銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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69話

 クシェペルカ王国。否、ジャロウデク王国との国境の境に存在する関所に常駐する騎士達は自身の目を強くこすりながら目の前の事態を飲み込もうと必死だった。なにしろ、少し前まで『この道の向こうにある国はフランベルジュと似たような名前で、魔獣という伝説の存在相手に狩ったり狩られたりを繰り返すこの世の果て』と同僚と語らっていたので、心の中では大したことない国という認識があった。

 それがどうだ。4本の足で駆ける異形の幻晶騎士(シルエットナイト)に、幻晶騎士(シルエットナイト)の体当たりでもこじ開けることが出来ない重厚な扉を一撃で粉砕するやけに目立つ幻晶騎士(シルエットナイト)。極めつけは高さ30mもある関所のさらに上を易々と飛び上がり、『そのまま浮遊する』所々でやけに人間臭い動きをする蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)だ。

 

「シルエットナイトが……飛んでる!? ……ありえねぇ!」

 

 あまりの情報量の多さに思わず棒立ちで叫ぶ騎操士(ナイトランナー)だったが、その一瞬が命とりだった。

 蒼い騎士は背中から噴き出る紅蓮の炎の位置を細かに動かしながら地面に急降下する。そのまま両手の肉厚の大剣を振り下ろし、ジャロウデク王国の幻晶騎士(シルエットナイト)の胴体に接続していた両腕を力任せに破砕した。突然両腕がもがれたので、ジャロウデク王国の幻晶騎士(シルエットナイト)はそのままバランスを崩して仰向けに転倒する。

 

「ひとぉーつ」

 

 地面に向かって突撃しながらの勢いで大剣を振り下ろしたせいで土煙がもうもうと立ち込める中、爆音轟く戦場に不似合いな鈴を転がしたような声が聞こえる。近くの僚機と合流していた騎操士(ナイトランナー)はその声の方向に幻晶騎士(シルエットナイト)の首を向けると、先ほど幻晶騎士(シルエットナイト)を1機戦闘不能にした大剣を肩に置きながら次の獲物を探す蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)と目が合った。その瞬間、その青い幻晶騎士(シルエットナイト)は背中から火を噴くと十分に保っていたはずの間合いを一瞬で詰められ、騎操士(ナイトランナー)の意識はそのまま暗転した。

 

蹂躙(おまつり)は始まったばかりだった。

 

***

 

 ジャロウデク王国の幻晶騎士(シルエットナイト)と対峙したゴルドリーオとツェンドリンブル達の戦況を見ていたアルの耳に、エルの楽しそうな声が届く。その声に夜中に伝えた作戦内容覚えているのか不安に駆られるアルだったが、『あの人、騎士団長だぞ?』という脳内のアルが擁護に入ったのでとりあえず静観の体勢を取る。

 

「みぃーっつ!」

 

「やばい、あの人絶対メカの頭してる! 皆さん、逃げ出しそうな機体に取り付きますよ!」

 

 そんな中、アルの耳に上機嫌なエルの声が届いた。あきらかに倒した幻晶騎士(シルエットナイト)を数えている声にアルは擁護していた脳内の自分を切り捨てると、藍鷹騎士団全体に戦場に突入するように指示を出した。いきなり乱戦の最中に飛び込むアルに、藍鷹騎士団は慌てて後を追う。イカルガを動かす動作が心なしか機動戦士的な動きが増えているところを見ると、恐らくイカルガの操縦席では髪が天然パーマになったエルがノリノリでイカルガを動かしていることが伺える。このまま敵を『ノリ』で全滅させるのはまずいと思ったアルが周囲を観察して奪いやすそうな機体を探していると、前方にすさまじい爆発が起こった。

 

「ノーラさん!」

 

「承知しました」

 

 イカルガの専用装備、『銃装剣(ソーデッドカノン)』から放たれた轟炎の槍(ファルコネット)によってジャロウデク王国の幻晶騎士(シルエットナイト)が爆炎に飲み込まれ、最後に残った幻晶騎士(シルエットナイト)が悲鳴を上げながら関所から離れていく。その光景を見たアルはノーラを呼びながら軽くジャンプするなどのジェスチャーをすると、その意図を察したノーラが逃げ去っていく幻晶騎士(シルエットナイト)に背を向ける形で手を組みながら腰を落とす。そのままノーラに向かって突進したアルが組んだ手に足をかけると、シャドウラートに備わった綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の膂力を用いながらノーラは思いっきりアルの足を上へ放り投げ、アルは幻晶騎士(シルエットナイト)より上の高度まで飛び上がった。

 

「ん? サブアームがある。ちょうど良いですからあそこにしましょうか」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)の全体を見渡したアルが見知った機構であるサブアームを見つけると、すかさずストライカーの腰に装備しているワイヤーアンカーをサブアームに巻き付かせた。それを巻き上げながらアルは盛大な音を立てつつ幻晶騎士(シルエットナイト)に取り付くと、イカルガの放った轟炎の槍(ファルコネット)幻晶騎士(シルエットナイト)のすぐそばを通り過ぎた。

 

「ひぃぃ!」

 

 中の騎操士(ナイトランナー)は叫ぶ悲鳴の音量を上げながらさらに速度を上げ、異音にも気付かずにアルを乗せたまま森の中へ入って行く。このまますぐに乗っ取りを仕掛けると錯乱したナイトランナーに反撃を喰らうため、アルはサブアームに通っている銀線神経(シルバーナーヴ)をストライカーの銀線神経(シルバーナーヴ)と繋げると、幻晶騎士(シルエットナイト)魔導演算機(マギウスエンジン)の解析を始めた。

 

(なーんでサブアームを動かすスクリプトがテレスターレと同じなんでしょうかね)

 

 とりあえずフレメヴィーラ製と同じ機構であるサブアームの魔法術式(スクリプト)を軽く確認したアルは、見た目のみならず魔法術式(スクリプト)の中身──それこそエルやアルがよく記載している癖まで同じ代物だった。徐々にサブアームを握る手が強まってくるが、突如幻晶騎士(シルエットナイト)が停止したことでアルは思考を切り替えて外部から操縦席を開放するための魔法術式(スクリプト)を探し当てる。

 

「ひとまず……どこかの部隊と合流しなければ……あんな化け物勝てるわけがない」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)から騎操士(ナイトランナー)の悲痛な声が漏れているが、アルは気にせずに腰のワイヤーアンカーをサブアームに固く結んで幻晶騎士(シルエットナイト)の胸部装甲にしがみついた。そのままアルがワイヤーアンカー内に編み込まれた銀線神経(シルバーナーヴ)に胸部装甲を開け放つ命令を流し込むと、幻晶騎士(シルエットナイト)騎操士(ナイトランナー)の断りなく空気が漏れる音と共に操縦席を外部に晒す。

 

「あ……おい!」

 

 自身が操作した覚えがないのに開く操縦席に思わず騎操士(ナイトランナー)は静止の声を上げるが、返ってきたのは1発の中級魔法だった。ジャロウデク王国の制式装備である兜がエアロダムドによって砕け、鼻血を出しながら気絶している騎操士(ナイトランナー)を藍鷹騎士団員やストライカーと共に幻晶騎士(シルエットナイト)の掌に乗せたアルがさっそく操縦席に飛び込むと、計器や操縦席のレイアウトをじっくりと見渡す。

 

「マギウスエンジンの紋章が違うことを除けば操縦席はカルディトーレと変わりませんね。……このボタンも」

 

 魔導演算機(マギウスエンジン)に刻まれたジャロウデク王国の旗と同じ紋章を見つつ操縦席に着席したアルは、テレスターレやカルディトーレと『同じ場所』に増設されたボタンを親指で撫でる。上からジャロウデク王国の最新型幻晶騎士(シルエットナイト)を見てからというもの、アルは『もしや』という考えが何度も頭をよぎった。だが、確証がないので黙ったまま鹵獲作戦を遂行していったが、ここまで物的証拠が揃えば疑惑が確信に変わっていく。

 

 しかし、操縦席に乗ったままじっとしていたアルを不思議に思ったのか、シャドウラートが声をかけてきたのでアルは慌ててフルコントロールを用いて幻晶騎士(シルエットナイト)を動かす。カルディトーレよりも動作がもっさりしており、重装甲に仕上げているせいかやたらと燃費が悪いことにアルは心の中で『魔力転換炉(エーテルリアクタ)2個にして魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)使いたい』とパッチワークのことを思い出しながら進んでは立ち止まるを何度か繰り返し、先ほど幻晶騎士(シルエットナイト)が走ってきた道をシャドウラートを伴って戻っていった。

 

「誰か!」

 

「おっす! おらエチェバルリア! ジャロウデク王国は見慣れたシルエットナイトつくってんなぁ。おら怒りでスーパーエチェバルリアになっぞ!」

 

 先ほど逃げた幻晶騎士(シルエットナイト)が謎の言葉を連発しながらダンスを踊った後によくやる『天を指差す特徴的なポーズ』をしながら戻ってくる様子に、警戒していた第1中隊のメンバーは『副団長なんだからもっとちゃんとしてください』と愚痴ると関所の前に幻晶騎士(シルエットナイト)を誘導した。

 

「あ、アル。お帰りなさい」

 

「スクリプトを見ましたがテレスターレのままでしたね。ここまで侵攻出来た強さの一端が見えましたね」

 

 帰ってきたことが分かるや否やエルが幻晶騎士(シルエットナイト)の胸部装甲を開けるようにジェスチャーをしながら操縦席に飛び込むと、アルが怒った様子でエルと情報共有をする。テレスターレは操縦のしにくさに目をつむれば騎士団長機の素体になるウォートシリーズと引けを取らない膂力を持っているのはカザドシュ砦での事件を振り返れば明らかである。それが量産されてカルダトアと性能が似たり寄ったりな西方諸国の幻晶騎士(シルエットナイト)に襲い掛かれば、結果はシンプルに蹂躙となる。

 ただ、姿形を変える余裕はあるのに根本の魔法術式(スクリプト)部分を直していないので、『これを機に他国の魔法術式(スクリプト)を勉強してやる』と意気込んでいたアルにとっては梯子を外された感じがしてもにょってしまう。

 

「とりあえず、殿下じゃなかった。若旦那と話し合いですかね」

 

「そうですね。完品が増えたらちょっと分けてもらって分解調査しましょうよ」

 

「フヒヒ、良いですね。どこまでテレスターレと同じか見比べてみましょうか」

 

 エルの提案を聞いた途端に悪い顔をしたアルが幻晶騎士(シルエットナイト)から降りると、それに気づいたエムリスが重苦しい口調で『戻ったか』と呟いた。不機嫌そうな様子にアルが事情を聞くと、クシェペルカ王国が滅んだことでクシェペルカの王族はどうなったのか分からないとエムリスは歯がゆそうに答えた。『生死さえも分からん』と吐き捨てたエムリスは手持ち無沙汰のようにアルの目の前をぐるぐると歩きながら考え込んでいたが、エムリスの話を聞いて少し考えたアルは人差し指を前に出す。

 

「ですが、推察は出来ますよ?」

 

「本当か!? 教えろアルフォンス! 伯母上達は無事なのか!」

 

 アルの突然の一言にエムリスはアルをガクガクを揺さぶりながら縋り付く様に懇願するが、当の本人は三半規管をやられて顔が真っ青になっていた。その後、解放されてなんとか持ち直したアルは『このまま西方諸国を統一するなら占領国に余計な兵は割けないはず』という仮定をエムリスに説明する。もちろん寝返ったその国の貴族を監視に置くといった例外もあるが、占領国が増えるごとに実働部隊の兵士が減るのは当たり前のことだ。

 

「で、占領した国が行う統治として僕が考えるに2パターンあります。1つは過去の統治者……クシェペルカ王家を全員亡きも"の"ッ」

 

 過程の後に本題を言おうとしたアルの顔面に衝撃が走り、身体がふわりと宙に舞う。突然吹き飛ばされたアルに、エルは慌ててエムリスの方を向くと拳を固く握りこんで振りぬいたエムリスが見え、エムリスがアルを思いっきり殴ったのだと頭が認識した途端、エルはアルを守るようにエムリスに立ちはだかった。

 

「伯母上達が死んだってのかぁ!」

 

 激昂しながら吹き飛ばされたアルに近づこうとするエムリスをエルとディートリヒ、エドガーがなんとか抑える。突然殴りかかってきたことに『説明は終わってません』とエムリスに向かって殴られた箇所を手で抑えながらアルが怒りながら反論するが、親族の身を案じてこの戦いに首を突っ込んだエムリスに話す内容ではないことをエルはエムリスを押さえつけながら嗜めた。

 

「アル、一番最悪を話すのは僕だけにしてください。要件だけ……生きてるんですか? 死んでるんですか?」

 

 エルの注意にアルは黙って頷く。分かりやすく順序立てて説明するせいか、アルには『最悪の可能性』を説明の中に忍ばせる癖がある。

 だが、これは裏を返せば『最悪を想定できるまで調査や精査をして分かった結果』なので、その最悪を想定した説明によって余計な落とし穴にはまらずに済んだ前世のエルはアルの癖を矯正はしなかったのだが、今回はそれが裏目に出たのだ。

 

「……王以外は生きている可能性が高いです。全員皆殺しにしたら余計な軋轢を生みます。ジャロウデクにそれを鎮圧する余裕もないはずです」

 

 占領国が行う統治の1つに『属国』という物がある。文字通り国家に従属する国家のことで、この場合を考えると王族を人質にして貴族達を従わせている可能性が大いにあり得る。

 他にも植民地といった統治方法があるが、そこら辺については門外漢なアルはとりあえず『王族は生きている可能性が高い』という返答をすると、エムリスは頭が冷えたのか『すまん』と謝ると岩の上にどっかりと腰を落ち着け、アルを手招きすると乱雑にアルの手当てをする。

 

「すみません。不躾でした」

 

「いや、良い。生きている可能性があることだけでも分かった。だが、行方を調べている間はずっと待っているのも性に合わんな」

 

「ならば、その間に僕達は商品を仕入れておきましょう」

 

 一応『商会』という建前で潜入している銀鳳騎士団だが、『ツェンドリンブルを使い、平然と占領国の幻晶騎士(シルエットナイト)を撃破したり鹵獲する商会』について傍らで聞いていたディートリヒは思わずツッコんだが、その意見は無視された。

 

「で、商品というのはまさかそこに転がっているジャロウデクのシルエットナイトかい?」

 

「はい。完品は良い値段で売れますよ」

 

 脳内が商人になっているアルの横を第3中隊の荷馬車(キャリッジ)が通って行く。今後はここを仮拠点にして周囲のジャロウデク軍を見つけては『仕入れ』を行っていく予定だが、やっていることは不穏分子のそれである。それについてぼやいたディートリヒだったが、返ってきたのはアルの『私設武装組織……戦争根絶』という謎の言葉だった。アル以外ぼやきを聞いてくれなかったことに少しだけ寂しく思いながらディートリヒはグゥエラリンデでジャロウデクの幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸を片付けに入った。

 

「む、エドガーさんがシルエットナイトの話してる! いきますよ!」

 

「兄さん、シルエットナイトの話に節操なく飛びつくのやめようよー」

 

 ひとまず残骸の片付けを行おうと今日中に行う予定を組み立てている最中、エルは唐突にアルが奪ってきた幻晶騎士(シルエットナイト)の前に立っているエドガーとヘルヴィに向かって走り出した。相変わらず突拍子の無いことをやる兄に、アルは『ほんと予測できない行動するな』とアルが毒づくが、これを某公爵が聞いたら青筋を浮かび上がらせるほど怒り出すので、アルは言葉にはせずにエルについて行く。

 

「ああ、副団長君。君もあれをどう思う?」

 

「どう思うも何もいかついお洋服着たテレスターレでしょ。ちらっとスクリプト見ましたけど書き方の癖まで一緒でしたよ。おそらくダーシュと同じでコピーしたんでしょうね」

 

 あっけらかんと言うアルだがその言葉の中に小さな棘が見え隠れしている。それを聞いたエドガーはテレスターレが奪われた事件でアルは大けがを負ったことを思い返しながら自身の手を強く握りこんで動揺を隠せずにいた。結果がどうあれ、あの時のテレスターレ──ヘルヴィの乗機がこの戦の引き金になったことに、エドガーは苛立たしげに幻晶騎士(シルエットナイト)の外装を叩くと、ヘルヴィがエドガーの肩を小突いて正気に戻らせた。

 

「こら、中隊長が簡単に動揺しちゃ駄目でしょ」

 

「ああ、すまない。約束した相手に諭されるとは……俺もまだまだだな」

 

 気分が落ち着いたのか頭を掻きながらヘルヴィに礼をいうエドガー。すると、ヘルヴィは『テレスターレを想ってくれたのは嬉しかった』と逆に礼を言いながらエドガーの頬に自らの唇を軽く押し付けた。鳥のさえずりのような小さなリップ音によって周囲が無音になる中、流石に恥ずかしかったのかヘルヴィは第3中隊の……主に女性団員が固まっている付近に小走りで向かう。

 

「おやおや、おやおやおやおや」

 

「号外! 号外!」

 

「なん……だと……」

 

 突然の不意打ちにエドガーは石のように固まってしまい、その光景を見た第1中隊と第2中隊の団員がスクラムを組みながら指笛を吹いたり『ヒューヒュー』と野太い野次を飛ばしたり、いつの間にか第2中隊員の肩にパイ○ダーオンしていたアルが『なんか熱いですねぇ』と服をパタパタと仰ぎながら遠回しの野次をエドガーに送ったりしていた。

 

「お前ら! 今日こそは許さんぞ!」

 

 しかし、あまりにも大きな野次に流石のエドガーも硬直から即座に再起動を果たして団員達を教育すべく追いかけっこを始めた。だが、エドガーが怒り出す前にちゃっかり第2中隊員の肩から脱出を果たしていたアルは何食わぬ顔でエル達の所へ帰って満足そうな笑みでその光景を眺めていた。

 

「ふー、人の恋路を茶化すのは気持ち良いZOY」

 

「君、楽しそうだね。君達が設計したシルエットナイトがこうして敵になっているのに」

 

 ディートリヒの言葉にアルは数秒間その場で悩むが、じきに『興味はあるんですよね』と返事をする。エルもその返事に同調するように首を上下に振りながら『人によって考え方が違いますからね』と付け加える。

 

 テレスターレは言うならば『原石』だ。研磨方法やカットの仕方によってその原石は様々な色をもたらすだろう。カルディトーレはエルとアルがラボと協力することで『膂力の上がり具合は抑え目だが、どのような状況でも魔獣と戦える優秀な汎用機』になった。

 だが、他の国はどうだろうか? どのような対応を施し、どのような工夫をしたのか。それがエルとアルの好奇心を激しくくすぐったのである。

 

「ですが、スクリプトはあんまり期待しない方が良さそうですね。一応調べますが」

 

「サブアームは見た目的にも分かりやすいのでコピーに留めただけかもしれませんし、全部見てから判断しましょう」

 

「その全部は……解体するのかい!? 完品なんて貴重品じゃないか」

 

 ディートリヒの狼狽える声にエル達はさも当然のように『俺の物は俺の物。僕達の技術を使っているジャロウデクの物は俺の物です』とオレンジ色のシャツが似合うガキ大将の言葉を引っ張り出して反論する。

 その後も『たくさん完品を仕入れて各部材の質の検証もしたいですね』や、『装甲板の強度を調べるための的役でも良さそうですね』と完品を手に入れた時の構想を練っている2人にディートリヒは『彼らには残念だが、騎士団長閣下達の生贄になってもらおう』と、あえて先ほどの暴論に対する反論を心の奥底にしまい込んだ。

 

 この日から、元クシェペルカ王国東部の天気に『時々死神』が付け加えられることになるのだが、大半のジャロウデク軍所属の兵士は『クシェペルカ残党のこけおどしだろう』と高をくくり、上層部がその鬼神の存在に気付くのは、もう少し時間がかかるのだった。

 

***

 

 未だ頑なに商人を名乗る不穏分子、設定的には商人なので『銀鳳商騎士団』と自認する輩が関所を破って早1週間。元クシェペルカ東部に進駐していたジャロウデク軍の間では『死神』という噂で持ち切りだった。曰く、『見た物は全て死神に魅入られて身体ごとあの世へ行く』。曰く、『正確にこちらの部隊。しかも孤立気味の部隊を狙っていることから千里眼を持った化け物』と様々な憶測が飛び交っているが、残念なことに噂は半分ほど間違っている。

 

 

──というのも。

 

「はぁ~い、良い機体乗ってますね」

 

「ヒエ!? で、でtグボフゥッ!」

 

 アルが排水溝に住み、サブカルチャーをひたすら勧めてくるピエロのような声を出しながら、一切の損傷を負っていないジャロウデク軍の幻晶騎士(シルエットナイト)、『ティラントー』の胸部装甲を開くとすかさず錯乱しているジャロウデク軍の騎操士(ナイトランナー)風衝弾(エアロダムド)をお見舞いする。そのまま気絶した騎操士(ナイトランナー)を側にいる藍鷹騎士団のシャドウラートに託したアルは、早速盗んだティラントーで走り出して少し前方でティラントーを順調になぎ倒していく戦馬車(チャリオット)に乗ったイカルガと合流した。

 

「フヒヒ……これで8体目ですよ。これで色々検証がはかどりますね」

 

「グヘヘ……おぬしも悪よのぉ」

 

「いえいえ、エルネスティ様ほどでは」

 

 完品が手に入ったテンションで寸劇をやっている最中、砂煙を上げながら現場に到着した第3中隊と同乗している第1、第2中隊から抽出した幻晶甲冑(シルエットギア)隊によって捕虜やイカルガが派手に散らかしたティラントーの残骸を荷馬車(キャリッジ)に回収していく。

 こうして大きな戦闘跡のみが現場に残り、いつまで経っても帰ってこない部隊を探しに来たジャロウデク軍によって『死神』の名前が一層兵士たちの間に恐怖を植え付けていくのだった。

 

「しかし、リーコン便利ですねぇ」

 

 戦馬車(チャリオット)の先端に備え付けられた筒棒を見てエルは呟く。今まで孤立した部隊を正確に狙えたのは主にこのリーコンで周囲の状況を探っていたに過ぎなかった。ただ、なにも塗装しない状態だと銀が反射してバレやすくなるので藍鷹騎士団特製の墨を塗りたくり、さらに筒棒自体を小さくすることによって幻晶騎士(シルエットナイト)からバレにくくするといった改良を施している。

 ただ、小さくなった分耐久性が低下しており、騎馬兵といった人間の目からは『なんだあれ』ぐらいのレベルで見えるという欠点も存在しているのだが、その場合はすぐ近くで待機している藍鷹騎士団の1個小隊の活躍によってこの『仕入れ作業』もさして大きな問題なく続けられていた。

 

 そんなこんなでエル達は本隊と合流すると、銀鳳商騎士団はエムリスとの縁を頼って元クシェペルカ王国の貴族である『モデスト・レトンマキ男爵』の下へ『商談』へ向かった。この商談の主な理由は『ティラントーを倒せる武力と引き換えにジャロウデクに反旗を翻す誘い』である。

 

 だが……

 

「駄目だ! いくら雑魚を蹴散らしても意味がねぇ!」

 

 エムリスが苛立たしげに壊れたティラントーの残骸を殴りつけながら獅子のような唸り声をあげる。

 商談の結果は敗北。──とはいっても銀鳳商騎士団への補給といった支援は取り付けることに成功したが、それ以上の行動には一切レトンマキ男爵や今まで接触したどの貴族も、首を縦に振らなかった。そのことと共にいまだ行方が分からない王族にエムリスは日増しに鬱屈した感情を貯めていく。そんなエムリスの悩ましい日々を他所にエルとアルがどうしていたかというと、レトンマキ男爵の居城にある工房を見学していた。

 

「ふつくしい……シルエットナイトというよりは精巧な彫刻のような……ふつくしい!」

 

「生産性やメンテナンス性も高そうですが、やはりフレメヴィーラのと比べると頼りない感じがしますね」

 

 クシェペルカ製の幻晶騎士(シルエットナイト)、『レスヴァント』を生で見れたことによりテンションゲージが滝を登った鯉のように昇っていくエルに対し、外見から性能面を測るアル。2人の異なる対応にキッド達はとりあえず邪魔にならないように工房の隅に2人を押し込むと、今にもレスヴァントに飛びついて解析しそうなエルをひとまずアディに預けたキッドはアルの隣に立った。

 

「今回も駄目そうだな。ほんと、嫌がらせしかやることがないのは歯がゆいぜ」

 

「捕虜は受け取ってくれましたが、残骸は受け取ってくれませんでしたからね。残骸の置き場所が増えますよ」

 

 普段ならエルと共謀してなんとかレスヴァントの性能を嘗め回そうとするアルだが、今は奪ったティラントーの置き場が仮拠点にもうないのでどうしようかと頭を悩ませていた。捕虜なら人間なので地下牢にでも放り込んでしまえばすぐに露呈することは少ないので、後は問題の先延ばしになるのだが頃合いを見て解放するなどといった措置が取れる。

 だが、幻晶騎士(シルエットナイト)は残骸にしても巨大なのでばらして金属にするにしても途方の無い時間がかかる。関所にある仮拠点では今もダーヴィド達がなんとか溶かしやすいようにパーツごとに仕分けたり、金属板に加工したりとスペースを空けているが、そろそろこのような愚連隊のやり方は八方塞がりになると推測したアルはしばらく考えるが、一向に名案が浮かばない。

 

「説得する材料が不足してるんだよな?」

 

「そうですね。反旗を翻しても怖くない武力が第1条件ですね。僕達は根無し草みたいなものなので領地に赴いて防衛をするには機動力不足です」

 

 キッドの疑問にアルは悩ましげに答える。

 クシェペルカ王国は広く、ツェンドリンブルやティラントーと同じような技術を使っているカルディトーレをもってしても各領地が断続的、もしくは一斉に襲われたときの対処は厳しい。なので、クシェペルカのレスヴァントをどうにかティラントーと同じ性能に引き上げることが出来ないかということもあって工房に来たのだが、この機体をどう改修するかは頭にあっても肝心の開発時間や人員をどうするか。そんな途方もない考えにアルの頭はグルングルンと回っていた。

 

「それならどこかの拠点奪っちゃえば? この辺りって仕入れで敵も減ってるし」

 

「そうですね。シルエットナイトの生産設備のある……なくても十分なスペースが取れる町があれば占領して拠点化するのも悪くないですね」

 

「俺達、騎士だよな? 野盗じゃないよな?」

 

「え、騎士君って呼んでほしいんですか? ヴウ"ンッ騎士君……違うな。あ"-! ……騎士クン!」

 

「やめぃ!」

 

 ひとしきり見学を終えたエル達はキッドを『騎士君』呼びでからかいつつエムリスの下へ向かうと、エムリスから先ほどエル達が相談していたことを共有するが、『拠点でも貴族を説得するには力不足だろうな』と諦めたような空気を出す。しかし、現状の仮拠点では補修も満足に行えないため、クシェペルカの地理に詳しいエムリスから関所から近い『ミシリエ』という宿場町はどうかと提案がされた。

 

「ノーラさん……は居ないんでしたね。では、ミシリエの偵察をお願いします」

 

「承知しました。若旦那、詳細な位置を確認したく」

 

 そのままミシリエへ偵察に向かう藍鷹騎士団の小隊を見送ったエル達はそのまま関所まで帰っていくのだが、エムリスも団員達も元クシェペルカ貴族の応対に心が折れかけているのか、表情は暗かった。

 

「せめて、貴族が纏まるだけの御旗があれば」

 

「流石に若旦那が大手を振ってクシェペルカの再興の旗印になるのは違いますもんね」

 

 一応フレメヴィーラとは関係のない体で潜入しているので、それが露呈するのは良くないことだとアルも分かっている。だが、こうも八方塞がりだと打開策の強硬手段を考えるのも仕方のないことだった。

 そんなアルの意見の意図を察したエムリスはアルの頭を乱雑に撫で、仮拠点に帰った瞬間に『伯母上達のことは後で考える』と自分に言い聞かせるように吠えると続けて『俺達や伯母上達を保護する拠点をジャロウデクのやつらから巻き上げるぞ!』と力強く宣言した。

 

「皆さんは会議の準備を 親方は実働部隊の整備をお願いします」

 

 その宣言を聞いたエルは素早く周囲の地図の準備や全力出撃の用意をダーヴィドに指示する。全力出撃、つまり3個中隊の戦力に加え、つい先ほど小隊のほとんどを鎧袖一触で薙ぎ払ったイカルガが加わった文字通り銀鳳商騎士団の全軍である。帰ってきて早々大仕事を押し付けてくるエルにダーヴィドは何か言いたそうにしたが、会議の物々しい様子からただ事ではない空気を感じ取って整備をするために駐機場へ向かった。

 

「それでは、ミシリエ攻略の会議を始めます。若旦那、ミシリエはどんな街なんですか?」

 

「一言でいやぁ宿場町だ。この関所を除けばクシェペルカの最東端だな。俺が留学から帰る時には護衛の騎士がそこでシルエットナイトの点検をしていたから工房は存在する……はずだ」

 

「ですが、ここら一帯の地形的に大人数での行軍は厳しいですよね」

 

 エムリスが街の概要を話ながら法撃によって粉々になった門を指差す。元クシェペルカ王国は王都の『デルヴァンクール』を中央とし、東西南北と4領に分かれている。その中でもフレメヴィーラと近い東領は魔獣こそ存在していないが、地形が険しい箇所が所々にあカルディトーレやツェンドリンブルでも移動に苦労した個所が存在する。

 

 そこら辺の感情をすり合わせながら正攻法で攻略できるかと頭を悩ませていた一同に、エルが『僕がミシリエを守るティラントーを全部撃破すればどうですか?』と、また頭イカルガの発想で提案しだした。

 

「ステイ! イカルガを動かしたいだけでしょ! ステイ!」

 

「くぅん」

 

 犬のような鳴き真似で上目遣いで抗議してくるエルを無視してアルは制圧方法を模索する。ただ1人、その仕草に目をやられて会議中ずっと滅びの呪文を真っ向から見た某大佐の様に手で目を覆っていたのだが、隣に居たキッドはそっとしておくことにした。

 

「んー、個人的に搦め手の方が良い気がするんですが……。制圧後、民間人に偽装した兵に攻撃されたら痛いですね」

 

「アルフォンス。それを考慮に入れると疑わしい物は全員捕虜にするしかないぞ。その時に対処しよう」

 

 前世では便衣兵と呼ばれる民間人に偽装して攻撃を行う兵士のことを懸念して悩みだしたアルに、エドガーは『その時はその時だ』とフレメヴィーラ魂を爆発させながら異議を唱えた。ちなみにセッテルンド大陸では知らないが、便衣兵は国際法違反なのでサバイバルゲームなどでそういうことをするのは面倒くさいことになるのでお勧めはできない。

 

 閑話休題

 その後も誰かが案を出したが誰かが異議を唱えるという話し合いを行うが、良さげな方法が出ないので一旦小休止を挟もうかといった空気が流れる中、アルはおずおずと手を挙げて一言『やっぱりミシリエを守るティラントー引っ張り出してイカルガで殲滅した方が逃げてくれるんじゃないですか?』と先ほど却下した案を再度会議の場に出した。

 

「まぁ、死神様が出たら逃げるしかないね」

 

「俺達が町を包囲すればより威圧感はあるだろうな」

 

 捕虜からたびたび聞かされる『死神』という言葉にイカルガがジャロウデク側から恐れられていることを知っているディートリヒは笑いながら賛成し、イカルガがティラントーを倒した後のことを考えた中隊の動きを考えていたエドガーも賛成する。その賛成の声が上がるごとにエルの目が徐々にキラキラと輝いていった。

 

「それじゃあ、威圧感を増すためにもう一工夫しましょうよ」

 

 イカルガが主役になる作戦にアルに向けて熱視線を送るエルを視界の外に追いやり、アルは仮拠点の片隅に立たせてあるティラントーを見つめながら作戦で行う『もう一工夫』の概要を説明した。

 

「深夜にイカルガをミシリエの中心に着地させる寝起きイカルガ作戦とか、忍び込んで寝込みを襲って戦力が低下した時に本隊が襲うとか色々あるんですが」

 

「いや、それはなんというか……騎士の戦い方ではないだろう?」

 

 エドガーの反論に『何を申す! 長剣では出来ないことを短剣でやるんですよ』と反論したアルだったが、長く幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っていないせいで頭が藍鷹騎士団側になっていたことに反省しながらテントの外に出る。『自分は騎士。自分はセイバー……ライダー?』といった内容を暗示のように唱えつつ、なんとか騎士の自覚が出てきたアルはテントに戻ると改めて『ティラントーでだまし討ちしましょう!』とぎりぎり騎士よりではない作戦を高らかに宣言した。

 その宣言を聞いたエドガー達からは『長く幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っていない弊害』と頭の心配をされ、幻晶騎士(シルエットナイト)成分を補給させるためにアルディラットカンバーやグゥエラリンデなどに乗せられたのは余談である。

 

 そして、数日後。ミシリエの街から一番近い森林地帯でアルはティラントーに繋がっている銀線神経(シルバーナーヴ)を掴みながら作戦開始を告げた。




姫救出後にいつの間にかミシリエが取り戻されているので、ミシリエ奪還を入れようかと思いました。

??「騎士様の戦い方じゃない」

***
先日パッチワーク2世のイラストを書いてくださった有志の方から、狙撃型の魔導兵装をもったカラーイラストを頂きました。(本当は線画もあったのですが、カラーをご紹介させていただきます。毎度毎度ありがとうございます

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