ミシリエ。クシェぺルカの最東に位置する宿場町で、道中の起伏が富んだ道のりからここを利用するのは世界の果てと称されるフレメヴィーラ王国から来る行商人か、逆にフレメヴィーラ王国に行く命知らずな行商人しか居ない。
しかし、行き交う行商人のニーズに合っていたのか行商人の宿場町として長くこの地に根を張ることが出来たこのミシリエ。ただ、現在はジャロウデク王国が占領している理由からか住人が家の中から出ないゴーストタウンのような有様だった。
「今日も未帰還は1小隊か?」
「いいえ、2小隊です。連絡が途絶えた関所の様子を見に行った奴等が帰ってきていません」
ミシリエを治めていた領主の別宅だった屋敷の執務室では1人の騎士が最近の恒例になりつつある『未帰還機』についての報告を副官から聞いていた。彼はこのミシリエを占領している騎士団の騎士団長なのだが、度重なる気苦労のせいか顔に疲労の色が強く浮かんでいた。
「やはり、まだ買い物は出来ないか?」
「そうですね。ほとんどの店は協力的ではないですね。徴発できれば楽なのですが」
「それは認めん。それをやってしまったら今度は俺達が町から姿を消す羽目になるぞ」
最初にケチがついたのは占領当時のことだ。行商人とかなり大きいいざこざがあり、その影響で次の日から行商人が少しづつ町から消えていき、入って来る行商人の数も減って行った。最終的にはこのミシリエには行商人が1人残らず居なくなり、外貨や自分達の食い扶持を調達することが難しくなった住民が不満をため込んでいた。
町を占領したことで自分達の気が大きくなっていたと騎士団長やその部下が反省するが、今そんなことを言っても行商人は帰って来ることはないのでその反省は両者の心の内に収納する。
副官は物資の調達も難しくなった現状をどうにかしようと徴発を提案するが、外からの流通に頼っていたこの町で今徴発を行っても成果は上がらないどころか、暴走した市民によって何をされるか分からないので騎士団長は首を振ってその提案を拒否し、次の問題について報告するように副官に問いかけた。
「早馬はまだ帰ってこないのか?」
「はい」
騎士団長の問いかけに副官は力なく答える。次の問題は単純に
この町には工房こそあれど、物資不足によって現在は満足にティラントーが整備できない状態にあった。予想以上に行軍に手間取ってしまい、行軍前には十分過ぎるほど積み込まれていた従来とは変わった形態の
もちろん早急に補給をして欲しいとの早馬を数日前に出したのだが未だに返事は帰って来ず、近場のクシェペルカ貴族にも援助という名の徴発を行おうと小隊規模で各方面へお使いに出したが、数週間前から騎士団長の耳にも入っている『死神』が小隊ごとごっそりティラントーを消したせいでミシリエに来る前までは1個大隊ほどあった戦力が、共食い整備をしても5個中隊ほどに減ってしまい、先ほどの報告でちょうど1個中隊が作れるほどまで数を減らしていた。
「おのれ……死神ぃ!」
騎士団長は報告用の資料を握りつぶしながら恨み節を姿さえ見たことがない死神に向ける。犠牲になった
ちなみに、その補給要請でミシリエを発った早馬は仕入れによって文字通り、東部領を漫遊していたエルのリーコンに偶然捕捉され、『馬VS人馬騎士』という異種族レースにて、森に入って姿をくらませたり馬を手放して身を潜めるといった善戦をしたのだが、数十分後に捕虜となったので騎士団長と副官を悩ませている問題のほとんどは商騎士団によるものだったことを補足しておく。
とりあえず部下には戦力が低下していることを住民に悟らせないように振る舞うように副官に命じているといきなり扉が開け放たれ、1人の騎士が入って来る。
「失礼します! こちらに向かってくる友軍機を確認!」
「数は!?」
「2機です! 両機とも損傷しています!」
報告を聞いた騎士団長は即座に椅子から立ち上がると一目散に走りだした。そのまま屋敷のすぐ近くにある見張り台を登った騎士団長は傍らにいる騎士から単眼鏡を借りて中を覗き込む。そこには肩や手の装甲がボロボロになったティラントーが
「1個中隊出るぞ! 残った騎士は乗馬! 城壁の投石器も使え!」
それを見た騎士団長は素早く指示を出すと自分も工房に急ぎ、自身のティラントーの操縦席に座って
「各ティラントー、1番機から固定解除! 装着位置へ移動してください」
十分に魔力が溜まったところで
「団長、あの異様なシルエットナイト……。おそらく死神だと思います」
「ああ、だがやつは1機だ。数で押すぞ! 騎馬部隊は歩兵が居た場合に備えて門で待機だ」
騎馬に先導された中隊は街の中をゆっくりと歩き、門を出た瞬間にサブアームを展開状態にしながら一気に蒼い
「貴様ぁー!」
***
「人型8、騎馬3……投石器が4。そろそろ拡声器の声が届きますね」
「なぁ、アルフォンス。本当にやるのかい?」
「ディーさんの叫び声は一家言あると思うんですよね」
グゥエラリンデから降りて草むらに身を潜めていたディートリヒは
アルが宣言した作戦の内容は『ミシリエの近くで味方機をイカルガに襲わせる』といったギリギリセウトな物だった。もちろんアルが
作戦開始前も、『相手が工房に入った瞬間に自爆とか嫌なこと考えちゃいました』というアルに、ただでさえ、地雷のような設置式
「ほい、ではディーさんどうぞ」
「いやいや、そんなすぐに悲鳴なんて出せるわけがないだろ」
拡声器が動作していることを
「仕方ない。ディーさんのトラウマを引き出すことにしましょう」
「いや、そんなことしなくても……そう! エドガー! エドガーにやらs「医務室。看護師」ぎゃああああ! た、たすけっ! 助けてぇ!」
人間誰にでも思い出したくないもの。いわゆるトラウマや黒歴史と呼ばれるものが存在する。エドガー達から聞いたディートリヒのトラウマ──白衣の(筋肉)天使を思い出す単語を喋った瞬間、ディートリヒは絶叫する。その声は拡声器を通り、今まさにイカルガに狙われたティラントーの拡声器から鳴り響く。アルは2機から1機になったことで楽になった遠隔操縦でティラントーの腕を動かしながら
そんな狼狽え弾に当然イカルガは当たることなく
「僕達、クシェペルカを救いに来たんですよね? なにもかも破壊するラスボスみたいな風格してますよあの機体」
「ああ、とりあえず敵の動きが鈍ってるからさっさと出撃しよう」
鎧武者の兜のような頭部から醸し出される威圧感にアルの心に恐怖心が灯るが、いつの間にかアルディラットカンバーから降りてきたエドガーがディートリヒを正気に戻しながら出撃準備に入る。敵の方を見れば案の定先ほどの蹂躙ぶりに敵の足がかなり鈍っているので、これならば数で圧倒できると判断したアルは後ろで待機している藍鷹騎士団のシャドウラート部隊に突撃の合図をしながら
ストライカーの脚部にも仕込まれている小型の
「巨大兵器破壊の心得 番外編! まずは金的っ! 次も金的っ!」
右前腕部の装甲がガシャリという音を立てながら稼働し、中から
「な、なんだ!?」
「これがトドメの金的だ──!」
「やっぱりシルエットナイトは硬い"っ!」
魔力切れになった
「投石器はまずい!」
イカルガに比べると足の遅いカルディトーレ達に投石器は脅威となるので、アルは閃光玉によってティラントーの眼球水晶を潰していたシャドウラートに声をかけて投石器を排除しようと動き出した。だが、その前に3度目の弓による斉射が行われ、何十本もの矢が雨あられとアル達に降り注いだ。
「ガァッ!」
カンカンと矢が兜に弾かれる音を聞きながら前進するアルだったが、後ろから届いた叫び声に振り替えると1機のシャドウラートがもんどりうって倒れていた。慌ててそのシャドウラートに駆け寄ると、どうやら隠密仕様ゆえに金属で保護していない部分に矢が深く突き刺さったようで、矢の対処について学園で学んだことを思い出そうとアルがあたふたしていると、数機のシャドウラートがアルを押しのけながら負傷した藍鷹騎士団員をシャドウラートごと担ぐ。
「アルフォンス殿、どうします? 残り数人で投石器の破壊は厳しいと思いますが」
「て、撤退します。搬送者は負傷者を運ぶことに集中してください。護衛する人はこの盾で矢から守ってあげてください」
「分かりました」
仲間が負傷したことに動揺していたアルに藍鷹騎士団員は指示を仰ぐことで無理やり正気を取り戻させると、アルから渡された鋼鉄製の大盾を両手にしっかりと構えたシャドウラートを最後尾にしながら戦線を後退する。アルもそれに続いて撤退しようとすると、ミシリエの方から馬蹄が地面を叩く音と共に怒号のような号令が聞こえた。
「歩兵を討ち取れ!」
「騎馬が来ました! だれか閃光玉を! 早く! はや”く”ぅ!!」
数騎の騎馬兵に追いかけられているアルが若干混乱しながらシャドウラートに指示を出すと、シャドウラートは指を展開しながら器用に閃光玉を空中に放り投げ、アルがそれを魔法で撃つことで破裂させる。すると、撤退しようとした森の中からカルディトーレの集団が姿を現し、こちらに向けて法撃を放ってくる。法弾は山なりの軌道を描くと、アル達と騎馬の間に着弾して爆発と共に地面を大きく抉った。
「ちぃっ、別働隊が居たか! 退けぇ!」
馬に乗った騎士は別働隊の
「終わってますね」
「……やっぱりイカルガってチートだわ」
どうやらアルが命からがら撤退している間にイカルガは1個中隊を無力化させ、その間にエドガーやディートリヒの中隊がミシリエを完全包囲して降伏勧告を行ったらしく、ミシリエの城壁から降伏を表す白旗がはためいていた。『イカルガ突っ込ませてたら終わってたのなら自分がやったことは無駄に被害を増やしただけではないか』とアルの心にちょっとした闇が生まれたが、それを自覚する前にアルは制圧後の内容を詰めるために後方に居るエムリスと合流しようとストライカーから降りて走り出した。
「若旦那ー、捕虜どうするんです?」
「あー、一応商人だからなぁ。この場合どうなるんだ?」
商人が騎士を襲って捕まえることなど滅多にないので、対応に困ったエムリスは銀鳳商騎士団に合流しようとゴルドリーオにアルを乗せながら相談を持ちかける。しかし、学園でもそんなことは教わってないのでアルは記憶を遡るために頭を掻きながら思案した。
ネットの海曰く、中世ヨーロッパでは位の高い騎士を身代金で釈放するという手段があるらしい。だがこの世界の戦争についてアルはよく知らないので、差異があったらそれこそ問題だと余計なことを言わずに『面倒くさいんで解放しましょうよ』とエムリスに進言した。
「あの黒いのは没収。馬車を貸せばなんとかなるか」
「そもそも僕は副団長ですからそんな話は兄さんとしてくださいよ」
「いや、銀の長は普通飛び出していくし、作戦立案や調整はお前担当だろ?」
エムリスの言葉にアルは納得がいかない表情を浮かべながらゴルドリーオに揺られてミシリエに到達した。だが、ゴルドリーオはそのまま足を留めずにミシリエの中心部まで足を進め、ティラントーに乗っていた
「……アルフォンス。そいつで守ってくれ」
「御意」
エムリスは小声でアルの右腕に付けているアガートラームを指で突きながら指示を送ると、ベルトを外して操縦席から胸部装甲に立つ。その姿に目の良い住人が『エムリス様ではないか』という声を上げるが、『我らは銀鳳商会! この地へは商談のために来た!』とフレメヴィーラ王国の王族として来ていないことをアピールしながら地面に並んでいるジャロウデク軍の捕虜を見つめる。
「商談をしようにも商談相手が居ないので、急遽この拠点を我らの活動拠点としていただくことにする! クシェペルカ復興の暁にはもちろんこの拠点はクシェペルカに返還することも約束しよう。そして……こやつらの処遇なのだが──」
エムリスの身振りも加えたスピーチによってミシリエの住人は徐々に家から出る。町の中心部はちょっとしたお祭り騒ぎになっており、相槌を打ちながら聞き入っている者や道端の石を拾いながら捕虜に向かって鋭い眼光を飛ばす者など様々な人間が居た。
しかし、そんな大勢の住人の影に紛れるように1人の男が長いローブの裾から小さな弩を取り出すとエムリスに向けた。静かに呼吸を整えながら狙いを定め、男が弩のトリガーを引くとカシュリッという機械的な音の後にボルトという明確な殺意がエムリスの頭部に向けて直進する。
「なっ!」
「なんだこいつ! 皆! 取り押さえろ!」
まさかの展開に男はつい声を上げる。エムリスの頭部にボルトが生える直前、なにかの力によって直進で進んでいたボルトが上に逸らされたのだ。逸らされたボルトは弩による推進力を失い、重力に従ってミシリエの石畳に浅く突き刺さる。
流石にここまでの騒動が起こると住民も何が起こったのか薄々察し、弩という明らかに攻撃の意思を込めた武器を持った男はあっけなく捕縛される。殴る蹴るといった私刑がミシリエの住人によって執行されているのだが、それを見たエムリスは大声で『これ以上この町で騒ぎを起こすことは許さん!』と言い放つと、その声によって住民は動きをピタリと止め、その隙に近くで待機していた藍鷹騎士団に命じて男を拘束してこの場から連れ出した。
(やっぱり王族ってすごいな)
その一連の流れを操縦席の影から外を伺っていたアルは油断なくゴルドリーオの胴体付近を範囲とした
自身の姿を曝し、言葉を語る。──たったこれだけなのだが、それだけでエムリスが持つ馬鹿でかい声と態度、さらにアンブロシウスが見たら鼻で笑われるレベルの人を惹きつけるカリスマのようなものによって『銀鳳商会が正しい』という認識に塗り替えられた。
「ジャロウデク軍よ。先ほどの攻撃はなかったことにしておく。速やかにシルエットナイトを置いて撤退せよ」
「……感謝する。おい! 撤退だ」
「良いのですか? 勝手に占領した街を放棄するなど……」
エムリスは地面で並んでいる騎士の中から身なりの良い人物にそう言うと、代表者である騎士団長は手に繋がれた縄が切られると同時に自らも撤退準備をしながら周りに指示する。その命令に副官が異議を申し立てるが、騎士団長は未だミシリエの城壁の前でこちらを見ている『死神』を軽く指差しながら『お前、あれに突っ込めるのか?』と副官に問いかけると即座に撤退準備を始めたので騎士団長は『だよな』と諦めたような声を漏らす。命を散らした騎士たちには悪いと騎士団長は思ったが、現状勝てる見込みは皆無に近かったのだ。
しかし、この情報から対策を練れるだろうと騎士団長は友軍と合流した後に上司から言われる叱責をひとまず忘れ、死神との第2ラウンドのことを考えていた。
「おい! なんでジャロウデクを逃がすんだよ!」
「それはあとで若旦那からの説明があります」
揺れる馬車の中まで聞こえる自分達を排除しようとする住民の声に銀鳳商会が対応している声を聞きながら自分達が無事にこの町から出られることに騎士団長は少しだけ銀鳳商会に感謝した。
その後、エムリスが町の有力者を招集し、アルを伴って事情の説明と今後の対応について検討した。もちろん、ジャロウデク軍を解放したことで少しだけトラブルがあったのだが、これにはれっきとした理由がある。
まず、ジャロウデク軍をこのまま牢に入れると『排除派』と『それ以外』で派閥が出来て住民の統制が難しくなるので危険は承知でジャロウデク軍にはこの町から出て行ってもらった。他にもジャロウデク軍を牢に入れた場合、捕虜に襲い掛かる住民を見張る兵も割かなければいけないといった理由などが挙げられるのだが、エムリスは持ち前の勢いと筋肉によって代表達を説き伏せ、アルに『なんだ、ただの若旦那だったか』と言われたことをここに記しておく。
***
ミシリエが銀鳳商騎士団に再占領されてまた1週間が過ぎた。占領された当初は、銀鳳商騎士団という得体のしれない存在だった団体によって町がジャロウデクが支配していた頃よりも滅茶苦茶になるのではないかと危惧していた商会や住民も少なからず居たが、今ではそれが杞憂だったことに胸を撫で下ろしていた。
町の有力者からのお墨付きをもらったエムリスがまず行ったことは行商人を呼び集めることだった。仕入れの最中に荷を改めると脅しているジャロウデク軍を見つけては襲い掛かり、行商人に『ミシリエが安全』と呼びかけたり、東部の弱小貴族領の酒場などに赴いては『ミシリエに行商人が集まっている』といった噂を流す。さらに、ミシリエを攻略した際に矢傷を受けた団員を搬送するついでにフレメヴィーラ魂溢れる行商人や商会に噂を流すと様々な手を使って各地の行商人をミシリエに集めた。
『金は力です。さらに経済は世の中の潤滑油なので、ガンガン投資しましょう』
ただ、その政策を行う発端はエムリスではなく、その横をちょこちょこくっついて回る子供だったのだが、この行商人達によってミシリエは急速に活性化し、まさに濡れ手に粟のように外貨が舞い込んでくる。それを元手に町の修復は急ピッチで行われ、さらに銀鳳商騎士団の拠点となるので町の規模を拡張して工房を増設するといった改修工事も並行し、ミシリエは最初の規模からおよそ2倍の広さになった。
そんな改修工事中、『黄色と黒の塗料を塗った鉄兜を被った子供』が奪ったティラントーの
「だからアル。僕の物を勝手にミシリエに使うのは止めなさい。認めませんからね!」
「すげぇよ。自分の物って言いきったよこの人」
そんなミシリエから少し離れた場所。商騎士団がミシリエの近くに新しく設営した仮拠点ではエルとアルが四つ手で力比べをしていた。
『ロボとして再利用しよう派』のエルと『エネルギーとして使おう派』のアルがこうやってぶつかり合うのはミシリエを占領してから数度となく行われてきたことなので、銀鳳商騎士団の団員達は最初こそ慌てて止めたが、3度目を超えた辺りからすっかり慣れたのかお決まりの『また始まったよ』という視線で彼らを見る。
「いい加減にしないとイカルガに銅貨で傷つけますよ!」
「はぁ!? せめて金貨か精霊銀にしてくださいよ! もしやったらパッチワークにも……ってまだ完成していないんでしたね」
「まぁ……そうですね」
いきなりトークダウンしたエルのテンションについて行けないとアルが近くで金属板を整形しながらエル達の喧嘩を見物していたダーヴィドにパッチワークの完成度について聞くが、返ってきたのは『まだ半分』という言葉だった。
これはダーヴィド達
「レスヴァントの強化案も纏まりましたし、しばらくはミシリエ見回っておきますよ。串焼きも良いですね」
「申し訳ありませんが、見回りはしばらくお預けになります」
「うぉわ! おやっさんどったんです?」
最近のルーチンワークになりつつある見回りのついでに行われる趣味の食べ歩きに思いを馳せていたアルに謎の声が割って入る。その声にびっくりしつつ声の主であるデュフォールの宿屋を経営していた男にアルが問いかけると、アルの頭を乱暴に撫でながら『おやっさんじゃねぇ』と言いながら真面目な顔で全員を集めるようにエルに伝える。
その後、合流したノーラにより『エムリスの叔母であるマルティナ・オルト・クシェペルカをはじめとした王族方がフォンタニエのラスペード城に囚われている』という情報がもたらされ、戦局という歯車がガチリと噛み合うとそのまま急速に回り始めた。