銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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銀鳳騎士団編 獅子の章
55話


 暑かった夏も終わり、涼しくなったかと思えばすぐに上着を引っ張り出すぐらい寒くなった冬の時期。外との気温差によって額に汗を浮かべながら上着を脱いだエルとアルが定位置である机に着席して一息ついていると、モートリフトを2周りほど大きくした幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったダーヴィドがエル達を呼んだ。

 

「銀色坊主達、そろそろ時間だぞ」

 

 その声に気付いた2人が定例会を行うために移動してダーヴィドが居る辺りに置かれている椅子に再度座る。すると、まずはキッドとアディが2人を挟むように座り、徐々にエドガー達中隊長や小隊に分かれた時の小隊長、バトソンや騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の小隊長などリーダー格の人物が集まってくる。

 

 普段なら中隊長やダーヴィド、エルとアルで定例会を行うのだが、本日は各プロジェクトや訓練状況の進捗報告と年明けを含めた新しいタスクの発表が行われるので結構大所帯だ。本来は月に1回ぐらいのペースで行いたかったが、ダーヴィドや騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は良くても訓練状況が1か月でそう変わらないということで季節の変わり目かつ、年末に近いこの日を『大定例会』にすることに決めたのである。

 

「それでは、大定例会を始めます。まずは、各中隊長から訓練の状況を説明願います」

 

 アルの司会によってエドガー達は席から立ち上がりながら自身の中隊の訓練状況を話す。

 エドガーは小隊に分かれた際のそれぞれの役割の確認や連携の訓練と指示されてから再び陣形を組み直す速度を徹底的に訓練し、ライヒアラ近郊の警備任務にて起こった魔獣との不期遭遇戦の際にも訓練の成果がしっかりと身に着いていたと報告する。その報告内容にエルは拍手をしながら『心強いですね』というコメントを残し、続けてディートリヒが報告する番になった。

 

 だが、ディートリヒが報告を行おうとする前にダーヴィドが手を上げながら『その前に』という言葉の後にディートリヒに真剣な表情を向けた。

 

「横槍ですまねぇが、ディー達の修理頻度が高過ぎるから演習は控えてくれねぇか? シルエットナイトの修理だってただじゃねぇんだ」

 

「なっ! そうは言っても我が第2中隊は攻撃特化だよ? 演習しないで戦いの駆け引きを学べというのかい?」

 

 ダーヴィドの言葉にディートリヒが反論し、その反論を第2中隊の小隊長が頷きながら肯定する。彼らが言うには、第2中隊は戦闘中の駆け引きや各々の持つメインウェポンやサブウェポンの習熟を重点的に訓練しているためにどうしても演習を行う必要があるとのことだった。もちろん修理中は木製の武器を素振りをするなどの訓練を行っているのだが、実情は操縦訓練にもならないので実機に乗って演習するのに比べたらどうにもしっくり来ないらしい。

 

「あー、今まで生身でやってたんですか。それじゃあモートラートを数機貸し出すので、修理中はそれで訓練してください。修理に関しては……副団長、なにか良い案ありますか?」

 

「はい、修理に関しては部材と修理時間の削減のために操縦席のある胸部は毎回行いますが、それ以外の修理は内部の部材にダメージが入った場合のみ認めます。もちろん、修理はしなくても毎日の整備は行っていただきますが、第2中隊に限らず修理に人員を割くのは最低限でお願いします」

 

 アルの提案にディートリヒと頻度は少ないが演習をたまにしているエドガーが何か言いたそうにするが、その前にダーヴィドが『中隊長機の開発の人員整理するんだよ』とネタバレすると2人はあっさり引き下がる。そんな様子の2人を見てアルは心の中で『現金だなぁ』と笑った。

 中隊長機は今までの制式量産機から各中隊長に合わせた装備の開発やカスタマイズを行うので、彼らがどのようなカスタマイズをするにせよ、何か注文されたら即時反映出来るぐらいにレスポンスを早める必要がある。そのためには人員、つまりマンパワーを集中させる必要があるのだ。

 

 ちなみに中隊長機の開発について学園に報告すると、『鍛冶科の学生も後学のために製図だけでも参加させてほしい』と学園側が要請してきているので、開発初期の人員はかなりの大所帯となる予定なので、そのことを思い出したアルはこの場でダーヴィドに報告すると、『おう! イキの良いやつをこっち側に引っこ抜けば良いんだな!』とエルのようなことを言い出した。

 その大分この騎士団に染まってきたダーヴィドの言葉に、アルは引き抜かれるであろう学生に黙祷を捧げながら『アー、ハイ。ソッスネー』と棒読みで答えていると、今度はヘルヴィが手を上げた。

 

「じゃあ次は第3中隊ね。ツェンドリンブルの訓練状況は一直線に走らせることは出来たわ。だけど、走行中に曲がったりとかキャリッジを操作しながらはまだ出来てないから訓練を続けていく予定かな」

 

「はいはーい、スクリプトのばぐ? ってエル君が言ってたおかしい所は後でエル君にお話しまーす」

 

 ヘルヴィとアディの報告を聞きながら黙々と紙に書きながら『団長と呼びなさい』とアディに軽く注意したアルが場の空気を変える為に軽く咳ばらいをし、『続いて開発についてお願いします』とダーヴィドとバトソンに報告の場を譲って着席する。それを確認したダーヴィドは顎でバトソンに先に報告するように指示し、それを見たバトソンが嫌そうにしながらも礼をしながら話し始めた。

 

「あー、俺……じゃねぇ。僕の分隊はクロケの森の実習で副団長が半壊させた改良型モートルビートを修理……あれ、改造っていうのかな……しました。あと、それを基に騎士団長や副団長が提案した戦闘用のシルエットギアの量産を行いました」

 

「副団長様のは改造で合ってるぞ。俺も見たが修理の範疇を超えてやがる」

 

「ははは、そこは大目に見てください。学園側から求められたモートリフトについての運用、整備、制作工程のマニュアルは既に完成してますが、取り扱いについてフレメヴィーラ中の全学園で協議する必要があるらしいので年明けまで待ってほしいとのことです」

 

 ジトリとアルを睨みつけながらバトソンをフォローするダーヴィドだが、睨みつけられた本人は笑いながら学園で説明されたマニュアルの取り扱いについての報告を行う。

 学園も本来ならすぐにでも現品と共に各学園に連携したかったのだが、その前にアンブロシウスが待ったをかけた。曰く『幻晶甲冑(シルエットギア)の普及について国家が主導で行う』とのことで、フレメヴィーラ国内に点在する各学園の状況や運用方針について把握すると共に、幻晶甲冑(シルエットギア)やマニュアルの保有と管理に厳しい制限をかけるらしい。

 これには幻晶甲冑(シルエットギア)が『兵器』としての見方が強く、さらにカザドシュ事変が起こったばかりなので一部の大貴族が警戒したことに起因する。その制限の中には戦闘用幻晶甲冑(シルエットギア)である『モートラート』の項目もあり、『一般人の所有は禁止。騎士団が所有する場合も申請を行ってから銀鳳騎士団に直接出向いて教えを乞う形』を取るらしく、作業用と戦闘用両方をマニュアルに記載していたアルが大慌てでエルや暇そうなディートリヒに添削をお願いするという事態が起こっていたりする。

 

「次は俺だな。といってもシルエットナイト関係はキャリッジの作成や団長殿の思いついた装備を組み上げることしかしてねぇな。後は皆と一緒にこいつらを改造してたな」

 

 ダーヴィドが後ろにある幻晶甲冑(シルエットギア)を叩きながら報告を行う。ダーヴィドを筆頭に、銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は仕事の合間という短い時間や各自に割り当てられた相棒に改造を施していた。もちろん、『空き時間であること』と『改造案の許可をもらってから着手する』というダーヴィドが制定した鉄(拳)の掟を守った上だが、それさえ守れば例えサブアームをくっつけようが、真空斬撃(ソニックブレード)の魔法を魔力が持つ限り発現し続ける切削加工に使用するオリジナル工具を新たに取り付けようが比較的自由だった。

 

 だが、中には『溶鉱炉まで行って加工を行うのが面倒くさいので溶鉱炉をくっつけます』というエルでさえも頭の心配をするほどの提案が混ざってたりしたので、本当に危険なのかや実用性を規模を小さくした模型を使いながら慎重に確認してからダーヴィド裁判長が下手人を鉄拳の刑に処したこともあったりする。

 

「最近では数人で改造計画を練るのがトレンドになってるらしいですがね。でも皆、僕が混じるといきなり話を切り上げるんですよね」

 

 若干寂しそうな声色を出しながらウソ泣きを始めるエルに、『何を』とはあえて言わないが、会議に出席していたアル以外の団員の心が1つになった。そんな謎の連帯感を高めていることなぞ知る由もないアルは報告内容を記載し終わると、紙束で机をトントンと叩きながら機嫌良さげに口を開いた。

 

「それでは、報告も終わったようなので堅苦しいのは抜きにして今後の予定を詰めましょうか!」

 

 『いぇーい』とテンションを上げていうエルとそれを冷ややかな目で見る周囲。その中間に立たされたアルはエルと周囲との寒暖差に身震いしながらも、先日エドガーとディートリヒから渡された『仕様書』を机の上に置いた。まずはエドガーの仕様を確認するためにエルが仕様書を見ながら内容を読み上げると、やはり基本的にアールカンバーと似たような外見で操作性もアールカンバーと同じような物が良いという基本的に忠実な仕様だった。

 

「エドガーさん、なにかびっくりドッキリメカ仕込みましょうよ。こう、隠し腕とか」

 

「こう、筋肉を活かした装備とか」

 

「お前たち。そういって親方のモートリフトの腕をどう見ても戦闘用のカギ爪にしようとしたり、腹部にナンブのような連射型シルエットアームズを仕込もうとして親方に怒られたことは忘れてないからな?」

 

 エドガーがジロリとエルとアルを見るが、当の本人たちは吹けていない口笛を吹く。『騎操鍛冶師(ナイトスミス)だって襲われるんですよ!』と力説した建前の後、ダーヴィドの『本音は?』という誘導にあっさり引っかかったのが運の尽きだったと反省しながら『さぁ、次はディーさんの相棒ですよ!』と強引に話題を変更した。

 

「えーっと グゥエールに似せて、装備は剣2振りに風系統の魔法を飛ばすカマサですか。ディーさん、剣を7本ぐらい持っていきましょうよ。いや、シルエットアームズで周囲一帯を氷漬けに……空冷じゃ無理ですね。すみません」

 

「じゃあエーテルリアクタを特殊な吸気法にして太陽の力を……物理的に無理なので忘れてください」

 

「君達なにを言いかけたんだい! それに剣で一杯にして動きづらくなるだろう? うちの中隊でもそんなバカは居ないさ」

 

「じゃあ装甲を刃みたいにして手刀でシルエットナイト両断とかあり寄りのありでは?」

 

 なんとも面白みに欠ける──もとい、一般的な装備にエルとアルが代替案という名の自分達の趣味を押し付けるが、受け入れたらグゥエールが()()()()()()()()()()()()になることを危惧し、頑なに拒否するディートリヒ。そんな押し問答を続けていると、装備から機能の概要に目線を映したエルが途端にニヤついて『ほうほう』と言いながらアルに仕様書に書かれたとある一文を見せる。

 

「『団長のマギウスジェットスラスタで距離を詰めれるようにしたい』とは……ディーさんもチャレンジャーですね」

 

「あ、ほんとだ。タイチョいぇーい!」

 

「いぇーい! ほんとどういう風の吹き回しっすか?」

 

 魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)というエルやアルしか興味を示さなかった物を率先して使いたいという意欲にエルの顔の表情筋が緩みっぱなしになり、アルも嬉しさのあまり第2中隊の小隊長とハイタッチを決める。その光景に呆れてため息しか出なかったディートリヒは、団員の声に『なぁに、便利だと思ったからさ』と少しだけ嘘をついた。

 

「でも、厳しいですよ? 重心とか、飛行中のバランスとか。下手しなくてもすっ転ぶので修理の回数も凄まじいことになります」

 

 自身も魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)というホバー機能を何度も転びながら、そしてその都度ダーヴィドに怒られながらも操縦できるように訓練した経験から親切心でディートリヒに考え直すように言うが、ディートリヒは笑いながらも自分の意思を曲げなかった。

 

「修理に関しては申し訳ないと思うが、訓練が増えるのはこちらとしても望むところさ。それに、教官殿も教えてくれるのだろう?」

 

「……分かりました。そもそも中隊長機開発のために人員整理をしたのですから、思い切ってやっちゃってください。親方、団員の選別はお任せしますがディーさんの方の比重を多くしてください」

 

 ディートリヒとアルの様子にダーヴィドは大きく頷くとエドガーとディートリヒの機体を担当する団員の名前をつらつらと書きだす。比較的経験が浅い者をエドガーに、ダーヴィドの同期といったテレスターレ作成でも主軸となった猛者をディートリヒに配した。

 

「後は俺が逐一見回れば大丈夫だな。学生連中はエドガーの方に置いときゃ基本的な開発だから勉強になんだろ。……しかし、エドガー。銀色坊主達じゃないが、中隊長様の機体なんだからもうちっと装飾や目立つ物あってもバチは当たらねぇぞ?」

 

「とは言ってもなぁ。フレキシブルコートを付けてもらえたらそれで良いのだが」

 

 エドガーが悩み込む声に反応したエルとアルが凄まじい勢いで自分のイメージをそれぞれ紙に叩きつける。もちろんこの机の上には定規といった製図を行うために必要な文房具が一切ないのだが、指で器用に設計図を描き上げる2人だが、突如アルがエルの肩を叩く。

 

「兄さん、この案をベースに……こうしましょう」

 

「なるほど、アタッチメントにして任務ごとに使い分けるんですね。盲点でした」

 

 まさかの合体技である。

 先ほどまで書いていた設計図をメモ帳にし、時が経つごとにそのメモ帳がまるで魔女が混ぜている釜の中のようにドス黒くなっていく。やがて、エドガーが先ほど自分が呟いてしまった言葉が失言だったと認識した頃には数枚の設計図が彼の眼前に突き付けられていた。

 

「フレキシブルコートの発展型です。盾の先端にシルエットアームズを取り付けるような感じにしました」

 

「取り付けるシルエットアームズも連射型や単発高火力型など揃えていますが、変わり種でこのような杭を風魔法で射出する物とかお勧めですよ!」

 

「普通で良い! 普通で!」

 

 ハイになっている目で設計図をグイグイとエドガーの顔に押し付ける2人にエドガーは怒りながら『普通』を所望する。その願いに『シールドガトリング』やら『とっつき』やらぶつぶつ言いながらあっさり引き下がっていく。その様子にヘルヴィとダーヴィドは『ヘルヴィ(自分)の機体も危ない』とひそかに警戒心を上げた。

 

「では、これで中隊長機については以上ということで。最後に僕らの拠点である砦の現状についてお話します」

 

「おぉ、荷物とか纏めにゃならんから移動日も計画してるなら頼む」

 

 工房を見渡しながらダーヴィドは騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊に伝達する内容がびっしり書かれたメモ帳にでかでかと『移動日』と書いて目立つように大きな花丸を付ける。そんなマークを見て密かに『親方も花丸使うんだ』と失礼なことを思いながらアルは『予定では僕たちの卒業式です』と告げる。

 

 銀鳳騎士団は騎士団長と副団長が学生という異様な集団なので、苦肉の策としてライヒアラ騎操士学園を占拠──間借りさせてもらっている立場である。つまり学生では無くなった以上、それ以上の間借りを許容できないのである。

 なので、卒業式の日に『銀鳳騎士団関係の物資や資料が学園の工房から消える』ようにアルは集まった団員にお願いする。

 

「もし、完了してなかったらどうなるんだい?」

 

「僕が怒られます。そのストレスで僕が兄さんと組んで団員の誰かに模擬戦と言う名の八つ当たりをします」

 

「ちなみに近接攻撃はしませんよ。2人で十字十字十字十字~略~十字砲火ぁ! します」

 

 何のことかわからないが恐らく封殺されることを簡単に予想出来たディートリヒは元気よく了解の返事をする。

 その後は、先んじて砦にもっていっても良い物と最終日に運ぶ秘匿性が高い物を分けるようにエルが指示を出し、それぞれの隊で報告会で話したことや聞いたことを必ず共有するようにという終了間際のお決まりである台詞をはいている最中、ヘルヴィが何かを思い出したかのように『あっ!』と声を上げるとエルやアルなどの中等部の団員を見た。

 

「皆、そろそろ卒業だけど卒業試験の勉強はしてるの?」

 

『あっ』

 

 ヘルヴィの言葉にキッドとアディがすっかり忘れていたような声を上げる。鍛冶科はほぼ免除状態なので問題はないのだが、この2人は騎士科なので卒業するためには試験が不可欠なのだ。この試験は中等部の範囲全部から出題され、毎年一夜漬けで何とかなると高をくくっている数人の落第や補習生を出している文字通り最後の関門である。

 

 しかし、腐っても義務教育以上の教育を受けているエルにとっては特に問題視する事柄でもなかった。そして、アルに至ってはそれよりも難しい教員試験をパスしているので、教官側から『成績の順位を張り出すから受けないで欲しい』と言われていたりする。

 

「とりあえず勉強会しましょうって聞いてないみたいですね。とりあえず解散しましょう」

 

「銀色坊主達はこいつらの勉強見てやれ。流石に俺達じゃ力にならん」

 

 未だに卒業試験の衝撃から戻ってきていない2名の団員以外は座っている椅子から立ち上がるとさっさと持ち場に戻っていく。やがて槌が金属を叩く音が工房中に聞こえ始めると、エルとアルはそれぞれキッドとアディを背負ってダーヴィドの言い付け通り勉強会を行うために家路についた。

 

***

 

「えーっと。キッド、フレメヴィーラ王国ってどうやって出来たんだっけ?」

 

「たしか、ボキュース大森海へのなんとかって軍が失敗して逃げようとした時になんやかんやで建国した……と思う」

 

「ボキュース大森海への森伐遠征軍が敗退し、西方に撤兵する際にオービニエ山脈東側に残した前線基地が前身ですね。2人共、それ中等部の最初のやつですよ?」

 

 夕食が終わってエル達が部屋に戻るとすぐに試験に備えた勉強会が行われた。フレメヴィーラ王国の歴史に詰まったアディとそれをふわっとした説明で返したキッドに見かねたエルが補足を加えている中、アルは1人机に座って一心不乱にノートに魔法術式(スクリプト)を書いていた。

 

 基本構成はエルの魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)に使われている爆炎系を使用しており、それに貫通力と爆発範囲を上げるために何度も何度も拡大術式(エンチャント)や縮小を繰り返している代物である。もちろん、そんなことをすれば魔力がべらぼうにかかってしまいますが、『爆裂という物は威力とロマンが必要なんです』と豪語するエルが言っているのでそれに従うようにアルは魔法術式(スクリプト)を書き込んでいく。

 

「アル君手伝ってよー」

 

「口を滑らせて範囲教えそうなのでダメです。兄さん、これはどうでしょ?」

 

 アディの助けを求める声にアルはきっぱりと断りながらエルに書いた魔法術式(スクリプト)を見せる。アルとしてはヒントだけでも教えたいところだが、一応教官をやっているので試験に出そうな、というか試験問題も把握してしまっているのでヒントと称してぽろっと喋らないようにひたすた口を噤んでいた。

 

「ダメですね。圧縮はこれで良いので爆発範囲を上げましょう」

 

 紙に書いた魔法術式(スクリプト)をしばらく眺めたエルは新しく注文をつけながらアルに返す。現状の魔法術式(スクリプト)を試算してもカルディトーレの魔力貯蓄量(マナ・プール)の10分の1を1発で食ってしまう計算なので、これ以上使用魔力を上げるのは流石に許容できないとアルは伝える。しかし、エルは『ベヘモスの内部にダメージを与えるのは不十分』という理由を付け加えて突き返された。

 

「分かりましたよ。でも運用する充てはあるんですか?」

 

「中隊長機が終わったら僕も専用のキャリッジを作ってもらおうと思ってるんです。キッドとアディのツェンドリンブルに曳いて貰う予定なので、魔力的にはもうちょっと余裕はあります」

 

「あー、その前提条件聞くの忘れてました。それならもうちょっと練ってみます」

 

 合計6個の魔力転換炉(エーテルリアクタ)ならば確かにこれ以上の威力を求めるのも無理も無い話である。アルはとりあえず先ほどの設計図を自分の2代目狙撃用魔導兵装(シルエットアームズ)として運用することにし、それよりも強大な魔法術式(スクリプト)を作り出すためにペンを取った。

 

 数時間後。

 更なる追い込みをかけるためにキッド達が泊まることになり、ぶつぶつと歴史などの記憶物を読み込む傍らでアルが魔法術式(スクリプト)を書いた紙をエルに手渡す。

 

「対師団級魔獣戦闘用スクリプト。今までの火の玉を飛ばすシルエットアームズの物とは違い、強力な貫通性能と爆発範囲を付与しています。兄さんのご要望どおり貫通力と爆発範囲に魔力を使い、もはやカルディトーレには扱えない代物です」

 

 淡々と説明口調で話すアルの作った魔法術式(スクリプト)をうっとりと眺めながらエルは使用魔力について問うと、『ざっと計算してカルディトーレの魔力貯蓄量(マナ・プール)の7分の1』と答える。その答えに気を良くしたエルが続けて基礎となる魔法術式(スクリプト)についてと問うと、それも聞かれると考えていたアルは『兄さんの爆炎術式を使用しています』と淀みなく答えた。

 

「パーフェクトだ、アルフォンス。これならベヘモスでも倒しきれます」

 

「感謝の極み。っとお約束は置いといて、6基のエーテルリアクタでの運用で計算してるんで単機での乱発は控えてくださいね」

 

 いくら魔力転換炉(エーテルリアクタ)を2基積んでいる幻晶騎士(シルエットナイト)が単機でこれ用いても、10発も20発も撃てば魔力切れを起こしてしまうことを注意したアルは階下へ降りる。

 数分後に人数分のカップとティーポットを手に戻り、慣れた手で紅茶を入れて配りながらエルと勉強の進み具合を確認していると、芳しい紅茶の香りに癒されたのかキッドとアディが突然机に突っ伏して眠りについた。その眠りにつく速度に知らず知らずの内にやばい物でも混ぜたのかとアルは不安になったが、ゴクゴク飲んでお代わりを自分で淹れ出したエルはなんとも無いので、過労なのだろうと判断して安堵する。

 

「の○たですか。この2人」

 

「まぁ、最近開発やらでばたばたしてましたからね。アルも忙しいでしょうが、フリーな時間作らないとダメですよ」

 

「そうですねぇ。最近目立った休暇とってないですし、今度シルエットナイトに居住空間完備の大きな箱を背負わせて旅したいですね。……騎士団は当然として、長距離を移動する商騎士団をターゲットにした野営セットとして開発するのも悪くないかも」

 

「休暇についてはまた今度と言うことで……。ところで最近教官業の方はどうですか?」

 

 休暇への夢や商品開発について語るアルに『旅できるほど休暇をやるわけじゃないのだが』とエルは思ったが水を指すのも悪いので、まるで思春期の子供相手に距離感を掴めない親のようなふわっとした質問を投げた。だがアルはその暴投を適切にキャッチし、『中等部を辞めたり、銀鳳騎士団について聞いてくる人が少なくなった』と返す。

 

「多分かなり前に送った報告書を陛下が読んだからだと思いますよ。まぁ、僕の目からしても結構アレだったんで多少誇張して書いたのも良かったのかも」

 

 エルの想像にアルは『まさか』と笑っていたが、実は当たっていたりする。

 『これ以上貴族からの介入が続くと派閥が出来て新型機開発や分配が大幅に遅れるかもしれない』と多少大げさに書いた報告書を読んだアンブロシウスは即刻クヌート達大貴族を招集。その結果、ライヒアラに子弟を向かわせた貴族達は傘下である貴族の子弟を帰還させたり、手紙で下手に詮索をしないように追加指示を送ったりとかなり慌しく動いていた。

 後、クロケの森でアルがやらかしたことを子弟から報告された貴族が『仮に自分の所に来ても手に負えない』と判断して勝手に手を引くという事態も多々起こったのだが、当の本人はポケーッとした表情で『不思議ですねぇ』とのたまっていた。

 

 この勉強会から数ヵ月後。見事に試験をパスした2人が工房で答案用紙を片手に小躍りしているのを団員全員がほっこりした表情で見つめ、落第しないかとハラハラしていた胸を撫で下ろす。そして、とうとうエル達がライヒアラ騎操士学園を出て行く日が刻一刻と迫っていた。

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