アルチュセール山峡関要塞から帰還したエル達は荷解きもそこそこにダーヴィドの下へ直行する。すると、待っていたとばかりにダーヴィドは懐から王家の紋章で封をしてある巻物をエルに手渡しながら『先王様から何か届いている』と人が小さく思えるほどの木箱を指差した。
木箱全体に鎖が厳重にかけられていることからよほどの重要物であることを匂わせる荷物を見たエルは、長く待ち望んでいた物を目にした子供のようににっこり笑う。そして、すぐ近くでパッチワークをどこに下ろそうかと工房を見渡しているアルを引っつかみ、本来エルが常に居るべき場所である執務室へ向かった。
「ノーラさん。居ますか?」
「ここに」
「すみません。アルと2人で話すことがあるのでしばらくこの周囲に居ないようにお願いします」
部屋に入った途端わかりきったかのようにエルがノーラを呼び、それに応えたノーラがどこからともなく現れる。その光景にアルは『アイエ!?』と一般人が忍者を見た時の発作を起こすが、エルは気にせずノーラに命令する。
しかし、いくら別の騎士団に所属する騎士団長の命令とはいえノーラの任務の中にエルとアルの護衛、それと2人には言えないが情報収集も入っているので、ノーラはなかなか首を縦に振らない。その様子にエルは『フレメヴィーラ王国最大の重要機密をこれから話すので、あなた方の危険も考えてのことです』と少し強めに脅すと、ノーラは合図を送りながら部屋を後にする。
見張りが居なくなったのか、まだ残っているのか知るよしもないエチェバルリア兄弟だが、このまま話さずに待機はしたくないのでエルは本題に入るために咳払いをする。
「単刀直入に言います。ベヘモスの触媒結晶を譲ってください」
「はい、別に構いませんよ?」
「もちろんアルのエーテル……は?」
交渉に使用するカードを並べようとしたエルの耳に、アルの返事が届く。躊躇する素振りをまったく見せずに承諾したアルを前にエルは逆にうろたえるが、そのうろたえぶりを見たアルは少し笑いながら理由を話した。
「そんな高出力な物を僕が持っても宝の持ち腐れですよ。そんな空をビュンビュン飛ばないのに」
「ですが、魔力があればあるほど選択肢は増えるのでは?」
エルはなんとかアルを交渉の席に着かせようとするが、アルはそれをかたくなに拒否する。こんなにもエルが苦心するのは、今回の外部研修で改めてオーダーメイドの
だが、ここで1つの問題が浮上する。
アルの援護もあって
「何時もみたいに欲しいからもらうって言ってくださいよ。師団級の触媒結晶という途方もなく貴重な物なのは分かりますが、こんな所で何回足踏みしてるんですか。止めを刺したのは兄さんなんだからもらえるものはもらって兄さんにしかやれないことをしてください」
一息に胸中に溜まった不満を口から捻り出したアルは、最後にボソリと『僕も兄さんの夢を応援させてくださいよ』と言ってからもう会話に応じないとばかりにそっぽを向く。
そんなアルの背中を見たエルは、執務室の机に隠していた『夢』を取り出すとアルに礼を言いながら部屋から飛び出していった。おそらく工房へ向かっているエルの足音を聞きながら、アルは『いよいよ兄さんの夢が出来るんですね』と大破した相棒の姿を思い浮かべると、1つ大きな決心をしてからエルを追いかけるように工房へ足を伸ばした。
既に設計書を前に
「親方。まだ僕の機体の修理は着手してませんよね?」
「ああ、これから銀色坊主の物と平行で進めようと思ってる」
ダーヴィドの言葉にアルはもう一度パッチワークを見てからダーヴィドに向き直って腰を折る。その唐突な動きにダーヴィドや周りの
「パッチワークの修理は行わないでください。その分の人員でひたすらに騎士団長機の作成をお願いします」
エルよりましとはいえ、アルのロボ好きも相当である。しかし、そんな彼が自分の機体の修理を先延ばしにしてまで騎士団長機に注力するように頼み込んでいる姿にダーヴィドや周囲は目を剥いた。だが、アルは当然と言うような佇まいでエルの隣に立つと腕を上げた。
「騎士団長機は騎士団の顔です! そのためには平行作業といった寄り道は毒となるでしょう。なので、作成チームが全身全霊で取り組めるように銀鳳騎士団全員で頑張っていきましょう。……そのための1歩として僕は自分の機体の修理を後回しにします」
「銀色小僧がここまで言うとはな。よっし、最低限のナイトスミスで業務を行って、残りは騎士団長機に力を入れっぞ!──というわけだ。最高の機体に仕上げてやるぜ!」
言葉の節々から伝わるアルの『覚悟』を感じ取ったダーヴィドの気合の入った声に
しかし、作業を行うといっても建造を全てダーヴィドに任せられるほどエルの書いていた設計図は完成度は高くなかった。内部構造や外装のデザインは決めてあっても、
「銀鳳騎士団はこれより騎士団長機の作製を全員で行うので、申し訳ありませんがもう少し休みをいただきたいです」
「アルフォンス教官、前にも言ったが君は非常勤だから連絡さえしてもらえれば大丈夫ですよ。そもそも騎士団の副団長が教官職と、我等とは前提条件で異なるので気にしなくても」
アルが学園の学長室に赴くと、ちょうどよくラウリと高等部の教官達が会議をしていたので、その場でアルは銀鳳騎士団としての任務の完了と次の仕事である『騎士団長機の作製』のために再び教官の仕事を休みたい旨をラウリや教官達に伝えた。その結果、すんなり引き続き騎士団の業務を優先して行って欲しいという許可が出たがアルの表情は暗くなった。
「左様、主な業務は銀鳳騎士団の業務じゃからな。……おお、そうじゃ。もし技術的に差し支えなければ鍛冶科の生徒の特別授業として見学は騎士団側で出来ないか聞いてもらえないかの?」
アルの様子から『借りを作ってしまった』と感じているのではないかと考えたラウリは、騎士団長機の作製風景を見学させてもらえないかと依頼する。それを聞いたアルが頭の中で騎士団長機の設計図を思い描くが、装備系や心臓部、操縦席を除けばカルディトーレと同じ技術を使っているので『見学は問題はない』と答えようとしたが、突如不安が襲ってきた。
(兄さんのことだから伝達忘れで重要な物とかありそう)
そんな不安が頭をよぎったアルは、念には念を入れて『一旦持ち帰って返事します』と答えてそのまま部屋から退室する。学園に居るついでにマティアスにも挨拶しておきたかったが、時間的に厳しいのでアルは学園を出ると駆け足で次の目的地へ向かった。
(もし、見学が許可されるならノーラさん達に監視してもらって……あ、騎士科の人達も連れて来て貰って中隊に1日入団を企画するのも面白そう)
足を速めながら見学会の対応や新しい案を企画していたアルは、目的地のエチェバルリア邸の前で足を止める。そのまま家の玄関を開けると、ちょうど夕食の支度をしていたセレスティナがこちらを見て『あらあらあら』とアルに向かって駆け寄ってきた。
「アル、お帰りなさい。ちゃんと勤めは果たして来ましたか?」
「はい、母様。ただ、飛び込みというか兄さんの機体を作るためにこれから数日──いえ、何時までかかるか分かりませんが砦で寝泊りします。本日はその報告と荷物の持ち出しに来ました」
「そうなの。じゃあ大きなかばんを用意するわね」
セレスティナは大急ぎで火元を止めると家中のかばんをかき集めるために奥へ引っ込んだ。その合間に自室に戻ったアルは、自室にある各自のクローゼットから着替えやら何やらをかばんに詰め込みやすいように畳んで床に置いてから本棚に近づいた。本棚の中から幼少期に書いた魔法に関する調査や作った魔法の数々を日本語で書いた魔道書など、使えそうなやつを片っ端から見つけてはそれを床に置いていっては本棚の本を検分していく。
「アル、このぐらいで良いかしら?」
「大丈夫です」
オルヴェシウス砦に持ち出す物がおおよそ決定した頃、扉から大きなかばんを数個抱えたセレスティナといつの間にか帰ってきていたマティアスが現れた。そのまま床に置いてある着替えや本をかばんの中に積め込み、全身が隠れるほどのかばんを装備したアルが勇んで玄関を出ようとするところをマティアスが慌てながら止めた。
「待て待て、私も途中まで同行しよう」
「父様、ありがとうございます」
かばんを半分以上持ってもらいながらアルはマティアスと並んで夕日が差し込んでくるライヒアラの町を歩く。歩いている合間に『銀鳳騎士団の仕事はどうだ?』や『教官の仕事も辛くないか?』など子供との会話に慣れていない父親がするような会話が繰り広げられ、その会話中にふと『親とこんなことがしたかった』と未だ捨てきれぬ鞍馬の記憶を思い返したアルの目頭がじんわりと熱を帯びる。
やがて城門にたどり着き、マティアスは自分が持ったかばんをアルに手渡しながら少し迷う素振りを見せたが、勢いのまま口を開いた。
「お前達が予想以上にしっかりしているから極力言わなかったが……何か困った事があったら言うんだぞ」
それは、マティアスだけではなくエチェバルリア家の総意である。『転生者』として
今まで親に迷惑をかけまいとしていたアルはきょとんとした顔でマティアスを見つめたが、数秒後に笑いながら『後で頼らせていただきます』と答える。
「ただ、今は兄さんの方を優先したいので。終わって時間があるときに相談に乗っていただきたいです」
「ああ、そうか。……そうか! じゃあ頑張ってこい!」
子供に頼ってもらえたことにマティアスは破顔しながら頷く。
かなりの頻度でアルの方を振り返ってはエチェバルリア邸に帰っていくマティアス様子を見届けたアルは、駐機場で待機していたキッドと合流してオルヴェシウス砦に向かってツェンドリンブルを飛ばし始めた。
「キッド。僕達は砦に寝泊りする事になりますが、キッド達は自宅から通ってくださいね?」
「そのつもり。さすがに俺が泊まるとアディも泊まるって言いかねないし、そうなると母さんが心配……しねぇな。むしろ仲が良くて結構って送り出しそうだ」
あきれる口調で『姉さんもそうだけどフレメヴィーラの女の人はおっかねぇな』と笑うが、アルはその言葉に『セラーティ侯爵の血が混ざってるなぁ』と内心で血の濃さと言うものを再確認していた。
その後、オルヴェシウス砦に到着したアルは工房に設えた自分達の巣に着替えやらを運び込もうとするが、エルに手荷物を強奪されながら手招きをされる。アルは促されるまま工房を抜け、執務室や応接室といった銀鳳騎士団の運営に関わる大事な部屋が存在する建物に入った2人はとある部屋の前で立ち止まった。
「作る物が物なので、僕達はしばらくこの部屋に缶詰めになります」
エルが扉を開けると、そこには間仕切りによって奥の様子が伺えない措置がとられた部屋があった。困惑するアルをよそにエルは間仕切りを横にスライドさせ、自身の荷物を奥のスペースにあるクローゼットなどにしまい込んでいく。その行動に我に返ったアルは『こんな部屋あったっけなぁ』と明らかに急造の間仕切りを叩きながら自身の荷物を間仕切りの手前──外へ繋がるドアがついている方に置かれているクローゼットにしまい込んでいく。
「あ、そうだ。エーテルリアクタを作る上で先王陛下から条件がつけられました。アルも関わってくるので、先に確認しておいてください」
全ての荷物が本棚やクローゼットに収まり、一段落が付いたと深く息を吐いていたアルの目の前に封が説かれた手紙が置かれた。アルがその中を見るとびっしりと書かれた文字や、所々に書かれている『~を禁ずる』というフレーズに前世でよく見た『情報関係の誓約書』を思い出しながら念入りに読み込みを始めた。
制約はかなりの項目があったが、大雑把に言うと『外部に漏らさないこと』である。
それは
もちろん、公開する規模は公開する人物──この場合はエルの裁量で決められ、公開した情報を知った者──この場合はアルが機密が漏洩してしまえば、エルも同様に罪に問われる。
それ以外の内容についても極力誰にも製作状況を見せないようにするのが前提となるため、エルはこのように間仕切りをつけた部屋を用意したのだとアルは部屋を見渡した。
「学園とかノーラさんに騎士団長機を作るって言ってますが、ギリセーフですかね?」
「エーテルリアクタを作ってるって言ってないのでセーフですね。あ、もし新技術について聞かれたら既存の物を使ってるって嘘と藍鷹騎士団に連絡入れてください。内部スペックを知ろうとする人は……ロボオタクならありえますね」
「ありえますね。兄さんとかプラモの箱に書かれてるスペック見ては涎垂らしてましたし」
そう言うアルをエルが『失敬な』と言いながら不機嫌そうに見つめる。
ロボオタクの一部はカタログスペックに弱いものである。推力に総重量、装備している武器に搭乗者。バリエーション機は主にどこで使用されたかなどといったバックストーリーもあれば、この世界に
そんなことを考えたエルは、スペックを知ろうとした者を『即捕縛』から『監視して怪しい動きをしていれば捕縛』と警戒を緩めた。
「というわけでアルにはエーテルリアクタで使用するスクリプトを除いた全て。中隊長達やキッド、アディには僕がエーテルリアクタを作っていることを伝えます。ノーラさん達藍鷹騎士団の皆さんには申し訳ないですが、作成中はこの部屋の監視は避けてもらう形にしようかと」
「報告も間仕切り越しにしてもらう方がよさそうですね。一先ずはこんなところですかね?」
「そうですね。後は僕が居ない間に出てきた情報を連携お願いします」
そう言ったエルは空になったかばんを一か所に置きながら拝聴の姿勢をとり、アルもまたノーラからもたらされたライヒアラや周囲の国の情報を片付けながら共有していく。すると、扉がノックされる音が聞こえたのでアルが扉を開くと、エドガーやダーヴィドといった中隊長と一応『騎士団長補佐』の役職に当てられているキッドとアディが
「荷物を持ってきたぞって入るか? これ」
「何とか入るな……ああ、あと銀色小僧宛の手紙と追加で何箱か来てたぞ。後で持ってくる」
「ありがとうございます。それでは皆さん、ちょっと部屋に入って扉を閉めてください」
その言葉に全員は荷物を部屋に押し込んだ後に、
当然、その言葉を聞いたディートリヒやダーヴィドが信用していない表情で茶化すような言葉を投げかけるが、アルはこの話は本当に重要機密でバレたら銀鳳騎士団上層部の首が物理的に飛ぶとさらに強い警告を放った。
「そ、そんなにヤバいことなのかよ」
「ええ、姿を見ては駄目 知ろうとしても駄目 言いふらしても駄目という結構やばいやつです」
どこぞの都市伝説のような口ぶりで話すアルに全員の目が据わる。『覚悟』が出来た事を確認したエルは一言、『
「するってぇと……製法が分かったのか?」
「分かりましたが、これ以上は話せません。なので、皆さんに気をつけて欲しいのが『僕がエーテルリアクタを作ろうとしている事を言いふらしては駄目』ということです。あと、『何をしているか知ろうとする』のですね。ああ、アディやキッドは、『エーテルリアクタを作っている僕の姿を見る』のも禁止します」
エルは一息に条件を全て話し、間仕切りの部分を指差した。間仕切りは堅い板で構成されており、スライドドアのように横に動く事になっている。これは実家がそういう家具関係だった数人の
「基本的に扉を開けたすぐの部屋にはアルが待機する予定です。上が開いているので会話内容も把握できますし、間仕切り越しに会話も可能です。なので、皆さんは絶対にこの扉を開けないでください」
「開けたら最後、兄さんは鳳になって飛んでいくんですね。銀鳳騎士団だけに」
アルの発言に部屋の中が一気に真冬になる。どうやら恩返し的な話はこの国にないらしく、エドガー達の『まじめな話をしてるんだが?』という視線に、アルのテンションは落ちて小さく『すみません』と良いながら部屋の隅に体育座りをし、それ以降何も喋らなくなった。
「話を戻します。気をつけて欲しいのは本当に扉を開けないこと、他の団員に知らせないこと、親方は機体に取り付ける際は送られてきた体を装ってください。あと、絶対に外されないようにもお願いします」
「だが、作るって言ってもエーテルリアクタなら性能は変わらねぇんじゃねぇのか? 盗られる心配は……」
「アル?」
「親方には話しましょう。兄さんの機体を預かる機付長として全部とは言えませんが、ギリギリまで言えることを伝えておくべきです。それが親方に対する僕達の信頼の証ですし、親方もそういう責任が取れる立場ですよね?」
アルは同意を求めるようにダーヴィドを注視する。その視線にただならぬ情報が撃ち込まれることを覚悟したダーヴィドは、再度周囲にエルとアル以外の人間に出て行くように呼びかける。数分後、部屋にはエルとアル、そしてダーヴィドしか居なくなった時、ダーヴィドは自身の胸を叩きながら『
「あ、その前に親方。ライヒアラの生徒に新型の建造見せても良いですか?」
「ん? そりゃぁエーテルリアクタとか見られなければ俺達はどっちでも構わんぞ?」
「高コスト機を作るのを見学するのも良い勉強ですからね。内部骨格作る時に呼んで上げましょう。ついでに騎士科の人達も連れてきて中隊で鍛えればどうです?」
ラウリから言われた提案が二つ返事で許可され、さらにアルが提案しようと思っていた内容をそっくりそのままエルが提案したので、アルは『仕事が1つ終わったー』と上機嫌で間仕切りの奥の部屋にダーヴィドを通し、エルと共に本題の大きな木箱に近づく。
「では……アル、ひっぺがしますよ」
「ヤー」
慎重に
「ご覧のとおり、僕が使用するエーテルリアクタはこれらを用います。たぶんですが、親方にはこれが何なのか理解できているはずです」
「ああ、触媒結晶だな。それも……この肌にチリつく圧は鉱山由来の物とは格がちげぇ。魔獣だな……それもとびっきりの」
触媒結晶になってもなお君臨し続けようとする圧倒的な圧力に、ダーヴィドは即座に出所を看破した。その後、『これ以上見聞きすると作り方とか色々知りたくなっちまう』と知ることを拒否したダーヴィドは残った木箱を部屋に届けるために工房へと戻り、部屋にはエルとアルしか居なくなった。
「おや、ここにはミスリルないですね。別の木箱ですかね」
「ミスリル?」
ダーヴィドが退室した後、触媒結晶の入った箱を調べていたエルの発した『ミスリル』という単語に思わずアルが聞き直すと、エルは『精霊銀の本当の名前です』と補足した。触媒結晶と『エリキシル』と呼ばれる触媒をミスリルに封じ込め、特定の魔法で術式を刻み込んだ物体が
「それってかなり硬いですよね?」
「ええ、特定の魔法でしか楽に加工できないぐらいですからね。しかも、その魔法の調整もおそらく僕の全能力を駆使してやっと整形できますからね。杖だとぐにゃぐにゃのオブジェになりましたし」
「加工した事があるなら話は早い。武器や装甲に薄く設置するのはどうでしょ?」
アルフヘイムで製造方法を学んだ際に実地で加工を行ったらしいエルは、出来上がった謎のオブジェを思い出して渋い顔をする。一応出来なくはないが出来ても鈍器ぐらいになるのではないかという意見や、精霊銀ってお高いからほいほいと使えない、加工できることが知られたら面倒くさいといった様々な理由で却下された。
「加工方法については当たりをつけてるから大丈夫ですが、問題はスクリプトです。では、アルが纏めた資料を改めて見せてください」
「ほいほい、取って来ます」
アルは返事をしながら工房の巣からアルチュセール山峡関要塞に居た頃に書いていた
「じゃ、レビューしますね」
「僕は木箱をこっちの区画に運び入れときましょうか?」
「いいえ、追加で来た手紙を読んでおいてください。新しい制約があるかも」
エルに資料を渡したアルは、紙束の
1つ目はエルから言われた機密の徹底。どのくらいの機密を共有しているかはエルの裁量に任せているが、機密を破って処断なぞやりたくないから必ず守って欲しいという旨が書かれていた。
次にミスリルの件だが、これも専用の鉱山があるので欲しい場合はアンブロシウスかリオタムスに直接依頼して欲しいとのことだった。送られてきたミスリルの量は一般的な
最後にアルチュセール山峡関要塞で戦った新種の件だが、あれは新種ではなく過去の文献──森伐遠征軍の生き残りの書いた交戦記録に載っていた指揮や中距離戦闘が出来る上位種と特徴が一致したらしい。
その移動能力や法撃能力から、当時の
また、死骸は魔獣の研究機関に預けたが、解体の結果かなり大きな触媒結晶が存在する事が分かったので、これはたった1機で大隊級魔獣を倒した褒賞用として厳重に保存しているとのことだった。
文の最後に『功績がもう少し欲しいので、何か功績を持って早く受け取りに来ること』や『うちの蔵が狭くなる』と書かれているので、アルは『高く買ってくれてるなぁ』と嬉しそうな声を上げた。
「アルー、手紙読み終わりました? ちょっと見直して欲しい所があるんですが」
「読み終わりました。ミスリルが少なかったらカンカネンへ行って先王陛下に依頼するようです。後、機密については徹底して欲しいと書かれてました。あと、僕用の触媒結晶も今後の功績次第で手に入りそうです」
アルは
そして、この騎士団長機を作製する企画を盤石にするため、十分すぎる便宜を図ってくれたアルに感謝の言葉を言いながら、『この触媒結晶は自分が責任を持って
「まぁ、まだ手に入れてませんからね。ひとまずは兄さんの機体ですよ。どこですか?」
「ここの部分ですがもうちょっと深く調べて欲しいです」
エルが指示したのは動作系の根本を為している部分の再調査だった。ここはおそらくだが
最初になにがしたいかと言う
黎明期は
そもそも
理由を考えただけでもこれだけの理由を想起した当時のアルは軽く吐き気を覚えたぐらいの酷さだったが、くじけることなく解析に没頭し、なんとか『麺にフォークを突っ込んで上に持ち上げるぐらい』の複雑さに纏め上げる事ができた。
だが、それでも足りないというエルに、アルは纏めきれなかった悔しさに木箱を強く叩いたが魔法を用いていないヘナチョコボディに木箱は堅過ぎたらしく、痛みでもんどりうった。
「すみません。僕の機体の仕様を言うのを忘れていました。もちろんこれだけでも良いんです。十分すぎます。ですが、僕の機体はフルコントロールで動かす事を前提にしているので、入出力関係はもうすこし明確にして欲しいんです」
「はぁ? フルコントロールってマジですか!?」
アルの驚いた声にエルは『マジ出○』と結構懐かしいネタで返す。
そんな機械的な操縦が未熟なこの世界でエルが出した回答は、『自分が思いつく限りのパターンを書いて
「ですが、それだと覚えこませるパターンとかコマンドとか膨大になりません? 出来るんですか?」
「そのためにもうちょっと操作術式を噛み砕いて欲しいんです。メインのマギウスエンジンとシルエットギアに使われている小型マギウスエンジンを使用して僕がフルコントロールで統括すれば操縦は可能です! ……というか、絶対操縦できるようにします」
エルの意気込みに根負けしたアルは、書いた紙束を回収して作業を開始しようと間仕切りの板に手をかけた。しかし、その前にエルに服を摘まれた。
アルが振り返ると少し照れたような顔をしているエルが見えたので、それを見慣れたアルは『やっべぇ、ロボネタ欠乏症だ』と心底面倒くさそうに口を開いた。
「それはアディにしてください。僕にやるには性別を入れ替えて年齢を僕より誕生日を1日だけでも先にしてからにしてください」
「相変わらずアルの姉定義が分からないんですが、良いじゃないですか。操縦席の設計図を書くためにロボネタ談義しましょうよ」
「HA NA SE! 今からこの憎らしいスパゲッティ野郎をうどんぐらい滑らかな喉越しにする作業があるんですから!」
「え、でもスーパーに売ってたうどんって結構「それと比べるとか練るぞゴルァ!」」
アルの表情が面倒くさそうな表情から一転、軽く人を○せるぐらいの形相になった。せめて冷凍食品なら百歩譲るが、既に茹でられたあれと打ち立ての喉越しを比べられるのはアルにとって地雷である。
そのまま服の袖がメリメリと悲鳴を上げる中、何とか落ち着いたアルは長く一息ついてから『やりゃぁ良いんでしょやりゃぁ』と降参の言葉を放つ。
どのみち騎士団長機は作るので、今日ぐらいは兄に付き合うのも悪くないと思いながら身体強化の魔法を使いながら全ての木箱を間仕切りの奥へと搬入した2人は、木箱を机と椅子代わりにして話し合いの体勢を取った。
「じゃ、さっそく操縦席の設備から決めていきましょうか。一般的なシルエットナイトはホロモニターに操縦桿や計器……あ、開閉方法はどうするんですか? やっぱりテレスターレ方式ですか?」
「胸部装甲が開く方式にしましょう。そのほうが乗り降りが楽ですし」
「頭ぶつけて落っこちないようにしてくださいね」
アルのボケにエルは『それは宇宙だけでしょ』と突っ込むが、ちょっと胸部装甲の稼動域を広く取ってもらおうと心のメモに刻んだ。そして、操縦席の内装はカルディトーレの物と同じ物も多々合ったが、操縦桿は従来の物は使わず、押し引きや左右に動かす事ができ、タイプライターのようなキーボードがせり出して来るかなり特殊な物に変更するよう紙に書き込んだ。
「ゲームのコントローラーみたいなタイプや最低野郎みたいな左右のレバーを回すタイプとかも使いやすいと思うんですがね」
「それだと操縦系統のスクリプトも増大すると思うのでちょっと……あ、フットペダルは左右に何本も増設して足だけでマギウスジェットスラスタの挙動を制御したいですね」
そう言いながらフットペダルを増設しているエルの横から、アルが『座席の調整が自在に出来るようにしときましょう』と車の座席調整のようなレールを書き込む。未だ身長を諦めていないエルはその書き込みに『ナイスです』と口にしながら
「全天モニターって難しいですかね?」
「たしかあれってモニターの差異とかをCG合成してますから、映像系に手を出す形になりますよ?」
「厳しそうですし、従来でよさそうですね」
全天モニターとは、某重戦士や某機動戦士などに登場した『空間に座席を置いて座っているような』360度全ての風景が映し出される手法である。たしかにこれは機体の損傷や周囲の把握が容易になるのでエルも最初は出来ないか考えたが、この世界でやるとすると周囲に眼球水晶をくっつけた歪なデザインになるので止めた。──その時、アルの頭の中に『やりすぎ』という声が聞こえた気がしたが無視することにした。
「足に複数のフットレバー、操縦桿にもキーボード。止めに両サイドに収納式のキーボードって多くないですか? 地盤崩しでもするんですか? 変なマスク被るんですか? セラーティ家から持ってきた仮面で良いなら貸しますよ?」
「人のことを想定外に何時も崩される主人公のように言うのは止めなさい。操縦桿のは咄嗟に使うものを詰め込んで、両サイドの物は法撃仕様にしたり出力変えたりみたいな構想してるんですー!」
キーボードの多さにアルはちょっと物申したが、それをエルは『仕様です』と切り伏せた。大体そんな感じで適当に話しながらも操縦席の内装が決まり、2人は意気揚々と設計図をダーヴィドの所へ持っていく。
「お、おう……俺も銀色坊主とツルんでなげぇが……操縦席がこんなになってるのは初めてだ」
「親方ー、駄目だよ。エルが本気で何かをするときは常識は一旦捨てないと辛いって」
目新しい物に加えて従来あるはずの部品のデザインが変わりきっている設計図にダーヴィドは額に手を置くが、その横で設計図を見ていたバトソンは、改めてダーヴィドに『幼馴染目線でエルと付き合うための忠告』をする。そんないまさらな忠告にダーヴィドはバトソンを小突きながら『分かってら』と言いつつ、忠告に従って常識を頭から投げ捨てながら設計図を読み込んでいく。
「仕様は分かったが、一先ず内部の骨格を作ってからじゃねぇと話にならん。内部骨格の段階で俺達の常識の外から殴ってくることはないよな?」
「ええ、マギウスエンジンとエーテルリアクタの固定する箇所は印をつけてるんで、そこは大きめのスペースを空けておいてください」
「……あるじゃねぇか!」
設計図に描かれた印の数から通常1つの
「それじゃあ、僕達も仕事しますか」
「ソッスネー。ハヤクカエリタイ」
これから行われる仕事内容を思い出してやつれているアルの横で『何言ってるんですか! ここが家ですよ!』と鬼畜発言したエルに向かって本気のアルパンチが飛んだのだが、その場に居た全員は『あれは団長が悪い』と口を揃えて言った。
操縦席への入り方ですがハッチ(アニメ版)と胸部装甲開閉式(アニメと漫画版)があるので、操縦者の好みで変更可能という独自設定をば。
そこらへんはカスタマイズの範疇ですから平気平気。
設定資料集は良いですぞぉ。ウヘヘ
余談
そういえばNewな某プラモデルをビルドするゲームを購入しまして、次のパッチワークどうするかなぁと組んでみましたが、なんやかんやあって投げました。