銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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59話

 盛大にすっ転んだゴルドリーオとジルバティーガを砦に運び込んだエル達は、所々へこんだ部分を騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に直してもらっている時間を使って先ほどの失敗の原因を相談する。恐らく『法撃時の反動を受ける位置が機体上部に集中したせい』ではないかという仮説を伝えると、ダーヴィドは髪を掻きながら怒りを露にする。

 

「固定だけじゃ支えきれねぇ反動たぁ予想外にも程があるだろ」

 

「踏ん張りきれないわけですから、仰け反らない程度……真後ろに反動が行くように調整しないと転びますね。どうしましょう?」

 

 デザイン図と設計図を見ながら悩む一行だが、エルはふと『これも対称にしましょうか?』と呟く。

 何を言ってるのか分からなかったダーヴィドの前でエルはゴルドリーオの設計図に注釈を入れていく。膝の装飾を取り払い、そこに肩と同じ展開式の魔導兵装(シルエットアームズ)を組み込むと改めて説明するためにエルは口を開いた。

 

「両肩だけじゃなく、両膝にもシルエットアームズを組み込めば反動は真後ろに集中すると思います」

 

「そうはいうが、実質2門増やせばその分消費魔力が上がるじゃねぇか。エドガー、ディー。消費魔力はどうだったんだ?」

 

「全体の4分の1だね。それはもうみるみる減っていったよ」

 

「ああ、こっちも驚いた。威力の代償としてはこれ以上は大きいんじゃないか?」

 

 魔導兵装(シルエットアームズ)は、通常では数十発ぐらい連続で放たないと魔力貯蓄量(マナ・プール)の目盛りは少しも減らないほどの低燃費な代物である。そもそも、あまりにも簡素な作りなので銀鳳騎士団製を除けばここ数十年で目立った改良もされないままの物なので、1発で魔力貯蓄量(マナ・プール)の4分の1消し飛ぶ武装なぞエドガー達が驚くのも仕方の無い話である。

 

 エドガー達の報告を受けたエルはそれ以外の方法も考えるが、いまいち改善案が見つからないのでそのまま強行することにしたエルに、アルは手を上げて意見を言う。

 

「パッチワークみたいにクリスタルプレートを入れるポーチを増設するのはいかがです? いざという時の充電装置になるかと」

 

 アルの出した提案はテレスターレのお披露目の際に使用した技法を用いた充電装置だった。これはポーチのような箱の中に板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を入れ、ポーチの内部に忍ばせてある銀線神経(シルバーナーヴ)から幻晶騎士(シルエットナイト)側に魔力を供給する。この機構によって魔力切れになった際の早急な魔力回復が可能になるとアルは説明した。

 

「あー、ラボに行く前に書いてた設計図の中にもありましたね。ちょうど良いのでゴルドリーオやジルバティーガで試してみましょうか」

 

 王家が所有する予定の幻晶騎士(シルエットナイト)に『検証用の装備』を持たせると決めたエルは早速ダーヴィド達に設計図の修正と追加装備の設計図の作成を指示する。それを聞いたダーヴィドと騎操鍛冶師(ナイトスミス)は、『残りの工期が半月だから驚いている暇も惜しい』と言い残しながら黙々と作業を開始し始める。当初の頃なら泡を吹きながら驚いていたダーヴィドの成長に、エルとアルは満足げに、エドガー達は不憫そうにその姿を見つめていた。

 

 そうして機体の再調整が始まるが、仕様の変更といっても作業としては膝部分の作り直しとポーチ部分の作成なので、再調整した機体が完成するのは数日後と早かった。

 

***

 

 砦の近くで轟音を轟かせながら木々がなぎ倒されていく。そんな破壊の限りを行った下手人である金色の獅子と銀色の虎のどこか満足げな表情とは裏腹に、操縦席に収まっている騎操士(ナイトランナー)の慌てた声が響いた。

 

「ちょっと、なんなのこの魔力消費量! 半分まで減ったわよ!」

 

「こっちもだよ! 計器の故障じゃないのかい!?」

 

 慌てた様子を見上げながらエルは先ほどの発射シーンや法撃の破壊力に納得した様子で頷いている。

 先日まで両肩のみで法撃を行っていたゴルドリーオ達は現在、肩と膝の合わせて4門の紋章術式(エンブレム・グラフ)から法撃を行っている。その威力は2門だった頃よりはるかに増し、衝撃も桁違いな勢いになっているのだが、上半身の肩と下半身の膝から発現させているので途中ですっ転んだりせずに機体のバランスをしっかりと保ちながら法撃の衝撃を受け止めている。

 しかし、その分消費する魔力も増大しており、エドガーからテスト権を奪い取ったヘルヴィやディートリヒの目の前には、『全体の2分の1まで魔力貯蓄量(マナ・プール)が減っていると告げている計器』があった。立った一発の法撃でここまで減った魔力と威力に思わず『やりすぎ』だと叫んだが、エムリスの仕様を盾にしたエルは一切取り合わなかった。

 

「まぁまぁ、一先ずこのクリスタルプレートで魔力が回復するか見てみましょう」

 

 その時、パッチワークが自身の腰に接続しているポーチからマガジン用の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を取り出すとディートリヒ達に計器を見ているように指示を出しながらゴルドリーオとジルバティーガの腰にくっつけたポーチに板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を1つずつ差し込む。すると、先ほどまで半分ぐらいだった魔力貯蓄量(マナ・プール)残量が、全体の3分の2まで回復した。

 

「魔力の回復を確認。だけどこれって乱戦の最中だと補給できなくない?」

 

「ええ、前線の拠点とか安全な所で交換しなきゃいけないですね。あと、交換用のクリスタルプレートも必要ですし」

 

 瞬間的に魔力が回復していたが、この補給法だと様々な制限があることをヘルヴィは指摘する。板状結晶筋肉(クリスタルプレート)も魔力が貯まっている物を大量に用意する必要があり、さらに交換中は無防備になるので外からの攻撃が来ない拠点で交換する必要がある。しかし、今までは歩きながら後方に下がって魔力が貯まるのを待っていたので、この成果はかなり先進的な物だった。

 

(兄さん用に大きなクリスタルプレートに外装をつけた増槽も考えたけど、陸上で戦うなら邪魔になりそうだなぁ)

 

 アルはパッチワークのホロモニターから実験の成果が好調なことに沸いている団員を見つめながらこの技術の先にある『増槽』について思案する。

 エルやアルが知っているロボアニメでは推進剤しか積み込まれていない『プロペラントタンク』という増槽が登場しているが、この世界のロボは魔力で動いている。そのため、最大まで魔力を込めた大型の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を用いて機動性を上げれないかとアルは密かに考えていた。

 

(今回はあくまで頭出し……ふふ、専用装備も良いですが汎用装備こそ量産機の華ですよ。ゆくゆくはシルエットナイトの標準装備にして空を自由に飛ばせてくれますよ!)

 

 アルの密かな野望は小さな笑い声と共に噴き出すが、誰もそんなことは聞いておらず、残った試験項目を全てこなしたゴルドリーオとジルバティーガはようやく完成した。完成した機体は再度砦に戻されると、シート周りや外装を丁寧に修正して搬入態勢を整えるとツェンドリンブルの曳く荷馬車(キャリッジ)に丁寧に納めていく。

 

「……あ、アル。そういえばそろそろステファニアさんの結婚式では?」

 

「あー、引き出物のツェンドリンブルどうします? 第3中隊の余剰分持って行きます?」

 

「待ちなさい待ちなさい。一応引き出物なのに私らの余剰分は失礼でしょ。親方、今から新造出来ない?」

 

 作業を終わらせたエルが一段落ついでに零した疑問にアルが答えると、その近くで聞いていたヘルヴィが突っ込み代わりにアルの両脇に手を差し込みながらアルを持ち上げる。そのまま『にゃーん』と気だるげな鳴き声を上げながら左右に揺られているアルの見やりながらダーヴィドは頭の中で工期を計算していく。

 

「銀色小僧の話じゃ春頃っつーことだから……そろそろだな。ツェンドリンブルは作り慣れちゃいるから、銀色小僧が妙な事を言わなけりゃ問題ねぇよ」

 

「キャリッジはどうです?」

 

 アルがデュフォールから帰ってきた時に報告してきた情報を頼りに、ダーヴィドはツェンドリンブルの組み立ての工期を計算した結果、問題ないことを告げる。しかし、アルが続けてツェンドリンブルに接続する荷馬車(キャリッジ)の注文を行うと、それを聞いたダーヴィドの眼光が鋭くなる。

 

「どのタイプだ?」

 

「チャリオットのようなタイプは必要ありません。うちで使ってるシルエットナイト運搬が出来るタイプでお願いします」

 

 アルの注文にダーヴィドが顎を触りながら再度工期を計算するために思案する。

 騎士団が運用する荷馬車(キャリッジ)には現在大きく分けて2つのタイプが存在する。1つ目はアルのフォートレスや、エルが開発しようとしている物のような高火力、高機動、重装甲の3拍子が揃った『チャリオット』とエル達が呼んでいるタイプだ。

 装甲板で覆っているので相手の攻撃にも耐えれるし、搭載されている魔導兵装(シルエットアームズ)の火力を用いれば1台で多大な戦果を上げれるが、いかんせん構成されているパーツ全てに金属が使われているので、図面を1から引いたりバランスを調整したりと工期が延びる。ちなみにアルがこれを頼んでいた場合、ダーヴィドの手によってアルの三半規管は数時間ほど沈黙することになっていた。

 

 2つ目は現時点で騎士団が多用している幻晶騎士(シルエットナイト)の運搬を念頭に置いた荷車のようなタイプである。これも金属で構成されているが、軽量化のために一部は木材を使用しており、設計も簡素なものになっている。

 さらに、魔導兵装(シルエットアームズ)といった戦闘で使用するような装備を一切搭載していないので、その分幻晶騎士(シルエットナイト)を積み込むことが出来、最大搭載量は3機に及ぶ。今回の使用目的を考えるなら後者の方が最適だろう。

 

「荷車の方ならツェンドリンブルと平行で作ることが出来るな。任せとけ、5日ありゃ出来る」

 

「流石親方! さすおや!」

 

「さすおや!」

 

 予想以上の製作速度にエルとアルがダーヴィドの腕にしがみつきながらダーヴィドを褒め称える。最初はその褒め言葉に気を良くしていたダーヴィドだが、そのままキャイキャイと褒め称えられていると、ふと周囲の生暖かい視線に気付く。

 やがて、その視線に耐え切れなかったのか『良いからとっととカンカネンに向かいやがれ!』とエル達を追い出し、ダーヴィドは未だににやけた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に拳骨を落としながら作業に戻っていった。

 

「では、実働部隊とキッドは引き続き製作のサポートをお願いします。アディとアルは僕と一緒にゴルドリーオ達を配達します」

 

「任せろ」

 

 キッドが腕まくりをしながら答え、それぞれの団員が自分の仕事をするために工房内に散らばる。エル達はそんな工房から外に出ると、アディはツェンドリンブルへ乗り込み、エルとアルがゴルドリーオとジルバティーガにそれぞれ乗り込むと砦を元気に出発した。

 

 ***

 

 シュレベール城に到着したエル達一行がゴルドリーオとジルバティーガを城の前に立たせているとアンブロシウスとエムリスが走ってきた。その様子に『クリスマスに子供がねだっていたおもちゃを買って来て貰ったような姿』を幻視したアルは、少し笑いながら外に出る。

 

「これは……遊んだのぅ。エルネスティ。いや、アルフォンスもか?」

 

「はっ! 兄と一緒に遊ばせていただきました」

 

「ははっ! 良い面構えじゃないか! だが、まだ派手さが足りんな。タテガミのような飾りは無いのか?」

 

「派手さ、足りませんでしたか……」

 

 エルとアルが会話をしながら幻晶騎士(シルエットナイト)の外見を検分していた2人だが、エルが唐突に咳きをして空気を変えると大仰な手振りで概要を説明し始めた。

 

「これらは『ゴルドリーオ』と『ジルバティーガ』と申します。殿下のご注文の通りに力に秀でた作りになっており、さらにお二人共大事な御身であられるので装甲を厚めにするなどといった堅牢な仕上がりになっております」

 

「国王機も守りの堅い機体であると教科書で見た記憶があるので、将が前線で立つ機体としてはこれ以上の物はないと自負しております」

 

「ふむ、どうやら中等部を卒業させたのは無駄ではなかったらしいな」

 

 国王機の知識にアンブロシウスは騎士団設立後も知識の詰め込みを行っていたであろう騎士団長と副団長に笑いかけていると、正気を取り戻したエムリスが咆哮を持ってエル達を賞賛する。その咆哮と賞賛が入り混じった物を聞きながらアンブロシウスが『さて、ではどちらがどちらに乗るかの』と呟くと、示し合わせたようにゴルドリーオに2人の指が突き刺さる。

 

『では(わし)(おれ)がゴルドリーオを……』

 

(兄さん、やっぱりゴルドリーオを2機作った方が良かったですかね?)

 

(それだとどっちのゴルドリーオがどちらの物かでモメそうですよ)

 

 周囲が沈黙に落ちる中、エルとアルがこそこそと内緒話を行う。その間も『歳を考えろ』だの、『お前が獅子を語るなど笑止千万』といった見えない火花を散らしながら、どちらも一歩も譲らないアンブロシウスとエムリスの口論が続き、その口論を聞いていた近衛兵がおろおろと戸惑っていた。

 

「じいちゃん、1つ稽古をつけてくれよ。クシェペルカでの修行の成果を見せてやるからよ」

 

「ほう? 己が力でもぎ取ると申すか。その意気やよし! だれぞ、剣を持て!」

 

「……あれ、殿下って礼儀とか言葉遣いを治す為に留学なされていたのでは?」

 

 意気揚々と訓練場へ向かうエムリスの姿を見ながら気になったことを疑問という形でアルは口にする。しかし、その疑問の答えは近衛兵一同の諦めきった表情。つまり、そういうことだ。

 

 それを理解したアルは、『幻晶騎士(シルエットナイト)同士の戦うの気配』を感じ取り、どこかに某公認レフェリーが居ないかとそこらへんを動き回っているエルを素早く捕獲すると訓練所へ歩を進めた。

 

***

 

 王城に併設された近衛騎士団の訓練場では2機のカルディトーレが相対している。『剣を持て』と言いながら幻晶騎士(シルエットナイト)が用意され、訓練場の周囲を王城に居る関係者が集まって観戦しているという事態の早さにエル達が突っ込み役に回るという珍事を引き起こしていた。

 

 しかし、ロボットが関係することに関して後手に回るのはエチェバルリア家の沽券に関わるので、エルとアルはとりあえずこの場をはっちゃけることにしたらしく、訓練の開始を告げるラッパの音と共に大きな声で試合開始を宣言した。

 

「アンブロシウスセンオウヘイカ VS(バーサス) エムリスデンカ バトルモード0982!」

 

「それではぁ! シルエットナイトファイトぉ!」

 

『レディー! ゴー!』

 

「エル君達、楽しそうだね」

 

 アルがロボット口調で、エルが熱く試合開始を宣言する傍らでアディが付いて行けなさそうな眼差しで2人を見る。

 そんないつもの騎士団の空気を醸し出している一画とは裏腹に、訓練は苛烈を極めていた。成長を続けてはいるが未だ道半ばの獅子と衰えを見せ始めているがそれを今まで丹念に磨き上げた老練の獅子。どちらがより優れているのか自明の理だった。

 

「殿下、真正面から攻撃してますね。搦め手使ってませんよ」

 

「こうなるとエムリス殿下は不利ですね。剣道三倍段って言うぐらいですし」

 

 エルとアルは訓練の様子を見守りながら冷静に分析を始める。エムリスが愚直なまでに正面から力任せの攻撃を繰り返しているのに対し、アンブロシウスは突く、薙ぐ、払うといった槍の特性を存分に活かしつつ、そこに防御時にはいなして反撃するといった磨きすぎて眩く輝くほどの技術の冴えを披露している。

 さらに武器の選択からしても、エルが『剣道三倍段』と言ったように剣で槍を相手取るには相手の3倍の技量が必要とも言われている。その考察からエル達はエムリスの敗北を察するが、幻晶騎士(シルエットナイト)が戦っていることが一番重要なのでワクワクした面持ちで見学を続けた。

 

「やっぱりじいちゃんはすげぇな! 相変わらずすげぇ腕前だ!」

 

「王たる者の嗜みである!」

 

 剣を穂先や柄で弾き、エムリスが防御をすることを予測した強めの攻撃でわざと反動を生じさせて剣の間合いから逃れるといった離れ業に感服するエムリスに、アンブロシウスは鼻を鳴らしながら槍が分裂しているかのような面での連続攻撃を行う。

 

「いえ、それはおかしいです」

 

「そうですね。サブミッションこそ王者の技ですもんね。今度、関節技決めれるスクリプト開発しましょうよ」

 

「カルディトーレがやろうものなら全身破砕待ったなしですよ」

 

 どこぞのプリンセスのようなことを言いながらおそらくだが、全身の負荷がかなりかかるであろう技を幻晶騎士(シルエットナイト)にやらせようとする弟の提案をエルは速攻で却下した。

 そんなどこか間の抜けた会話を続けていた時、訓練の状況が動いた。エムリスの駆るカルディトーレの足元を払おうとアンブロシウスが槍を下段に振り下ろした時、エムリスは槍の穂先を踏んづけて槍を封じたのだ。

 

「もらったぁ!」

 

 その勢いのままエムリスは上段から切りかかるが、アンブロシウスはあろうことか槍を手放して振りかぶった状態のカルディトーレの懐に自身のカルディトーレを素早く潜り込ませる。そのまま相手の腕を取りながら姿勢を反転させ、一息に前方へ投げ飛ばした。

 

「せ、背負い投げぇ!?」

 

「シルエットナイトであんなことできるの?」

 

「なってるから出来るんでしょうね。後で教えてもらいましょう!」

 

 柔道でいう背負い投げを行う幻晶騎士(シルエットナイト)に流石のエルも動揺を隠しきれずに叫んだ。アディも信じられないとばかりに隣に居るアルに確認するが、アルも『なっとるやろがい!』といったような返答をしながら密かに幻晶騎士(シルエットナイト)の操作技術を教えてもらおうと心を燃やしていた。

 

 一方、投げ飛ばされたエムリスは咄嗟の機転で『サブアームを仕舞いながら法撃』することで地面に衝突することを回避した。もし、これが『サブアームが仕舞ってあった状態』で行われた場合、テレスターレでのモンキーテスト時に発見された不具合を修正したせいで法撃が出ずに地面にぶつかっていたであろうことを考えると、エムリスはかなり長い時間テレスターレに乗り、その特性を十分に理解していることが伺える。

 

 投げ飛ばされた後も続く剣と槍の応酬に、エムリスのカルディトーレは装甲は所々凹んだり、転倒による衝撃でひしゃげたりと、内部の結晶筋肉(クリスタルティシュー)に損壊がないことが奇跡とも思える有様になっていく。しかし、エルとアル、そして一部の近衛兵がエムリスの戦い方を見てぽつりと『良い受け方をしている』と呟いた。

 

「え? あんなにボロボロなのに?」

 

「ええ、ダメージコントロール……避けられない攻撃は装甲が厚い部分で受けてますね」

 

「先王陛下も手を抜いているわけではないでしょうし、おそらくエムリス殿下の地力によるものですね」

 

 エル達がアディに解説している間にも槍の連続攻撃を一部は回避し、避けきれない攻撃は肩の装甲や膝の装甲に当たるように移動している。この行動はもちろんアンブロシウスにも思惑まで伝わっており、『クシェペルカでは良い鍛錬をしておったようじゃの』とエムリスを褒めていた。

 しかし、褒めるのと手心を加えるのはまた別の問題なので、アンブロシウスはさらに攻撃の速度や密度を高めながらエムリスを追い立てる。拡声器越しにエムリスの慌てた声や自問自答する声が響く中、距離を放されたエムリスはバックウェポンを投棄する。

 

「答えは剣の中にあり!」

 

 カルディトーレの特徴の1つであるバックウェポンを捨て、身軽になったカルディトーレは愚直にもまっすぐに突進する。その大きすぎる隙にアンブロシウスは一切の手加減なく、カルディトーレの装備している槍を突き出した。

 

 硬質な音が響き、誰もが槍を突き入れられたエムリスのカルディトーレが崩れ落ちる様子を予想していた。しかし、エムリスは突き出された槍の穂先を剣で弾きながら雄たけびを上げて突進を続けていた。

 

 剣は槍と比べて小回りが利くので、利点を最大限活かした戦法といえる。しかし、この土壇場でそのような芸当が出来る騎操士(ナイトランナー)などエルやアルの知っている中で存在しないので、エムリスの土壇場の馬鹿力に開いた口が塞がらなかった。

 

「気合だぁぁぁ!」

 

「ぬおおぉぉ!」

 

 ようやくアンブロシウスの懐に入ったエムリスが剣を叩きつけるが、アンブロシウスはそれを槍の柄を使って防御する。気合が込められた咆哮がカルディトーレの拡声器越しにエル達の耳を激しく揺さぶり、お互いのカルディトーレの足が踏み込んだ大地に沈む。

 カルディトーレの腕や足の装甲の隙間からちぎれたクリスタルティシューが露出し、このまま引き分けになるかと思った次の瞬間。

 

 ──槍の柄が砕けた。

 

***

 

 訓練という名の激しい攻防の末、勝ち取ったゴルドリーオを起動させながらエムリスは誓いを立てながら咆哮を上げる。

 エムリスのやる気に呼応してゴルドリーオの背後に気炎が巻き起こっているかのような錯覚さえ覚えたアディが『暑苦しそう』と微妙に顔をしかめている傍らで、エルはアンブロシウスへ残るジルバティーガの機体性能についての説明をしていた。

 ジルバティーガも外装のデザインや色こそ違えど、基本設計はすべて同じだということに、アンブロシウスは満足げに頷きながらジルバティーガとエムリスが乗っているゴルドリーオを見つめる。

 おそらく、『新たな獅子』の誕生に感傷に浸っているのだろうとエルはアンブロシウスに何も言わずに立っていたが、そんな光景の中に先ほどまで帰り支度の最終確認を行っていたアルが空気を読まずに突撃してきた。

 

「素晴らしい試合でした! 先王陛下、ぜひあの見事な格闘術の指南をお願いします!」

 

「ふはは、アルフォンス! おぬしに我がフレメヴィーラ式シルエットナイト格闘術が受け継げるかのぉ」

 

「そんな格闘術、聞いたことがありません!」

 

 アルが興奮しながらアンブロシウスに詰め寄り、アンブロシウスが上機嫌で流派っぽい言葉を紡いでいた時、部屋の外から現国王であるリオタムスが姿を現す。そのままつかつかとアンブロシウスとエムリスに青筋を立てながら近づくと、『訓練と称し、配備されて間もない新型機で大立ち回り……しかも片方は小破判定とはなにごとですか?』とあえて優し気に問いかける。

 

 その行動にアンブロシウスはクヌートが、エムリスは遠いクシェペルカに嫁ぎに行った伯母であるマルティナがよく発している『マジギレの予感』を敏感に感じ取った2人はそれぞれを見やりながら『俺悪くねーし』という態度を取った。

 

「それはこの馬鹿孫が──」

 

「いや、じいちゃんが──」

 

「言い訳しないっ! まったく、いつもいつも──」

 

 現国王が実父と息子を叱りつけるというどこの家族にもありそうだが、いまいちリアリティに欠ける事態に突入したのを目の当たりにしたエル達は、『また説明に伺います』と一言言ってから巻き込まれないようにどこか達観した瞳の近衛兵達の先導で城から出ていく。

 

「どこのご家庭でも上がはちゃめちゃなら下が大人しくなるんですね」

 

「ちょっと待ちなさい。それは今日の会議で白黒つけましょう。ええ、じっくりとつけましょう」

 

「私はどっちもどっちだと思うけどなぁ」

 

 砦に戻る際、先ほどの様子を見たアルは『とある人物(エルネスティ)』を見ながら納得したように首を上下に振るが、それをエルが『とある人物(アルフォンス)』を見ながら微笑みを返す。そんな会話を聞いたツェンドリンブルの拡声器からアディが口を挟むが、それをエルとアルが『キッドとアディに判定してもらいましょう』と藪を突いて蛇、いやキッドからしてみれば蛇、アディからしてみればぬいぐるみ兼想い人が出て来る結果となった。

 

***

 

 エル達が砦に戻る道中に1機のカルダトアが立っていた。カルダトアの肩には翡犀の紋章が描かれており、アディの『どなたでしょうか?』という声にカルダトアの騎操士(ナイトランナー)はかすれ気味の声で『騎士団の騎士団長か副団長は砦にいらっしゃるでしょうか』と問いかけてきた。

 

「兄さん、僕が対応します。念のためにここまで中隊を引っ張ってきてください」

 

「分かりました。アディ、アルを降ろしたら全速で駆け抜けてください」

 

 怪しげな気配に自分から囮に志願したアルは素早く荷馬車(キャリッジ)から降りる。それを見届けたツェンドリンブルは一直線に砦に向かって走り、それを見たカルダトアは放心したように動きを止めた。

 

「すみませんが、一旦外に出てきてもらえますか?」

 

「申し訳ありません。……アデルトルートが乗っているとは思ってなかったので」

 

 唐突にアディの名前が出てくるので、おそらくセラーティ家の関係者だと推測したアルの前にセラーティ家の次男であるバルトサールがカルダトアから降りてきた。バルトサールは周囲を見渡しながら本当にアディやキッドが居ないか確認し、4通の封筒をアルに手渡した。蜜蝋にはセラーティ家の紋章が浮かんでおり、その横に『エル君』や『アル君』といった送り先の名前が中等部の生徒会でよく見た記憶のある筆跡で書かれていた。

 

「キッドやアディも招待されるんですね」

 

 手紙の中にキッドとアディにあてた封筒を見ながらアルがバルトサールに問いかけると、バルトサールは静かに目を伏せながら答えた。

 

「……あの時の私はキッド達に居場所を奪われると思った。それは疑いようのない事実さ。だが、こうして騎士団で訓練を続けていく内に自信がついたっていうんだろうか? この場所はそう簡単に奪わせないって考えになってね。そしたら、心がかなり楽になったよ」

 

 悩みのなさそうなすっきりした顔で笑ったバルトサールが『キッド達に言うのは恥ずかしいから、ごねるなら君から来るように説得してほしい』と封筒をアルに押し付けながら念を押す。その気持ちの変わりようにアルは心から尊敬の念を込めて『頑張ってください』と伝えると、バルトサールは再びカルダトアに乗り込んでセラーティ領に向けて歩いて行った。

 

 その数分後、足の速い第3中隊と共にトイボックスが到着し、トイボックスに相乗りの形でアルは無事に砦に帰還することになった。

 

「兄さん、ステファニアさんの結婚式の招待状ですよ。2週間後みたいです」

 

「そうですか。親方に報告してツェンドリンブルを作ってもらってからすぐに出発しましょう。ナイトスミス隊にお休みを取ってもらわないといけませんからね」

 

 エルやキッド達に渡された封筒の一つをアルがさっそくナイフで開封し、中に納まっていた手紙の内容をエル達と共有する。内心、『明日とか明後日じゃなくて良かった』と思いながらアルはダーヴィドにエルが言っていたことを連絡すると一瞬で上機嫌になり、それを聞いた工房内も活気にあふれてきた。

 

 何時の世も降って沸いた休みというのは心が弾むものだと、やたらリズミカルに叩かれる槌の音を背にアルは結婚式に着ていく服やご祝儀の類は必要なのかと高学歴の実働部隊にダメ元で聞いてみた。

 結果は案の定誰も知らず、第2中隊に至っては『決闘のルールなら知ってるんですがね』とエムリスのようなことを言っていたので、後にエルも纏めてラウリから結婚式についての話を聞くことにした。

 

 さらにゴルドリーオの操作説明で城を再度赴いた際、ヨアキムから話を聞いたらしくアンブロシウスやエムリスからもついでとばかりに、タブーや一連の流れなどの手ほどきを受けたりもした。ちなみに、王族なためかエムリスもその手の催しについて詳細なことを教えてくれたので、エルとアルは目を見開いて驚いたことは内緒である。

 

 その後、数日かけて無事に引き出物用のツェンドリンブルと幻晶騎士(シルエットナイト)運搬用の荷馬車(キャリッジ)は完成し、全ての準備を終えたエルとアルはキッドとアディを伴って砦から出発していった。

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