号令を上げながらボタンを押し込んだ。フォートレスに備え付けられた魔力転換炉(エーテルリアクタ)の魔力が十分に通った銀線神経(シルバーナーヴ)魔導兵装(シルエットアームズ)と接続され、法弾の雨が風蜥蜴(スタッカートリザード)達に向かって放たれた。

 

 外れた法弾は地面や木々を抉るが、ほとんどの法弾は風蜥蜴(スタッカートリザード)の群れのいずれかの一頭に着弾して爆ぜる。その死骸や法弾という障害があってもなお進もうと物量を味方に突き進む風蜥蜴(スタッカートリザード)にさらなる攻撃が浴びせられる。

 

『ファイアーボール!』

 

 ベースキャンプに鎮座しているパッチワークスの後ろから複数のファイアーボールが飛来する。それらは放物線を描きながらクロケの森の入り口から抜け出そうとする風蜥蜴(スタッカートリザード)付近に着弾し、派手な爆発と共に数を減らしていく。そんな様子を見ながら、パッチワークの背中に時折何かが当たり、衝撃を感じると共に『すみません!』という謝罪の言葉が飛んでくるのを聞きながら、アルは『まだ安心できない』と先ほどの風王竜(スタッカートレックス)が出てきたと時のことを思い出して周囲を警戒する。

 

「数匹か回り込んでくるぞ! 止めるから誰かついてこい」

 

「俺が行く」

 

「私も」

 

 入り口から突入が不利だと悟ったのか、数匹の風蜥蜴(スタッカートリザード)が森を迂回してベースキャンプの側面に回り込んでくる。ベースキャンプの周辺は魔獣除けのために柵が組まれているが、それだけでは防御能力に不安が残ると数名の幻晶甲冑(シルエットギア)を纏った学生が風蜥蜴(スタッカートリザード)の前に立ちはだかる。

 

 盾をかざすことで衝撃音と共に風蜥蜴(スタッカートリザード)を抑え込んだ学生が名前を呼ぶと、名前を呼ばれた学生が手に持った肉厚の剣を風蜥蜴(スタッカートリザード)の胴体に突き込む。幻晶甲冑(シルエットギア)の膂力や諸々が含まれた突撃は、回り込んだ全ての風蜥蜴(スタッカートリザード)の命を刈り取るのに十分な攻撃力だった。

 

「逃げる奴は魔獣だ! 逃げないやつはよく訓練された魔獣……ってあれ?」

 

「撤退してますね。アルフォンス教官、もう一度偵察してみてください」

 

 他にも森で迂回しながらベースキャンプを狙おうとする風蜥蜴(スタッカートリザード)達を教官や学生、そしてフォートレスからの火力支援によって次々と魔獣が駆除されていく。そんな中、ベトコン時代にタイムスリップしていたアルは入り口や森の切れ間から顔を覗かせていた風蜥蜴(スタッカートリザード)が森の奥の方へと転進していくことに気づいた。

 鳴き声を上げながら撤退を周囲の仲間に聞かせるかのように撤退していく様に、前線で壁を形成していた教官がアルに声をかけると、アルは待機させているリーコンを操作して森を偵察する。

 

「異常なし……異常なし……。おや、あの白い集団は第1中隊ですね。皆さん、魔法は打たないでください!」

 

 大型の魔獣が居ないか確認している最中、リーコンの視界の端で何かが動いた。

 アルがそこにリーコンの焦点を向けると、森の切れ間から白いカルディトーレが隊列を整えながらこちらに向かってきているので、アルは笑顔を作りながら銀鳳騎士団の帰還を下に報告する。

 それを聞いた教官達が戦闘の終了を宣言する。やがて、幻晶甲冑(シルエットギア)を纏った上級生数人とフォートレスの後部銃座で待機するパッチワーク以外がベースキャンプの中に入って最終的な点呼をしていた頃、角があるカルディトーレを先頭にカルディトーレ達が姿を現した。だが、第1中隊の機数とはわずかに異なっていたことをアルは見逃さなかった。

 

「あれ、数が合いませんが……まさか!」

 

「ああ、すまない。夜にこれを取りに行くのはまずいと思ってな」

 

 アルの心配する声にエドガーは申し訳なさそうに自分の機体を横にずらすと、森の奥から2機のカルディトーレが学生を保護するために乗り捨てたカルディトーレ・トレーナーを肩に担ぎながら戻ってくる。

 アルが思わず空を見ると、既に夜に差し掛かる頃合いだった。仮に今から取りに行った場合、明かりが乏しい状態で魔獣蔓延る森の中に行く羽目になるので、アルは表情をコロッと変えながら手放しに喜びながらカルディトーレ達を一旦入り口の横に整列させる。

 

「銀鳳騎士団第1中隊。決闘級魔獣を2匹討伐し、帰還しました。……といっても無傷ではないけどな」

 

「エドガーさん、機体なんざ消耗品 搭乗員が生還すりゃ大勝利ってね」

 

「誰の言葉だ?」

 

「どこかの英雄部隊を引率した人の言葉を改造した言葉ですよ」

 

 片腕が喪失していたり、所々大きな傷がついているカルディトーレを横目にエドガーとアルは談笑しながら報告のためにベースキャンプに入っていく。集まる視線を浴びながら教官用のテントに2人が入ると、教官達が安堵した表情で駆け寄ってくる。

 

「銀鳳騎士団、無事に魔獣を討伐し帰還いたしました」

 

「お疲れ様です。しかし、まだ魔獣の脅威が去ったわけではないので、引き続きお力をお貸しいただきたい」

 

「もちろんです」

 

 エドガーと教官が握手を交わしながら話を進めていくのを副団長のアルは、『話が進みやすいなら良いか』と寛容なのか興味がないのか分からない感想を頭に浮かべながら、今回の戦闘に対しての自身の評定を想像する。

 

(まさかまだ引きずってたなんて……)

 

 アルは今回真っ先に行動したが、思わぬアクシデントがあった。ベヘモスによってやられた先輩の姿が今もなお、アルの脳裏に染みついているのである。幸い、幻晶騎士(シルエットナイト)を動かす際は問題はないのだが、当面はクロケの森に近づかないようにしようとアルは心に誓った。

 

(あとは、生身での戦闘技能だなぁ)

 

 今回は魔獣が相手だったから多対一を想定したアルの戦闘方法にぴたりとはまったが、これをエドガーやヘルヴィといった騎士団の面々が相手をすると、一方的に転がされてしまうことはアルも十分理解している。武器を早々に失ってしまったことも反省点の1つなので、アルは忘れずに脳のメモ帳に刻んだ。

 

「では、これで」

 

「はい、明日はかなり早い頃合いで出発するのでお忘れなく」

 

 他にも反省点はないかと頭を動かしていると、タイミングよくエドガーと教官の話が終わったので、アルも礼をしながら教官のテントを後にする。並んで歩いている途中で『アルフォンス、話聞いてなかっただろ』と図星を突かれたアルは思わず上ずった声で反論すると、エドガーはため息を吐きながらアルの頭を小突いて整列する団員の前に立つと今後の予定を話しだした。

 

「小隊に分かれて入り口の見張りを行うことになった。もちろん学生も見張りをするが、先ほどのように決闘級やそれよりも強大な魔獣が出てくるかもしれないということを頭に入れて任務に当たってほしい」

 

 エドガーの指示を聞いた団員達は大きく返事をし、その後は小隊に分かれて見張り位置の段取りや合図などを話し合いながら『もしもの』がないように不安事項を次々に潰していく。1時間を超える話し合いの末、『これならベヘモスが相手でも時間稼ぎすることが出来る』と自信満々な団員達は夕食もそこそこに見張りを開始するが……。

 

「何も来なかったな」

 

「そうだな」

 

「まぁまぁ、平穏に終わってよかったじゃないですか」

 

 幸いなことに朝になるまで魔獣がベースキャンプ付近に出没することはなかった。

 準備をしていたのに、肩透かしを食らったことに心なしか、カルディトーレの白い背中がさらに白く、というか煤けているような印象を受けたアルはパッチワークでカルディトーレの肩を優しく叩く。不謹慎だがそれほど彼らは対応しようと必死に考え、話し合ったのだ。生真面目なエドガーもその頑張りを称えてか、目じりに少し涙を流していた。

 

***

 

 その後の行程はなんとも平和なことだった。

 早々にベースキャンプや駐屯地を引き払った一行は、帰りに『ヤントゥネン』の騎士団詰所にて決闘級魔獣や風蜥蜴(スタッカートリザード)の群れの出現と駆除の報告をいれる。その報を聞いたヤントゥネン騎士団長のフィリップはベヘモスのことを思い出したのか、今後の見回りを強化するように進言することをライヒアラの教官達と約束し、アルやエドガーと共に回収屋のギルド支部に赴いて大まかな位置と近くに居るであろう魔獣の種類について引継ぎと情報の共有を行う。

 

 その後はフィリップ率いるヤントゥネン騎士団の領分らしいので、アル達銀鳳騎士団は学生と共にライヒアラへと帰還することになった。

 

「ひぃ! スタッカートリザード!」

 

 道中、群れからはぐれた1匹や2匹の風蜥蜴(スタッカートリザード)に中等部の学生がいちいち驚くというハプニングはあったが、銀鳳騎士団と学生達は無事演習を終えてライヒアラに帰ることが出来た。

 

「やぁ、ずいぶんボロボロじゃないか」

 

「ああ、決闘級が2匹出てな」

 

「僕も活躍しましたよ! こう……魔獣をちぎっては投げちぎっては投げ」

 

 学生達はライヒアラに付いた途端解散となったが、銀鳳騎士団や実習機に乗っている学生達は団長であるエルに報告するために学校の工房へ戻ってきた。だが肝心のエルはどこにもおらず、かわりにディートリヒやヘルヴィと中隊長達がアル達を出迎える。

 

 エドガーが疲れが溜まったように息を大きく吐く横で、アルが第2中隊に囲まれながら『ステゴロの心得』や『誰かを身代わりにする戦法』を実際に使った様子を身振り手振りで報告し、『やっぱ男はステゴロだよな!』などお褒めの言葉をいただく。その様子を、途中からの戦闘をカルディトーレの眼球水晶越しで見ていたエドガーは『アルフォンスに第2中隊の戦闘方法を真似しないように言っておくか』とまるで父親のような心境で見ていた。

 

「げっ、また壊しやがって」

 

「うへぇ、また修理しなきゃ」

 

「ああ、壊れたロボとはやはり良いものですね」

 

 いつまでも工房の前に止まっているわけにはいかないので、一旦工房に移そうとアルが指示を出そうとした時、学園の校舎からダーヴィドとバトソンが嫌な顔をしながら、その後ろでエルがうっとりしたような声色で歩み寄ってくる。幻晶騎士(シルエットナイト)と共にボロボロになったアルのモートルビートも確認したダーヴィドとバトソンは怒りの声を上げるが、クロケの森の出来事を話すと次第に納得した様子で話を聞いていた。

 

「まさかベヘモスで空いた生息域に新しい群れがねぇ」

 

「うへぇ、やっぱり俺鍛冶科で良かったよ」

 

 バトソンが眉間に皺を寄せながら『おっかねー』と身震いしながら話を聞いていると、『じゃあしょうがねぇ』と膝を叩いたダーヴィドがエドガーのカルディトーレを見上げる。どうやら折檻は免れたことにほっとしたアルは、先日にエドガーと話し合っていた『アールカンバー転生計画』をダーヴィドに説明しようと口を開いた。

 

「実はですね、エドガー先輩がカルディトーレの操縦がちょっと思ったように動かないらしいので、この際ですから中隊の専用機としてアールカンバーから色々持ってきたいのですが」

 

「ああ、カルディトーレは専用機の素体としては優秀だからな。小僧が遠征に言ってる間に銀色坊主と一緒に設計書を色々書いてた所だ。……だが、アールカンバーは旧式の改造機だぞ? 何を持ってくるって言うんだ?」

 

 新型機に旧型の何をくっつけるのか、そもそもくっつける意味はあるのかと問うダーヴィドに、アルは先日の夜中にエドガーと話し合った魔力転換炉(エーテルリアクタ)と搭乗者の乗りなれた搭乗シートを移植したいと告げる。その改造内容にやはりダーヴィドは『意味が分からない』と首を捻るが、1人のロボキチが食いついた。

 

「よーしよしよしよし。偉いですよアル! そうですよね! 相棒の動力炉を新型機に入れる! これは一種の主役機交代の儀ですね! 親方、さっそく作業しましょう! すぐしましょう! やれしましょう!」

 

「ちょっと待て! もう少し詳しく用件を……力強っ!」

 

 アルをひとしきり撫でまわし、ガンライクロッドを持ちながらダーヴィドを引き摺っていくエルを見送ったアルは、とりあえず作業台に幻晶騎士(シルエットナイト)を移動させることを指示する。幻晶騎士(シルエットナイト)達が工房に向かって歩く中、アルはバトソンの傍に寄って頭を下げた。

 

「すみません。せっかく綺麗にしてもらったのにまたボロボロにしちゃいました」

 

「あー、良いよ。後輩守れたんなら鍛冶師冥利に尽きるってもんさ」

 

 笑いながら力こぶをアピールするバトソンにもう一度アルは深く礼を言いながら『モートルビートを頼みます』と言うと、バトソンは快活な返事をしながらアルのモートルビートを纏って中等部の整備場へ向かっていった。

 

「あ、アル君。シルエットギアの教導の件だけど、今の所は第3中隊とバトソン君含めた暇な鍛冶隊で行ってるから」

 

「了解です。なにか不備とか不都合なことありました?」

 

「あー、シルエットギアもうちょっと増産してほしいってのと、今後各地で普及されるだろうからマニュアル的なのが欲しいって言ってたわ。近々アル君にも話が来るかもしれないけど一応言っておくわね」

 

 ヘルヴィから幻晶甲冑(シルエットギア)教導についての報告を聞いたアルは今後のタスクを更新する。第1タスクとしてヘルヴィに頭出ししてもらったマニュアルの草案を纏めて良い具合に育て上げること。これには動作関係と整備、さらには製作関係のマニュアルも必要なのでかなりの時間を要することになるだろうとアルは目安を立てる。

 

「ツェンドリンブルはどうですか?」

 

「走らせるのはスクリプトが出来てないからまだだけど、歩かせるぐらいならできるようになったわよ」

 

「なら、走らせることを視野に入れた訓練も考えないといけませんね」

 

 次にツェンドリンブルの訓練項目の決定である。

 第3中隊は実機がまだ完成していないので、機体転換訓練の進捗度的にはぶっちぎりの最下位である。しかし、人馬型という通常とは違う機体の訓練も模索していくしかない状態の中でよく歩かせることが出来たとアルはヘルヴィの操縦センスに脳内で拍手を送っていた。

 

「やはり、人馬型なので騎馬を使っての操縦訓練とかですかね?」

 

 本当ならば操縦桿的にバイクでも作れればいいのだが、そういう乗り物系の知識が乏しいアルにはとても再現できない物だった。なので代案として騎馬を提案したが、ヘルヴィは本当に訓練に繋がるのか怪しんでいた。

 

「そんな目で見ないでくださいよ。とりあえず何かしら考えてみます」

 

 ジトッとした目に怯えながら逃げるように工房に入り込んだアルだったが、目の前からエルが製図した紙を何枚も持ちながら突撃してきた。遠目で盾にトゲが付いた物騒な物から盾が変形する物と盾まみれな設計図の群れを見たアルは、にこやかに手に取ると修羅の顔をしながら『だらっしゃぁ!』という掛け声を共に引き裂いた。

 

「あぁぁぁ! なにやってんですか!」

 

「やかましい! 目先の設計に現を抜かすより、タスクの再確認をするのが優先でしょうが!」

 

 エルを叱りつけながら進捗を聞くアルの姿に団員達は『いつもそうしてくれたら、この騎士団は平和になるのにな』と声にならない願望をアルに向ける。しかし、叱った後に『お楽しみの製図はその後ゆっくりねっとりしましょう!』と言うアルに、『あー、多少マイルドになっただけでこいつも同類だった』と先ほどの願望は霞となって消えた。

 

「まずは進捗どのぐらい進んでいますか?」

 

「ツェンドリンブルのプロトタイプは完成。スクリプトの見直しについては歩行は出来ますが、走行はスピードによって流すスクリプトが異なるので難航してます。中隊専用機の話は、まだディーさんに要望書もらってないのでまだ進んでません」

 

 現在、銀鳳騎士団が抱えてるプロジェクトを指折りながら言うエルに頷きながらアルはメモを取り、一通り書き終えると休憩用に設置された机の上でメモが書かれた紙を置く。2人はそれを見ながらダーヴィドを呼んで話し合いを始めた。

 

「スクリプトは引き続き僕で。中隊専用機は外装は親方が指揮お願いします。装備については僕やアルも考えがあるので一枚噛ませてください。シルエットギア関係はマニュアル製作はアルにお願いします」

 

「分かった」

 

「あ、外装についてはアールカンバーやグゥエールに似せてあげてください。その方が思い入れもあるでしょうし」

 

 アルのさりげない注文にダーヴィドは『任せとけ』と言いながら製図班を召集しに行く。それを見たエルは次第ににやけ顔を晒しながらメモを書いた紙の裏に『新装備案』という文字を書きだした。それに気付いたアルも『やりますかぁ』と勢いよく椅子に座り込んでペンを握った。

 

 その後、メモを書いた紙だけでは足りずに製図用の大きな紙を一杯に使った新装備案の山と、その間仕事をせずに趣味に没頭していたエルとアルを見た首脳陣一行が『なんで監督してなかったんだ』と責任の押し付け合いをするのはこれより数時間後のことだった。

 

***

 

 クロケの森でベヘモス級ではないにせよ、多少のイレギュラーが発生したので、学園は様々な対応を行うために数日の休校を決定した。その間非常勤のアルは工房ではなく自室に篭ってひたすらマニュアルを作成しては対応に追われて憔悴しているラウリやマティアスに見せるという鬼畜の所業を行っていた。

 

 その甲斐あってか、休校が終わると同時に運用面のマニュアルの原本を教官に渡すことが出来たのでラウリ達の犠牲は無駄ではなかったことを信じたい。

 

「えーっと、バトソンに製造と整備について教えてもらってますし。次はそれをマニュアル化して……あー、ツェンドリンブルの訓練方法や兄さんに頼まれたシルエットアームズも開発しなきゃ。あー、忙しい」

 

 バトソンに幻晶甲冑(シルエットギア)について聞きながら要点を纏めるという毎日を送っていたアルだが、どうしても仕事の量が多くなってきたので対応を考えていた。

 

「副官は──このご時勢では厳しいですね」

 

アルは難しい顔をしながらなんとか出来ないかと考える。

一時期、アルはキッドやアディのような補佐を探そうとクラスメイトに『君、良い身体してるね。銀鳳騎士団に入らないかい?』と声をかけたこともあったが、得られたのは『いや、お前らの無茶に応えられるのあいつらだけだから』という返事のみだった。

そして今期は『アレら』の存在もあることから、アルは学生の中から副官を据えることを止めることにした。

 

「やっぱ仕事内容……いや、ツェンドリンブルの訓練とかをキッド達に振りましょう。あの子達も団長補佐だから一応訓練の一環としてやってみますか」

 

 ひとたび骨子を決めたら次々と妙案が頭に浮かんできたアルは、善は急げとエルに向かって駆け出したのであった。その後、エル達が訓練を受けると仮定した訓練が実施されることになったが、持ち前の『アデルトルート節』が炸裂してエルやアル、近くで聞いていたヘルヴィは何一つ理解することが出来なかった。

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