銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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58話

 オルヴェシウス砦から少し離れた所に川がある。油や埃とマブダチレベルで汚れる職業である騎操鍛冶師(ナイトスミス)は、この川で水浴びをするのが通例となっている。そんな川のほとりで1人の騎操士(ナイトランナー)が正座をしながら自らの失敗を悔いていた。

 

 彼の名前はエドガー・C・ブランシュ。銀鳳騎士団第1中隊長を任命されている責任感が人一倍あり、堅物と同騎士団の第2中隊長から呼ばれている偉丈夫である。そして、彼から少し離れた所では副団長のアルがぐったりとした状態で樹木に背中を預けている。

 

「ご、誤解だ ヘルヴィ! 俺達はここを通りがかっただけだ!」

 

「で、なんで私達が水浴び中にここを通りがかったの?」

 

 弁解するエドガーに対してヘルヴィの視線は冷たい。それもそのはず、ヘルヴィやアディ、そして他の女性騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の水浴び中にアルを背負ったエドガーが川の横にある森林地帯から水浴びの様子を見ていたのだ。

 だが、エドガーの性格的に覗きをするような人間ではないことはヘルヴィが一番よく分かっているので、ポーズ的にも指を鳴らしながらエドガーを睨んだヘルヴィが事情を話すように促すと、エドガーはぽつぽつと数時間前から遡り、自分達の行動を話していった。

 

***

 

「シルエットアームズの試射をしたい?」

 

 朝礼が終わってそれぞれが持ち場に向かっている最中、アルはエドガーに『魔導兵装(シルエットアームズ)の試射に付き合って欲しい』という頼みごとをしていた。というのも、先日アルが作成していた『着脱で威力が変化する魔導兵装(シルエットアームズ)』の魔法術式(スクリプト)が出来たので、それを魔導兵装(シルエットアームズ)にする前に紋章術式(エンブレム・グラフ)に刻んで想定どおりに動くか試験するためである。

 

「はい。限界まで僕の魔力を使うので、護衛をお願いします」

 

「……わかった。アルディラットはディーのと違って変わった物をつけてないから余裕がある。付き合うよ」

 

 もちろん、紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻んだ銀板に注ぐのはアルの魔力なので、最悪の場合魔力切れで動けなくなることもありえる話なので、そのことを伝えるとエドガーは自身の専用機となる『アルディラットカンバー』を見ながら快諾する。その返答を聞いたアルは既に準備を終えてパンパンに膨らんだ鞄を引っつかむと、エドガーと共に工房を出て行った。

 

 数十分後、魔獣や人の有無をかんがみたエドガーがいつも水浴びで使用している川の下流で試験をしようと提案し、アルと共に川の下流に陣取った。手際よく紋章術式(エンブレム・グラフ)が書かれた銀板を十数枚ほどカバンから出したアルはノートを開くと共に銀板を銀線神経(シルバーナーヴ)でくっつけていく。

 

「なにをしているんだ?」

 

「それぞれの銀板にエンブレム・グラフを書いているので、それを組み合わせてます」

 

 『物は試しです』とアルが1枚の銀板に魔力を流すと握り拳ほどの小さな火の玉が銀板から少し離れた所から射出され、火の玉はそのまま数メートルほど飛ぶと形成していた魔力がエーテルに還っていく。その後、先ほどの銀板に銀線神経(シルバーナーヴ)で纏められた数枚の銀板の束を直結し、アルは魔力を流す。すると、先ほどの火の玉を2周りほど大きくした規模の魔法が勢いよく射出され、数十メートル先に生えていた樹木に着弾した。

 

「なるほど、これがあれば自由に法弾を調整できるわけだな」

 

 着弾点を見たエドガーが理解した内容を話すと、アルは先ほどの結果をノートに書きながら頷く。頑強な甲殻を持つ魔獣以外の小型魔獣を幻晶騎士(シルエットナイト)が相手取った場合、法弾は威力がありすぎるのだ。なので、この魔法術式(スクリプト)を用いた魔導兵装(シルエットアームズ)ならば小型魔獣を少ない魔力で掃討できるのではないかとエルやアルは考えていた。

 しかし、着脱に時間がかかるという欠点も抱えているので、アルは実験を続けながらも頭の片隅で欠点を解消するにはどうすればよいか考えるが、消費する魔力によって引き起こされる疲労感や呼吸のしづらさといった魔力切れの症状によって考えがまとまらない。そして通算10度目の試射を行った後、ノートに内容を描くこともせずにアルはその場に崩れ落ちた。

 

「アルフォンス! 大丈夫か!?」

 

「魔力や衝撃は想定内ですが、やっぱり人間でやると魔力の減り方がとんでもないですね」

 

 相変わらず体を張った実験を行っているアルに、エドガーは苦言を言いたかったがひとまずアルをオルヴェシウス砦に連れて帰るためにアルと荷物を背負うと川を遡って歩き始めた。

 

 言い訳をさせてもらうと、別にアルにマゾっ気があってこういうことをしているわけではない。魔導兵装(シルエットアームズ)にすると使用する銀板が多くなるので、資材や運搬の効率から人間サイズの方が試験的にちょうど良いのだ。幻晶甲冑(シルエットギア)を使用する手もあったが、アルのフォートレスにエドガーが入れる余地もなく、幻晶甲冑(シルエットギア)の細かな作業を逸脱するほどの作業も試験の中にあったので、アルは一応悩んだが生身で試験に向かうことにした。──といってもそんなに深く考えずに『エドガーさんに運んでもらえば解決じゃん。わーい』という至極単純な理由だったが、それは本人しか知らないことである。

 

「大丈夫か? アルフォンス」

 

「大丈夫です。ちょっと頭が揺れるだけです」

 

 時折背中を向き、アルの容体を確認しながら川を遡っていくエドガーだったが、ふと水の跳ねる音がエドガーの耳に届いたので反射的にそちらを向くと、下着姿のヘルヴィやアディ、女性の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が水浴びをしている現場に出くわした。

 

「す、すまん!」

 

 その瞬間、エドガーは背負っているアルから手を離し、フリーになった手で自らの顔を押さえてこれ以上見ないようにしながら謝罪する。ついでに、エドガーの背中から解き放たれたアルは重力に従って地面で少し跳ねてから近場の樹木に頭をぶつけるというウルトラCを決める。そして、現場が少しカオスな状況が出来上がった所で今に至る。

 

***

 

 なんとも予想通りの事故にヘルヴィは自身の額を手で押さえる。たしかにエドガーはこの時間までオルヴェシウス砦に居らず、ディートリヒの訓練によって生じる衝突音の他に大きな音が聞こえたが、場所が被るのは想定外だった。

 

「副団長ー、団長に危ないことは駄目って言われてなかったっけ?」

 

「そのためにエドガーさんに着いてきてもらったんですよー」

 

 樹木に背を預けながらアルもチクリと注意されている様子を見ながら未だにヘルヴィを見ようともしないエドガーに、堅物と周囲から言われている彼の先ほどまでの慌てぶりを思い出したヘルヴィは口角を少し釣り上げる。

 

「そうね。許してあげなくもないけど……。エドガー、今の私に一言ちょうだい」

 

 嘘である。

 本当は既に事故として許すも許さないもないのだが、ヘルヴィはエドガーに見せつけるようにその場でくるりと一回転し、あえて『少し怒っています』という風体を装う。しかし、その姿を見たエドガーは熟れたリンゴのように顔を赤くさせながら何も言えずにどもる姿に最初こそ面白かったが、徐々にエドガーらしくないので『コレジャナイ感』が募っていく。

 

「ヘルヴィさん。ちょっとエドガーさんに助言して良いですか」

 

「……許可します」

 

 浅ましい考えに自己嫌悪が入っていたヘルヴィに手を上げたアルが助言の許可を求める。この状態を続けても決して好転しないのは目に見えているので、ヘルヴィは助言の許可を受諾する。そのまま足取りが重いアルと共にエドガーが森の中に姿を消し、時折『いや、それは怒られないか?』や『信じて』と怪しい会話が聞こえてくるので、ヘルヴィは少しだけ嫌な予感がよぎる。

 

「アディちゃん。大丈夫かな、あれ」

 

「アル君、学園の授業でも褒め上手だったので大丈夫ですよ」

 

 近くにいたアディに話のネタとして振るが返ってきたのは大丈夫という言葉だった。確かに、教練や学園に居た時に見た授業風景を見学しても、アルは基本的に怒らずにその人物の良い部分を探して褒めながら『こうすれば次のステップに行ける』と助言風味な発言をしていることが多い。今回もそれが発揮されるのか微妙なところだが、ヘルヴィはどんな言葉を聞かせてくれるのかいつの間にか期待していた。

 

 そしてたっぷり数分はかけた相談会が終わり、エドガーとヘルヴィは改まって相対する。近くには疲れた様子のアルが先ほどのように樹木にもたれかかりながらアディの髪をカバンから取り出した布で優しく拭いていた。

 

「えーっと……その、ヘルヴィ! よく似合っている! とても綺麗だ!」

 

 それは綺麗な軌道を描くカーブでもバッターボックスでいきなり落ちるフォークでもなく、綺麗にバックスピンがかかったストレートだった。そのエドガーらしい直球の褒め言葉、それも『綺麗』というおそらく女性が聞いて嬉しい感想にヘルヴィの体温が上がる。

 

「やっぱ爆発しねぇかな。あれ」

 

「ねぇ、アル君。エドガーさんに何言ったの?」

 

「んー、自分に正直になれとしか……。そもそもあの言葉、エドガーさんが元々考えてたやつですよ」

 

 若干生気が薄れた目で邪念を送っているアルにアディが助言内容を聞いてきたが、アルは『助言らしいことはしていない』と告げる。アルが言っていることは真実で、エドガーが先ほどの言葉はさすがにヘルヴィが怒らないかとアルに聞いてきたのである。ディートリヒなら間違いなくドロップキックが飛んでくるだろうが、相手はエドガーである。アルは『正直に言ってみろよオラァ!』と思いながら若干やけ気味に『信じて!』と言ったのだ。結果は上記の通りである。

 

「ふーん……。じゃあ私は?」

 

「そうですねぇ」

 

 自然にアディの上から下を一通り見たアルは、『そろそろ兄に手錠を付けて風呂に沈めるか』とよこしまな気持ちで心を汚しながら決心し、『首を傾げて』や『口に手を当てて』などカメラマンのような指示を出していく。

 

「はい、ニコォッ!」

 

「ニコォッ!」

 

 アディの笑顔は完璧だった。おそらくこの場面を描いた絵がデータ化したら排出率0.3%あたりの目玉商品として取引されることを確信したアルは『人を元気にするいい笑顔だと思います』と女の子をシンデレラにしそうな感想を述べると、未だに固まっているエドガーを再起動させてその場を後にした。

 

***

 

 同じく赤くなったヘルヴィの再起動がようやく終わり、女性陣がオルヴェシウス砦に帰ってくるとエルがバトソンと共に何かを話し込んでいた。アディが事情を聞くと、どうやらアンブロシウスに呼び出しを受けたらしく、今から出立することを聞くと、アディは先に帰ったはずのアルが居ないことに気付いた。

 

「アル君は?」

 

「あそこでノびてます。魔力を使いすぎたらしいので危険なので連れていきません」

 

 魔力切れでふらふらの状態なので、幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦でも1-2を争う難易度であるツェンドリンブルの操縦はできない。無理やり連れて行ったとしても、ふらふらして近場にあるお高そうな壺などを破壊(Goo○ Job!)しかねないので、アルは残らせることにした。

 

「それでは、行ってきます」

 

「行ってきまーす」

 

 その後なんやかんやがあり、訓練のためにツェンドリンブルの動かし方を再確認したいやら、自分が一番うまくツェンドリンブルを動かせるんだとか言うアディもエルについていくことになった。オルヴェシウス砦から元気に出ていくツェンドリンブルを見て、先ほど水浴びの時の決意が一瞬で吹き飛んだ無情さをヘルヴィは噛みしめていた。

 

「……というわけで講師が必要になったからお願いね」

 

 だが、すぐに講師役としてアルをロックオンしたヘルヴィは、承諾を待たずにアルを背負うとそのまま工房まで走っていく。痛む頭で思った通りの元気がひり出せないアルは小声で『人攫い~』と言うが、その声は誰も聞こえなかった。

 

***

 

「あ、兄さん帰ってきた。一旦中止してください」

 

 しかし、後に元気を取り戻したアルを教官としたツェンドリンブルを走らせながら曲がらせる訓練をすること半日、オルヴェシウス砦にエル達が帰還したので一旦訓練を中止したアルはヘルヴィ達に全員の集合を指示する。伝言ゲームのように伝わっていく集合の指示は瞬く間に団員達に届き、工房に全員が揃うのにそんなに時間を必要としなかった。

 

「で、兄さん。先王陛下はなんと?」

 

「ええ、オーダーは先王陛下とエムリス殿下が使用するシルエットナイト2機を作ってほしいとのことです」

 

 なんでも、王の責務から離れたアンブロシウスが幻晶騎士(シルエットナイト)で気軽に外に飛び出したいために幻晶騎士(シルエットナイト)が欲しいと話を続けていたが、エムリスも『自分もほしい』と言ったので2機都合することになったらしい。

 しかし、現在の銀鳳騎士団の規模で幻晶騎士(シルエットナイト)を新規に2機作る人的余裕はないので、アルは質問すると同じ設計の色違いにするとエルは回答した。

 

「マークⅡ方式、じゃなかった。先王陛下達もよほど傾いてなければOKらしいので、設計に落とし込むのは明日にして仕様だけ詰めましょうか」

 

「ということはしばらく訓練は休むべきだね。グゥエラリンデの訓練で直してもらっていたら間に合わない可能性がある」

 

「おう、助かるぜ。ついでに言うが、シルエットギアを着込んで物資の運搬してくれた方がもっと助かる」

 

 先王陛下や殿下という上の立場が乗る幻晶騎士(シルエットナイト)なので、他の雑音が入らないように実働部隊の訓練を失くし、『哨戒訓練の一環』として学園側の幻晶騎士(シルエットナイト)を借りてライヒアラ近郊の哨戒が出来ないかと意見が飛んでくる中、アルはそれらのスケジュールや聞くべきことをメモに記載していく。

 

「学園には僕が話しておきます。銀鳳騎士団の存在理由や依頼元を言えば許してくれるでしょうから。許可が取れ次第、中隊は担当日に学園へ行ってください。その後は直帰で大丈夫です」

 

 エルに確認を取りながらスケジュール関係は一端完了したアルは、会議室に大きな紙を取りに行く。その間にエルはエムリスから伝えられた仕様を全員に共有した。

 

「まずは(パワー)です」

 

「ふむ、近接格闘機だね」

 

「次に(ぱぁうわぁー)です!」

 

「ずいぶん膂力にこだわるな。いや、殿下は確かクシェペルカに留学しておられたはずだからテレスターレは知らないのか。なら力不足に感じるのも」

 

「最後に(パァゥワァー)です!!」

 

 何かを考察していたディートリヒやエドガーも『仕様全てが(パワー)』の潔さに言葉を失う。その時、会議室から『パパパパパウワードドン!』という謎の効果音を発しながらアルが大きな紙を持って降りてくる。大きな紙に数組の筆記用具を机一杯に広げ、アルはエルの手帳をちらりと見て『ああ、脳筋ね』と1人で理解していた。

 

「パワータイプをご所望ということは分かりました。とりあえずこれらはどうです?」

 

 アルは紙の上でペンを走らせ、『腕が異常に太い機体』と『魔獣をヒートでエンドする機体』を描く。

 

「若干ネタに走りすぎですが、腕を太くさせて殴り合いを有利に働かせるのも良さそうですね」

 

 最近あんまり褒めてもらえなかったので、ここぞとばかりにどや顔で胸を張るアル。

 しかし、このことで少し調子に乗ったのか『雷魔法を用いて飛翔体を高速で投射する装置をくっつけた飛行機』と『白を基調に所々黒で塗装された米国と日本のハイブリット機に似た物』を描きだした所でエルはその絵に大きく×印を付けた。

 

「それは調子に乗りすぎです。大体、これらは僕らの技術力では無理でしょ。……いずれ作りたいですが」

 

「おい、銀色坊主! 何を言った! なんて言いやがった!」

 

 さらっと恐ろしいことを言い出したエルを文字通り揺すりながら先ほどの言葉の撤回を要求するダーヴィドだったが、その騒動の最中にヘルヴィとアディが何やら会話をすると手を上げた。

 

「エル君エル君、先王陛下と殿下って偉い人だよね?」

 

「アディ、ついにそこまで」

 

「キッド、それはひどくない? えーっと……ヘルヴィさん! よろしくお願いします!」

 

 アディの残念具合にキッドは額を押さえるが、その様子をアディが憤慨しながら何かを説明しようと数秒黙るとヘルヴィに説明を丸投げする。バトンタッチされたヘルヴィは『この子は……』と苦笑しながら、アンブロシウスとエムリスの重要性を説き、そんな重要人物が乗る幻晶騎士(シルエットナイト)には『防御力』が必要だと提案する。

 

「そうなるとキャパシティフレームを目いっぱい……いや、操縦席の周囲は普通の装甲材にした方が防御力は上がるな」

 

「装甲を斜めに……となるとシルエットナイトのデザインがこうで……」

 

「ちょっと待ってください。まだ仕様は詰めてないのでデザインはやめてください」

 

 ヘルヴィの声に騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が設計イメージを煮詰めていくが、仕様がまだ完全に固まっていないのでエルが慌てて止める。作業中の仕様変更は工期を遅らせる行為の中でもっとも注意しなければならないことなので、エルは早く仕様を固めてしまおうと団員全員に見せるように手をあげた。

 

「まず依頼主である殿下の力というふわっとした要望ですが、シルエットナイトの膂力の他に火力として、アルに頼んでいるシルエットアームズを取り入れましょう」

 

「少し待ってください。あれはまだ問題が残ってますよ」

 

 エルの説明の中に『着脱式の魔導兵装(シルエットアームズ)』の話が出ていたので、アルは問題点である『魔導兵装(シルエットアームズ)自体の大きさ』と『消費魔力』をどうするかを聞く。すると、エルは紙に簡単な幻晶騎士(シルエットナイト)を描き上げると、その幻晶騎士(シルエットナイト)の中に魔導兵装(シルエットアームズ)を内蔵させた。

 

「大きさについてはシルエットナイトに組み込みましょう。撃つ時に連結させればスペース的には十分だと思います。ですが、これはアルと設計班の連携が重要になるのでアルは設計班に回ってください。分からないことがあったらすぐ僕か親方に聞くように」

 

「了解」

 

 エルの心強い言葉にアルは頷く。残った消費魔力という問題だが、防御力も強化するなら蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)が大量に用いられるので、少なくとも『必殺技として組み込むなら大丈夫』と先ほど行った試験報告を聞いたエルが判断を下した。

 

「では、皆さん。作業は明日にして当直以外は解散してください」

 

 膂力と防御能力に秀でた機体性能に、でかい一発を放てる連結型魔導兵装(シルエットアームズ)。この2つが仕様として固まり、エルの号令と共に当直以外の団員達が帰り支度を始めていく。

 

 そして次の日から1か月で幻晶騎士(シルエットナイト)2機を作るという、ある意味デスマーチとも言える苦行が開始された。

 その中でまずアルが行ったことは『学園とのやり取り』である。事情というか、ある程度察してもらえるような理由を話し、少なくとも数か月は授業ができないことに加えて哨戒任務で使用する幻晶騎士(シルエットナイト)の貸与や整備などを学園に連携してもらえるように、ラウリ含む上層部に頼み込んだ。

 

「事情が事情なので私は構わないかと」

 

「同じく。銀鳳騎士団にはお世話になりましたし、アルフォンス教官にも新型や新型の教導機もかなり多く調達していただきましたしな」

 

 幸いなことにその頼み事は、今まで銀鳳騎士団やアルが提供していた機体や技術のおかげか2つ返事で承諾され、ひとまずアルは数か月幻晶騎士(シルエットナイト)作りに専念できる身体になった。意気揚々と学園を出たアルは、そのまま第3中隊団員が操縦するツェンドリンブルに乗ってオルヴェシウス砦に向かうと、エルやダーヴィドといった上層部に学園とのやり取りを連携すると、詳細なスケジュールなどはエルや中隊長達に任せて騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の設計班が纏まっている机に近づいた。

 

「設計はどうですか?」

 

「副団長君、これとこれどっちが良いかな?」

 

 設計班の1人が2枚の設計図を持ってくるとどちらが良いか聞いてくる。どちらもベース機体がカルディトーレなのは一緒なのだが、1つ目は件の魔導兵装(シルエットアームズ)を腕に内蔵して腕自体を魔導兵装(シルエットアームズ)に変える方式で、2つ目は肩とサブアームを連結させる方式の機体だった。

 

「んー、腕全体は剣を振り回したり装備を保持するのでまずいのでは? 外付けできるならこっちの方が楽でしょうが、スクリプトと衝撃の関係上こちらの肩の方が安定しますね」

 

「分かりました。じゃあこちらをベースに考えていきます」

 

「お願いします。外装のデザインだけでも共有したいので、兄さんと親方呼んできます」

 

 魔導兵装(シルエットアームズ)の搭載位置については両肩とサブアームにすることに決まった。カルディトーレのようなサブアームでの攻撃手段は失われるが、なんせ『パァウワァ~』が重要らしいので一撃必殺にふさわしい1発を放てるように努力しようとアルは決意した。その頭の中には『消費魔力』という文字がケシゴムで何度も消した跡があったとかなかったとか。

 

「アルー、ペース早いですね。ふむふむ、肩とは良いチョイスですね」

 

「ああ、肩なら足や固定器具を使えば計算上は相当の衝撃を受け止められるな」

 

 エルとダーヴィドはベースとなる設計図を見ながら強度などを計算していき、やがて次のステップである『外装のデザイン』に着手する。

 外装とは幻晶騎士(シルエットナイト)の『顔』である。そのデザインがいまいちだと騎操士(ナイトランナー)のモチベーションや周囲の反応も微妙なものになるので、設計班は真剣な面持ちで作業を開始する。

 

「そういえば兄さん。手帳に花丸脳筋って書いてましたけど、外装で何か仰ってませんでした?」

 

「ああ、強そうなのっていうのと先王陛下のように獅子を名乗れる物と仰ってましたね」

 

 アンブロシウス達と話していたことを再生していくエルの言葉の中に『獅子』というキーワードが出てきた。獅子とはアンブロシウスの異名にゆかりのある動物なので、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は獅子を模したデザインを書き込んでいく。肩の装飾が獅子の顔だったり、獅子の顔のような物を頭部に据えたりと様々なデザインが出て来るが、ちゃっかりそのデザイン会に参加したエルが描いた胸部に獅子の頭部を模したデザインが用いられることになった。

 

「ですが、2匹の獅子って座り悪くないですか? 獅子って孤高の存在ってイメージあるんですが」

 

「じゃあ反対の何かにします? 白なら黒といったように」

 

「獅子の反対ってーと……イメージなら虎か? 四足獣だし姿も似てるしな」

 

「色も思い切って派手に金とかどうです? 光線系の法弾跳ね返せそうですし」

 

 一旦デザインが決まってしまってからは事態は──たまにエルやアルが『金で高火力兵装なら腕に付けません? 折りたたんで連結するようにしましょうよ』や、『もう外付け式の超大型の砲台で良くないです? 人によっては全く当たらない可能性がりますが』とエチェバルリア語で茶々を入れた時間を除けば、とんとん拍子に進んだ。

 

「銀色坊主達が最後に言ってたこと以外は製造に必要だから設計図に書いとけよ。おら、銀色坊主は機体の方で使うスクリプトの方に戻るぞ!」

 

「はーい、それでは完成したらまた見に来るのでよろしくお願いします」

 

 そう言い残し、エルとダーヴィドは工房の奥へと歩いていく。そんな彼らを設計班の面々は見送らず、紙に先ほどエルが書いていたデザインの隅っこに獅子の顔から虎の顔に変えたデザインに書き直した設計図やそれぞれに使用する機体色を1日かけて設計する。その後、エル達に設計図のレビューをしてもらって指摘箇所を半日で修正し、銀鳳騎士団は機体の製造に着手できた。

 

「親方。これはどこに運ぶ?」

 

「それは肩のパーツだからあっちのクレーンだな。おい、ヘルヴィ! こっちに20って書かれた箱持ってきてくれ」

 

「はーい」

 

 製造に入ってからは銀鳳騎士団の実働部隊も混ざっての大仕事であった。哨戒担当以外の中隊が全員モートリフトで騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の作業の補助を行っている。一応これも訓練の一環なので、全員真剣な表情で作業に当たるが、他所から見れば『実働部隊が幻晶騎士(シルエットナイト)作りをしている』という異様な光景が広がっていた。

 だが、他の騎士団の実情も知らないのでエル達は何の疑いも無く作業に没頭し、半月後には2機の幻晶騎士(シルエットナイト)が完成した。

 

「案外早く出来上がりましたね」

 

「団員全員が力を合わせたからな。ところで、機体名は決まってるのか?」

 

 金色の獅子と銀色の虎の幻晶騎士(シルエットナイト)を前にエルが名前を決めようと唸るが、その前にアディが『ゴールデンレオちゃんとシルバータイちゃん』、アルが『ゴ○イオンとシルバタイガ』という名付けをしたが、全て却下された。

 

「ゴルドリーオとジルバティーガにしましょう。……ガオガ○ガーでもよかったなぁ」

 

「よし、シルエットアームズの試験を始めっぞ! エドガー達は準備しといてくれ」

 

 ぼそりと恐ろしいことを呟くエルを無視したダーヴィドは連結式の魔導兵装(シルエットアームズ)の試射を行うためにエドガーとディートリヒに準備をさせる。エドガー達がそれぞれの機体に乗り込むと、危険性も考えて一旦オルヴェシウス砦の外に出る。

 

「操縦桿に付けられているボタンを押したら発射形態をとって発射します」

 

「……これか」

 

 機体の向きを誰も居ないであろう森林部に向け、エドガーとディートリヒがボタンを押す。すると、腰についている装飾が一斉に地面に突き刺さり機体を完全に固定する。そのまま肩装甲が開いて中の紋章術式(エンブレム・グラフ)を露出させ、サブアームと一体化している背面の魔導兵装(シルエットアームズ)と同調するように駆動する。

 

 しばらくの溜め動作の後、ゴルドリーオとジルバティーガの前方から極限まで圧縮された大気が放出し、斜線上に存在する木々をなぎ倒していく。その威力にエルやアルが満足げに眺めるが、徐々に機体が仰け反っていく姿に機体の角度と比例するように顔を青くしていく。

 

「た、退避しろー!」

 

 ダーヴィドの指示が聞こえた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達はその場から逃げ出すと、次の瞬間に盛大な衝突音を響かせながらどちらの機体も仰向けの状態になるようにすっ転んだ。しばらく何が起こったのか分からないような表情をしていたエルとアルだったが、ふと手を打ち鳴らすと顔を見合わせながら自分達の見解を述べる。

 

「思った以上に威力あったからその分反動が大きかったんですね」

 

「何やってんですか団長」

 

 どうやら、今回の幻晶騎士(シルエットナイト)も一筋縄ではいかないらしいと現場にいた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の気持ちは一つとなった。

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