銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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54話

 クロケの森で行われた演習から早数か月。その間も銀鳳騎士団は問題児のエルとアルの突発的な思い付きに付き合ったり、ライヒアラ騎操士学園の高等部と連携してライヒアラ近郊の決闘級を狩ったりと決して暇と言えない日々を過ごしていた。

 

「さて、では砦の建設班の人を迎えに行くとしますか」

 

「了解」

 

 そんなある日、アルとヘルヴィは懐かしのツェンドルグの操縦席に収まっていた。アルが下半身を制御するバイクのような操縦席に跨り、ヘルヴィが上半身の見知った操縦席に座ると建築班の人員を運ぶための荷馬車(キャリッジ)を曳きながらゆっくりと街中を歩いていく。

 いつもはツェンドリンブルを使っているヘルヴィがあえてツェンドルグを使っているのは、主にヘルヴィの教導の為だ。

 ヘルヴィ率いる第3中隊はツェンドリンブルを扱うためにエル達が発案した乗馬訓練を行っている。その結果もあってか、第3中隊の全団員はツェンドリンブルを歩かせたり荷馬車(キャリッジ)をゆっくり曳くことには成功したが、誰も次のステップである『走らせること』に進ませることができなかったのである。

 それでも幻晶甲冑(シルエットギア)を纏いながら歩くよりはるかに早くライヒアラに着くので学生達から文句は出ていないが、『速く走れるのに走れないのは許せない』というのがヘルヴィの弁であった。今回は珍しくアルが他が休みにくいから休んでくださいと怒られて渋々取得した教官側の休暇の真っ最中で、手が空いていたのでせっかくだからとヘルヴィが教導をお願いして今に至る。

 

「では、走らせます。分からないことがあれば聞いてください」

 

「はーい、アル先生」

 

「それ、よく授業中に言われるので止めてください」

 

 少し文句を言いながらアルは鐙と操縦桿を倒しながらツェンドルグを加速させる。少しふざけた返事をしていたヘルヴィだったが、機体が加速していることを確認すると目の前で操縦している少年が行う1つ1つの動作を目に焼き付ける。

 

 ツェンドリンブルは多少カスタマイズしているが、操縦系統は下半身の物とあまり変わっていない。エルやアル、団員の構文師(パーサー)の汗と(主に団員の)涙と(主にエルやアルの)涎の結晶である特別に誂えた魔法術式(スクリプト)を使用しており、それによりツェンドリンブルは一人でも運用を可能にしていた。なので、腕を動かさない状態での操作はツェンドルグの下半身を動かした経験があれば十分教導可能なのだ……が、とある人物(アディ)は擬音満載の説明を行うので第3中隊全員が理解できず、それを不憫に思ったとある人物(アル)は授業や半壊した幻晶甲冑(シルエットギア)の改造などで教導出来るような纏まった時間が取れず、もはやお手上げ状態だったのだ。

 

 これにはエルも黙って首を振るしかなく、ツェンドリンブルの教練における中期目標は『ひとまず、直線に走れるようにしよう』に決まったのである。

 

「速度を維持したい場合はこの握りを絞らないように気を付けてください。速度も実際にはかなり出てるので、部隊の足並みが狂わないように周囲と合わせてください」

 

 勢いよく駆けるツェンドルグの幻像投影機(ホロモニター)を横目にヘルヴィはアルの話したことを頭に叩き込む。教官になったこともあってか、力加減や操作の手順を擬音ではなく部品などを指差しながら説明し、動かした時の経験を語ってくれることもあるのでヘルヴィにとって分かりやすい物だった。

 

 緩やかなカーブを数度行いながらツェンドルグは銀鳳騎士団の拠点であるオルヴェシウス砦の近くで止まる。しかし、いつもならこちらが何も言わなくても自発的に整列している調教……教育された高等部の学生達が居るはずなのだが数十分待っても来ない状況に2人は首を傾げた。

 

「非常事態が起こったのかもしれません。ヘルヴィさんはここで待機していてください」

 

「分かったわ。気を付けてね」

 

 アルはアガートラームを装着した方の腕でサムズアップしながら操縦席から飛び降りると魔法で緩やかに着地し、そのままツェンドルグが曳いている荷馬車(キャリッジ)の小さな扉を開けて中に入っていった。太陽光が隙間から入ってくるがそれほど明るくない荷馬車(キャリッジ)の中をアルが進んでいくと、1機の幻晶甲冑(シルエットギア)の前で足を止めた。

 

「さて、これの実戦ですね」

 

 アルがその幻晶甲冑(シルエットギア)に背中を預けた状態で幻晶甲冑(シルエットギア)を起動すると、装甲がガシャガシャと動く音と共にアルの肉体が幻晶甲冑(シルエットギア)の中に消えていく。やがて頭部以外を残したアルの肉体は全て幻晶甲冑(シルエットギア)の中に納まり、幻晶甲冑(シルエットギア)に内包されている綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)がアルの魔力に反応してブルリと躍動する。その反応を確認したアルが軽く飛び跳ねるなどの確認を行うと、近くの伝声管の蓋を開けて口を開いた。

 

「ヘルヴィさん、キャリッジの蓋を開けてください」

 

「了解。えっと、まずはキャリッジ側のブレーキを確認して──」

 

 伝声管からヘルヴィの手順を思い出す声が聞こえると共に荷馬車(キャリッジ)の蓋が徐々に開けられていき、アルが纏った幻晶甲冑(シルエットギア)の全容が太陽光によって露わになる。

 

 全身を覆う装甲はエル達が使っているモートルビートや、この数か月で新たに作成された戦闘型の幻晶甲冑(シルエットギア)よりも重厚な物となっており、さらに左腕にはこれから核攻撃でも行うのではないかと思われるぐらいの大型の盾を装備している。右手の前腕部も異様に盛り上がっていて存在感を主張しているが、全身の中で一番主張が激しい部分は足だった。ふくらはぎの部分が盛り上がっており、その内部にはパッチワークで使用された魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)が数基取り付けられている。

 

「アルフォンス・エチェバルリア、『ストライカー』行きます」

 

 アルが腰を落としながらストライカーの脚部に魔力を送ると、搭載された魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)によってアルの身体がストライカーごと浮き上がる。パッチワークよりも軽いためかバランスを取るのに時間を取られるが、なんとか安定させることに成功したアルはカエルの頭のような兜を自らの頭部に装着すると圧縮大気推進(エアロスラスト)を用いて荷馬車(キャリッジ)から一気に飛び出した。

 

 大きく弧を描きながらオルヴェシウス砦に向かって進むアルの目に砦の見張り台から伸びる赤い煙が映った。赤い煙の符丁は主に決闘級が出現した時に使用されるので、怪我人の心配をしたアルは迅速にかつ周囲に注意を向けながら砦の入り口まで突き進む。

 

「アルフォンス教官」

 

 オルヴェシウス砦の入り口に備え付けられている門をくぐると1機の幻晶甲冑(シルエットギア)がこちらに向かって走ってくる。アルのストライカーよりは軽装だが、それでも頑強な装甲に護られた全身に腕や腰といった機体の各所に武器やオプション装備を搭載するアタッチメントが取り付けられた戦闘用に調整された最新の幻晶甲冑(シルエットギア)、『モートラート』だ。

 しかし、その開発経緯は作業機械としての幻晶甲冑(シルエットギア)であるモートリフトと区別化するために考案した戦闘用幻晶甲冑(シルエットギア)なのだが、五指が使えることから戦闘で使用されるよりも精密な作業の頻度の方が多いちょっと可哀想な子である。

 

「煙見ましたが怪我人は居ませんか?」

 

「大丈夫ですが……。外壁の一部が崩れたので皆、ご覧の有様です」

 

 モートラートが指で指し示した方角を見るとまだ外壁が完成していない箇所付近で全ての学生が手に得物を持ちながら待機していた。モートリフト達はエル謹製の弩砲を手にぶつぶつと『許さん』や『ぶっころ』と呟いており、モートラート達は幻晶甲冑(シルエットギア)用の剣や槍、挙句の果てには建築用の大槌や石材を持ちながら『血祭りに上げてやる』と物騒な言葉を口にしていた。はっきり言ってこのまま振り返って帰りたかったアルだが、職場放棄は良くないので『怪我だけはしないでください』と声を震わせながら言い含めておいた。

 

「ふざけんな畜生めがぁ!」

 

「滅殺!」

 

「臓物をぶちまけろ!」

 

 アルの目の前では大人数によるモンスターハントが行われていた。

 まず、弩砲を持ったモートリフト達が一斉に槍のような大きさの矢を放つことで魔獣に痛打を与える。次にモートラート達が手に持った武器を(一部武器かも怪しいが)手に突撃し、魔獣の頭部や腹部を中心に怒りと憎しみの篭った攻撃をお見舞いする。

 

 数の暴力に晒された決闘級魔獣が一方的に嬲られていく様子を見ていたアルは『なんだこの学生達』と数か月前まで銀鳳騎士団に取り入ろうとしていた貴族や一般学生の変貌具合に引いていた。報告書では決闘級魔獣の討伐履歴しか残っていないので、『魔獣多いな』という感想しか抱いていなかったのだが、まさか学生達がこんなに血の気があるとはアルも思ってなかったのである。

 現に今も入学当初は『騎士団に入れてくださいよ! お役に立ちますよ!』と昔のディートリヒのように空気を読まずに格好つけていたとある貴族の息子が、その辺にあった角材を持ちながら『皆! 角材は持ったな? 行くぞ!』と嬉々として決闘級魔獣に突っ込む様を親が見たらどう思うか、アルはそれが怖くて仕方なかった。

 

 その後、ただオルヴェシウス砦の近くを歩いただけという運が悪かった魔獣が息絶え、何事もなかったかのように片付けを行っていた学生の1人が魔獣の死骸を見てアルに近づいてきた。

 

「アルフォンス教官、すみませんがシルエットナイトをこちらに回してもらえないでしょうか? このまま放置すると別の魔獣が来る可能性が高いので」

 

「あー、ツェンドルグ型なんでついでに引きずっていきましょう。おっと、お迎え来たみたいなので片付け終わらせちゃってください」

 

 アルが指示を出していると馬蹄が地面を叩くような足音と共にツェンドルグが姿を現すと後ろに曳いている荷馬車(キャリッジ)の扉を開けた。それを見た学生達は片づけが終わった班から順番に中に入り、荷台に取り付けられた仮設型の椅子に腰を掛けていく。

 そんなどこか軍隊のような動きを学生達がしている中、アルはツェンドルグの操縦席に戻ってヘルヴィに報告する。

 

「あー、いつものね。じゃあツェンドルグだしワイヤーで括り付けちゃおう」

 

「エドガーさん達が見回りの時に台車持っていく理由が分かりましたよ」

 

 見回りに行く中隊の中で1機だけ台車をサブアームで掴んでいるカルディトーレが居ることの謎が解けたアルはそそくさとワイヤーを荷馬車(キャリッジ)から取り出し、暇な学生の中から数班程声をかけて魔獣の死骸と荷馬車(キャリッジ)をワイヤーで繋ぐ。後はライヒアラに持って帰って回収屋の支部に連絡を入れておけば処分してくれるので、アルはオルヴェシウス砦に残った学生はいないかしっかり点呼を行ってツェンドルグを走らせようとするが、少し待ってからヘルヴィに操縦を代わるように言った。

 

「転んでも構いません。一直線に走るだけで良いですからやってみませんか?」

 

「……じゃあお言葉に甘えて」

 

 操縦席を交代したアルが、伝声管で荷馬車(キャリッジ)内部に運転が荒くなるので掴まっておくことを連絡する。馬に限らず乗り物系は曲がりを加えた操縦より『一直線に突っ走る』方が操作難易度が低いので、ヘルヴィにはまず走る感覚を覚えてほしいと考えた上でアルはこの指示を出したのである。

 

「こちらキャリッジ、準備完了です」

 

「ヘルヴィさん、お願いします。何かあったら止めますんでやっちゃってください」

 

「了解!」

 

 ヘルヴィが思いっきり鐙を蹴り、ツェンドルグを前へ進ませる。その命令を受けてツェンドルグが街道から少し外れた平原を一気に加速しだした。平原は当然舗装されていないので荷馬車(キャリッジ)はガタガタと揺れる。しかし、伝声管から聞こえてくるのは楽し気な笑い声なのでアルは『とんでもない学生に仕上がったかもしれない』とぶるぶると身震いした。

 そんなアルの心境とは関係なくツェンドルグは一直線に走り、無事にライヒアラ周辺までたどり着いた。その後はヘルヴィが慣れた操作で街中へ入っていき、なんとかライヒアラ騎操士学園の校庭まで着くと魔力が尽きた幻晶騎士(シルエットナイト)のように集中力が尽きたヘルヴィが操縦桿に項垂れた。

 

「あー、明日からまたアディちゃんのアレが始まるのね」

 

 擬音交じりの説明に関してアルは何も言えないので、『頑張ってください』と気休めにもならないことを言ってから操縦席から降りると荷馬車(キャリッジ)から出てきた学生達を集めて終業前の洗浄や進捗報告などの指示を始めた。

 

***

 

「それでは、第……ほにゃらら回ドキッ兄弟だけのエチェバルリア会議を始めます」

 

「いぇーい!」

 

「俺も居るけどな!」

 

 深夜、ライヒアラ騎操士学園の工房の中でエルとアルとキッドが机を囲んで談笑していた。別に彼らが非行に走ったわけではない。騎士というものは召集がかかればすぐに出撃できるようにするのは当然だが、一晩中見張りをする職務もある。つまり、これもれっきとした騎士の修練の一環なのだ。

 ちなみにアディは『流石に深夜に男の中に女を入れるのはあれだろ』という、『エルとアルが幻晶騎士(シルエットナイト)に興味を失くす確率』ぐらいのことを危惧して別の日にされた。

 

「それにしても男同士なのに話すことはシルエットナイトのことなのか?」

 

「えー、だって僕達 思春期をシルエットナイトに殺された少年ですし……というわけで可変機作りましょう!」

 

「僕がロボネタに食いついてもその案は却下です」

 

 腕で顔の前に×を作るエルとそれを見て未だに駄々をこねるアルを見比べたキッドが軽くため息をつく。同学年の男同士といえば魚の方ではない『コイ』に興味が出て来る頃である。アルに関しては結構話が大きくなっているので自然と耳に入ったが、エルの方はそういった話を一向に聞かない。

 『アルには申し訳ないが、兄として妹の恋路を応援してやろう』という打算と自身の好奇心を満たすため、キッドはエルやアルに尋ねた。

 

「なぁ、2人は好きなタイプとかいるのか?」

 

「難しいですねぇ。高機動……いや、出力に物を言わせた法撃戦仕様……うーむ」

 

「高火力と重装甲を無理やり動かすタイプが好きです! ホバーも好きですが、多脚も良いですよね! でも虫のクモは苦手なんで誰か書いてください!」

 

 『駄目だ』とキッドは手で顔を覆うと、未だに好きな幻晶騎士(シルエットナイト)の戦闘スタイルで悩んでいるエルを若干冷ややかな目で見ながら『冗談ですよ』とアルが口を開いた。エルはともかく、アルは話を膨らませようとする意志があったことにキッドは興味津々でアルの話を聞く。

 

「前言ったと思いますが姉系ですねー。まぁ、自分がこういうめんどくさい性格なんで引っ張ってくれる人がベスト。でも知らない内に悪いことに利用しようとするのはアウトですね。まぁ、兄さんはシルエットナイトが正妻で良ければ後は何でも良いんじゃないですか?」

 

「流石アル! 僕のことをよくわかってますね!」

 

「皮肉だよ馬鹿野郎!」

 

 エルの屈託ない笑顔と共に飛び出た答えに、アルは珍しい罵倒と共にスパンとエルの頭部を叩く。そんな漫才を見ながらキッドは内心、『アディを幻晶騎士(シルエットナイト)狂にする方法』で検索をかけるが、数秒後に『お前正気か?』という脳からの返答が返ってくる。

 キッドはもう一度盛大にため息をついていると、それを見ていたアルが援護射撃をするべくエルに『ぶっちゃけアディしか居ないんじゃないです?』と言うと、エルはキッドの方をちらりと見てからアルに片目で合図を送った。

 

「そうですねー。良い子なのは確かですが、まだ距離を測りかねてる状態ですね。キッドの前で言うのも申し訳ないのですが、あの子にとって玩具なのか恋愛対象なのか……という感じでいかがです? 妹思いのキッド?」

 

「ばれてたのか」

 

 突然名前を言われたことで驚いたキッドだが、次の瞬間申し訳なさそうに頭を掻いた。対するエルは『バレバレでしたからね』と言いつつ、横から聞こえてくる『僕達を謀ろうなんて100万光年早いですよ』というアルの間違いをあえて訂正せずに笑顔でキッドを見た。

 

「いや、ごめん。つい気になっちゃって」

 

「いえいえ、キッドだから話すんですよ。それに、お返しでキッドの好みも聞かせてもらったらお釣りが来ますよ」

 

「げっ、そうきたか」

 

「何かを得るためには相応の代価が必要なんですよー。さぁ、キリキリ吐いてください」

 

 ケラケラと笑いながら男同士の気兼ねない会話を続けていく3人だが、流石にエル達が未だに悩んでいる『恋仲に隠し事はOKなのか? そもそも前世のカミングアウトって不和不和タイムになるのでは? などで悩んでいる』と言われても、キッドは恐らく困惑するだろうと内心『それっぽい理由でキッドが満足してくれて良かった』とエル達は安堵した。

 

 やがて、キッドの好みを密かにメモしてなにかあった時の実弾にしようと画策していたアルは手を叩いて『エチェバルリア会議の続き』を宣言する。

 

「えー、じゃあまず可変機の新たな考えについて」

 

「アル、それってなんだ? かへん?」

 

 未だに諦めないアルに何度目かも忘れた反対を申し付けるエルだが、キッドはその可変機について興味を持ったようでどんな物か聞くと、アルは目を輝かせながら簡単な設計図を描く。カルディトーレのような本体に、サブアームにはエル達でいう飛行機の機首と主翼がくっついたごつい追加装備(オプションワークス)がくっついた設計図をまじまじと見たキッドが面白そうな顔つきで口を開く。

 

「へぇ、なんだかトイボックスと似た印象だな。飛ぶ所とか」

 

「いえいえ、これは飛ぶのに最適な形に変形するんですよ」

 

 そう言いながらアルは変形後の設計図に着手するが、出来たのは土下座をするように膝を折り曲げた脚部を股関節を180度回したヘンテコななにかの絵だった。これにはキッドもゲテモノ判定したらしく、露骨に嫌そうな顔をしている。

 

「正気か?」

 

「複雑な機構はメンテナンス性がアレなので、簡略しました」

 

 『簡略どころかダセェ』とキッドが突っ込みかけるが、それを見ていたエルは絵に描かれている追加装備(オプションワークス)の後部を指差しながら悩みだすと、『キッドも居ますし、もう一度可変機についての問題点と危険性を洗い出しましょう』と前に会議した時と似たような話をしだした。

 

「止まっている状態から変形は僕も賛成です。ですが、止まっている状態の変形に利点が見出せないんですよね。すると、今度は移動しながらの変形になりますが、高速移動中に変形は関節やらハードスキンの出力やらが噛み合わないと空中分解してゴーストファイター行きですね」

 

「く、空中分解ってヤバすぎだろ」

 

 エルの説明にキッドが口を出すが、アルは何も言わない。実際、危険過ぎるのだ。

 先ほどエルが言っていた通り、静止している状態で変形し、そのまま空に上がるならば問題はない。しかし、幻晶騎士(シルエットナイト)は魔獣と戦う兵器である。いちいち地上に降りて変形しなおすというのはどう考えても手間にしかならないのだ。しかも、現在開発している装備の中で安定して飛行可能な物は魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)ぐらいなので、着陸中に行う操作を1つでも誤ればそのまま地面にキスしてしまう可能性が高い。

 

 そうなるとエルやアルが知っている一般的な可変機と同じように空中で変形する形になるが、高速で動いている物を変形させると機体にかかるGやらで外装や関節に負荷がかかる。最悪の場合だと空中分解、もしくは外装などの異常変形によって飛べなくなってそのまま墜落してしまうだろう。

 

「上空に居ながら静止状態での変形……夢物語ですねぇ」

 

「僕もそれが出来たらアルに言われるまでもなく作るんですけどねぇ。あと、操作系統も課題ありますし」

 

 エルとアルが新しい技術の概要を紙に書いていくが、ツェンドリンブルや幻晶甲冑(シルエットギア)関係を行っている中でそんな物を作っている暇や人員も居ないので、2人は惜しい物を手放すような顔で今まで書いていた設計図や概要を詰めた紙を丸めて作りたい欲と決別する。そんな2人の様子に触発されたのか、キッドは手を上げながら『そういえば親方ってエドガーさん達みたいに専用機ないよな。作るか?』と問いかける。

 

「えっ、……そりゃナイトスミスですから機体あっても」

 

「いや、親方ってモートルビート使ってるから専用のシルエットギア作ってあげたら喜ぶんじゃないかって……2人みたいに良いアイデア思いつかなくて突発的に思いついたこと言っちまったかな?」

 

 キッドが申し訳なさそうな顔をしながらエル達の方を向くと、エルが勢いよくキッドの肩を叩いた。その目は好奇心によってキラキラと光っており、横で『各団員の幻晶甲冑(シルエットギア)を専用化』と早口でぶつぶつ呪文を唱えているアルも合わさってなんとも『やっちゃった感』が漂ってくる状況に、キッドは背中から冷たい物が流れていく感覚を味わう。

 

「キッド、やっと僕達の境地に辿り着いたんですね。そうです! 無ければ作るんです!」

 

「歓迎しよう。盛大にな……。ということで仕様を纏めましょう。そうしましょう」

 

「あー! もうこうなりゃヤケだ! ぜってぇ親方がビビるやつ作るぞ」

 

 弟子の成長に全身から嬉しさを発現させながらエルが紙にモートルビートやモートリフトの胴体部分を描き始め、アルはその横で『騎操鍛冶師(ナイトスミス)に必要な物』という大項目の下に意見を纏める表を書く。キッドは何をしようかと少し考えると、ちょうど目線の先にあった工房の保管庫に向かって歩き出し、中から魔導トーチや金槌、寸法を測る道具といった騎操鍛冶師(ナイトスミス)がよく使っている工具類をサンプルとして持ち出してきた。

 

「とりあえず、ナイトスミスの人達が使ってる工具類持ってきたぞ」

 

「ありがとうございます。それでは親方専用機の仕様を纏めましょう」

 

 元気よくエルが宣言すると各自が思いついた限りのアイデアを雑多に紙に書き連ねる。ベースは膂力や耐久性に優れたモートリフトにし、精密作業用に指をオルヴェシウス砦建設で実績のある『五指』に変更する。他にもサブアーム技術を流用してモートリフトの腕を資材運搬などに使う大型クレーンアームに仕立てたり、工具類を出し入れがしやすいように腰周りにラックを増設しようとする所でエルは手を止めた。

 

「五指を付けても膂力で工具とか壊れませんかね?」

 

「あー、それは手に柔らかい素材を使うことで対処可能ですよ。例えば──」

 

 アルは教官試験の踊り科目に対応するためにモートルビートを改造した時や、藍鷹騎士団のシャドウラートの開発に力を貸した時記憶から、手に伸縮性がある柔らかい魔獣の外皮を手袋のように被せる案を出した。

 

(ま、素材だし問題ないですよね)

 

 一応藍鷹騎士団のシャドウラートで実際に使われている技術だが、何か言われても『幻晶甲冑(シルエットギア)全体の内容は言ってない。素材と効果を言っただけ』と弁明できるのでアルは気にせず作業を続ける。

 始めた時は真夜中だったが、いつの間にか太陽がライヒアラの壁を越えていることに気付いた3人は大きく伸びをする。そんな時、朝イチで工房に出勤したダーヴィドが訝しげな表情で近づいてきた。

 

「おめぇら……なにしてやがんだ?」

 

「あ、親方。親方専用機というのを考えてたんですよ」

 

 エルが先ほどまで書いていた設計図をダーヴィドに見せる。最初はエルとアルの書いた設計図という面倒事が増えそうな予感がひしひしと感じる紙をおっかなびっくりと言った様子で見ていたダーヴィドだが、次第に興味心身に読み進めていき、最後には上機嫌にエルの頭を乱暴に撫でた。

 

「銀色坊主! これは良いな! これさえありゃ鍛冶仕事も楽になりそうだ。後でバト坊にも見せて頼んでみるか」

 

「親方。親方専用機の開発をした上でナイトスミス隊が使用するモートリフトを各々が管理してカスタマイズするのはどうでしょう?」

 

 アルの意見にダーヴィドは顎に手をやりながら考える。団員1人1人のモートリフトを各自が管理するので、短剣の管理などが面倒になる。しかし、自身の機体という相棒が手に入り、かつそれを自在に改造して自分の使いやすいように出来るというのは、団員にとってもプラスになるのではないかという結論に至ったダーヴィドは小さく頷いた。

 

「ちょっと考えさせてくれ。改造の度合いや管理方法については企画する必要があるからな」

 

「分かりました。今度、意見の刷り合わせを行いましょう」

 

 好感触な返答を背に受けながらアルは騎士団の上着を羽織る。休暇が終わった1人の副団長は教官に戻り、工房を出て行った。




ストライカーは某スタイリッシュゲームのバー○ズさん(最終版)のやつがモデルです。あれは良い装備だ。
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